新たな門が開き、あの人は私の前から姿を消した。
決して出ることを許されなかったこの家の入口に下された帳の向こうには、帰還を切望してきた、私がかつて暮らしていた現世がある。
今なら、あの人のいない今なら手が届く。
しかし私は───
痛かった。
蝕まれた。
届かなかった。
泣けなかった。
私の記憶。
毎日学園の在る方角を見て私は───
……本当に帰りたかったのだろうか?
あれほど忌み憎み嫌悪したあの人とこの家に、身も心も縛られている自分に気付かされひどく狼狽する。
いや、私はもうだいぶ前に知っていたのだ。
あえて気付かない振りをしていたのだ。
一度受け入れてしまえば、きっとあの人は私に興味を失ってしまう。
私はそれを知っていたのだ。
逃げたからこそ追いかけてくれた。探してくれた。求めてくれた。
「どこ?ねえどこなの?どうして逃げるの?陰陽師と方位師は一心同体なんだよ?ねえ♪」
だから、今度は私の番。
ひとはこの世に在り、この世を知らず。
「ふふ、かくれんぼですか?しょうがない人ですね」
誰もが己の世を知らず。
「方位師と陰陽師は一心同体。私たち二人ならなおさらです」
誰もが己の在り処を知らず。
「あなたの在り処なんてすぐにわかっちゃうんですから」
誰も、あなたを知らない。
「私はあなたを知っていますよ。深く、とても深く」
それでも、あなたは此処にいる───。
ひい、ふう、みい……ほら、みーつけた♪
私は帳を引き裂き歩き出す。
二人きりの時間を取り戻すために。
あらゆる障害を排除するために。
誰にも邪魔はさせない。
とこよ♪と文♪だけ此処に在ればいい♪