いつかの約束。

Last-modified: 2022-07-03 (日) 19:57:34

瑠依さんとのユニットで出演したライブからしばらく経って、ようやく取材とか諸々も落ち着いてきました。
あのライブの後は、学校でも今までにないくらい沢山の人から声をかけてもらって、褒めてもらったりサインを求められたり。
瑠依さんとは事務所や寮でもよくお話しするようになったし、今までよりもずっと世界が広がったような気がします。
今はサニピに戻って、以前のようにみんなとだったりソロだったりのお仕事の日々。
…だったけど、今日は牧野さんをお部屋に呼んで久しぶりの動画観賞会、です。

「なんだか随分久しぶりな気がするな」

牧野さんは、椅子に載せたクッションに座ってそう言ってくれました。

「ん…瑠依さんがいる時だと、ゆっくり動画観れないから…」

トリエルは今、地方ツアー中。
寮にいる時は、よく遊びに来てくれるようになりました。
一緒にゲームしたり、最近のおすすめアイドルの話をしたり、お互いのユニットの話をしたり。
すごく楽しいけど、大体毎回寝落ちして優ちゃんとすみれちゃんに回収依頼しないといけないから、ちょっと申し訳ない…。

「雫が天動さんと仲良くやってるなら、俺が言うことは何もないよ」

ずず…と缶コーヒーを飲む牧野さん。夜中にコーヒー飲んで、眠れなくならないのかな…?

「えっと、じゃあ今日は…これとかどう、かな」

動画サイトから、最近ヴィーナスプログラムに登録されたアイドルの動画ページを開く。
事務所も大手ではないけど、デビュー直後とは思えない、堂々としたライブで評判。

「聞いたことないアイドルだな…。でも、雫が注目しているならぜひ見せてくれ」
「ん。じゃあ、再生するね」

それからしばらく、並んでじっと動画を見ながら、気になったところを意見交換。
(熱が入ってちょっと顔が近くなった時は、お互いに慌てて距離を離します)
公開されてる動画をひとしきり見終わったころには、すっかり夜も更けていました。

「…なるほど。確かに今後伸びてきそうだな」

牧野さんは、ちょっと難しい顔をしました。

「どう、かな。参考に、なった?」
「ああ。さすがに大手の売り出し中のアイドル以外はなかなか調べきれないからな…こういう情報はすごく助かるよ。
 みんなをマネジメントする上でもヒントになることは多いから」
「ん、よかった」

牧野さんの顔を見て、自然に笑顔になります。

「…」
「?どうしたの?」

言葉を詰まらせたような牧野さんに、首を傾げます。

「ああいや、すごくいい笑顔するようになったなって…。真っ先に褒めないといけなかったよ、すまない」

自分だと、よくわからないけど。

「うん…褒められるとうれしい、です」

そう素直に伝えました。これも、瑠依さんとユニットを組めたから、かもしれません。
牧野さんはもっと恥ずかしそうにしました。ちょっと、かわいい。

「そ、それより!最近千紗から聞いたんだが!」

慌てて話を逸らすのが、なんだかおかしくなりました。

「ん、なに?」
「えっと、色々なアイドルのデータを独自にまとめてるって」
「あ、うん。アイドル力ランキング」
「そう、それ!どんな感じなのかって気になってたんだ」
「見る?でも、語り出すと夜が明けちゃうかも」
「そ、そこまではマズイな…いくつか絞ってくれ」
「わかった。えっと…」

私はマウスとキーボードを操作し、自作のE〇celファイルを開きます。
ずらりと画像や表、グラフが並ぶ画面を見て、

「これは…すごいな…。下手な専門誌や情報系のサイトより滅茶苦茶詳しくまとめられてる…」

あ、これはガチで引いてるやつ…。

「…えっと、やりすぎ?」
「あ、いや…これだけの情報を集めてまとめられるだけでも大したものだよ。確かに全部見てたら数日はかかりそうだ」

慌ててフォローしてくれたけど、まだちょっと動揺してる。

「これだけ熱心に研究してるからこそ、天動さんにも雫の本気が伝わって認めてもらえたんだろうな」
「うん。瑠依さんも褒めてくれて、いっぱいお話しできた。牧野さんがヒントをくれたおかげ」
「俺は思ったことを言っただけさ。実践できたのは雫の力だよ。
 あのユニットは、雫が一生懸命に考えたからこそ成功したんだ」
「ん…ありがとう。でも、諦めずにがんばろうと思えたのは、牧野さんのおかげ。
 牧野さんが励ましてくれたから、がんばれた」

今までもずっとそうだったから、心からそう思う。どれだけ感謝しても、足りない。

「…そうか。役に立ててたならよかった」

牧野さんが、ちょっと照れくさそうに笑った。かわいい。

「これからもいっぱい悩んだり、迷ったりすると、思う。私の…私達のこと、見守っててね」
「ああ、もちろんだ」

すごく安心して、あったかい気持ちになる…。
今なら、聞いてみても、いいかな…?

「あのね…いつか、アイドルをやめる時が来たら…」
「ん?」
「私、星見プロでマネージャー、やってもいい、かな?」

恐る恐る、牧野さんの顔を見る。
びっくりした顔、してる。

「…いずれその時が来たら、な。今の雫は…アイドルなんだから」
「ん、そう、だね」

いつか、きっと。

「もしその日が来たら、牧野さんと橋本さんの後輩、だね」
「まあ、そういうことになるよな」
「練習、しておこうかな」
「?練習って?」

ちょっと…ううん、だいぶ、恥ずかしいけど。

「…牧野、せんぱい」
「!」

不意打ちだったのか、牧野さんが赤くなりました。

「ま、まだ先輩じゃないだろ」
「だから、練習」
「…ちゃんとアイドルとしてやり切ってもらわないと困るぞ」
「ん、わかってる。トップアイドルになれるようにがんばるから、ね」
「ああ。俺もそのために全力を尽くすよ」
「うん、これからも、よろしくお願いします」

いつか、並んで歩いていけるように。
今は全力で、駆け抜けるから…。
待ってて、ね。

終わり。