ハルヒファイヤエムブレム第一部 2

Last-modified: 2009-05-23 (土) 02:44:28

あれから数週間、ベルンの攻撃は急に止んだ。
なんかもうこの世界にすっかり馴染んでしまった俺たちは、つかの間の平和を楽しんでいた。

崩壊したリキア同盟はフェレ侯エリウッド・・・
こっちでのハルヒの親父さんだな、が盟主になって立て直すことになった。

諸侯から少しづつ兵力を集め『リキア同盟軍』を結成、将にはベルン軍撃退の実績からハルヒが選ばれた。

戦で荒れた街も復興し、リキア全体に活気が漲っていた。
俺は特にする事も無いので、毎日弓術の練習をしていた。
キョン「俺、ひょっとしたら向こうに戻っても結構いいところまでいけるんじゃないか?」
今の俺は、50メートル先の的の中心を確実に打ちぬけるレベルにまで成長していた。
この世界の能力補正を差し引いて考えてもこれは凄いことなんじゃないかと思う。

ハルヒ「何を独り言言ってんのよ、キョン」

お、公女さまのお出ましだ。
最近は平和で退屈そうにしてたからな。
朝比奈さんを追いかけまわして、近くの村を探検して、殆どあっちの世界と同じことしかしていないようだ。

ハルヒ「軍を動かすわよ。部下の弓兵全部に連絡しなさい」

キョン「お、おう。なんだ?山賊退治にでも行くのか?」

ハルヒ「違うわよ。エトルリアからの要請で、西方三島まで行くの」

ああ、朝比奈さんの言ってたやつだな。

ハルヒ「そうそう、弓使いは全部あんたの指揮下に置くからね」

キョン「はい?」

ハルヒ「あんたにも、少しは権限と責任を負ってもらうわ」

そんなわけで俺は、諸侯の弓兵合わせて40の部隊長になってしまった。
しかも補佐としてつけられた二人がまた困る。
片方はスーとかいう遊牧民の少女だ。長門に雰囲気は似ているが、口数はやや多い。
しかし、俺の話を聞いているのかいないのか、判断に困る。

キョン「あのー、スーさん?」

スー「・・・はっ ごめん、聞いてなかった」

キョン「いや、まだ何も言ってないんだけど・・・」

もう片方はドロシーという女の子。どうも容姿にコンプレックスを抱いているらしい。

キョン(化粧をすれば平均以上になる顔立ちなんだが・・・普及してないのか?)

軍中にはやたら美人が多いためか、必要以上に引っ込み思案だ。
これまた会話が成り立ちにくい。
俺がいない時は女の子同士会話もしているようだが。

あれ、俺ハブられてる?

キョン「じゃあ、これは正式な要請なんだな?」

ハルヒ「そうよ。リキアがエトルリアの保護下になきゃ、わざわざあんな辺境まで来ないわ」

古泉「西方三島は、エトルリアの保護下にある島々の総称です。
    鉱石などの地下資源が眠る土地ですが、それを狙う海賊たちも横行しています。
    僕たちはその討伐を命じられたんですよ」

キョン「おう、古泉久しぶり。お前の解説も久しぶりだな」

古泉「セシリア将軍からの使者によれば、この話を進めたのは西方三島総督のアルカルド。
    決定したのは宰相ロアーツ。どちらも親リキア派ではないそうです。
    あまりいい予感はしませんね」

長門「リキアはエトルリアの保護下にある。今、エトルリアの意向に背くことはできない」

ハルヒ「この島は危ないから、ギネヴィア様はセシリアさんに預けたわ。
     みくるちゃんは行かなくてよかったの?」

みくる「私は、この軍の皆さんのお手伝いをしてねって言われましたから」

ハルヒ「それにしても霧が濃いわね」

キョン「ああ、30メートルくらい先はもうぼやけて見えるな」

ハルヒ「あんた距離感鋭くなったわね。人間メジャーよ人間メジャー」

キョン「なんだそりゃ・・・ん?」

ハルヒ「どうしたの?何かいた?」

キョン「今、霧の中をポニーテールが走って行った・・・」

ハルヒ「キョン、あんた頭は大丈夫?」

霧の中の進軍は、多少は戦場に慣れてきた俺たちにも初体験だった。
怒声を聞いて武器を構えてみればそこにいるのは味方ばかりだったり、
隣を歩いてるやつをよく見たら敵の海賊だったり。
俺達弓兵部隊は、喜緑さんの驚異的な視力で敵を発見してもらい、そこに一斉掃射を仕掛けていた。

キョン「効率悪いな・・・これじゃ矢が何本有っても足りないぞ」

スー「矢が足りないのなら、敵から引き抜けばいいと思うけど」

キョン「怖いこと言わないでください」

この人は朝比奈さんや長門とはまた違う天然なんだよな。

スー「あ」

キョン「何ですか?」

スー「ちょっと行ってくる。暫く待ってて」

キョン「え?ちょ、ちょっとスーさん何処に!?」

何かを見つけたらしいスーさんは、馬を走らせ霧の中へ消えていった。

キョン「・・・どうしようか」

キョン「おや?さっきのポニテが・・・」

???「島の人々を襲う賊め、覚悟!」

キョン「はい!?」

霧が一瞬渦巻いたと思ったら、それを割り裂いて、刀をもった小柄な少女が飛び出してきた。

キョン「ちょっと待て!俺たちはエトルリアの要請で!」

???「隠しても無駄です!海賊と一緒になって島の人々襲うなんて!」

キョン「誤解だー!」

???「待ちなさーい!」

周りの弓兵も、俺に当たるかもしれないと思っているのか少女に攻撃できない。
鋭い斬撃をかわしつつ、俺はやみくもに走った。

キョン(こっちには確かイリア傭兵騎士団が・・・)
キョン「おわあっ!?」

斬撃はどんどん精度を増していく。そろそろ危ない、俺は向こうに見えた人影に叫んだ。

キョン「そこの人、助けてくれー!」
キョン(えっと、この人は誰だったか・・・)

???「ノア殿!?」

ノア「フィルさん、フィルさんじゃないか!」

うわあ、凄いご都合主義。まあいいか、助かったし。

フィル「誤解ですって!この後に及んで何を・・・」

それにしても・・・

フィル「え?スコット殿が海賊の親玉?」

やっぱり・・・

フィル「・・・知らないこととはいえ、海賊たちに手をかしていたなんて・・・
    私はこれからどうすれば・・・」

ポニテはいいなあ。

ノア「そう言う訳だ、キョン君。ハルヒ殿に伝えておいてくれないか?」

キョン「あ、はい(半分くらい聞いてなかったな。えーと、この子が仲間になってくれるって?)」

スー「ただいま」

キョン「あ、スーさん!無事でしたか、どこ行ってたんです?」

スー「見つけたから連れてきた」

シン「シンと言う。よろしく頼む」

キョン「えーと、この人は?」

スー「私と同じクトラ族の者。役に立ってくれるはず」

キョン「まあ、いいですけど。弓使いですよね?なら、一応俺の指揮下に入って下さい」

シン「分かった」

キョン「そんなわけでいつの間にか仲間が二人増えてたんだが」

ハルヒ「それは構わないけど・・・その・・・キョンは・・・」

キョン「どうした?」

ハルヒ「キョンはその・・・そんなにポニーテールが好きなの?」

キョン「YESかNOかで言ったらYESだが」

ハルヒ「そう・・・」

次の日から西方三島を抜けるまで、ハルヒは髪型をポニーテールにしていた。眼福眼福。

キョン「賊の頭スコットを倒した俺達。だが、死の間際にスコットはこう言い残す。
    『俺は海賊四天王のなかでも最弱の存在。いずれ他の三人が・・・』」

古泉「いきなり何のナレーションですか?」

キョン「倒しても倒しても海賊が減らなくてな。スコットは討ち取ったんだろ?
    もう本当に海賊四天王とかいるんじゃないかと思ってな」

古泉「四天王は関係ありませんが、彼だけが海賊の頭と言う訳ではありません。
    西方三島には何十もの海賊の集団がいますからね」

キョン「で、ここはどこなんだ?」

古泉「エブラクム鉱山です。三島のなかでも最大級の鉱山ですね。」

キョン「飛んだな」

古泉「ギースやゴンザレスの登場に誰が興味を持つと?」

ハルヒ「それは本当の話なのね?」

ララム「信じてもらえないかもしれないけど、でも、本当の話よ!」

キョン「その娘は?」

ハルヒ「進軍中に拾ったの。私に話があるんですって。あんたも聞いていきなさい。」

このララムという騒がしい娘の話によると、この娘はレジスタンスの一人らしい。
「賊」と戦い島の人々を守る組織というのが、俺たちがエトルリアのお偉いさんから聞いていた情報だった。
だが、真実はまるで違うのだという。

ララム「あたしたちの本当の敵は『賊』を保護し、
    それを隠れ蓑にしてるエトルリアから来た領主達よ!」

古泉「古泉と」

長門「長門の」

古泉・長門「設定解説コーナー」

古泉「こうでもしないと僕たちの出番が少ないですからね。
    さて、今回は西方三島の統治システムです。
    西方三島は本国からあまりに遠いため、
    役人を派遣して本国から指令を送ることができません。
    そのため、各地に領主を派遣し、統治の権限をほぼ丸投げにしているのです」

長門「西方三島は本国の目が届かない。領主たちは私腹を肥やすことに専念できる」

古泉「領主ごとに私兵も持っている、形式としてはむしろリキア同盟に近いですね」

ララム「ここの領主達は島のみんなを無理やり鉱山へ連れて行ってそこで死ぬまで働かせるの!!
    ケガしても病気になっても、働くの絶対に休ませてくれないって・・・」

ハルヒ「酷いわね・・・」

ララム「だから!あたしたちは島のいろんなところで戦ってるの!!
     今回もこの北のエブラクム鉱山に行ってそこの人たちを助ける予定だったのにっ!!」

ハルヒ「村の人の口から情報が洩れちゃったのね。いいわ、助けてあげる。
     キョン、準備しなさい!」

ララム「ホント!?嬉しいっ!ありがとうハルヒさまっ!」

ハルヒ「ちょ、ちょっと、抱きつかないでよ!」

騒がしい上に変わった子だな。
てかハルヒ、お前も朝比奈さんに似たような事をしてるじゃないか。

ハルヒ「キョン!見てないでこの子引き剥がしてよ!」

おー、慌ててる慌ててる。面白いからもう少し見てようか。

ハルヒ「こらキョーン!!」

キョン「すびばせんでした」

ハルヒ「まったく・・・」

古泉「レジスタンスの隠れ家はこの町の中にあるんですね?」

ララム「うん。でも、もう領主オロの手が回っているかもしれない」

長門「ここの領主オロはエリミーヌ教の司祭。神の意向と権力、両方を縦に搾取している」

ハルヒ「本当にそういう奴って性質が悪いわね」

喜緑「涼宮さん、城から兵士が出てきて街を攻撃しています」

キョン「なんだとっ!ハルヒ、どうする?相手は一応エトルリアの領主だが・・・」

ハルヒ「決まってるじゃない!おかしいのはここの領主たちなんだから」

そういうとハルヒはくるりと振り返り、手にした剣を振り上げる。

ハルヒ「全軍突撃!欲ボケの領主を倒すわよ!」

オスティアに続いて二回目の市街戦。俺たちは予想外に苦戦していた。
オスティア重騎士団とベルンの連合軍に比べたら、辺境の領主の私兵なんぞただの雑魚だ。
だが、今回の戦闘では、一般市民が避難を完了していないのだ。

ハルヒ「新川さん、谷口、国木田、戦闘はいいから町の人を避難させて!
     イリア傭兵騎士団はその警護にまわって頂戴!」

古泉「オスティア重騎士団、決して防衛線を崩してはいけませんよ!
    民間人の避難が完了するまで何としても守り抜くのです」

森「お兄様、半分は避難させたわ。防衛線はあと100メートルまでなら交代できる」

古泉「了解しました。ところで、いまさらですがお兄様というのはもう止めません?」

森「分かったわ、古泉。少し下がれば道が狭まっているわ。そこで敵をくい止めましょう」

クラリーネ「ですからお兄様、私を信じて協力してください!」

クレイン「分かったよ、クラリーネ」

キョン「おや、クラリーネさん。その人は?」

クラリーネ「そ、そ、その人ですって!?平民風情がお兄様と同等のような口を!」

クレイン「落ち着いて、クラリーネ。レディが感情をあらわにしてはいけないよ」

クラリーネ「はい、お兄様」

クレイン「エトルリアの一軍を預かるクレインだ。君達の軍に投降したい。構わないかな?」

キョン「ええまあ、構いませんが」

クレイン「見た所、君が弓兵部隊の隊長だね。早速君の指揮下に入ろう」

キョン「それじゃあ、クレインさんの部隊は、後方から来る敵を狙撃してください」

クラリーネ「ちょっと、お兄様に命令するなんてどういうことですの!?」

クレイン「クラリーネ」

クラリーネ「はい、お兄様」

クレイン「ティト、これから僕はリキア同盟軍の指揮下に入る」

ティト「・・・!分かりました。私達もそのようにします」

クレイン「いいのかい?もうエトルリアからの報償は望めないが」

ティト「契約上はエトルリアに雇われていますが、私達は全員、
    クレイン将軍個人にお仕えしています」

クレイン「ありがとう、ティト。だけど一つだけ・・・」

ティト「はい、何でしょう?」

クレイン「君の部下たちに、
     僕の部下にてやりで攻撃を仕掛けるのを止めるよう伝えてくれないだろうか」

佐々木「キョン、あの家を兵士が取り囲んでいる。どうやらあれがレジスタンスの本拠のようだよ」

キョン「よし、俺と弓兵何人かでいくぞ。佐々木と長門は支援を頼む」

キョン「撃て」

家を取り囲んでいる兵士に悟られないように近づき号令を下す。
外周の兵士たちが一斉に倒れる。
長門と佐々木の理魔法が鎧を無視して内部を燃やす

兵士「く、くそっ!エキドナだ!エキドナだけでも討ち取れ!」

包囲網の内側の兵士が家になだれ込む。

キョン「しまった!」

家の中から聞こえてくる喧噪。

エキドナ?「おりゃ!はあっ!そうりゃっ!」

兵士「つ、強いぞこいつ!」

エキドナ?「当たり前っさー!」

キョン「・・・あれ?」

鶴屋「やーやーキョンくん久しぶりだね!元気にしてるにょろ?」

キョン「なんで偽名を使ってるんです?」

鶴屋「うーん、偽名というのかな?この世界に来たらそう呼ばれたから、そのまま通してただけっさ」

キョン「はあ・・・(ハルヒの力も、変なミスをする事があるんだな)」
キョン「あ、忘れるところでした。これ、鶴屋さんに渡してくれとセシリア将軍から」

鶴屋「この紙は・・・なるほど・・・そういうことにょろね」

キョン「鶴屋さん?」

鶴屋「ごめんごめん、これはこっちの要件っさ。それじゃ、鶴屋流戦斧術を披露するにょろ!」

古泉「鶴屋さんの位置は勇者『エキドナ』。
   西方三島レジスタンスのリーダーで豪放磊落な人物です。
   女性の斧使いで、斧使いの中では技量と素早さに優れている変わったキャラです。
   ストーリーにはそこまで関わりませんが、後に西方三島を束ねることになる超重要人物ですよ」

鶴屋さん率いるレジスタンスの力もあり、どうにか民間人を避難させることは成功した。
残るは悪徳司祭オロただ一人、豪勢な館を俺たちは取り囲んだ。

オロ「私は神の言葉を伝える者。この私に逆らう事は神に逆らうも同じことです」

みくる「神様に使える人なのに、あなたは何でこんなことをするんですか!?」

オロ「神ですか・・・『神』の言葉の前には全てが許される・・・便利なものですよ」

みくる「あなたは絶対許せません!」

オロ「ほう・・・ですが、どうするというのです?攻撃手段も持たない僧侶が」

みくる「はうっ!」

ハルヒ「みくるちゃん、これを受け取りなさい!」

ハルヒが朝比奈さんに投げたのは、装飾の少ない指輪だった。

ハルヒ「それを指にはめて手を掲げなさい!」

みくる「こ、こうですか?」

ハルヒ「そうしたら、私に合わせて叫ぶのよ!いい!?せーの!」

みくる「え、えと、えと」

ハルヒ・みくる「ムーンプリズムパワーメイクアップ!!」

キョン「こらー!」

古泉「どうしました?鼻血が出てますよ」

キョン「真正面でモロに見てしまった・・・変身シーン」

古泉「ああ、仕方ないかもしれませんね。個人的には火星の人が一番好きでした」

キョン「見てたのか・・・」

みくる「愛と正義のシスター朝比奈みくる!月にかわっておしおきしますっ!!」

オロ「おのれ・・・まさか『導きの指輪』を隠し持っていたとはな・・・だが、それがどうした!
    この私の前ではそのような物は無力だ!」

みくる「神様の名前を語って人々を苦しめるなんて許しません!私が・・・って、あれ?」

キョン「どうしました?」

みくる「魔道書がありませ~ん!」

キョン「・・・ハァ。ハルヒ、何で事前に渡しておかないんだ」

長門「・・・これ」

みくる「長門さんっ、ありがとうございます!ライトニング!」

みくる「・・・発動しない?」

オロ「何だ?今、何かしたか?」

みくる「どういう事ですか長門さん!?」

長門「この魔道書は特定の体制を取った後にキーワードを正確に発声することによって発動する」

みくる「じゃ、じゃあそのポーズとキーワードを教えてください!」

長門「ゴニョゴニョゴニョ」

みくる「えっ、それを本当にやらなきゃ無いんですか?」

朝比奈さんが躊躇っている。長門、お前は何を言ったんだ?

みくる「・・・分かりました、やります」

魔道書を開き、手を広げ体を一回転。
伸ばした左手を高く掲げ、目の横に下ろす。

みくる「ゴットゥーザ・レディース・ハレーション!!」

朝比奈さんの左目から放たれた白い光は、嘲るような笑いを浮かべるオロの体を貫いた。
光はそれだけに止まらず広範囲に拡散、オロの館をその高熱で焼き尽くす。

急激に出現した圧倒的な熱量は爆発を引き起こし、リキア同盟軍を含むその場にいた者全てが爆風によって吹き飛ばされた。

オロの私兵はあるいは砕けあるいは溶け、正常な形態を保つ者は残らなかった。
以上全てが、わずか四秒間の間に起こった事である。

キョン「おい、あの鉱山はどうするんだ。一応エトルリア所有の大鉱山だぞ」

ハルヒ「あのオロとかいう領主が自棄になってやったことにすればバレないわよ」

キョン「そうはいってもなあ・・・」

あの爆発のせいで坑道は完全に崩落し、もうエブラクム鉱山は使い物にならない。
復旧させようにも多くの人手と長い月日が掛かることだろう。

キョン「長門、今回はお前が原因だぞ」

長門「・・・反省している」

古泉「ここはジュトー、西方三島総督府が存在する大都市です」

キョン「その割には人気が無いな」

ハルヒ「私達を迎撃する準備でもしてるんでしょ。空を見てみなさい」

キョン「ん?」

ハルヒ「鳥の群れがいるでしょ。ほら、あの辺りに差し掛かると群れが乱れるのよ」

キョン「本当だな。お前は源氏の頭領か」

鶴屋「エブラクムでおもしろい人をみつけたにょろ!」

エルフィン「初めまして、エルフィンと申します。軍師が御入用ではありませんか?」

ハルヒ「軍師?」

エルフィン「はい。私は西方三島の地理に通じています。
       総督府の地図も持っていますし、何より一つ重要な情報を持っています。
       xきっとお役にたてるかと・・・」

ハルヒ「そうねえ・・・雇ってもいいけど、雇用の条件は?」

エルフィン「三食と寝床の保障、あとはリキア同盟軍の武力を盾にさせて頂ければそれで充分です」

古泉「それだけですか?欲の無いことですね」

エルフィン「! 君は・・・!」

古泉「?」

エルフィン「信じられない・・・彼以外にこんな美しい者が・・・」

古泉「あの・・・」

エルフィン「条件に一つ追加します。彼に私の身の回りの世話を申しつけてください」

ハルヒ・キョン・古泉「はあ!?」

鶴屋「ほらっ、言ったとおりにおもしろい人だろっ?」

キョン「嫌な方向にですけどね・・・どうする?」

長門「・・・彼の情報は私たちに必要と考える」

みくる「でも、『重要な情報』って何なんでしょう」

古泉「涼宮さん、僕はどうすれば・・・」

ハルヒ「古泉くん・・・」

ガシ

ハルヒ「ごめんっ!」

古泉「そんなあああああああああああ」

ハルヒ「それじゃあ、その情報を教えてちょうだい」

エルフィン「総督府に『人ならぬ人』がいる・・・そういう噂が流れていました。
       真偽を確かめるために私の手の者を潜入させてみたのです。
       その者の報告では、『人が竜に変身した』と」

ハルヒ「!! 人が?竜になるというの!?」

エルフィン「はい。この地図を見てください。手の者がそれを目撃したのがこの地点・・・」

ハルヒ「うん、総督府の構造は把握したわ」

エルフィン「総督アルカルドは既にエトルリアに脱出。
       総督府はベルンの将フレアーが守備しています」

ハルヒ「ベルンと手を組んでる事を隠す気も無いのね」

エルフィン「援軍を呼ぶ伝令を何騎か見つけました。
       見つけた分は始末しましたが、いくらかの援軍は計算に入れてください」

ハルヒ「ベルンの軍ってことは竜騎士はいるの?」

エルフィン「5、6騎しかいないようですが、援軍に竜騎士が来る可能性が高いです」

ハルヒ「分かったわ。全軍、援軍が来る前に総督府を落とすわよ!」

エルフィン「くれぐれも『竜』にはお気をつけて」

フレアー「おお、来たかアインよ」

アイン「ヨバレタト聞イタ・・・」

フレアー「私はナーシェン閣下にリキア同盟軍のことを報告しに行く。
      お前はその間、攻めてくる連中から城を守れ」

アイン「・・・ワカッタ」

???「ふーん・・・あれが『人ならぬ人』の正体ね・・・」

フレアー「むっ!? 誰かいるのかっ!・・・・・・気のせいか・・・ではアイン、まかせたぞ」

???「しばらくはここの兵のふりをして『竜』の力を見物しましょうか」

総督府の内部はかなり曲がりくねった構造になっていた。
もともと城塞として使う前提の建物なのだろうか。
あのエルフィンとかいう男の地図のおかげで敵の配置は分かっているのだが、それでも幾らかは苦戦する。

ハルヒ「ねえ、こっちの通路って確か倉庫があったわよね?」

キョン「確かそうだったと思うぞ」

ハルヒ「財宝の一つもないかしら・・・喜緑さん、有希、ちょっと行ってきて。
     その後はあの大きな建物に向かってちょうだい」

長門「・・・了解した」

喜緑「魔道書、宝玉、剣に弓に・・・鞭?使い道はなんでしたっけ・・・」

長門「飛行系のユニットに使用しCCさせるもの」

喜緑「そうでしたね。それにしても、長門さんも私もすっかりこの世界に馴染んじゃいましたね」

長門「住めば都」

喜緑「あ、私だけじゃ持ちきれないんで、何個か持って下さいね」

長門「涼宮ハルヒ達より早く目標地点に到達してしまった」

喜緑「困りましたね・・・あら、あそこで扉の鍵穴を覗いてるのは」

???「どきなさいよそこの兵士!ああ、また別の兵士が来た・・・」

長門「朝倉涼子、そこで何を・・・?」

朝倉「長門さん!?どうしてここに」

喜緑「それは私達が聞きたいんですが・・・」

朝倉「喜緑さんまで・・・それじゃ、みんなこの世界に?」

長門「涼宮ハルヒとその周囲の人物は大半がこの世界に飛ばされている」

喜緑「ちょっと手を貸してください。この世界の設定と現在の状況を送信します」

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朝倉「なるほど・・・私達は同じ孤児院で育ったことになってるのね」

喜緑「そして孤児院はベルンの進行により壊滅、院長は殺害されました」

長門「以上を踏まえてあなたの行動は?」

朝倉「私もあなた達についていくわ。ベルンの『竜』には興味あるしね」

長門「・・・」

朝倉「何よ!べ、別に院長先生の仇討ちとかそんなんじゃないんだから!」

長門「安いツンデレに意味は無い」

喜緑「本来ラスボスとして登場予定だった長門さんが三章で登場したから、
    おかしいと思ってましたけど・・・」

朝倉「ぎくり」

喜緑「やっぱりあなたの仕業でしたか」

朝倉「・・・」

喜緑「ご丁寧に双子キャラで登場するとは」

朝倉「いいじゃないの別に。情報統合思念体も乗り気だったし」

喜緑「乗り気だった?」

朝倉「そうよ。耳を済ませてごらんなさい」

喜緑「・・・?」

ハルヒたちは島の人々を救うために島の北西にある都市ジュトーへと軍をむけた・・・

喜緑「これは・・・章開始時のナレーション?」

朝倉「そうよ。誰も聞いてなかったけど、一章からずっとナレーションは有ったのよ」

朝倉「情報統合思念体のナレーションよ」

喜緑「なんでマルカム博士なんですか・・・」

朝倉「それは私にもわからないわ」

キョン「ふう・・・やっとのことで着いた。この建物だったか?何の建物だよ」

朝倉「総督室よ。ほかの建物から離れてるのは何でかしらね」

キョン「うおっ、朝倉!?」

朝倉「大丈夫よ、今回は刺さないから。それより、この中に何がいるか知ってるわよね?」

キョン「『竜』がいるんだろ?」

朝倉「そうよ。長門さん」

長門「エルファイアー」

長門のエルファイアーは、総督室の扉を吹き飛ばした。
中にいたのは数人の兵士と赤いローブを羽織った貧相な男。
男は総督の椅子に深く腰掛けている。

キョン「あの男か?」

朝倉「そうよ、とてもそうは見えないでしょうけど」

ローブの男はゆらりと立ち上がると、懐から血のように真っ赤な石を取り出した。

アイン「・・・燃エヨ」

男の体が変形を始める。細い手足は鱗で覆われ、爪は長く鋭くなっていく。
背中からはローブを突き破り、翼と尾が姿を見せる。
顔はもう人の形では無く、例えるなら巨大なトカゲのそれであった。
ゴキゴキと骨の鳴る音とともに男の体が膨らんでいく。

朝倉「普段は人の姿を取っていて、力はあの石に隠している。
    そして、必要となれば力を開放し、全てを燃やしつくす。あれが伝説の『竜』よ」

正直なところ、俺が『竜』に対して抱いた感想は、かっこいいなという的外れな物だった。
これだけ人知を超えた存在の前には、恐ろしいだの危ないだのネガティブな感情が湧かないもんだな。
凄いじゃないか『竜』って奴は。これじゃ人間はどうやっても・・・

キョン「どあっふう!?」

長門の蹴りがヒットし、真横に吹っ飛ぶ俺。次の瞬間、さっきまで俺がいた所に炎が降り注ぐ。

キョン「すまん、長門」

長門「いい、油断しないで」

キョン「射かけろ!」

俺の号令で弓部隊が一斉射撃を開始する。
だが、矢は竜の鱗にはじき返されるばかりで、一筋の傷も与えられない。

キョン「だめか・・・クレインさん、お願いします」

クレイン「任せてくれ」

クレインさんはぎんのゆみを所持しており、その威力は俺のはがねのゆみとは比べ物にもならない。
てかハルヒ、軍資金有るんだからもう少しいい弓よこせ。

クレイン「心臓はどこだ・・・そこか?」

ヒュッ、と小気味のいい音がして、ぎんのゆみの為に作られた強靭な矢が飛んでいく。

だが、竜にはやはり通用しない。つまようじが手の甲に刺さった程度にしか効いていないようだ。

クレイン「どうやら、僕たち弓兵では相手にならないようだ、一度後退しよう」

ハルヒ「何よあれ・・・人間が闘える相手なの?」

古泉「まるで神人ですね・・・いや、そこまでの大きさはありませんか」

新川「しかし神人より厄介ですね。あれだけ火を吹いていたのでは近づくのも難しい」

ハルヒ「谷口、あんたの出番よ!デュランダルで特攻かけなさい!」

谷口「無理だろ!間合いに入る前に燃やされちまう!」

ハルヒ「ああもう肝心な時に使えない!ドラゴンキラーがあったわよね!?」

輸送隊「どなたかが持ち出されておりますが」

数百の兵士も一体の化け物相手には何の役にも立たないのか。
戦死者は少ないが、リキア同盟軍にはもはや戦意は残されていなかった。

キョン「長門、もういい、退却するんだ!」

朝倉「しっ、もう少し待って」

長門「・・・情報統合思念体とのアクセス完了。許可が下りた」

朝倉「待ちくたびれたわ。喜緑さん、許可下りたわよ」

喜緑「やっと来ましたか」

長門・朝倉・喜緑「限 定 解 除!!」

キョン「なん・・・だと・・・?」

朝倉「私達インターフェースは、ゲームの進行に影響を及ぼさないように、
    普段は能力に制限が掛けられているの」

長門「その割合は80%」

喜緑「つまり、今の私達の身体能力は先ほどまでの五倍です」

朝倉「本当は使わなくてもいいはずだったんだけど、
    このドラゴンなにか間違ってるんじゃないかってくらい強いのよね」

そこからの三人の戦いぶりは、戦場の誰もが目を奪われるほどの物だった。
振り下ろされた竜の腕を駆け上がり、背中に攻撃を加える喜緑さん。
少し離れた位置から『ファイアー』を打ち込む長門。
竜の足元に『ミィル』を放ち、その歩みを妨げる朝倉。
竜が炎を吹けば、そこに既に三人の姿は無い。

喜緑「長門さん、朝倉さん、竜の首を持ち上げさせて下さい」

長門「分かった」

攻撃をかわしながら、制限を解除された跳躍力で竜の背に飛び乗る二人。そのまま高速詠唱を開始する。

一瞬三人が視線を交錯させ、次の瞬間喜緑さんが走り出す。

長門「『エイルカリバー』」

朝倉「『リザイア』!!」

風の刃が竜の鱗を切り裂き、闇から延びる手がその血を吸いこんでいく。

今までとは段違いの苦痛に竜がその身を反らす。

喜緑「お二人とも、ご苦労様です」

手にしていたナイフを腰に戻すと、背中のマントから一本の長剣を取りだした。

喜緑「・・・ふっ!」

腹の底から絞り出すような気合とともに、竜の首元にその剣を突き刺す。
そして、脚力で強引に体ごと走らせる。

二秒後、大量の鮮血と共に、竜の巨体が崩れ落ちた。

喜緑「流石ドラゴンキラー、朝倉さんのナイフとは比べ物になりませんね」

ハルヒ「これが・・・『竜』の力なの・・・? なんとか倒すことができたけれど・・・」

キョン「んー、まあ、確かに反則的な力ではあったが・・・」

ハルヒ「ベルンはこんなものを蘇らせたの?一体あと何体こんなものがいるのよ!?」

キョン「おい、ハルヒ・・・」

ハルヒ「あんな化け物相手に人間がどうやって戦っていけばいいっていうのよ!?」

キョン「ハルヒ!!」

声を普段より二段階ほど大きくして叫ぶと、ハルヒの肩がビクリと震える。

キョン「気持ちは分かるがしっかりしろ。軍のリーダーがうろたえてたら皆が不安になるだろう?
    だいたいお前はそういうキャラじゃない。
    いつも無駄にやかましくて、一人で突っ走っていくキャラだろう」

ハルヒ「ちょっと、キョン、それどういう意味よ!?」

キョン「言葉通りの意味だ。」

エルフィン「さて、お二人が仲良く喧嘩なさっているところ失礼ですが、耳よりの情報を入手しました」

キョン「仲良くは余計だが話せ」

エルフィン「はい、ここから数キロほどの地点に洞窟があるようですが、
       そのなかに神将器のひとつが眠っているそうです。
       名前を『天雷の斧 アルマーズ』。
       これを手に入れれば、竜との戦いはさらに楽になるでしょう」

キョン「いくらなんでもあの竜は強すぎたな。
    あんなもの、いくら神将器を集めたって無理な気がするが・・・」

朝倉「そう、そこが問題なのよ」

キョン「うおっ!後ろから近寄るな!」

朝倉「二回目なんだから慣れてくれる?刺さないって。
    それより、さっきのあれ、異常な強さだったでしょ?」

キョン「ああ、なにかの間違いのような強さだったな」

朝倉「本当に間違いだった、としたら?」

キョン「・・・どういう意味だ?」

朝倉「ポケモンの初代作をプレイしたことは有る?」

キョン「唐突だな・・・緑ならプレイしたことはあるが」

朝倉「急に博士が訳の分からない事を喋りだしたり、
    リザードを連れたまま進まない話を繰り返したりそんなのには飽き飽きしてたんだけどね」

キョン「話が見えないが」

朝倉「さっきの竜、アインって名前なんだけどね。これがパラメータなの」

キョン「これは・・・守備40!?力35!?HPは・・・もう欄に入ってないぞ!?
    これはどういう事なんだ!?」

朝倉「いわゆる"バグ"よ」

朝倉「古泉君が涼宮さんに貸したソフト・・・もう7年も前のものなの。
    そろそろ内部の記録用電池も切れかけてる。
    しかもこのゲームは他のゲームに比べるとセーブの頻度が多いわ。
    オートセーブがあるからね。そのせいかしら?ときどき挙動がおかしくなるの」

キョン「それは怖いな・・・これからもこんな事があるのか?」

朝倉「可能性としてはね。いつ起こるかは分からないけど。だけど安心して。
    打つべき手は打っておいたから」

キョン「何をしたんだ?」

長門「天蓋領域のインターフェースとの双方向通信を確立した。
    これよりセーブデータをPCへと移行する」

キョン「長門・・・どういう事だ?」

長門「私達は現在、16進数で表示されるただのデータ。元の世界の物体に干渉する事は出来ない。
    しかし、天蓋領域のインターフェースからの働きかけにより、
    微小のデータを転送する事が出来るようになった」

朝倉「それで、こっちの現在の状況・・・バグの詳細とかね。
    そういうデータを送って、修正用のデータを作ってもらったの。
    いったんセーブデータをPCに移してデータを修正し、電池を換えたカートリッジに移し替える。
    多分これで全ては解決するわ」

キョン「なんだか・・・ゲーム一つに大袈裟な騒ぎだな。これで大丈夫なんだな?」

朝倉「涼宮さんが、『バグみたいに強い敵が出て欲しい』とでも望まない限りはね」

キョン「それは明らかな再発フラグだな」

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