投手増田

Last-modified: 2022-06-14 (火) 18:59:41

2020年8月6日、阪神対巨人戦(甲子園)の8回裏に起きた珍事。


【目次】


概要・試合経過

8回裏・阪神の猛攻

この日、巨人は今季初登板の先発・高橋遥人の好投の前になす術なく8回まで無得点。更に投手陣も4失点しており、試合の大勢は決した状況であった。
すると8回裏、巨人は敗戦処理として堀岡隼人をマウンドに送るが大誤算。守備でミスをした*1こともあり3連打で簡単に1点を失った後に無死満塁とし、さらにタイムリー・押し出しで失点を重ね、なんとか1アウトを奪うもトドメとばかりにジョー・ガンケルの代打・中谷将大から満塁ホームランを被弾、1/3回で7失点と大爆発炎上してしまった。

一気に負けムードが加速してしまったところで原辰徳監督が動いたのだが……。


増田登板

原監督がマウンドに送ったのは本来は内野手の増田大輝。球場は勿論の事テレビ中継などでも驚きの声が上がった。
そんな増田は日本テレビ解説・赤星憲広氏の困惑*2をよそに最速138km/hの速球にスライダーを交えた、テンポの良い投球を披露
まず近本光司を二ゴロに仕留め、続く江越大賀には四球を与えた*3ものの4番・大山悠輔は2球で右飛に打ち取り、プロ初登板となるマウンドで見事2/3回を打者3人13球・無安打無失点に斬ったのである。


周囲の反応

当然ながらこの起用法は話題になり、阪神ファンからは「高橋の好投*4が霞んでしまった」と話題性をかっさらわれてしまったことを嘆く声が聞かれたほど。
ネット上には巨人に限らずプロ野球ファンから「作戦としてはあり」「ただ負けるだけで終わらず、面白いものが見られた」「素晴らしいピッチングでファンをワクワクさせた」や「堀岡が可哀想」「阪神に失礼」などの賛否両論が上がった。
 
巨人OBの中でも評価は割れており、堀内恒夫が自身のブログにて「相手は馬鹿にされていると感じないだろうか。首位のチームがこんなことをやっちゃいけない。今日の試合にコメントはしたくない」と怒りをあらわにした他、廣岡達朗も「巨人のようなチームがやってはいけない采配。最後まで最善を尽くさないのは観客にも阪神にも失礼」と苦言を呈した*5
その一方、上原浩治は自身のTwitterにて「限られた人数でどう起用するかは監督の判断。きちんと投げられる野手をピッチャーに使うのは失礼にはならない」「巨人だからダメなんて、そっちの方がおかしいと思う」と擁護。

張本勲は「堀内は投手出身。そこは堀内の考えもあるし、一つの意見としてそれはいいと思う」と堀内の考えに理解を示しつつも「あっぱれだ。なかなかできない。立派なものだよ」と原に対して称賛を送りサンモニでもほぼ同様のコメントを残している。

また、非巨人OBだがダルビッシュ有はTwitterのリプライにて「最高です。大敗しているときは全然ありです。しかも増田選手、投手の才能あると思います」と絶賛のコメントを残している。


原監督本人のコメント

なお、原監督は試合後のインタビューにて以下のようなコメントを残している。

【巨人】原監督、球史に残るビックリ采配!野手の増田大輝を投手で起用「最善策ですね」
https://hochi.news/articles/20200806-OHT1T50251.html


原監督は「チーム最善策ですね。あそこのね。まあやっぱり6連戦という連戦、連戦、連戦のなかでね。あそこをフォローアップする投手というのはいないですね*6。それはだって、一つの作戦だからね。あそこで堀岡を投げさせることの方がはるかに失礼なことであってね」と説明した。

基本的には「連戦で勝ちパターンを使う訳にはいかないが晒し投げもさせたくない」という意図だろうと思われるが、最後の「あそこで堀岡を投げさせることの方がはるかに失礼なこと」という、過去の投手に対する容赦ない発言たちに匹敵する恐ろしいコメントに、「原監督は本気で堀岡にブチギレているのでは」と戦慄を覚えたファンも多い。
哀れ堀岡は防御率を1.69*7から一晩で11.12まで破壊され、「野手の増田より酷い」という扱いをされた挙句、翌8月7日に登録抹消、非情にも多摩川送りとなったのであった。


余談

  • 野手がマウンドに上がった例はNPBではオレステス・デストラーデ(元西武)や五十嵐章人*8(元ロッテ他)がいるが、珍しい事であるのは事実である。
    • ちなみにMLBではそこまで珍しいことではなく*9、過去には青木宣親やイチロー*10にも登板記録がある。
  • 増田は元々投手であり、小松島高校3年生時の夏の徳島県大会では全試合完投をしているが、甲子園には出場できなかった。このこともあってか、この試合でマウンドに上がった際は笑顔で投球練習を行う増田の姿が日本テレビの中継カメラに映し出されており*11、試合後にも「甲子園で投げられてすごく嬉しい」というコメントを残している。
  • 内外野複数のポジションをこなしその俊足と守備力に定評のある増田はこの登板によって7ポジションでの一軍出場を達成。過去2人しか達成者のいない全ポジションでの出場*12まで残りは捕手と一塁のみになったが、2021年3月30日の中日戦で9回*13に一塁の守備に付き、全ポジションでの出場にリーチをかけた。その捕手に関しても2019年終盤に緊急時の備えとして準備をしている。
  • 増田が選出されたことについて宮本コーチは「危機管理として投手出身の野手とかリサーチしていた」と語っており*14、決してその場の思いつきなどではなく緊急事態となったときの備えとして準備されていたものである。増田自身にも昨年の時点で既に登板の可能性について伝えられていたとのこと。
  • この試合の1週間後、13日に巨人二軍が中央大学と対戦し7-20というスコアで惨敗*15。その後のインタビュー記事に以下の発言がある。

    【巨人】阿部2軍監督、中大に20失点「母校が強くなって良かった」「増田大輝を借りる」
    https://hochi.news/articles/20200813-OHT1T50128.html


    阿部監督は「今後、社会人とかアマチュアとやる時はガチでやる*16。年齢関係なく。相手に失礼だと思った。3軍のピッチャーとか投げさせられない。そういう時は増田大輝を借りる」と、先日、1軍で大量リードを許す場面で登板して好投した内野手の増田大の名を挙げ、若手に奮起を促した。


未遂

2020年9月17日の試合(同カード、東京ドーム)では9回表に田中豊樹が四球を連発した上に田中俊太の2連続エラーもあって4失点の炎上。その際に中継で映されたブルペンにはなんと増田の姿が。結局ランナーがゼロにならなかった*17こともあって登板には至らなかった。


中日・根尾も

2022年4月2日の中日対広島戦(バンテリンドーム)は延長12回までもつれ、中日はベンチ入り投手を使い切ってしまう。そのため有事に備えて高校時代甲子園での登板経験がある根尾昂がブルペンに入り、投球練習を行う姿が映された。最後の投手である森博人が12回の守りを完了させたため実際にマウンドには上がらなかったが、高校時代の姿を知るファンも多いため各方面で話題になった。
その後、二軍戦ではあるものの、5月8日の阪神対中日戦(甲子園)にて根尾は実際に投手として登板。1失点したものの最速150km/hを計測し三振も奪うなど、本職の投手と遜色ない投球を見せる。(参照)。
そして、5月21日の広島戦(マツダスタジアム)、1-10の8回裏にて一軍の公式戦においてもプロ初登板を果たす。二軍戦と同じく最速150kmを計測し、先頭の坂倉将吾に安打を許すも後続は打ち取り1回を無失点に抑えている。
その8日後となる5月29日のオリックス戦(京セラドーム大阪)でも0-8の8回裏に登板。先頭の小田裕也、宗佑磨を打ち取り、続く宜保翔には安打を許すも4番のジョー・マッカーシーを中飛に抑えこちらも1回を無失点に抑えている。
そして同年の交流戦終了後の6月14日に本格的に投手に転向することが発表された。


関連項目



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*1 無死一塁の場面で大山悠輔の投ゴロを二塁に悪送球。二塁は一度はアウトと判定されるもリクエストで判定が覆りセーフとなった。
*2 赤星は中継で「増田が内野近くで練習しているのを見て、守備交代を行うのかと思った」と発言している。
*3 ただし、フルカウントから球審によってはストライクに取ってもおかしくはない際どいコースに投げ込み四球になっている。
*4 7回を投げて11奪三振無失点。
*5 さらに廣岡は「一軍のレベルに達していない(二軍で育てるべき)投手に投げさせた監督の責任」と、そもそもの発端となった堀岡の起用にも批判のコメントを残している。
*6 後述の通りに先発のC.C.メルセデスが早期KOされたことで早い回から継投を強いられ、この時点で残っていた投手は大江竜聖・大竹寛・鍵谷陽平・中川皓太と勝ちパターンの面々しかいなかった。
*7 堀岡はここまでは5回1/3で1失点(自責点1)と好投していた。
*8 ちなみに五十嵐は「全ポジション出場」と「全打順で本塁打」を両方達成した唯一の選手。しかし、監督だった仰木彬が五十嵐を登板させた理由はファンサービスというのもあるが、彼の前に登板した投手やコーチに怒りを向けていたというのもあった。
*9 MLBはNPBと比べ「試合数が多い」「選手登録枠が少ない」「延長が無制限」という特徴から投手が足りない、もしくは敗戦濃厚の場面でリリーフ投手を温存させておきたい事態が起こりがちであるため。これに伴い、野手が登板する場面では野手が足りなくなることもあるので、逆に登板予定が無い投手が守備に就くという場面も度々見られる。ちなみにMLBでは2021年シーズンから「野手の登板は6点差以上または延長イニングのみ」という規制が導入された。
*10 2人とも高校時代は投手であり、イチローは公式戦以外でも1996年オールスター第2戦で登板している。
*11 この姿が画面に映る直前、番組では試合ハイライトのVTR映像へと移行しようとしていたが、テレビ局のスタッフが寸前で気付いたのか、ハイライト映像を流さず投球練習中の増田の姿をすぐに映し出していた。
*12 前述の五十嵐のほか、消化試合の余興として1試合で全ポジションに付いた経験を持つ高橋博士(元東映他)がいる。
*13 2021年はコロナに伴う特別ルールのため9回打ち切り。試合は3-3の引き分けに終わっている。
*14 宮本コーチは同記事で「岸田行倫(捕手)も候補にあった」と語っている。こちらは報徳学園高校在籍時に甲子園の出場経験があり、また3年生時の夏に1度ではあるが甲子園で登板も果たしている。
*15 当時の中央大キャプテンだった牧秀悟(現DeNA)はホームランを含む3打数2安打3四球の活躍。
*16 この試合の先発は桜井俊貴だったが、それ以降の投手陣は全て育成投手で、野手陣も育成をメインとした選手で臨んでいた。この試合の大敗を受けて「今後はそうしたこと(=出場選手を育成要員主体で固めること)はやめる」という意味と思われる。そのため、15日の上武大戦には10日に三軍落ちした際に「しばらくはボールも握らせない」と言われていた澤村拓一が1イニングのみだが先発登板した。
*17 前回登板時にも「ホームランでランナーがいなくなったことで登板の決断に至った」と語られていた。
*18 投手でありながら打撃能力を買われ窮地で結果を残した、増田の逆パターン。
*19 こちらは結果を残せなかった上に采配ミスに起因するため、「『ピッチャー増田』の対義語」とも言われている。
*20 こちらは審判への暴言で退場という不測の事態により、野手がいなくなったパターン。
*21 こちらは監督がDH制のルールを誤認していたことにより、打席に立たざるを得なくなったパターン。一応仕事は果たしている。