正規のプロテクトを行わずに実質的なプロテクトをする手法のこと。
2017年の大野奨太(日本ハム→中日)のFA移籍において、中日が人的補償の際にプロテクトリスト外の岩瀬仁紀を「兼任コーチ」「引退予告」で指名を防いだ疑惑が初出。
概要
大野移籍からプロテクトリスト到着まで
2017年オフ、日本ハム・大野がFA宣言し中日へ移籍。12月20日に人的補償のプロテクトリストが到着すると、日本ハム・吉村浩GMは「ファイターズとしてインパクトがあるリスト」とコメント。この様子から、人的補償での選手の獲得があるものと予想されていた。
日本ハム 中日のプロテクトリストに「ファイターズとしてインパクトがあるリスト」と興味
~(記事前半割愛)~
気になる中日の名簿の内容については「ファイターズとしてインパクトがあるリストでした。検討する価値のあるものと考えています」と人的補償の選択を示唆。すでに栗山監督には報告済みで「簡単には決められません。監督とも相談して、時間をかけて決めたいです」。具体的な決定時期については「年内に決まるか?そこはまだ分かりません」とした。
金銭補償の決定
ところが年が明けて1月6日、日本ハムは支配下枠がギリギリにもかかわらず、新たにニック・マルティネスを獲得*1。そして14日、日本ハムは中日に対し「人的補償を求めず、金銭補償のみを受け取る」ことを発表した。
はむせんでは「増井浩俊の時は金銭だったから、大野は人的補償を選ぶだろう」と見られていたので驚きの声が大きく*2、他チームのファンからは「大和*3、野上亮磨*4らと比べ、決定に時間がかかりすぎている」「当初の計画が狂って対応に時間がかかったのでは」という指摘があがっていた。
中日 大野奨太の人的補償なし「ありがたい選択」
https://www.nikkansports.com/m/baseball/news/201801140000398_m.html
中日は14日、日本ハムからFA移籍した大野奨太捕手(31)の補償について日本ハムから「選手による補償を求めない」と通知されたことを発表した。
中日は野球協約並びにフリーエージェント規約第10条の定めにのっとり、日本ハムに金銭のみによる補償を実施する。ナゴヤ球場で取材に応じた西山和夫球団代表は「こちらは定めにのっとって対応した。人的補償ではなく、ありがたい選択をしていただいたと思っている」と話した。
東スポ報道
しかしこの3日後、東京スポーツが衝撃的なスクープを出す。
中日・岩瀬「人的補償での日本ハム移籍拒否」引退覚悟だった!
衝撃の事実が16日、発覚した。日本ハムは14日に海外フリーエージェント権を行使して中日に移籍した大野奨太捕手(31)に関し、人的補償を求めず、金銭補償を求めると発表したが、舞台裏で日本ハムはある選手に白羽の矢を立てていた。それが何と球界のレジェンド・岩瀬仁紀投手兼コーチ(43)だったのだ。
(中略)
中日としては岩瀬の指名はまさかの出来事で「岩瀬は超のつく大ベテラン。今季から兼任コーチの肩書もついている。球界の暗黙の常識からしても兼任コーチは選ばないと踏んでいたようだ」と球界関係者はいう。
チームを長きにわたって支えた功労者を人的補償で移籍させるなんてことになれば球団にとっては大失態。ファンから批判が噴出するのは間違いない。とはいえルールはルール。日本ハムサイドには少しの非もない。中日球団サイドはこの事実を岩瀬本人に伝え、納得してもらうよう努力した。しかし、頑として岩瀬は首を縦に振らず。「最後には『人的補償になるなら引退する』とまで言ったらしい」(球界関係者)
吉村GMの「複雑な要因が絡んでいる」とはこの舞台裏でのゴタゴタを指していたわけだ。
最終的にはそんな事情を見かねた日本ハムサイドが岩瀬の人的補償をやめる大人の対応を見せ、金銭補償で決着となった。中日・西山和夫球団代表(69)は金銭補償になったことに「こちらとしてはありがたい選択をしていただいた」とコメントしたが、それはまさに本音だったのだ。
こうした報道を受け、なんJでは岩瀬が日本ハムからの指名を逃れたとされる経緯を「岩瀬式プロテクト」と揶揄するようになった。
論点
「岩瀬式プロテクト」の意味
記事をよく読むと岩瀬式プロテクトには二重の意味があることが分かる。一つは「中日によれば兼任コーチは人的補償に指名しないのが球界の常識」という兼任コーチ式プロテクト。もう一つは「岩瀬は人的補償に指名されたら引退すると言っている」という引退予告式プロテクトである。日本ハムは兼任コーチ式プロテクトを突破したが、引退予告式プロテクトの前に引き下がったということである。
兼任コーチ式プロテクトの問題点
本来FAの人的補償は、球団がプロテクトした28人以外であれば自由に選択可能である。しかし兼任コーチ式プロテクトが可能になると、兼任コーチの上限までプロテクト枠を増やせるのと同義になってしまう。
しかもプロテクトリストは非公開なので、兼任コーチ式プロテクトが使われたか確認する手段がない。
そのため使用の有無で不公平が生じてしまい、特に有望な若手選手を人的補償で指名された球団のファンからは「兼任コーチ式プロテクトを使えば守れたのに」と不満が出るようになった。
引退予告式プロテクトの問題点
選手が人的補償を拒否すれば資格停止処分など重い処罰が下される上、金銭補償分の支払いも義務付けられるのが協約に定められたルールである。しかし、移籍した後についての規定は存在しないため、例えば移籍した直後に引退してしまえば罰則の対象とはならない。特にベテランの選手であれば、引退をちらつかせることによってプロテクト外でも人的補償として指名されないように仕向けることができてしまう。
今回の件が事実かどうかは後述の通り見方の分かれるところであるが、制度上の抜け道が存在することは事実である。「結局ファイターズが金銭補償を選んだのだからルール違反ではない」とする声もあるものの、この点に関しては改善を望む声も大きい。
改善案
今回の件のソースが東スポのみでありその信憑性はほぼゼロであるが、記事の真偽に関わらず人的補償のプロテクトについて上記のような抜け道があることが顕在化したため、なんJでは改善案が出されている。
例えば、「人的補償で獲得した選手が移籍直後に引退した場合には相手球団に金銭あるいは別の人的補償を要求できるようにする」方法や、MLBで採用されている「人的補償ではなく、FA獲得選手のランクに応じて翌年のドラフト指名権の一つを譲渡(BランクのFA選手を獲得したらドラフト3位の指名権を譲渡など)する」方法などが議論されている。
後日談
上述のように他紙報道が出なかったことから世間的には大きく話題にされず、なんJでも次第に風化。
そのままシーズンインすると思われていたが、3月にドラゴンズは「ベンチ入り出来るコーチは8人までというルール上の制限があるため」という理由で岩瀬と荒木雅博の兼任コーチの肩書きを解くことを発表。
兼任コーチ2人を合わせるとベンチ入りできるコーチの上限人数を超えてしまい、コーチ全員をベンチに入れられなくなってしまうということである。
しかしコーチの人数制限は最初から決まっていたことであり、ならばなぜ2人に兼任コーチの肩書を与えたのかが説明できておらず、説得力に欠ける言い分であった。
そのため、人的補償指名を回避する目的で兼任コーチの肩書を与えたのではないかと再びこの岩瀬式プロテクト(兼任コーチ式プロテクト)の問題がネット上で掘り返されることになってしまった。ただしこれまた報道では相手にされなかった。
なんJでは兼任コーチ式プロテクトの他、兼任コーチもコーチ数にカウントされるというルールを把握していなかった、というお粗末なミスではないかとネタにされた*5。
ただし同年に西武も松井稼頭央のテクニカルコーチ登録を同様の理由で抹消したため、実際にこのようなミスをしている球団がある以上、ドラゴンズ側の信憑性は増すことになった*6。
なお肝心の東スポは2018年1月19日に「中日・森監督が沖縄・北谷で「岩瀬犬」と再会!」という岩瀬本人が全く関係ない記事*7において、「岩瀬の人的補償問題が一件落着した」と一連の騒動を勝手に終結させようとした内容を記載している(東スポが勝手に騒いだ話なので、終結させるのも東スポで間違っていないが)。
2021年12月17日、川上が自身のYouTubeチャンネルの動画で話題にした。
再び脚光を浴びる
6年後の2024年、山川穂高(西武→ソフトバンク)の補償にあたり、和田毅を人的補償に指名する意向が報じられるも、実際には甲斐野央が指名されるという出来事が起こる。「長年球団に貢献した投手が人的補償として移籍が決まるも、土壇場になって変更が行われた(と報じられた)」と、本ケースとの類似点が多いことから岩瀬式プロテクトが再び話題となった。
当初は「両球団の協議の結果」としか報じられていなかったが、しばらく経って現代ビジネスが「和田が引退を示唆することで指名を回避させた」とする記事を発表。ソースがソースであるため信憑性には注意が必要であるが、6年越しに同じ騒動が発生する結果となった。