小説/6話「入部」

Last-modified: 2020-08-10 (月) 11:50:04

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6話「入部」

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著:てつだいん 添削:学園メンバー

 学園生活が始まって早くも5日目。非常に気持ちのいい目覚め。きっとここ数日の疲労のせいで相対的にそう感じるのだろう。今日もいつも通り朝飯を食って、bag持って、涼介と一緒に学園へ向かう。今日は待ちに待ったあの日だ。

 

そう、部活への入部の日である。

 

 やはり学校生活というのは部活があってこそである!これでついに学校らしい生活ができるというわけだ!先輩や後輩ももっとたくさんできるかもしれない。友達も増えるんじゃないか?あわよくばガールフレンドも……おっと。
 それはそうと、涼介はどんな部活に入る予定なのだろうか。できれば一緒の部活が良いな……
「なあ涼介、涼介はどんな部活入るんだ?」
「僕は……部活には入らない」
「んぬぉ!?」
 一番予想外の答えだったのでびっくりした。まさか部活に入らないという選択肢があるとは考えてもいなかった。これは困ったな…
「は、入らないのか……?」
「うん、入らない」
 俺は驚きのあまり、次の言葉が思いつかなかった。まず部活に入るのが当たり前という常識がおかしいのかもしれない。あまりの動揺に体が動かなかった。気づいたらものすごい驚き顔で涼介の顔をずっと見つめていた。そしたら涼介は続いて話しかけてきた。
「部活に入らない理由、ね…… 良くいえば助っ人として何にでも入れるかな」
「えっ」
 俺は涼介の言葉を聞いてやっと正気を取り戻した。なるほど、助っ人ねぇ…… なんというか、涼介らしい理由だな。

 

 さて、学校に到着。そしていつもの古宮先生+αの授業を終え、放課後に突入!!
 涼介が部活に入らないとなると、俺は完全に自分で部活を決めなければならない。涼介の意見を参考にしてから決めようと思っていた俺は少し困っていた……
「はぁ……」
 今日の最後の授業を終えると、古宮先生が言った。
「さて、今日は待ちに待った入部の日だな! 皆も、これが楽しみで仕方なかったんじゃないか?」
周りから話し声が聞こえ始める。ざわざわ…… 近くの席の生徒同士で、どこの部活に入ろうかという話題で盛り上がり始めた。
「ちょっと!一回静まれ」
…………。
「入部といっても、どこにどんな部活があるかというのはあまり知らないだろう?」
「まあ、そうですね」
 生徒たちとの対話が続く。
「まあそれも仕方ないな。この学校は国に知られないレベルで外部に情報を漏らしていないのだからな」
「俺は、部活に入っている高2の先輩からいろいろ情報を聞きました」
そう言ったのは……クラスメートの一人、つい昨日の委員決めで風紀委員に決まった枝川 浩行(えだかわ ひろゆき)だ。
「まじか……! あいつ、もう先輩を作ったのかよ」
「さすがだな……」
 周りからざわざわと声がするようになった。な、なんだよ先輩ができたくらいで!俺は初日に作ったぞ!
「お、おおおお俺だって先p……」
「おい、静まれってんだよ」
 おれの主張は古宮先生の声にかき消された。
「まずは今ある部活を紹介しなければな」

 

古宮先生は、黒板に部活名をひとつひとつ書き始めた。
・サバゲー部
・帰宅部
・美術部
・漫画部
・吹奏楽部
・家庭科部
・クイズ研究部
・軽音楽部
・PC部
・写真部
・天文部
・次郎部
・帰宅部
(・サッカー同好会)

 

 見たところ、かなり文化部が多いようだ。やはり変わった学園だな。(n回目)
「よーし、今あるのはこれだけだ」
辺りはまたざわざわし始める。
「だが、生徒の要望が複数あれば、新しい部を作ることも可能だ」
「先生、質問です」
「おっ、何だ?近江原(おうみはら)」
「兼部ってできるんですか?」
「兼部……? あー、それは俺も聞いてなかったな……
今から聞いてくるぞ」ヒューーーーーーン
 古宮先生はとんでもないスピードで教室を出ていった。数十秒でヒューーーーーーンと戻ってきた。
「「「早っ」」」
「校長に聞いてきたら、兼部はありだそうだ」
「おおおぉぉぉ!」
「兼部ありなんだ!」
 なんだと!?兼部できるのか!これは面白いことになってきたぞ…… 複数の部活に入れば、それだけ他の生徒とのつながりも増えるということ。大変かもしれないけど、いいなぁ……
「えーと、話を戻すぞ。ここに部活を全部書いてみたわけだが、これを見ただけじゃイマイチピンとこないよな。そこで、今日は全部活、見学OKということになっている! 自分の気になる部活の場所に見学に行き、先輩たちの活動の様子を見に行くといい。それから入部を決めたら良いと思うぞ」
 なるほど、しっかりと見学してから入部できるのか。まあ当たり前と言っちゃあ当たり前なんだろうけども。
「あまり長話しててもあれだしな。よし!部活動の入部申込みはこの紙を使うんだ。俺の机においておくから勝手に取ってってくれ。それじゃあ見学と入部はじめー」
 生徒たちは立ち上がって、近くの人と話し始めた。
「ねえねえ一緒に見学に行かない?」
「俺サバゲー部気になるな!」
「俺もついて行っていいかー」
 生徒たちは次々に相談を始める。俺は孤立!!どうすればいいんだ!!
「やっぱり涼介がいないと不安だなー」
 小声でそう言ったつもりだったが、隣の涼介の耳にはっきり届いていたようで、
「おいおい、部活選びくらい一人でも大丈夫だろ」
「ええええええ!? だって先輩しかいないような場所に一人で飛び込むんだぜ??」
「それくらいなんてことないさ」
「え、嘘……」
 おい、俺。どうした。そんな陰キャみたいな会話して。その通りだ。先輩がたくさんいるからナンだってんだ。普通に振る舞えばいいだけじゃないか。
「あ、ああ、分かった。俺は一人で見学に行ってくるよ」
「いってらっしゃい」
 流れに流されて、とりあえず教室を出た。でも、どの部活に見学に行こうかなんて考えていない。この中で一際目立つ部活……といえば、やはりサバゲー部だろうか? こんな部活、今まで聞いたこともない。サバゲーはあまりやらないタイプだが、気になるので見学に行ってみることにした。

 

そ、それでなんだが…なんだこの活動場所は!?
地図を見る限り、地下にあるポータルの先が活動場所らしいが……!?
他の生徒もかなり戸惑っているようだが……
「いろいろな意味で大変そうな部だな……」
大丈夫だ。この学校はすべてが狂っている。部活の活動場所が地下のポータルの先だなんてこと、そこまで驚かない。これくらいの衝撃はもう慣れている。
さあ、行こう!

 

~地下室 サバゲー部室ポータル前~

 

地下室は鉄のドアで固く閉められており、男子高校生が一人で開けようとするとそこそこの力が必要になる。サバゲー程度でなにもここまで設備を整えなくてもいいのに……
そう、このときの僕はそう思っていた。
ガチャッ
目の前には、本当にポータルがあった。ゲーセンに繋がるポータルとかなり似ている。
生徒たちも数分ためらっていたが、ポータルの中から顧問らしき人物が出てきた。
「いらっしゃい!この先がサバゲー部だ」
この人……どこかで見たことがある……
そうだ、学校の清掃をしてくれている、用務員さんだ。直接話をしたことはなかったが、廊下を歩いているとたまに見かける。見た目は40代前半くらいの男の人。とても優しそうである。
でも、まさかこの人がサバゲー部の顧問だったとは!?

用務員さん(本名不明) とてもやさしい。誰でも気軽に話せるが、たまに仕事に集中しすぎることがある(声をかけても気づかない)。仕事はあまり多くはない 外をふらついてることが多い……
用務員...だが、割と何でもできる。(警備、運転、試験監督など)

「え……入って良いんですよね」
「もちろん。きっと驚くだろうよ」
俺は少し怖い気持ちもしたが、勇気を振り絞ってポータルの中へ一番乗りで入っていった。

 

そこは、いつもとは違う雰囲気の……なんだか射撃場のような重々しい雰囲気が漂っている。少し薄暗い。火薬の匂いが辺りに漂っているぞ……
「こ、これはどういうことですか!?」
「ここがサバゲー部の活動場所だ。手短に話すと、ここでは実際に銃を撃って演習を行うことができるんだ」
 じ、実銃!?!?
こ、これは犯罪では……!?
この部活、なにやら危険な匂いがする……
「お、俺ちょっと帰りますわ……」
「ちょっと待った。実銃って言ったって、人が死んだりはしないのさ。しかも犯罪じゃない。ここは日本国外だからな、実銃の使用も認められているんだぜ」
 それは更に驚きだ……周りの生徒も驚きで声が出ない。
「えっ、人が死なない実銃ってどういうことですか!?」
「この学園内だけの秘密の技術を利用して、弾が当たってもほとんど痛くなくなる仕様にしてある」
どんな技術なのか知らないが、そんなこと言われたって信用できない。
「なんなら、今俺がやってみせようか」
顧問の用務員さんは隣にある倉庫から実銃を取り出した。
「「「うわぁ!?」」」
 本物だ…… これは本当に人を殺せる銃だ…… 用務員さんはその銃口を自分の胸に向けて、引き金を引いた。

 

バキューン!!!!!

 

!!!???
ものすごい音で目を閉じてしまったが、おそるおそるその目を開けてみると、そこには無傷の用務員さんが確かに立っていた。
「ほーらな? だから本当に安全な銃なんだ」
「す…… すげぇぇぇぇぇぇ!!」
「万が一致命傷になったり、死んだりしても……リスポーンする」
「生き返るだとぉ!?」
「それでもな、弾を撃った時の反動は本物と同じなんだ。だから実際に殺し合いをしているかのような感覚が味わえる」
つまり、そういうことだった。サバゲー部というのは、"リアルな"サバゲーをする部だったのだ。ポータルを使ってまで別の場所に活動場所を移し、頑丈なドアまで設置している理由が分かった気がする。
「さあ、サバゲー部に入らないか? こんなにリアルな戦闘が味わえるんだ」
……だが、安全とは言え、実銃を使ったスポーツというのには抵抗があった。
そのせいか、誰も入部しようと思うものはいなかった。静寂が数十秒続いた。
「あの、用務員さん、僕たちは驚きの連続で、心の整理がついていません。もう少し他の部も見て、ちゃんと考えてから入部を決めようと思います」
「そ、そうか。わかった。他の部も楽しんでこいよ」
なんて優しい顧問なんだろう。部活でやってる事自体は危険そうなのに、部の雰囲気はゆったりしていそうで、そこの差がまた魅力でもあった。
 俺たちは一旦この部室を出て、他の部活も見学することにした。

 

「いい意味でも、悪い意味でも、とんでもない部だったな……」
さあ、次はどこへ行こうか。ここから一番近いのは、どうやらPC部のようだ。行ってみるか。

 

~コンピューター室~
初めてコンピューター室に入ったが、まず最初に驚いた。
広い。とにかく広い。地図を見る限り、教室3部屋分ある。とっっっっっても縦長な部屋だ。
部屋の中には部員がほんの少し……ほんの3人……ぽつーんぽつーんといた。
「え、えっと……ここがPC部でいいんだよな?」
思わず確認をとってしまった。すると、部員の一人が返事をしてくれた。
「そう」
…………。
「んで…… PC部っていうのは普段はどういう活動をしているんだ?」
「次郎」
「えっ? 次郎?」
「…………そのうち分かる」
最初に話しかけてくれたこの部員はあまり言葉を発さず、短い一言ずつで返答を続けてくる。
次郎というのは……何だろうか?そういうゲームでもあるのだろうか?
結局あまり何も分からず見学は終わってしまった。

 
 

次の部活へ向かおうと思ったところへ、アナウンスが流れた。
「部活の見学は残り15分になります」
おっと、もうそんな時間なのか…!どうやら次の部活を見学したら終わりっぽいな。
最後はどこに行こうか……

 

~軽音楽部 部室~
 俺が最後に見学したいと思ったのは、ここの軽音楽室だ。妹の萌衣がバンドをやっているということもあって、軽音楽には興味があった。
 しかし、部室には誰もいなかった。広い部屋に小さな机がひとつあって、そこに紙切れがひとつ置いてあるだけだった。どういうことだ?
 俺は紙切れに書いてある内容を読んだ。
「見学に来てくれた入学生の皆さんへ。私は高校3年……いや、あなた達がこれを読んでいる頃にはもう学園を卒業していますが、とにかく軽音楽部の部員だった者です。この部活は私たちの代で途絶えようとしています。私たちのひとつ下の代である高2、そしてその下である高1の部員は全くいません。つまり、もしあなた達入学生が一人もこの部活に入らなかったとすると、軽音楽部は部員ゼロ。つまり廃部です。主な理由は、音ゲーの普及にありました。他の皆はバンドの演奏よりも音ゲーを楽しむという道を選んだのです。結果、軽音楽部の部員数は年々減少していき、ついに廃部の危機を迎えました。今年の入学生の皆さん、どうかこの部活に入部して、再び軽音楽部をにぎやかな場所にしてほしいです。どうかお願いします」

 

…………。
そうか……。この部は廃部の危機なのか……
それを知った瞬間、この部室には楽器が何一つないことに気がついた。そもそも、顧問の先生はいるのだろうか。何もかもが分からなかった。
 手紙を何度も読んでは、悩みながらずっと部室内を歩き回っていた。
 そうしているうちに、見学の時間は終わってしまった。
「これで見学時間は終了です。まだ入部届を書いていない生徒は部届の記入を行ってください」
ひとつ、知りたいことがある。
俺は自分の教室へと走って、古宮先生に質問をした。
「先生! 軽音楽部の顧問っていないんですか!?」
「軽音ね…… 確かに顧問はいないな」
「い、いない!?」
「軽音楽部は今年で廃部かもしれないな」

 

俺は決意した。ここに入ろう。この軽音楽部に入ろうと。
早速入部届の紙を取り出して、名前を書き始めた。
俺が高校生になったらやってみたかったこと……バンドの結成。だが、俺の周りでドラムやらギターやらを持っている友達はいないし、妹が楽器を貸してくれるわけでもあるまい。そのためには、どうしてもこの部に消えてほしくない。とっさの決断だったが、兼部もできるわけだし、万が一何かあっても退部することだてできる。とりあえずは入ることが優先だと思った。
「古宮先生!俺はこれで行きます」
顧問がいないということなので、入部届は古宮先生に渡しておいた。
俺はワクワクした気持ちで家に学校を出た。

 

本格的な部活動は来週からだという。他に誰かが入部したかどうかはわからないが、きっと誰かいるはず。そう信じて、月曜日を待とう。私立次郎勢学園、俺の最初の部活は軽音楽部に決まったのであった。

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

「音哉君が、軽音楽部に……?」
「そうみたいだ」
「なら……家庭科部と兼部でもいいから……私も!」
そう言って、一人の少女は入部届に名前を書き、古宮先生に提出した。
「先生、これでお願いします」

 

そこには、『森 薫』という名前が書かれていた。
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