小説/21話「酸性のkou長」

Last-modified: 2020-04-26 (日) 17:29:06

21話「酸性のkou長」

作:みゅーなぎ 添削:学園メンバー

化学基礎の時間にあった何気ない会話。

 

小波「という訳で、今日から酸と塩基についての話をしていきます」
笹川「えんき??」
小波「あぁ、そうだった。中学ではアルカリと言っていたものを、高校からは塩基と呼びます。……厳密に言うとアルカリと塩基は違う意味なんだけど、それはまぁ追々説明します。とにかく今はアルカリ=塩基って認識でいれば問題ないです」
音哉「塩基……か……」

 

 

そして別の時間。古宮先生の授業中にふと挟まれた雑談。今回の事件の発端はここからだった。

 

古宮「そういやさ、kou長先生って意外にも嘘つくことあるんだよなぁ」
音哉「嘘?」
古宮「言ってる事と実際の行動が一致してないというか、なんというか」
菊池「あの人確かに嘘つきそう……」
古宮「こらっ、失礼だろ! ……とは言っても、実際そうだからなぁ……」
Felix「なぜ突然そんな話を……何かあったんですか?」
古宮「この前の会議で、ある議案について賛成か反対かって話をしてたわけ。その時にkou長先生の個人の意見も聞きたかったから
、『kou長は賛成なんですか』って尋ねたんだ。そしたら『あぁ、私は賛成だよ』って言った。確かに言ってたんだ。それなのに、その後の議論で妙に反対意見を出しまくるし……」
南沢「それは先生が勘違いしただけなのでは……」
古宮「俺をどんだけ信用してないんだよ」
高砂「だって実際信用でk……い、いや気にしないでください何でもないです」
笹川「先生はおっちょこちょいなのだ!」
古宮「はぁ…… その話は置いておいて、しかも気になったのはそれだけじゃないんだ」
音哉「そういう話が他にもあると?」
古宮「まぁな」

古宮「もう一度確認しますよ、kou長は賛成なんですよね?」
kou長「あぁ。私は賛成だって言ってるじゃないか」
古宮「でも、さっき反対意見ばっかり……」
kou長「そりゃそうだ。さっきの議案には反対だからね。でも私は賛成だって言ってるんだ」
古宮「へ????賛成なのに反対?」
kou長「だから賛成ってのは私自身の話。反対ってのは議案に向かって言ってるの」
古宮「は、はぁ……(よく分からん)」

古宮「結局、体育祭はどうなるんですか?!」
kou長「このまま行うつもりだよ」
古宮「いや、でもさっき賛成意見を言って……」
kou長「それは私が賛成だってのと勘違いしてるんだろ?」
古宮「いや訳が分かりません」
kou長「今私が話してるのは体育祭の日程の話じゃないぞ。賛成っていうのは、延期じゃないぞって意味の賛成だ」
古宮「いや、賛成っていうのはつまり、延期しましょうよって意味ですよね」
kou長「あ、ん? あぁ、議題の話はそういう事だ。今話してたのは私自身についての話」
古宮「ですからkou長先生の話ですよね? 延期じゃないぞっていうkou長先生の」
kou長「そう。それは正しい。私は延期じゃない」
古宮「……延期のイントネーションおかしくありません?何ですかえ↑ん↓きって。平坦にえ→ん→きでしょ……」
kou長「いや、え↑ん↓きだ」
古宮「?????????」

古宮「ずっとこの調子なんだ助けてくれ」
音哉「先生、それってもしかして酸性、塩基性の酸性じゃないんですか?」
古宮「塩基性?あぁ、アルカリのやつか。高校の化学なんて覚えてないわ……」
音哉「kou長先生が今まで言ってきた『さんせい』ってのは、きっと化学のほうの『酸性』だと思うんです」
雪姫「延期って言ってたのは、おそらく化学のほうの『塩基』でしょう」

 

実際、そう当てはめてみると会話は成り立つ気がする。


『あぁ。私は酸性だって言ってるじゃないか』
『そりゃそうだ。さっきの議案には反対だからね。でも私は酸性だって言ってるんだ』
『だから酸性ってのは私自身の話。反対ってのは議案に向かって言ってるの』
『今私が話してるのは体育祭の日程の話じゃないぞ。酸性っていうのは、塩基じゃないぞって意味の酸性だ』


 

古宮先生はしばらく考えてやっと意味を理解したようだ。

 

古宮「なるほどそういう事k……いや待て。待てや。それってつまりkou長先生が酸性ってことだろ?あの人の言ってる事は結局意味分からないんだが?」
涼介「あの人ならやりかねない」
枝川「この学園なんですから、人間が酸性になるなんて事くらい、あるんじゃないですか」
古宮「んなこと言われてもなぁ……」
照美「というか、kou長ももう少し分かりやすい説明の仕方くらいあるでしょうに」
優「それな!!」
近江原「kou長先生、何かを隠してる気がする」
古宮「んじゃ、今度もっと細かく確認してみる。なんて聞けばいいだろうか」
音哉「唐突に、kou長先生は酸性なんですかって聞いてみるのは?」
古宮「それは普通に紛らわしい」
森「塩基性じゃないんですか?って聞けばどうでしょう?」
古宮「そうだな。そうしようか」

 

 

という訳で、古宮は放課後の職員室にてkou長先生に尋ねてみる事にした。

 

古宮「あの、kou長」
kou長「なんだね古宮クン_____ご、ごっほんw 失礼。何でしょう、古宮先生」
古宮「あの、kou長先生は酸性、なんですよね?」
kou長「いかにも。私は酸性だが」
古宮「それは、塩基性ではないという事ですか?」
kou長「そういう事になるな」
古宮「本当だ……本当だ!! うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
kou長「どうしました!?」

 

古宮は叫びながら職員室を駆け回り、そのまま廊下へと出て行った。行くあてもなく縦横無尽に走り回っているのかと思えば、1-3の教室に突っ走ってきて、いきなりドアを開け放ってこう言った。

 

古宮「速報!!kou長先生は酸性だった!!」
音哉「お、おぉ、そうですか……(引き気味)」
谷城「!?!?」
Felix「…………(引き気味)」
古閑「…………(引き気味)」
古宮「あー、あのー、おーい?皆さん?大丈夫ですかー?」
音哉「それはこっちのセリフです。いくらなんでもはしゃぎすぎですよ先生」
古宮「あ、それはすまん」
谷城「心臓止まるかと思ったー……」

 

教室には、kou長の酸性の事実を突き止めようと、音哉、Felix、古閑、谷城の4人が集まっていた。

 

古閑はkou長が酸性だったときの問題点についてノートに丁寧にまとめ上げている。ものすごく真面目だ。ついでに文字が物凄く綺麗なのも羨ましかった。

 

谷城「で? 結局は酸性だったんですか?」
古宮「間違いない。この耳で確かに聞いた。酸性だ」
音哉「やはり本当だったか」
Felix「さて、ここで古閑の出番だな」
音哉「kou長先生が酸性なのだとしたら、まずいろいろと疑問点が出てきます。それを4人で相談していました」
Felix「例えば、その酸がどれだけ強いかによって、生徒との接触などによる人的被害も起こりうるはずです。安全性も考えて、ここが一番重要でしょう。それから、そもそもkou長の体はどうして自らの酸に耐えることができるのか。このままだとそもそも人間として成り立ちません」
古宮「kou長先生が人間じゃないみたいな言い方するなし」
音哉 (実際人間だとは思えないが……)
古宮「なんだ? それも聞いてくればいいってか?」
Felix「それが一番手っ取り早い。それに……そうだ、このノートを直接kou長に渡してしまえばいい」

 

Felixは古閑からノートを受け取ると、それを古宮先生に渡した。
表紙には『校長の酸性についての考察』と書いてある。
先生はいきなりの展開に困惑した様子を見せながらも、再び職員室へ向かっていった。

 

 

その回答はそう長くかからなかった。わずか30分ほどで、今度は放送がかかったのだ。

 

「1年3組の教室に居る古閑さんをはじめとする4人は、今すぐ職員室へお越しください」

 

まさかのkou長先生直々の回答だろうか? 若干の怖さもあるにはあるが、今はそれよりも好奇心でいっぱいだ。4人は急いで職員室へ向かった。
気がつけば時刻は6時を回ろうとしている。本来なら部活動も切り上げる頃で、廊下や中庭、校庭はとても慌ただしい雰囲気に包まれている。

 

 

古宮「おぉ来たか。こっちだ」
kou長「やぁ。酸性の話をしてくれたのは君たちだね?」
古閑 (コクッ)
音哉「は、はい……」
kou長「素晴らしい。実に素晴らしい」
音哉「はい……?」
kou長「実はな、この話題を振ってくれる人がいつ現れるか、楽しみに待ってたんだよ。古宮先生の話を聞いて不自然に思わなかったかな?私がもう少し丁寧に説明していたら、古宮先生も流石に違う意味の『さんせい』だって気づいていたはずだ。でも私はバレない程度のギリギリのラインでずっと誤魔化してきた」

 

当時のkou長先生の妙な答え方はやはり意図的なものだったのだ。

 

kou長「まあ、普通の人だったらあの時点でもっと深掘りしてくるはずなんだけどね。古宮先生だから出来たことだ」
古宮「あの、それ俺をバカにしてますよね」
kou長「それと……勘違いされてるかもしれないが、私がこの話題を隠していたことに深い理由は無い。ただ秘密にしておいた方が面白いと思ったからだ」
音哉「それだけ!?」
kou長「それに、入学した時にそんないきなり言ったって、君たちは恐らくバカバカしいと言って信じようとしなかったと思うんだ」

 

それは一理ある。kou長のこの話が本当だと信じているのは、1ヶ月間ここで過ごしてきて、ここは普通の場所じゃないというのを身をもって感じたからだ。少し前なら、冗談だろアハハで全て終わらせていたに違いない。

 

kou長「さて、本題に移るとしよう。聞いての通り、私は酸性だ。酸性塩基性、とかいうほうの『さんせい』だ。この事実を聞いただけだと、色々と問題点が生じるように思うよねぇ」
一同「「はい」」
kou長「特に、強酸……例えば塩酸なんかは人体に触れると危険だということは知っているだろう。そういう危険性が私にもあるんじゃないか__ そういうことだね? 古閑さん」
古閑 (コクリ)
kou長「それについては問題無い。普段は限りなく弱酸にして生活しているから、私と握手をしようとも何も起こらない」
谷城「なるほど」
音哉「ちょっと待ってくださいちょっと待ってください。今『普段は』っていうワードが聞こえたんですが」
kou長「あ~、良いね~音哉君良いね~。そういう所聞き逃さない所大好きよー。将来絶対役立つスキルだ」
古宮「kou長ってこんな事も言うのか……」
kou長「今音哉君が言った通り、私は必要に応じて自分の意思で自らの酸の強度を変えることができる」
谷城「???????????」
古宮「???????????」
Felix「は、はぁ…………(????)」
音哉「?????」

 

頭の中が真っ白だ。

 

古宮「つまりどういうことなんですか」
kou長「私は今、強酸になろうと思えば、強酸になることができるってわけだ。そしたら握手した時に皆の体がジュワジュワ溶けてくぞ」
谷城「怖っ!!」
kou長「ハハッ、まぁそんなことはしないけど。でもこういう能力を持ってると、護身に役立つんだよ」
Felix「凄いな……」
kou長「例えばな、悪の組織とかが私の体めがけてパンチを繰り出してきたとしよう。その時私は自分の体を強酸にする。するとどうなると思う? パンチの時に私の体に触れた相手は手がジュワジュワと溶けてくわけだ……ヒヒヒヒヒ」
谷城「怖いですからやめてくださいよそういう話!!」
kou長「失礼失礼……。あと気になるのは、えーと、私の体が何で出来ているのか、という話かな?」

 

そんな超能力を持っているということは、まず体の素材が違うんだろう。

 

kou長「この辺りは非常にややこしい話になるんだが__ 簡単にいうと今まで世の中になかった新しい物質を作り出したんだ」
音哉「新しい物質……と」
kou長「もうちょっと踏み込んで言うと…… 新しい元素も作り出した」
音哉「はぁ?!」
Felix「えぇ……」
谷城「えっ」
古閑「!!!」

 

新しい元素を作り出すなんてもはやノーベル賞も夢じゃ無いレベルである。もう少し話を聞いてみると、自らの原子に含まれる電子の数を自在にコントロールすることができ、それによって化学反応をブロックしたり促進したりも可能なんだとか……

 

kou長「全てというわけじゃないが、そういう元素が私の体に一部だけ含まれてるってわけなんだ」
谷城「?????????」
kou長「フハハ、ごめんな。こんな話をされてもつまらんだけだよな。質問への答えはこれくらいにしておくか」
音哉「なるほど……どうもありがとうございました」
Felix「ありがとうございました」
古閑 (ペコリ)
kou長「うん、楽しかったよ」

 

谷城「ちょっと待ってください!」

 

kou長「うん? どうした?」
谷城「最後にひとつ聞きたいことがあるんです」
kou長「なんだね?」
谷城「kou長は……酸性……なんですよね……。 なら……」
kou長「なら……」
谷城「なら……!! 中和したらどうなるんですか!!」

 
 
 

あまりの谷城の大声に職員室全体までもが静まった。誰もが谷城のほうに注目した。

 

kou長は少し考えたのち、不気味な笑みを浮かべながら口を開いた。

 

kou長「その話題については今度話そう。今話せば長くなる」

 
 
 

そう言って、彼は校長室へと消えてしまった。

 

 

結局、kou長は酸性であるという事実と、その他が少しだけが明らかになっただけで終わってしまった。4人は静まり返った廊下を歩きながら下駄箱へ向かう。部活はとうに終了時刻を迎え、殆どの生徒は既に帰ってしまっているようだ。

 

谷城「今日は頭使いすぎた……クラクラしちゃうくらい」
Felix「正直、普段の授業より頭使うかもしれない」
音哉「化学の授業の題材をkou長にすれば解決なのに」
谷城「えー、なんかそれはやだ~」
音哉「古閑だってそう思わないか?」

 

古閑は首を横に振った。

 

音哉「なんでだ……結構良い案だと思ったのになぁ」
Felix「なんであんな1人の人間の構造を理解するために授業受けなきゃいけないんだ。目的が違ってくるだろ」
音哉「あの人のこと知っておかないと、いつ殺されるか分からないぞ」
Felix「そんな物騒なこと考えていたのか……」
音哉「それに…… 中和がどうこうっていう気になる話をしていたしなぁ! これからあの人で遊べるかもしれない」
谷城「何言ってるの音哉くん……ちょっと引くわ……」
音哉「えぇっ?! いやちょっと待って今の無しで!!」

 

謎は一旦おいておいて、今は今の生活を存分に楽しむのみ。
kou長の謎はだんだんと明らかになってくるに違いない。その時を待てば良いのだから。