※注1:「自称悪役令嬢な婚約者の観察記録。」の大きなネタバレを含みます。
※注2:考察は作中描写に基づいてはいるものの公式の裏付けは何もないことを留意ください。
- 目次
セシル達が登場する「乙女ゲー」の概要
タイトルは不明。
アルファスタ国のハルム学院を主な舞台に、セシル、バルド、チャールズ、ネルト、クールガン、ショーンの六人の攻略対象との恋愛が楽しめる。
攻略対象のルートごとに「ライバル令嬢」と呼ばれる恋の障壁となる女性キャラが設定されており、その中でも「バーティア」は「悪役令嬢」としてヒロイン(主人公)の前に立ち塞がる。
ゲームは「攻略対象と結ばれるまでの共通ルート(学院編)」と「攻略対象との個別ルート」の二部構成になっている模様。
学院編はヒロインがハルム学院に入学してからセシルおよびチャールズ、バルド、ネルトが卒業するまでの四年間。個別ルートの期間は不明。
攻略対象の個別エンドの他、ハーレムエンドが存在する。
ハルム学院に入学した「ヒロイン(主人公)」は学院で攻略対象と出会い、恋をする。
色々なイベントや事件を乗り越え、卒業式の日に攻略対象と結ばれて個別ルートに入る。
セシル達の卒業の日には卒業パーティが開かれ、その日に合わせて好感度が高い攻略対象が自分の髪の色の装飾品(セシルのみドレス)をヒロインに贈る。
贈られた装飾品のどれを身につけるかを選ぶことで誰の個別ルートに行くかを選択できる。
ハーレムルートに行くには卒業パーティで攻略対象から贈られた装飾品を全て身につけることを選択する。
卒業パーティでは(ルートによっては?)断罪イベントが発生し、その場で悪役令嬢バーティアが断罪され、婚約者の座を追われることとなる。
なお、バーティアの実家ノーチェス侯爵家は父親の悪事やバーティアの横暴さが原因でほとんどのルートで断罪され、没落するらしい。
各エンドの内容
- セシルルート
甘さが三割増しになったセシルとのラブラブ内政ルート。
それなりにトラブルが起きるが、最終的には(悪役以外は)みんなハッピーエンド。 - ハーレムルート
セシルルートと同じく甘さが三割増しになったセシルとのラブラブ内政ルートが基本で、他の攻略対象との絡みや嫉妬イベントが追加されている。 - バルドルート
平和な世の中にセシルが飽き飽きする中、隣国がアルファスタに攻めてくる。
セシルは自ら戦場に出て国を勝利に導くが、戦争に退屈を癒やされたセシルは次の戦争を求めて他国への侵攻を開始。
騎士であるバルドはセシルに従って戦い続けるが続く戦争の厳しさや仲間が倒れていく様に次第に心をすり減らしていく。それをヒロインが支えて仲を深める。
最終的にはセシルが近隣諸国を統一し、バルドとヒロインはラブラブハッピーとなる。 - ショーンルート
王族でいることに飽きたセシルが「王位継承は放棄する。あとはショーンに任せる」と書き置きして失踪。
その後、国王が暗殺されて隣国がアルファスタに攻めてくる。
不安におびえるショーンをヒロインが励まし、隣国を撃退してラブラブハッピーとなる。 - クールガンルート
セシルが暗殺される。
犯人が隣国の人物であることを知ったクールガンは証拠や黒幕を調査するためにヒロインと共に隣国に潜入。
困難を乗り越えて黒幕が隣国の王族であることをつかんだクールガンはアルファスタ王にこのことを報告。最後はセシルの仇討ちの戦争となり見事勝利してラブラブハッピーとなる。 - チャールズルート
隣国で外交交渉を終えたセシルが失踪する。
隣国との情勢が悪い中、チャールズはセシル捜索のために隣国に交渉役として赴き、ヒロインも同行する。
実はセシルは隣国で怪しい人物を見かけて一人で追跡、調査していた。敵のアジトにまで乗り込み、アルファスタの貴族が国を裏切って隣国と内通し、隣国はアルファスタに攻め込むつもりであることをつかむ。
隣国に来たチャールズにセシルは接触し、この情報を国王に知らせるように言い、自分は隣国に残る。
このあとチャールズ達は隣国に残ったセシルと協力して内と外から隣国を攻撃して滅ぼし、チャールズはヒロインとラブラブハッピーとなる。 - ネルトート
暇を持て余したセシルがネルトの取り組んでいた研究に手を出し、あっという間に完成させてしまう。
それで落ち込んだネルトをヒロインが励まし、二人は愛を育む。
セシルはネルトの研究に手を出したことで火薬や新しい鉱物の研究にはまり、自分で作った研究室に引きこもってしまう。
セシルが引きこもったことを知った隣国がこれを機会と攻め込んでくるが、ネルトはセシルが作った火薬を使う強力な武器を作って隣国を撃退。ヒロインとラブラブハッピーとなる。
エンドの内容補足
「乙女ゲー」においてアルファスタ国の貴族で隣国と内通していた者の一人はバーティアの父のノーチェス侯爵。
流行病で妻を失った悲しみとその際に国から十分に助けてもらえなかった怒りを抱いていたところをすでに隣国と繋がっていた貴族(おそらくウラディール伯爵が主導)が近づきその仲間となってしまう。
爵位の関係から仲間になって以降はノーチェス侯爵こそが裏切り者の首謀者となっていたのではないだろうか。
ノーチェス侯爵は宰相であり、国の政務の影の部分も把握、活用していたらしい(「観察記録。」本編でのクールガンにスパイとしてのあれこれを仕込んだのはノーチェス侯爵)。国を裏切り他国と繋がって陰謀を進めるために必要なノウハウを一番持っているのはノーチェス侯爵なのである。
裏切り者の首謀者であることが明るみになればノーチェス侯爵家は当然没落(それどころか裏切り者なので処刑もあり得る)。バーティアが「ほとんどのルートでノーチェス家は没落する」というわけである。
「乙女ゲー」についての考察
考察前の注意点
考察において、「自称悪役令嬢な婚約者の観察記録。」本編で明らかになった設定は、「乙女ゲー」でもそうであるという前提で行っている。
しかし「乙女ゲー」のヘビーユーザーであると思われるバーティアも知らなかったことがいくつかあるので本編世界と「乙女ゲー」世界は何もかもが同じではない可能性がある。
そのことを留意してお読みください。
「乙女ゲー」はセシルの物語
複数の攻略対象がおり、個々のエンドも存在するがこの「乙女ゲー」はセシルルートこそがトゥルールートであり、他のルートは「乙女ゲー」の構成的にはサブシナリオであり、セシルの様々な結末を示すためのルートであるように見える。
それを端的に表しているのが、セシルルートおよびハーレムルート(=セシルも攻略済み)では「隣国との戦争が起きない」が、それ以外の攻略対象のルートでは「必ず戦争が起きる」という違いである。
セシルを攻略できたかどうかで国が平和かどうかが変わるのである。
そして「隣国との戦争」が起きる経緯にはセシルの動向が大きく関わっており、また「隣国との戦争」の解決でもセシルが健在であればその力が必要とされている。
また、ハーレムルートもルート専用のシナリオではなくセシルルートに攻略対象のイベントを追加となっており、メインはセシルという雰囲気を感じさせる。
よってこの「乙女ゲー」はセシル抜きでは語れない、セシル抜きでは物語が動かない、「セシル・グロー・アルファスタ」が中心となって構成された作品であると言えるだろう。
「卒業イベント」からわかるセシルと他の攻略対象の違い
卒業イベントで好感度が高い攻略対象からヒロインに「装飾品」が贈られる。
しかし「装飾品」と言いつつ、セシルから贈られるのはドレスである。明確に他の攻略対象と差がつけられている。
またこの「装飾品」は「攻略対象の髪の色」と同じ色であるとされているのだが、攻略対象の髪の色は
セシル:金
ショーン:ハニーブロンド
チャールズ:明るい茶
バルド:茶色がかった黒
ネルト:黒
クールガン:アイスブルー
(セシル、ショーン以外はコミカライズで髪のカラーが判明した)
となっている。金色系であるセシルやショーン、アイスブルーのクールガンはともかく、チャールズ達の茶や黒の装飾品は地味だ。18歳の女の子の卒業祝いに贈る色ではあまりない。リアルでは実用性があって良いかもしれないがヒロインは貴族令嬢で卒業パーティで身につけるものなのである。
茶や黒系の攻略対象が一人ならありかもしれないが、全攻略対象中三人もいると不自然に見えてくる。
しかし「セシルルートがメインで他の攻略対象のルートはサブ」と考えると他の攻略対象の色が地味だったり、セシルが一番目立つドレスを贈ることに筋が通ってくると言えないだろうか。
なお、ショーンが金髪(ハニーブロンド)なのはアルファスタでは金髪は王家の色だからということなのでショーンの髪の色はショーンが特異な存在であるということには結びつかないと思われる。
それだけにクールガンの髪色が黒・茶系ではないというのは興味深いがこれについては後述。
「セシル」とはどういうキャラクターか
セシルは見目麗しくチート級の有能さを持ちながらも人間性に乏しく、そこからプレイヤーの間で「アンドロイド王子」と呼ばれていたという。
このセシルの性質はアルファスタ王家の血統、初代国王トージンの性質が子孫に発露することからくるもの。
アルファスタ王家には時折(数十年に一人ぐらいのスパン)セシルのように極めて優れた者が生まれるが、それらは皆心に弊害を抱えている。
その優れた能力と引き換えのように人としての感情が著しく欠如し、単純な「好き」「嫌い」という感情さえろくにない。そのため興味を持てること、楽しいと思えることがないまま生きることになる。
それは同時に「興味を持てること」「楽しいと思えること」への渇望となり、それが彼らが最初に持つ、場合によっては死ぬまでそれしか持てないたった一つの人間らしい感情となる。
彼らは興味を持てるもの=自分の感情を引き出してくれるものを追い求め続け、それを見つけると固執する。興味を持てるものをなかなか得られない(何かに関心を持ちにくい)分、一度見つけたものへののめり込みは激しい。
「戦争」に興味を持てば戦闘狂に。「研究」に興味を持てば引きこもりに。
そして「人」に興味を持てば溺愛する。
興味を持てるものを得られなかった場合は人形のように終生を過ごす者、退屈に耐えきれずに自死する者といずれも破滅も同然の終わりを迎える。
つまり「乙女ゲー」のエンドは「ヒロインによる選択」であると同時に「何かに興味を持ったセシル」あるいは「何にも興味を持てなかったセシル」によって作られているのである。
この「アルファスタ王家の優秀な子」の設定が「乙女ゲー」でどれだけ描写、もしくは設定として公開されているかは明確ではない。
しかし卒業イベントの断罪劇で追い詰められたヒローニアが「私に選ばれなかったら(セシルは)頭が良いだけで心のない人形」「私を手に入れなければ今まで同様色のない世界で退屈な日々を送り、破滅する」とセシルを罵っていることからある程度はプレイヤーにも開示されていると思われる。
「セシル」を攻略するということ
セシルを攻略するということはヒロイン(主人公)が「セシルの興味の対象」となることを意味する。
すなわち、「人」がセシルの興味の対象になることでもある。
ヒロインを通して「人」に興味を持って初めて、セシルは「他人と自分は違う」「自分にできることでも他人にはできないことがある」「合理的思考だけで人は動かない、人は時として感情で動く」などを理解していく。
「相手の気持ちを慮ること」「他者を頼ること」で周囲との信頼を築いていくこと、その大切さも知っていく。
そしてヒロインを愛することを知り、セシルは人間性を得るのである。
つまりセシルを攻略するということは「アンドロイド王子」を「人間」にするということなのだ。
しかし、これは逆に言うと「ヒロインに攻略されなかったセシル」は「人に興味を持つことはなく」、「人間性を得ることもない」ことを意味する。
他の攻略対象ルートのセシルは全て、「人間性を得ていないセシル」なのである。
バーティア曰く「ヒロインとくっつかなかったセシル様は、この国の未来にも私たちにもご興味がない」のである。「乙女ゲー」でもヒロインに攻略されなかったセシルが人間性を得られなかったことが明示されていると言えよう。
セシルを攻略したセシルルート、ハーレムルート以外では全て隣国、周辺諸国との戦争が勃発する。
いずれのルートでも攻略対象とヒロイン、(死んだり失踪していなければ)セシルの尽力によって戦争は終結し、ハッピーエンドとなるが被害が大きかったり火種が残ったままだったりと完全にハッピーとは言い切れない。
極論すると、「セシルを攻略できなかった」他の攻略対象のルートは全てある意味「バッドエンド」とも言えてしまう。
つまりセシルを攻略するということは「世界に平和をもたらす、最良のハッピーエンドを迎える」ということなのだ。
「セシルルート」の難易度について
バーティア曰く、「乙女ゲー」においてセシルを攻略するのは非常に難しいという。
セシルとのイベントは「セシルが中等部にいる期間」に集中し、高等部に入るとほぼなくなる。それが理由でセシルの攻略は「難度MAX」「難攻不落」とまで呼ばれていたという。
なぜ難しくなるかというと、セシルとヒロイン(主人公)の年の差は二歳でヒロインがハルム学院中等部に入学した年、セシルは中等部三年生だからである。
「セシルとのイベントはセシルが中等部の期間に集中する」ということはセシル攻略は学院編四年間の序盤の一年でほぼ完了させなければならない。
セシルとヒロインの出会いイベントはヒロインの入学直後にあるとはいえ、確かにこれはかなり厳しい。
「セシルの攻略期間は実質一年しかない」というのは言い方を変えると「出会ってから一年以内にセシルの興味を引かなければならない」ということである。
一年で興味を引けなければヒロインはセシルに「他の人間と変わらない、普通のつまらない存在」と見なされて有象無象の中に埋没していくのだろう。
先述したとおり「乙女ゲー」でセシルを攻略することは「世界に平和をもたらす、最良のハッピーエンドを迎える」ことでもある。
たった一つ(ハーレムルートを入れても二つ)の平和になるルートである以上、セシルルートの攻略が最難関になるのは当然と言えるだろう。
各ルートにおける「セシル」の解説
ルートごとにセシルが何に興味を持ったか(あるいは何かに興味を持てなかったか)およびセシルの様々な結末が描写されている。
- セシルルート
セシルが得た興味の対象は「ヒロイン(主人公)」。
おそらく「自称悪役令嬢な婚約者の観察記録。」でバーティアという興味の対象を得たのと同じく「ヒロイン」に興味を持ったセシルは彼女との幸せな暮らしを守るために隣国との火種を潰し、国を盤石にしたと思われる。
「ヒロインによって愛を知り、人間性を得たセシル」のルートであり、「乙女ゲー」におけるもっともハッピーなエンドである。
セシルが最推しの「自称悪役令嬢な婚約者の観察記録。」本編のバーティアがこのエンドを目指したのも納得である。 - ハーレムルート
セシルが得た興味の対象は「ヒロイン(主人公)」。
一見「セシルルート」と同じで平和に見えるが、セシルの性質的に「ヒロイン」を他の攻略対象と共有するような状況に耐えられるはずがない。
本編でハーレムルートの話をバーティアから聞いたセシルが「君にハーレムなんて作られたら、よそ見なんてできないよう色々裏工作をしてしまいそう」と言っていることからも明らかだ。
この他にもセシルのバーティアへの執着や独占欲は繰り返し描写されている。
バーティアが前世で男と親しい関係になりそうだったという話でも嫉妬をするし、クールガンがバーティアに対して淡い想いを持っていることを考えるだけでもイラッとしている。
更に父王との会話では「(バーティアを)奪われそうになったら国を滅ぼしかねない」とまで言っている。
その執着や独占欲が「ヒロイン」に向いている「乙女ゲーのセシル」が自分と同じく「ヒロイン」を想い愛する攻略対象の存在を放置するわけがなく……
「ゲーム」が終わったあと、(もしかしたらゲームの最中でさえも)「裏工作」は間違いなく仕掛けるだろう。その「裏工作」が穏便な手段であることを祈るばかりである。
「ヒロインによって愛を知り、人間性を得たセシル」のルートであると同時に「人間性を得たからこその負の一面の危険性をはらんだ」ルートと言える。 - バルドルート
セシルが得た興味の対象は「戦争」。
バルドルートでは近隣諸国を統一してひとまず戦争は終わるが、バーティアからルートの話を聞いたセシルが思ったように「戦争」に興味を持った「乙女ゲーセシル」が平和で退屈な状態に耐えられるはずがなく、この後新たな戦争が起きる可能性は極めて高いだろう。
アルファスタの初代国王トージン王と同じく「戦闘狂」となったルート。トージン王には戦争以外にも興味を持っている(愛している)アーンネイ王妃がいたが、このセシルにはそんな相手はいない…… - ショーンルート
セシルは興味を持てる対象を得られなかった。そのため王位継承権を放棄して失踪。
この後「乙女ゲーセシル」がどうなったかの一つの推測が後に「自称悪役令嬢な妻の観察記録。」にてセシルから語られる。
王に向かないショーンに平然と王の責務を押しつけ、その結果どうなるかも気にしない「人に興味がない」面が顕著に出るルート。 - クールガンルート
セシルは早々に暗殺されるが、この時にも何も興味の対象を得られていなかっただろうとルートの話をバーティアから聞いたセシルは推測している。
世の中に退屈しきっていたため、抵抗すれば生き延びられた可能性があったかもしれなくても「死んでも良いか」とあっさり暗殺されたのではないかと。
「興味を持てるものを得られず、生きることにも飽きてしまった」ルート。 - チャールズルート
「一人でなんでもできるからこそ人と関わること、協力・頼るという発想がない」面が顕著に出たルートとセシルが推測している。
怪しい人物を見つけたとき、一人で後を追って消息を絶ち、連絡もなかなかしてこなかったのはそのせいであると。
また、このルートでセシルが得た興味の対象は「諜報(隠密)活動」ではないだろうか。
他のルートほどわかりやすく興味の対象を明言されていないが、隣国での潜入活動が思いのほか楽しく、だからこそチャールズと共に帰国せずに隣国で残って活動を続けたと思われる。
このルートのセシルは今後も諜報活動を続けるため各国に潜入するのではないかと思われる(結果、王位継承権放棄もあり得る)。 - ネルトルート
セシルが得た興味の対象は「研究」。分野は火薬や新しい鉱物に対してだろうか。
研究に没頭しているため、このルートでもセシルが王位継承権を放棄する可能性は高い。アルファスタ王が語った王家のセシルと同様の者たちの話でも「研究に没頭して王位継承権を放棄した」者がいたことが語られている。
ネルトが真摯に取り組む研究を勝手に完成させることがネルトを傷つけることに気づかない、ショーンルートと同じく「人に興味がない」面が顕著に出るルート。
ショーンルートとの違いはこちらのセシルは「研究」という興味の対象を得ていること。
セシルが王位継承権を放棄した後のこと
どのルートでもセシルが王位継承権を放棄した場合、第二王子のショーンが跡を継ぐしかないのだが、「観察記録。」本編のセシルは「ショーンは王には向いていない」と言っている。
まだ未成年とはいえ甘えん坊で年よりも幼い感があり、気弱で感情で動きがちなショーンは(少なくとも作中の時点では)王に向いているようには見えない。
そのショーンが王位に就くというのはショーンルートの展開でも明らかなように他国からすれば「アルファスタの隙」であり、今後の国際情勢が不安定になることは想像に難くない。
その他「乙女ゲー」の考察
「精霊」は「乙女ゲー」にいたのか
「乙女ゲー」の世界に精霊がいたかいなかったのかは不明だが、ゲーム中の描写や設定資料などでプレイヤーに存在を明示してはいないようである。
まず、「乙女ゲー」中では精霊の存在に一切触れられていない。
ヘビープレイヤーと思われるバーティアもヒローニアも精霊のことを何も知らないのである。
小鳥のピーちゃんは「乙女ゲー」でもヒロインといつも一緒にいたが、それが精霊とわかる描写もなかったらしい。
ゼノが「乙女ゲー」にもいたかどうかも触れられていないが、仮にいたとしてもゼノが精霊であるとわかる描写はなかったと思われる。
クロは「自称悪役令嬢の観察記録。」にてバーティアがランニング中に拾ったとなっているので、そういった出会いがあるはずがない「乙女ゲー」には登場していないと思われる。
ただ、セシルルートで「セシルがヒロインを選んだとき、ヒロインの体に浮かび上がる印(『運命の乙女』の証)」は「観察記録。」本編では精霊であるゼノがセシルの命でバーティアに加護を与えた印と同じらしい。バーティアが「なぜこの印が私に!?」と驚いていたので印のデザインや色まで「乙女ゲー」と同じと思われる。
つまり、「乙女ゲー」のセシルも精霊であるゼノを侍従として従えていて、セシルルートでヒロインに加護を与えた可能性は非常に高い(他に運命の証ができる理由がない)。
このことから「乙女ゲー」には裏設定の形で精霊がいたのではないかと考えることはできる。
「乙女ゲー」でピーちゃんは「癒しの光」を使うのか
「自称悪役令嬢な婚約者の観察記録。」作中で、「乙女ゲー」のように攻略対象を攻略しようとするものの相手の気持ちを考えず、他人を蹴落とそうとするヒローニアは次第に孤立し、そんなヒローニアの力になろうと光の精霊であるピーちゃんは自分の能力である「癒しの光」を用いて周囲の人間を魅了している。
※癒しの光
「悪しきものを浄化し、正しきものには多幸感を与える」光の精霊の力。単純な魅了の力ではないが常時この影響を受けていると「ここにいると何だか幸せになる」と思うようになり、癒しの光を感じられるところ(ピーちゃんと一緒にいるヒローニアの側)にいることを望むようになる=魅了に近い状態になる。
「乙女ゲー」中でもヒロイン(主人公)はピーちゃんと呼んでいる小鳥と一緒にいるが、このピーちゃんは「癒しの光」を使って攻略対象を魅了していたのだろうか?
先述の通り「乙女ゲー」の世界にも精霊がいたかどうかは明示されていない。
仮に精霊がいたとした場合、「ピーちゃんは癒しの光を使ったか」に対する答えはおそらくNo。
「乙女ゲー」のヒロインはヒローニアと違い努力家で相手の気持ちを思いやる行動をする、まさに「乙女ゲーのヒロイン」。そんな彼女は癒しの光がなくとも孤立することはなく、攻略対象やそれ以外の学院の生徒達とも恋愛関係、友好関係を築けるはず。
また、「悪しきものを浄化する」癒しの光を「乙女ゲー」でピーちゃんが使っていたら、悪役令嬢バーティアも浄化されてヒローニアを害することはなくなっていたかもしれない。そうなると「乙女ゲー」ではピーちゃんは癒しの光を使っていない、もしくはそもそも精霊ではなくただの鳥だったので使えなかったと考えられる。
セシルは「女性の好みはそれぞれ違うし一人の女性を共有するというのも異常、ハーレムルートなんてまともに考えたら成立するとは思えない」という視点からバーティアと会話することで「ヒロインが周囲を魔法で魅了する可能性(=癒しの光が使用されている可能性)」に至っている。
しかし現実ならセシルの考えは順当であるが「ゲーム」の場合「リアルに考えたら異常なので魅了の魔法を使っている」という論法には必ずしもならない。フラグを立て、イベントをこなせば攻略対象の好感度はヒロインが何股かけてようが上がるものだからだ。「ゲームシステム上発生する状態」に合理的な理由がつけられていないのは「ゲーム」であれば許される、スルーされることである。これをもって「ゲーム中でヒロインが(あるいはピーちゃんがヒロインのために)攻略対象に魅了の魔法をかけていたに違いない」というのは乱暴な論であり、野暮で無粋な話である。
一方で、性質上「自分が興味を持った者を他人と共有することを嫌う」セシルにヒロインのハーレム状態を受け入れさせるために癒しの光をピーちゃんが使ったという設定にした可能性も考えられなくはない。だが、セシルが「乙女ゲー」でも精霊のゼノを侍従として従えていると癒しの光の効果を抑えることができるので癒しの光が効果的に働くかどうかは怪しい。
そして「観察記録。」本編同様にセシルが精霊の知識を持っているならばセシル本人も「癒しの光」の対策を考えるであろうし、それができてしまうのがセシルなので……やはり癒しの光が効果的であるとは言えず、「使った」という設定にしても意味がないということにもなる。
これらの点からもあくまでも「乙女ゲー」においては魅了効果のある何かがあった、もしくはピーちゃんが癒しの光を使ったかどうかは不明、明言できないと言える。
攻略対象に関わる女性「ライバル令嬢」がいる理由
まず、セシルの婚約者バーティアは本作が「乙女ゲー転生悪役令嬢もの」のテンプレに則ったからであると思われる。ジャンルのお約束だから、とも言う。
「乙女ゲー」上の話としてならば、「卒業パーティで断罪される悪役」として必要だからだろう。
では他の「ライバル令嬢」たちはなぜだろうか。「乙女ゲー」と「観察記録。」本編でのライバル令嬢たちの設定に差がないとするならば、彼女たちは断罪されるほどの悪事は働かないはずだ。
断罪するための「悪役」ではないならば、彼女たちはなんのために「乙女ゲー」にいるのだろうか。
シンプルに考えると「断罪するほどの悪役ではないが、攻略対象を攻略するためのイベント役、ヒロインに攻略対象が惹かれる理由付け」といったところか。
それを示すようにライバル令嬢は攻略対象にとって(バーティアを除いて)悪と言うほどではないがうっとうしい、または厄介な一面がある。
チャールズルートでは恋い焦がれても触れてはいけない高嶺の花、ネルトルートでは自分の気持ちにお構いなく世話を焼いてくる幼馴染み、ショーンルートではいずれ婚約しなければならないが苦手な令嬢、バルドルートは詳細は不明だがシンシアが流行病のせいで体が弱く外にあまり出ないということで相性が悪い(バルドは脳筋体を動かすことが好きなので)だろうことは推測できる。
ヒローニアがハーレムルート目指して攻略対象たちに近づく際、ライバル令嬢に彼らが悩んでいることを前提にしていることからも「乙女ゲー」ではそうだったのだろう。
だが、
「本作の「乙女ゲー」はセシルを中心とした物語で、セシルルートこそトゥルーエンド。他の攻略対象のルートはサブルートである」
という視点から考えてみると攻略対象達のお相手になりうる女性キャラが用意されていることに別の意味が表れる。
前述の通り、セシルは「興味を持った存在」に固執し、執着する性質を持っている。ハーレムルートはセシルにとってはヒロインを独占できないことから耐えられない状況であることも前述の通り。
つまり、攻略対象の近くに配置された令嬢達は「セシルがセシルルートでヒロインを問題なく独占できる」ようにするための存在であると言える。攻略対象とライバル令嬢が結ばれればセシルはヒロインを独占できるのだから。
ただ「自称悪役令嬢な婚約者の観察記録。」本編ではバーティアが積極的に攻略対象とライバル令嬢の仲を取り持っているが、そうではない「乙女ゲー」ではライバル令嬢達の恋愛成就は困難であると思われる。そこはセシルとヒロインが本編のようにうまくやると思いたいが……
ライバル令嬢ルートが閉ざされている(ヒロインが全ての攻略対象を攻略済み)ハーレムルートの攻略対象達がどうなるかは……まあ……
「乙女ゲー」でライバル令嬢は攻略対象と結ばれるのか?
「自称悪役令嬢な婚約者の観察記録。」本編ではバーティアの活躍(?)によってライバル令嬢達は攻略対象と結ばれている。
では「乙女ゲー」ではどうなのだろうか。
ライバル令嬢達はセシルルートでセシルが問題なくヒロインを独占できるために配置されているのではないかと考察したが、本当に「乙女ゲー」では攻略対象と結ばれているのだろうか?
本編でバーティアはライバル令嬢と攻略対象の仲を取り持つことにためらいを見せず、積極的に行っている。基本的にバーティアは「乙女ゲー」(セシルルート)から外れることにはたとえ彼女の大切な者を守るためであっても抵抗がある。それでも大切な者のためなら「乙女ゲー」の展開を曲げることもやむを得ないとしている。
しかし、ライバル令嬢と攻略対象の仲を取り持つときにその様子は見られず一切の迷いがない。
つまり「乙女ゲー」でもライバル令嬢と攻略対象が結ばれる場合があると言える。
だが取り持つときにセシルとヒロインのイベントの再現を狙った時のような言動はしていないので、「乙女ゲー」ではライバル令嬢と攻略対象が結ばれても詳細な経緯は描写されていないと思われる。
ただ、バーティアはバーティアなので「セシルルートを確定するため(ヒロインが他の攻略対象ルートに行かないようにするため)」および「大切なお友達の幸せのため」の二つの理由があることで「攻略対象とライバル令嬢を取り持つことは「乙女ゲー」にはない展開なのでは?(だからやらないほうがいいのでは?)」ということがすっぽ抜けている可能性も十分にある。
「乙女ゲー」の「バーティア」について
「乙女ゲー」の「悪役令嬢」バーティア・イビル・ノーチェス。
「観察記録。」本編で彼女がセシルの婚約者に据えられた理由は、「アルファスタ王家の優秀な子=感情に乏しい子」であるセシルへのいい影響を狙って、「少し抜けているけど面白くて愛嬌がある。表情も豊かで感情の起伏に激しく、情に厚い優しい子」であるからとセシルの父である国王ケインは語っている。
バーティアが婚約者になった八歳の時にバーティアの性格をここまで国王が把握していたわけではもちろんないと思われるが、親友であり宰相であるバーティアの父ダグラスからこれに近い話は聞いていただろう。
バーティアの前のセシルの婚約者候補だったジョアンナ公爵令嬢は幼くして貴族の令嬢らしい、感情を抑えたそつのない言動で、そのためセシルとの相性が良くなかった。それもあって真逆のバーティアが次の候補として選ばれたという事情もある。
では、「乙女ゲー」ではなぜバーティアだったのか。
「乙女ゲー」でもショーンルートにおける「ライバル令嬢」はジョアンナであったらしい。つまり婚約者(候補)にショーンより二歳年上のジョアンナがなっていることから、彼女とセシルとの婚約が流れたあとにバーティアとの婚約が決まったことは推測できる。ショーンと同い年のバーティアがいるのに、なんの事情も無しにわざわざ二歳も上のジョアンナをショーンにあてがうとは思えない。
バーティアの父ノーチェス侯爵はアルファスタの宰相であり、国王ケインとは親友であるので家柄、立場共に問題はない。
問題はないが、年齢、立場共に本来一番の適役だったはずのジョアンナの婚約が流れた理由が「観察記録。」と同じであるとすれば、バーティアが婚約者に選ばれた理由にはやはり「感情表現が豊かな優しい子」という要素があったのではないだろうか。
セシルがピーちゃんに見せられた「乙女ゲーのセシルルートはこうだった(かもしれない)」世界のバーティアは、初対面の時には普通の貴族令嬢のような言動だった。セシルも「つまらない」と感じるほどに普通の令嬢で王族の前に立ったときにはガチガチに緊張していた。
けれども「ジョアンナとは違う要素がある」バーティアであったならば、ジョアンナよりはセシルといい関係を築けた、かもしれない。
しかし、バーティアの母メーティアが流行病で世を去ってから彼女の世界は一変する。
メーティアを救うための薬草を王家から分けてもらえなかったこと、その事情を宰相としては理解しつつも夫としては受け入れがたかったノーチェス侯爵は王家を恨み、そこを隣国と繋がる悪徳貴族につけ込まれて翻意を抱くようになる。一方でバーティアを溺愛し、甘やかし、その結果バーティアはわがままで傲慢な女性に成長してしまった。
そんなバーティアではセシルとのいい関係を築けるはずもなく……「乙女ゲー」本編ではどのルートでもノーチェス侯爵家は没落、破滅し、バーティアはセシルの婚約者という立場を失うのである。
もし、「乙女ゲー」世界で流行病が起こらず、バーティアが母を失わなかったら、ノーチェス侯爵は悪に走り国を裏切ることはなく、バーティアも甘やかされることはなく真っ当に成長できていたはずだ。
その世界線であったならば、もしかしたらバーティアとセシルが無事に結ばれることもあったかもしれない。国王の賭けが当たるかどうかは、別とするにしても。
もちろん、そうはならない、そうはならないんだ。流行病でバーティアの母は死に、ノーチェス侯爵が悪落ちするのは「乙女ゲー」の世界では変えられない事実なんだ。だから「乙女ゲー」ではバーティアは破滅してヒロインは攻略対象とハッピーエンドを迎えておしまいなんだ。
クールガンの特異性
クールガンは「乙女ゲー」の他の攻略対象達といくつか違う点がある。
- クールガンに関わる女性キャラがいない
「乙女ゲー」では各攻略対象に「ライバル令嬢」として婚約者(候補)や幼馴染み、憧れの女性が配置されているがクールガンのみそういった女性が配置されていない。
クールガンルートではバーティアがクールガンの義理の妹として恋愛の邪魔をしてくる設定なのである。
バーティアはセシルの婚約者であり、クールガンには彼だけの特別な存在(ヒロイン以外のクールガンと恋仲になる可能性がある女性)が用意されていない。 - 髪の色が一人だけ特徴的である
他の攻略対象中、「セシルの弟(=王家の人間)」だから金髪(ハニーブロンド)となっているショーンを除くと他のメンバーが茶や黒という地味な普通の色であるのにクールガンのみアイスブルーである。
これらのように、おそらく意図的にクールガンは他の攻略対象との違いがもうけられているがなぜだろうか。
一つの可能性として「女性がいなくても、髪の色が他の攻略対象と違って目立つ色であっても、クールガンはセシルにとって邪魔な存在になりづらいから」ということが考えられる。
「乙女ゲー」におけるクールガンの設定は「バーティアがセシルの婚約者となったためノーチェス家を継ぐために養子にされた」「悪事に手を染めたノーチェス侯爵の手駒として働かされている」である。つまり、ノーチェス侯爵家が最終的に破滅、没落するとクールガンもまた共犯として没落し、少なくとも貴族社会からは消える運命である可能性が高い。
バーティアは「乙女ゲー」のクールガンのことを「セシルの影となって働く」と言っているので表舞台から去ったあとは影働きに徹するのだろう。
つまり表舞台から去るクールガンがヒロインに手を出すことはなく、ライバル令嬢と結ばれる余裕もないということである。
コミカライズで描写された「セシルルート」の展開ではヒロインに興味を持ったことで邪魔になってきたバーティアを排除するためにノーチェス侯爵の罪を調べるセシルがクールガンに接近する描写があり、この後クールガンがノーチェス侯爵を裏切ってセシルについた(セシルの影となる)と考えられる。
クールガンルートの場合、セシルがあっさり暗殺されているというのも興味深い。
これはセシルが死ぬとクールガンは「影」の役目から解放され、表舞台に戻ってこれるということだ。
そしてノーチェス侯爵家から救ってくれたセシルへの恩義に報いるためにヒロインと共に犯人を捜し始める……といったストーリーになのではないかと考えられる。
ちなみにショーンルートでは早々にセシルが失踪しており、髪の色が黒・茶系ではない二人のルートでセシルが「乙女ゲー」の舞台から去っているのも興味深い。
「乙女ゲー」では「セシルの邪魔になりづらい」「クールガンがヒロインと結ばれる展開ではあっさりセシルが死ぬ」という設定のクールガンであるが、「観察記録。」本編ではクールガンはバーティアに対し「妹的存在への庇護欲」と「淡い恋心」を混在させた感情を抱くことになる(セシルには見抜かれている)。
もちろんバーティアの方はクールガンに対して「(「乙女ゲー」で義理の兄だったこと、一人っ子だったので兄弟に憧れていたこともあって)兄的立場の方」として慕っている様子を見せることはあっても恋愛感情は一切ないのだが、独占欲が強いセシルからすればクールガンの秘めた感情にはイラッとすることがある。
「乙女ゲー」ではセシルの邪魔になりづらいクールガンが「観察記録。」本編では唯一苛立ちを感じさせる存在になっているというのは面白いと言えるだろう。
なお「観察記録。」本編のセシルはクールガンの能力を買っているし、友人とも思っている。クールガンも秘めた想いを露わにすることはないのでセシルがたまにイラッとすることはあっても二人が対立することは一切ないことは明記しておく。
また、「自称悪役令嬢な妻の観察記録。」でクールガンの人間関係に変化が訪れるためセシルの苛立ちは解消される。