澄姫が遊びに来た その三

Last-modified: 2017-07-14 (金) 20:11:25

 冬のある日。
 我が家の居間に澄姫がいるという驚くべき日のこと。
 いつもの居間がなんだかすごく新鮮に見える!
「あれっ? そういえば私……、蜜柑のお尻に指を入れたところだったような?」
 あっ、やっぱり。
 穴を開けた蜜柑が置きっ放しだ。
「そうですよ。指を突き入れたところで飛び出して行っちゃいましたから」
「いや~。急に澄姫の声が聞こえたものだから、ついね」
 それはそうとして炬燵~炬燵~っと! ふぅ、あったかい。
「なによ。私のせいみたいに」
「でも、澄姫が原因なのは違わないし」
 あぁ……あったかいなぁ。
「でもってなによ、でもって。悪かったわね突然押し掛けて」
「あはは。ごめんごめん澄姫。そんなに拗ねないでよ」
「拗ねてないわよ!」
 ん? ……あれ?
「なんで澄姫は立ったままなの?」
「澄姫さんは炬燵に入らないんですか?」
「え、あ、じゃ、じゃあ、えーっと……」
 んん? 炬燵を見るのが初めてなのかな?
「炬燵は初めてだった?」
「別にそういうわけではないけど……」
 はて、じゃあどうしたんだろう。
「澄姫さん。ひょっとして、座る場所を迷ってるんですか?」
 座る場所?
「……う、うん」
 座る場所を迷う?
「そんなの迷ってたの澄姫?」
「う、うるさいわね」
「なんなら私の隣に来る?」
「ええっ、いや、私は別に」
 よいしょ、っと。少し横を空けて……。
「ほらほら。あったかいよ~」
 ここだよ澄姫~。おいでおいで~。ぽんぽんっと。
「……そ、そうね。とこよがどうしてもっていうのなら」
 あれ?
 澄姫のことだから。――なんでわざわざあなたの隣に座らないといけないのよ! って慌て出すかと思ったんだけどな。
「別に、どうしても。って訳じゃないんだけど」
「ぐっ……!」
 あっ。怒らせちゃったかな。
「うそうそ。どうしても私の隣に座ってほしいよ澄姫~」
「あっそう」
 あっ。斜め向かいに座っちゃった。
「ふぅ、あったかいわね……」
「私の隣じゃなくてよかったの?」
「当たり前じゃない」
「照れちゃってー」
「照れてないから」
 でも、う~む。
 ちょっと残念だったかな?
 澄姫が家に来るなんてめったに無いことだろうし、多分。
「お二人とも、素直じゃないと言うか……」
「どういう意味かしら」
「そうだよ文ちゃん。素直じゃないのは澄姫だけだよ」
「どういう意味よそれ!」
「はいはい。仲が良いのは分かりましたから」
 まあ、そこは否定しないけどね。
「まあ……長い付き合いなのは否定しないわよ」
 おっ? ……えへへ。
 うんうん。
「本当に、長い付き合いだよねえ」
「まったくね」
 まったくまったく。うんうん。……うふふ。えへへ。
「まったく。お二人とも素直じゃないんですから……」