楽天式プロテクト

Last-modified: 2024-11-14 (木) 20:53:58

東北楽天ゴールデンイーグルスのプロテクト方式のこと。

2018年オフ、FAでの浅村栄斗獲得と補償に至る経緯に対しての揶揄。
 当初の意味合いはこれであり、単に「楽天式プロテクト」といった場合これを指す。
翌2019年オフ、西巻賢二を戦力外にし育成契約を打診した経緯への疑惑。
 指摘された内容自体は「上原式プロテクト」に近い。
同じく2019年オフ、FAの鈴木大地獲得に動いている最中での則本昂大のFA行使即残留に対する疑惑。


1.楽天式プロテクト

2018年オフ、浅村栄斗(Bランク)が西武から楽天へFA移籍する。
だが楽天のプロテクトリストを見た西武・辻発彦監督は「ピンと来ない」と発言し、最終的には1億2600万円の持参金を引っ提げたキンセン選手を獲得した。

辻監督、楽天の選手リスト見ても「ピンと来ない」 - 日刊スポーツ

西武辻発彦監督(60)が20日、FA移籍に伴う楽天からの補償は金銭のみとなる可能性を示唆した。

この日、炭谷の巨人へのFA移籍による人的補償として、内海の獲得が発表された。西武からは、浅村もFA移籍で楽天に移った。

楽天からの補償について、辻監督は「(獲得可能選手のリストを見ても)あまり、ピンと来ない」と話した。
金銭のみの可能性を問われると「それもある。(渡辺)SDと編成の話を聞いてから」と球団と相談の上、最終決定するとした。

発言だけ見ると「チームの方針に合った選手がいない」という意味に捉えるのが妥当であるが、なんJでは「まともな選手がいない」と言う意味で解釈されネタにされる。
そしてプロテクトに関する過去の事例を参考に、この「選手層が薄すぎるおかげで有力選手がプロテクト漏れせずに済む」プロテクトを「楽天式プロテクト」と呼ぶようになった。

また、楽天は今回のみならず今江年晶や岸孝之の時でもロッテや西武に金銭で補償しており、補償をあっさり金銭で済ませられてしまうほどの楽天の選手層の薄さがネタにされることが多い。

反論として、いずれのケースも金銭補償で得られる差額が今江6000万(年俸2億)、岸6750万(年俸2.25億)、浅村4200万(年俸2.1億)と比較的高く、実績のない若手を貰うより金銭を助っ人補強などに充てた方が効率的とも考えられる。さらに前年最下位に沈んだ楽天は多くの選手が減俸や戦力外になったため、人的補償の選択肢はさらに狭くなっていたと見られる。
また、「2018・19年ともチーム成績では劣っているとはいえ投手成績では上回っているため投手の選手層に限っては楽天の方が厚いはず、なのに投手を取らず金銭補償となったのは本来の意味でのプロテクトがうまくいったということである」との意見もある。


類似例「釣り合う選手がいなかった」

2019年12月、ロッテの涌井秀章金銭トレードで楽天へ移籍することが公表された。これについてロッテの松本尚樹球団本部長が取材に応じ、金銭になった理由として「涌井は大物なので、誰と釣り合うという話になってくる。」とコメントした。
確かに近年低迷していたとはいえ、実績は十分でしかも同一リーグに放出する選手に対してさえ「釣り合う選手を放出できなかった」ということで、楽天の選手層を表すエピソードとしてこちらもまた注目された*1

「涌井の気持ち考えて」ロッテ松本本部長が理由説明 - 日刊スポーツ

金銭になった理由としては「涌井は大物なので、誰と釣り合うという話になってくる。総合的な判断。お金というより、あれだけの実績のある選手ですので非常に難しい。涌井の気持ちを考えながら判断しました」と説明した。

2.育成プロテクト

2019年レギュラーシーズン終了後、楽天は再びFA選手の獲得に乗り出すと報道されるようになる。そのFA解禁となる直前、楽天はドラフト会議後の10月18日に高卒2年目の西巻賢二に戦力外通告を行う。育成契約へ切り替えるためであったが、当時は怪我以外での育成落ちが珍しかったこともあり、FA選手を獲得した際に西巻を人的補償で取られないための措置ではないかという疑惑が浮上。特に怪我もなく、2試合だけとはいえ1軍出場もあった*2ことから、不信感の募る内容となった。また、西巻は仙台育英高校出身の地元選手であり、有望株として期待が高かった事から、楽天ファンからは嘆きの声が上がった。

人的補償で獲得できる選手は支配下登録の選手と定められているため、西巻を自由契約にすれば人的補償の対象外になる。これを利用して人的補償で選べる幅を狭め、金銭補償や他の選手を選ばせる、というものである。
しかし当の西巻は他球団への移籍を模索し、ロッテの入団テストに参加。11月14日にロッテが支配下契約での獲得を発表した。

これにより「プロテクト枠節約のために形式上戦力外にしただけで、実のところ西巻と再契約の合意は取り付けているのではないか?」という憶測は外れだったと確定した。
残るは「どうせ出ていかないだろうと楽天が単独で枠節約のために行った」「単純に西巻が育成契約が妥当だと判断した」あたりが考えられるが、楽天の思惑がどうあれ結果として若手選手を1人失う結果となった。

球界関係者からの意見

11月29日に、千葉ロッテOBでYouTuberの里崎智也が、 【FAは悪じゃない!】鈴木大地、美馬学選手がFA!現役時代に一生分の給料を稼ぐことは必須条件である!という動画を投稿*3
この動画の冒頭で里崎は、西巻への育成打診は人的補償逃れのためである、という疑惑について否定した。
ただこの動画については『自主規制音を付け、アシスタントの袴田彩会にだけ伝わるように話す』という形であったため、「ロッテOBである里崎が楽天の内部事情である西巻の契約について本当に詳しいのか?」「自主規制音で結局なにも視聴者に語っていないがあてになるのか?」と信憑性に疑問符が付けられた*4
実際、聞いた袴田がかなり驚いた様子だったこともありネットでは育成打診の理由は西巻の素行不良なのではないか?という噂も流れ、里崎は後に出した動画で西巻に謝罪する羽目になった。また、その際育成打診の理由は野球以外のものではないとも語った。

類例

巨人は2020年オフ、堀田賢慎*5鍬原拓也*6高木京介*7・直江大輔*8・山下航汰*9の自由契約を発表する。
いずれも怪我や手術による育成での再契約を目的とした自由契約だが、一度に5人の育成落ちは当時としては異例であり、同年オフは大野雄大・山田哲人・小川泰弘・梶谷隆幸・西川遥輝・石山泰稚・増田達至といった豪華メンバーが国内FA権を取得することから*10、「FA補強に対するプロテクト逃れではないか」という意見がいくつかのメディアでも取り上げられた。

原監督が前述した西巻の騒動の際に人的補償制度を「廃止すべき」と提言していること、今回の件で直江に対して育成に落としたにもかかわらず来期年俸を増額させた上で原自ら「来年は新人王を取らせる」と早々に支配下へ戻す前提の発言をしていること、実際に5人中3人は翌年中に支配下復帰しており前年にも巨人で似たような疑惑があったことも疑惑を深める材料となった。

その後、実際にFAにて梶谷の巨人入団が決定。巨人は無事に上記選手を除いた状態でプロテクトリストを作ることができることとなった*11

翌2021年・2022年は10人以上のさらなる大量降格*12が行われ、特に22年は度重なる怪我でシーズンを全休したとはいえ当の梶谷が育成落ちに。梶谷は福数年契約中のため他球団は手を出せず正真正銘のプロテクトとなったが、「巨人にFA移籍を希望する選手が減るのではないか」と一部の巨人ファンからも懸念の声が上がる事態となった。

3.宣言残留プロテクト(則本式プロテクト)

2019年オフの10月28日、同年7月に7年契約を楽天と結んだはず則本昂大が、国内FA権を行使して即残留を決定するという行動をとる。

「残留前提のFA宣言」自体は広く行われている行為である。
選手側からの中途破棄が行える契約になっている場合、複数年途中に好成績を残した選手が契約破棄とFA宣言を行い結局流出してしまう可能性がある。
楽天の場合は実際に嶋基宏が複数年契約の途中で契約破棄とFA行使を示唆する発言を行い度々スポーツ紙を沸かせていた過去がある*13
これを防ぐには選手側からの破棄禁止や違約金の条項を定めるか、そもそもFA権を空消費すること自体を契約の条件に含めるのが有効であり球団側にとってメリットとなる。一方で選手側には再契約金の発生やチームへ長く残る意思を示すことでファンに球団への愛着をアピール出来るというメリットがある。
則本の場合に限らず下交渉(則本の場合は本交渉)で既に残留で合意済みにも関わらず「残留前提のFA宣言」が行われるのは基本的にこのパターンである。

しかしこの年、楽天はFA権行使のロッテ鈴木大地の獲得に動いていた。そのため、「残留となってもFA宣言者は1月中旬の支配下選手登録公示まで所属球団の契約保留選手から外れている規定を逆手に取って、球団が則本にFA宣言をしてもらうことで実質プロテクト枠を1つ増やしたのでは?」という疑惑が生まれることとなった。

美馬と鈴木大地 3例目の“FAトレード” - 日刊スポーツ
人的補償の対象は19年シーズンの支配下選手のうち、外国人とプロテクト選手28人を除いた選手。このオフにFAや自由契約で加入した選手、直近ドラフト入団選手は対象外。楽天則本昂大投手はFA宣言して残留するため、対象外となる

その後実際にFAで鈴木大地が移籍。楽天は無事に則本を除いた状態でプロテクトリストを作ることができることとなった*14

類似例

「球団が人的補償の発生するFA選手を獲得」「同一年度に宣言残留を行った選手が結果としてプロテクト入りを免れた事例」には以下のものがある。



左辺が宣言残留選手で右辺が獲得選手、括弧内の:以後は実際の補償内容。

1993

槙原寛己(巨人)⇔落合博満(中日→巨人:金銭)

1994

原辰徳川相昌弘・岡崎郁・吉村禎章(巨人)⇔川口和久(広島→巨人:金銭)、広澤克実(ヤクルト→巨人:金銭)

久保康生長嶋清幸(阪神)⇔山沖之彦(オリックス→阪神:金銭)

1995

斎藤雅樹(巨人)⇔河野博文(日ハム→巨人:川邉忠義)

1997

伊東勤(西武)⇔中嶋聡(オリックス→西武:金銭)

1999

伊藤敦規(阪神)⇔星野伸之(オリックス→阪神:金銭)

2001

吉永幸一郎、川相昌弘、元木大介(巨人)⇔前田幸長(中日→巨人:平松一宏)

山﨑武司(中日)⇔谷繁元信(横浜→中日:金銭)

遠山奬志(阪神)⇔片岡篤史(日ハム→阪神:金銭)

2002

桧山進次郎(阪神)⇔金本知憲(広島→阪神:金銭)

斎藤隆三浦大輔、鈴木尚典(横浜)⇔若田部健一(ダイエー→横浜:金銭)

2004

奈良原浩(日ハム)⇔稲葉篤紀(ヤクルト→日ハム:金銭)

2007

下柳剛(阪神)⇔新井貴浩(広島→阪神赤松真人)

2010

金城龍彦(横浜)⇔森本稀哲(日ハム→横浜:金銭)

多村仁志(ソフトバンク)⇔内川聖一(横浜→ソフトバンク:金銭)

関本賢太郎(阪神)⇔小林宏之(ロッテ→阪神:高濱卓也)

宣言残留に関して通常は契約の切れる予定の選手と残留を求める球団の間で9月頃に行われる下交渉で話されるのが普通であるのに対し、則本については7月時点で複数年契約に関わるサイドシートの締結を実際に済ませたと明言されている点が他のケースとは異なる。


関連項目


*1 ただし、同じく2019年オフにロッテから楽天にFA移籍した鈴木大地に対しては人的補償を選択しており、投手の小野郁を獲得している。
*2 前年には高卒1年目ながら25試合に出場していた。
*3 里崎はロッテの事情に通じているようで、この他にも涌井の電撃トレードの情報を公式発表の2週間以上前に掴んでいる (動画投稿はトレード後だが撮影はトレード前であるとしている)。
*4 里崎の動画には普段から具体的な選手・コーチ名は伏せた芸能事情通のする「イニシャルトーク」のようなあいまいなものが多い。
*5 4月にトミー・ジョン手術を受けていた。実戦登板は翌年の8月までずれ込み、支配下復帰はさらに1年後の2022年3月となった。
*6 8月に右肘を骨折。手術のためリハビリ中だった。翌年8月に支配下復帰。
*7 8月に下半身のコンディション不良で故障離脱していたが、まもなく実戦には復帰しており、翌年開幕前の3月に支配下に戻っている。
*8 10月に腰のヘルニアの手術を受けていた。翌年6月に支配下復帰。
*9 5月に右手を骨折。年内に実戦復帰は果たすも違和感が続き、最終的にはリハビリに専念していた。翌オフに自ら退団を選び、支配下復帰はならず。
*10 なお、結局この選手の中で移籍したのは梶谷のみであり、他は全員残留している。
*11 人的補償として田中俊太がDeNAに移籍。
*12 21年は12名、22年は11名。この中には鍬原や高木など支配下に戻ったあと再度育成降格された選手もいる。
*13 https://www.sanspo.com/article/20161006-UYVPNG745FKGPITYC7PGNBDZB4/
*14 その後人的補償として小野郁が移籍。1に示すとおり金銭での補償ばかりだった楽天にとって球団初の人的補償となった。