「ぶ、ぶみい……。」
叢裂は、くるんと巻かれた自分の髪をそっと指でつまんだ。
信じられない。髪が、ふわふわしている。これが、ぎゃる?
「もっとせくしーでもいーんだし♪」
紫亜は、小悪魔スマイルでばちばちウインクを飛ばしている。
肩を片方だけ落として、何やらセクシーポーズまで決めてきた。
どこで覚えた、それ。
「ひゅへへ、そこまでするのはアレかなぁ?」
それはただの変態というか露出狂、と楓が申し訳無さそうに、己のギャル論を投げてくる。
紆余曲折あったにせよ、仕掛け人であるはずの楓は、いまや家庭科室の隅っこで膝を抱え、つい調子に乗ってしまった……と一人反省会をしていた。
「楓ちゃんは着替えないんだし?」
紫亜が、にやにや顔で覗き込む。
「ひゅへっ!? いや無理! あれは若気の至りで!
もう引退したから、ウチは引退ギャルだからっ!!」
「ふぅーん、こんな美少女2人を好き放題して、
叢裂と紫亜がこーーーんなに頑張ったのに、自分だけ逃げるんだし?」
「ぶみい、がんばったよ!」
叢裂は小さく拳を握る。
頑張ったのだ。お化粧をして、髪を巻いて、スカートを短くして、なんか色々と飾って付けて、鏡の前で「これ、似合ってる……の?」と自問自答する──、そんな貴重な経験をしたのだ。
「うう! かわいい…! 2人とも、かわいすぎる…!!」
楓は目がくらんだポーズをとると床に跪いた。
「自分でコーディネートしといて何言ってるんだし?」
「叢裂も、"ぎゃる"になった楓が見たいな♪」
「あーー、まぁ、それは、そのうち……
……いざとなったら、見せるから、えへへ」
今は2人を見てるだけで十分、と呟きながら、2人を見上げると楓は優しく微笑んだ。
まるで誰かのことを思い出すように。
「やーん、スカートの中覗かれちゃうし♪ えっちしー♪」
「ぶみっ!? 見えてるの? やぁだー♪」
「あ! 叢裂ちゃん、あそこ見て!」
「…ぶみ? 何かある?」
「隙あり! ひらりー」
「ふひゃああ!! なにするの紫亜ちゃんっ!」
「違うし、楓ちゃんがやれって言ったんだし……」
「ひゅへっ!? ウチはなにも──…」
「楓ぇ! もお、仕返しっ!」
「ひゅへぇぇーー!」
どたばた。
きゃいきゃい。
賑やかな声が廊下にまで響いていく。
言葉にできぬ、明るい時間。
いつでも、どこでも、好きを貫いて好きにする。
そう、これがギャルの時間なのだ。
「あ! そーだし! 記念写真とか撮ろうしー♪」
突然、紫亜が提案する。
この時間を切り取って残しておこう、なんて言うつもりはないのだろうけど。
「いや、ウチはいいから、2人でどうぞー」
「ぎゃるはお写真が大事! 楓が教えてくれたんだよ♪」
「ひゅへへ、言わなきゃよかった……」
「にしし♪ 叢裂ちゃん! そっち回って!」
「ぶみ? わかったぁ♪」
紫亜と叢裂が瞬時に楓の左右を陣取る。
忘れがちだが、このギャル制服の少女たちは人類最強の騎士である。
「はさみうちー♪」
「はさみうちだしー♪」
「ひゅへ!? ま、待って待って!」
ぎゅうぎゅう、ぎゅうーー。
左右の2人がぎゅっと楓にくっつく。
「ぼーずは、どうするの?」
「んー、はーとがいいし♪」
「え? ええええ?」
楓が反射的にハートをつくる。
紫亜と叢裂は流石のコンビネーションで、目を合わせただけでポーズが揃う。
「ほらほら、陛下ちゃん! 早く撮ってしー!!」
「えへへ、ぽーず♪」
「ああ、ヘーかさんすいませんんんー!」
ぱしゃり。
※ ※ ※
春。桜の花びらが教室に入り込む。
調査任務用の、即時現像機能付きの小さな写真はギャルたちによってデコレーションされた。
「うーん! 完璧だし! まさに芸術品なんだし!」
「ひゅへへへ…、なんかなつかしー…」
「叢裂、このお写真好き……、これ、飾っておきたいな…」
「いいアイデアだし♪
GARDENに戻ったら、陛下ちゃんのお部屋か、それか、いっそ美術館とかに飾っておくし!」
「ええ!? みんなに見せるの!?」
「叢裂、このお写真、好きだよ…?」
「うう、だよね、わかる、かわいいよね……」
「にしし♪ そしたらこの写真にお名前つけなきゃだしー…」
ふわり。
春の風が教室に入り込む。
ひらりと花びらが舞い散る。
「── 自由闊達春色綺譚」
「なんていうのはどうだし?」
紫亜の提案は、満場一致で採用された。