小説/25話「夏休み」

Last-modified: 2024-02-27 (火) 16:10:18

25話「夏休み」

 

産業革命をやたら語りたがるkou長

ついに!

 
 

ついにやってきた!

 
 

夏休み!

 
 

音哉「夏だぜェェェェェェェェェェェェェェヒャッホォォォォォォォォォォウ!」

 

今年の夏休みは最高に充実したものにしてみせる! というか恐らくこんな学園に入ってるんだから嫌でも充実した夏休みになる!

 

音哉「そう。絶対充実した夏休みになるはずなんだ」

 

間違いなく充実するはずなんだ。

 

間違いなく。

 

充実するはずなのだが……

 
 
 

kou長「夏休みは宿題と夏期講習ももれなく充実しておりますのでご安心くださいお客様」

 
 
 

………………。
ドデーンと机の上に置かれた冊子の数々。全部積み上げて恐らく15センチほどある。
そう、何を隠そう、これこそが我々学生を絶望のどん底へと陥れる諸悪の根源である…… そうッ!夏休みの宿題という名の処刑グッズ!!

 
 

夏休み初日にして絶望。音哉を含む3組の男子4人は、早いうちにさっさと宿題を片付けてしまおうと、勉強会(笑)と称して音哉の家に集まっていた。

 
 

音哉「相変わらずの理不尽な量」

 

近江原「1日20ページとかいう鬼畜なノルマ」

 

高砂「それでいて問題は全部ちょっとずつ違う」

 

南沢「答え写し確定、いや、答えを写したとしても全部終わらすのに丸一日以上かかりそうな量。こんなのただの作業ゲー! 鉛筆を動かすだけの指先トレーニング! 受験に備えて指先の筋肉をムキムキに!!」

 

「「「……………。」」」

 
 

沈黙しても何も始まらないんだ。逃げ道なんてない。この宿題を終わらせなくては進級不可能。俺たちは一生この学園を卒業できない。

 
 

高砂「あのさ、ひとつ思いついたんだけどk

 

南沢「どした」

 

高砂「自分1人分の宿題を延々と答え写しするよりかは、一人一人が特定の分野だけを担当して、分業するほうが効率いいんじゃね?」

 

近江原「なるほど?」

 

4人の宿題を分業する、と。例えば自分は4人分の理科の部分だけを全部やる、ある人は4人分の国語の部分だけを全部やる、……ということだ。

 

南沢「おい、それは天才的なアイデアじゃないか! でかしたぞ高砂イヤッホー!」

 

高砂「お、おう」(自分の言った案が通るなんて珍しいなぁ)

 

南沢「そうとなれば早速始めちまおう。変に雑談してたら1日無駄にしちゃう事になる」

 

音哉「随分と気が早いな」

 

南沢「だって夏休みだぞ!? 今年の夏は……いつもとはちょっと違うんだわ……甘酸っぱい青春、俺らが失いかけた青春を取り戻すための……かけがえのない一夏なんだぜ」

 

音哉「それ誰の真似だよ()」

 
 

というわけで始まる宿題答え写し分業ゲーム。音哉は国語、南沢は数学、近江原は英語、高砂はそのほかの教科を担当。なんとこの学園、副教科にまでしっかりと課題を用意している。何故か知らんが家庭科の課題までちゃっかり入ってるし。

 
 

「「「「よーし、頑張るぞ!!!」」」」

 
 

最初の掛け声だけは良かったんだ。逆に言えば良かったのはそこしか無かった。実際作業を始めてみると、想像以上にだるい。1ページ書き写すだけでも5分以上かかるくらいには内容がびっしりだからだ。

 

まず国語!! 現代文であれ古文であれ漢文であれ、記述問題というのに出くわすことがあるのだが、これは模範解答をそのまま丸写ししただけだと、写した事がバレバレになってしまうのだ!! だから適当にアレンジを加えてさも自力で解いたかのように見せなくてはならない!
『国語に、これだという絶対的な解答は無いんです』というどこかで聞いた言葉が身に染みて分かる。悪い意味でグッサリと身に刺さる。

 

高砂「どうせ先生もしっかりとチェックしないんじゃないの? 答え丸写しでもバレないと思うけどなぁ」

 

音哉「おい、今までこの学園で生活してきて、不可能だった事なんてあったか……? あのkou長なんだ、これくらいの宿題量、何かの技術で一気に中身を調べるに違いないぞ」

 

近江原「そうなんだよな…… それが一番厄介」

 
 

次に数学!! 何を隠そう、数学において切っても切れない要素……それは、途中式!! 計算問題が出るや否や、それはもう途中式を書いてくださいと言わんばかりの威圧に他ならない! こちらは模範解答よりも若干省略するという高度なテクニックがあるが、そこまで省略していいものかと迷うのがこれまた面倒い。
『答えそのものだけでなく答えを導く過程も重視します』という文言がここにきてグサリグサリと刺さりまくる。どうしてそこまで途中に拘るのだろうか。彼らはきっと『終わりよければすべてよし』ということわざを知らないに違いない

 
 

そして……気づいたんだ。

 
 

音哉「やっと1時間だぁぁぁぁぁぁぁ」
高砂「どう? どれくらい終わった?」
近江原「まだ10ページ……」
南沢「12ページ……」
音哉「もう精神が限界だ。この1時間集中しすぎてクッソ疲れた。昼寝したい」
高砂「俺ももう限界……」
近江原「これをあと何回繰り返せばいいんだ……」

 
 

無理!!!

 
 

いや最初から気づけよ。どう考えてもこんな量の宿題、正攻法で終わらせられるわけがない。ここまで来るとそもそも教師らも終えさせる気がないんじゃないか。

 
 

手詰まり、限界、そして絶望。希望は一欠片も見出せない。エンドマークに涙と共に添えられたんじゃなかったのか。あれだけ絶望的な譜面してるのにこういう時だけ恋しくなる。何言ってんだ俺。

 

音哉「これ諦めるしかないだろ」

 

南沢「というかこの宿題、毎年恒例の量なのか……?」

 

高砂「いやまさかねぇ」

 

近江原「これが毎年続いてるんだったら、学園は留年生で溢れかえる事になるんじゃないか」

 

南沢「他のみんなはどう思ってるんだろな……お、グループ会話がえぐい事になってる」

 

音哉「どれどれ」

 

携帯の通知がとんでもない量になっていると思ったが、クラスのグループ会話で色々な生徒が嘆いているせいだった。そりゃそうだ、この量を見て絶望しない方がどうかしてる。

 

音哉「みんなはどうするつもりなんだろ」

 

近江原「もうみんな諦めてるみたい」

 

南沢「それマ?」

 

高砂「マ」

 

こんな無理難題を押し付けられても、現状ほとんどの人が留年せずに進級しているんだ。どうせこの宿題が出来なかったとしてもなんとかなるに違いない。言わば負けイベント、ってやつだ。

 

音哉「……は?」
高砂「どしたん」
音哉「誰かが先輩に聞いたところ、この課題はマジで終わらせないと留年になるらしい」
近江原「え…………?」
南沢「?????????」
音哉「どういう事だ、それ? じゃまさか、その先輩はこの地獄の試練を突破したとでも言うのか……?」

 

グループでの返信を待つ。

 

すると。

 

『マジで終わらせないと駄目。ただ普通にやっても間に合うはずがないから、ある事をしなくちゃいけない、だそう。答え写しなんかよりももっと大規模な何か……。 そのネタバレはしないようにkou長から厳しく言われてるそうで、あまりヒントは出せないそうだ。ただ、宿題チェックシートの下側がかなりヒントになる……とか言ってた』

 
 

高砂「なんか面倒くさそうな事になって来たぞ」
音哉「もっと大規模な何かって何だよ……」
近江原「宿題チェックシート? ……あ、あれか。宿題の進捗をメモして感想を書いて提出するあの紙か」

 

先輩が言うくらいなんだ。何かしらヒントがあるに違いない。音哉らはその宿題チェックシートとやらを山積みの中から探し出して調べた。

 

音哉「あ…………これの事か?」

 

進捗状況をメモする表がびっしり書かれているその下、小さめの文字で色々と書いてある。
最初はくだらないkou長の雑談から始まり、その後に意味深な問題文が掲載されている。

 

『夏休み前の話で申し上げましたが、皆さんは大航海時代の三大発明というのをご存知ですか。この時代に発明され、航海などの技術に大いに貢献する事となった技術——羅針盤、火薬、活版印刷術。今となっては当たり前になった技術も、当時は科学者達が命をかける思いで作り出した努力の賜物なのです。——特に活版印刷術。現代ではプリンターという形で残っていますが、同じ文章を何度も何度も複製する時に役立ちますね。何度も何度も複製する時……ほら、例えば、手書きでやれば絶望的な時間がかかるものを、複製するとか……ね?』

 
 

南沢「前置きの文章なっが!!」
音哉「でもさ、これってさ……」
近江原「そういう事、だよな……」
高砂「まさか……」

 
 

同じ文章を何度も書き写す。複製する。その作業を自動化するのがプリンターのお仕事なのだ。
うん、まさに今必要としている作業ではないか。

 
 

さらにその下に書かれていた文章がこれ。

 
 

『模範解答を作成するつもりで、みんなで手分けしてパソコンで解答を作ってみましょう。普段よりも確実に知識が詰め込めるはずです。上手く行けばそれを課題の紙にプリンターでいい感じに印刷出来ますし、一石二鳥ですね
p.s.今年の課題はクラスによって異なるので学年全体での問題共有はできませんノシ』

 
 
 

…………。

 

南沢「おい!! 答え写しがkou長先生公認って事じゃねえか!」
高砂「草」
音哉「まさかのプリンター推奨なのかよ、kou長は何をやらせたいんだよ本当に」
近江原「全く分からんな……」
南沢「なるほどな、どうりでページがバラバラに取り外しできるようになってるわけだ」
音哉「プリンターを使うための伏線がそこからあったとは…… ってか、ちょっと待て。俺ら以外にこれ気づいてる人いないのか……? グループで誰かしら気づいてなきゃおかしくね」
近江原「あの……非常に申し上げにくいのですが、むしろ今まで気づいてなかったのは俺たちだけっぽくて……」
音哉「は」

 
 

 音哉たち、完全に出遅れていた。
 こんなに張り切って勉強会みたいなのを開いておいて、なぜ大事な情報に気づかない。携帯のメッセージくらいこまめにチェックしなさい!

 

 ……というわけで、kou長がそう言っている以上はプリンター作戦を使うしかない。善は急げだ。早速クラスのみんなで作戦会議だ。

 
 

※以後、携帯のグループ内での会話

 

雪姫「というわけで、どうします?」
照美「待って、まだ状況が理解できてない 印刷するって、どうやるの」
アイ「プリンターの使い方も分からないのだ?」
Felix「そういう意味じゃない! 校長が言ってるのは、恐らく全生徒の課題をひとまず全部一箇所に集めて、各々の課題から同じページだけ引っ張り出して、そこに同じ解答を16枚分一気に印刷しろって事だろう。その作業を皆で分担しろって話だ」
照美「例えば、この人が〇〇ページの解答を16人分作る、あの人が△△ページの解答を16人分作る、って事?」
枝川「多分それで合ってる」
音哉「なるほど、やっと理解した」
優「それって、パソコンでポチポチやらなくても、普通に手書きで課題埋めちゃったほうが早くない??」
南沢「お前さては課題の中身見てないな。1ページの量、マジでえげつないからな? それを16回も繰り返すなんて言われたら、お葬式で限界オタク発動して社会的に死ぬほうがまだマシだわ」
南沢「長文失礼」
高砂「なんか草」
雪姫「それじゃまず、みんなの宿題を交換しないといけないので、いつ交換するか決めましょう」
音哉「とりあえず7月中に暇な日がどれくらいあるかアンケ取ろう」
涼介「了解」
音哉「みんな暇な日に投票しといてくれー あとこの会話見てない人にも伝えといてくれー」

 
 

そんなこんなで、またまたヘンテコな計画が始まってしまうのであった。

 

(以降の章へ続く)

 
 
 
 

やはり!!

 

夏といえば!!

 

海!!!!!

 
 
 

夏休みの象徴と言ってもいいであろう、海!!!
というわけで1-3の一部メンバーは、宿題の交換という名目も兼ねて、ちょっと遠出して海にやってきていた。
……が、しかし?

 
 

Felix「ちょっと待て、なんで担任までいるんだ」
谷城「ほら、夏休み前にパパイヤのサービスしてくれたし、それのお礼も兼ねて? あとすっごい寂しそうにしてたし」
古宮「本気で寂しかった。誰かの家に凸りたくなるくらい寂しかった。次郎勢学園の教師陣、みーんな趣味が独特すぎるし、忙しい忙しい言って誰も遊んでくれないし」
涼介(むしろ古宮先生が一番忙しかったような気がするんだけどな)
古宮「俺だってパパイヤみたいな青春したいし」

 

 パパイヤみたいな青春とかいうパワーワード。パパイヤの件を知らない人なら確実に困惑するに違いない。

 

南沢「ま、今日くらいはいいだろ! それに先生いたほうが面白そうだし」
古宮「俺さ、海行ったらあれやってみたいんだよね、砂に体埋めるやつ」
森「あぁ、なんとなく分かるかも……」
涼介「砂浴とかいうやつだな」
古宮「誰かやった事あったりする? あれどんな感じなんだ?」
南沢「分からん」
笹川「アイもやってみたいのだ、旦那様と隣になって川の字なのだ!」
涼介「泳がせてくれないのか……」

 

 ちょっと待て。なんで海に行ってやりたい事で一番最初に砂浴が出てくるんだよ。砂浴フェチかよ。
 ……待てよ。海に来たのに海で泳がない。それが意味するもの…………まさか…………

 

谷城「さては先生、泳げないんだな~?」
古宮「はぁ!?」
谷城「泳げないから、海に入って遊ばずにこうやって砂で遊ぼうとしてるわけなんでしょ? ふふん、まさかバレずに済むと思った?」
古宮「いや待て待て待て待て待て待て。俺は泳げるんだが!? ちゃんと泳げるんだが!?」
笹川「ほんとぉ?」
古宮「本当だ」
南沢「本当なんですかぁ?」
古宮「……俺が泳げないように見えるのかよ! 失礼な!……俺はただ砂浴が気になっただけなんですが」
Felix「先生、今一瞬言葉に詰まったでしょう。自分の答えに自信を持ちきれない様子だ」

 

古宮(はっ……Felix……お前はなんでそんなに勘が鋭いんだ……?! 確かに俺は昔はなんとか泳げたが、ここ6、7年以上は一度も泳いだことがない。今もちゃんと出来るかどうか、不安ではある……)

 

涼介「無理しなくていいんですよ先生」
古宮「無理してねーし!!」
笹川「アイが泳ぎ教えてあげてもいいのだ」
古宮「お前に教わるくらいなら桜庭とかから教わりてぇ……」
笹川「にゅえ!?!?」
南沢「先生…………バリバリ本音が出てやがる…………」

 

 その後しばらく、古宮先生は笹川に土下座し続けたそうな。

 
 

Felix「そう言えば、今日は音哉は来てないんだな」
涼介「あいつは今日用事があるって言ってた。野球観戦にでも行ってるんじゃないかな」
森「ふ~ん……」
南沢「こんな事言うのもなんだが、本編なのに音哉が居ないってどう言う事だよ。それサイドストーリーとかでじゃんじゃんやってあげればいい内容だろ」
Felix「やめなさい」

 

本編書いてる人だってたまには音哉以外の会話書きまくりたいんだ。分かってくれ。

 

谷城「言われてみれば、割と珍しいメンツかも?」
森「確かに……?」
南沢「あいつ何も返信くれなかったから、てっきり当たり前のようにこっちに参加すると思ってた」
古宮「返信ないから参加ってどういう理論やねん」
南沢「あいつはそういう奴だ」

 
 

 

 そんなこんなで全員、ひとまず水着に着替える事にした。
 したのだが………………だが……!?
 そう。問題はここからだったのだ。

 
 
 

(ブシャー)
南沢「せ、先生!? ど、どどどどどうしました!?鼻血出まくってますよ?!」
古宮「ア……………オイオイオイオイ…………嘘だろ…………!! ア!!! エッッッッッッッッッッッッッッッ!!!」

 

(ブシャー)
南沢「先生ェ!?!?!?!?」

 

古宮「ア…………アレはハンソクダ……一目見ただけでもう……あぁぁぁぁぁぁぁぁ!エッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!」

 

(ブシャー)

 

南沢「あかんこれ貧血になるぞどうしよう」

 

梨汁よりもブシャーしている古宮先生の鼻血だが、原因は他でもない、こいつである。

 
 
 
 
 
 
 
 

「どうしたのだ? 何があったのだ?」

 
 
 
 
 
 

Felix・南沢その他諸々「「ぐはっ…………!?!?!?!?」」
涼介(待て、アレは色々とマズくないか……!?)

 

 そう!!!!!!!!!!!!笹川である!!!!!!!!!!!
 コイツ、キャラの濃さのせいで時々忘れられがちだが、口調がふにゅんとしているだけでなく胸部もふにゅんとしている事でも有名である!!!!
 それにも関わらず全体的なスタイルも完璧であり、美しさを兼ね備えた男子の理性絶対破壊するマンになっている!!!!!
 ずるい!!!これはマジでずるい!!!!!
 その体型の良さから、周りの女子からは相当妬まれているだとかないだとか。実質タダで目の前で拝めるグラビアやないかいと言ったら殺されそうな気がしなくもないが、事実なんだから仕方がない。
 実際、いつもは冷静なタイプである奴も全員巻き込んで、……なんなら谷城も巻き込んで、男子全員がその眩しさに致命傷を負っていた。
 また、彼女が今着ているそのビキニ!!! 本人は気づいていないようだが若干紐が緩んでるし!!おいやめろ!!それ以上は!!危なっかしくて見てらんねえぜ!! いいや、危なっかしくてずっと見てられるぜ!!(殴
 それに加えて古宮先生、ご存知の通り、元々緑髪の子に対して発情してしまうほど理性が保てない病を持っているので、…………あとはお察しの通りである。

 
 

古宮「ふにゅ………ふにゅにゅにゅにゅ…………Ahhhhhhhhhhhhhエッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!じゅるり」

 

Felix「おい!!全員で先生を止めろ!!これは本気で危ない!!」
涼介「分かった!!」
南沢「了解!!」
森「はいっ!」
谷城「OK!」
笹川「分かったのだ!!」
古宮「アバーーーーーーーーッ!!!!!」
「「「「「お前はこっち来るな!!!!!!」」」」」
Felix「そのまま地面にはっ倒して押さえつけろ!1ミリたりとも動かせるな!」
南沢「了解!」
森「はいっ!」
谷城「先生、覚悟ぉーー!!」
古宮「おい、何だ、何をする気だ!! 待て待て待て! なんでシャベルなんて持ってんだよ! おい! まさかとは思うがそういうわけじゃないよな?! おい!!」

 

ザクッザクッザクッザクッ

 

古宮先生の胴体は理不尽にも砂に埋もれていく。

 

谷城「砂浴したいんでしょ?!」
南沢「今ここでさせてやるよ!!」
古宮「ブフォ……ちょ、お前ら!胴体だけじゃなくて俺の顔にも砂かかってるんだが!!ちょっとは手加減しろや!雑だぞ雑!」
Felix「フッ……あまり手荒な真似はしたくなかったんだがな」
古宮「手荒ってそういう意味じゃねえよ!おい!!」

 

古宮先生の胴体は理不尽にも砂に埋もれていく。2

 

古宮「アカン……もう手足動かせなくなった……」
谷城「よーし……こんなもんでいいんじゃないかな」
森「いや、これは流石に……」
涼介「埋めすぎでは……?」

 

気がつけば、古宮先生の胴体の上には立派な砂の山ができていた。かろうじて顔だけ出ているが、それ以外砂の中にスッポリである。

 

南沢「いいや、このぐらいしとかないとマジで次何しでかすか分からんし」
Felix「確かにそれは一理ある」
森「まぁ……」
古宮「オイ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
涼介「ま、これは致し方ないと言うべきか」
南沢「何にせよ、この状態でしばらく放っておくのが安全な気はする」
Felix「犯罪防止のためだ……許せ」
古宮「え……? おいちょっと待てよ、おい! なんで俺を置いて海の方へ行こうとするんだ! おい!! ちょっと待てや! おおおおおおおおおい! 俺を置いてくなーーーー!これじゃ何にも出来ねぇじゃんか!!!!!」

 

笹川「先生、そんなに埋められるとはよっぽどの人気者なのだ~?」
古宮「うおぉ笹川じゃねえか助けてくれよ俺今動けないんだgブファッ!!! アアアアアアアアアッ!!!!!!」

 

森「何してるのアイちゃん? こっち来なよ~……?」
笹川「わ、分かったのだ! ……古宮先生は思う存分砂浴を楽しむといいのだ♪」

 
 
 

そして誰もいなくなった

 
 
 
 

古宮、孤独を味わう—— (DJ kou長's super-super-哀れなり Remix)

 
 
 
 
 
 

みずかけ

やはり、海といえば海でしょう。せっかく海に来たんだから、海に行こうぜ!

 

涼介「何だか懐かしいな。去年は忙しくてろくに遊べなかったからかな」
谷城「忙しかったの? 涼介くんは中3の時も真面目に勉強してたの?」
涼介「……当たり前だろ。次郎勢学園は入試で学力試験がないとは言え、僕は元々他の所に行くつもりだったんだから」
Felix「そうだな。谷城、なんだかんだ言ってお前も努力してたんだろう」
谷城「いやいやいや!私はそんな事全くないから! サボってばっかりだったし……」
Felix「この前聞いた模試の成績を聞いたら、そうだとは思えんのだがな」
谷城「!!」
南沢「お前、谷城の模試の成績まで知ってるんかよ……」
Felix「相手側から開示してきたんだ、別に俺から聞いたわけじゃない。————何はともあれ、お前は頑張ってると思う。こんなこと言うのも変だがな。だから周りに気を遣わず堂々と楽しんでいいんだ。遠慮は要らん」
谷城「そ、そうかな……!?」

 

谷城の目、すっごくキラキラしてる。

 

笹川「智夏ちゃんはちゃんと頑張ってるのだ! アイも知ってるのだ」

 

お前は授業を真面目に頑張ろうな……

 

涼介「ほら、遊ぶぞ!」
南沢「そーだそーだ! 海に入ってからそんなに感傷に浸ってどうすんねん!」

 

青春の恒例行事、水かけあいっこ。

 

特に目的もないのにとりあえず相手に向かって水をバシャバシャとかけるのが妙に楽しいのだ。どうしてだろうか。
こういうのは大体、カップルでもない限りは異性に対して水攻撃をするのは憚られるのだが、……いかんせんメンバーがメンバーなのでそれは関係なかった。

 

ひとまず最初に暴走を始めるのは谷城。キャーキャー言いながら水を周りにバシャバシャとスプラッシュ。周囲を見ることなく闇雲にやっているため、ほぼ全員に物凄い勢いの水攻撃がかかっている。
それに便乗した南沢と涼介も反撃を開始する。南沢は南沢で谷城だけを集中攻撃するので、谷城は流石に怯んでいた。涼介は2人よりかは控えめに、バランス良く(?)水かけを楽しむ。
白熱し出すと森も笹川も参戦するようになる。これでよくある青春の水かけあいっこの完成である————Felixはその様子を少々離れた場所から見つめるだけであった。

 

「——これぞ我々が求めていたもの、なのかもしれない」

 

みんなもうすっかり古宮先生のことなんか忘れて海を満喫していた。

 
 
 

スイカ割り

次にやるのは…………スイカ割りじゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!

 

森「スイカ……!」
笹川「すいか!?」
南沢「いや~やっぱり夏といえばスイカ割り、って感じだよな?!」
Felix「そうだな」
谷城「ねえねえ! スイカの代わりにパパイヤ使っちゃダメかな?」
涼介「えぇ……」
Felix「できるかもしれないが、やっても楽しくないと思うぞ」
谷城「しょぼーん……(´・ω・`)」

 

夏の風物詩とも言えるイベント、スイカ割り! 目隠ししたまま棒を振り下ろしてスイカを割るという大胆なルールは、どの時代の若者をも魅了してきた!

 

南沢「というわけで、こちらにスイカをご用意いたしました。結構でかいっしょ?」
森「こんな大きさ、初めてかも……」
谷城「これをザックーンっていったら絶対気持ちいいよ!」
Felix「それで? 誰が最初にやるんだ」
南沢「まぁジャンケンでいいだろ」

 
 

ジャンケンの結果、最初の挑戦者は森に決定した。

 
 

森「ひぇぇ……本当に何も見えない……」
南沢「目隠しは見えるだろ」
Felix「うるせぇ」
南沢「スイマセン」
森「でも……よぉし、頑張る……!」
谷城「私達の指示が大事だからね。スイカが割れるかどうかは、私達にかかってるんだから!」
南沢「おう!まかせとけ!」
森「じゃあ……お願いします!」

 
 
 
 
 
 

南沢「Go straight.」

 

森「???」

 

南沢「Turn left.」

 

森「???????」

 

南沢「Turn right.」

 

森「??????????」

 

南沢「Then, you'll find it on the left hand side.」

 
 
 
 
 
 
 
 
 

南沢「いや誰かツッコめよ!!!!」

 

谷城「あそっか……! 今日は音哉くん不在だからツッコミは私たちがやらないといけないんだ!」
森「????????」
笹川「ふにゅ?」
涼介「難しいもんだな……」
Felix「俺は南沢がまじめに英語の練習してるのかと思ったぞ」
南沢「お前がボケてどうすんだよ!!」
谷城「ちょっと期待したんだけどな~、南沢くんがインド人を右に~って言ってボケるの」
南沢「あっ……」
涼介「それはちょっと思った」
南沢「く……くそっ……! それは思いつかんかった……!」
Felix「ボケに関しては相当な不調のようだな」
南沢「古宮先生も音哉も居ないと調子が狂うなぁ……」

 

 いつもならば場の雰囲気作りをしてくれるような仲間がいるはずだった。だが今回はそう易々とはいかないのだ。南沢はここに来て初めてそれに気づいた。
 いつもコンビで出ている漫才師がいきなりピンで出演しろと言われているようなものなのかもしれない。————ギャグには雰囲気がとても重要なのだ。

 

……というわけで、気を取り直して。

 
 

南沢「そのまままっすぐ!」
森「ハイっ!」
Felix「だんだん曲がってきてるぞ」
谷城「ひ、左に一歩!」
森「えっと、こんな感じ……?」
谷城「それは行き過ぎ!! 0.5歩だけ戻って!」
南沢「いや、角度的にこのまま行けばちゃんとスイカにたどり着く」
笹川「またさっきみたいに曲がっちゃうかもしれないのだ」
涼介「そうだね、敢えて左に行き過ぎのままのほうが丁度良いのかもしれない」
森「え……? じゃあこのままでいいの……?」
笹川「OKなのだー! そのまま迷わず突き進むのだ!」
森「わ、分かった……!」

 

 森は周りの指示通り、少し左に行き過ぎたまま直進していった。するとどうだろう。森の癖なのか、まっすぐ進んでいるつもりでもちょっとずつ右側に曲がってしまうのだ。ほんんとちょっと……だが。
 彼らの計算はピッタリだった。森の癖を既に見抜いて、少し左寄りのままスタートさせておいたため、スイカに達する頃には丁度中央にまで移動していたのだ。

 

南沢「か、完璧じゃねぇか?!」
涼介「完璧だ……」
谷城「いいぞ~! 薫ちゃんがんばれ~!」

 

……と、思ったのだが。

 

Felix「………………お、おい!! ストップだストップ!!!!!!」
森「へ……? うわぁっ!」

 

ドタッ

 

 …………みんなの完璧な誘導術に盛り上がるあまり、森をスイカの目の前で止める指示を忘れていた。
 森は何も知らぬまま直進を続け、最終的にスイカに足を引っ掛けて前に転んだ。

 

Felix「す……すまん……大丈夫か!」
森「いででででででで…………」
涼介「本当に申し訳ない……」
Felix「大丈夫か? 立てるか?」
森「う、うん、平気。怪我もしてなさそう……痛っ!」
Felix「お、おい!」
谷城「け、ケガ!?」
笹川「大丈夫なのか?!」
Felix「……腕か」
森「あっ、うん、そうみたい…………」
Felix「擦りむいてるな。しばし待てよ、今絆創膏を持ってくる」
谷城「わ、私も手伝いますー!!」

 

 Felixと谷城は物凄いスピードで荷物置き場にダッシュしていった。

 
 
 

くつろぎ

 

 ……結局、森は消毒と絆創膏の処置を受けただけで済んだ。スイカ割りをしたのが砂の上だったから、大きな怪我はしなくて済んだみたいだ。
 しかし、一歩間違えたら大怪我につながるところだったという事でもある。……深く反省しなくてはならない。

 

 その後はしばらく休憩にしよう、という事になった。大きなビーチパラソルを持ってきて、その下でテーブルを囲んでトロピカルジュースを飲んだ。

 

涼介「海、って感じがしてすごくいいね」
谷城「私こういう事するの結構憧れだったんだよね~」
森「分かる!」
Felix「俺もこういう事は初めてだな。新鮮だ」
笹川「おぉ? あそこでかき氷が買えるみたいなのだ!」
南沢「おぉ! いいじゃ~ん。みんなで食べね?」
谷城「賛成!」
涼介「OK」
Felix「食べるか」
笹川「食べるのだ!」

 

 かき氷も食べた。海辺で食べるかき氷は格別だ。なぜか知らないが、シロップはブルーハワイ味が人気だった。理由は本当によく分からない。

 

南沢「ま、結局は全部同じ味なんだけどな」
涼介「それは言わないお約束」
谷城「南沢くーん?」
南沢「だ、だって事実だぞ?! 俺はずっと騙されながら生きるのが嫌なだけだ!」
Felix「でもな、味というのは見た目の影響を本当によく受けるらしく、その影響の割合は50%とも言われている。視覚的な情報も、もはや味の一種と言っても良いのかもしれない」
谷城「おぉっ!? 隊長がすごい豆知識を!」
Felix「はぁ…… 俺はいつまで隊長でいればいいんだ」

 

 ……そんな風にワイワイとかき氷を食べながら過ごすこと15分ほど。

 

森「………………」
涼介「……? どうしたんだ? さっきから明らかに元気がないが」
森「えっ? いやいや、別にそんな事ないよ……? 気にしないで」
笹川「やっぱりさっきの怪我のせいなのだ?」
森「そ、それは絶対ない! そういうわけじゃなくて、いや、本当に何でもないんだけど……」
谷城「なんか、嫌なことでもあった? よければ話聞くよ?」
森「いや、嫌な事があったわけでもないんだけど……」

 

 何となくではあるが、森のテンションがさっきより乗り気じゃないような気がした。本人曰く、さっきの怪我のせいではないらしい。疲れてしまったのか、体調が悪いのか、今している事が楽しくないのか、あるいは……

 
 

南沢「音哉がいないからか?」

 

森「に゛ぇ?!」

 

南沢「なーんてな、ハハハハハハハ…………ん?」

 
 

 あれ、おかしい。冗談のつもりで言ったはずの言葉に森が過敏に反応した。

 

南沢「……あれ?」
Felix(あぁ……やっぱりそうだったか……決定的だな)
涼介「おっと」
森「…………!?」
谷城「あれあれー? ……さては薫ちゃん、音哉くんの事結構好きなんでしょ~?」
森「えっ……ええええええっ?!///」
Felix(まさかの直球で聞きやがったぞ……この隊員め)
笹川「おぉっ! 恋なのだ? 恋なのだ?!」
涼介「笹川もすごい食いついてるな……」

 

 森の顔はみるみるうちに真っ赤になっていく。分かりやすすぎる……

 

涼介「なるほどなぁ」
森「は、恥ずかしい……///」
谷城「かわいい」
南沢「まじか……」

 

Felix「まぁ……なんだ、正直な話を言うが、俺は前から少し勘付いてはいたな」
涼介「まぁ、それはそう」
谷城「うん」
森「えっ、そうだったの?!?!」
谷城「だってさぁ、普段からあれだけイチャi…………一緒に話してるんだもん、それになんかすごく嬉しそうだったし」
南沢「まじか」
森「うぅぅぅ…………/////」

 

 確かにそうだった。このクラスの人であれば、森と音哉が妙にくっついているのを見て、森は音哉にゾッコンだというのは分かっているのが普通だった。——多分。
 森はしばらく手で顔を隠しながらその場にうずくまって、何も話せなくなってしまうのだった。

 
 

 
 

南沢「今から呼ぼうと思えば呼べんじゃね? 用事があるって言っても、なんだかんだ呼ばれたら飛んでくる奴だし」
涼介「それは流石に無理があるような……」
Felix「夏休みの行事なんてこれから色々あるだろう。焦る必要なんてない」
森「焦る必要ないって……え、えぇ?!」
笹川「ふふん♪ 果報は寝て待てなのだ。今の調子なら、焦らずともいつか結ばれると思うのだ。ちょうどアイの旦那様と同じように——」
涼介「おいやめろ」
森「そ、そんな勇気、私にはまだ……」
谷城「大丈夫大丈夫。なるようになるってば」
Felix「そうだな。もっと自信を持て。お前なら大丈夫」
森「そ、そんなこと言われてもぉ…………」
涼介「陰ながら応援するよ」
南沢「ああ」

 

 ……というわけで、森の音哉に対する挑戦が今、幕を開けるのであった——

 

 その後は今まで以上に盛り上がったムードで海を満喫した。
 まずはビーチバレーをした。Felixのパンチ力がえげつないせいでボールが割れた。
 その次にビーチフラッグをした。何故か知らないが、涼介が審判をやっている時だけ笹川の成績が妙に良かった。音哉が審判だったら森もちょっと速くなったりするのだろうか
 残りは海で泳いだり、浜辺を走って遊んだり、日光浴をしたりなど——各々の好きなように楽しんだ。
 空が夕焼けに染まり始める頃になって、そろそろ帰ろうかと思って戻りかけたその時、古宮先生をずっと放ったらかしだった事を思い出した。

 
 
 
 

古宮「オイ!!!!!!!!!!!!」

 
 
 

Felix「……悪気は本当に無かったんです、我を忘れて遊びに集中しすぎてしまったあまり————本当に申し訳ない」

 
 
 
 

古宮「申し訳ないで済みゃあ警察はいらんのよ!!!!!! まあ今回は警察いらんけどな!!!!! 何言ってんだ俺。とにかく俺は悲しいよ。まさかこんな長い時間放置されるとは。しかもこんな炎天下だぞ?! いくら日焼け止め塗ってたとしても顔がヒリッヒリなんですけど!!」

 

Felix「先生、そのくらいの深さなら頑張れば自力で抜け出せたんじゃないですか?」

 

古宮「無理だろ! 俺の体の上にこんな山積みの砂が乗っかってるんだぜ……? 脱出できるどころか、手足が一切動かねえ。本当に助けてくれよ……」

 

Felix「……それにしてもおかしい。確かにあそこには監視の人がいるはずだ。流石にこれほどの時間埋まっていたら、声をかけてくるとは思うのだが……」

 

 ビーチには常時監視員がいる。海辺のほうはもちろんの事、陸に近いようなビーチの場所にも基本的に見回りで来るスタッフの人がいるのだ。古宮先生の事は必ず見かけるはずで、いざとなれば出してもらう事だって出来たはずなのに——

 

古宮「スタッフは、来た。何回か来た」
Felix「え」
古宮「1時間毎くらいに来て、大丈夫ですか? お腹空いてませんか? 喉乾いてませんか? って言って、食べ物飲み物持ってきてくれて」
Felix「……え」
古宮「そのおかげで俺は今餓死ににも脱水にもならず生き延びているわけなのだが」
Felix「いや……この件に関しては本当に申し訳ないと思っているが……いやしかし、それならなぜ埋まったままでいたんです? スタッフに頼んで掘り起こして貰えば良かったはずなのに」
古宮「……スタッフに、裏切られました……」

 
 
 

「「「「「???????????」」」」」

 
 
 

古宮「いやさぁ、スタッフさんが来たからさ、あのーすみません、どうか助けてくれませんか、脱出させてくれませんか、ってお願いしたんよ。そしたら『貴方、先ほど奇声を発して騒がれていた方ですよね?』って言われてさ、『……貴方は今日はここに埋まっておくべきでしょう。ここで貴方を解放してしまえば、今度こそ取り返しのつかない事件が起こってしまうかもしれない』って…………」
南沢「草」

 

 スタッフさんにも変態認定されていた。

 

谷城「それで、食べ物と飲み物だけあげて埋めたままにしてたってわけなのね」
古宮「手足が使えないから、スタッフさんにあーんしてもらったんだぞ?! めっちゃ食べづらかったんだぞ?! 途中でかき氷食べさせてもらったけど、氷がほっぺたに落ちて、冷てぇえええええええええ! ってなって」
涼介「シュールすぎる」
Felix「なんたる鬼畜スタッフ……」

 

南沢「おいちょっと待て。そのスタッフってのは……まさか女性じゃないよな……?」
古宮「……おじさんだった」

 

谷城「おじさんか……まぁそうだよね」
Felix「それはそう」

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

古宮「………………緑髪のおじさんだった」
涼介「えぇ……」
南沢「草」
谷城「なんだそりゃ……」

 

 流石におじさん耐性はある。

 

 というわけで、最後にみんなで集合写真を撮って帰宅ということになった。
 古宮先生は今回の事件を機に、緑髪女子に対してもっと耐性を付けるよう決意。(どうやったら耐性がつくのかは知らない) ひとまず笹川その他諸々の二次被害は無いようだったので安心した。
 森はすっかり"恋する乙女"になってしまっただとか。あんなふうに言われたせいで彼女自身も音哉の事を今まで以上に意識するようになってしまい、良い意味でも悪い意味でも毎日頭を悩ませているのだとか。

 

~海編 完~

 

宿題に完全勝利した1年3組UC

アンケートで決まったその日がやってきた。
今日こそが、例の日である。

 

そう! 宿題を交換して全員で効率的に終わらせてしまおう作戦実行の日である!!

 

圧倒的な量の宿題を目の前にし、これを各自でやっていては夏休みがまるまる潰れてしまうと悟った3組の生徒たちは、kou長の助言に従いつつ、全員で協力して宿題を終わらせることにしていた。

 
 

音哉「まさか本当に全員集まれる日があったとはな……」
谷城「みんな宿題が終わらない恐怖に怯えてるからね……多分よほどの予定でない限りは全部キャンセルしてここに来てるんじゃない?」
南沢「正解」
音哉「まじかよ」
南沢「俺は今日は某バトロワゲームのオンライン大会に出ようとしていたが、やむを得ず辞退してこっちに来た」
雪姫「今日は気分を変えてお菓子作りに挑むはず……だったんですが、集合する日が今日というのなら仕方ない、という事で」
笹川「次郎で遊ぼうと思ってたけど遊べなかったのだ」
涼介「みんな色々な予定を辞めてまでここに来てるってわけだ」
枝川「仕方ない。本当なら今日は風紀委員長から言われていた高2男子の間で三角関数が良からぬ話題に悪用されている事件について話し合うはずだっt……いや何でもない、今のは機密情報だった、忘れてくれ」
南沢(えぇ……わざとバラしてるとちゃうんか)

 

最近の枝川、何やらイメチェンをしたいだとかいう話を小耳に挟んでいたのだが、あまり意識しすぎて逆に不自然になっている。無理にイメチェンしないで今のままでいてほしい。

 

音哉「……とにかく、今日は集まってくれて本当にありがとう。ここのレンタルスペース代は後で割り勘するんで、覚えておいて」

 

一同、頷く。

 

音哉「みんなも分かっていると思うけど念のため説明。これからみんなには、宿題を交換してもらう。この人はこの部分専門、あの人はあの部分専門、というように、一人に同じ問題をヴァーって割り当てていく。そんで、その宿題をパソコンに取り込む。各自回答を考えて、パソコンに打ち込んでいってほしい。最後にその回答を一気に印刷して、最後に宿題をまとめ直せば終わりというわけだ」

 

一同、頷く。

 

音哉「本当なら数日間かけてやるはずのものだと思っていたけど、こうして全員が集まれる機会は早々ないので、今日1日だけで出来る限り全ての課題を終わらせることにしました!」

 

音哉「見てください!なんと学校から業務用の印刷機を借りてきました!印刷に関しては問題無しです!あとは皆さんの解答作成に全てがかかっています!俺たちは挑戦者です!皆さんの解答がプリンターにぶち込まれる楽しみにしておいてください!いいですね!!」

 

森「えーっと……一つ聞きたいんだけど、どうしてまたここに古宮先生が……?」

 

……そう。みんなが円形に集まって立っているこのスペース、よく見ると一番外側に生徒らしからぬ姿の人間が一人————
いつもの人がいる。
他でもない。古宮先生だ。
しかも呼んだのは笛口音哉、彼自身である。

 

音哉「そりゃぁーだってさぁ、一応学校の印刷機の貸し出しを許可してくれたのが古宮先生だから」

 

「「「やっぱお前なのかよ!!!」」」

 

古宮「ちなみにこの許可は先生の独断です。くれぐれもkou長には言わないようにお願いします」
音哉「どうせ言わずともバレr……ごっほん。はい、一応秘密にしておきます」
古宮「それと……一応貸してあげてる立場なんだから、後でアイスくらい奢ってくれませんかねぇ」
涼介「アイスくらいなら全然いいですよ。ここの全員で割り勘したら一人10円、20円程度だろうし」
古宮「ウッヒョー! 冷房の効いた場所で一日中座って過ごせて、おまけにアイス奢ってもらえるんだから幸せな人生だよな~!♪ウキウキ」

 

数日後に印刷機の件でkou長の怒りを買うことになるだろうから、せいぜいそれまでを楽しむと良い。

 

古宮「そうかぁ、kou長が活版印刷術やらなんやら言ってたわけね。な~にが活版印刷だよ、何百年前の話だっての。文明の利器を使いこなすほうがよっぽど大切だよなぁ?」
南沢「それはそう」

 

音哉「というわけで、まずは宿題交換からスタートだ!!」

 
 

 
 

というわけで、作業は計画通りに始まった。週刊漫画雑誌かよと突っ込みたくなるほどの分厚さの宿題、ページごとに区切ってまとめていく。そしてスキャナーでPCに取り込む。
ここからが鬼門。解答作成をしていかなくてはならない。普通の高校であればここでPC操作に慣れていない生徒があたふた……なんて事もあるのかもしれないが、流石は次郎勢学園。普段からPC操作は慣れているためか、入力の仕方などで苦戦する生徒はほとんど見受けられなかった。すごい。
これこそが次郎教育と並行して他校を凌ぐほどのIT教育も行なっている私立中高一貫校の強みというものだ。

 

しかし気にする点はそこではない。PC操作なんてかわいらしい事を気にするよりも、実際に宿題の問題が解けない事のほうが何倍も深刻な問題であった。
現に、数人がものすごい勢いで苦戦している。

 

枝川「げっ……なんだこの問題……得意科目とはいえ、こんなレベルの問題はまだ見たこと無い……」

 

枝川は、比較的成績優秀である数学を涼介やFelixと共に引き受けていた。量産型の練習問題は3人で効率良く解いていき、念のため互いに見直しを行う。
難関問題に関しては全員で相談しながら解いていた。

 

Felix「なるほど、扱っている単元はただの2時関数だが、早慶上智といったレベルの入試問題に近い」
涼介「まじか」
枝川「なんて問題を解かせようとしているんだ……」
Felix「あの教師陣のことだから『受験勉強は1年生から始めるんだぞ』とか言いかねない……」
涼介「僕らを何だと思ってるんだろうか」

 

古閑は照美、雪姫と一緒に社会の課題を解いていく。
どうやら3人とも地理が大得意らしく、歴史や公民と言った分野も好きではあるようだ。まさに文殊の知恵を具現化したような最強コンビがここに集っている。

 

照美「シラス台地。これはこの部分が間違ってる。台地上の水源は少ないのが特徴」
古閑(コクッコクッ)
雪姫「流石ですね……判断が早いです」

 

あとは……
成績に自信のない生徒がやけに国語に集められているのは何故なのか……
確かにkou長が「国語の問題に決まった答えなど無い!」と言っていたが、それとこれは訳が違うような。その発言を言質にして喧嘩を売りにでもきたのだろうか。

 

英語の課題は残りのメンバーでごり押す。英訳問題は自動翻訳機能を使えば余裕。特に最近は○eepLとかいうすごい高精度な翻訳サービスがあるからとても助かっています

 
 

 
 

そんなこんなで作業を開始してから3時間が経過。お昼の時間だが、なんと今日は古宮先生が出前を注文してくれた。

 

古宮「俺ここにいるだけ損な気がしてきたぞ」
南沢「奢るって言ったのは先生じゃないですか」
古宮「だってみんなが遠慮なく高級寿司頼むとか想定してねぇもん!!」
雪姫「そこを想定していない時点で駄目だと思います」
谷城「このクラス受け持って何ヶ月です? その辺りの予測はつくでしょうに」
古宮「仰る通りでございます(泣)」
南沢「いうて先生も給料けっこう貰ってるんじゃないの? これくらい余裕でしょ」
笹川「そーだそーだ!」
古宮「あのなぁ、流石に他人のお財布事情に勝手に干渉するのは止めてもらえませんか?!プライバシーの侵害で訴えますよ、最近流行りのマネハラってやつですか!上等だ」
音哉「……もぐもぐ、うわぁこりゃ至高の時間だぁ、先生も早く食べないと全部無くなっちゃいますよ」
古宮「えっマジ?……ってみんな食べるのはっや!俺も食わんと!いただきますモグモグモグもぐもぐもぐ」

 
 

 
 

昼食が終わったら午後の作業開始。もう折り返し地点は過ぎているとみた。そう長くはかからないだろう。

 

途中で飽き始めた一部の生徒らが他の担当のグループにお邪魔してワイワイし出したりもした。古宮先生曰く、客観的に見れば非常に滑稽だワハハだそうだ。最初は体裁が整っていたのに途中から酔い潰れて荒れ出す飲み会じゃあるまいし。

 

それでも何だかんだでおやつの時間を過ぎた頃に全チーム分のデータ入力が済んだようだ。
あとは正しい場所に印刷しまくるのみだ。

 

音哉「よし! というわけでついに最終工程に入るぞ~! みんなで分配した解答用紙を全部ここに集めてくれ」

 

ここの印刷工程をミスれば一巻の終わりである。慎重にやらねばならない。

 

古宮「やっと俺の出番が来たと言うわけか」
涼介「見守るだけですけどね」

 

古宮先生はプリンターを貸すためにここに来ているので、生徒らがプリンターを使っている場面を見守るくらいしか仕事がない。俺の出番とか一人前に言ったとしても、結局はそこに立っているだけである。

 

古宮「それはそう」
高砂「さはさり」
古宮「古語訳すな」
高砂「かたじけなし」
古宮「俺はそういう悲しい現実からは目を逸らす主義なんでね。そういうことは言わないでくれ」

 

物は言いよう、ってか。

 

——さておき。
全員分の宿題を一点に合わせたら知らないうちに紙の山が天井を限界突破しそうになっていた。
ハシゴを使って上から順にプリンターにセットしていく。業務用なのである程度の枚数は入るが、それでも相当な時間がかかる……

 

近江原「気になったんだけど、インクの用意はしてあるのか……?」
音哉「その辺りはご心配なく……フフフッ(古宮先生を見ながら)」
古宮「……はいはい。どーせ俺の仕事なんでしょ。学園の倉庫に大量のインクの備蓄があったからそれをこっそり盗んで持ってきたんだ」
谷城「さっすが~!」
古宮「kou長はその辺りガバガバだから気づかんでしょ……(フラグ)」

 

というわけで、早速スイッチをオンにする。するとものすごい勢いで紙が吸い込まれていき、ものすごい勢いで印刷された解答用紙が出てくる。
皆はそれを回収するのに大忙し。バケツリレーの要領で紙を生徒ごとに仕分けていく。どんなバイトよりもきつい気がする。

 

「はい!そっち!」
「バッカ違うだろ俺の数学はもう来てる!!」
「じゃああっちね!」
「はい!」
「なんかこの人のところに大量の古文が……」
「ああぁ違う!それは全部こっち側に回すやつ!」
「え」
「あぁぁぁぁもう最悪だぁぁぁぁぁぁやだぁぁぁぁぁぁ」
「おい古宮、突っ立ってないであんたも手伝えや!!」
「お、俺!? てか誰だよ俺のこと呼び捨てした奴!!」
「俺だよ、俺!ハッハッハ」
「だから俺って誰だよ!」

 

フルタイム稼働すること30分。……というかこんな量があったのに30分で済んでしまうのか。

 

笹川「ぜぇ……はぁ……ぜぇ……はぁ……」
師音「お、終わった…………」
枝川「とんでもない量だ…………」
古宮「なんで俺までこんなんに付き合わされてんだ……」
音哉「ほら……でも見て! この解答用紙を!! まさに模範解答のようにびっしりと解答が書かれているではありませんか!」
南沢「なんということでしょう」
高砂「なんということでしょう」
古宮「ハモるなw」
涼介「しかし……これだけの量を全員で頑張ったというのは感慨深いものだね」
古閑(今日のみんな、血眼になっててちょっと怖かった)
雪姫「あなたも大概だったんですけどね……」
枝川「これぞ3組の意地だ。高校生たるもの、これくらいの意地は見せなければ」
古宮「いやいや、こんな意地大人でもそう簡単に見せられないから!」
南沢「なんだかんだ先生も頑張ってたじゃないですか」
古宮「マジでこの作業に給料出ないのおかしいだろ……kou長に訴えても良いレベルだ」
森「もうクタクタ……」
Felix「やば、森がもうこの場で寝ちゃいそうなくらいに疲れてるんだが」
音哉「ま、これだけ集中して頑張ったら誰だって死ぬほど疲れるわな……俺も正直限界近づいてる」
南沢「帰りの電車で寝る自信しかない」
雪姫「私、森さんの家は知ってますので、送って行ってあげます」
Felix「そうか、助かる。ぜひ頼む」
音哉(かわいいな)
涼介「……みんなも疲れてるだろうから、今日はさっさと解散しよう」
南沢「そうだな。代金はお昼の時に割り勘したし……よし、もうOKだ」
音哉「それじゃみんな、改めて協力ありがとう! 残りの夏休みは思うがままに過ごしてくれ! 残りの日もいっぱい楽しもう!」

 

こうして現実性の全くなかった宿題完走を思わぬ荒技で全員で突破してしまった3組。恐らく他のクラスの生徒たちは突破できないであろう。むしろこの量を見て最初から諦める生徒がほとんどなのではないか。
これはある意味でkou長との戦いだ。これほどの理不尽を受け止め、それを上回る理不尽で返す。難しいことに間違いはないが、それが成功した時の爽快感は他には代え難い。学生の恐ろしさをあの人に見せつけれてやろうじゃないか。それこそトラウマになるレベルで。

 

今日の帰りの電車、間違いなく寝過ごすんだろうな。
そう思って今日は敢えて座らず立っていたのだが、ついには立ったまま居眠りしてしまった。結局終点に着くまで起きることはできず、帰るのにかなりの時間が掛かってしまった……

 
 

夏祭り

あれからプールに行ったりバーベキューに行ったり、ボウリングに行ったりもしたが、やはり夏で一番趣のあるイベントといえばやはり夏祭りと言えよう。
長い間初段の課題曲として君臨していたが最近リストラされがち。地上波で太鼓を放送する時の出現率は以上なまでに高い。とりあえずこれのおにを叩ける人は世間からは間違いなく「上手い」という部類に入るであろうというほうの夏祭りではなく、ガチで浴衣を着て屋台や花火を楽しむほうの夏休みである。

 

そんな夏祭りの日がついにやってきた。この近辺では一番大きなお祭り。屋台もいっぱい出るし、打ち上げ花火も盛大に行われる。

 

え? 夏期講習はどうなったんだって? そう言えばそんな話もあったなぁ。なんせ3組は全員、出席する義務がなかったものでね。ある日付の時点で夏の宿題を終わらせていない生徒全員が参加するっていう条件だったらしい。
3組全員がストライキしたかのように来なかったから、流石のkou長も動揺を隠しきれないようだった。
夏期講習って何したんだろうね。想像するだけで鳥肌が立つね。

 

……それはさておき。
今日来られるメンバーは俺(音哉)、涼介、雪姫、森、南沢、谷城、笹川、Felixだったはず。まだ日が暮れる前、それが夕焼け色を描き始める頃に待ち合わせた。
とてもワクワクしていたため、集合時間から30分も早く着いてしまったのだが——

 

音哉「!?」

 

もう3人も集まっている。なんで!?

 

涼介「よっ」
谷城「おぉっ、音哉くんも来た!」

 

……俺、集合時間間違えたとか……じゃないよな?!

 

音哉「俺、もしかして遅刻……?」
谷城「違う違ーう!笑 私らが早く来すぎただけ! もう待ちきれなくってさ」
涼介「僕も同じ感じかな。別になんの心配もいらない」
音哉「そうか、それなら良かった……。いや、それにしても涼介がそういうタイプだとは思わなかったな」
涼介「まあ、今日は何もすることがなくて暇だったからね」
音哉「それもそうか、俺もそんな感じだったし」
谷城「ねぇねぇー! この浴衣どう思う?」
音哉「めっちゃ綺麗! 谷城は前から浴衣絶対合うと思ってたんだよな」
谷城「これね、今回のために新しく買っちゃったんだ」
音哉「気合い入ってるなぁ~」
涼介「浴衣は夏祭りの醍醐味の一つだよな」
音哉「俺ももっとちゃんとしたやつ着てくればよかった」
谷城「音哉くんのそれもクールな感じでかっこいいと思うよ?」
音哉「そうか? ……結構渋めな雰囲気だと思うんだが……」
谷城「音哉くんは元の性格が明るすぎるからそれくらいでいいんだよ」
音哉「なにその模範解答みたいな褒め方。……こりゃやられたな」
涼介「でもお世辞じゃない。本当にキマってると思う」
音哉「涼介まで……ありがとな。涼介のもいいじゃんか」
涼介「そう言ってくれると嬉しいよ」

 

谷城「あ! 屋台の準備も結構進んできたね」
音哉「夏祭りってまだ始まってないのか?」
谷城「うん。集合時間ぴったりに始まる予定」
音哉「なるほど」

 

周りを見渡せば、着々と屋台の準備が進むのと同時に、賑やかさが増してくる。
ワクワクが止まらねぇ!

 

そんな事を思っているうち、雪姫とFelixがほぼ同時にやってきた。

 

雪姫「あれ、皆さんもう来て……?」
Felix「早いな」
音哉「……流石だ、俺とは違うんだわ」
2人「……????」

 

これだけ早く集まる人が多いのに、遅れたとか考えないあたり、スケジュールにはよほど自信があるんだなと……

 

谷城「うわ! ゆきちゃんの浴衣めっちゃ可愛い~!」
雪姫「あ、ありがとう……//」
音哉「うん、めっちゃ可愛い。なんか、すごい凛としていて綺麗っていうかさ」
Felix「見返り美人とかやったら確実に映えると思う」
谷城「ちょっとやってみてよ」
雪姫「……!?」
音哉「見たい」
Felix「是非とも」
雪姫「!?!?」

 

雪姫「……は、はい……」

 

クルッ

 

雪姫は背を向けると、そこから顔だけをくるっと返して——

 

チラッ

 

雪姫「こ、これでいいです……?」

 

谷城「キャーーーーーーーーーー(パシャ)」
雪姫「え゛っちょっと写真撮るんです!?」
谷城「キャーーーーーーーーーー!!かぁゎぁいーーーー!!」
涼介「これぞまさに美人」
Felix「彼女の真の魅力がここにある」
音哉「原作を越える二次創作がここに……」
雪姫「二次創作ってなんですか二次創作って!!」
谷城「最高!!」

 

あとでクラスのグループに貼られるんだろうなぁ……

 

さらに集合時間が近づくと、メンバーが全員揃っていた。
時間に厳しいFelixやしっかり者の雪姫がいるから、誰も遅刻者がいなくて本当によかったと思う。

 

笹川「なのだー! のだー!」
涼介「僕は野田じゃないんですが」
笹川「旦那様!」
涼介「旦那でもないんですが」
南沢「よーーぅ」
音哉「よう! ……そうか、南沢は浴衣着てこなかったか」
南沢「げっ、なんで浴衣着てないの俺だけなんだ」
音哉「い、いやまぁ俺が言ってなかったのが悪いから気にしないでくれ……」
南沢「なんか申し訳ねぇ……みんな着てるのn……ってあれ、ゆk……いや、何でもない」
音哉「……?」
南沢「今日のメンバーって7人だと思ってたんだが」
音哉「最後の最後で雪姫が行くって言ってくれてさ、飛び入り参加してきたわけ」
南沢「お、おぉ、おう…………(まじかよ)」
音哉「その割にはめっちゃ綺麗な浴衣持ってるよな。流石っていうかさ」
森「音哉……くん、?」
音哉「おう、森も浴衣綺麗じゃないk…………!!?!?!?」
森「…………?」

 

森の浴衣姿はこの場に来た時から目に入っていた。しかし改めてその姿を見てみると……やばい。可愛すぎる。

 

音哉「か、かわ……」
森「かわ……??」
音哉「めっちゃ綺麗……」
森「綺麗だね…………って、え、私……!?//」
音哉「…………あっ、あ、あれ!? 俺ちょっとすげぇ事言っちゃった気がするわ!? ま、そんな気にしないで……」
森「う、うん…………//」

 

谷城(この2人、どんだけ分かりやすいんだろう……)
Felix(今日で2人の距離は急接近だろうな)

 

胸のときめき。フィクションで聞いたことがあっても、実際に体験するのとは訳が違う。胸の内が俺を不意に強く叩きつけるかのような不思議な感覚。止めたくても止められない。

 

音哉(俺……もうちょっと冷静になれ)

 

音哉「と、とりあえず全員揃ったみたいだから早速行くか! 楽しみだな、あははは……」
南沢(あははは、じゃあないんだよ)

 
 

……こうして夏祭りはスタートした。通路にずらっと並んだ屋台は次々に開店する。お客を呼び寄せるための店員さんの掛け声があちらこちらから飛び交う。ワイワイしてるなぁ。
さらに奥側からは太鼓の音や和楽器の音が聞こえてきた。メロディがジングルベルっぽい気がするのは気のせいだ……うん、きっと気のせいだ

 
 
 
 

 

リン「それにしても、なんでリン達がここに来ないといけないのさー」
ノヴァ「逆に私達は何をする為にこの学園通ってるのよ! 調査のためでしょう? だとしたら、こんな大規模な夏祭りは調査しないわけにはいかないわ」
リン「だからって、リン達まで浴衣着る必要あったの…?」
ノヴァ「カモフラージュのためよ。この人混みを普段着でうろうろしていたらどう考えても目立つの」
リン「そ、そうなんだ」

 

この学園の調査のために送り込まれたスパイの2人。今日もまた、新たな情報がないか周辺の散策を始める。

 

リン「でもさ、この夏祭りには学園は関わってないわけでしょ?」
ノヴァ「表向きはね……あの人のことだから、実際がどうなのかは分からない」
リン「でもさノヴァ、リンはお腹が空いちゃったんだけど」
ノヴァ「しょうがないわね……そこに売ってる焼きそばでも買う?」
リン「うん、買う!」

 

……お腹が空いたリンの提案で、まずは焼きそばを買うことにした。

 

ノヴァ「焼きそば2つお願いします」
おじさん「はいよ。1000円だ。……はい、ちょうど頂いたよ。どうぞ」
ノヴァ「ありがとうございます」
おじさん「それにしてもお二人さんは可愛いね。姉妹かい?」
ノヴァ「いえ、姉妹というわけでは……」
リン「姉妹だよ」
ノヴァ「え゛」
リン「リンが妹で、こっちのノヴァがお姉さん!」
おじさん「おぉぉ、どうりで顔がそっくりさんなわけだ。仲も良さそうだね~いいね~ぇ」
ノヴァ「えぇ…………」
リン「えへへへ~」

 

ノヴァ(ちょっと! 余計な事言わないでいいから!)
リン(カモフラージュ、カモフラージュ♪)
ノヴァ(やっていい事と悪い事があるでしょ!!)

 

顔をほんのり赤く染めたノヴァと無邪気に焼きそばを食べるリン。その様子は側から見ればまるで本当の姉妹のように微笑ましい。

 

 

ノヴァ「あまり調査の邪魔になることはしないの!カモフラージュはいいけど、違いを弁えてくれないと……」
リン「リンはカモフラージュの一環としてやっただけだもんー別に無駄じゃないもんー、っていうかノヴァがそういう反応すると逆に疑われちゃうから、もっと本物の姉妹らしく、リンに合わせてよね?」
ノヴァ「アンタねぇ……」

 
 
 

 

さて、どうしたものか。
まさに青春の1ページと言えようこんな機会には、やはり高校生男子としては何かかっこいい所を見せたいものだ。
お祭りでできるかっこいい事、まぁベタなので言えば例えば射的とか、金魚掬いとか。——幸い今日は枝川がいないので、FPS民特有のガチエイムを披露されることはない。こんな機会、今後いつあるか分かったもんじゃない。千載一遇のチャンスと言わずして他にどんな形容が出来よう。ターゲットはここで仕留める。(色々な意味で)仕留めなくてはならない。俺の青春の運命はここに懸かっているのだ。

 

——ならば。

 

音哉「そうだな、とりあえず射的とかやってみたら楽しいんじゃないか?」
Felix「なるほど」
雪姫「いいですね」
谷城「なるほど?(色々な意味で)」
南沢「お、丁度射的やってる屋台があるじゃん」

 

音哉(なんと。幸運なことに目の前に射的があるではないか。フッフッフッ、しょうがないな……今こそ1週間かけて俺が練習してきたカッコイイ射的の実力を披露する時が来たというわけだ! ここでしっかり成功させて、そしてその景品をカッコよく森に渡せば————よし、行ける! 絶対行けるぞ。さあかかってこい。俺の射的場————)

 

kou長「いらっしゃい」

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

どうも、私立次郎勢学園校長の鴻海幸一郎です。本日は私もお祭りを楽しみたいと思いましてね、ええ————このような会場にお邪魔してしまったわけなのです。というよりかは、実はこのお祭りは私が主催しているようなものなんですがね。
まぁなんですか、普通にお客さんとして楽しむのもアレなんでね、せっかくなんでちょっと運営側から遊んでみようかというわけです。
一応変装してます。クオリティは知らんけど。

 

kou長「ほら、いらっしゃいって言ってるだろう」
音哉「いや……」
kou長「ん、何か変なことでもあったのかい」
音哉「いや、なんでここに校長先生が……」
kou長「ん?校長先生?何のことを言っているんだ。私はただのおじさんだが」
音哉「そ、そんなわけないでしょう!!」
kou長「どこからどう見ても私はただのおじさんです。校長なんかじゃない」
音哉「いや、今そういうおふざけはマジで困るんで」
kou長「おふざけじゃない。私は本気で言っているんだよ」
音哉「もう一度聞きます。あなたはkou長ですよね」
kou長「私はただのおじさんです。そんなに詮索するもんじゃないぞ。校歌にもそう書いてある」
音哉「古事記に書かれているノリで校歌にも書かないでください」
kou長「私が書き換えれば別n…………ご、ごっほんw これから校歌が変わらないだなんて一概に否定できないだろう?」
音哉「もういい加減にしてください!!それで誤魔化せてるつもりなんですか」
kou長「それで正体見破ったつもりなんですか」
音哉「もう正体って言ってるじゃないですか!!」
kou長「私の正体はただのおじさんです」
音哉「kou長!!」
kou長「それに……あまりここで騒ぎすぎてもあの子への印象はよくならないぞ(ボソッ)」

 

音哉(こ……こいつ……本質を突いてきやがる……)

 

kou長「それで、射的——やるのかい、やらないのかい、どっちなんだい!(某筋肉芸人風)」
音哉「……ここで引き下がれるわけがないでしょう」
kou長「おっと、やる気だねぇ」
音哉「……何があろうと容赦はしませんよ」

 

ここで音哉、何が起こるか全く予想がつかないkou長お手製の射撃への挑戦を決める。間違いなく理不尽な仕掛けがある。うん間違いない。……だが、俺にはそのkou長の理不尽を破って大暴れしてきた実績があるのだ。これは負け試合なんかじゃない。あまり楽観的にいると足をすくわれるぞ、我らがボス様よ。

 

kou長「はいこれ」
音哉「うん、見た目は至って普通の銃だ」
kou長「そりゃそうだろう、だって普通の銃なんだから」
音哉「さぁどうだか」

 

森(音哉くん、すごい本気になってる……)
谷城(目がガチだよ……獲物を仕留めるみたいなガチな目)

 

さて、目の前には様々な景品がある。お菓子の箱であったり、有名なキャラのミニフィギュアらしきものも。正直どれでもいいんだが、ここはせっかくなので……ね?

 

音哉「何か欲しいものはあるか」
森「……」
雪姫「……」
涼介「……」
南沢「え、誰も欲しいもんないの?だったらあのジロレンジャー特殊変身ミニカプセルフィギュアのドングエディs……」
音哉「そういう事じゃねえよ!!!!!!」
南沢「は」
音哉「空気読めよ!!!!!!!」
南沢「だって誰も欲しいもの挙げないからなんか気まずい空気だと思って」

 

アホー! いやそこは森の欲しいと思っているものを一発でバチコーン!って取って渡すイケメンムーブをかますところなんだよ! てか森もぼーっとしてないでなんか反応してくれ頼むから! お前が反応してくれないと全てがおしまいなんだ助けてくれ

 

南沢「そんで? 森は何か欲しいものとか無いのか?」
音哉「おいセリフ横取りするなよ」
森「うーん……ど、どうしようかな……」

 

とはいえ、森は本気で迷っているようだ。これはアレだな、特に欲しいものが無いがために何と言ったらいいか困っているパターンだな。目の前にあるラインナップを見て俺も正直めぼしい物はないと思った。俺としても困るがそれは仕方ない。よし、ここは俺が責任を取って——

 

音哉「うーん、そうだよな、屋台は他にもいっぱいあるからそっちも気になるよな……先にそっちを——」
森「じゃ、じゃ……あのジロレンジャー特殊変身ミニカプセルフィギュアが欲しいかな……」
音哉「ブフォ」
Felix「音哉!?」
音哉「お、お前もかいな!!!」
森「……え、私何か変な事言った……?」
音哉「え、でも…え、そうなの?本当にあれが欲しいのか……?え……?」

 

ジロレンジャー特殊変身ミニカプセルフィギュアのドングエディションは基本的によくある戦隊モノのヒーローに次郎っぽい武器を持たせた男子に人気のフィギュアである。いや本当に森がこういうの好きだっていうならそれは良いと思うんだけどさ、正直びっくりしたわ

 

森「いや、そっちじゃなくて、あっちの…………」

 

森は反対端の別のフィギュアを指差した。

 

音哉「あっそっちかー! カングエディションかーーーーー!!!!そうかそうかそうか~」

 

なるほど、カングエディションは動物をモチーフにしたデフォルメのケモノキャラを集めたコレクションだ。これなら森が好きなのも頷ける。っていうかこれどこに次郎要素があるのか分からんが。

 

森「(ドキドキワクワク)」
音哉「(子供みたいでかわいい)」

 

それではこのフィギュアを仕留めて見せよう。ここは一発で決めたい。何度も外してしまっては、男としてのプライドが……!

 

スチャッ

 

狙いを定めて……
いくぞ……

 

音哉「ここだぁ!」
パーン!!

 

音哉「どうだ!やったか?」

 

kou長「全然当たってない」
音哉「え゛」
kou長「5センチくらいずれてた。もう少しで隣の景品に当たるところだったねぇ」
南沢「おいおい」
音哉「待て!待て。うるせぇうるせぇ。今のはちょっと手元が狂っただけ。次こそドンピシャだから待ってろ」

 

俺はこんなに外すわけがない。俺は入学した時から何度かサバゲー部に行って射撃の練習をしていた。だからある程度は出来るはずなんだ。少なくともこんなに外すわけがない……!

 

スチャッ

 

狙いを定めて……
いくぞ……

 

音哉「ここだぁ!」
パーン!!

 

音哉「どうだ!やったか?」

 

kou長「全然当たってない」
音哉「え゛」

 

kou長「さっきよりマシだけど全然当たってないじゃないか~」
音哉「おじs……kou長、やっぱりイカサマだろう!!」
kou長「だから私はただのおじさんなんだよ!」
音哉「そんなはずない!!」
kou長「だってBOF2011の優勝曲とか知らないし……」
音哉「それ、知ってるって言うんですよ!!」
Felix「おいおい、大人気ないぞ。出来ないからって人のせいにするのは良くないだろう」
音哉「だ……だってこの人どう考えてもkou長……」
笹川「おいおい」
音哉「笹川!?」
笹川「大人気ないのだ」
音哉「えぇ……」

 

とにかくこのままじゃ終われない。イカサマとかそんな細かいことはどうでもいい。イカサマでも何でも、結局こちらが当てればそれで勝ちなのだ。

 

音哉「今に見てろ……」

 
 

スチャッ

 

狙いを定めて……
いくぞ……

 

音哉「ここだぁ!」
パーン!!

 

音哉「どうだ!やったか?」

 

kou長「お!当たって落ちた!」
音哉「おぉぉぉ!!ほら行けるだろ~!ほらなほらな?!」
kou長「隣の景品に当たって落ちた」
音哉「え゛」

 

kou長「……おめでとう。これが景品です」
音哉「俺が当てたいのはこれじゃないんですけど!!」
kou長「そんなにキレられても、当てたのはキミなんだからさ……」
音哉「そ、そりゃそうだけど……」
kou長「どうだい?まだやるのかい?」
音哉「……やる」
森「…………」
Felix「これが執念ってやつか」

 

結局このあとなん度も挑戦して何度も失敗した。確か10回外したと思う。そして11回目、ついに……

 

パン!!カコーン!!

 

音哉「おおおおおおおお!!」
kou長「おめでとう~~~!!当たりです!!」
音哉「よ……よかった……」
kou長「かなり回数かかってたみたいだけど」
音哉「普通のおじさんはそんな酷い煽り方しませんよね」
kou長「細かいことは気にしない!」
音哉「とにかく、本気を出せばイカサマだろうと何だろうと関係ないってわけだ。ほら、分かりましたか校長先生!」
kou長「だから校長ではないしイカサマもしていない!」
音哉「もう言い訳無用です!これ以上誤魔化すなんて白々しいですよ!!
kou長「あーーーーーーはいはい分かりました!! こんな変装じゃおじさんのフリなんて出来ないですねごめんなさいね変装が下手で!!そうですよ私は校長ですよ間違いなくkou長ですよ!!」
南沢(逆ギレしてるし……)
雪姫(ちょっと可愛い)
音哉「ほらそうじゃないですか!!やっぱりそうだ!!」
Felix(どう見てもバレバレの変装を暴いただけでこんなにはしゃがれると逆に音哉が子供っぽく見えてしまうが)

 

この調子でイカサマの件についても暴いてやる……!

 

音哉「そして!! イカサマの件ももう隠しても無駄ですよ!!」
kou長「えっ」
音哉「まさかまだ隠してるつもりですか!」
kou長「え、イカサマは本当にやってないんだけど……」

 

そんなわけがない!!

 

森「あ、あの……音哉くん……」
谷城「音哉くーん?」

 

音哉「ゼェ……ゼェ……しぶとい……なぜそこまで嘘にこだわる……さっさと……白状しな!!」
kou長「あ、あの……笛口君?」
音哉「さっさと……ほらまだですか!!」

 

南沢「これ多分本当にイカサマしてないパターンだと思うんだが……」
涼介「同感」

 

音哉は完全に我を忘れてしまっている。森にいいところを見せたいという気持ちもあってか、射的が上手くいかなかった事がそこまでショックだったというのか。

 

笹川「これはもう手遅れなのだ……」
谷城「ほらもう、アイちゃんまで言ってるよ……」
南沢「もう手がつけられない」
森「そんな…………音哉くん…………!」

 

kou長「もう勘弁してくれよ!そもそも笛口君はどうして私がイカサマをしたと思っているんだ」

 
 

音哉「そりゃ、俺が射撃をあんなに外すわけないからですよ!!!!!!!!!」

 
 
 
 

kou長「ええっ」

 
 

kou長、ここで理解する。

 

まさかその理由を率直に話してしまうとは。
……間違いない。今の彼は後先考えずショックと怒りに任せて、自身の失敗を私の所為にしようとしている。なんて事だ。
笛口君以外はちゃんと分かっているようだったが、今回私はイカサマをしにここに来たわけじゃない。単にお店をやりたかっただけである。さっきの射撃の結果は間違いなく笛口君の実力そのものである。
だからいくら問い詰められようと、私はタネも仕掛けも持っていない。
……ある意味オオカミ少年みたいなものか。仕方ない。私は今まで訳の分からんことをたくさんしていたから、何か裏があると勘ぐってしまうのは分からなくもない。
それもこの射撃を始めた理由が「一緒にいる森さんに良いところを見せたい」なんて事なんだろうし、そう思うと腹が立ってくる。
リア充の誕生に加担させられるなんてのはまっぴらごめん————

 
 
 
 

kou長「いや」

 
 
 
 

待て。
どうして私は無意識にリア充を遠ざけようとしている?
そもそもなぜ、私はそこまでリア充を嫌っている?
……理由はある。
……理由はあるが、こんな私情を持ち込んでいていいのか。
考え直してみろ。
私が学生時代に夢見ていた青春を謳歌できなかった理由……それは一生忘れる事のない事情。思い出すだけで恨みと憎しみが沸る。
しかし今だけは……今だけはしの恨みと憎しみを心の奥にしまって。
少しだけ、思った。私が出来なかったのなら、せめて彼らに————

 
 

kou長「分かった、私が悪かった」
音哉「!!」
Felix「!?」
谷城「えぇっ!」
森「嘘……!」

 

kou長「…………認めるよ。私はイカサマをした。君がなかなか的に当てられないように、妨害をしていた」

 

音哉「……フフッ、やっぱりそうだったんですね……」

 

南沢「えっ……でも……」
kou長「細かい話はどうでもいいではないか。私の負けだ。大人がこんな本気になって生徒を騙そうだなんて、本当に馬鹿らしいだろう……いいさ、いくらでも嘲笑うがいい」
Felix「…………」
森「え…………そんな、本当にイカサマしてたなんて……」
音哉「……勝った。……勝った!!」
谷城「音哉くんが正しかったって事!?」
森「そ、そういう事になるんじゃ……ないかな……」
Felix「…………」
笹川「と、とんでもない戦いを見てしまったのだ!!」
涼介「そんな……」
kou長「お詫びにもう一つ景品をタダでやるから許してくれないか」
音哉「えぇ」
kou長「わ……わかった! 後でもっと良い景品を用意する! とにかく今ここで騒がれすぎると夏祭り自体が荒れちゃうから今日はこの辺で許してくれ……ほら、周りに人だかりが出来てるし!」
音哉「全部kou長のせいですけどね」
kou長「うぐっ」
音哉「しょうがないですね……明日校長室に向かいますからね、覚悟の準備をしておいてください!」
kou長「えぇ……」
谷城「音哉くん、とにかく今はもうやめといた方がいいって!」
音哉「……そうだな、それもそうだ」
森「お……音哉くん……あっちに行こ……」

 

音哉が森に引っ張られながら向こう側に消えていった……
それを追う形で谷城、南沢、雪姫らも向こう側へ……

 
 
 
 
 
 
 

kou長「はぁ、まさかこんな事になるとは」

 

Felix「あの、校長先生」
kou長「なんだい」
Felix「嘘、なんですよね」
kou長「!! まさか……分かっていたのか」
Felix「分かります。最初は私も疑っていましたが、途中から騙そうという気はないと確信しました」
kou長「……そうか。流石の観察力だ」
Felix「なぜあそこで嘘をついたんです? 非難を浴びるのは校長先生になるというのに。何かメリットがある訳でもないでしょう」
kou長「そうだね、確かにメリットはない……まあ、強いていうなら、笛口君たちの青春謳歌をちょっとだけ手伝えた、っていう事くらいだろうか」
Felix「……! 先生、まさか、それだけのために……」
kou長「私の心の中で色々と葛藤があったんだ」
Felix「……そうなんですね。いつかその話、聞いてみたいものです」
kou長「……機会があればな。今は彼らの事を気にするべきだ」
Felix「はい」

 
 

 
 

リン「なんもないね」
ノヴァ「そうね……」
リン「本当にただのお祭りじゃん」
ノヴァ「そ、そうね……」
リン「調査する意味あるの?」
ノヴァ「あ、あるわよ! きっと何かあるはずなんだから」
リン「そう信じながら2時間ほど歩き続けた夏祭り会場」
ノヴァ「…………」
リン「何か見つかったんだっけ?」
ノヴァ「な、何も……」
リン「ふっふん」
ノヴァ「ふっふんって何よ! 何も見つからなかったっていうのも立派な調査結果でしょう!」
リン「まぁそうだけどさぁ……あの人は気まぐれなんだから本当に何も企んでない事だってあると思うんだよね? だって今回は明らかに今までと違うもん。一般の人だってたっくさんいるんだよ? こんなところで怪しい動きなんてしたら注目されないわけがないもん……」
ノヴァ「やばい、リンの饒舌モードが始まっちゃっちゃう」

 

リンは普段こそ幼い妹系キャラだが、ここぞという場面では恐ろしいほどに賢く、そして勘が鋭くなる。その瞬間、いつもは世話する側のノヴァと立場が逆転してしまう。

 

リン「それに、リン見つけちゃったんだよね」
ノヴァ「えっ?」
リン「校長」
ノヴァ「はぁ!? こうちょ……えっ、あなた本当なの?」
リン「普通にいたよ。本人は変装してる様子だったけど」
ノヴァ「あなた、それを先に言いなさいよ……」
リン「でもね、あれを見てる様子だとね、純粋にお祭りを楽しんでるようにしか思えない……だってあの目はそうだよ、まるで少年みたいにさ、心の底から夏祭りが大好きで、それをみんなと分かち合いたい、そんな感じに見えたの」
ノヴァ「あなた随分と大人みたいな事言うのね……」
リン「だから今日は本当に何もないよ。リンは分かる」

 
 
 
 
 
 

音哉「……なんか、ごめん」
森「う、うん……」
音哉「ま、まさかあんな事になるとは思ってなかった」
森「音哉くんは……別に悪くないから」
南沢「そうだよ音哉。むしろかっこよかったぞ」
音哉「そ、そうか……?」
Felix「ああ」

 

確かに音哉に非が無いのは確かだが、kou長が色々と事を運んだせいで変な雰囲気になってしまった。やはりあの人は学生の敵である。

 

南沢「それで、次はどこへ行くよ」
谷城「一旦休憩しない? 音哉くん今のすっかり疲れてそうだし」
雪姫「この辺りは食べ物の屋台が多いですね。丁度いいと思います」
笹川「お腹空いてきたのだ」
南沢「せやな~」

 

食べ物の屋台が多く並ぶ通りを抜けると、ちょっとした広場がある。その縁のちょっとした石垣が座れるようになっていて、家族や友達と一緒に座って休憩している子どもがたくさん。幸いな事にそれなりに空きがあるから、休憩にはぴったりの場所だろう。

 

音哉「みんな先に座っててくれ。みんなの分まとめて買ってくる。何がいい?」
涼介「僕も手伝うよ」
笹川「りんごあめを食べるのだ~♪」
南沢「りんごあめなんてあったか?」
笹川「ほら、あそこに」
Felix「あれはどう見てもヨーヨーだろう」
南沢「でもあのヨーヨー、美味しそうに食ってるやついるぞ?あそこ見てみろ」
雪姫「あっ本当ですね……」
音哉「マジやん……」
Felix「えぇ……」
笹川「あっ割れたのだ」
涼介「そりゃあかじったら割れるだろうね」
南沢「中からはまた別のヨーヨーが出てきました」
Felix「えぇ……」
雪姫「あの子、また食べる気……?」
森「あっまた割れちゃう……」
涼介「そりゃあかじったら割れるだろうね」
南沢「中からはまた別のヨーヨーが出てきました」
Felix「えぇ……」

 

よく見たらあの子の隣の屋台、たべるマトリョシカヨーヨーって書いてある。何が楽しいねん。

 

笹川「じゃあその隣の焼きとうもろこしを食べるのだ!」
南沢「いいんじゃないかな」
Felix(腹の足しになるのか……?)
涼介「わかった。焼きとうもろこしだな」
音哉「他のみんなはどう?」
雪姫「せっかくですから、皆さんで同じものが食べたいですね」
森「じゃあ私も……とうもろこしで」
谷城「私も!」
音哉「みんな焼きとうもろこしでいいか? OKわかった、買ってくる」