「にししし♪ 貸しにしといてあげるしー♥」
紫亜はそう小声で耳打ちをして、いたずらが成功した子どものようなあどけない目で、唇の端をくいっと上げながら運命の顔を覗き込んだ。
近くの岩場の裏にあった誰かの気配――おそらくは調査に来ていたGARDEN職員――は、運命と紫亜たちには気付かないまま、砂音だけを残して去っていった。
まさに息を殺していた運命を紫亜が「……ぶ、ぶぶ♪」と笑う。
運命が肘で紫亜を小突くと、紫亜はするりとその腕を捕まえて、自分の腕を滑り込ませた。
「ぶーくすくす♪」
白衣からすらっと伸びる細い体は少し冷えていて、それでいて汗ばんだやわからなお腹が、運命の腕に触れた。
「陛下ちゃんはビビりすぎだし!ださー♥ 余裕なーい♥ソワソワしてると逆に怪しいしー♪」
照れてるのバレバレだし、汗だくで顔真っ赤だしー、と、畳み込むように耳元で罵倒が続く。本気で傷つけるつもりがないと分かっているからか、あるいは、こちらの動揺を誘おうとする魂胆がみえみえだからか、この甘い誘いにのって怒ってしまったら、紫亜の手のひらの上で踊ることになると理解していた。
「とか、考えてるし?」
全部バレていた。
「ダメだしー♥ ぜーんぶ心の中みえみえなんだし♪」
白衣の紫亜が、さらに体を寄せながら甘えた声で呟く。
「……ぜんぶ、紫亜の言う通りになったし♥」
紫亜にだって予言くらいできるし、と言い張っていた頃が懐かしい。ファティマほどではないけれど、紫亜の予言どおりに運命は翻弄され、"真夏の内緒のお医者さんごっこ" は恙無く、進行していた。
「それじゃあ陛下ちゃん、予想外の見学者もいなくなったことだし、続きをはじめるし♥」
紫亜はどこか誇らしげに胸を張ると、正面に座して、また同じように腕を絡ませた。冷たい指先が肌に触れ、ちょっとだけ体温を奪っていく。
「大丈夫だし、今日のことは誰にも言わないし♥」
紫亜、否、紫亜先生は、まるでメイズママのような口ぶりで、どこからだしたのか、手にしたメディカルキットを運命に近づける。
「にしし♪ 今から悪いところ、見つけますしー♥」
紫亜は運命を押し倒すようにして聴診器を胸に当てた。一転して真剣な表情になった紫亜に心臓が早くなる。冷たい聴診器とともに、紫亜の細い指が触れる。紫亜の髪を伝った汗が、運命の肌に落ちて身体が少し跳ねた。
ふと、運命は周囲を確認する。誰も居ない。
こんなところを誰かに見られたら──……
「ふぅー…、うん、悪いところ、わかったし」
白衣の紫亜はいたずらな笑顔を見せた。
「こーーーんなので興奮しちゃうなんて、陛下ちゃんはやっぱり"変態さん" だし♥ にししししーー♥」