スマブラ個人小説/ラモソの小説/亜空の旅人/第1部第四章

Last-modified: 2012-12-16 (日) 16:51:42
 

第1部

第四章

ここまでのあらすじ

スマブラ館の新しい姿“X”のオープニング画面で目覚めたファルコとカービィ。そこで彼らは“討伐隊”の三機のアーウィンの影を見る。おそらくアーウィンにはファルコンたち四人が乗っている・・・?
一方ドンキーら執務側は行方不明の四人を執拗に捜し求め、ついにそのうち二名、マリオとキャプテン・ファルコンの遺体を得た。それでも残るカービィ、リンクの消息を探り続け、運営に支障をきたし始めていたが、それでも警戒をやめることは無かった。この戒厳令に疑問を感じたプリンが、新たな相棒のアイクを連れ立って情報収集を開始。またカービィはファルコ、リンクと共に死者の“影”を呼び出すことに成功、ファルコン、カービィ、リンク、マリオの四人は再びこの世に生を受けることとなった・・・。

 メニュー画面へ続く廊下を歩きながら、プリンは先ほどのことを回想していた。

 

「なぜ、外出が禁止されているのですか?」
「先ほど説明したとおりだよ、歌姫くん」
 ドンキーが返答する。プリンは納得がいかなかった。
「新作へ移行する手続きと言うのは、そんなに複雑なものなのですか?」
「複雑なのだ。 そう・・・古いデータが残っていると、容量オーバーになるからね。 完全に移行するためには、古いデータを削除しなくてはならないんだ」
「・・・」

 

 プリンには、“古いデータ”が何を意味しているのか、なぜそのせいで行動が制限されるのか、いまひとつピンとこなかった。しかし、一つだけ分かったことがあった。
 現状がいつまで続くのか、わからないと言う事だ。
 だから、プリンは自らのテレビ番組を再開させるために、行動を起こすことにしていた。今はそのための情報収集をしているところだ。
「アイクさん」プリンは相棒を呼んだ。
 先を歩いていたアイクが立ち止まり、振り返る。
「・・・はい」
 アイクは返事をした。プリンは彼の手前に来て、彼の表情を伺う。
「本当に、私に付いて来てくれるのですか?」
「え、ああ・・・先に行かない方がよかったですか?」アイクはプリンに近づいた。プリンは否定する。
「いえ、そうではなくて・・・」
「?」
「・・・なんでもありません。 先を急ぎましょう」

 

 2人が選手控え室に入ったとき、そこにはポケモントレーナーとピカチュウ、マリオ、ヨッシーがいた。
 彼らはなにか話をしている。プリンはその輪の中に加わった。
「どうしたのですか?」プリンは陽気に声をかけた。「マリオシリーズ対ポケモンシリーズですか? レッドさん、私も力になりますよ!!」
「いや、そうじゃなくて・・・」レッドは頭の後ろに手をやった。「ファルコたちが妙なことをしてたもんだから、気になっちゃって・・・」
 プリンは目を丸くした。
「妙なことって何ですか? 女の人にいたずらをしていたのですか?」
「馬鹿、放送禁止だぞ」マリオは叱る。
「?」
 レッドは意味が分からなかったようだ。「えーっと・・・ファルコと、リンクと、カービィ・・・で名前はあってるのかな? あの人たちがキャリアを背中にしょって歩いてたんだ」
「絶対なにかたくらんでますよ!」ヨッシーが言った。
「そりゃあ、そんな格好で何にもたくらんでなかったら危ないな・・・」アイクが呟く。
 プリンは無視した。「筋トレとかでしょうかね? きっとマッチョになってモテたいんですよ!」
「いやいやいや、ないない」マリオが首を振る。「それじゃあどうしてリンクやカービィまで筋トレしてるんだよ」
「そうですよね・・・あはは」
 プリンが笑うのを尻目に、マリオは渋い顔をした。
「どうも最近、おかしなことが多い。 ドンキーも事件の解決に向けていろいろやっているようだ」
「おかしなことって?」プリンは訊いた。マリオが応える。
「そう、こないだのことなんだけどな・・・」

 

 話の途中で、地震のような衝撃を感じたマリオはしゃべるのをやめた。
「・・・どうしたんですか?」ヨッシーは不思議がる。彼は気付かなかったらしい。
「下だ!!」
 プリンは叫び、一目散に駆けていった。それをアイクが追いかける。
 レッドとマリオは顔を見合わせ、2人も仕方なくついてゆくことにした。
 ・・・つづく。

「・・・こんなもんより、俺は空がいいぜ」ファルコは毒づいた。
『聞こえてるぞ』リンクの声が言った。どちらのリンクなのかは分からない。『愚痴らないで前に進め。 後ろが詰まってる』
「へえへえ、行きますよ・・・」

 

 新スマブラ館の入り口に突如として出現したランドマスター5機は、ぞろぞろとならんで外に出てきた。
 警備員は怒号を飛ばし、呼び子を吹いている。ファルコはローリングをかまし、そんな彼らを風圧で吹き飛ばした。
「急ぐぞ。 スマッシュボールは残りが限られてる」
 ファルコの言葉にマリオが言い返す。
『そんなこたぁわかってら。 あんたがすすまねえと俺らは外に出れねえんだよ』
「ちょっと待ってろこのヒゲ! 警官どもがジャマなんだよ」
 無線で口ゲンカをしているうちに、戦車隊は高速道に進入し、巡航速度に達した。

 

「と、停まれぇ!!」
 急いで駆けつけたトゲノコ隊長は叫ぶが、騒音に完全に掻き消されてしまった。
 軍隊さながらに、戦車が道路を行進してゆく。それも5台もだ。
「目標、先鋒機! うてぇ!!」隊長は叫ぶ。
 隊員たちの鉄球が先頭のランドマスターにぶつかる。
 一瞬の閃光ののち、鉄球は沈黙した。
 全く効いていない。
 やはり、駄目だったか・・・隊長はくちばしを強く噛みしめた。
 ・・・やはり、自分達は無力だ。やつら戦士の足元にも及ばない。ジュゲムにすらかなわない。
 トゲノコたちがうらめしげに睨む中、ランドマスター達は悠然と通り過ぎていった。

 

 どうやら、ジュゲム軍がやってくるらしい・・・騒然とするスマブラ館ロビーで、プリンはうわさの内容をまとめた。
 とにかく、戦車、の一言に尽きる。いや、戦車とジュゲム、だ。
 ファルコの物と思われるランドマスターが突如として大群でこのロビーに殺到したのが、今から十分ほど前。
 治安維持を一任されているジュゲム達が出動したのはちょうど今さっきの事らしく、駐屯地からこちらへ向かっているらしい。
「おい、プリン!!」
 背後からマリオに呼びかけられ、プリンは振り向いた。見るとレッドやピカチュウまでついてきている。
 マリオとレッドはプリンの前に立ち止まり、荒い息をととのえた。
「はあ、はあ・・・お前、足速いな」マリオは言った。
 プリンは首をかしげた―――というか身体を横に傾けた。
「そうでもないですよ、マリオさん! 私の足は見ての通りとっても短いですから、普通に走ったら日が暮れてしまいます! だから、いつも急いでいるときはちょっと飛ぶことにしてるんですよ」
「へえ・・・」マリオは目を丸くした。「・・・何の話をしてるんだっけ、俺達?」
「戦車の話だろ・・・」アイクが呟いた。彼の尻をプリンが叩く。
「その通り!! そうなんですよアイクさん! ねえ、聞きました? さっきここをファルコさんのものと思しきランドマスターがですねぇ・・・」
 プリンが説明を始めたところで、現場の警備をしているノコノコに四人まとめて階段の方まで押しやられてしまった。
「わぁっ、やめてくださいよノコノコさんたちッ!! ねえっ、ちょっとでいいから外に出させてくださいよお!! ちょっとでいいから!!」
 ・・・つづく。

『おい! 戦車が消えかかってるぞ!!』キャプテン・ファルコンが無線でわめいた。『やばい! 周りを囲まれてる!』
「ちょっとまってろ!!」ファルコは応じ、先頭をXリンクの機に譲ってファルコンの元へ向かった。
 この鈍足な戦車隊はあっという間にジュゲムたちに周囲を取り囲まれ、彼らまで巻き込んで壮大な進軍を行っている。しかし、ジュゲムたちはあまり友好的な歩兵とは言えなかった―――スキあらば狙い打とうと虎視眈々としていたのだ。
 そこへ、スマッシュボールの期限切れである。
『おい、こっちも!!』マリオが叫んだ。
『ぺぽ!』『こっちもだ!!』DXカービィとリンクも助けを求めた。
 そういえば、ファルコは一度にランドマスターを出してしまったのだ。・・・結果、全てのランドマスターが同時に消えることとなる。
「ええい、くそっ!!」
 ファルコはキャリアを蹴り飛ばし、出てきたスマッシュボールをかたっぱしからランドマスターに変換した。

 

 ズン、ズン、ズン、ズン、ズン、ズン!!

 

 6台のランドマスターで出来たタワーが消えかかっていたファルコの機にのしかかり、そのまま踏み潰してしまった。
 戦車がはずみでゴロゴロと転がっていくのと、古い機体が消滅するのは同時であった。ファルコンら戦車を失った搭乗者達は急いで新しい機体を追いかける。
 しかしすぐにジュゲム軍団の総攻撃が始まってしまった。
「うわっ!!」ファルコンはしゃがみこむが、パイポは雨のように降り注ぎ続ける。
 そのまま押し負けそうになっていたファルコンの腕をDXリンクが引き、立ち上がらせて2人は戦車を追いかけた。

 

 DXカービィは一番早く戦車までたどり着き、乗り込んで制御システムにアクセスした。
 どうやらアーウィンと同じシステムが採用されているようだ。それなら編隊を組むことが出来るはず・・・。

 

 DXカービィの機を先頭に、ほかの戦車は編隊を組んで動き始めた。しかも自動照準でレーザー砲を撃ちまくっている。これでジュゲム軍団の包囲は一時的に崩れた。
 マリオはふと気がついて戦車タワーの出現地点まで駆けつけ、そこでぐったりしていたファルコを拾った。
「焼き鳥かよ」マリオが言うとファルコは首を振った。
「一台多く出しちまった・・・いちばん遠い奴を壊してくれ」ファルコは重苦しい口調で言った。
 ・・・マジで死ぬんじゃないだろうか・・・マリオは心配した。
 ・・・つづく。

 後続の戦車のうち2台に搭乗者が乗り込んだ。DXカービィが確認するとそれぞれのコックピットにはマリオとファルコ、キャプテン・ファルコンの姿があった。Xカービィはそのまま全てのハッチを固定し、針路をジュゲム氏の居場所―――“駐屯地”に定めた。

 

 XカービィとDXリンクはつかの間の砲撃停止に立ち上がり、自分達を追い抜く戦車隊に手を振った。・・・ここはまかせろ、という意味を込めて。
 彼らが通り過ぎた後、すぐにジュゲム軍団の砲撃が再開される。ただし、そのなかで戦車を追うものは少なかった。
 Xリンクが鬼神のように殺陣を繰り広げているのだ。
 2人は顔を見合わせ、加勢するために走った。

 

「せぇえやぁああああああ!!」軸を解放した回転切りでXリンクは間合いを確保した。
 ジュゲムたちが後じさりをし、彼はマスターソードの動きをとめる。
「―――さあ来い!! 私の剣を折って見せろ!!」リンクは叫んだ。

 

 背後からジュゲムがどっと押し寄せると、リンクは振り返りもせずに左手で剣をふるって彼らを駆逐する。前方からも来るが、そちらはハイリアの盾で防いだ。
 周囲の一瞬のひるみを利用し、リンクは高くジャンプする。そしてマスターソードを逆手に構え、下突きを次々と決めていった。
 一体目、大きく吹っ飛んでいった。二体目は地面にぶつかって撥ね、周りの仲間を巻き込んだ。さらにそのはじけたジュゲムに下突き・・・。
 あっという間に、足元にジュゲムの絨毯が出来た。リンクは着地して剣を構えなおす。
 ジュゲムたちは明らかに恐怖していた。
「・・・私はハイラルの剣士、リンク!」Xリンクは高らかに宣言した。「仲間とトライフォースの名にかけて、貴様らを一掃する!!」

 

 乱闘のさなか、Xリンクに加勢するものがいた。
 DXリンクとXカービィだ。
「助太刀する!」「ぺぽ!!」2人は言い、Xリンクの背後にまわった。
 再びあたりが静まり返る。
 背中を向け合う3人の戦士は、互いの力量を無言で認め合い、次の瞬間にはおのおのの方向へ突入していった。
 ・・・つづく。

「3番機より先導機へ。 三時方向から何者かが接近中」マリオは無線機に向かって言った。「レーダーを確認せよ、オーバー」
『ぺぽ』了解、とカービィからの返答が来た。『ぺぽぽぽ、ぽよ、ぺっぽ』編隊を解放する、援護を・・・とカービィは言った。
「3番機了解、アウト」
 マリオは返事をし、となりにうずくまるファルコの様子を窺った。
 ファルコは顔を上げる。
「大丈夫か?」マリオは訊いた。
 ファルコは首を振り、言う。「腹が減った・・・」

 

『うぉい!! ありゃージュゲムだ!!』無線機からキャプテン・ファルコンの声が飛び出した。『うじゃうじゃいるぞ!!』
『ぺぽ、ぺぽぽぽ、ぺぽっ』2番機、迎撃せよ、とDXカービィは言った。
『迎撃ィ!?』
「スティックを使え!」マリオは言ってやった。「すぐ手元にあんだろ。 連中にそうめん食わしてやんぞ」
『そうめ・・・なんだって?』
「気にするな。 ヒゲの寝言だ」マリオの手から無線機をむしりとり、ファルコが言う。「とにかく、撃て。 やつらを近づかせるな」
『お、おう!』
 ファルコが無線機を元に戻すと、マリオは毒づいた。
「くそっ。 歩兵隊はおとりだったんだ」
「そうかもな」
 ファルコは鼻を鳴らした。「やっと調子が戻ってきたぜ。 そこをどきな」
「はいはい、ニワトリさんよ・・・」
 ドカ、バキ、ドゴッ。

 

 ファルコはわざと速度を落とし、前の2機から距離を置くことにした。マリオは抗議する。
「固まっていった方が安全だろ?」マリオが言った。「だいたい、戦車ってのは一点突破専門のモンなんだから・・・」
「いや」ファルコは言葉をさえぎった。「こいつはそういう戦車とは違う。 短距離ながら飛行も可能だ。 機動力ならジュゲムの飛行部隊と同等のはずだ」
「向こうはバラけるんだぞ」
「だからどうした?」
 ファルコはマリオをにらみつけた。「こいつは俺のものだ。 俺の言うとおりにさせてもらおう」
「俺の獲物に手を出すな、ってか?」マリオは呆れてしまった。
 ファルコは、当然だ、と言った風に頷き、言った。
「俺の獲物に手を出すな」
 ・・・つづく。

 キャタピラ駆動とはいえ、地を駆けるマシンに乗ってキャプテン・ファルコンは上機嫌だった。久々に風を切って走る感覚を取り戻したくなって、手足がうずうずしている。
「うぉーー! ジュゲムだかなんだか知らんが、お前達に俺は止められないぞ!!」ファルコンは叫んだ。

 

 ファルコの機はうまく高速道を降り、やや遠回りの道でジュゲムの駐屯地へ向かっている。レーダーで確認すると、やはり駐屯地付近はジュゲムたちが大勢たむろしていた。
「跳梁跋扈、という」ファルコは言った。別段、マリオは興味を持てなかった。
「ふーん・・・」
「ちゃんと勉強しろよ」
「ああ・・・」
 やっぱりファルコは食えない・・・マリオは思った。
 と、その時。大きな爆発が高速道の方で起こり、地響きがした。
「大丈夫か?」ファルコが無線に言う。
『うぉぉぉぉおおおお!! 俺は無敵だ!!』ファルコンの声が応えた。
「・・・カービィは?」マリオが訊く。
『ぺぽぽ・・・ぺぷ』カービィは、なんとか・・・と応えた。どうやら、ファルコンが派手に暴れているらしい。
「これで時間を稼げる。 このまま駐屯地へ突っ込むぞ」ファルコが言い、さらにアクセルを踏み込んだ。
「・・・でも、こんなでっかいので行ったらすぐにバレるんじゃねえか?」マリオは言った。
 ふっと戦車が消え、二人は地べたにしりもちをついた。
「・・・まったくだ。 ここからは肉弾戦で行くぞ」ファルコは立ち上がり言った。

 

 キャプテン・ファルコンが盛大に暴れまわっているのを尻目に、DXカービィは後退を始めていた。後に残した仲間達が心配になったのである。
 思ったとおりジュゲムたちがそれを阻もうと行く手をふさぐ。おまけにスマッシュボールの期限はもうすぐまで迫っていた。
「ぺぽ!!」カービィは無線に言うが、反応は無い。
 今期限が切れたら、すぐに囲まれて袋叩きに遭うのは目に見えて確かだった。だから仕方なく、カービィは僚機のコントロールを奪ってひたすら上昇させることにした。同じく、自分の機や無人機たちもそのあとを追わせる。
『お、おい! カービィ!?』ファルコンが無線で抗議したが、カービィは無視して機体の上昇を続けた。
 もちろんブースターはそう長く作動しない。これは飛行機でもエフゼロマシンでもない、戦車なのだ。
 ならば、どうなるか。
 落下するのだ。カービィは目いっぱいまで高度を取ったところで一気に加速度をつけ、五台のランドマスターを地面に向かわせた。
 ・・・つづく。

 大きな地響きに3人の戦士は顔を上げた。前方、戦車が向かった先のほうである。
 しかしジュゲムたちは容赦をしない。圧倒的な数の差の前にリンクたちは屈しかけていた。
 大体、こいつらは何者だ? Xリンクは集中力の切れかけた頭でふと思った。
 こんなの、スマブラにはいないはずだ。DXの時からジュゲムはいたことはいたが、せいぜい背景がいいところだった。ほかにも不穏な点が多い。DXリンクの話ではトゲの生えたノコノコがフォックスを捕らえたとか・・・。
 確かに、今のフォックスは怪しい。記憶が消えた?消されたの間違いだろう。
「危ない!!」DXリンクが叫ぶ。
 こちらに向かって、パイポが山のように大群になって飛んできていた。

 

「・・・おい」ファルコは合図した。
 マリオはうなずき、ファイアボールを投げ込む。
 ファイアボールは弾みながら柵へ向かい、ぶつかってこちらへ跳ね返ってきた。
 安全、だろう。2人は示しあい、それぞれ柵をよじ登る。
 結局2人はスニーキングで建物へ潜入することにした。まだ昼で、あたりは明るく視認性は抜群だ。この際、プロに習って置けばよかった・・・とマリオは思った。なにしろ、マリオは正面突破の一点張りだったから、こういった“こそこそした”任務は大の苦手だったのだ。
 ファルコンが起こした騒ぎのおかげか、警備は手薄である。監視カメラも無い―――新造りの駐屯地なのだからそんなもの無くて当然だろう、とマリオは思った。

 

「・・・ただのレースの審判が、どうして自前の軍なんか持ってるんだ?」そのとき、ファルコは疑問をぶつけてきた。
 侵入の前に二人は話し合っていた。特に結論は出なかったが、ジュゲムは間違いなく怪しいし、スマブラに大きく関与しているであろう事も推してはかられた。
「さあ・・・俺に言わせりゃあ全部インチキだな」
 マリオはてきとうにそう返したのであった。
 今は・・・そのことを考えている。
 マリオは今まで、得体は知れないが大きな勢力のことを、内部まで綿密に調べるようなまねはしてこなかった。
 正面突破、ゴリ押し、力技。
 今回もそれが通じれば良いのだが・・・。マリオは心配した。
 どうにも、あの脳筋ファルコンのおかげでよけいに自分の悪い癖が出てきてしまっている気がする。奴め、終わったらとっちめてやる。

 

「・・・おい」ファルコが合図した。
 またか? そう思って顔を上げたマリオの視線の先には―――。
 フォックス・マクラウドがいた。
 ・・・つづく。

「狐、そこをどけ」ファルコは言った。
「・・・」
 フォックスは2人を睨みつけたまま動かない。マリオはイヤな予感がした。
「どけといっているんだ。 ジュゲムを―――」
「黙れ」

 

 フォックスは毅然とした態度で挑む。
 廊下は3人のほかに誰もいないようだ。おそらく、建物の中はモヌケのからとなっているのだろう。
「忌々しいバグどもめ。 仲間のふりをして何をしでかす気だ?」
「何だって?」
 マリオは舌打ちをした。―――奴は洗脳されている・・・。
「ふざけやがって。 バグはどっちだ?」ファルコは言い返した。が―――。
 刹那、フォックスの移動攻撃にふいをつかれ、ファルコは倒れた。
「・・・お前達はスマブラを侮辱している。 今すぐ投降しろ。 さもなくば殺す」
 2人の背後で、フォックスは言った。
 振り返ると彼は片膝をつきスーパースコープをチャージしている。
「・・・なんだ?」ファルコは呟き、身構えた。
 もちろんマリオも。二人は同じ疑問を抱いていた。
 リフレクターやマントがある2人に、スーパースコープをため打ちするのか?

 

「それは幻影だ」

 

「何っ・・・!」
 背後からの連続スマッシュ攻撃に、二人はなすすべも無く吹っ飛ばされた。
 吹っ飛ばされた向きは、先ほどの“幻影”の方向・・・いや、それはまだそこにいて、スーパースコープをこちらに向けていた。
 混乱した頭を抱えたまま、マリオは最大チャージのショットを食らってしまった。

 

「くそっ!!」ファルコはがむしゃらに起き上がり、スコープを持っていないほうのフォックスに飛び掛る。「・・・どっちが本物だ!?」
「どちらもさ」フォックスは答え、ファルコの拳をかわした。「向こうは色違いだよ」
「その通り」色違いのフォックスが言い、ファルコを蹴り飛ばす。
 ファルコは壁に激突して崩れ落ちた。
 ・・・つづく。

「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」キャプテン・ファルコンは本日何度目か分からない雄叫びを上げた。そして、彼は走っている。
 仲間の元へ向けて。
 五台の戦車がダイブしたおかげで敵はあらかた吹っ飛ばされていた。空中浮遊できるDXカービィはともかく、ファルコンは生身だったので着地に苦労した。
 それでも、彼は走った。
「リンクぅーーーー!!」ファルコンは相棒の名を叫び、疾走し続けた。

 

 DXカービィはその後を追っていたが、なにぶん脚が短いので置いてゆかれがちだ。それにDXカービィは考え事もしていた。
 ―――このままでは押し負けてしまう。向こうはいくらでもいる・・・。
 じゃあ、どうする?なにか、アドバンテージを・・・。
 人質・・・?

 

「・・・ふざけたマネしやがって」ファルコは毒づくが、腹を強く蹴られてそれ以上しゃべれなかった。
「ふざけてなどいない。 ・・・聴かせてもらおうか」フォックスはファルコを睨みつけ、言った。「・・・何故ここにいる?」
 ファルコは挑戦的に見上げ返した。
「はっ、さてな。 おしえてやっても、良いぜ?」
 すかさずもう一人のフォックスが拳を叩き込む。弾みで頭の後ろを壁にぶつけ、ファルコはもだえた。
「・・・いてえじゃねえか」
「質問に答えろ!!」
 フォックスが激昂した隙にファルコは脚を蹴り上げる。アゴにヒットし、フォックスはふらついた。
 すぐにもう一人のフォックスに取り押さえられる。
「くそっ、こいつは尋問するには危険だ!!」もう一人のフォックスはファルコに馬乗りになり、叫んだ。「・・・早く処分しないと逃げられるかもしれない」
「・・・いや」
 フォックスは血を吐き捨て、壁に手をついて体勢を立て直した。「・・・まだだ」
 ファルコはその目を直視してしまった。
 なにか、病的な怒りが込められている、フォックスの目。
 かつての同僚の成れの果て。
 ファルコは、やっぱりコイツは馬鹿なんだと内心思った。

 

 DXマリオは全速力で建物の深部へと向かっていた。
 大体こういう、ボスの居場所ってのは決まって一番奥だ。そしてマリオは、ボスの居場所を嗅ぎ当てることに関してエキスパートであった。
「ジュゲムジュゲムジュゲム・・・ジュゲムはどこだ!!」マリオは抑えた声で叫んだ。「言いづらい名前だな。 コントのタイトルかなんかか?」
 ・・・つづく。

「・・・おぉっと、ここか?」DXマリオは呟き、急停止した。
 でかい防火扉だ。
「きっとそうだ。 で、鍵でもかかってんだろ?」
 そう言いながらマリオは扉に手を掛ける。とたんにけたたましいブザーが鳴った。
「・・・」
 しかし、警備員などいないのは分かっている。いたとしてもさっきの狐達ぐらいだ。2人はファルコに付きっ切りでここまですぐには来れないだろう。マリオは防火扉を蹴り開けた。

 

「うっす」
 そうあいさつをしてマリオがコントロール・ルームに侵入してきたとき、ジュゲムはもう駄目だと悟った。
 マリオは周囲を見回し、ジュゲムと自分以外の誰もいないこと、そしてこの部屋がジュゲム部隊のオペレーターの役目をする場所だと言うことを確認したようだ。
 ジュゲムは、デスクの引き出しからナイフを取り出し、自分の首筋を、刺した。

 

「おいバカヤロウッ! 早まるんじゃねえ!!」マリオは慌ててとめようとするが間に合わなかった。血が鼻につき、独特の鉄を含んだにおいが立ち上る。
 マリオは混乱した。
 ・・・コイツは最終責任者じゃないらしい。自分で自分に口封じをしようとしているあたり、間違いないだろう。
 では、上にいるのは誰だ? ドンキーか?
「一体、どういうことなんだ・・・?」マリオは、倒れたジュゲムを抱き起こして訊いた。
 全てのことはジュゲムが知っていると信じて、マリオはここまで来たのだ。仲間達も同じだ。答えてもらわなくてはならない。
「・・・スマブラ館に行け」ジュゲムは答えるかわりにかすれた声でそう言った。
「スマブラ館? 行ったら、俺達は消されてしまう」
「何故消されなくてはならないのか・・・」
 ジュゲムが語り始め、マリオはうなずいた。
 しかしそれきり、ジュゲムは何の言葉もマリオに与えてくれなかった。
 何も。ジュゲムは死んだのだ。
 ・・・つづく。