そこにいたのはカノンだった。
窓辺に立つカノンの姿は、朝焼けに染められた金の糸のように輝いていた。
風に揺れる陽だまり色の髪、その先に広がるのは、まだ眠る城下の街並みだった。
「お姉ちゃん、今日もいい日になりそうだね!」
振り返ったカノンの瞳は、無垢な陽の光をそのまま映したように澄んでいた。
私がまだ手にしたことのない、果てしなく広い世界を見据えるような目をしていた。
エルスタニアを継ぐのは、カノンの方がふさわしい──。
幼い頃から、私はそう思っていた。
けれど、王の名を冠するのは、第一王女である私。
国の者たちの期待も、忠誠も、そのすべてが私に注がれている。
妹よりも優れているからではない。ただ順番がそうだから。
「お姉ちゃん、今日はお庭でお茶を飲みましょう!お花がとても綺麗なの」
私が何か言うよりも早く、カノンはくるりと踵を返して、軽やかに駆けていく。
彼女はいつもそうだった。
幼い頃から、まっすぐに、眩しいほどに。私が立ち止まることを知らずに駆けていたのと同じように、けれど、どこか違う軌跡を描いて。
私が必死に手を伸ばして掴もうとしていたものを、カノンは息をするように手にしていた。
剣も、知識も、言葉も、人の心さえも。
私が努力で築き上げたものを、彼女は生まれながらに持っていた。
それが悔しいと思ったことは、一度もない。
ただ──いつの頃からか、私は知ってしまったのだ。
カノンは、私のことを誇りに思っていると。
私を支えたいと願っていると。
そうして、私もまた──。
「同じ想いだというのに、ね」
さっきまでカノンを照らしていた陽は急に陰り、私を照らしてくれはしなかった。
私たちは、どこですれ違ったのだろう。
戸惑いを隠しながら、私はそっと目を閉じる。
***
まだ幼かった頃、ふたりで青空を見上げたことがあった。
雲一つ無い蒼天の下、手を繋ぎながら。
「おねえちゃんが王さまになったら、カノンがずっと支えてあげるからね!」
カノンは私にそう言った。無邪気に、疑うこともなく。
私は何と答えただろうか。
──きっと、微笑んで、彼女の手を握り返したのだ。
あの頃は、ただ信じていた。
どちらが王になろうとも、ふたりでずっと一緒にいられると。
すれ違いは、決して離れることではない。
私は、そっと、胸の奥にしまいこんでいた幼い日の約束を思い出し、もう一度、握りしめるように微笑んだ。
雲は流れ、陽のぬくもりが私の頬をあたためた。