強いて言えば、速さが足りない

Last-modified: 2024-10-21 (月) 00:13:34

「穏やかじゃないわね」

すまない、と言い訳をして、まずもって服装について言及したことを恐縮した。
はじめにいうべき言葉は別にあった。
だが、もうそれは飲み込んでしまうことにした。

「珍しいな」

「謝るより先にいうことがそれ? 罪深い人ね、まったく」

「今日は紅茶ではないんだな」

風雅はエスプレッソを一口飲むと、
少し照れくさそうに「たまには、ね」と微笑んだ。

「同じものを」

オーダーをしながら風雅に目をやる。
付き合いは長いが、こんな顔をする日は珍しい。

「……似合ってない?」

「トロイよりも似合ってる」

「なんだ、トロイのだってわかってたのね?」

再びエスプレッソに口をつけると、「たまには、ね」と
いたずらっぽく笑ってみせた。


──『強いて言えば、速さが足りない』より抜粋