「こんなところにいたら危ないよ?」
顔を上げた少年の眼の前にいたのは、田舎の山間にある農村の、そのはずれの草原にはまるで似合わない、どこか良いところの──そう、例えば領主とか貴族とかの令嬢が着るような衣装に身を包んだ少女だった。
それでいて、彼女は仰々しい剣を携えていた。決して華美すぎるわけではないが、戦闘用というにはあまりにも華やかな、まるで儀礼用にも見える剣だ。
「危なくないよ、この辺は動物もあんまりいないから」
少女はそれを聞いて「そっか、確かに見てないかも」と独り言のように小さく呟いた。
「お姉さん、道に迷ったの?」
おそらく違うだろうな、と思いながら少年は聞いた。女性一人で剣一本を携えて冒険に出るなど、よほどの命知らずだ。
それか、とんでもない世間知らずか。
少女は「んー」と人差し指を口元に当てながら、その高級そうな衣装が汚れることも気に留めず、少年の隣に腰を下ろした。
「そうかも。でも、多分キミを探していたんだと思う」
そう言うと少女は手をそっと伸ばした。
そして、その白い指で、少年の頬に伝う涙を拭った。
──『少女と魔王と聖なる剣』より抜粋