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澄姫が遊びに来た 了

Last-modified: 2018-08-22 (水) 15:31:36

 冬の日。
 私の家に遊びに来た澄姫が帰った後のこと。
 澄姫を門の前まで見送った後。
 小烏丸ちゃんと一緒に居間へと戻ってきた。
 襖を開ければ文ちゃんが炬燵に入って蜜柑の薄皮を剥いている。
「ただいまー」
「おかえりなさい。やっぱりお別れするのに随分と掛かってしまいましたね」 
「うん。ちょっと話し込んじゃって」
 さーて、襖を閉めたら炬燵炬燵ー。
「あの、とこよ様?」
「ほらほら小烏丸ちゃんも炬燵炬燵ー」
「え、えっと、あの」
「ずいぶんと名残惜しそうでしたもんね」
「あの澄姫が私の家に遊びに来てくれるなんて、本当に珍しいというか、初めてだったからねー」
「あの……」
「はいはい、小烏丸ちゃんも座って座ってー」
「えっ、あの、はい」
 小烏丸ちゃんを座らせてー。
 私も座ってー。
 足を伸ばしてー。
 背中にでろーん。
「ちゃんとお別れできましたかとこよさん?」
「できたから戻って来たんだよー」
 あー。
 炬燵は暖かいな~。
 お腹に腕を回しながら炬燵布団を被せるの、これすごいいいかも~。
「とこよ様……?」
 まだ外から戻ってきたばかりで服は冷たさが残っているけど、内側と外側から暖められるというか。
 すごくいい感じだ~。
「あ、あの……」
「いいからいいから~」
「え、ええ……?」
「お別れするのが嫌だからってだだを捏ねたりしませんでしたか?」
「も~、そんなのしないよ~」
 文ちゃんといい小烏丸ちゃんといい、そんなに心配だったのかなあ。
「すみません。とこよさんが澄姫さんに迷惑を掛けていないかと心配で心配で……」
「思ってたのと違う心配だった!?」
「はて、どう心配していたのだと思ったのですか?」
「え、いや、あはは……」
 うう……。冗談で言っているのかそうでないのか……。
 まあいっか。でろーん。
「とにかく、大丈夫だよ。それに澄姫だってお別れ寂しそうだったもん」
 むしろ澄姫の方が、私よりもお別れしたくなさそうだったかもしれない。
 あ、こうして肩に顎を乗っけるのなんだかいいかも。
「はふぅ……」
「え、ええっ?」
 ん~。こうやって頭をくっつけてみるのも髪の感触がさらさらして気持ちいいなあ。
「あの、とこよ様?」
「そうですか。……そうですね。別れを惜しんで言い合いをするお二人が目に浮かぶようです」
「ん~……言い合いなんてしてないも~ん……」
「本当ですか?」
「本当だよ~。……それに、次はお泊まりしてくって約束もしたし~」
「ふふっ、そうですか。よかったですね」
「うーん……ごめん小烏丸ちゃん、もうちょっと前に詰めさせて」
 よっと、ぐいー。
「わっ、とこよ様っ、持ち上げて頂かなくとも詰めますから」
「ありがとー」
 うんうん。これでさっきよりちゃんと炬燵布団の中に足を入れることができた。
「うん、いい感じ」
「……それで、ええと、その、これは……?」
「ふふっ、どうかしましたか小烏丸さん。そんなに私を見つめて」
「ええっ、それは、だって、とこよ様が」
 んぅ……? 小烏丸ちゃん困ってる……?
「くっつかれるのは嫌だった……?」
「いえ! いえ、そうではないのですが」
「よかった~」
「まあまあ、小烏丸さん。小烏丸さんさえ良ければ、しばらくそうして上げていてください」
「私は、はい。全然構わないのですが……」
 ん~……?
「どうしたの~?」
「いえその、恥ずかしいと言うのとはちょっと違うのですが……、でも……なんというか、その、いいのでしょうか?」
「小烏丸さんは照れてるみたいですよ。とこよさん」
 ああ、なるほど~……。
「いいからいいから~」
「は、はい……」
「澄姫さんが帰ってしまって寂しいから誰かに甘えたいのですよねとこよさん」
「別に……」
 そんなこと~……。
「あらあら、本格的におねむみたいですね」
 文ちゃん……なんで笑ってるのかな……。
「それでは、私はそろそろお夕飯の仕度に……」
「あ、それでは私……も……」
「大丈夫ですよ。今日の小烏丸さんはとこよさんのお守りをしてあげて下さい」
 おもりって、文ちゃん~……。
「ええと、では、夕食の支度はお願いいたします……お起こしするのも忍びないですしね」
 ん~……。
「ええ。それに、目が覚めたときに小烏丸さんがいなくなっていたら、寂しくて泣いてしまうかもしれませんよ?」
「ふふっ、さすがにそんなことは……ですが、私を懐に入れて安心していただけるのなら、刀としての本懐と言えるかもしれません」
「ふむ。懐に入れて、本懐……。なかなか良いですね」
「あ、ええと、それは。からかわないで下さい……」
「いえいえ、私はからかっている訳ではなくですね」
 ……何か……失礼なことを言われている気がする……。
「ん~」
「あらあら、うるさくしてしまいましたね」
「あはは……」
 ……文ちゃんが蜜柑の皮を纏めている音がする。
「それでは私はお夕飯の支度に行ってきますので」
「片づけまで任せてしまいすみません」
「いえいえ。では、支度ができる頃にお呼びしますね」
「はい。こちらはしっかりと」
「ふふっ、はい。お願いします」
 ……微笑むような、息遣い、声。
 ……軽くて小さな足音。
 ……襖が開いて、閉まる音。
「……しっかりとお守りいたしましょう」
 ……小さい、暖かな声。
 ……今、おまもりって言ったよね……おもりって言ってないよね……?
「んぅ……こがらすまるちゃん……」
「はい。とこよ様」
 ……まあ、いっか……とっても、あったかい……声だから……。
「私にでき得る限りのことで……」
 ……そっと触れる感触が、手に重ねられて……。……なんだか……とっても……胸の奥が、灯りを……いっぱいにしていくみたいだなあ…………。