岩瀬式プロテクト

Last-modified: 2020-11-18 (水) 13:19:41

大野奨太(日本ハム→中日)のFA移籍に伴う人的補償に関して、中日が岩瀬仁紀をプロテクトリスト外にしながら指名を防いだとされたこと。また、正規のプロテクトを行わずに実質的なプロテクトをするその手法。

概要

大野移籍からプロテクトリスト到着まで

2017年オフ、日本ハム・大野がFA宣言し中日へ移籍。12月20日に人的補償のプロテクトリストが到着すると、日本ハム・吉村浩GMは「ファイターズとしてインパクトがあるリスト」とコメント。この様子から、人的補償での選手の獲得があるものと予想されていた。

日本ハム 中日のプロテクトリストに「ファイターズとしてインパクトがあるリスト」と興味

https://www.tokyo-sports.co.jp/sports/baseball/865294/

~(記事前半割愛)~

気になる中日の名簿の内容については「ファイターズとしてインパクトがあるリストでした。検討する価値のあるものと考えています」と人的補償の選択を示唆。すでに栗山監督には報告済みで「簡単には決められません。監督とも相談して、時間をかけて決めたいです」。具体的な決定時期については「年内に決まるか?そこはまだ分かりません」とした。

金銭補償の決定

ところが年が明けて1月6日、日本ハムはニック・マルティネスを獲得。この時点で支配下登録選手が69人となり、人的補償を求めれば枠が埋まってしまうため、これを見送るのではないかとも考えられた。そして14日、日本ハムは中日に対し「人的補償を求めず、金銭補償のみを受け取る」ことを発表した。
はむせんでは「増井浩俊の時は金銭だったから、大野は人的補償を選ぶだろう」と見られていたので驚きの声が大きく(しかしながら登録枠が埋まるので当然という声もあった)、他チームのファンは「大和(阪神→DeNA。補償は尾仲祐哉)、野上亮磨(西武→巨人。補償は高木勇人)らと比べ、決定に時間がかかりすぎている」「当初の計画が狂って対応に時間がかかったのでは」という指摘があり、岩瀬式プロテクトの存在を考えさせられる一因となった。

中日 大野奨太の人的補償なし「ありがたい選択」

https://www.nikkansports.com/m/baseball/news/201801140000398_m.html

中日は14日、日本ハムからFA移籍した大野奨太捕手(31)の補償について日本ハムから「選手による補償を求めない」と通知されたことを発表した。

中日は野球協約並びにフリーエージェント規約第10条の定めにのっとり、日本ハムに金銭のみによる補償を実施する。ナゴヤ球場で取材に応じた西山和夫球団代表は「こちらは定めにのっとって対応した。人的補償ではなく、ありがたい選択をしていただいたと思っている」と話した。

東スポ報道

しかしこの三日後、東京スポーツが衝撃的なスクープを出す。

中日・岩瀬「人的補償での日本ハム移籍拒否」引退覚悟だった!

https://www.tokyo-sports.co.jp/sports/baseball/888415/

衝撃の事実が16日、発覚した。日本ハムは14日に海外フリーエージェント権を行使して中日に移籍した大野奨太捕手(31)に関し、人的補償を求めず、金銭補償を求めると発表したが、舞台裏で日本ハムはある選手に白羽の矢を立てていた。それが何と球界のレジェンド・岩瀬仁紀投手兼コーチ(43)だったのだ。岩瀬の日本ハム移籍はなぜ幻となったのか。詳細をお伝えする。

(中略)

球界関係者によると、そのインパクトある選手が「岩瀬だった」。昨季、プロ野球新記録となる950試合登板を達成した岩瀬は、4年ぶりに50試合登板、3勝6敗2セーブ、防御率4・79の好成績を残してカムバック賞を受賞した。今年44歳となるが日本ハムサイドはまだ十分にやれると判断。当初から日本ハムは人的補償として左のリリーフ投手をターゲットにしており、誰よりも多くの場数を踏んでいる左腕の経験もチームにプラスの影響を与えることも考慮したのだろう。

(中略)

実は日本ハムから岩瀬の指名を受けた中日は、大混乱に陥っていた。中日としては岩瀬の指名はまさかの出来事で「岩瀬は超のつく大ベテラン。今季から兼任コーチの肩書もついている。球界の暗黙の常識からしても兼任コーチは選ばないと踏んでいたようだ」と球界関係者はいう。

チームを長きにわたって支えた功労者を人的補償で移籍させるなんてことになれば球団にとっては大失態。ファンから批判が噴出するのは間違いない。とはいえルールはルール。日本ハムサイドには少しの非もない。中日球団サイドはこの事実を岩瀬本人に伝え、納得してもらうよう努力した。しかし、頑として岩瀬は首を縦に振らず。「最後には『人的補償になるなら引退する』とまで言ったらしい」(球界関係者)

吉村GMの「複雑な要因が絡んでいる」とはこの舞台裏でのゴタゴタを指していたわけだ。

最終的にはそんな事情を見かねた日本ハムサイドが岩瀬の人的補償をやめる大人の対応を見せ、金銭補償で決着となった。中日・西山和夫球団代表(69)は金銭補償になったことに「こちらとしてはありがたい選択をしていただいた」とコメントしたが、それはまさに本音だったのだ。

そしてなんJでは「岩瀬式プロテクト」の呼び名が生まれた。


論点

「岩瀬式プロテクト」の意味

記事をよく読むと岩瀬式プロテクトには二重の意味があることが分かる。一つは「中日によれば兼任コーチは人的補償に指名しないのが球界の常識」という兼任コーチ式プロテクト。もう一つは「岩瀬は人的補償に指名されたら引退すると言っている」という引退予告式プロテクトである。日本ハムは兼任コーチ式プロテクトを突破したが、引退予告式プロテクトの前に引き下がったということである。

兼任コーチ式プロテクトの問題点

本来FAの人的補償は、球団がプロテクトした28人以外であれば自由に選択可能である。しかし兼任コーチ式プロテクトが可能になると、兼任コーチの上限までプロテクト枠を増やせるのと同義になってしまう。
しかもプロテクトリストは非公開なので、兼任コーチ式プロテクトが使われたか確認する手段がない
そのため使用の有無で不公平が生じてしまい、特に有望な若手選手を人的補償で指名された球団のファンからは「兼任コーチ式プロテクトを使えば守れたのに」と不満が出るようになった。

引退予告式プロテクトの問題点

選手が人的補償を拒否すれば資格停止処分など重い処罰が下される上、金銭補償分の支払いも義務付けられるのが協約に定められたルールである。しかし、移籍した後についての規定は存在しないため、例えば移籍した直後に引退してしまえば罰則の対象とはならない。特にベテランの選手であれば、引退をちらつかせることによってプロテクト外にも関わらず人的補償として指名されないように仕向けることができてしまう。
ただし、任意引退の場合原則として選手の希望によるものであるため、プロ野球界に復帰する場合には最終所属球団に復帰しなければならず、他球団に復帰する場合には最終所属球団の許可が必要である。
そのためファイターズが獲得してその後引退しても得るものはない。
今回の件が事実かどうかは後述の通り見方の別れるところであるが、制度上の抜け道が存在することは事実といえる。「結局ファイターズが金銭補償を選んだのだからルール違反はない」とする声もあるものの、この点に関しては改善策を望む声も大きい。

改善案

今回の件のソースが東スポのみであり、その信憑性は懐疑的であるが、記事の真偽に関わらず、人的補償のプロテクトについて上記のような抜け道があるのは顕在化されたため、なんJでは改善案が出されている。
例えば、「人的補償で獲得した選手が引退した場合には相手球団に金銭あるいは別の人的補償を要求できるようにする」方法や、MLBで採用されている「人的補償ではなく、FA獲得選手のランクに応じて翌年のドラフト指名権の一つを譲渡(BランクのFA選手を獲得したらドラフト3位の指名権を譲渡など)する」方法などが議論されている。

ソースの信頼性について

この問題を積極的に報じているのは東京スポーツだけ*1である。当初の報道以降有効打となる記事を出せていない上、日頃飛ばし記事を多発している東スポゆえ信頼しがたいという意見は一定数見られる。
またスポーツ紙にはよく見られることだが、情報は全て「球界関係者」など匿名の提供であり、信頼できるソースとは言いきれない(むしろ「関係者」を笠に着て好き勝手書くこともある)。

しかし、いくら東スポといえども、訴訟のリスクを低減するために飛ばし記事ならば「とある大物選手」などと書くのが常であるから、岩瀬という実名を出すのは何らかの根拠があるのではないかという意見もある*2
また、東スポも中日に関してはスクープを多数当てていることや、「インパクトのあるリスト」としながら金銭補償を選んだファイターズ、記事が出る前の段階でわざわざ「定めにのっとって対応した」とコメントしたドラゴンズという両球団の不自然な行動も、東スポの記事が事実ならば上手く説明できる*3という点もこの報道を信頼する理由として挙げられることがある*4

だが開幕前に支配下選手枠を埋めるということは育成選手制度採用前から行われておらず、マルティネス獲得で説明できるという意見もあり、週刊新潮でもこの点から日本ハムの岩瀬獲得が本気であったとは考えられないと断定する記事を出している。なお日本ハムはシーズン開幕直後に異例と言える同一リーグへ金銭トレードをして開き枠を増やしている*5

どちらにせよ当事者である両球団と岩瀬からのコメントは出ておらず、また今後もコメントが出ることはないと予想されており、事態は解明されないままになると見られている。

後日談

上述のように他紙報道が出なかったことから問題は次第に風化。しかしそのままシーズンインすると思われていた3月、ドラゴンズは岩瀬と荒木雅博兼任コーチの肩書きを解くことを発表。「ベンチ入り出来るコーチは8人までというルール上の制限があるため」という理由が発表された。
つまり、兼任コーチ2人を合わせるとコーチ数の上限を超えてしまい、コーチ全員をベンチに入れられなくなってしまうということである。しかしコーチの人数制限は最初から決まっていたことであり、なぜわざわざ兼任コーチの肩書を与えたのかが説明できておらず、説得力に欠ける言い分であった*6
そのため、人的保障指名を回避する目的で兼任コーチの肩書を与えたのではないかと再びこの岩瀬式プロテクト(兼任コーチ式プロテクト)の問題が掘り返されることになってしまった。
しかし、西武も同年に松井稼頭央のテクニカルコーチ登録を同様の理由で抹消したため、ドラゴンズの言い分の信憑性も若干増すことになった*7
なお肝心の東スポは2018年1月19日に「中日・森監督が沖縄・北谷で「岩瀬犬」と再会!」という岩瀬本人が全く関係ない記事において、「岩瀬の人的補償問題が一件落着した」と一連の騒動を勝手に終結させようとした内容を記載している*8

関連項目


*1 サンケイスポーツ週刊文春、週刊新潮などでこの件に触れる記事があったが、全て東スポが報じた内容に関する感想で、独自の取材やソースなどは見られなかった。また前者2つは外部コラムである。
*2 ただし岩瀬の名誉毀損等で訴訟に及ぶ場合には、争点であり機密情報でもあるプロテクトリストを開示しなければならないので、そこまで踏み込んでこないだろうと判断しこのように記事を書いた可能性も否定できない。
*3 また、地元・CBCの若狭敬一アナウンサーも報道後に意味深なコメントをラジオで残している。
*4 それに対しては、「両球団の不自然な行動を上手く説明するストーリーを東スポが考えただけだ。むしろ伏線を綺麗に回収しすぎているのが作り話っぽい」という再反論もある。
*5 通常同一リーグのトレードは春季キャンプ前までに行われる。
*6 なんJでは、兼任コーチもコーチ数のカウントに含まれるというルールを把握していなかっただけのお粗末なミスではないかとも言われている(実際中日フロントは2011年にも、井端弘和の目の治療に使う薬の許可期限が切れていることを忘れ継続申請もしなかったため、当該薬が原因で井端がドーピング検査に引っ掛かり一大騒ぎになるという大ポカをやらかした前科がある)。
*7 松井は岩瀬や荒木とは違って2017年シーズン終了後に獲得したこと、そして人的補償の必要がなくプロテクトする必要がなかったことから、人数制限の把握ミスとしか説明しようがない。実際にミスしている球団がある以上、中日が本当にミスをした可能性も十分あると言える。
*8 https://www.tokyo-sports.co.jp/baseball/npb/899812/?amp