優しい香りが漂う。
まるで、この空間そのものが彼女の優しさで満たされているように感じられる。
「いえいえ、私、こういうの得意なんですよ!みんなが来る前に、準備を整えておく方が良いじゃないですか♪」
彼女はそう言ってにっこりと微笑んだ。
その笑顔が、まるで聖女のよう──そう呼ばれるのはきっとカノンは嫌だろうけれど──に穏やかで、見ていると、つい何もかも任せたくなる。
正直なところ、私はこの時間が気に入っていた。
みんながやってくるまでの、ほんの少しの静寂。
彼女と二人きりで過ごすこの時間は、どこかヘタクソな青春っぽさがあって、普段の生活とは違う特別な瞬間に思えた。
お互いに知らないのだ。正しい青春なんて。
「やっぱり手伝わなくてもいいよ」
せっかく早く来てくれたんだから、もう少しゆっくりして。と言い終わる前に、彼女は少し驚いた顔をして、また笑った。
「私はこういうのが"好き"なんです」
ふわりとした風が窓から入り込み、カノンの髪が軽く揺れる。
こうして何気なく過ごす時間が、青春ってやつなのかもしれない。
「じゃあ、一緒にやろうか」
またも、言い終わる前に彼女は笑った。
──『アオハルごっこ』より抜粋