レーズン観察日記

Last-modified: 2016-09-15 (木) 02:53:06

8月1日

今日から夏休みの自由研究で観察日記を付けるよ。
さっそくレーズンを植えたけどかやちゃんは「そんなの育つわけないでしょ」って言ってた。
でも尻尾がぴくぴくしてたからやっぱり気になってるみたい。
楽しみだね。

8月5日

まだ芽が出ないよ。
かやちゃんは「ほら見なさい」って言ってた。
でも尻尾がしなしなしててどこか残念そう。
どうしようかな。

8月10日

今日はお水と一緒にお薬もあげたよ。
かやちゃんは「やめなさい」って言ってた。
尻尾がだらんとしてるから呆れちゃったのかな。
でもこれで大丈夫だよ。

8月15日

中を覗いてみたら芽が出てた!
かやちゃんはびっくりして声も出ないのか何も言わなかった。
でも尻尾がびくびくしてたからきっと嬉しいんだと思う。
大きくなあれ。

8月20日

とうとう芽が出てきたよ。
かやちゃんはちょっと元気がないみたい。
尻尾もあんまり動いてないから夏バテかも。
気を付けないと。

8月25日

芽はどんどん大きくなって入れ物が壊れちゃいそう。
かやちゃんはもう何も言わない。
尻尾ももうほとんど動かない。
もうダメかも。

9月1日 ある式姫の記憶

レーズンを植え付けられてからひと月が経った。
始めはたちの悪い冗談かと思ったけれど私の中でレーズンは日に日に成長していった。
次第に増していく苦痛の中で何度舌を噛み切ろうと考えたことだろう。
しかし決心がついた時にはもう遅すぎた。
成長した触手は私の口いっぱいに広がり顎を閉じることさえ叶わない。
きっと呼吸が出来なくなるのもすぐだ。


……狗賓はどうしているのかな。
まさか私を助けようなんて考えていないといいけど。
それで狗賓まで捕まっちゃったらきっと耐えられないから。
振り返ってみればわがままばかり言って随分困らせたんだと思う。
でも狗賓はいつも嫌な顔一つしないで私の言うことを聞いてくれた。
せめてありがとうって言いたいけどそれももう無理。


苦しい。
いよいよ終わりが近いのだろう。
受け入れてしまえばすぐ楽になれるけれど最後まで苦痛と共にあろうと思う。
みんな不快に思っているレーズン。誰が食べてやるもんですか。


レーズン。
狗賓。
レーズン。
狗賓。
薔薇の香り。
レーズン。
狗賓。
薔薇の──


薔薇の口づけ。


目が覚めると狗賓は泣いていた。
久しぶりに抱かれる狗賓の胸は暖かく、唇に残る不思議な感触と薔薇の匂いが今はなぜか嫌じゃなかった。
レーズンはもうどこにもなかった。

同日 始業式

レーズンに逃げられちゃった。
ちょっとお薬あげすぎちゃったかな。
みよし先生に日記を見せたら「レーズンから芽が出る訳がないだろう」って言ったからレーズンにしてあげたよ。
今度は失敗しないから待っててね、文ちゃん♪