霧「37.5度…微熱ね」 苗「でも、昨日に比べればだいぶ楽になったかな」 霧「だからといって油断は禁物よ? 熱が下がりきるまで、今日一日は安静にしていなさい」 苗「…うん。そうさせてもらうよ」 霧「素直で結構ね。それにしても…」 苗「何?」 霧「『バカは風邪をひかない』なんて言うけれど、『バカ正直』はこの場合の『バカ』には含まれないのね。あなたのお陰で一つ勉強になったわ」 苗「ちょ…ちょっと、霧切さん…!」 霧「…ふふっ、ごめんなさい。流石に今のは失礼だったわね」 苗「もう…病人をからかわないでよ…」 霧「悪かったわ。あなたと話していると、どうにも余計なことまで口をついてしまうみたい」 苗「…僕のせいなの?」 霧「どうでしょうね。まぁそれはともかく…何か、さっきの件のお詫びをさせてちょうだい」 苗「い、いや…そこまではいいよ」 霧「そう言わないで。そうね…何がいいかしら」 #br 霧(そろそろ昼食時だし…お粥でも作ってあげましょうか。それくらいなら私でも問題なく作れるし…) #br #br ピンポーン #br #br 苗「あ、インターホン」 霧「…来客みたいね」 苗「うん。ちょっと出てくるね」 霧「待って。あなたは病人でしょう? 私が行くわ」 苗「そ、そう? それじゃあ…悪いけど、お願いするよ」 霧「ええ…」 #br #br ガチャ #br #br 霧「…あら」 舞「あ、霧切さん! 霧切さんも苗木君のお見舞いですか?」 霧「…まぁ、そんなところね」 #br 苗「舞園さん!? 駄目だよ、ライブが近いんでしょ? 風邪がうつったりしたら…」 霧「……」 舞「平気ですよ。私、こう見えても体は強いんですから!」 苗「でも…」 舞「それより、お粥作ってきたんです! ほら、もうすぐお昼時ですし」 霧「!」 苗「わざわざ…僕のために?」 舞「ふふっ、その通りですよ。食べてくれますか?」 苗「も、勿論! ありがとう、舞園さん!」 霧「…………」 #br #br ◆ #br #br 苗「それじゃあ、いただきます」 舞「はい、どうぞ!」 #br パクッ #br 苗「…熱っ!?」 舞「苗木君!? だ、大丈夫ですか!?」 苗「う、うん…少し熱かっただけだから」 #br 舞「…ごめんなさい」 苗「ちょ、ちょっと…そんなに落ち込まなくても…」 舞「もっと冷ましてから持ってくるべきでした…私、気が回らなくて…ごめんなさい」 苗「そんな、謝るようなことじゃないよ!」 舞「……」 苗「僕はほら、全然何ともないからさ!」 舞「そう…ですか…?」 苗「気にしないでいいって、ね?」 舞「…苗木君って本当に優しいんですね…」 苗「え? や、優しいだなんて…ははっ、これくらいで大袈裟だなぁ…」 #br 霧(…何、赤くなってるのよ…) #br #br 舞「あの…苗木君。お詫びというわけじゃないんですけど、スプーンをこっちに貸してもらえますか」 苗「あ、うん。いいけど…何するの?」 舞「それはですね…」 #br フーッ フーッ #br 霧「……!?」 苗「え…ちょっと、舞園さん? そ、そこまでしてくれなくても…」 舞「駄目ですよ。風邪をひいている苗木君に、このうえ火傷までさせたりなんて絶対にできませんから」 #br フーッ フーッ #br 舞「…これでもう熱くないですよ?」 苗「あ、ありがとう…」 舞「それじゃあ、口を開けてください。『あ~ん』って」 霧「!!?」 苗「い、いいよ! そ、それは流石に…自分で食べられるから…」 舞「『あ~ん』……」 苗「ちょ、ちょっと…舞園さん?」 舞「『あ~ん』ですよ、苗木君」 苗「あ……あ~ん……」 #br パクッ モグモグ #br 舞「どうですか?」 苗「う、うん…おいしい、よ…」 舞「本当!? よかった…!」 霧「………………」 #br 舞「はい、『あ~ん』」 苗「ま、また…?」 舞「当然です。ほら、『あ~ん』して下さい!」 苗「あ、あ~ん…」 霧「………………………………」 #br #br ◆ #br #br 舞「あ、もうこんな時間…。ごめんなさい、私もう仕事に行かないと…」 苗「うん、頑張ってきてね。それからお粥、ご馳走様」 舞「どういたしまして! それじゃあまた…霧切さんも」 霧「…ええ。いってらっしゃい」 舞「はい、行ってきますね。お邪魔しました!」 #br #br ガチャ バタン #br #br 苗「……(ニヤニヤ」 #br 霧「…随分嬉しそうね」 苗「え…そ、そうかな?」 霧「…まぁ当然よね。国民的トップアイドルに手料理を振舞われて…そのうえ手ずから食べさせてもらって、嬉しくない筈がないわよね」 苗「い、いやあ…」 霧「全国一千万の舞園さやかファンに知られたら…さぞ恨まれることでしょうね、あなた」 苗「お、脅かさないでよ…はははっ…」 霧(何よ、鼻の下伸ばして…) #br #br 霧「まぁいいわ…それより食後の薬を飲まないとね」 苗「あ、ああ…そうだね」 霧「昨日処方してもらったのは、机の上のこの薬袋かしら。錠剤二つに、粉薬が一袋…」 苗「……」 霧「どうかした? 水ならそこにあるけれど」 苗「う、うん…」 #br #br ゴクン #br #br 苗「ふぅ…薬も飲んだし、一眠りでもしようかな」 霧「苗木君、まだ粉薬が残っているわよ」 苗「あ、ああ…それは…えっと、後で飲むよ」 霧「服用は食後三十分以内、と薬袋に書いてあるわ。一眠りする前に飲むべきだと思うけれど」 苗「そ、それは…」 霧「……」 苗「なんというか…その…」 霧「あなた、もしかして…粉薬が苦手だったりするの?」 苗「!」 霧「…図星みたいね。錠剤と粉薬の残数が合わないことからして、昨日も粉薬だけ飲んでいない様子だし」 苗「うっ…」 霧「まったく…子供じゃあるまいし…」 苗「そ、そうだけどさ…誰だって苦手なものの一つくらいあるでしょ!?」 霧「その通りかもしれないけれど、そういう問題ではないわ。あなただって早く治したいでしょう?」 苗「で、でも…飲まなくても、ちゃんと熱は下がってるし…」 霧「はぁ…あなたね…」 #br #br #br 霧「……ああ、そうだ。いいことを思いついたわ」 苗「…いいこと…?」 霧「あなたに薬を飲ませる方法よ」 苗「それって…?」 霧「あなたは大人しく、じっとしていなさい。私に任せておけばいいから」 苗「い、一体何を…?」 霧「…水、もらうわね」 苗「あ、そのコップ…さっき僕が…」 #br #br グッ #br #br 苗(水を口に…?) 霧「……」 #br #br ビリッ ザッ #br #br 苗(今度は…粉薬を…!?) 霧「……」 苗「あ、あの…霧切さん…?」 #br #br ガシッ #br #br 苗(か、肩を掴まれた…これって…?) 霧「……」 #br 苗「ちょ、ちょっと…顔が…近…」 霧「……」 #br 苗(って、どんどん近づいて……!!?) #br #br チュプ #br #br 苗(え…えええええ!?) 霧「……んっ……」 #br #br ゴクン #br #br 苗(薬が流れ込んで…くる…。口移しって…やつなのか…?) #br #br ゴクン ゴクン #br #br 霧「ふっ……ん……」 苗(いや…それよりも霧切さんの唇が柔らかくて…舌先がちろちろ触れて…) #br #br ゴクン ゴクン ゴクン #br #br 苗(気持ち…いい…) #br #br ◆ #br #br プハッ #br #br 霧「…ふぅ」 苗「…………」 霧「上手くいったわね」 苗「…………」 霧「粉薬なんて別にどうってこともなかったでしょう?」 苗「いや…あの…どうってことも…っていうか…」 霧「何かしら?」 #br 苗「き、霧切さん…いいいいい今のは…その…一体…!?」 霧「…何を慌てているのかしら」 苗「い、いや…だって…」 霧「最初に言ったじゃない。『あなたに薬を飲ませるためのいい考え』よ」 苗「え、ちょっ…その…それでいいの!? 霧切さん的に!?」 霧「…あなたが何を言わんとしているのか分からないわ」 苗「い…いやいやいやいやいや!」 #br #br 霧「…さて、私もそろそろ行かないとね」 苗「え?」 霧「薬も飲んだことだし、あなたもゆっくり休むといいわ」 苗「ちょ、ちょっと待ってよ…!」 霧「その調子なら、もう明日には回復しているでしょうけれど…時間があれば、また様子を見に来るわ。お休みなさい」 苗「き、霧切さん!」 #br #br ガチャ バタン #br #br #br #br 苗(な、何だったんだ…夢かコレ?) #br #br 苗(まだ…ドキドキしてる…) #br #br ◆ #br #br バタン #br #br 霧(……) #br #br 霧(やった…やってみせたわよ…) #br #br 霧(今日のところは私の勝ちよ、舞園さん…!) #br [[【続く】>6_867]] #br ----