キンバーライト

Last-modified: 2020-09-30 (水) 22:10:09


21.キンバーライト
宝石言葉:あなたを守る愛

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あらすじ ※ネタバレ注意※

今回は終盤の山場につき、別ページに道中チャットを含めた
メインストーリーのセリフをノーカットで掲載してあります。
見たい場合はクリックしてこちらへ跳んでください。
※ 別タブで開きたい場合は右クリックでお願いします。
シーンごとの細かいリンクは考察の各項目最後部分にあります。

ショートカット
プロクト城・謁見の間
プロクト・夕方~夜
魔法戦士の家
プロクト中央広場
羨望のカクレガ

 

冒頭回想・ワタル&ヤマト編

学校の倉庫の掃除をしている幼少期のワタルとヤマト。
頑固な汚れに苦戦するワタルに、ヤマトはアドバイスをする。
嘘のように簡単に綺麗になるのを見て、感心するワタル。
そこに先生が様子を見に来た。
「ちゃんとできているか不安だったが、意外と頑張っているじゃないか」
「ヤマトがいろいろおしえてくれたんだ!」
安心する先生に、ワタルは胸を張った。
しかし先生はヤマトには何も言わずに出て行ってしまう。

「なんでヤマトにはなにもいってくれないんだよ?」
不満そうなワタルに、ヤマトは諦めたように言う。
「仕方ないよ。お金、払えてないからね」
大きくなったら戦士になって、お金を返さないといけないのだ、という。
「……おれが、せんしになりたいっていったから?
だから、いっしょにこのがっこうにきてくれたの?」
というワタルの問いかけに、ヤマトは曖昧に答える。
「お父さんやお母さんがさ、
じぶんでかなえられなかった夢を
子どもにかなえてもらおうとすること、あるでしょ。
きっと、そんなかんじなんだと思う」
それはワタルには難しすぎたようだが、分からなくてもいいと言う。
「ワタルはワタルのままでいればいい」

プロクト城・謁見の間

プロクト城、謁見の間。
魔法戦士の中に大魔王がいたという報告を受けて、
さすがの大臣も驚きを露わにする。
一方、国王は複雑な表情を浮かべる。
「自らが倒されることで、
「世界のために散った命」という価値を得ようとしたのか」
いや、責められぬ。魔法戦士の儀式を行い、
負の感情の処理を押し付けたのはプロクトに生きる者だ」
しかし、大臣はすぐに平静さを取り戻す。
そして、目的を達することだけを要求するのだった。
「ともかく、これで終わります。
大魔王を倒し、世界を魔物から救うのです」

『ナカマヲ コロシテ クダサイネ』

ワタルには、大臣の言葉はそうとしか聞こえない。
たまらず、ワタルは走り去る。
「ワタル!」
その背中にスミカが呼びかけるが、彼は振り返りもしなかった。

プロクト城・夕方~夜

夕方のプロクト街中。
謁見の間から逃げるように飛び出したワタルは、
通りで男の子と女の子に呼び止められる。
「ねえねえ、大魔王倒しに行くんでしょ? 絶対勝ってね! 
大魔王なんかボコボコにしちゃえ!」

『トモダチ ナンカ ボコボコニ シチャエ』

「あたし、応援する! 大魔王がいなくなるように、お願いする!」

『シンユウガ イナクナル ヨウニ』

子ども達の声も、ワタルには友を殺せ、
と言っているようにしか聞こえない。
ワタルは驚く子ども達にかまわず、再び逃げるように走りだした。

いつしか、夜になっていた。プロクトに雨が降っている。
走り続けるワタルは、自分への嫌悪を募らせる。
気づくチャンスはいくらでもあったのに、
自分が幸せだったから気づこうとしなかった。
楽しいだけの関係は嫌だなんて、上辺だけの綺麗事だった。
結局自分は、自分が気持ちよくなれる環境だけを、
皆に押し付けていた。
それを教えてくれていたアザリー。
見当違いだった励ましは、当然スミカには届かなくて。
自分が決断しなかったせいで、
アヤネにスミカとヤマトを天秤にかけさせてしまった。
自分が弱かったせいで、クオンは「友達が魔王」だと言い出せず、
ワタルたちを助けるために、自らの命を投げだそうとした。
そして、ヤマトは大魔王になってしまった。

そうやって誰かの不幸から逃げてきた自分が、
親友か世界かを選べるわけがない。
こんな決断をしないといけないなら、

「勇者になんて、魔法戦士になんてなりたくなかった!」

魔法戦士の家

一方、魔法戦士の家では、スミカ、アヤネ、クオンがテーブルを囲んでいた。
ワタルが帰ってくるのを待っているのだが、その気配はない。
すっかり落ち込んでしまったスミカに、アヤネは寄り添っている。
そんな中、クオンが思い出したように言う。
「勇者は繋がりを力として、大魔王はその逆なんだよな。」
そして、皮肉めいた笑みを浮かべて吐き捨てた。
「大魔王になるには最高の人材ってことかよ。」
生きている人間なら、血縁関係はある。
しかし、魔法戦士の儀式によって強制的にそれを失ったヤマトは、
家族という「繋がり」がなくなってしまったのだ。
ワタルはまだ帰ってこない。
クオンは、アヤネに「もう一回見てくる」と言い置いて出かけた。
そして、スミカとアヤネだけが残される。

「……いつから知ってたのかな。
自分が大魔王だってこと、いつ気が付いたのかな」
スミカがポツン、と言う。
ヤマトはどうして頼ってくれなかったのだろう。
もしかして、大好きだったのも自分だけだったのだろうか。
悲しみを抑えきれなくなり、スミカは泣き出してしまう。
「それは違います」
寄り添っていたアヤネがキッパリした口調で、スミカを諭す。
ヤマトは、二人が好きだから今のままでいて欲しかっただけだ、と。
そしてアヤネは、ヤマトと対等な関係になりたいという、
スミカの気持ちも分かっていた。
「その気持ち、ヤマトさんご本人に伝えないと。
私では力不足ですから。お二人からのお言葉でないと。」
黙ってアヤネの言葉に耳を傾けていたスミカは、徐々に落ち着いていく。
「アタシの気持ち、全部ぶつけてみる。」
涙を拭いたスミカは、ヤマトと直接話をすることを決める。
「ワタル、探しに行かないと。アタシよりもショックだろうから。」

プロクト中央広場

雨はまだ止まない。
当てもなく彷徨い続けるワタルは、いつしかプロクト中央広場の噴水前に来ていた。
そこへ、ようやくワタルを探し当てたクオンがやってきて、ワタルの背中から声をかける。
「いつまで深夜徘徊してんだよ。」
振り返ったワタルは、自嘲気味に言った。
「……クオンさ、前にオレに言ったよな。「やらない理由が綺麗事ばっかり」って。
オレが理想ばかり語って何もできないから、他の誰かが傷ついてる。
そうだ、オレのせいなんだ。オレがいなければよかったんだ!」
叫ぶようなワタルの言葉を聞いたクオンは、己の拳をワタルにたたき込む。
その威力は、ワタルが後ろに倒れ込むほどのものだ。
「そういうところがムカつくって言ってんだよ!」
怒鳴りつけるクオンは、本気で怒っていた。
「他人のことは助けたいだの救いたいだの、
一方的に世話焼きまくるくせに、
自分が傷つくのは見て見ぬふりかよ! 
都合の悪い部分だけ無視してんじゃねえぞ!
てめえがそんなだから、周りの大事なヤツが
お前の代わりに傷の原因を消そうとするんだろ!
魔王も、ヤマトも!」
一気に言い切ったクオンは、やや落ち着きを取り戻す。
「何で救うか殺すかの二択なんだよ。
脳内花畑なら花畑らしく、
「あいつも世界も救う方法があるはずだ!」とか
無鉄砲に言ってればいいだろ」
「あるのか?そんな方法。」
ワタルの問いにクオンとても首席とは思えない答えを返した。
「知らねえよ。知らねえから賭けるんだろうが。
「ある」か「ない」かに。」
要は単なる博打だ。全く彼らしくないことを言いながら、
その表情には一点の曇りもない。
「俺は「ある」方に賭ける。
こんな胸糞悪いシステムに無抵抗で降伏する気はねえよ。
こっちに賭けたいのは俺だけじゃないみたいだしな」
向こう側からスミカとアヤネが歩いてくる。
ワタルに向かい合ったアヤネは、
「勇者と大魔王だけの問題ではないはずです。
皆で幸せになるためには、皆で受け止めないといけない問題です。
私では力不足ですが、ヤマトさんに気持ちを伝えられるよう、
全力で臨みますから。」
と勇気づける。
そして、スミカも自分の願いを伝える。
「アタシ、確かめたいの。ヤマトがどんな気持ちだったのか。
アタシ、幸せだったから。伝えたいの、アタシの気持ち」
仲間たちの励ましはワタルを奮い立たせた。その表情に笑顔が戻る。
「皆、ありがとう。オレ、逃げないよ。
誰も傷つけずに幸せになりたい。
これがオレのはじまりの気持ち。
理想が高いかもしれないけど、本当の気持ち。
一番のこの気持ち、嘘にしたくないから。
最後まで探す。ヤマトも、皆も、世界も救う方法。」
そして、ワタルは改めて仲間たちに助力を願う。
「自分のことしか考えていないダメダメな勇者だったけど、
力を貸してくれないかな」
「あんたがダメダメなのは物資管理論14回赤点の時点で
分かってるからな、今更すぎるだろ。」
真っ先に答えを返したクオンは、相変わらずだ。
だが、その表情に笑顔が浮かんだ。
「言われなくても分かってんだよ、」
そしてここで一端言葉を切り、名を呼ぶ。
「ワタル」
アヤネにも依存があるはずはない。
「もちろんです。皆でヤマトさんに向き合いましょう」
微笑む彼女に、スミカもいつもの調子で答えるのだった。
「そうだよ。アタシも、ちゃんとヤマトの痛みを受け止める。
純情可憐で美少女な魔法戦士・スミカちゃんが
勇者も大魔王も支えますからね!」
いつしか雨は止んでいた。空が明るみ、朝日が差し込んでくる。
プロクトに夜明けが訪れていた。

羨望のカクレガ

大魔王城の奥には「羨望のカクレガ」が広がっていた。
そこは、まるで時間が止まっているような、冷たい雰囲気の場所だ。
長い道はヤマトの迷いを表すように、幾重にも分かれている。
こんなところに、ヤマト一人で置いてはおけない。
4人は前へ進み続ける。
ヤマトと向き合う時が迫っていた。
大魔王に対抗できるのは勇者であるワタルだけ。
「俺達は支援に徹するかたちになるな。
おそらく防御を固められるだろうから、火力あげねえと。」
クオンはいつもと変わらず平静に見解を伝える。
それを聞きながら、スミカは思いを巡らせる。
(何かあったはず、アタシの気持ち、伝える方法……)

ついにその時が来た。
最奥部で、大魔王となったヤマトと4人は相見える。
皆より前に出たワタルがヤマトに呼びかける。
「護りにきたよ。ヤマトの本当の気持ち」
しかしヤマトは、ワタルの言葉をはねつけた。
「……終わるよ。俺がワタルに倒されれば終わる。
誰との繋がりのない命でも、世界のために使うことができる。」
「終わらせるもんか。命を“使う”なんて言うな!」
「こんな存在を世界に認めてもらうには消えないといけないんだ!
それが幸せなんだよ!」
「そんな幸せあるもんか! 幸せになるために生きるんだろ!」
相容れない二人の意見のぶつけ合いは続く。
しかし、だんだんとヤマトの意思通りに身体が動かせなくなってきていた。
大魔王からの攻撃が放たれ、4人は武器を手にする。
「くるぞ!」
クオンの警告の声が、戦闘開始の合図となった。

大魔王との死闘の末、負の感情エネルギーの大部分が失われた。
ヤマトは人としての姿を取り戻しつつあったが、不完全だ。
「はやく、また手を出してしまう前に!」
ヤマトは止めを刺せと迫るが、ワタルは拒否する。
「嫌だって言ってるだろ、分からず屋!」
ついに、ワタルとヤマト、親友にして幼馴染み同士の一騎打ちとなる。
「この状況が理解できていないのか! 俺は大魔王なんだぞ!」
「だったら何だよ! 
自分には価値がないとか言うくせに、
世界を救うには自分が死ぬしかないって矛盾してるじゃんか!
「死ぬ幸せなんてあるわけない! 嘘をつく理由に世界を使うな!
大切な人に価値がないなんて言わねえよ!
勝手にオレを薄情者にするな!」
「嘘をつくのに世界を利用したのはお前だ!
本当は葬式に行きたかったんだろう!
虐められてる友人を庇って自分が痛い目に遭うのも辛かったんだろう!
「皆の幸せ」に執着して、そのせいで嘘を重ねたのはお前自身だ!
だから嘘の原因を呪って魔王にした!
お前の幸せを隣で感じていたかったから!
俺はこんな人間だぞ。
自分が幸せを得たフリをするためだったら
友人の家族や友達を呪い殺すような、そんな存在なんだ。
勇者なら、こんな存在、さっさと殺せるようになれよ!」
その言葉に──。
ワタルの渾身の一撃がヤマトに見舞われる。
彼の本気の攻撃を受けたヤマトは、地面に叩きつけられた。
「二度と言うな」
ワタルの言葉は怒りに満ちている。
「誰かを不幸にすることが簡単にできるわけないだろうが!」

 

ややあって落ち着いたワタルは、分かったことがあるんだ、と話し始めた。
自分が全体幸福主義を押し付けていたこと、
それで幸せだったのは自分だけだったこと。
そのせいで他の人が痛みを背負っていたこと。
そして、ヤマトに決意を伝える。
勇者の力が親友を殺す力だというなら、それを世界のためには使わない。
大魔王に始まりの気持ちを思いだして思い出してもらうために使う。
そう言い切ったワタルは、ヤマトに問いかける。
「本当に生まれた時から、死んでもいいって思ってたのか? 
ヤマトにとってのオレは、幸せを体験する道具でしかなかったのか?」
すぐに返答はなかったが、少ししてからヤマトは静かに話し始めた。
「……俺だって嫌だよ。悪者として存在するなんて。」
その表情は苦しげだ。
「父親には捨てられ、母親には忘れられ、親戚には恨まれて。
それでも生まれてきてしまったんだ。
幸せになりたいに決まっているだろう!」
今まで抑え込んでいた本音が堰を切ったように溢れ出す。
「何度も世界を殺したよ心の中で!
世界が望むいい子を演じても、結局繋がりは手に入らない!」
無理矢理世界を肯定したくて、お前たちが幸せなら、
その傍にいられるならいいなんて綺麗事言って!
それを壊す可能性のある人間なら、
ワタルの家族だろうが友達だろうが恨んで憎んで魔王にしてしまうんだから、
やってることが父親(あのひと)と同じだよ。
そうやってでも、幸せになってもらわないと、
綺麗な世界にしておかないと、
大魔王として死ぬことを割り切れなくて――。」
「ヤマトの家族にはなれないけど!」
ヤマトの悲痛な叫びを、スミカの声が遮る。
彼のもとに駆け寄ったスミカは、必死に思いを伝える。
「アタシたちだってずっと一緒にいたでしょ。
この繋がりだって本物なんだから!
ヤマトが大魔王だとしても、この気持ちに嘘つきたくない。
大好きなの、大切なの!」
スミカが自分を思って泣いているのを見たヤマトは、感謝の気持ちを告げた。
「……スミカ。ありがとう。」
「探そう。
勇者も大魔王の世界の狭間にいるみんなも、助けられる方法を。
皆の痛みからは逃げない。
けど、皆で幸せになる道も諦めない!」
ワタルが決意を口にした時、突然、背後から女性の声がした。
「ああ、なんて感動的なの」
一人の女性がワタル達の所へ歩いてくる。
それは以前、魔法戦士の家へ本を届けに来た女性だった。
「改めて。私はディカルア。
あなた達には、そうね、「世界の狭間の神」と言った方が分かるかしら」
前に出たクオンが、警戒感を隠そうともせず問いかける。
「そんな神様が何の用だ。確実に訳ありだろ、あんた。」
ディカルアは、感情を循環させてバランスを保つ、
勇者と大魔王の仕組みを作ったのは自分だと告白した。
「どうしてこんな仕組みを……!」
と、怒りを露わにするスミカ。
「仕方ないじゃない。」
ディカルアはわけを話した。
あらゆる世界からの感情エネルギーの処理を任されていたのだが、
自分一人では処理しきれないのだ、と。
それを聞いたクオンは、瞬時にある一つの答えを導き出し、ディカルアに突きつける。
「最初にあの女――アザリーを
世界の狭間に呼び寄せたのもあんたの差し金ってわけか」
ディカルアは肯定する。
「理由は分からないけれど、感情エネルギーを流してくる世界のひとつ、
プロクトと繋がることができてね」
勇者と大魔王、小さな勇者と魔王のシステムは、
ディカルアの負担軽減の溜めに生み出されたものだったのだ。
「あなた達のさっきの言葉、ステキだと思ったのは本当よ。
けれど、ひとつ聞いていいかしら。
「皆」の中に私は入らないの?
私を倒せば、勇者と大魔王の仕組みは終わる。
けどそれって、私は死ぬってことよね? 
死ぬ幸せなんてないんでしょう?」
その問いに、誰も答えられない。
「答えを聞かせてちょうだい。「循環の間」でね」
そう言い残して、ディカルアは転移した。

※ネタバレ注意※

考察 ※ネタバレ注意※

ページ容量の都合で、会話は別ページに載せています。
一括して見たい場合は、こちらに直接跳んでください。
考察の各項目最後からも掲載場所へダイレクトに跳べます。
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尚、今回は終盤の山場につき、会話はノーカットで掲載しています。
完全なネタバレですので、ご注意ください。

 

ショートカット
魔法戦士の家
ワタルのモノローグ
羨望のカクレガ

 

第21話のタイトル「キンバーライト」の宝石言葉は「あなたを守る愛」。
大魔王という「世界の敵」になってしまったヤマトに対する、ワタルたち4人の覚悟が表現されたものか。

 

冒頭回想・ワタル&ヤマト編

冒頭回想では、ヤマトのワタルに対する自己投影が
分かりやすい例えで表現されている。
それは両親が自分の叶えられなかった夢を子供に託す感覚に近いのだという。
小学生ぐらいの年頃でその感覚を理解しているヤマトに、
周りより先に大人にならざるを得なかった事情を察して痛々しい。

そして、ついにワタルが自身最大の欠点に向き合わないといけない時が来る。
「自分が今、とっても幸せだったから、それを壊してほしくなかったんだ」
自分の掲げる「全体幸福主義」を押し付けていたことを、ワタルはようやく自覚する。
彼は以前にアザリーの指摘を否定していたが、深層心理は違っていたのだ。

※ 冒頭シーンの会話はこちら→冒頭回想・ワタル&ヤマト編
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魔法戦士の家

魔法戦士の家では、スミカとアヤネの関係が変わったことが分かる。
基本的にはスミカが前に出てアヤネを先導する関係だが、
何事かあると歳相応の反応をするスミカに対し
芯の強さで支えるアヤネという関係になっているのだ。
スミカに自分の理想の女性像を押し付けていたころのアヤネでは、
絶対に成り立たなかった関係だろう。
アヤネの強さは、ハズレの公園でクオンの賞賛を受けるまでに成長しているのだが、
それがこのシーンでもハッキリ証明されているといえるだろう。

※ 魔法戦士の家の会話はこちら→魔法戦士の家
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ワタルのモノローグ

雨中のワタルの逡巡の場面は、ワタルの心境の変化が
雨量と時間経過で視覚的に表現されている。
(会話ページに多めにスクリーンショットを載せているので参考にしてください)
一人で彷徨っている時は、夜中で雨も多い。
加えてここでは、BGMがいい働きをしている。
和音が多く重たいマイナーキー(b-minor/ロ短調)の、変拍子
(あるいは曲中で拍子が細かく変化しているか)の曲が、
ワタルの絶望と心の揺れを表現し、プレイヤーを悲しみへと誘っている。
しかも、ワタルの絶望が深まるのと比例して音量が徐々に大きくなり、
プレイヤーをワタルに共感させるように計算されているのは見事だ。
決められたセリフとタイミングを合わせてBGMの音量を挙げるやり方は、
通常のフェード・インとは異なっている。
(魔コネではこれまでにも二通りのボリュームUPの手法が使い分けられていた。)
この手法は、プレイヤーの読む速度に合わせて音楽が大きくなるため、
狙ったセリフの場所で音量をマックスへ持っていくことが出来る。
つまり、制作サイドが意図した通りにプレイヤーの心を揺さぶりやすい。

魔法戦士の家のシーンを挟み、
ワタルの所へクオンがきた時には、BGMはオフになっており、
二人の会話にプレイヤーの意識を向けさせる効果が狙われている。
内容的にも、変にBGMを入れない方が雰囲気が保たれる場面なのは確かだが。
BGMが再び鳴り出すのは、スミカとアヤネが合流してからとなる。
そして、スミカとアヤネの登場から徐々に雨が弱まっていき、
朝が来ると同時に完全に止む。
ワタルの願いに仲間たちが応えたところで
画面左が上から光が射し、夜明けがやってくる。
これは、絶望から希望への心理的変化を闇と光で分かり易く表現しているのだ。

また、ワタルを説得する際の、クオンの台詞も非常に印象深い。
ワタルは「全体幸福主義の押し付け」に対して
自責の念に駆られているが、クオンはもっと別の問題を指摘する。
「全体幸福主義の「全体」の中にワタル自身は入っていない」
という問題だ。

21-4.jpg

善玉型主人公によく見られる思考で、
「あの子が幸せなら、私はどうなってもかまわない!」
というものだが、クオンは真っ向から反論している。
「てめえがそんなだから、
周りの大事なヤツがお前の代わりに傷の原因を消そうとするんだろ!」
分かり易く言い換えれば、
「自己犠牲が幸せを生むわけないだろ、馬鹿」
というわけだ。
自分自身を殺める家族を見てきたからこその台詞なのかもしれない。
「自分が誰かの幸せを願う気持ち」に拘るあまり「他人が自分の幸せを願う気持ち」に無頓着になる。
それに対し「ムカつく」と言っているのだ。
これはイカルガ編でケイスケが指摘していたとおり。
そしてワタルは「皆で幸せになりたい」という気持ちが、やっぱり最初の気持ちなのだと思い出す。

何度か解説で触れてきたが、本作の根底テーマに
「負の感情で迷ってしまっても、最初の気持ちを思い出そう」
というものがあるように思う。
その上で、現実と最初の気持ちが共存できるように考え、歩いて行こうというわけだ。
「皆で幸せになりたい」という願いを叶えるために、今まではその思想を他者に押し付けることにしていたワタル。
それをどのように変えたのか。この後のヤマトとの問答に注目だ。

そして、ワタル説得のシーンで付け加えるとすれば、
クオンとワタルの人間関係が、ここでハッキリ示されたことだろう。
二人の直接対決は三度ある、と15話で解説したが、2ラウンド目は16話、3ラウンド目が今回だ。
前回は、満身創痍のクオンにワタルが正面から彼の欠点を突きつけた。
今回はその逆となっている。
クオンはワタルが吹っ飛ぶほど強く殴りつけているが、それだけ本気でワタルを心配し、怒っているのだ。
その上で、ワタルの欠点を容赦なく突きつけた。
どうでもいい相手なら、こんな態度は取らないだろう。
また、非常に細かいのだが、スミカとアヤネが駆けつけた後のセリフで、クオンは「ワタル」とはっきり名前を呼んでいる。
第三者は「あんた」「あいつ」呼びでしかしないクオンが、だ。

kuon.jpg

これは、クオンが他人に心を開き始めていることの現れであり、上記の件と合わせて
ワタルとクオンが信頼し合える関係となっていることの証明だろう。

※ ワタルのモノローグはこちら→ワタルのモノローグ
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羨望のカクレガ

羨望のカクレガでは、チャットをすると興味深い発言が聞ける。

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「ですが、ヤマトさんにも迷いはあるはずです。道が複雑に分岐しています」
「助けなきゃ。
こんなところに独りなんて、寂しくないわけないよ」

「冷たい時間のまま止まっている」のは、
ヤマトが執拗に「今のままでいればいい」とこだわっていたことの現れで、
道の分岐はアヤネの説明通り。

またマップ名の「羨望の隠れ処」から
「他者から疑似的に幸福を享受する」ことに対するヤマトの本心がうかがえる。
ヤマトにも「直接」幸せを享受したいという気持ちがあって当然だが、
それができないから、ワタルとスミカを媒介にしているだけなのだ。
マップBGMのオルゴールは雑魚戦中もそのまま流れ続ける。
勝利時のMEも無し。
ヤマトの胸中を表現したマップに、前向きな戦闘曲や
勝利MEを割り込ませて水を差したくないという作り手の意図だろう。
(10話の勇気の道や、16話のキュコートス雪原も同じ手法が使われていた。)
BGMについて補足すれば、曲はマイナーキー(c-minor/ハ短調)の4拍子系で、
ほぼ単旋律のメロディーと伴奏のみのシンプルで抑揚もない曲が選ばれている。
凍り付いた寂しい世界を表現するには非常に適している。
(曲名はMusicbox2、素材集「Light Novel Standard Music Vol.2」から)

戦闘前の問答では「ワタルはワタルのままでいればいい」という言葉に、ワタルが明確な「ノー」を突きつける。
ヤマトに一方的に護られる関係、自分だけが気持ちいい関係に対して、
初めてワタルが拒絶の意思を示したということだ。

大魔王戦は開始時にも工夫が凝らされている。

21-10.jpg

上記画像は戦闘開始時のものだが、画面に半透明の赤と青が半分ずつ被さっている。
赤はワタル、青はヤマトのイメージカラーで、二人の直接対決を視覚的に表現している。
そして大魔王戦の元の曲名は「ATONE」、日本語で「償う」という意味。
全体幸福主義を押し付けたワタルの償いか、
幼馴染でありながらヤマトの苦悩に気付けなかったスミカの償いか、
二人を通して自分の幸福を埋め合わせようとしたヤマトの償いか。
曲名でBGMを選んでいるわけではないと思うので、
偶然の可能性も否定できないのだが、
本作は時々、曲名や歌詞も考慮しているのでは、と思える選曲がある。

そして、戦闘においてもギミックがしかけられている。
狙われ順が「クオン→アヤネ→スミカ→ワタル」で固定されており、
たとえ異形のものになったとしても、
大切な人には手をかけたくないというヤマトの意思が反映されているのだ。
ちょっとクオンが可哀想な気もするけど親友と幼馴染には勝てないよ仕方ないね
かといってアヤネが最初に狙われたらキツすぎるわ。投げ出す人絶対いるし
さらに「思い出す」コマンドを9回使った際にスミカが放つのは、
19話の冒頭回想で出てきた花火のアニメーションだ。

21-15.jpg

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「次も、その次も、3人で必ず見に来よう」という約束を「思い出し」、
ヤマトにぶつけている。
大魔王戦は制作ブログにて「RPGだからできる表現にしたい」と語られていた。

戦闘後の問答は、
「あの」ワタルが人間に対して拳を振り上げ殴っている。
第2話の冒頭回想を思い出して欲しい。
祖父の台詞
「相手を叩くときは、自分も同じ痛みを背負う覚悟がなきゃいかん」
つまりワタルは
「ヤマトと同じ痛みを背負う覚悟を決めた」
ということなのだ。
タクヤを庇って暴力をふるわれた時ですら、ワタルは力に頼っていなかった。
そんなワタルが親友に対して拳をぶつけた意味と決意は大きい。
第2話の回想をここで活かす手法に、筆者が唸った部分でもある。
「皆で幸せになりたい」という願いを叶えるために、ワタルが出した答えは
「勇者の力を、はじまりの気持ちを思い出してもらうために使う」
というもの。
幸せでいることを強制するのではなく、痛みは受け止めたうえで
「でも、最初から負の感情が本心だったわけじゃないよね?」
と呼びかけることで思い出してもらおう、というのだ。
そのやり方が通用するのか。
この後登場するディカルアとの決戦時に証明される。

そしてとうとう、世界の狭間の神・ディカルアの目的が明らかになった。
それは、自らの感情処理の負担を、小さな勇者と魔王に肩代わりさせることだったのだ。
全世界の感情の処理を一手に引き受けていたディカルアは、
次々に変化する感情に翻弄されていたという。
子どもが生まれて喜んだかと思えば、
その子どもが四肢切断されて死んでしまったり。
円満な家庭かと思えば、父が母子に突然暴力をふるったり。
「私の幸せはどうなるの?」
という最後のディカルアの問いかけに、魔法戦士たちはどのような答えを出すのか。
いよいよ物語はクライマックスを迎える。

※ 羨望のカクレガの会話はこちら→羨望のカクレガ
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※ネタバレ注意※

攻略

プロクト城

いくつかの場面転換を含む、やや長めのイベントがある。非常に辛いイベント。

余談だが、ここで使われている演出は、舞台演出の一つの手法。
夜、一人でさまようワタルのもとへクオンが加わり、やがてスミカとアヤネも合流する。仲間が増えるにつれ辺りは明るくなっていき、やがて光りが射すのだが、
これは、夜から朝への時間経過と共に、絶望から希望へと向かうワタルたち魔法戦士、
特にワタルの心理を視覚的に表現したものでもある。

そして、この演出の前のシーンで、BGMの音量を徐々に上げていく手法が使われている。
これは、この作品ではちょくちょく使われているが、ここでは、音量を上げていくことにより、
プレイヤーを主人公・ワタルの心に共感させ、より深い悲しみへ誘う効果を狙っている。
そのことにより、後にくる希望への演出がより効果的になるのだ。
非常に上手い使い方をしているといえるだろう。

サブイベント情報

  • お人形を届けて
依頼されていたお人形が完成間近です。
プロクト城の2階にいる
兵士さんに届けてください。
まずはお人形をとりにきてください。
アジューズの道具屋でまっています。

まずはアジューズの道具屋へ行き、受付にいるお婆さんから人形を受け取ろう。
この時示される4つの選択肢から何を選ぶかで報酬が変わる。詳細は下記にまとめる。
次に、プロクト城2階の、右側の部屋をいつも通せんぼしている兵士に話しかけよう。
するとイベントが進み、報酬が貰える。

※ サブイベント会話集に会話掲載あり
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クリア報酬

  • 選んだ選択肢によって、その後の会話に登場するキャラが決まっていて、
    そのキャラの能力に対応した魔装石を入手する。
    魔装石以外の三つは共通。
選択肢キャラ報酬
共通魔装石
マントワタル100.000coin
ゴールドエリクサー
エキサイダーマ
会心率上昇++
物理強化++
攻撃力上昇++
リボンスミカ回避率上昇++
敏捷半減耐性++
敏捷性上昇++
ボタンアヤネSP消費率減少++
封印耐性++
最大SP上昇++
ブローチクオンSP再生率上昇++
抗魔減少付与攻撃++
魔法力上昇++

大魔王城

♪大魔王城(曲名:おばけ屋敷/配布元:ほわいとあいらんど工房)

  • 大魔王城に入ると、最初の魔法陣の左側に黒く小さな魔法陣が出現している。
    それに乗ると前回のボス戦部屋へ行ける。
    そこからさらに奥の扉に入り、細い道を行った先の魔法陣に乗ると
    「羨望のカクレガ」へ行ける。

羨望のカクレガ

♪羨望のカクレガ (曲名:Musicbox2 /素材集:Light Novel Standard Music Vol.2)

ギミックはないものの、とにかく広く迷いやすい。
とりあえず最短ルートは各分岐を「右」「上」。
ここで小部屋に着き、上か右の分岐になるはずなので右。
後は一本道でボスのところへ行ける。
ただし、正解ルート以外にも宝箱はある。
いざとなったらテレポレスで入口に戻りつつ、回収しよう。

  • 攻略情報収集中にメモしておいた宝箱前回収のための分岐選択を載せておく。
    スタート地点→下→上→上(引き返して)→左→下→左/下(どちらでも同じ場所に出る)
    →下→下(引き返して)→左(行き止まり。テレポレスでスタート地点に戻る)
    再スタート→右→左(引き返して)→上→上(引き返して)→右
    • 宝箱の中身:
      英雄のペンダント(5)、闇夜の証(5)、女神の髪飾り(5)、物理耐性++、融解の結晶(5)
      救済の十字架(5)、ダイアモンド(5)、会心回避率上昇++、転倒耐性++、大地の金属(5)
      伝令使の靴(5)、雷鳴の石(5)、人魚の貝殻(5)、炎の牙(5)、竜の皮(5)、ゴールドエリクサー

出現する雑魚の中でも、転倒付与の必中攻撃を仕掛けてくるスレイヤー、HP吸収効果のある闇属性攻撃を仕掛けてくるオルハザードがやや厄介。
どちらも光属性が弱点なので、ワタルにレウコンをセットしておくといい。
会心率の高いアモンの物理攻撃をアヤネが受けてしまうと、最悪一撃で倒れる。
アヤネには物理耐性があると安全性が高まるのでオススメ。

選択肢「向き合う」を選び最奥部に進むと、イベントが始まりボス戦となる。
特殊な戦闘なので注意。

ボス攻略
ボス戦の攻略はこちら→大魔王
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勝利後、長いイベントが始まる。途中のセーブを挟んで、次のお話のイベントへ続く。
クリア時、ワタルが固有EPスキル「スペセストゥリタシス」を、
ヤマトが「オミノミリステリアム」習得する。

 

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