自由闊達春色綺譚・前編

Last-modified: 2025-03-14 (金) 05:38:16

「ぶ、ぶみい……。」

叢裂は、くるんと巻かれた自分の髪をそっと指でつまんだ。
信じられない。髪が、ふわふわしている。これが、ぎゃる?

「もっとせくしーでもいーんだし♪」

紫亜は、小悪魔スマイルでばちばちウインクを飛ばしている。
肩を片方だけ落として、何やらセクシーポーズまで決めてきた。
どこで覚えた、それ。

「ひゅへへ、そこまでするのはアレかなぁ?」

それはただの変態というか露出狂、と楓が申し訳無さそうに、己のギャル論を投げてくる。
紆余曲折あったにせよ、仕掛け人であるはずの楓は、いまや家庭科室の隅っこで膝を抱え、つい調子に乗ってしまった……と一人反省会をしていた。

「楓ちゃんは着替えないんだし?」

紫亜が、にやにや顔で覗き込む。

「ひゅへっ!? いや無理! あれは若気の至りで!
 もう引退したから、ウチは引退ギャルだからっ!!」

「ふぅーん、こんな美少女2人を好き放題して、
 叢裂と紫亜がこーーーんなに頑張ったのに、自分だけ逃げるんだし?」

「ぶみい、がんばったよ!」

叢裂は小さく拳を握る。
頑張ったのだ。お化粧をして、髪を巻いて、スカートを短くして、なんか色々と飾って付けて、鏡の前で「これ、似合ってる……の?」と自問自答する──、そんな貴重な経験をしたのだ。

「うう! かわいい…! 2人とも、かわいすぎる…!!」

楓は目がくらんだポーズをとると床に跪いた。

「自分でコーディネートしといて何言ってるんだし?」

「叢裂も、"ぎゃる"になった楓が見たいな♪」

「あーー、まぁ、それは、そのうち……
 ……いざとなったら、見せるから、えへへ」

今は2人を見てるだけで十分、と呟きながら、2人を見上げると楓は優しく微笑んだ。
まるで誰かのことを思い出すように。

「やーん、スカートの中覗かれちゃうし♪ えっちしー♪」

「ぶみっ!? 見えてるの? やぁだー♪」

「あ! 叢裂ちゃん、あそこ見て!」

「…ぶみ? 何かある?」

「隙あり! ひらりー」

「ふひゃああ!! なにするの紫亜ちゃんっ!」

「違うし、楓ちゃんがやれって言ったんだし……」

「ひゅへっ!? ウチはなにも──…」

「楓ぇ! もお、仕返しっ!」

「ひゅへぇぇーー!」

どたばた。

きゃいきゃい。

賑やかな声が廊下にまで響いていく。
言葉にできぬ、明るい時間。
いつでも、どこでも、好きを貫いて好きにする。
そう、これがギャルの時間なのだ。

「あ! そーだし! 記念写真とか撮ろうしー♪」

突然、紫亜が提案する。
この時間を切り取って残しておこう、なんて言うつもりはないのだろうけど。

「いや、ウチはいいから、2人でどうぞー」

「ぎゃるはお写真が大事! 楓が教えてくれたんだよ♪」

「ひゅへへ、言わなきゃよかった……」

「にしし♪ 叢裂ちゃん! そっち回って!」

「ぶみ? わかったぁ♪」

紫亜と叢裂が瞬時に楓の左右を陣取る。
忘れがちだが、このギャル制服の少女たちは人類最強の騎士である。

「はさみうちー♪」

「はさみうちだしー♪」

「ひゅへ!? ま、待って待って!」

ぎゅうぎゅう、ぎゅうーー。
左右の2人がぎゅっと楓にくっつく。

「ぼーずは、どうするの?」

「んー、はーとがいいし♪」

「え? ええええ?」

楓が反射的にハートをつくる。
紫亜と叢裂は流石のコンビネーションで、目を合わせただけでポーズが揃う。

「ほらほら、陛下ちゃん! 早く撮ってしー!!」

「えへへ、ぽーず♪」

「ああ、ヘーかさんすいませんんんー!」

ぱしゃり。


 ※  ※  ※


春。桜の花びらが教室に入り込む。

調査任務用の、即時現像機能付きの小さな写真はギャルたちによってデコレーションされた。

「うーん! 完璧だし! まさに芸術品なんだし!」

「ひゅへへへ…、なんかなつかしー…」

「叢裂、このお写真好き……、これ、飾っておきたいな…」

「いいアイデアだし♪
 GARDENに戻ったら、陛下ちゃんのお部屋か、それか、いっそ美術館とかに飾っておくし!」

「ええ!? みんなに見せるの!?」

「叢裂、このお写真、好きだよ…?」

「うう、だよね、わかる、かわいいよね……」

「にしし♪ そしたらこの写真にお名前つけなきゃだしー…」

ふわり。

春の風が教室に入り込む。

ひらりと花びらが舞い散る。

「── 自由闊達春色綺譚」

「なんていうのはどうだし?」

紫亜の提案は、満場一致で採用された。


──『自由闊達春色綺譚・前編』より抜粋