──《続・エピローグ「次の約束」》──
「ん、そろそろ時間じゃん!行こっか!」
プロブレムがポンと席を立つ。
パフェのグラスを指先で回していた風雅は、ちらとその背を見て、わざとゆっくりと立ち上がった。
「……行くのは、別にいいけれど」
「お?なになにー?プロブレムちゃんとお茶すんのそんな楽しかった?
名残惜しくなっちゃったー?」
くすぐるような声に、風雅は視線を逸らす。
「楽しいかどうかは、まだ評価中よ」
「顔に点数書いてあるよー?1134点って!」
「それ、シドウの囚人番号でしょ」
もう消えてるし、と言いながらプロブレムの背中越しに、風雅は頬を指でかいた。
あの日の監獄の匂いとはまるで違う、甘くて静かな空気。
今まで一緒に過ごすことは稀だったプロブレムと風雅は、
先の大脱走の一件以来、たまにこうしてお茶(プロブレム風にいうとデート)をしていた。
「あの一件は風雅にとって得るものも失うものもあった。
プロブレムとの関係は、前者のひとつだった」
「何のナレーションよ」
「風雅ちゃんの心♪」
「勝手なことしないでもらえる?罪深いわね」
「否定しないんだー?」
「イヤだったらあなたとお茶してないわ」
「素直じゃないなぁ♪ウチのQUEENにそっくり!」
「モノさん、苦労してるのね」
「なにそれどーゆーいみー?」
なにげない会話が、あの緊迫した世界から日常を取り戻したという実感に変わっていく。
いつかあの感情も忘れてしまうかもしれないけれど、こうして残っていくものもある。
「てかさ、風雅ちゃんの、あれ!
手つかわずにズバズバ斬ってくヤツあんじゃん?
アレみて私めっちゃ沸きまくってさ!」
「いきなり何の話よ、穏やかじゃないわね」
「風雅ちゃんが私と一緒にいると沸いちゃうくらい、
私も風雅ちゃんがいると沸いちゃうって話♪」
不意の言葉に、風雅の瞳がわずかに揺れた。
「……そういうのは、軽々しく言うべきじゃないわ」
「えー、軽くないって!ガチだよ?」
「「穏やかじゃないわね」」
2人の声が揃う。
「あははは♪ 言うと思ったー!」
「モノさん、苦労してるのね」
「私と風雅ちゃんが以心伝心ってことだって!」
くるりと振り向いたプロブレムが、にぱっと笑う。
その目がまっすぐに風雅を見ている。
「だから、風雅ちゃんがいま困ってることもわかっちゃう」
「何かしら」
「お金ないなー、でしょ」
「ぎくっ…!!」
「3本も剣が増えて、元の3つも修理しなきゃでしょ?
結構かかるよね、武器のお手入れ」
「くっ……、ご、ご明察よ……」
「ははーん」
「なに?」
「さらに追加で買ったでしょ」
「ぎくっ…!!」
「風雅ちゃん、武器こだわり実費勢だかんなー
ウチのオバフロパイセンとか、濡羽ちゃんとか、みんな大変そう」
「違うのよ、今日の分のお金は残しておくつもりだったの」
「よし、容疑者の弁明を聞こう!」
「いい武器がオークションに出ていたの」
「それで?」
「それだけよ…」
「判定、有罪!監獄いきー♪」
「くっ…!そんな……!!」
くすくすと笑いながら、プロブレムはカフェのドアに手をかける。外の光が二人を包む。
「待って!お会計は…?」
「先に済ませておいたー♪」
「えっ…?えええ?」
「次は風雅ちゃんが奢ってくれるってことで!」
指でハートをつくってみせるプロブレムに、風雅は顔を背ける。
「次があるかは、まだ未定だけれどね」
「あるってことで♪」
そう言って、プロブレムは風のように先を歩く。
その背に向かって、風雅はふっと息を吐いた。
「……あなた、少し、ずるいわね」
「何?なにか言った?」
「いいえ、特に!」
「あ!ほらもうすぐ映画の時間!はじまっちゃうー!」
2人の少女は、街の喧騒の中へ消えていった。