ハルヒファイヤエムブレム第一部 2 後編

Last-modified: 2009-05-23 (土) 02:43:57

エルフィン「・・・ですが、それでは・・・」

ハルヒ「だけど、神将器なしでベルンと戦うのは辛いわ。ここは戦力を裂いてでも確保するべきよ」

キョン「何の話だ?」

エルフィン「ええ、これからの進軍のことなのですが・・・
       アルカルドがベルンと手を組んでいることが明白になった以上、
       我々がこの地にいるのは危険。
       一刻も早く取って返し、エトルリアの上層部と接触しなければ」

ハルヒ「だけど、神将器なしでベルンと戦う訳にもいかないでしょ?
     だから、軍の何割かを裂いて回収に充てようと思うんだけど」

エルフィン「しかし、大軍とは言えないこの軍をさらに分ける事は・・・」

新川「その話、聞かせて頂きました」

森「私達にお任せ下さい」

キョン「新川さん、森さん、あなた達が?」

新川「私達に50程の手勢を与えてくだされば、アルマーズを入手して軍に合流して見せましょう」

森「どうぞ、ご命令を」

ハルヒ「二人とも、頼もしいわね!それじゃ早速行ってちょうだい。
     それから、道案内にエキドナさんもよろしくね!」

鶴屋「任せるっさー!」

古泉「それでは、行ってきます」

エルフィン「おっと、一樹君は駄目だ。君は私のお付きなんだから・・・」

古泉「・・・助けて下さい」

キョン「無理だ」

伝令兵「伝令!エトルリア本国より伝令!王都アクレイアでクーデター勃発!!」

ハルヒ「何ですって!?」

伝令兵「クーデターの首謀者は宰相ロアーツ、西方三島総督アルカルド。
     この両名を中心に組織されたクーデター派はまずモルドレッド国王を捕えた後、
     ベルン王国とともに世界を二分すると宣言しています!」

みくる「セ、セシリアさんとギネヴィアさまは無事なんですか?」

ハルヒ(みくるちゃんいたんだ)

キョン(そういえば朝比奈さんもいたんだな)

古泉(彼女もいたんでしたね)

長門(失念していた)

伝令兵「セシリア魔道軍将は事前に情報を得、からくも王都を脱出。
     大陸の西端、ミスル半島へ向かっておられるらしいとのことです」

ハルヒ「のこりの軍将は?」

伝令兵「国王陛下を人質に取られ、クーデター派についているとか」

キョン「ハルヒ、どうする?」

ハルヒ「ミスル半島に進軍!まずはセシリアさんと合流するわ!」

大陸の西端、ミスル半島のそのまた西の端、朽ちかけた古城に俺たちは到着した。
遠くからは剣戟の音が聞こえてくる。

伝令兵「伝令!ベルン軍は城に攻撃を加え続けているものの、セシリア将軍の抵抗にあい、
     膠着状態が続いているようです!」

ハルヒ「行くわよ!ベルン軍なんか蹴散らしちゃいなさい!」

ナーシェン「くそっ、あの生意気な鉄仮面女、またしても私の邪魔を・・・!」

ゼフィール「手こずっておるようだな、ナーシェン」

ナーシェン「こ、これは陛下!?いつこちらに・・・」

ゼフィール「先ほど着いたばかりだ。どうやらエトルリアの将軍が頑張っておるようだな」

ナーシェン「は・・・早急に攻略いたしますので・・・」

ゼフィール「構わん。わし自らがその者の相手をしてくれる。よい座興だ。ナーシェン、案内をいたせ」

セシリア(みくる大)「これなら、援軍が来るまで持ちこたえられる筈・・・」

ゼフィール「ほう、貴様が『魔道軍将』セシリアか」

セシリア「ベルン国王・・・!」

ゼフィール「貴様の戦いぶりに免じて、わし自らが相手をしてくれよう」

ハルヒ「城が落ちたですって!?さっきまで大丈夫って話だったのに?」

キョン「ベルン国王自ら動いたって話だからな・・・セシリアさんは大丈夫なのか?」

エルフィン「普通に考えれば可能性は低いですが、一つ望みがあります」

キョン「望み?」

ナーシェン「陛下、もしよろしければ、この女を私にお預け願えないでしょうか?」

ゼフィール「ん?」

ナーシェン「この女には少々恨みがございまして。たっぷり思い知らせてやりたいと・・・」

ゼフィール「・・・まあ、いいだろう。好きにしろ」

ナーシェン「ありがたき幸せ。おい、城の牢を『使える』ように準備しろ」

兵士「はっ」

ゼフィール(・・・何をだ?)

エルフィン「敵将ナーシェンは、一言でいえば『変態』です」

ハルヒ「城までの道は二通りあるわ。谷口と国木田の騎馬隊、古泉君の重騎士部隊は北から進軍。
    私の主力は南から進むわ。有希たち魔法部隊は遊撃軍、ディークさん達傭兵部隊も遊撃ね」

キョン「おい、騎馬隊と重騎士を同時に行動させるのは無理が無いか?」

ハルヒ「この戦場、東西に長いのよ。たぶん挟み打ちを狙ってくる。
     重騎士が後ろの敵を止めている間に騎馬隊で城を衝く、そういう戦法を狙ってるの。
     それに、私以外で奇襲を受けたときに軍を立て直せるのはエルフィンだけでしょ?
     エルフィンは古泉君にべったりだし」

キョン「あー、まあいいか。俺達弓兵隊は?」

ハルヒ「森に隠れて先行して。敵軍のアーチを奪い取って、飛竜部隊を打ち落としてちょうだい」

キョン「分かった」

城を落としたと油断しているベルン兵を追い払うのは簡単だった。
アーチを奪い取り矢を番える。

問題なのはそれ以降だ。
ハルヒの予想通り、後方から敵の援軍が出現する。
予想が出来ていたとはいえ、急な敵の増援は辛い。
得に俺たちは近接戦闘には向いていないのだら。

まあそこは、なんだかんだで頭のいいあいつの事、遊撃部隊がすでにこちらにまわってきている。
俺たちは前方の飛竜部隊に集中した。

キョン「しかし、もう飛竜もなれちまったな。オスティアの時はあれだけ恐ろしかったのに」

クレイン「君が強くなったからだと思うよ。もうじき僕よりも強くなるんじゃないかな」

キョン「でも、装備は相変わらずはがねのゆみなんですが」

エルフィン「騎馬隊を何人か後ろに回してくれ。
       重騎士は左翼を後退、受け流すように相手を通過させて」

古泉「はい、通過させた相手は?」

エルフィン「騎馬隊に任せる。適当な所で左翼を戻し、残った敵を遊撃部隊と挟撃する。
       進軍はその後だ」

古泉「了解しました。しかし、ただの野良軍師とは思えないほどの的確な指示ですね。
    だれか師がいるのですか?」

エルフィン「ああ、とても素晴らしい師がいるよ」

伝令「報告!エトルリア騎士軍将の部隊を発見!攻撃はせず戦場を静観しているようです!」

エルフィン「何だって!?パーシバルが戦場にいる!?」

古泉「あ、エルフィンさん、どこへ行くんですか!?」

エルフィン「彼に会いに行くんだ!止めても無駄だ!」

古泉「仕方が無い、長門さんか朝倉さん、ここの指揮をお願いします!」

パーシバル「ベルン国王が城を攻撃した?話が違う。
        国内のもめごとは我々の手で片付けるという約束だったはずだ」

兵士「将軍閣下、我々は・・・」

パーシバル「・・・撤退の用意だ。この戦場に我々のいる意味は無い」

エルフィン「パーシバル!」

パーシバル「あなたは、まさか・・・!いや、ありえん、王子は亡くなられたのだ・・・」

エルフィン「・・・信じられなくとも無理はない。
       死んだはずの私が、今、この場に立っているのだからね」

パーシバル「ミルディン王子!生きておられたのか・・・?本当に・・・」

古泉「ふう、重騎士の足では、なかなか追いつけませんね。おや、あれはエトルリアの・・・!?」

パーシバル「ああ、王子、よもや再びあなたをこの手に抱ける日がこようとは!」

エルフィン「長く心配をかけた。こうして会う日をどれだけ待ちわびたことか・・・」

古泉「あの、後ろを向いてらっしゃるエトルリア兵の皆さん、これはどういう事でしょう」

兵士A「私達は何も見ていません何も聞こえません見えていてはならないのです」

兵士B「エトルリア軍騎士軍将ともあろう方が今何をしているかなど私には見えていないのです
     ええ見えていないのです」

古泉「はあ・・・」

古泉「そろそろ三十分ほどになるのですが、もういいですか?」

エルフィン「ああ、すまない、君の事を忘れていたね。
       パーシバル、この軍で素晴らしい少年を見つけたんだ」

パーシバル「ほお・・・クレイン以来の逸材ですね。君の名前は?」

古泉「こ、古泉一樹です」

パーシバル「一樹君か・・・覚えておこう」

エルフィン「さて、パーシバル、私達はこれからあの城を攻める。力を貸してくれるか?」

パーシバル「どうかご命令を。私が剣をささげた主はあなた一人です、ミルディン王子」

ナーシェン「なに?リキア同盟軍だと!?奴等はジュトーで始末したのではなかったかフレアー!?」

フレアー「い、いえ、竜を置いてまいりましたので、まさか生き延びているとは・・・」

ナーシェン「お前それマジ?」

フレアー「はい」

ナーシェン「お前は馬鹿か!?
       いくら強いと言ってもリキア同盟軍一匹で壊滅させられるわけないだろ!?
       何のために私の精鋭の半分を預けたと思ってるんだよ!?
       無傷で帰ってきたからおかしいとは思っていたけどさ!
       私の立場どうなるの!?お前の上官の私の!?
       ああどうしようどうしようどうしよう私の面目が・・・」

フレアー「ナ、ナーシェン様、私たちは一体・・・どうすれば・・・」

ナーシェン「仕方がない・・・フレアーよ。私は一度エトルリア王都に戻りそこで奴らへの対策を練る。
       おまえはここに残れ。倒せとまでは言わん。
       できるかぎり打撃を与え、兵力を削っておくのだ」

パーシバル「敵将はナーシェン将軍だと聞いていたが・・・」

フレアー「私とてベルンの竜騎士、意地を見せてやるぞ!!」

パーシバル「意地など一対一の戦いでは意味が無い」

飛竜を舞い上がらせ、槍を構えて急降下してくるフレアー、馬上で不動の構えを取るパーシバル。
すれ違った刹那、パーシバルの槍がフレアーを貫いた。

フレアー「お・・・覚えておけ、私以上の将はいくらでもいる。
      大陸最強たるベルン軍は貴様らを生かしておかぬ・・・」

キョン「古泉、あの人は確か・・・って、顔色悪いぞどうした?」

古泉「いえ、見てはいけない世界を垣間見てしまいまして」

エルフィン「流石だ、パーシバル。さらに腕を上げたな」

パーシバル「王子が亡くなられたと思ってからは、
        鍛錬と軍務以外にする事がありませんでしたので」

エルフィン「そうか・・・だが、今日からはそれも終わりだ。また以前のように可愛がってくれ」

パーシバル「もちろんです」

キョン「えーとあれはどういうことかな古泉君」

古泉「あなたまで壊れないで下さいね。僕の精神はもう限界に近いのですから」

エルフィン「そうだ、一樹君も今夜は一緒に」

キョン「おお、重騎士が走った」

ミレディ「失礼、リキア同盟のハルヒ将軍ですか?」

ハルヒ「そうだけどあなたは?」

ミレディ「私はベルン竜騎士のミレディ。貴軍に投降したい」

キョン「投降?いきなり何を・・・」

ミレディ「信用してもらえないのはもっともです。
     ですが、これを見てくだされば・・・ギネヴィア殿下、どうぞこちらへ」

ギネヴィア「お久しぶりです、ハルヒ将軍」

ハルヒ「ギネヴィア様!もうベルンに連れて帰られたかと・・・」

ギネヴィア「このミレディが助けてくれたのです。みくる、あなたにも心配をかけましたね」

みくる「ふええええ~」

ミレディ「セシリア将軍は、この城の地下牢に監禁されています。鍵はここに。
     ナーシェンの部下を締め上げて見つけ出しました」

ハルヒ「この地下牢ね・・・セシリアさん!」

みくる大「はいっ!?えーと、仮面仮面・・・あった!」

ハルヒ「大丈夫でした?助かってよかった・・・」

みくる大「ええ、この子が助けてくれたから」

周防「――――――」

ハルヒ「この子は?」

みくる大「『ナバタの里』の巫女なんですって。
      東のナバタ砂漠にある里らしいんだけど、ベルンの攻撃を受けているんだとか」

ハルヒ「ねえ、なんでベルンの攻撃を受けてるの?」

周防「――分から―――ない―――――竜がいる―――から――――?」

ハルヒ「竜?あなたの里には竜がいるの?」

みくる大「この子に説明させると時間がかかるから、私が聞いたことを話すわね。」

大きい方の朝比奈さんの説明によると、彼女、周防九曜は、東の砂漠にある『ナバタの里』の巫女である。

ナバタの里は遠い昔、竜と人とが手を携えて作った理想郷だと言うのだ。
そのことがどういう訳かベルンに伝わり、ベルンの軍が里を襲撃しているという訳だ。

別に長い話でもないのだが、彼女に喋らせれば十分は掛かっただろう。

長門「あなたは?」

周防「周防――九曜――――」

長門「くぉ・・・?」

周防「――私の――台詞―――」

長門「・・・・・・・・・」

周防「―――――――――」

朝倉「あら、その子は・・・データの移行の時はありがとうね」

周防「―――――――――」

朝倉「・・・反応に困る子ね・・・それはいいわ。あなたもシャーマン?魔道書は持ってる?」

周防「――――持って――ない――」

朝倉「そうなんだ。それじゃ、私の予備のあげるわね。
    こっちはミィル、二冊あるから。こっちはリザイア、大事に使ってね」

周防「――――」

朝倉「どうしたの?」

周防「―――重くて―――動け――ない―――」

長門「闇魔道書は魔道書の中でも群を抜いて重い。小柄な彼女がそれだけの数を運ぶのは不可能」

朝倉「・・・仕方が無いわね。私が持っててあげるから、使うときに言いなさい。分かった?」

周防「――分かった――――」

喜緑「あらあら、いいお母さんになれそうですね」

ナバタの里防衛線と、そこで拾った竜の女の子絡みのゴタゴタは省略する。

特に語るほどの事も無かったからな。
強いて言えば、神将器の一つフォルブレイズが、ナバタの里に眠っていたことか。

あと、軍中の強さのランク付けが大きく動いた事もあるかも知れない。

朝倉「長門さん、それは何?」

長門「焼き菓子。輸送隊の手伝いをしたら貰った。あなた達の分もある」

喜緑「いいですね。それじゃ、私はお茶を用意します」

長門「周防九曜、あなたも食べる?」

周防「―――食べ――る――」

古泉「和やかですねえ」

キョン「あれが俺たちの軍の最強精鋭部隊なんだよな」

周防九曜の加入によって、ただでさえ異常な強さだった三人組の戦力がさらに飛躍的に向上した。

軽快なフットワークと手数の長門、一撃の朝倉、神出鬼没の周防。
それに喜緑さんのナイフ術が加わるのだ。

攻撃の選択肢が一つ増えることの恐ろしさは、某チート悪魔がアメフトで証明している。
砂漠に展開していたベルンの将ランディのあの涙目はちょっとしたトラウマになりそうだった。

いまやあの四人は、それだけで100の兵をも圧倒する最強部隊なのだ

喜緑「紅茶が入りましたよー」

朝倉「私もお菓子なら少し持ってるから、これも一緒に食べましょう」

長門「いただきます」

周防「――――いただきます――」

キョン「なんだかなあ」

ハルヒ「ここが王都アクレイアね。この城壁を越えていくのは流石にキツイわね」

サウル「その心配はありません、ハルヒ様」

ハルヒ「あら、谷口の親戚じゃない」

サウル「彼とは共感できるところがありますが違います。
     それより、エリミーヌ教団より使いが来ました。
     市民を決起させたことで、クーデター派の市街戦続行は不可能。
     クーデター派は城内に籠ったそうです」

ハルヒ「ふーん、エリミーヌ教団も凄いわね。損害の大きい市街戦は避けられるなら・・・」

キョン「ハルヒ、どういう作戦を取るんだ?」

ハルヒ「騎兵、天馬騎士、竜騎士は城外待機、脱走しようとする敵兵を撃破。
     歩兵は城内に突撃。王道としてはこんなとこね」

ミスル半島での戦闘で、ギネヴィアさんのお付きの竜騎士ミレディさんが俺たちの軍に参加した。

その部下数名も俺たちの軍に加わっているのだ。

キョン「騎馬隊を全部城外に置くと、結構な数になるぞ?城内で苦戦すると思うが」

ハルヒ「段差一つ越えるのに苦労する騎兵が何人もいたって城の中では邪魔なだけよ。
     それに、クーデター派はまともには戦おうとしないはずよ」

キョン「なんでそう思う?」

ハルヒ「クーデター派のトップは、西方総督アルカルドと宰相ロアーツ。
     ロアーツは文官で軍は持たない、
     私兵は囲っているけどその練度は正規軍の足元にも及ばないわ。
     アルカルドの兵はほとんど西方三島に置き去り、手元にいるのはベルン兵だけのはず。
     たぶんもう脱走の準備を整えてるわよ、どっちも」

キョン「・・・・・・」

ハルヒ「それに、ベルンはいつまでもエトルリアに手を貸しているはずが無いわ。
    ミスル半島とナバタ砂漠で結構な数の部隊を失ってるんだから。
    兵力を分散させるよりは、手勢をサカとイリアの軍に合流させて私達を引き込もうとするわよ。
    その方が地形も熟知してるし・・・ってどうしたのよ、ポカンとアホ面曝して」

キョン「いや、改めてお前は凄い奴だと思ったんだよ」

ハルヒ「な、何言ってるのよ今さら!もう何年の付き合いになると・・・」

キョン(ああ、そういえばこっちの世界では俺達は乳兄弟なんだっけな)

ハルヒ「ちょっとキョン!?」

キョン「ああ、すまんすまん」

エトルリアの王城はやや装飾過多な気もするが、その守りも堅かった。
俺たちの手勢はいくつかの部隊かに分かれ、一斉に城内に突撃した。

ハルヒの本隊に俺の弓兵隊の混合部隊、ディークさんの傭兵部隊、佐々木率いるオスティア重騎士団、長門たちの魔法部隊。
場外は既に、谷口と国木田のリキア騎馬隊、地味な人のイリア傭兵騎士団が包囲を固めている。

キョン「ハルヒ、敵兵の鎧を確認したんだが、やっぱり残ってるのはベルンの兵だけだ」

ハルヒ「そうでしょ?この程度の数なら、私達だけでも十分張り合えるのよ」

キョン「ああ、そうだな。撃ち方やめ、下がれ!」

ハルヒ「展開!残った敵を押しつぶしなさい!」

城内の小ホールに集まっている敵兵達が目に見えて減っていく。

ハルヒ「このまま玉座まで一直線よ!全軍突げ・・・」

キョン「ハルヒ、伏せろ!!」

古泉「大丈夫ですか?佐々木さん」

佐々木「ああ、重騎士の鉄壁の守りのおかげで傷一つないよ」

古泉「それはよかった。貴女の身に傷一つでもつけては、我々重騎士の恥ですからね」

佐々木「くつくつくつ、君は忠義の臣がよく似合うよ。いや、よく板に付いているというべきかな?」

古泉「お褒めに与り光栄です。
    最近は疲れる人の下についていましたので、今日は気分がいいんですよ」

佐々木「君が疲れるほどとは、よっぽどの人だね・・・おや、あれは?」

古泉「危ない、伏せてください!」

長門「この部屋の敵全ての排除を確認した」

朝倉「次は分かれ道ね。左に行けば涼宮さん達と合流、右に行けば玉座へ直行だけど」

喜緑「私たちの戦い方なら、むしろ味方がいない方が楽ですね」

長門「右へ」

周防「――――――――」

朝倉「どうしたの、周防さん?」

周防「―――何か―――来る――――」

喜緑「?・・・危ない!」

ナーシェン「私は強い!私は賢い!私は美しい!私は正しい!
       誰よりも・・・誰よりもだっ!はーっはっはっはっは!」

ベルン飛竜兵「将軍閣下に続けーっ!後れを取るな!」

キョン「な、何だあいつは・・・城の中を飛竜ですっ飛んできやがった・・・」

ハルヒ「呆れてる場合じゃないわよキョン!早く皆を広い所まで下がらせて!」

キョン「いや、俺の弓で打ち落としちまえば・・・」

ハルヒ「自分の頭の上にトン単位の鉄槌を降らせたいの!?早く!」

古泉「くっ、佐々木さん、お怪我は・・・」

佐々木「てやりがちょっと掠っただけだ。心配はいらないよ」

古泉「まさか、城内で飛竜を飛び回らせるとは・・・」

佐々木「イリアの天馬騎士ですら難しい芸当だろうに、それをあの巨体でやってのけるんだからね。
     本当にベルンの兵の練度には頭が下がるよ」

古泉「感心している場合では無いですよ。第二波が来ました」

佐々木「重騎士隊、身を守ることだけに専念してくれ。攻撃が止んだら広間まで下がろう」

長門「城内での飛竜の運用・・・前例が無い、危険すぎる」

喜緑「あの速度、風圧・・・対処は難しいですね」

朝倉「馬鹿は何をするか分からないから怖いわ・・・周防さん、どこに行くの?」

周防「――広間―――広ければ――安全―――」

喜緑「確かに、この狭い通路では、飛竜の攻撃をかわすのは辛いですね。広間まで下がりましょう」

ハルヒ「どうにか広間まで逃げられたわね・・・今のうちに体勢を立て直すわ。キョン、負傷兵は?」

キョン「二割くらいは使い物にならないな・・・朝比奈さんが治療してるが、すぐに戦うのは無理だ」

ハルヒ「被害は大きいわね・・・あら?佐々木さんに古泉君?」

佐々木「飛竜部隊に攻撃されて退却してきたの」

古泉「ここなら迎撃にも向いていますし、体勢を立て直すのにもよいかと」

長門「私達も退却してきた」

朝倉「いくらなんでも城内に飛竜を飛び回らせるなんて思わなかったわ」

ハルヒ「皆ここまでよく来れたわね」

古泉「攻撃が一度緩みましたからね」

長門「その機を逃す手はないと思った」

ハルヒ「・・・」

ハルヒ「しまった!全軍散開!陣形なんてどうでもいいから、広間から出て!」

キョン「おい、何でだハルヒ!そんな無茶苦茶な命令が有るか!?」

ハルヒ「いいから早く!早くしないと手遅れに」

ナーシェン「もう遅い!工作部隊、やれっ!」

通路から現れた魔道士達が、一斉に天井へ向かって魔法を放つ。

シャンデリアが飛び散り、欠けた天井が雨あられと降り注ぐ。

二十メートル近い高さから落下してくる瓦礫は、屈強な戦士の振るうハンマーの如く、鎧と頭蓋を打ち砕く。
混乱に陥るリキア同盟軍。
そこにナーシェンの部隊が突撃してくる。

ハルヒ「静まれ!静まりなさい!」

ナーシェン「これで終わりだ!私の栄光の為に死ねえっ!」

???「そうはさせないっさー!」

キョン「まさか!」

古泉「その声は!」

パリーン!

天井のステンドグラスを突き破り飛び込んでくる一つの影。
影は手にした巨大な斧で一体の飛竜を叩き斬ると、そのままナーシェンに飛びかかった。

キョン「鶴屋さん、戻ってきたんですね!」

鶴屋「あたしだけ新川さんの馬に乗って全力で走ってきたんだよ!
    見るがいいっさ、鶴屋流戦斧術『鶴雷』!」

ナーシェン「ぐおっ・・・この女・・・おい、お前たち、はやくこいつを仕留めろ」

キョン「そうはさせるか!、撃て!」

鶴屋さんの勇姿に鼓舞されたリキア同盟軍は、混乱状態から脱出しかけていた。
俺は弓兵に喝を入れ、ナーシェンの周りの飛竜を打ち落とさせる。

ハルヒ「ようやく落ち着いたわね!こうなってしまえば私達が有利よ!」

ナーシェン「まだだ、まだ終わってはいないぞ!これだけの数の竜騎士を相手に貴様らが・・・」

ハルヒ「これだけの数、は私達のセリフよ。
     あんたのそのハリネズミ状態の飛竜だけで、これだけの数の兵と戦えるのかしら?」

ナーシェンの周りの飛竜は、一頭、また一頭と墜落していく。
残っている者も既にふらつき、とても戦える状態ではなさそうだ。

ナーシェン「おのれ・・・おのれえっ・・・!」

竜の手綱を引き、天井近くまで飛び上がるナーシェン。
槍を構え俺たちを睨みつける。

ハルヒに槍の穂先を向け、飛竜に鞭を入れる。

ナーシェン「貴様ら如きにっ、貴様ら如きにぃっ!」

弓兵隊の矢、魔道部隊の魔法が、ほぼ同時にナーシェンの体に吸い込まれていった。

ハルヒ「キョン、軍の被害は?」

キョン「今までに無いくらいの大損害だな。
    治療をしても復帰できないだろう兵士が一割、復帰に時間のかかる兵が二割。
    一週間以内に治るだろう負傷兵が全体の四割だ。戦死者もそれなりの数がいる」

ハルヒ「予想以上の損害ね・・・」

キョン「だが、エトルリアの正規軍が合流したし、
    鶴屋さんは西方三島からレジスタンスを連れてきてくれた。
    負傷兵の治療が終われば、今までの倍近い兵士を用意できる」

ハルヒ「そうね。エトルリアを奪還したことで、リキア同盟内の日和見派も兵を差し出し始めたし。
     これならきっとベルンとも互角に戦えるはずよ」

キョン「やっぱりベルンに攻め込むのか?」

ハルヒ「当然よ。守ってばかりじゃ埒が明かないわ。
     戦の火種は元から断つのが一番、分かってるでしょ?」

キョン「ああ、そうだな」

ハルヒ「そろそろ軍議が始まるわよ。ついてきなさい、キョン!」

キョン「おう!」

俺たちの戦いは、まだ始まったばかりだ!

一部完