投手増田

Last-modified: 2025-03-17 (月) 11:13:32

2020年8月6日、阪神対巨人戦(甲子園)の8回裏に起きた珍事。


概要・試合経過

この日、巨人は先発のC.C.メルセデスが4回途中4失点でKOされ、また打線も8回まで無得点と、試合の大勢は決した状況であった。
その後8回裏に敗戦処理として堀岡隼人を送るが、守備のミスやタイムリー、押し出しを含む四球祭りで場を荒らすだけ荒らすと、中谷将大に満塁ホームランを献上し、1/3回7失点と大爆発炎上。一気に負けムードが加速してしまったところで原辰徳監督が動いたのだが……。

原監督がマウンドに送ったのはなんと内野手登録の増田大輝。球場は勿論のこと、テレビ中継などでも驚きの声が上がった。
そんな増田は日本テレビ解説・赤星憲広氏の困惑*1をよそに、最速138km/hの速球にスライダーを交えた、テンポの良い投球を披露。プロ初登板となるマウンドで見事2/3回を打者3人13球・無安打無失点に斬ったのである。

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試合結果

周囲の反応

当然ながらこの起用法は話題になり、阪神ファンからは「高橋*2の好投が霞んでしまった」と話題性をかっさらわれてしまったことを嘆く声が聞かれたほど。
ネット上には巨人に限らずプロ野球ファンから「作戦としてはあり」「ただ負けるだけで終わらず、面白いものが見られた」「素晴らしいピッチングでファンをワクワクさせた」や「堀岡が可哀想」「阪神に失礼」などの賛否両論が上がった他、巨人OBの中でも評価は以下のように大きく割れていた。

  • 中立派
    • 江川卓
      自身が出演する『Going!』にて「これは、バッテリーを経験した人と野手を経験した人ではまったく意見が変わります。バッテリーを経験した人は『ノー』です。受け入れられない。野手を経験した人は『今年は特殊で連戦が多いのでリリーフピッチャーを楽にしてあげよう』という気持ちも大きいので、これはいいんじゃないのという意見があると思います。どっちが正しいということじゃなくて出身によって意見が変わるという…」と、投手出身ゆえに否定派寄りの意見を出しつつも野手出身の原ならそういう考えに至るかもしれない、という見解を述べている。
    • 張本勲
      「堀内は投手出身。そこは堀内の考えもあるし、一つの意見としてそれはいいと思う」と堀内の考えに理解を示しつつも「あっぱれだ。なかなかできない。立派なものだよ」と原に対して称賛を送り、『サンモニ』でもほぼ同様のコメントを残している。

また、巨人以外のところではダルビッシュ有がTwitter(現X)のリプライにて「最高です。大敗しているときは全然ありです。しかも増田選手、投手の才能あると思います」と、絶賛のコメントを残している。

原監督本人のコメント

原監督は試合後のインタビューにて以下のようなコメントを残している。

【巨人】原監督、球史に残るビックリ采配!野手の増田大輝を投手で起用「最善策ですね」


原監督は「チーム最善策ですね。あそこのね。まあやっぱり6連戦という連戦、連戦、連戦のなかでね。あそこをフォローアップする投手というのはいないですね*4。それはだって、一つの作戦だからね。あそこで堀岡を投げさせることの方がはるかに失礼なことであってね」と説明した。

基本的には「連戦で勝ちパターンを使う訳にはいかないが晒し投げもさせたくない」という意図だろうと思われるが、最後の「あそこで堀岡を投げさせることの方がはるかに失礼なこと」という、過去の投手に対する容赦ない発言たちに匹敵する恐ろしいコメントに、「原監督は本気で堀岡にブチギレているのでは」と戦慄を覚えたファンも多い。
哀れ堀岡は防御率を1.69*5から一晩で11.12まで破壊され、「野手の増田にも及ばない」という扱いをされた挙句、翌8月7日に登録抹消、非情にも多摩送りとなったのであった。
またこれ以降、堀岡が打たれた際は実況スレに「失礼」と書かれるようになり、堀岡自身も「失礼な投手」という蔑称を頂戴することとなってしまった。

補足

  • 他の野手がマウンドに上がった例として、NPBではオレステス・デストラーデ(元西武)や五十嵐章人*6(元ロッテ他)、1999年に内野手登録ながら17試合に登板したフェリックス・ペルドモ*7(元広島)がいるが、珍しい事であるのは事実である。
    • MLBではそこまで珍しいことではなく、過去には青木宣親イチロー*8にも登板記録がある。
      • MLBはNPBと比べ「試合数が多い」「選手登録枠が少ない」「延長が無制限」という特徴から投手が足りない、もしくは敗戦濃厚の場面でリリーフ投手を温存させておきたい事態が起こりがちであるため。これに伴い、野手が登板する場面では野手が足りなくなることもあるので、逆に登板予定が無い投手が守備に就くという場面も度々見られる。ちなみにMLBでは2021年シーズンから「野手の登板は6点差以上または延長イニングのみ」という規制が導入され、2023年シーズンからは点差が「8点以上リードされる」または「10点以上リードしている際の9回」に厳格化された。
      • NPBはMLBと比べて試合数や選手登録枠が緩いため、単純に野手を登板させてまで投手を温存したい場面が少ないことがNPBで野手登板が定着しづらい理由の一つだと考えられている。
  • 増田は元々投手であり、小松島高校3年生時の夏の徳島県大会では全試合完投をしているが、甲子園には出場できなかった。このこともあってか、この試合でマウンドに上がった際は笑顔で投球練習を行う増田の姿が日本テレビの中継カメラに映し出されており*9、試合後にも「甲子園で投げられてすごく嬉しい」というコメントを残している。
  • 内外野複数のポジションをこなしその俊足と守備力に定評のある増田はこの登板によって7ポジションでの一軍出場を達成。過去2人しか達成者のいない全ポジションでの出場*10まで残りは捕手と一塁のみになったが、2021年3月30日の中日戦で9回*11に一塁の守備に付き、全ポジションでの出場にリーチをかけた。その捕手に関しても2019年終盤に緊急時の備えとして準備をしている。
  • 当時大学4年生で、同年のドラフト会議で阪神に1位指名された佐藤輝明がこの試合をスタンドで観戦していた。以下日刊スポーツより抜粋。

    【阪神】逆転弾佐藤輝明が見た甲子園「大学4年の時に」激レアシーン遭遇…何が起こるか分からない


    西宮生まれの少年は幼少期から自転車で甲子園へ通った。近大へ進学するとスタンドから見ることは少なくなった。それでも、ハッキリと覚えている試合がある。「大学4年の時に見に行ったんです。増田さんがピッチャーやった試合でしたね」。
    20年8月6日の阪神-巨人戦。内野手の増田大輝が緊急登板した試合だ。「たまたま、すごい試合を見ました。ベンチ前でキャッチャーとキャッチボールしてるな…と思ったら、そのままマウンドに行ったので。めっちゃ覚えてます」。野球は何が起こるか分からない。大学生の青年が「伝統の一戦」であらためて感じた。今はプロ野球選手として、とてつもないワクワクを虎党に届ける。


未遂

2020年9月17日の試合(同カード、東京ドーム)では9回表に田中豊樹四球を連発した上に田中俊太の2連続エラーもあって4失点の炎上。その際に中継で映されたブルペンにはなんと増田の姿が。結局ランナーがゼロにならなかった*15こともあって登板には至らなかった。

類似例

投手根尾

詳細

2022年4月2日の中日対広島戦(バンテリンドーム)は延長12回までもつれ、中日はベンチ入り投手を使い切ってしまう。そのため有事に備えて外野手登録の根尾昂がブルペンに入り、投球練習を行う姿が映された。最後の投手である森博人が12回の守りを完了させたため実際にマウンドには上がらなかったが、投手としても活躍していた高校時代の姿を知るファンも多く、各方面で話題になった。

その後、二軍戦ではあるものの、5月8日の阪神対中日戦(甲子園)にて根尾は実際に投手として登板。1失点したものの最速150km/hを計測し三振も奪うなど、本職の投手と遜色ない投球を見せる。
一軍では5月21日の広島戦(マツダスタジアム)の1-10の8回裏にプロ初登板を果たす。二軍戦と同じく最速150kmを計測し、先頭の坂倉将吾に安打を許すも後続は打ち取り1回を無失点に抑えている。
8日後の5月29日のオリックス戦(京セラドーム大阪)でも0-8の8回裏に登板。先頭の小田裕也、宗佑磨を打ち取り、続く宜保翔には安打を許すも4番のジョー・マッカーシーを中飛に抑えこちらも1回を無失点に抑えている。

そして同年の交流戦終了後の6月14日、根尾が投手登録に変更される*16ことが発表された。


投手北村

詳細

2023年9月2日のDeNA対巨人戦(横浜スタジアム)。先発の横川凱が1回3失点で降板し、後を継いだ6人の救援陣も断続的に失点を重ねた結果、巨人は8回裏開始時点で4-12と大量リードを許してしまう。
残り投手には負傷離脱した大勢の代役として抑えを務めていた中川皓太と、唯一まともに信頼できる中継ぎのアルベルト・バルドナード*17が控えていたが、ここで巨人ベンチは彼らを温存し内野手の北村拓己がマウンドへ。3年ぶりの野手登板が実現した。
北村は、最速141km/hの速球にスライダーを交えるピッチングで、山本祐大に被弾こそ許したものの1回を打者4人で終わらせ、敗戦処理の役割を果たした。

先述の増田の前例から「原監督ならやりうる」という前提があったことや、そのおよそ1週間前に中日・近藤廉が晒し投げに近い投球をさせられたことが物議を醸したこともあって、前回ほどの否定的な反応もなく受け入れられる傾向にあった。むしろ3ゲーム差で追いかけるCS争いの直接対決という負けられない試合で不甲斐ない結果に終わった投手陣が悪い、という流れで落ち着いている。

なお、高校時代は投手だった増田とは違い、北村は高校・大学時代は主にサード・ショートのレギュラーであり公式登板は中学生時代以来だった。また、登板自体は本人の志願らしい
さらに北村は増田と異なり9回表には打席にも立ったが、DeNAの6番手・宮城滝太から死球を受けてしまう。そのため「投手に死球を与えるとはどういうことか」と宮城への批判も飛び交った模様。

ちなみに増田はこの時二軍で、また増田の際に候補に挙がった岸田も5回に田中千晴の代打で出場した。

試合後、原監督は「北村がピッチャー陣を助けてくれました。非常に感謝します」と感謝しつつも「リリーフピッチャーとして初球にストライクを入れたというのは、久しぶりだね」という増田登板時にも匹敵する畜生コメント残している

翌日の試合でも先発・井上温大が2回0/3でKOされ2夜連続での野手登板が期待されたが、2番手の松井颯が井上の残したランナーを全て帰して以降はリリーフ陣が無失点で抑え、前日の汚名を返上。打線の反撃もあり逆転勝利した。特に北村のおかげで温存できた2人は、バルドナードは7回から登板し2イニングを投げ無失点で勝利投手、中川は最終回を三者凡退に抑えセーブを挙げており、北村の貢献が実った勝利とも言える。

その後9月18日のヤクルト戦(東京ドーム)では、延長12回裏に北村の二塁打と増田の適時打でサヨナラ勝利を収め*18、「投手2人による劇的サヨナラ」などと話題になった。


パワプロ・プロスピにおいて

ゲーム『パワフルプロ野球』シリーズにおいては、『2022』のアップデートで増田・根尾の2人に実戦向けの投手能力が搭載された*19。野手登録でありながら投手としての能力も付与されたのはパワプロ10の宮出隆自*20以来。ただ根尾は投手登録となったため、このようなパターンが成立するのは当バージョンのみ。次回アップデートでは投手登録でありつつ野手の守備適性も持った選手として扱われるようになった。
また、同作の2023年度版最終アップデートでは、北村も投手能力搭載となった。

一方『プロ野球スピリッツ』シリーズにおいては当初野手の登板が不可能だったことから、増田には特段の対応はとられず。根尾に関しては、投手根尾を新しく選手登録した上で野手根尾をフリー枠*21に移動する対応がとられた。
しかし『2024-2025』からは野手の登板に対応。伴って増田と北村にも投手能力が搭載された。

関連項目

Tag: 巨人 HARA語


*1 赤星は中継で「増田が内野近くで練習しているのを見て、守備交代を行うのかと思った」と発言している。
*2 髙橋遥人。この日は7回11奪三振無失点と巨人打線を翻弄した。
*3 ちなみに後述の投手北村の時は「それについてはここで何かを言うことはないかな」とノーコメントであった。
*4 増田登板の時点で残っていた投手は、大江竜聖・大竹寛鍵谷陽平・中川皓太と勝ちパターンの面々しかいなかった。
*5 堀岡はここまでは5回1/3で1失点(自責点1)と好投していた。
*6 「全ポジション出場」と「全打順で本塁打」を両方達成した唯一の選手。しかし、オリックスの監督だった仰木彬が五十嵐を登板させた理由はファンサービスというのもあるが、彼の前に登板した投手やコーチに怒りを向けていたというのもあった。
*7 元々は1996年に内野手だったが97~98年は投手専任を経て99年に内野手に再転向。大谷翔平登場以前に活躍した元祖ともいえる二刀流選手。
*8 2人とも高校時代は投手であり、イチローは公式戦以外でも1996年オールスター第2戦で登板している。
*9 この姿が画面に映る直前、番組では試合ハイライトのVTR映像へと移行しようとしていたが、テレビ局のスタッフが寸前で気付いたのか、ハイライト映像を流さず投球練習中の増田の姿をすぐに映し出していた。
*10 前述の五十嵐のほか、消化試合の余興として1試合で全ポジションに付いた経験を持つ高橋博士(元東映他)がいる。
*11 2021年はコロナに伴う特別ルールのため9回打ち切り。試合は3-3の引き分けに終わっている。
*12 宮本コーチは同記事で「岸田行倫(捕手)も候補にあった」と語っている。こちらは報徳学園高校在籍時に甲子園の出場経験があり、また3年生時の春に1度ではあるが甲子園で登板も果たしている。
*13 当時の中央大キャプテンだった牧秀悟(現DeNA)はホームランを含む3打数2安打3四球の活躍。この他にも森下翔太(現阪神)、五十幡亮汰(現日本ハム)、古賀悠斗(現西武)と、後にプロ野球の一軍で活躍する選手たちがスタメンに名を連ねていた。
*14 この試合の先発は桜井俊貴だったが、それ以降の投手陣は全て育成投手で、野手陣も育成をメインとした選手で臨んでいた。この試合の大敗を受けて「今後はそうしたこと(=出場選手を育成要員主体で固めること)はやめる」という意味と思われる。そのため、15日の上武大戦には10日に三軍落ちした際に「しばらくはボールも握らせない」と言われていた澤村拓一が1イニングのみだが先発登板した。
*15 前回登板時にも「ホームランでランナーがいなくなったことで登板の決断に至った」と語られていた。
*16 根尾は開幕前にも内野手から外野手に登録変更されており、同一年度で3つの守備位置登録がなされることになった。
*17 9月2日時点で13登板1勝4ホールド防御率0.77の成績で、連続試合無失点記録を12に伸ばしていた。
*18 増田はこれがプロ初のサヨナラ打となった。
*19 パワプロの場合は野手登録を含む全選手に投手能力が搭載されているが、本件のような特殊ケースを除いて全ステータスが一律で最低に設定されている。
*20 元ヤクルト→楽天→ヤクルト。プロ入り当初は投手だったが、膝の怪我がきっかけで故障が多かったことや身体能力の高さを買われたことから外野手に転向。ただし宮出より後の投手→野手コンバートでは投手能力は削除されるようになっている。
*21 シーズン中に自由契約となった選手やオリジナル選手が送られる、12球団のいずれにも属さない扱いの枠。