スマブラ個人小説/Hooの小説/禁忌の継承者(2ページ目)

Last-modified: 2009-06-27 (土) 21:05:47

こちらは、禁忌の継承者の2ページ目です。引き続き、お楽しみください。
たまにパロディというか、小ネタが入ってくることがあるかもしれませんが、ご了承ください。

第12話 Welcome to this crazy castle

カービィ「う~ん……何かがおかしいなぁ……」
リュカ「それってどういうこと?」
メタナイト「普段は見張りのワドルディたちが城の周囲を警備しているのだが、そいつらがどこにもいないのだ」
プリン「それは大変プリね…」
ネス「やっぱりデデデさんの身に何かあったのかな…」
ピカチュウ「こうなったら早く行くでチュ!!」
ここはデデデ城入り口。紫に送り届けてもらったカービィたちはそこに来て、そんなことを話していた。
本来ならばデデデ城、及びその近辺には(一応)兵士であるワドルディたちの姿が見かけられるものの、今日は見当たらない。
やはり何か異変が起こっているに違いない。カービィたちは城の中に入っていったのだった。



ルカリオ「待て。何か身に覚えのある波動を感じる」
デデデ城に入るやいなや、ルカリオがそう言いだした。
ピカチュウ「それって何でチュか?」
ルカリオ「……影虫だ」

ざわ… ざわ…

周囲に緊張した空気が張り詰める。
すると、床から紫色の霧のようなもの―影虫だ―が立ち込めて、小柄な人の形をしたものが出て来た。
プリムだ。しかも一体や二体だけではない。次々と影虫が湧き上がり、プリムの数は増えていく。

最終的には、軽く見積もっても四、五十体のプリムが現れた。
カービィ「これって……まさか!」
そういえば、マスターハンドはこんなことを言っていた。
『ゲームウォッチからは影虫が作れるから、すでに誰かが捕まえて、さっそく作り出しているのかもしれん……』
ゲームウォッチをさらったのはデデデだったというのか。
そしてデデデが「気分が悪いからいけない」と、カービィの空中スタジアムへ一緒に行かないかという誘いを断ったのは、すでにタブーに洗脳されていて、その間に影虫を作り出していたからなのだろうか。
メタナイト「考えるのは後だ!今はこの状況を切り抜けるぞ!」
そう言いながら、襲いかかってきたプリムを斬り捨てる。
確かに、今は考え事をするには不向きな状況だ。
七人は円陣を組み、後方からの不意打ちを受けないようにする。
ルカリオ「さあ、かかってこい。いかなる試練も乗り越えて見せよう!」


十数分後。
ピカチュウ「ピカあッ!!」
ピカチュウはほっぺから電撃を出し、プリムに当てる。
それをくらったプリムは体が分解して影虫となり、消えた。
ピカチュウ「ふぅ~。やっとおわったでチュ~」
なんとも間の抜けた声だが、それはこの戦闘を切り抜けたことを意味していた。
プリン「久々に戦ったけど、たいしたことなかったプリね」
数の多さで戦闘力の低さを補うという戦法は変わっておらず、一体の能力も以前戦った時と比べても変化は無いように思えた。
ネス「うん。でも、プリムだけじゃなくて、他の敵だっているかもしれないね…」
亜空軍には同じ影虫で作られながら、プリムよりもはるかに強い敵だっている。
そいつらも作られているとなれば、油断はできない。
カービィ「もう居ても立っても居られないよ!早くデデデの所へ行こう!!」
そう言ってカービィは今にも走り出すところだったが、ルカリオがそれを止める。
ルカリオ「待て、カービィ。この城の地下から影虫とは違う波動を感じる。まずはそれを確認しに行った方が良い」
リュカ「それって、ひょっとしてワドルディなのかな?」
ルカリオ「私はワドルディとやらに詳しくは無いからよくは分からないが、その可能性はある。……この城の地下には何があるんだ?」
後半の言葉はメタナイトに向けて言ったものだ。
メタナイト「使われたことは無いが……罪人を閉じ込める牢獄がある」



~デデデ城地下~
メタナイト「何っ!?やはりそういうことだったのか……」
地下牢には、大量のワドルディたちが押し込められていた。
警備でもしているのか、ビームソードを持ったプリムが二体いる。
リュカ「だったら早く助けないと…PKファイアー!!」
ルカリオ「はっ!!」
リュカがPKファイアーで一体を燃やし、ルカリオが波導弾を放ってもう一体を倒した。
その後、メタナイトが牢屋の前に近付き、中にいたワドルディたちにこう言った。
メタナイト「……下がっていろ」

ガキィン!!

剣を一閃させて、鉄格子を斬った。
すると、中からぞろぞろとワドルディたちが出てくる。
メタナイトはその中にワドルドゥ――ワドルディたちを統率している者だ――を見つけ、話しかける。
メタナイト「ワドルドゥ、どうしてお前たちがここに閉じ込められていたんだ?」
ワドルドゥ「メタナイト卿、助けていただきありがとうございます。実は……」

ワドルドゥの話した内容は、要約するとこんな感じだ。
昨日、メタナイトが城を出て行った直後、デデデがワドルディたちを一か所に集め、こう言った。
『兵士諸君、任務御苦労。さようなら。戦力にならないお前たちに代わって、ワガハイはこいつらを新たなデデデ城の兵士とすることを決めた』
そしてデデデが作り出したプリムたちによって、今まで地下牢に閉じ込められていたというわけだ。

メタナイト「くそっ!私が早く陛下の変化に気づいていれば……!」
話を聞いた後、メタナイトはそう悔しがった。だが、それは違うとネスは否定する。
ネス「確かにデデデさんがタブーに操られていることに気付けなかったのはミスかもしれない。でも、タブーの復活を止めるため、そして操られている人たちを助けるために僕たちがこうしているんじゃないか。今からでも遅くは無いよ」
それに続いて、カービィが元気よくこう言う。
カービィ「うん、そうだよ!そんな後ろ向きなことを考えるよりも、できることをやっていく方がずっといいよ!」
その言葉に、メタナイトは励まされた。
メタナイト「カービィ、ネス…。そうだな。今我々がやるべきことはデデデ大王の『救出』だ。
……ワドルドゥ。私たちは陛下の所へ行くが、お前はワドルディたちとここで待っていてくれ。
これは我々の問題だからな」
ワドルドゥ「分かりました。どうか、お気をつけて…」


そして、カービィたちはデデデの部屋へと向かう。洗脳されたデデデを救出するために。

第13話 運命のダークサイド

ここはデデデ大王の部屋。そこには二人の戦士がいた。
……いや、『元』戦士がいた、と言うべきか。片方はデデデ大王。そしてもう片方はフィギュア化したMr.ゲーム&ウォッチである。デデデは今は禁忌の継承者となっており、タブーの意思によってゲーム&ウォッチを捕まえ、影虫を取り出しているのだった。
デデデ「フフフフフ……順調。まったくもって順調ゾイ」
戦力として期待できないワドルディと比べれば、プリムの方が戦闘能力は高いし、ゲーム&ウォッチのフィギュアがある限り、いくらでも作りだすことができるのだった。手駒としては最適である。
これさえあれば、今まで平和ボケしていたプププランドの住民はおろか、“この世界”を支配することだってそう難しくは無い。そう思って、デデデは笑った。
……もっとも、洗脳された状態での思考で、であったが。


「……貴様がデデデだな?」
突然、そこへ乱入する男が一人。赤いコートに赤い帽子、赤いサングラスという非常に目立った格好をしている。
デデデ「そうゾイ。だが人の名前を尋ねるときはまず自分の名前を名乗るのが道理ゾイ」
男はククククク、と笑いながら名を名乗る。
「それはすまなかったな。私の名はアーカード。貴様と同じ禁忌の継承者だ。戦士たちが貴様の所へ向かっているとタブーから聞いたが、どうやら間に合ったようだな」
目の前の男――アーカードは自分の手助けをするためにここに来たのかとデデデは解釈する。
デデデ「フン、そういうことかゾイ。だがワガハイには手助けなど不要ゾイ。このフィギュアから作り出せる影虫さえあれば、戦士たちなど恐るるに足らんゾイ」
デデデはゲーム&ウォッチのフィギュアに目をやりながら、そう言う。
だが、アーカードは予想外の言葉を口にした。
アーカード「何を言っている。そのフィギュアを渡してもらおうか」
デデデ「な…!どういうつもりゾイ!」
アーカード「どうせ貴様程度の実力では、例え影虫を使おうと例えタブーの能力の一部を使おうと戦士たちにやられるだろう。それではせっかく手に入れた影虫を作る手段をフイにしてしまう。そうなる前に私が回収しに来た。そういうことだ」
デデデ「ぐ…させないゾイ!」
デデデの周囲に影虫が現れ、数十体のバズーカプリムを形作った。
デデデ「撃て!!」
プリムたちが装備するバズーカから大量の光弾が放たれる。
それをアーカードは喰らう。喰らう。喰らう。
無数の光弾がアーカードの体を貫く。それでも彼は避けようともしない。
帽子とサングラスが吹き飛び、露わになった血の色をした瞳はどこか楽しげだった。


バズーカプリムの一斉射撃が止むと、アーカードは仰向けに倒れた。

デデデ「フン……こんな奴がワガハイと同じ禁忌の継承者?まるでお話にならんゾイ……」
呆れた、と言わんばかりのデデデであったが、そこにククククク、とアーカードの笑い声が響く。
アーカード「なるほど……大した威力だ。だが、こんなものでは……」
吸血鬼の特徴の一つには高い再生能力がある。
アーカードもその例に漏れず、ゆっくりと立ち上がりながら受けた傷の回復をさせる。
アーカード「私の夢のはざまを終わらせるにはまだ遠い」
瞬間、アーカードの姿が消えた。そしてその姿を再び現したのは一体のプリムの前。
アーカードはその喉元に噛みつき、そのまま自分の体を旋回させてプリムを振り回す。
噛みつかれたプリムは、振り回されている最中に影虫に分解して消えてしまった。
続いて、アーカードは無造作に片手を左右に振った。


たった一振り。


それだけで、近くにいたプリムのうち数体がやられてしまった。

さらにアーカードは腕を振る。

プリムがやられる。

腕を振る。

プリムがやられる。

腕を振るという単純な作業を数回繰り返しただけで、数十体もいたプリムは全滅した。

デデデ「グッ……これならばどうゾイ!!」
デデデは右腕を真上に掲げる。すると、右手の先から輪の形をした物体が現れる。
それには鋸状の刃がいくつも付いており、奇妙な形をしていた。――強いて言うならば、手裏剣といったところか。デデデが持つタブーの能力の一部だ。
デデデはそれを投げ、アーカードに向かって飛んでいく。
手裏剣は巨大で、この狭い室内で避けることは不可能。これが当たればアーカードは真っ二つに――

ダンダンダンダンダンダン!!

アーカード「純銀マケドニウム加工水銀弾頭、弾殻マーベルス化学薬筒NNA9。全長39cm重量16kg、13mm炸裂徹鋼弾『ジャッカル』……パーフェクトだウォルター」
アーカードは手裏剣を撃ち落としていた。左手に握った黒い拳銃を見つめ、そう呟く。
デデデ「う…うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!
万策尽きたデデデはハンマーを持って走り出す。
だが、標的であるアーカードは姿を消し、
アーカード「チェックメイトだ」
デデデの目に映ったのは、銀色の銃を自分の眉間に押し付けるアーカードの姿だった。



ダン


ピカチュウ「……今の音って何でチュか?」
デデデの部屋へと向かっていたカービィたちの耳に、一発の銃声が響いた。
カービィ「う~ん……どこかで聞いたことがあるような気がするんだけど……」
リュカ「なんだか嫌な予感がするね……」
そう話している間に、一行はデデデの部屋の前に着いた。
扉を開けると――
アーカード「ようやく来たか」
フィギュア化したデデデとゲーム&ウォッチ、そしてタブーのエネルギー体を手に握るアーカードがいた。
メタナイト「アーカード!これは貴様がやったのか!?」
アーカード「ならばどうする?」
質問に対し、アーカードは愚問だとでも言わんばかりに質問で返す。
ルカリオ「仮にも今のデデデとお前は禁忌の継承者同士……仲間のようなものではないのか?」
アーカード「フン、禁忌の継承者の目的はタブーのエネルギー体を一か所に集めること。ならば私がそいつらを倒してエネルギー体を集めるという方法もありだということだ。馴れ合うつもりは無い」
非情な言葉にプリンが怒る。
プリン「ちょっと!それってあんまりプリ!大体一人で勝手に……」
そんなプリンを無視して、アーカードは話し続ける。
アーカード「それに、影虫を作る手段を手に入れたにも関わらず、このままでは貴様らに奪われかねないからな。そうなる前に私が取りに来た、ということだ」
アーカードはゲーム&ウォッチのフィギュアに歩み寄る。
ネス「PKファイアー!!」
それを止めようとネスが攻撃する。だが、アーカードには軽く火傷ができた程度で、効いた様子は無い。
アーカード「貴様たちと戦いたいのは山々だが……コイツを使ってやらなければならないことがあるからな。今回は失礼させてもらおう」
アーカードはワープする能力を使い、ゲーム&ウォッチのフィギュアごと姿を消した。
後に残されたのは、カービィたちとフィギュア化したデデデのみ。
ピカチュウ「行っちゃったでチュね……」
リュカ「とにかく、デデデさんを助けないと……」



その後、デデデはフィギュア化を解除され、カービィやワドルディたちとともに城の一室にいた。
デデデはワドルディたちに謝罪の言葉を述べていた。
デデデ「みんな……。すまなかったゾイ。ワガハイが洗脳されていたとはいえ、いつもワガハイに尽くしてくれたお前たちにひどいことを言ってしまって……」
だが、
ワドルドゥ「陛下、どうかお気になさらないでください。我々がプリムに捕まったのは無力さが原因なのですから。それに、兵士に対してそのようなお言葉をかけていただき、感謝の極みです」
カービィ「それにさ、謝るなんてデデデらしくないよ。みんな事情は分かってるんだしさ。悪いのはこんなことを引き起こしたタブーだよ」
プリン「それと、ゲーム&ウォッチをさらっていったアーカード!あいつに一泡吹かせてやる方がいいプリ!!」
メタナイト「陛下、我々は今できることをやるべきです。それは禁忌の継承者の目を覚ましてタブーのエネルギー体を回収すること。我々のチームはそれに失敗してしまいましたが、他の者たちも今、尽力しているところです。ひとまず、空中スタジアムへ行きましょう。そこが戦士たちの集合場所となっています」
次々と励ましの言葉をかけられ、デデデは元気を取り戻す。
デデデ「みんな……、ありがとうゾイ。今回の償いのためにも、ワガハイも付いていくゾイ」


そして、カービィたちは空中スタジアムへと向かう。タブーの復活を阻止するために。

第14話 キャラ崩壊?むしろ上等(ry

※某雇われ遊撃隊のカエルさんの扱いがかわいそうなことになっていますが、どうか大目に見てやってくだせぇ。

紫「本当にウルフとやらがいる場所じゃなくてここで良いのかしら?」
ここはグレートフォックスの艦内。紫はフォックスの希望によりそこに送り届けたのだが、確認するようにそう尋ねてきた。
フォックス「ああ。さすがに、いきなり敵地のど真ん中に入るような真似はマズいからな」
ウルフは、サルガッソーと呼ばれる宇宙空間の一つにあるコロニーの中にいる。
そこには、ウルフを慕うならず者たちが大勢いるのだが、ロクな準備も無しに乗り込むのは危険なので、グレートフォックスでそこへ移動して、その間に準備を済ませようということになったのだった。
紫「ふうん。ま、頑張ってね」
紫はスキマの中に姿を消した。


クリスタル「それにしても、またあそこに行くことになるとはね……」
ロボット「ひょっとして、お前たちは以前に『サルガッソー』とやらに行ったことがあるのか?」
クリスタルがつぶやいた言葉に、ロボットがそう質問する。
クリスタル「ええ。私たちスターフォックスがそこに行った時は、ピグマという男を探していたのよね。それでそのコロニーにピグマがいるんじゃないかと思ってならず者たちと話をつけようとしたのだけれど、話がこじれて戦うことになっちゃったのよね。結局、ピグマはそこにはいなかったのだけれど……。その後、色々あってウルフたちと共闘することもあったのだけれど、それでも、サルガッソーのならず者たちとの関係は気まずいと言えるわね……」
ロボット「それは面倒なことになりそうだな……」
詳しいことは分からないが、何かと行きづらい場所であることはロボットにも伝わった。
ファルコ「まあ、そんな事を話すより、挨拶に行こうぜ」
そう言ってグレートフォックスの奥へと歩き出したファルコを、オリマーが呼び止める。
オリマー「あの、挨拶って誰にですか?」
ファルコ「そういやお前たちは会ったことが無かったんだったな。何、スターフォックスの最古参と整備士の所さ」



~会議室~
「うむ……つまり、タブーの復活を止めるためにウルフに会いに行かないといけない、という訳だな?」
初老のウサギの男性――ペッピーはフォックスたちから事情を聞いて、フォックスに確認するように尋ねた。
ペッピーに会った際に、何故空中スタジアムに行ってきたはずのお前たちがここにいるんだという質問も受けたが、禁忌の継承者のことを話すついでに、離れた場所へ瞬間移動する能力を持った人が協力してくれているおかげで、こうやって迅速に行動することができているのだとフォックスが言ったことで、話はスムーズに進んでいった。
フォックス「そうなんだ。という訳で、このグレートフォックスでサルガッソーへ行かないといけない、ということさ」
ちなみに、グレートフォックスはすでにサルガッソーに向かっており、あと数時間で到着するものと思われる。
フォックス「そして、こいつらは俺たちの仲間だ」
フォックスはオリマーとロボットのことを親指で指す。
オリマー「初めまして。オリマーと申します」
ロボット「……まあ、見た目通りだが、ロボットだ」
ペッピー「そうか。オリマー、ロボット、よろしく頼む」
「う~ん……でもロボットってそのまんますぎるよね。何か名前とかは無いの?」
ロボットの自己紹介にそんな反応を見せる者が一人。
スターフォックスのメカニックを担当しているスリッピーだ。
ちなみに、この場で話をしている者は、フォックスたちとペッピー、スリッピーの計七人である。
ロボット「名前は以前はあったのだが、今は用を成さなくなってしまってな……」
ロボットには、かつて『エインシャント卿』という名前があったのだが、亜空事件の際にエインシャント島と部下のロボットたちを失って以来、その名前は封印していたのだった。
領地を失い、領民までも犠牲にした指導者にとって、その名前は必要ないのだから……。
スリッピー「でも、やっぱり名前は無いと不便だよ。オイラたちの所にいるナウスみたいにさ。……そうだ!オイラが名前を付けてあげるよ!」
ロボット「スリッピー……そんなことをしてくれるのか?」
もう名前など必要ないと思っていた自分のためにそんなことをしてくれるとは……。
ロボットはスリッピーに感謝の念を浮かべていた。それで頭が一杯だったために、フォックス、ファルコ、クリスタルの三人が複雑な表情をしていることには気が付かなかった。
スリッピー「……よし、決めた!君の名前はワャモーンだ!!」
ロボット「……は?」
ちょっと待て目の前のカエルは今なんて言ったワャモーンだと何だそのみょうちくりんな名前はそもそも「ワャ」なんてどうやって発音するというのだこれが小説だからいいものの現実世界でそんな言葉は発音できないだろ常識考えろetc,etc,etc……。
ロボットの思考回路は異常を起こしかけていたが、
クリスタル「実を言うと、スリッピーはゲームのキャラクターに発音不可能な名前を付ける趣味があるのよね……」
と、耳打ちをされて治まった。
ロボット「……スリッピー、名前を付けてくれるのはありがたいのだが、やはり私にはロボットという名前が似合っている(頼むから空気を読んで『分かったよ』と言ってくれ)」
その願いが通じたのか、
スリッピー「しょうがないなぁ……分かったよ」
と、スリッピーは諦めてくれた。

そんな折、
「フォックス。サルガッソーノコロニーカラ通信ガ来テイマス」
スターフォックス専属のロボットであるナウスが会議室に入ってきたのだった。



フォックスたちが巨大なモニターの付いた通信機の前に行くと、見覚えのある黒ヒョウがモニターに映し出されていた。
スターウルフのメンバーの一人であるパンサー・カルロッソだ。
パンサー「やあ、スターフォックスの皆さん。まさかこんな形で再開することになるとはね」
ファルコ「おい、何でお前がこんなところへ通信してきてるんだよ」
パンサー「黙れトリ」
ファルコ「んだとぉ!!」
質問をあっさり切り捨てられ、ファルコは怒るが、今度はクリスタルが質問をする。
クリスタル「パンサー、いったい何があったの?」
パンサー「愛しの女性の頼みとあらば仕方ない。実は、リーダーがおかしなことになっているんだ。おかしなポーズをとったり、突然後ろを振り返って『貴様ッ!!見ているなッ!!』とか言い出したり、妙にテンションが高くてね。そりゃもう大変さ」
クリスタル「それは確かに大変そうね……」
ウルフはタブーに洗脳されているはずなのだが、その影響なのだろうか。
クリスタル「でも、それと私たちと何の関係があるのかしら?」
パンサー「それはリーダーが突然『雇われ遊撃隊の野郎どもが来るぞ!!』とか言い出してね。案の定レーダーにはこっちに近付いてくるグレートフォックスの反応があったという訳さ。……今度は予知能力でも身につけたのかな。それで、君たちはいったい何の用があっt…うわまてなにをするくぁwせdrftgyふじこlp」
突然、モニターの映像が乱れて砂嵐になってしまった。

しばらくして砂嵐は治まったが、モニターに映っていた姿は……
フォックス「ウルフ!!」
クリスタル「一体どうしたの?というかパンサーは?」
ウルフ「あいつにはちょっと黙っておいて貰った。これから色々と邪魔になりそうだったんでな」
ロボット「おい、ウルフ!!自分の仲間になんてことを―」
文句を言いかけたロボットを、ウルフが大声で遮る。
ウルフ「グダグダぬかさずに話を聞け、雇われ遊撃隊の野郎ども!!俺はこれからサルガッソーでお前らを迎え撃つ!この闘争の結果はタブーのエネルギー体を俺が持ったままでいるかお前らが奪うかのどちらかでしかない。首を洗って待っていろ」
そう言いきると、一方的に通信を切った。

オリマー「それで……どうするんですか?」
会話についていけなくて呆けた感じになっていたオリマーが質問する。
フォックス「まあ、穏便に済むことは考えられなかったから、戦うしかないんだろうな……」



数時間後。
フォックスたちはアーウィンの格納庫に来ていた。
ペッピー「では、もう一度確認するぞ。これからお前らはアーウィンに乗ってサルガッソーに行く。そこで二手に分かれて、フォックス、オリマー、ロボットはコロニーに侵入してウルフを倒し、コロニーを制圧する。ファルコとクリスタルは宇宙空間の戦艦を迎撃していき、コロニーが制圧されるまでの時間稼ぎだ。それで良いな?」
フォックスたちの作戦は、以前サルガッソーに行った時と同様に、二手に分かれて片方がコロニーを制圧するというものだった。
前回と違う点は、今回はスリッピーの代わりにアーウィンの操縦技術を持っていないオリマーとロボットが制圧するチームに入っているということだ。
スリッピー「オイラはここで留守番っていうのが残念だよ……」
フォックス「いや、スリッピー。どうせアサルトの時には役に立っていなかったじゃないか
今回の事件に関わっていないお前を巻き込むわけにはいかないんだ」
スリッピー「ちょ、 (OO; 仲間の心配をしているようでいて何かひどいこと言わなかった!?」
フォックス「そうか?気のせいだろ」
フォックスはごまかしたが、さっき彼が言おうとしたことがそのまま作者の本音となっているのは言うまでもない。
スリッピー「……↑で何かひどいことが書かれているんだけど…… (T-T
オリマー「まあ、適材適所ということで、今回は待機するほうがいいということですよ」
オリマーがポンポンとスリッピーの肩を叩いて、励ましてあげる。
スリッピー「ううう……ありがとう……」
ファルコ「ところでよ、オリマーとロボットはどうやってコロニーに連れて行くんだ?」
フォックス「そりゃあ、俺たちと一緒にアーウィンのコクピットに乗せるしかないだろうな。一年前の時のディディーみたいに」
ファルコ「おいおい、オリマーはともかくロボットはサイズ的に無理があるだろ」
クリスタル「そんなこと言っても、転送装置を使って移動させるようなマネは出来ないわよ」
フォックス「つまり、俺たちの誰かがロボットを無理やりアーウィンに乗せた状態でコロニーに向かわないといけないということだ」
クリスタル「でも、誰がそれをやるっていうのよ……」
一同「………………………………………………………………………………………………………」
重苦しい沈黙が流れるが、
フォックス「仕方ない、ジャンケンで決めようか。恨みっこ無しだぞ」
ファルコ「結局それかよ……」
クリスタル「嫌でも緊張するわね……」
フォックス「じゃあ、行くぞ……」

唯でさえ大きいロボットが狭いアーウィンのコクピットに押し込められること。
当然、パイロットはロボットの質量に圧迫されること必至。
すなわちロボットをアーウィンに乗せることは、パイロットにとっては死に等しい行為!
その犠牲者が誰になるのかはこのジャンケンで決まる!
三者三様の思惑が入り混じるたった一度の大博打、開戦である!!

フォックス&ファルコ&クリスタル「「「ジャーンケーン……」」」



サルガッソーのコロニーへ向かうアーウィンが三機。
結局、誰がアーウィンにロボットを乗せることになったのかというと。
ファルコ「おいちょっとロボット動くな!前が見えねえ、てか圧迫されて痛ェ!!」
ロボット「す、すまない……」
フォックス「いやぁ、大変だなファルコ」
フォックスがわざわざ通信をしてきて心配(?)の声をかける。
ちなみに、オリマーは彼のアーウィンに乗っている。
ファルコ「うるせぇ!!」

果たして彼らは無事にコロニーに辿り着けるのだろうか。

第15話 一旦始まるとちゃっちゃと終わる

サルガッソーと呼ばれる宇宙空間の一角は、ならず者の吹き溜まりで有名である。
そこにはコロニーがあり、ならず者集団の一つであるスターウルフのリーダーことウルフ・オドネルが仕切っている。
そこの入り口に侵入するアーウィンが二機。
アーウィンのコクピットが開き、中から四つの人(?)影が出てくる。
ファルコ「……冗談抜きで死ぬかと思ったぜ……」
ロボット「いや、何か色々と申し訳ない……」
フォックス「そんなことは無いさ。ファルコは自分の運が無いせいでこうなったんだからな」
普段のファルコなら何か言い返すだろうが、本当に疲れているのか何も言わない。
ちなみに、ファルコと同じくコロニー外部の敵と戦う役目を持っているクリスタルは、すでに戦闘を始めている。
また、フォックスたちが話している最中に、オリマーは床からピクミンを引っこ抜いて準備をしていた。
なぜこんな所で、なんて野暮なことは聞いてはいけない。いつでもどこでもピクミンを引っこ抜くことができる程度の能力を持つ。それがオリマーという男なのだから。
オリマー「さて、私の方も準備ができましたし、早く行きましょう」
ファルコ「それじゃあ俺は外に行って雑魚どもを片づけてくっから、ちゃっちゃと終わらせてくれよ……」
そう言ってファルコは再びアーウィンに乗り、外に出て行った。
すると、まるでそのタイミングを狙っていたかのように、武装したならず者たちがわらわらと集まってきた。
「何じゃオンドレェ!!」とか「ここがオドネル様の縄張りと知ってのことか!!」とか「ぶるぁぁぁぁ!!」とか口々に言っている。
フォックス「やっぱりというか、早速出てきたな」
早い話、こいつらはボスキャラの所に行くまでに戦わなければいけないザコ敵でしかない。
いわば『お約束』みたいなものだ。クッパ軍団のクリボーみたいな。
まあ、クリボーと違ってならず者たちはブラスターの様な飛び道具を持っているから、多少は手強いか。
でもブラスターならフォックスだって持っているし、目からビームを出せるロボット、無限にピクミンを引っこ抜ける男もいるから問題ないね。
オリマー「こんな奴らにかまっている暇はありません、さっさと倒しましょう!」
という訳で、通過儀礼の戦いが始まった。


ピンポンパンポ~ン♪(謎のアナウンス)


みなさま、結論から言いますとこの戦いはフォックスたちの圧勝でした。
しかし、このまま次の展開へ行くのもマズイと思われるので、ここからはそれぞれのキャラにスポットを当ててダイジェストでお送りしたいと思います。どうぞ、お楽しみください。


~オリマーの場合~
オリマーは白ピクミンをブン回して戦っていた。
ならず者の一人がこちらに向かってブラスターを撃ってくるが、彼はそれを華麗にかわして白ピクミンを顔面に叩きつける。
「目がぁ……目がぁ~~~~~~~~~~~~~!!」
白ピクミンの毒が目に入ったのか、両手で顔を押さえてうずくまる。
攻撃をくらった奴はもちろん、振り回されているピクミンもかわいそうな気がしないでもないが、「ピクミ~ン」と言うだけで、本音を窺い知ることは出来ない。
そもそも白ピクミンの顔には赤い目しかないので、表情を判断することすら不可能だ。
「てめえ!」
「よくも!」
「俺たちの仲間に!」
「傷をつけたな!」
今度は四人のならず者がブラスターを連射してくる。
さっきとは違い、レーザーが弾幕となって襲いかかってくるので、避けることはできない。
オリマー「甘いですよ!」
だが、オリマーは目にも止まらぬ速さでピクミンを振り回し始めた。
レーザーは次々とピクミンに叩き落とされる。
ピクミンよ、大丈夫か?と聞きたいところだが、やはり「ピクミ~ン」と言うだけで、痛いのかどうかすらも分からない。
オリマーはレーザーを(ピクミンで)弾きながら、ゆっくりとならず者たちの所へと近付いていく。
そしてこちらの射程圏内に入ったところで、ピクミンを一閃。
すると、四人もいたならず者は一瞬にして倒れてしまった。
原作ではピクミンを投げて攻撃していたが、今ではピクミンを接近戦に使うようになってしまった男、オリマー。どんな心境の変化があったのかは知らないし、それを悪いことだとは言わないが、せめてピクミンにはもう少し優しくしてあげてください。


~ロボットの場合~
ロボットは何もしなくてもならず者たちを蹴散らせていた。
いや、厳密に言うと、たまに高速で腕を回転させてはいるが、本当にそれだけである。
では、何故それだけでならず者たちを倒せるのかと言うと、ロボットのアームスピンは飛び道具を跳ね返せるというのは皆さんもご存じのはず。ここまで言えばお分かりだろう。
ロボットはならず者が撃ってくるブラスターをタイミング良く弾き返しているのである。
そしてならず者はそれをくらい、自滅。そんな流れがずっと続いている。
もっと攻撃を工夫しろ、とならず者たちに言ってやりたいが、ワンパターン攻撃はザコの専売特許であるから仕方無い。
そんな状況を遠巻きに眺めている男が一人。
男は、このサルガッソーの中ではちょっとだけ腕が知れ渡っている。
その名も『ならず者』……結局、こいつもザコ敵の一人でしかないのだが、そこはあえて突っ込まないでほしい。だってスターウルフのような超メジャー級の者にしか名前というものは無いのだから。
それ以外は『ならず者』で十分である。
ならず者は左手に小型の通信機を持っていて、ウルフと会話をしていた。
何やら彼は自信ありげに話している。
ならず者「さあウルフ、命令をよこせ。私はあのロボットを殺せる。微塵の躊躇も無く一片の後悔も無く鏖殺(おうさつ)できる。この私はならず者だからだ。では、お前は?ウルフ。ブラスターは私が構えよう。照準も私が定めよう。エネルギーをチャージし、安全装置も私が外そう。だが、殺すのはお前の殺意だ。さあどうする。命令を!!スターウルフリーダー・ウルフ・オドネr―」
ロボット「もうお前しかいないぞ」
ならず者の目の前にロボットがいた。彼がグダグダと話している間に、他の奴らは全滅してしまったのだった。それにしても声をかけられるまで気付かないなんて、よほど夢中になって話していたのだろう。
ロボット「これで終わりだ」
ロボットは目からビームを放つ。

ならず者\(^o^)/オワタ
ウルフ「まったく……さっさと攻撃しろ」


~フォックスの場合~
フォックス「さて、敵も全滅したことだし、そろそろ……」
だが、彼の視線はポツンとあった転送装置の前に止まる。
そこにはならず者が一人残っていて、何やら転送装置を作動させていた。
フォックス「しまった!!」
慌ててブラスターを構えるものの、時すでに遅し。
「「「「とうっ!!」」」」
転送装置から五つの影が飛び出てきた。それらはフォックスの目の前に着地し、ポーズを決めた。
クリボー「ザコレッド!!」
ノコノコ「ザコグリーン!!」
ヘイホー「ザコイエロー!!」
ワドルディ『ザコブルー!!』(←と書かれた大きな紙を掲げている)
オイッコニー「ザコピンク!!」
「「「「我ら、最弱戦隊ザコレンジャー!!」」」」
……突っ込み所が多すぎる。とりあえず言ってみるならば、この状況で出てくるキャラは大抵強い奴と相場は決まっているのに、よりによって「最弱戦隊」ときたものだ。さらに、何故茶色いクリボーがレッドをやっていて、赤いワドルディがブルーをやっているのか。そして何より――
フォックス「オイッコニー、何でお前がここにいるんだ?」
ライラット系に悪名を轟かせた科学者、アンドルフの甥っ子にして元スターウルフのメンバーであったアンドリュー・オイッコニーがなぜそこに混ざっているというのだ。
というか、アサルトの時には「アンドルフおじさぁ~ん!!」とか言いながらアパロイドにやられていた気がするのだが……。
オイッコニー「フン、私は『スターフォックスアサルト』であんなに情けなくやられた後も、復活の機会を狙っていたのだ。その最中にザコレンジャーというものの存在を知ってな。ザコレッドに『人数合わせのために入って欲しい』と言われたのさ。最初は断ろうと考えたが、ヘタレのイメージを払拭するためにもとにかく今は出番を増やして、ゆくゆくは天才科学者アンドルフの後継者として恥じない存在になるため、下積みをしているという訳だ」
フォックス「……そのためにザコ呼ばわりされても良いっていうのか。そもそも、最弱戦隊とやらにスカウトされている時点でお前のヘタレのイメージは決定的なものになってるぞ、オイッコニー」
そう言いながら、フォックスはブラスターを連射してクリボー、ノコノコ、ヘイホー、ワドルディを倒していた。
あまりにもあっさりと倒されすぎであるが、最弱戦隊なのだから仕方ない。
オイッコニー「ぐぐぐぐぐ……おのれ!!」
オイッコニーは近くにあった固定砲台(コロニーに予め設置されていたものである)に乗り込み、レーザーを放った。……リフレクター持ちのフォックスに向かって。
案の定、フォックスはリフレクターでレーザーを跳ね返し、それは砲台に直撃。
オイッコニー「アンドルフおじさぁ~ん!!」
砲台は爆発し、彼はそんなセリフを遺して倒れた。
フォックス「……やっぱりお前はヘタレだよ」
「ひええええっ!俺たちゃ全滅だっ!!」
一方、ザコレンジャーを呼び出したならず者は一目散に逃げてしまった。


コロニー内の敵をあらかた殲滅し終わったところで、フォックス、オリマー、ロボットの三人が再び集まる。
オリマー「もうここは大丈夫ですよね?」
ロボット「さて、これからどこへ行けばいいんだ?フォックス」
フォックス「あとはウルフを倒すだけだからな。あいつは最上階にいるだろう」
という訳で、ちゃっちゃと終わらせるべくコロニーの最上階へと向かうフォックス達なのであった。


―おまけ
コロニーの外では、ファルコとクリスタルがアーウィンに乗って敵と戦っていた。
そんな中、クリスタルの操縦するアーウィンの後方を一機の戦闘機が追いかけていて、アーウィンはレーザーの攻撃にさらされていた。
クリスタル「そんな、振り切れないなんて!」
苦戦している様子を見て、戦闘機を操るならず者は楽しそうな声を上げる。
「どうした、ローリングでレーザーを跳ね返せ!素早く左右に動いて避けてみろ!ブーストで振り切れ!お楽しみはこれからだ。HURRY!HURRY HURRY!!HURRY HURRY HURRY!!!」
クリスタル「なんてね!!」
そう言うやいなや、アーウィンは前方宙返りをして逆に戦闘機の背後をとった。
「何っ!?」
クリスタル「さあ、今度はこっちの番よ!!」
そして放たれるレーザーをくらって、なすすべなく戦闘機は撃墜された。
ファルコ「やるじゃねえか、クリスタル」
クリスタル「まあね。最近ゲームばかりしていたあなたとは違うわよ」
ファルコ「……その言葉はキツイな」
クリスタルのことばに苦虫を噛み潰したような顔を浮かべるファルコであった。

第16話 vsウルフ

それで、フォックスたちはコロニーの最上階へと向かっていたのだったが、結論から言うと、そこへ行く必要は無くなってしまった。なぜならば、
ウルフ「よう、フォックス。あまりにもお前らが来るのが遅いからこっちから来てやったぜ」
相手の方から手を打ってきたからだった。
フォックスは予想外の事態に驚きつつも、結局こちらが行く手間が省けただけだと考え、落ち着きを見せて
フォックス「そうか。でもお前らの仲間はみんなやられたっていうのにどうするんだ?今ならタブーのエネルギー体を渡せば痛い目に合わせるつもりは無いけど、どうだ?」
ウルフ「そうだな、ここは大人しくお前らの言うことを聞いてやろう……」
フォックスの言うことに従おうと――
ウルフ「と言うとでも思ったかぁ!!」
――せずに飛びかかってきた。
フォックス「くっ!」
とっさに腰に下げてあったリフレクター装置を起動させる。
リフレクターが発動する瞬間に流れる電流がウルフに当たり、吹き飛ばされる。だが、
ウルフ「甘いぞ、フォックス!」
吹き飛ばされながらも、ウルフはブラスターを二発発射する。
フォックスはリフレクターを解除したばかりで、すぐに再起動させることはできない。
やられる!そう思ったが、
オリマー「危ない!!」
割り込んできたオリマーがピクミンを振り回してレーザーを叩き落とした。
ウルフ「やるじゃない――っ!?」
着地したウルフの目の前に赤い光線が迫ってきて、とっさに回避する。
ロボット「私のことも忘れてもらっては困るな」
それは、ロボットが放ったビームだった。
ウルフ「やるじゃないか。まあ、戦いはこれからだ」
そう言うやいなや、ウルフは横に走りながらブラスターを連射してきた。
フォックス「させないぞ、ウルフ!」
ウルフを追いかけるような感じでフォックスも走り出す。
二人は平行に走りながらブラスターを連射する。
だがどちらにも当たることは無く、平行に走っていた二人の間の距離が少しずつ縮まっていく。
そしてお互いの拳が届く範囲にまで近付いた。
ここからは肉弾戦だ、そうどちらも瞬時に判断し、フォックスは右足でキックを、ウルフは左手の爪を振り下ろす。
フォックスは前方から迫ってくる爪に対して、ウルフの左手首を軽くはたいて勢いを殺し、こちらはキックを脇腹にくらわせる。
……だが忘れてはいけない。二人はブラスターを使っていないだけで、持ってはいるのだ。
そして片足が地面から離れていることで即座に体勢を変えることが難しいフォックスと違い、ウルフが封じられたのは左手の攻撃のみ。この状況でどちらが先に次の行動に移れるかと聞かれれば、答えは言うまでも無い。
ウルフ「まだまだだな!」
右手のブラスターをフォックスに向け、引き金を――
「ピクミ~ン!!」
突如、黄色いピクミンが飛んできた。
ピクミンはウルフの右手……ブラスターに命中する。
ウルフ「ぐっ!!」
ウルフはブラスターを落としてしまう。
オリマー「まったく……フォックスさん、あまり無茶はしないでください。私たちだって戦っているんですから」
ロボット「フォックス、この戦いはコンビネーションが重要だ。一人が突っ走るのは良くないぞ」
二人に言われ、フォックスは謝罪する。
フォックス「ああ、そうだな……心配かけてすまない」
一方、ウルフはククククク、と笑い声をもらしていた。
ウルフ「さすがだよ、言う事ねえ……しかしここまでだ!」
瞬間、ウルフの体から電撃が発せられた。三人は後方に下がることでそれを避ける。
ロボット「その技は……!」
ウルフ「ああ、そうだ。これはタブーの能力。エネルギー体が俺の体内にある以上、タブーの技を使えてもおかしくないだろう?」
電撃はウルフを取り囲むように流れていて、近付くことができない。
オリマー「一体どうすれば……!」
だが、「オリマー、フォックス」と小さな声でロボットが呼ぶ。
おそらくウルフに気付かれないようにするためだろう、三人はさりげなく一か所に集まる。
オリマー「一体どうしたんですか?」
ロボット「あの電撃を破る策がある」


何やら企んでいるな、と俺は感じ取っていた。
あの三人が何を話しているのかは聞き取れないが、それでも問題は無い。この電撃を出している間は近寄りようがないから、唯一の対抗手段は飛び道具しか無いが、俺にはリフレクターがあるからその対抗手段も無意味だ。そんな俺に死角など存在しない。
まさか、俺がスタミナ切れを起こして電撃が消えるのを待っているわけじゃないだろう。
もしそうだったら、そうなる前に一気に勝負をつけるだけだ。

どうやら三人が動き出したようだ。フォックスがブラスターを撃ってきた。
……結局それかよ。失望したぜ、フォックス。
そう思いながら、俺はリフレクターを発動させる。


ブラスターがウルフのリフレクターに跳ね返される。
そしてウルフがリフレクターを解除し――
オリマー「今だ!!」
オリマーが黄ピクミンを投げつける。
黄ピクミンはウルフが腰に下げるリフレクター装置に張り付き、頭突きをする。それでリフレクター装置は壊れてしまった。
ウルフ「何っ!?」
これでは飛び道具を跳ね返せない。つまり――
ウルフが気付いた時にはもう遅い。ロボビームとフォックスのブラスターが同時に迫ってきて――


フォックス「ここまで上手くいくとはな」
彼の目の前にはフィギュア化したウルフが転がっている。
……ロボットの立てた作戦はこうだった。
そもそも、あの電撃の中に入れるのは電気に耐性のある黄ピクミンしかいない。
だが、黄ピクミンだけではウルフに勝つことは不可能だ。
それ以外の攻撃手段は飛び道具しか無いものの、奴はリフレクターを持っている。
それでは打つ手なしなのか?答えはNOだ。理由は単純。
黄ピクミンにリフレクター装置を破壊させれば良いだけのことだ。
しかし、黄ピクミンを投げつけても跳ね返されては意味がない。
そこでまずはフォックスがわざとブラスターを撃ってリフレクターを使わせて、それを解除する瞬間を狙って黄ピクミンを投げつける。
そして装置を破壊させ、飛び道具を跳ね返せないようにし、あとはこちらの遠距離攻撃を叩き込む、というものだった。

フォックス「さて、ここを制圧したと言うことを外の奴らに知らせてやらないとな。スリッピー、どうすればいいんだ?」
スリッピーと通信をして、何をすべきか尋ねる。
スリッピー「そうだね、近くに大きな通信機みたいなものは無い?それを使って……」
フォックス「分かった。……これだな?」
通信機の電源を入れ、コロニー外部の戦闘機全機に通信できるようにする。そしてこう言った。
フォックス「こちらは雇われ遊撃隊『スターフォックス』のリーダー、フォックス・マクラウド。このコロニーの統治者、ウルフ・オドネルは俺が倒した。よってこのコロニーは我々が制圧した。繰り返す。このコロニーは我々が制圧した」



~グレートフォックス艦内~
スリッピー「いやぁ、お疲れ様~」
コロニー外部の敵もあらかた降参の意を示し、ひとまず戦いは終結した。
そしてフォックス達は現在、艦内に集まっている。
ファルコ「それにしても今回は早かったな。ま、同じところを攻略するのに時間をかける奴はいねえだろうけどな」
クリスタル「それにしてもフォックス、ウルフはあの後どうなったの?」
フォックスはタブーのエネルギー体――ウルフから拝借したものだ――を手で弄びながら答える。
フォックス「あいつに今回の件について話したら、ちゃんと分かってくれたよ。まあ、後で空中スタジアムに来るように言ったから、きっと来るさ」
オリマー「でも、まだこの戦いは終わったわけじゃないですよね。むしろこれから、と言ったところでしょうか」
ロボット「そうだな。まずはそのエネルギー体をどうにかして処分し、アーカードとも決着をつけないといけないからな」
アーカード、と言う名前を聞いてファルコは渋い顔をする。
ファルコ「アーカードか……。あいつには空中スタジアムでの借しがあるからな。今度会った時にはお返しをしてやるぜ」
ペッピー「そろそろワシらも戻らないといかんな。ナウス、戦士たちの集合場所の空中スタジアムまで全速前進だ!」
ナウス「了解シマシタ」


そしてグレートフォックスもまた、空中スタジアムへと向かっていったのだった。

第17話 The Embodiment of Scarlet Devil

~遺跡~
此処は遺跡である。名前はまだ無い。
ここは、一年前の亜空事件の際にポケモントレーナーとリュカが立ち寄って、ポケモントレーナーがフシギソウとリザードンを仲間にした場所でもある。
その遺跡の入り口に少女が二人いた。
どちらも外見は十代半ばと言ったところだが、片方は紅い巫女服――それには袖が付いておらず、白い袖が別に付いているが――を着ており、もう片方は黒い服に白いエプロンをかけ、黒いとんがり帽子をかぶっており、いかにも「魔法使い」といった雰囲気を出している。
どちらも個性的な恰好であると言えよう。
「まったく……今回の異変が別世界にまで及ぶものだとはね」
そこら辺にあった適当な大きさの岩に座りながら、巫女服の少女(というより巫女そのものだが)がそうぼやく。
その表情はだるそうで、「仕方なくここにいます」的なオーラを出していた。
おまけに目が半分閉じていて、今にも眠ってしまいそうだった。
……今の時間帯が真夜中である以上、無理もないが。
「おいおい、真夜中に異変解決に向かったことは前にもあったじゃないか。気持ちは分かるけど、寝るのは良くないぜ?」
魔法使いの少女が巫女の少女に注意をする。
「私は異変の解決は誰かに頼まれて仕方なく行っているのよ。私は安穏無事に寝て過ごしたいっていうのに……紫も人使いが荒いわね」
紫、という名前が出てきたが、それは戦士たちを禁忌の継承者の居場所へ送り届けている八雲紫と同一人物である。
つまり、この少女たちは紫と知り合いなのだ。
「まあ、異変の解決は私たち人間の義務っていうのが幻想郷のルールだから仕方ないんだぜ?ここが幻想郷じゃない以上、そのルールも怪しいけどな」
二人が先ほどから口にしている『異変』とは、本来ならば彼女たちが住む幻想郷にて起こったり起こらなかったりする天変地異みたいなものの原因を突き止め、それを起こした輩を倒しに行くというものだが、今回は勝手が違った。
幻想郷の住人の一人が“この世界”へとやって来てしまったのだ。
しかもそいつが“この世界”の住民に危害を加える可能性があるというのだからたまったものではない。
本来、幻想郷は強力な結界で外部から隔離されているため、そこから外に出たり、逆に幻想郷の中に入ったりすることはできない。
紫はスキマを操って別世界に行くこともできるが、それは例外の中の例外である。
それではなぜ抜け出すことができたのか。答えは単純。
幻想郷のとある場所に、いつの間にやら亜空間が発生していたのだ。
それが“この世界”と繋がっているため、亜空間に入ってここに来てしまったのだと推測できる。
「しっかし、アイツがこんなことをやらかすなんてな。一体何があったんだ……?」
魔法使いの少女が口にする『アイツ』とは、幻想郷を抜け出してしまった奴のことである。
紫の話によると、どうやらそいつは『禁忌の継承者』とやらになってタブーに洗脳された状態になっており、そのタブーとかいう訳の分からない奴を復活させるために“この世界”へとやって来たのだと言う。
それを未然に防ぐべく、二人は遺跡の前にいるのだった。
禁忌の継承者となってしまった『アイツ』は知り合いだったし、二人いれば十分と思っていたが、
「タブーの能力を得たあの子の力は未知数よ」と言う紫に押し止められてこうしているのだった。
しかし、その後に紫はこう言っていた。
「とりあえず何人かあなた達の所によこすから、その人たちと協力して戦いなさい」と。


「それにしても、そろそろ来ないかしら。暇で暇で……」
巫女の少女はあくびをしかけるが、少し離れた所に裂け目――紫が作り出したものだ――が現れるのを発見して、口を閉じる。
「噂をすれば何とやら、だな」
二人は裂け目へと近付いて行った。



~スキマの中~
紫はほとんどの戦士たちを禁忌の継承者の居場所へ送り届け、ここに残っているのはマスターハンドに紫、そして彼女がリクエストした間接攻撃チームのメンバーであるサムス、ピット、セネリオのみとなった。
ちなみに、正体不明の禁忌の継承者と戦うスネーク達もすでに送り届けられているのだが、彼らのチームのことはまた別のお話にて。


ピット「あの……紫さん。ちょっと質問して良いですか?」
話しかけられた紫は「何かしら?」と返す。
ピット「僕らのチームには紫さんの知り合いが二人加わるんですよね。どんな人なんですか?」
うーん、と紫は人差し指をあごに当てて考える素振りを見せ、「強いて言うならば……」と前置きをしてこう答えた。
紫「いつも勝手でゴーイングマイウェイな巫女と、いつも勝手でたま~になんでも屋をやっている魔法使いよ」
サムス「かえって分かりづらいのだけれど……」
セネリオ「……もう少しまともな説明はできないんですか?」
二人がそう突っ込むが、
紫「まぁ、会ってみればわかるわよ」
と言ってあっさりとスルーしてしまった。

紫「それじゃあ、あなた達が戦う相手のいる場所の近くまでご案な~い」
紫の開いた裂け目の中を通ってスキマから出て行くと、三人の目には二人の少女がこちらに歩み寄ってくるのが見えた。



二人の少女の内、巫女の名前は博麗霊夢、魔法使いの名前は霧雨魔理沙だという。
三人も簡単な自己紹介を済ませた後、紫は
紫「それじゃあ、簡単にこの人たちに稽古をつけてあげてね」
と言ってスキマの中に消えてしまった。
サムス「稽古をつけるって、どういうことなのかしら?」
魔理沙「まあ早い話、私たちが住む幻想郷で行われている独自の戦い方に慣れてもらうってことだぜ」
ピット「そんな!僕たちは早く禁忌の継承者を倒さないといけないっていうのに……」
確かにピットの言うことはもっともである。
タブーの復活を阻止するためにも、禁忌の継承者たちが動き出す前にこちらが打って出ないといけないのだから。
だが、
霊夢「そうは言っても、ロクな知識と技術も無しに戦いを挑んでもあっさりと負けるだけよ。良くて私たちの足手まといにしかならない」
言い方こそ厳しいものの、霊夢のこの言葉もまた真理であった。
なおも何か言おうとするピットだったが、セネリオが押し止める。
セネリオ「……つまり貴方達が教える戦い方とは、これから戦わなければならない相手とやり合う際に有益な物となる。そういう事ですか?」
霊夢「理解が早くて助かるわ。それじゃあ、私たちが普段行っている戦い方について説明するわね。何度も言うのは面倒くさいから、一度聞いたらちゃんと覚えてよ」


霊夢が説明した戦い方とは、要約するとこういった感じだ。
そもそも幻想郷に住む者たちの決闘方法には『スペルカードルール』というものがある。
このルールは早い話、お互いが自分の能力を用いた――代表的なものがレーザーや光弾、変わったものだとナイフや小銭を投げる者もいるという――弾幕を放ち、どちらかの体力が尽きるか、全ての弾幕がかわされるまで続くというものだ。
これから戦いを挑む相手も、当然弾幕を放ってくるという訳だ。まさに遠距離攻撃のエキスパート。
そこで霊夢と魔理沙が教えるのは弾幕の避け方である。
ちなみに、弾幕の出し方についてはサムス、ピット、セネリオの三人にはその能力は無いので、必要無いらしい。(そもそも、この戦い自体がスペルカードルールとは違うので、無理に弾幕を出さずとも普通の攻撃で良いようだ)
霊夢「まあ、絶対にかわせない弾幕というものは無いわ。あなた達だって基本の動きを身につければちゃんと避けられるわよ。それまではちょっと痛い目を見るかもしれないけど」
かくして、博麗霊夢と霧雨魔理沙による『弾幕の避け方講座(実践編)』が始まった。



サムス「ちょっ……かわせない弾幕は無いって……」
本当にそうなのか疑わしい、とサムスとしては思ってしまう。
だって今、霊夢が放つ針と紅白にカラーリングされたボール(陰陽玉と言うらしい)を避けようとしているものの、すでに何回かくらってしまっている。
パワードスーツを装備している上に、霊夢が手加減をしているので怪我は無いが。
霊夢「あなたが着ているそれって結構堅そうだけど、何発も食らっていいものじゃないわ。ちゃんと避けないと」
再び弾幕が放たれる。
サムスは慎重に隙間を抜けていき……ダメだ。
パワードスーツを装備して体格が大きくなっているのが災いして、抜けられるほどの大きさがある場所が無く、針と陰陽玉に包囲された形になっている。
サムス「こうなったら、仕方無いわね」
自分の体を限界まで丸めて小さくする技、モーフボールを使う。
これを使えば、当然弾幕をくらう範囲も狭くなり、かわすのが容易になる。
もっとも、この状態の間は攻撃手段が限定されるので、有効な回避方法とも言い難いが。
霊夢「そんな芸当ができるなんて驚いた……でも、それって攻撃に向いてるようには見えないわね。相手の攻撃をかわしながらこちらも攻撃できるようにしないと」
霊夢もあっさりとその弱点を見抜いてしまった。
サムス「う~ん……確かにそうなのだけれど……」
まだまだ時間はかかりそうである。


ピットは魔理沙が放つ弾幕の相手をしていた。
彼は空が飛べるという利点を生かし、マジックミサイルと呼ばれる三角形の光弾を縦横無尽に飛んでかわしている。
魔理沙「へぇ、やるじゃないか。結構見どころがあるな」
ちなみに、魔理沙も箒に乗って空を飛んでいる。
ピット「まあ、伊達に、パルテナ様の、親衛隊長を、やっているわけじゃないよ!」
光弾がかすりつつも会話をするあたり、まだ余裕があると見て取れる。
魔理沙「それじゃこういうのはどうだ?」
魔理沙はいたずらっぽく笑いながら、懐から六角形の形をした小さい箱のような物体――八卦炉という物だ――を取り出してこう叫んだ。
魔理沙「マスタースパァーーーーク!!」
瞬間、八卦炉から巨大なレーザーが打ち出され、ピットを飲み込む。
レーザーが消えると、ピットはゆっくりと落下していき、着陸した。
目立った外傷は無いが、服の一部が焦げている。
魔理沙「お~い、手加減はしてやったけど、大丈夫か~?」
マスタースパークを放った本人はいまだ空を飛んでいる。
ピット「一応大丈夫だけど、魔理沙さん、今のは一体……?」
魔理沙「まぁ、こういった攻撃方法もあるってことだ。弾幕はパワーだぜ!」
ピット「それはもはや弾幕じゃないよ……」
苦笑……いや、引きつった笑みを浮かべるしかないピットだった。


セネリオは二人の放つ弾幕の観察をしていた。
指導する側の人数が二人で、教えられる側の人数が三人。
マンツーマンで指導が行われているので、一人余る計算になってしまうのだが、二人のうち片方に疲労が見られてきたら余っている人と交代するようにし、常に誰か一人を休憩させながら指導は行われることになっていた。
セネリオは今は休憩している立場にあるのだが、
霊夢「セネリオ、あなたの番よ」
セネリオ「……分かりました」
霊夢の相手をしていたサムスと交代する。
霊夢「準備は良い?それじゃあ行くわよ」
針と陰陽玉の弾幕が放たれる。
……だが、セネリオはすぐに動こうとはしない。
弾幕をぎりぎりまで引き付け、そこから体を少しだけ動かして回避する。
彼は休憩している間、霊夢と魔理沙の放つ弾幕を観察していて、弾幕の動きには一定の法則性があることを発見していた。
それは無闇にばらまくように見えて、実は何かしらの模様を描いていたりする。
後で知ったことだが、弾幕の美しさも実力の内に入るらしい。
ともかく、相手の攻撃パターンを早い段階で理解することが先決だ、とセネリオは考えている。
そうすれば、必要最小限の動きで攻撃をかわしつつ魔法を使って反撃というように、効率の良い戦い方ができるようになるからだ。
霊夢「初見でそこまで避けるなんて大したものね……」
素直に驚きの声を上げる霊夢だったが、
セネリオ「いえ……」
と、短く否定をする。確かに避けることはできるものの、それに集中しすぎて反撃に移ることができない。
これでは禁忌の継承者との戦いで不利である。
弾幕を避けるという行為に慣れていく必要があるだろう。
まだまだ時間はかかりそうである。



数時間後。
魔理沙「よし!これであんたらも禁忌の継承者と戦えるはずだぜ」
三人が弾幕を避けつつ反撃するという技術をある程度は身につけたので、指導は終わった。
わずか数時間でそれだけできるようになるとは、大したものである。
……だが、魔理沙の言葉に応えられるものはいなかった。
三人とも疲労で動けないためだ。
まあ、集中して弾幕を避け続けていたのだから無理も無い話だったが。
もっとも、魔理沙たちだって魔力や霊力を消費しているため、他人のことは言えない状態ではある。
霊夢「……少し休憩した方が良さそうね」



そういう訳で、ようやく遺跡の中へ入ることになった霊夢一行。
これから戦う相手は、最深部にいるようだ。
セネリオ「そう言えばまだ聞いていませんでしたね。僕たちが戦う相手は一体どんな人物なんですか?」
霊夢「吸血鬼よ」
ざわ…と、三人に緊張が走る。
サムスとピットが空中スタジアムで戦ったアーカードと同じ種族である。
そいつも、アーカード並の戦闘能力を持っているのだろうか。
さらに霊夢の言葉は続く。
霊夢「しかもその子は問題児でね……あまりにも強力な力を持っているから495年も地下に幽閉されていたのよ」
サムス「ものすごく危なそうじゃない……」
魔理沙「まあ、私たちはソイツ……フランドール・スカーレットって名前なんだけどな……と知り合いでさ。危険だって言われてるけど意外と話は通じるぜ?私たちがソイツと始めて戦って…いや遊んで以来、ソイツも力の使いどころを間違えなければ大丈夫だということが分かって幽閉から解放されて、ある程度は自由な生活を送っていたんだけどな。それなのに何があってこんなことになっちまったんだ……?」
そう語る魔理沙は沈痛な顔をしていた。
霊夢もどこか複雑な表情をしている。
それだけで、フランドール・スカーレットという吸血鬼は大切な友人であることが伝わってくる。
セネリオ「しかし、その吸血鬼がタブーに洗脳されているならば、本来の力も相まってかなり危険な存在ということになります。知り合いだからと言って、その相手が手加減してくれるとも限りません。そもそも貴方達は戦うためにここへ来たんですよね?……だったら迷わないでください。この戦いで貴方達の力は必要不可欠なんです。少しでもためらいがあったら、こちらの勝率が下がってしまいますから」
本来、セネリオは寡黙だが、時に饒舌になることがある。
自分の立てた作戦を他人に説明する時と、自らの考えを話す時だ。
霊夢「ええ、それくらいは分かっているわ」
魔理沙「確かにそうだな。……でも、最初に話はさせてくれ。ひょっとしたら、もあるかもしれないからな」
五人は遺跡の最深部へ向かう。果たしてそこで待ち受けているものは何か。
――答えは誰も知らない。

第18話 Sweets Time

「へえ、あなた達がわたしの相手なの?」
遺跡の最深部、大きな円形の広間となっている場所にいたのは、外見は十歳になるかどうかという幼い少女だった。
少女の背中からは木の枝を思わせる物が生えていて、それには宝石らしき物体がいくつかぶら下がっている。
……翼なのだろうか。
少女の名はフランドール・スカーレット。
サムス「この子が……!?」
ピット「まだ小さい子じゃないか……」
セネリオ「信じられませんね……」
サムス、ピット、セネリオの三人が対峙する相手が少女であることに唖然とする一方、魔理沙はフランドールに歩み寄って行く。
魔理沙「なあ、フラン。こんな馬鹿げたことはやめにしないか?私たちは好き好んで戦いに来たわけじゃ――ッ!?」
魔理沙の言葉は最後まで続かなかった。
フランドールの掌から彼女めがけて光弾が放たれたからだ。
とっさにそれをかわす魔理沙。光弾は壁に当たり、小さな穴を開ける。
フランドール「残念だけど魔理沙、タブーが遊ばせてくれると言った遊び相手はあなたたちじゃないの。用意された遊び相手は以前にタブーと戦った奴ら。それでも邪魔するって言うなら……」
フランドールが一瞬で魔理沙の目の前まで接近し、悪魔の尻尾を連想させる形をした杖を高々と掲げ、

フランドール「こ わ し ち ゃ う よ?」

振り下ろ――

ドン!!

フランドールの体にミサイルが飛んでいき、爆発が起こった。杖を振り下ろすのに失敗し、後方に飛ぶ。
アームキャノンを向けるサムスと目が合った。
フランドール「あはは、そうこなくっちゃ。じゃないと――」
彼女は両手を真上に上げる。そして掌に光が収束されて行き――
フランドール「遊ぶ甲斐が無いもんねぇっ!!」
弾けるように大量の光弾が放たれた。
霊夢「どうやらやるしか無いみたいね!」
接近してくる光弾を霊夢はかわす。
そして魔理沙やサムス達も同様に避けている。伊達に特訓をしていたわけではない。
弾幕が当たらない様を見て、フランドールは口の両端を持ち上げるようにして笑う。
フランドール「うん、結構楽しめそうだね。じゃあこんなのはどうかな?」
懐から一枚のカード――スペルカードと呼ばれるものだ――を取り出し、こう宣言する。
フランドール「禁忌『クランベリートラップ』」
すると霊夢たちの周囲に二つの魔法陣が出現した。
それは五人を大きく取り囲むように移動し、パララララ、と音を立てながら光弾を放ってくる。
段々と光弾の数は増えて行くが、五人はそれをかわしていく。そして、

霊夢「こっちからも行くわよ!」

針と陰陽玉を放つ霊夢。

ドォン!!

チャージショットを放つサムス。

セネリオ「ウインド!」

セネリオは風魔法を発動させ、複数の風の刃がフランドールのもとへ殺到する。

しかし、彼女は針と陰陽玉を避け、チャージショットと風の刃を杖を一振りすることで薙ぎ払う。
余裕の笑みを浮かべ――

左手の甲を一筋の光が掠めた。
掠った場所からは白い湯気が出て、火傷ができている。
フランドールは光が飛んで来た方に目を向けると、神弓を構えたピットがいた。
ピット「まだまだ!!」
二発目のパルテナアローが放たれる。
フランドールは飛んでくる矢の軌道上を外れるように少しだけ体を動かし――
いや、駄目だ!矢もこちらの動きに合わせて向かってくる!
少しとは言わず、体を大きく動かして飛行する体制を整える。そして急上昇。
しかし、なおも矢は迫ってくる。左右に大きく旋回し、上下の方向に動いても矢の勢いは落ちずに、むしろフランドールとの距離が狭まっていく。
これは彼女の知らないことではあったが、パルテナアローとは矢の軌道を放った者の意思で自在に変更できる技である。そして神弓の所有者であるピットは、亜空事件の後も戦闘の訓練を怠らずにしていたことにより、矢の命中精度を向上させることに成功していたのだ。
フランドール「くっ!」
彼女の左肩に矢が貫通し、痛みで声を漏らす。
だが、即座に左手を握り拳にして感覚があることを確認、腕も動く。……よし。
フランドールはあの光の矢は厄介だ、という考えを持つ。

それなら、面倒そうなあの天使から真っ先に遊んであげよう。

その結論に至り、弾丸を放つ。
自分自身という名の弾丸を。

ピットはフランドールがこちらへ飛んでくるのを確認――否、もう目の前にいる!
一瞬の思考すら許されず、咄嗟に神弓を分離させ近接戦闘のスタイルをとる。
その行動をとった瞬間とフランドールが杖を横に振るったのはほぼ同時だった。

ガキィン!

杖の一撃を左手に持った神弓で受け流すピット。だが、それは想像以上に重く左腕がびりびりと痺れる。一方、
フランドール「さぁ、行くよ?」
彼女はにこやかな笑顔を放ちながら、杖を何度も振るってきた。
振り下ろし。
突き。
横薙ぎ。
横薙ぎ。
振り上げ。
振り下ろし。
横薙ぎ。
突き。
そのラッシュを全て受け流したピットだったが、そのために使われた両腕と神弓は悲鳴を上げており、もう満足に振るうことすらままならない。
そこへ、フランドールは左手に二枚目のスペルカードを持ち、宣言する。
フランドール「禁忌『レーヴァテイン』」
すると彼女の持っていた杖が倍以上に伸び、炎を纏った。
フランドール「らぁあああああああああああああああっ!!」
掛け声と共にそれを全力で振り下ろす。

ガキィン!!

ピット「(くっ……!)」
分離させた神弓で挟み込むようにしてそれを受けるが、もはや限界だ。
神弓とレーヴァテインがぶつかっているところから火花が飛び散る。
しかし、なおも杖を振り下ろすフランドールの力が弱まることは無く、

ザシュッ!!

力で押し切られ、ピットはレーヴァテインを防御しきれずに斬られてしまい、フィギュアとなった。

フランドールはフィギュア化したピットには目もくれず、残りの四人を一瞥する。
フランドール「さあ、どうしたの。まだ一人やられちゃっただけじゃん。ミサイルでも撃ってみて。風で切り刻んでみてよ。スペルカードを使って反撃して見せて。遊びはこれからだよ。HURRY!HURRY HURRY!!HURRY HURRY HU――」
魔理沙「マスタースパァーーーーク!!」
フランドールが喋っている最中に、マスタースパークを魔理沙が放つ。
巨大な光の奔流にフランドールは包まれて行った。
魔理沙「……分かったぜ、フラン。もう私からは何も言わない。おまえを倒して目を覚まさせてやる」
光が消えると、未だに余裕の笑みを浮かべるフランドールがいた。
フランドール「それでこそ魔理沙だよ。……それじゃあ一つ面白いものを見せてあげる」
そう言うと、三枚目のスペルカードを取り出した。
フランドール「禁忌『フォーオブアカインド』」
すると、彼女の体が四つに分身した。
その技を初めて見るサムスとセネリオは驚きの表情を浮かべるが、対して霊夢と魔理沙は冷静だ。
霊夢「過去に私たちに破られた技でどうしようと言うのかしら?」
フランドール「それはね……こうするんだよ」
そう言うと、四つに分身したフランドールの体から更に分身が一つずつ現れ、計八人となった。
これにはさすがの霊夢もうろたえる。
霊夢「なっ……!その技は一体どうしたって言うの!?」
フランドール「これがタブーからもらった能力。さあ、聞かせてよ。私が一つしか知らない歌を」
そう言った瞬間、八人のフランドールから大量の光弾が放たれる。
霊夢「封魔陣!!」
対する霊夢もまたスペルカードを使う。
彼女を中心に衝撃波が放たれ、フランドールの弾幕をかき消す。
だが、尋常ではない量の光弾が再び迫ってくる。
霊夢「何なのよ、これ!」
再び封魔陣を放つが、またしても光弾が放たれてくる。
霊夢「みんな、集まって!」
弾幕を一時的にかき消しても埒が明かないと判断した霊夢は、自分を含めた四人を一か所に集めて結界を張る。
結界は半透明な壁となっていて、光弾が次々とぶつかって消えていくのが分かる。
サムス「これってもう弾幕のレベルじゃないわよね……」
確かに、こちらに殺到してくる光弾の量が最初に放ってきた弾幕やクランベリートラップの比ではないほどに多い。単純に言ってみても、フランドールの必殺技の一つであるフォーオブアカインド――四人に分裂して弾幕を放つ技――を放つ人数が倍に増えたのだから、当然光弾の放たれる量も倍になる。
こうなると、もはや避ける避けないの問題ではない。

絶対不可避。

その五文字が四人の心に重くのしかかり――いや、そうでない者が一人いた。
セネリオ「……魔理沙、もう一度マスタースパークを放つだけの余力は残っていますか?」
突然話題を振られた魔理沙は一瞬うろたえるも、返答する。
魔理沙「えっ、…ああ、あと一発ぐらいなら大丈夫だぜ?」
セネリオ「その技で分身ごとフランドールを攻撃してください」
しかし彼の提案に霊夢は異を唱える。
霊夢「それは無理よ。今は分身たちがばらばらに散っているから例え魔理沙のマスタースパークでも全ての分身を攻撃することはできない。それに結界を張っている中から外へ攻撃することは不可能よ」
セネリオ「結界は一旦解除してください」
霊夢「なっ……!」
だが、セネリオは「話は最後まで聞いてください」と言い、こう続ける。
セネリオ「貴方は結界を解除した後、連続で封魔陣を放って弾幕から皆を守ってください。その間に僕が左翼の分身を、サムスと魔理沙は右翼の分身に攻撃をして一か所に誘導、そして魔理沙がマスタースパークを放ちます」
観念したのか、溜息をついて霊夢はこう言った。
霊夢「……成功する見込みは?」
セネリオ「正直に言って高いとは言えません……しかしこのまま結界を張り続けても事態は好転しない。ならば多少のリスクを負ってでもこちらが仕掛けないといけません」
霊夢「分かった。でも、霊力の消費が激しいからあまり連発はできないわ。できるだけ素早くやってよ」
魔理沙「アイツの目を覚まさせてやれるなら、できる限りのことはするぜ」
サムス「……善処するわ」
セネリオ「……決まりですね」
時間にしてみればおそらく数十秒とかからないであろう。
ほんのわずかな時間でしかないが、少しでも作戦に狂いが生じればこちらの負けは確定する。
そうなるか否か……一人たりとも気は抜けなかった。
そして霊夢が結界を解除する。
セネリオが魔法の詠唱をし、サムスがフランドールの分身の内、最も離れた場所にいる一体に向けてミサイルを放つ。
魔理沙もマジックミサイルを放ち始めた。


セネリオ「ウインド!」
風の刃がフランドールの分身の一体に襲いかかるが、分身はわずかに後方に下がることで回避する。
セネリオ「(……計画通り)」
彼は意識をほんの少しだけ周囲に向ける。
作戦が始まってから十数秒が経過しただろうか。
霊夢がたった今、三度目の封魔陣を放った。
作戦が始まる前に彼女はすでに二回それを放っていたから、合計すると五度目となる。
霊力を消費しているのか、霊夢の顔からは疲労の色が見て取れ、封魔陣を放てるのはあと数回といったところだろう。
一方、サムスと魔理沙はそれぞれの攻撃を当てて群れの右翼にいる分身を中央に追い詰めている。
そちらは問題なさそうだ。
再びセネリオは左翼の分身たちへと意識を戻す。
自分一人だけでそこにいる分身を相手にすることを選んだわけだが、それは己の実力の過信によるものではない。自分の能力を理解した上で、分身の誘導を行うには片方に集中したものをサムスと魔理沙に任せ、もう片方は自分がいれば充分だと判断したのだった。
彼が扱える属性魔法は風、雷、炎の三種類だが、簡単に特徴を説明すると、風は一撃の威力が低い代わりに発動が容易で命中精度が高く、雷はその逆で一撃に重きがおかれ、炎はそれらの中間といったところである。
セネリオは一撃にかけるよりも、手堅く少しずつ攻めていくことを好むため、風魔法をよく扱っている。
そして風魔法は命中精度が高いと先程述べたが、そこがポイントだ。
命中精度が高いということは、言い換えるならば狙った場所にそれを放つのが容易だということだ。
そう、わざと外すことだってできる。
先程フランドールに放ったウインドがかわされたのも、意図的なものだった。
相手に当たるか当たらないかという場所に向けて弱い風の刃を放つ。
すると相手は無意識に攻撃を避けようと後方に下がるという訳だ。
それを利用すれば、ダメージを与えようとして大技を使う必要は無く、必要最小限の魔力消費で相手を誘導させられる。


そして作戦通り、八人のフランドールは一か所に集められていった。
セネリオ「魔理沙、今です!」
彼の言葉を合図に、魔理沙が八卦炉を構える。
魔理沙「行くぜ……マスタースパァーーーーーーーーク!!
八卦炉から放たれる巨大なレーザーが、八人のフランドールが放っていた光弾ごと彼女を飲み込んでいった。
魔理沙が本気で放つ二度目のマスタースパークはフランドールの分身を次々と消していく。


レーザーが消えると、最後の一体――フランドール自身――が地面に落下した。
動き出す気配はない。
霊夢「……やっと終わったわね……」
そう言うと、彼女は地面に両手をつけた。
肩で息をしているあたり、持っている霊力のほとんどを消費してしまったのであろう。
魔理沙「フラン……これで少しは頭を冷やしてくれたか?」
魔理沙は離れた場所に倒れているフランドールに言葉を――独り言に近いものであったが――をかける。


反応は無い。
サムス「ともかく、フィギュア化したピットを元に戻さないと――っ!?」
最後まで言葉は出なかった。
突如、フランドールがむくりと起き上ったからだ。
多量の光と熱を浴びて体のあちこちが火傷を通り越して炭化していたが、その瞳には未だに狂気と呼べる代物が混ざっていた。
どこかおぼつかない手つきで、だが確実にスペルカードを取り出す。
フランドール「秘弾――」

霊夢「!まずい!!」
悲鳴に近い声を上げる。
セネリオ「くっ!」
とっさにセネリオは閉じていた魔道書を開く。
この状況での攻撃は、おそらく相手にとっての切り札。
なぜ相手がフィギュアになってすらいなかったのに、こちらの攻撃が決まったというだけで魔道書を閉じてしまったのだろうか。
一瞬、後悔の念を浮かべたがもう遅い。

フランドール「そして――」

そして閉じた魔道書を開いて詠唱を始めるまでの遅れが致命的なものになっていたのは分かっていた。
それでも諦めるわけにはいかない。
この場で早く反応できたのは鋭い勘を持つ霊夢と、彼女の声に異常な事態を即座に感じ取ったセネリオのみ。

フランドール「誰も――」

だが、霊夢には余力が残っていない。
それならば、フランドールを止められるのは自分しかいない。
今までやったことの無いほどに速い速度で詠唱をし、魔法を完成させる。
セネリオ「ウインド!!」
そして風の刃が放たれ――

フランドール「いなくなるか?」

――しかし、風の刃が届く前にフランドールの姿は消えてしまった。
セネリオ「今のは一体……?」
霊夢「秘弾『そして誰もいなくなるか?』……あの子の切り札よ。一時的にこの世から完全に姿を消して弾幕を放つ技……」
霊夢がそう言い終える頃にはおびただしい量の光弾がこちらに向かって来て……。

第19話 そして誰も・・・?

遺跡の最深部、何も無い空間から一人の少女――フランドール・スカーレットが現れる。
彼女は最後に持っていたスペルカードを使ってこの世から(一時的にだが)姿を消していたのだった。
その間の記憶があまりないので、状況を確認するために辺りを見回す。
彼女の眼に映ったのはフィギュア化した博麗霊夢と霧雨魔理沙、そして名前も知らない『遊び相手』の三人だった。
無理もない。弾幕を避ける技術は付け焼刃程度のものしか持ち合わせていなかったサムスとセネリオはもちろんのこと、その面においては圧倒的な実力を誇る霊夢や魔理沙ですら大技を連発して疲労し、まともな動きができなかったのだ。
そのような状況下で、彼女の切り札を避けられる者などいなかった。

♪林檎と蜂蜜 紅茶のジャムはアプリコット

知らず知らずの内に、フランドールは歌を歌いだしていた。
地下に幽閉されていた間、誰かに教えてもらったわけではないが、気まぐれに歌っていたものだ。

♪銀色のティースプーン 壁に放り投げた

そして彼女は近くにあったピットのフィギュアへと向かっていき、右手を向ける。

♪早く遊ぼうよ 人形は何にも喋らない

すべての物体には力を加えると簡単に壊すことができる『目』――急所のようなものだ――があり、そこを攻撃すればどんなものであろうと簡単に壊すことができる。
フランドールの持つ『ありとあらゆるものを破壊する程度の能力』とは、その目を自分の手の中に持ってくることができて、それを握り潰すことで対象の物体を破壊することができるというものだ。
彼女が行おうとしているのは、フィギュアの破壊。

♪一つしか知らない 歌を歌ってみるの

フィギュアにある『目』を自分の手の中に持って行き、握り――

だがそうする前に、フランドールは何か胸のあたりに軽い衝撃を感じた。
それが何か分からぬまま、彼女の意識は暗闇の中へと放り投げられていった……。


「間に合ったわね……」
そう言ったのは、この場につい先ほど駆け付けた少女だ。
フランドールと似た顔立ちをしているが、彼女の薄い金色の髪とは違い、こちらは青い髪をしている。
レミリア・スカーレットというこの少女は、つい先日、妹であるフランドールが幻想郷から出て“この世界”へ行こうとするのを止めようとして怪我をしてしまったのだが、やはり妹の不祥事に居ても立っても居られないということで“この世界”に来て、ここへやって来たのだった。
そして来てみればフランドールが自らの能力を使おうとしていたので、咄嗟に紅い光を放つ槍――スピア・ザ・グング二ルを彼女の心臓めがけて投げ、フィギュアにさせたのだった。
「咲夜、みんなのフィギュア化を解除させてあげて。……フランもね」
レミリアは、背後に控えるように立っているメイドに命じた。



魔理沙「う~ん……」
フィギュア化を解除された魔理沙が目を覚ます。
体を起してみると、顔見知りのメイド――十六夜咲夜が目の前にいた。
魔理沙「咲夜、あんたも来てたのか?」
咲夜「ええ。お嬢様と一緒にね。私達が来た時にはあなた達が全滅してたけど」
その言葉を聞き、
魔理沙「ハハ……、そいつはカッコ悪いトコを見せちまったな」
乾いた笑い声をあげる魔理沙だった。
周囲を見回してみると、すでに他の皆は元に戻っていた。
パッと見では全員無事らしい。
そして部屋の隅――部屋と言うにはここは広すぎるのだが――にレミリアとフランドールが互いに正面を向かい合って座っているのが目に入った。
レミリア「ごめんねフラン、私があなたのことをもう少し考えていてあげられていたら……」
フランドール「ううん、お姉様。こちらこそごめんなさい……。操られていたからって攻撃しちゃって……」
レミリア「もういいのよ。これからはできる限り紅魔館の中だけじゃなくて外にも出してあげる。なるべく自由は効かせるようにするわ」
フランドール「お姉様っ…!」
途中からは嗚咽となって聞こえなくなったが、問題は解決したようだ。
それを遠巻きに見る魔理沙に、霊夢が近付いてきて小声で話しかける。
霊夢「助けに来られたのは不本意だけど、ひとまず問題が解決したのはよかったわ」
魔理沙「ああ。そうだな……ところで、お前が持ってるソレって何なんだ?」
彼女の目は、霊夢が持っている小さな青い球体に釘付けになる。
霊夢「これがタブーのエネルギー体。レミリアがフランドールをフィギュアにした時に出てきたらしいの。今のところはこれに害は無いようだから、私が持っているわけ」
さて、こうして一つの戦いは終わりを迎えたのだった。
後は……
霊夢「……って、実は私たち、紫にはフランドールを止めに行くことしか聞かされてなかったのよね。これからどうすればいいの?」
レミリア「私も同じようなものよ」
ピット「そうだね。マスターハンドは禁忌の継承者を倒した後、空中スタジアムに来いって言ってたから、そこへ行った方がいいと思う」
魔理沙「決まりだな。まあ、どこにあるのかよくわかんないから、道案内は頼むぜ」


こうして、霊夢たち五人は新たにレミリア、咲夜、そしてフランドールを加え、空中スタジアムへと向かって行った。
そしてこれから話すのは八人がそこへ向かう少し前のお話。
興味があるならこのままどうぞ、そうでなければスルーしても問題はありません……。



「セネリオ……起きなさい。セネリオや……」
僕を呼ぶ声が聞こえる。
聞き覚えの無い男の声だけど、どこか安心させてくれるような声で……。
それに導かれるように少しずつ目を開けてみると……。







オッサンがいた。
タンクトップにジーパンというラフな服装で、グラサンをかけていて、右手に訳の分からないリモコンのようなものを持っている。
おまけにスキンヘッドだ。
まさかこんな奴が僕の名前を呼んでいたのか……?
嫌な予感を感じつつも、尋ねてみる。
セネリオ「……何ですか?貴方は」
すると、オッサンはキュピーンと目を輝かせ、ゴゴゴゴとかよく分からない効果音を立てながら(ジ○ジョとかで緊迫感を演出するためによく使われるアレだろうか。コイツにそんな風格は全然無いけど)こう名乗った。
「私は君の魔道書、ウインドの精ですウインド。裸の大将ではないウインド
セネリオ「ウインド」
即座に風魔法を発動させる。
こんなふざけた奴が僕の魔道書の精霊?冗談じゃない。
だけど、意外にもウインドの精と名乗った奴はビビりながらも風の刃を避けて、話し続けた。
ウインド「やッやめッやめたまえッウインド!話を聞け!!聞いてくださいウインド!!」
セネリオ「ここはどこなんですか?僕は帰ります」
悪いけど、子供の落書きのようなビルが並び立っていて、空にはブリブリと不愉快な音を立てながらヘリが飛んでいるようなこんな世界とは早くおさらばしたい。
だけど、ウインドの精はフッフッフと不敵に笑って、またゴゴゴゴとか効果音を立てながらこんなことを言った。
ウインド「ここはこの私ウインドの精空間、『ウインド空間』なのでウインド。おまえはもうここから出られないんだウインド」
セネリオ「な…ッ!?」
驚く僕を尻目に、なおもオッサンは話し続ける。
ウインド「おまえはこれからレクスカリバーを片手に女神の塔に殴りこんで、金ピカの鎧を着た兵士を相手に華麗に攻撃を避けてたまに陽光を発動して敵のHPをチューチュー吸ったり、後半ではブリザードを無限に使えるようにして誰も寄せ付けないようにして戦ったりと八面六臂の大活躍を見せてFE暁クリア後の戦績で一位をもぎ取るのだウインd」
ドキューン!!
突如、銃声が上がった。
ウインドの精は脳天を撃たれてお陀仏している。
「三分間待ってやる!!」
声のした方を向くと拳銃を持ったメガネの男が高圧的な態度を示しながら立っていた。
「あぁ…目が、目がぁ~!!」
だが急に顔面を両手で覆って倒れてしまった。
「勝った。計画通り……」
男の背後には黒いノートを持った青年が。
何やら彼の背後には死神らしき奴がいる。
「お前ら人間じゃねぇ!!」
別の角度からまたもや声がする。……訳が分からない。というか帰ってほしい。
「やあ、僕は富竹。フリーのカメラマンさ」
「粉砕!玉砕!大喝采!」

セネリオ「……帰ってください」
「ゆっくりしていってね!!!」
「ランランルー!!」
「WAWAWA忘れ物~」
「びゃあ゛ぁ゛゛ぁうまひぃ゛ぃぃ゛ぃ゛」

セネリオ「帰ってください!!」



ガバッ、とセネリオは上体を起こす。
「あら、見張りの交代の時間にはまだ早いわよ?」
そんな声が聞こえてきた。
はっきりとしない思考の中、先程の声が誰なのかを反芻する。
この声は…そう…僕たちが戦ったフランドール・スカーレットの姉、レミリア・スカーレットのものだ……。
それで……何をしていたんだろうか……。
ゆっくりと周りを見渡して、状況を整理しようとする。
薄暗い場所……そう、遺跡の中だった。ここで寝ていたのだ。
今は、セネリオとレミリア、そして彼女の従者である十六夜咲夜しか起きておらず、他の皆は眠っている。起きている者、眠っている者全員がたき火代わりとなっているミニ八卦炉(魔理沙の持ち物である)を取り囲むようにいた。
そこまで確認して、自分たちが何でこうしているのかを思い出した。
フランドールとの戦いの後、空中スタジアムへ行こうと決めたのは良いが、どうやら時刻はとうに朝になっていたようだった。
吸血鬼は太陽の光というものが苦手らしい。
レミリアやフランドールは、日傘を差していれば問題無く活動できるようだが、
先程の激戦によって疲労したフランドールに日の光が当たる中を歩かせるのは心配だというレミリアの判断により、ひとまず遺跡の中で日光が弱くなる夕方まで待機し、それから空中スタジアムに行くということになったのだ。
そのついでに、セネリオ達も夕方までの間、休憩ということで睡眠をとることにしたのだった。
ただ、ここはタブーがやられた後もしばらくは亜空軍の兵士たちが出没していたという。
さすがに一年も経てばいなくなるだろうし、遺跡の中へ入って行った時にもフランドール以外には遭遇しなかったのだが、念のために見張りは付けておこうということで、サムスとピット、霊夢と魔理沙、レミリアと咲夜、そしてセネリオが交代で見張りをして他の皆が寝ているのだ(フランドールはタブーに操られていたことと先の戦いによる疲労が激しいため除外)。
それで、レミリアと咲夜が見張りをやっているということは、次の見張りがセネリオだということだ。
そこまで考えをまとめて、ようやくレミリアに返事をする。
セネリオ「何やら変な夢を見て……目が覚めてしまいました」
周りの状況を考えている内に、すっかり意識は覚醒してしまった。
というかあんなものを見た後では、とてもじゃないが再び寝る気にはなれない。
どうやら、あと数十分で見張りを交代するところだったらしいので、セネリオはそのまま起きていることを決めた。
彼女らは、たき火代わりとなっているミニ八卦炉(これはただ単に大量の光と熱を発生させるだけのものではなく、火力を調整して燃料の代わりにすることもできる代物らしい)を利用して紅茶を沸かしていた。
“この世界”に来る前にそんなものを持って来たのかという疑問はあるが、ややこしくなりそうなので突っ込まないでおく。
レミリア「紅茶でも飲む?頭が冴えるわよ」
そんなことを言ってきたので、「お願いします」と返すと、その瞬間に彼の目の前に紅茶が注がれたカップが置かれていた。
セネリオ「……どういう事ですか?」
あまりにも突然だったので理解できない。
レミリア「私のメイドの咲夜はね、時間を止めることができるのよ」
まるで宝物を見せるような嬉しそうな表情でそう言った。
セネリオ「それで、咲夜…さんが時間を止めてカップに紅茶を注いで、僕に手渡した、と」
何という能力の無駄遣い。
ただ、紅茶をもらったことは事実なので、「有難うございます」と咲夜にお礼は言っておく。
ちなみに、咲夜のことをさん付けで呼んだ理由は、よく分からない。
本来なら年長者が(少なくとも外見上はセネリオより咲夜の方が年上に見える。だが、こういうことを女性に言うのは死亡フラグであると分かっているので、あえて黙っておく)相手であろうとセネリオは呼び捨てにするのだが、そうすることがためらわれるような感じがした。
強いて理由を挙げるとすれば、雰囲気だろうか。
どうやらこのメイド、「完全で瀟洒な従者」と呼ばれているらしく、ただ休憩している今の状態でも隙が無いというのか、二つ名の通りに完璧なものを感じさせている。
だからこちらが敬意を持って相手をしなければならないと思わせてしまうのだろうか。
これ以上考えてもしょうがないので、渡された紅茶を飲む。
そして飲んだそれは……どことなく甘ったるい感じがした。
まさか咲夜はレミリアの味覚に合わせた紅茶を作っているのか?
主の好みのものを作り続けている内に、無意識にそういうものを作ってしまうようになったのだろうか。
そんなくだらないことを考えている内に、レミリアがこちらに話題を振ってきた。
レミリア「そう言えば、空中スタジアムで貴方のような“この世界”の戦士たちが吸血鬼と戦ったと聞いたけれど、詳しく教えてもらえないかしら?」
吸血鬼、と聞いて思い出すのはアーカード。セネリオ自身はあいつと直接戦ったわけではないので、本来なら一戦交えたサムスやピットが教えるのが一番なのかもしれないが、残念ながら今は二人とも寝ている。
起こすわけにもいかないので、仕方なく話すことにした。
セネリオ「僕はその吸血鬼を一目見ただけなので詳しいことは言えないですが……」

セネリオがアーカードの姿を確認したのはほんの一瞬だけ。だが、その一瞬に彼と目が合った時には思わず体が震えてしまった。
恐怖、だろうか。あそこまで圧倒的な存在感を放っていたのはセネリオの記憶の中にある限りではデイン王国の狂王、アシュナードくらいしか知らない。
そして、アーカードの瞳には狂王が持っていた雰囲気に近いものが感じられた。
あいつの眼は戦いを好む戦争狂(ウォーモンガー)の眼だった。
戦いの中に喜びを見出し……否、戦いのために生きていると言っても過言ではない。
セネリオは、そういう人種が一番厄介な相手だと考えている。
戦いによって殺され、打ち倒され、朽ち果たされるのを恐れないからだ。
人間は傷ついて痛みを感じたり、そうなることを恐れて戦意を喪失する場合が多いのだが、戦争狂はそのような感情など何処かに置き忘れて来たかのように自らの最後の瞬間まで相手を殺し、打ち倒し、朽ち果たしに全力で行くのだ。
デインの狂王も、祖国を奪還せんとするクリミア軍の攻撃を前にして、逃げる機会があったにも拘わらず、自らその機会を捨てて戦地に赴いていき、そして死んだ。
そしてアーカードも、漠然とではあるがそのような生き方をするのではないのかと思った。
そこまで言ったところで、レミリアが口を開く。
レミリア「吸血鬼アーカード……ブラム・ストーカーかしら……へぇ……」
セネリオ「心当たりでもあるんですか?」
意味深な笑みを浮かべたので質問をする。
レミリア「かつて私たちが住んでいた世界には伝説として語り継がれている吸血鬼がいてね……。五百年前にオスマン帝国に一人で戦いを挑み、百年前に一人でロンドンに攻め入ったの。その男の名前はヴラド・ツェペシュ……そして、別の名前も持っていたわ」


レミリアが一息ついたことで、一瞬ではあるが、静寂に包まれた。言いようのない緊張感が漂う。
レミリア「アーカード、という名前をね」
どうやらタブーはとんでもない男を味方につけたようだ。
一国を相手に一人で戦うなんて、狂王でもそんなことはやらない。
アーカードという男は度し難い……本当に度し難い戦争狂だ。
レミリア「まさかこんな所でその名前を聞くことになるとはね。……フフ、これは会うのが楽しみになってきたわ」
そのように語る目の前の少女……もとい、五百年以上の時を生きている吸血鬼は子供らしさを感じさせない不敵な笑みを浮かべた。
そこへ割り込んでくる者が一人。二人の話を黙って聞いていた咲夜だ。
咲夜「お嬢様、そろそろ見張りの交代の時間です。とりあえずそのお話はまた後にして、今はお休みになりましょう」
レミリア「……仕方ないわね。それじゃ、見張りは頼んだわよ、セネリオ」
そう言うやいなや、横になってしまった。……もう寝息が聞こえてくる。どれだけ睡眠に入るのが早いのだろうか。
一方、咲夜も横になり、寝る体勢を整え始めていた。
咲夜「それではお先に……」
セネリオ「分かりました」


これで、起きているのはセネリオ一人になってしまった。
時刻は既に昼を過ぎており(ここが薄暗い遺跡の中である以上、実感は湧かないが)、出発予定の時間まであと数時間といったところだ。
ふと、アーカードについてもう一度考えてみる。
レミリアが言うには、あの男は伝説の吸血鬼だという。
吸血鬼という種族と戦ったどころか見たことも無いセネリオにとっては、フランドールとの戦いが、初めての吸血鬼との戦闘だったということになる。
その一戦で、彼は吸血鬼がどれほど力強く、打たれ強いかを把握した。
弾幕の技術は別問題としても、フランドールがピットに接近戦をしかけた時に見せた一方的な展開は脳裏に焼き付いている。
細腕の少女が、自分の背丈以上の長さを誇る炎を纏った杖を振り下ろす姿には、戦慄を覚えた。
そして頑強さ。フランドールと戦ったメンバーの中で、最も強力な攻撃を放てたのはマスタースパークを持った魔理沙だった。しかし、そのマスタースパークを二度も食らってもなお、彼女を倒しきることはできなかった。
同じ吸血鬼だというならば、アーカードもそれ以上の腕力、そして打たれ強さを持っているに違いあるまい。
だが、アーカードとの戦いにおいて全く希望が無いわけではない。
こちらにもレミリア・スカーレット、そしてフランドール・スカーレットという吸血鬼がいるのだ。
フランドールの方は、レミリアが常に心配をかけていることを考えると、彼女は戦わせないようにするかもしれない。しかし、レミリアだけでもこちらと共に戦ってくれるというのならば、非常に心強い。
そして自分自身は、軍師として勝率を上げるための行動を模索し、提示していかなければならないだろう。
出発まであと数時間。一人黙々と考えるセネリオであった。

第20話 UHO

アーアーアローアロー聞こえますかー?読者の皆様コンニチワーーッアローーッ
僕様チャンの名前はワルイージでーす。えー、この小説は全年齢向けでいかがわしいところなど一切ゴザイマセーン。ゆっくり読んでいってね!!!

ワリオ「よう、兄弟。一体何をやってるんだ?」
ワルイージ「これはこれは兄貴、なんたってオレサマの久々の出番だから張り切っちゃってさ。読者の皆様にアッピールしていたところなんだZE☆」
ワリオ「ガハハハハ!!そうかそうか。しかも『ゆっくり読んでいってね』だなんてちゃんと気遣いができてるじゃないか!良いことしたな!」


ガハハハハ、とワリオさんがまた大笑いをしているのを見て、僕――ポケモントレーナーことレッドは思わずため息をついてしまいます。
ワリオさん、ワルイージさん、ファルコンさん、スネークさんと何で周りの人たちがオッサn…もとい年長者たちの中で、少年である僕がここにいるのでしょうか。ひょっとして、『こういう構図が面白そうだから』という理由で年長者たちの中に少年一人というチームを作ったのではないかと、作者に対して良からぬ疑いを持ってしまいそうです。
ふと、誰かが僕の肩を後ろからポンポンと叩いています。
振り返ってみると、そこにいたのはスネークさんでした。
スネーク「レッド、ちょっと悪いがトイレに行ってくる」
「分かりました」と僕は言って、スネークさんを見送ります。
あ、言い忘れてましたけど、僕たちが今いる場所は戦場の砦……一年前にマルスさんが亜空軍と戦った砦の中です。



と言う訳でこの俺、ソリッド・スネークはトイレを探して歩いていた。
緊張感が足りないと思うかもしれないが、傭兵たるもの常に万全の状態で戦えるように気を配らなければならない。
砦にトイレなんてあるのか、と一瞬思ったが、まあそれぐらいの設備はあってもいいだろう。
ほら、「WC」と書かれた部屋が見えてきた。
ついでに言うと、入口の近くにはベンチがあって、無駄に気の利いた作りになっている。
それに座っている男を横目に見ながらトイレに入ろうとし――待て、男だと!?
こいつ、微妙にマッチョで不自然なくらい目が澄んでいる。
それくらいだったら別にどうってことは無いが、こんな場所に一般人がいるとは思えない。
いや、例えここじゃなくて普通の公衆トイレでコイツを見かけても何かヤバそうな気がする。理由は分からないが、早い話、「胡散臭い」のだ。
そうこう考えている内に、目の前の男は自らが着ている青いツナギのホックを下ろしながらこう言った。
「戦闘(や)らないか」



「アッーーーーーーーーーーーーーーー!!!」
どこからかスネークの悲鳴が聞こえてきた。
ファルコン「レッド、あいつはどこにいるんだ!?」
レッド「えっと、トイレです!」
ファルコン「よし、行くぞ!ワリオ、ワルイージも付いて来い!」
そう言うやいなや、バビュンと言う効果音が似合いそうなくらい目にも止まらぬ速さで走って行った。
ワルイージ「ちょww速すぎww」
ワリオ「待てえええ!!」
レッド「……何だか疲れてきた……」
残された三人も後を追いかける。


スネーク「くっ、離せ!」
「嫌だね。俺は一度狙った相手は逃がさないのさ」
青いツナギを着た男が――何故か胸元を肌蹴ているけど、そこはあえてスルーしておこう――スネークにコブラツイストをかけていた。
本来曲がらない方向へ関節を動かされて苦痛の表情を浮かべるスネーク。
そこで問題だ。この関節技をどうやって切り抜けるか?
三択―ひとつだけ選びなさい。
①ダンディのスネークは突如反撃のアイデアがひらめく。
②仲間が来て助けてくれる。
③助からない。現実は非情である。
スネーク「(俺がマルをつけたいのは2番だが期待はできない……アメコミみたいにジャジャーンと登場して「待ってました!」と間一髪助けるなんて考えにくい……)」
これは一番しか無いようだとか考えていたところで、期待していたアメコミばりの展開がやってきた。
「ん、あいつは誰だ?」
ファルコン「FALCOOOOOOOOOOOOOOOOON…………PAAAAAAAAAAAAANCH!!」
「ぐわぁっ!」
ファルコンが目にも止まらぬスピードで走って来て、途中でジャンプ。そして飛ぶ勢いを利用し、ファルコンパンチを青い作業着の男にお見舞いして吹き飛ばした。
……スネークを巻き込んで。
スネーク「おい、ファルコン!俺まで巻き込むな!」
ファルコン「む、それはすまなかった。だがああするしか無かったんだ、大目に見てくれ」
まあ助けてもらったのは事実なので――手加減は一応していたのか、鷹の形をした炎は出ていなかったし――さっさと作業着の男から離れてファルコンのもとへ走っていく。
そうしている内に、ワリオとレッドもやってきた。
レッド「スネークさん、あの男って一体……!?」
その質問に答えたのは、ツナギの男だった。
「フフフ……俺の名前は阿部高和。ただの自動車修理工さ」
ファルコン「そうか。じゃあ阿部よ。一つ訊きたいが、お前は『禁忌の継承者』か?」
だが、阿部はきょとんとした顔でこう答えた。
阿部「……何を言ってるんだかよく分からないな。俺は“この世界”にはイイ男どもがたくさんいて、そいつらと戦闘(や)れるという噂を聞いてやってきただけさ。それにしてもお前ら、イイ男じゃねえか」
ジュルッとよだれを飲み込む音が聞こえたような気がするが、気のせいだ多分。
……まあ、そうであってもなくても阿部が放つ怪しい雰囲気にスネーク達は悪寒を感じてしまう。
まだ阿部の話は続く。
阿部「さて、これだけの人数を相手にするのは骨が折れそうだ。ここはいっちょ、本気を出すしかないようだな。見せてやるよ、俺のブツを」
そう言って胸元まで開けていたツナギのホックを腹、そして下腹部にあたる場所まで一気に下ろしていって――

バコッ!!

阿部「へぇあ」
小気味良い音が響いて、阿部は気絶してしまった。
ワルイージ「おいおい、全年齢向けの小説で何やってんだオンドレは~?」
右手にはテニスラケットを持っている。
そういえばコイツはこの場に来ていないと思っていたが、いつの間にか阿部の後ろに回り込んでいたらしい。
これ以上阿部が戦おうとすると色々な意味でヤバかったと思われるので、それを止めてくれたワルイージには感謝である。
レッド「え~と、どうします?この人……」
ワリオ「どっかに縛りつけて置いてこうぜ」
と言う訳で、近くの柱に阿部をロープでぐるぐるに縛って放っておくことにした(ロープは砦の中にあったものを拝借した)。



砦の一室、ちょうど広間になっている場所にて、五人――いや、ワリオとワルイージは好き勝手に話をしているから実質三人か――が話をしていた。
レッド「それにしても変ですよね……紫さんが言うにはここに禁忌の継承者がいるはずなのに、誰もいないだなんて」
ファルコン「強いて挙げるとすれば、あの阿部という男ぐらいか」
スネーク「いや、あいつの名前は出さないでくれ。あまり思い出したくない……」
青い顔をしているが、スネークにとってあの男との戦いはトラウマになってしまったようだ。
ファルコン「そうか。しかし、あいつは『禁忌の継承者』ではなかったようだな。では
私たちがここで戦うべき相手とは一体……?」

カッ

足音が聞こえてきた。
この場にいる全員は話すのをやめ、息をひそめる。

カッ

やはり聞き間違いではないようだ。
スネーク「噂をすれば、ってやつか?」

カッ
カッ

足音は上の階へ続く階段の奥から聞こえる。

カッ
カッ
カッ

段々と音は大きくなってくる。

カッ
カッ
カッ
カッ

その音を立てる足が、階段の奥に続く暗闇の中から現れる。

カッ
カッ
カッ
カッ
カッ

そして足から足首、ふくらはぎ、太腿、腰、と少しずつその姿を見せて行く。
コートでも着ているのか、両足の周りを黒い布が漂っているように見える。

カッ
カッ
カッ
カッ
カッ
カッ

やがて足音の主がスネーク達の前に全身を現した。
「良い月だな、異教徒ども」
姿を現したのは大男だった。
くすんだ金髪は短く刈り上げられており、黒尽くめの服装で首からは小さな十字架をぶら下げている。
神父、という出で立ちだが、男がかけている丸眼鏡の奥にある瞳からは、一般人が持ち得ないもの――狂気という光が見え隠れしている。
そして何より異質なのは、両方の手に巨大なナイフのようなものを一振りずつ持っていることだった。
スネーク「最初からやる気満々って面だな。何者だ?」
「下らん。異教徒どもに名乗る名前など無い」
質問を男は一蹴するが、すぐさまこう続けた。
「……と言いたいところだが、せめてもの手向けに教えてやろう」
そして二ィィ、と虫唾が走るような笑みを浮かべる。
「我が名はアレクサンド・アンデルセン。熱心党(イスカリオテ)のユダなり」

第21話 そうあれかしと叫んで斬れば世界はするりと片付き申す

ワリオ「イスカリオテだか何だか知らねえが、お前が『禁忌の継承者』だな?」
普段はガハハハ、と笑い声をあげているワリオがいつになく真面目な口調で質問をする。
さすがに事の重大さが分かっているのだろう。
アンデルセン「……そういうことだ、異教徒ども。貴様らはこの俺が斬る」
ワルイージ「ちょっと聞きたいんですがね。オレサマは基本的に無信仰なんで異教徒呼ばわりされても困るんですけどww」
いきなり割り込んできて、おどけた口調で話すワルイージ。……ちょっと空気が読めていない。
しかし、律儀にもアンデルセンは「ほう……」と言い、ずれた眼鏡をかけなおしながら彼の言葉に応える。
アンデルセン「ということは、無神論者か。哀れなことだ。今どき神も信じない奴がいるとはな」
ワルイージ「結局それかよ (^^;
ファルコン「まあ、避けては通れない道ということか」
ファルコンは体に力をためる。すると、炎のような赤いオーラが彼の体を包んだ。準備はできたようだ。
スネーク「ショータイムの始まりだな」
オーラこそ出ないが、スネークもファイティングポーズをとる。
レッド「行けっ、フシギソウ!」
モンスターボールが投げられて、フシギソウが出てくる。
ワリオとワルイージも一応気は引き締めておく。

アンデルセン「我らは神の代理人、神罰の地上代行者。我らが使命は我が神に逆らう愚者をその肉の最後の一片までも絶滅すること。……Amen!!
法皇庁第13課の神父は二振りの巨大なナイフ――銃剣――を十字に交差させて、そう言う。
アンデルセン「……参る」
先程のポーズから両腕を交差させる構えに変更し、走り出す――否、もう走っている!
アンデルセンの最初の標的はキャプテン・ファルコン。
両者の距離はあっという間に縮まり、左右の銃剣を横に薙ぎ払い、挟み込むような斬撃を仕掛ける。
ファルコンはバックステップで刃が届かなくなるぎりぎりの距離だけ飛んでそれをかわすが、アンデルセンはそこから一歩踏み込んで、銃剣を縦に振り下ろす。
ファルコンはそれを身体を左に捻ることで回避。戦士たちの中でもトップクラスのスピードを持つ彼にかかれば、攻撃を避けることは難しくない。
そして、身を捻った勢いを利用してアンデルセンの背後に回り込む……チャンスだ。
ファルコン「ファルコン…」
こちらを振り向く男の顔が眼に映るが、もう遅い。
ファルコン「パンチ!!」
先程手加減して阿部に放ったものではない、拳に鷹の形の炎を纏った全力の彼の必殺技はアンデルセンの顔面にクリーンヒット。そのまま吹き飛ばしていった。
しかし、アンデルセンは吹き飛ばされて床に叩きつけられたと思った瞬間に起き上がり、お返しとばかりに銃剣を二本投げてきた。
レッド「フシギソウ、葉っぱカッターだ!」
フシギソウ「了解!」
レッドが指示をして、フシギソウが葉の刃を放つ。
それは銃剣を撃ち落とし――

フシギソウとファルコンの体が宙に少しだけ浮かんだ。
否、前足や腕を掴まれているのだ。他ならぬアンデルセンによって。
吹き飛ばされていた彼がなぜ一人と一匹を両手に掴むことができたのか。
答えは単純だ。……余りにも単純すぎて、その答えに辿り着くのがかえって困難なくらいに。
銃剣を投げた瞬間に、それを追いかけるようにして走っていたのだ。銃剣に気を取られている隙に相手を掴む。
実はこの戦法、アンデルセンがアーカードと初めて戦った際にも使ったもので、彼は走りながら長身痩躯のアーカードの腕を片手で掴み、そのまま勢いを殺さずに走り続けることができたのだ。アンデルセンの腕力と脚力は半端なものではない。だからこそ、投げた銃剣を追いかけるなんて芸当ができるのだが。
その時と同じように、アンデルセンはフシギソウとファルコンを掴んだまま走り、

ドンッ!!

その勢いを利用して壁に叩き付けた。
フシギソウ「グ…ッ…」
ファルコン「ガ…ハッ…」
一人と一匹は背中から勢いよく叩きつけられたことで、痛みに呻き声を上げる。
……そして当然、隙だってできる。
アンデルセンは両者を壁に叩きつける直前に手を放し、数歩後退。
シィィィィィィ、と口から空気が漏れるような音を出しながら、袖の中から何本もの銃剣を取り出し、投げる。投げる。投げる。
それらは全て狙いあまたずファルコンとフシギソウを貫き……フィギュアとなった。
アンデルセン「ゲァハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!」
レッド「くっ……戻れ、フシギソウ」
アンデルセンは背を反らせながら高笑いをし、レッドはフシギソウをモンスターボールに戻す。
アンデルセン「この程度の実力で我が宿敵を倒すだとぉ!?まるでお話にならない!!」

コロンッ、コロンッ

アンデルセンの足元に何か丸い物が落ち、

ボンッ!!

スネーク「それを言うのはまだ早いんじゃないか?」
スネークは手榴弾を投げたのだった。
アンデルセン「ク、クカカカカ……そうだな。まだ戦いは始まったばかり。結論を出すには早いか」
そう言っている間に、先程のファルコンパンチと手榴弾の爆風を受けて顔にできた火傷が、ジュウジュウと音を立てながら治ってきていた。
ワリオ「何だよ、それって……」
驚きの表情を浮かべながら質問をするワリオ。
アンデルセン「生物工学の粋を凝らした自己再生能力、そして回復法術……人類が化け物と戦うために作りだされた技術だ」
ワルイージ「いやアンタの方が化け物じみてるけどな(ボソッ」
この言葉には、アンデルセン以外の全員が賛同したことだろう。
スネーク「ともかく、俺たちの番(ターン)だ」
スネークはリモコンミサイルを取り出し、それを撃つ。
アンデルセン「遅い!」
しかし、アンデルセンは走ってそれをかわし、一気にスネークの所まで接近していく。
元々リモコンミサイルは正確にミサイルを遠隔操作できるのだが、それの代償として弾速はかなり遅くなっている。正面から撃てば、避けられるのは当然。
アンデルセンは銃剣で斬――
ドカッ、と彼の鳩尾に何かがぶつかった。
レッド「ゼニガメ、そのまま追撃だ!」
アンデルセンの鳩尾にぶつかったもの――ゼニガメは主の指示を受け、体を回転させて尻尾を叩き込む。
同じ箇所に二度も攻撃を受け、グハッ、とアンデルセンは一瞬うずくまってしまう。

戦いの流れは、戦士たちに向かいつつあった。

そこへ、今度はワルイージが接近する。
ワルイージ「行くぜ」
ワルイージはアンデルセンの体に密着し、自らの体を独楽のように回転させる。
次第に回転速度は速くなり、巨体のアンデルセンを浮かび上げ、そして吹き飛ばした。
それは、さながら竜巻のよう。
ワルイージ「ワルイージハリケーン!…決まった(グッ」
浮かび上がったアンデルセンに対し、今度はワリオが追撃を仕掛けるためにジャンプする。
ワリオ「これでもくらえ!」
飛び蹴り――脚の短さから、『とんそくキック』なんて不名誉な名前がコッソリ付けられているのだが、本人は知らない――をくらわせようとする。
アンデルセン「舐ぁめぇるぅなぁ!」
アンデルセンは右手の銃剣で突きを放つ。それはワリオの左肩を掠め、切り裂いていく。
しかしワリオの飛ぶ勢いは止まらずに、飛び蹴りがアンデルセンの胸に当たる。
結果的に相打ちとなった。
しかし、互いが地面に着地する瞬間、
スネーク「そこだ」

ボン!!

アンデルセンの体が爆発した。文字通り零距離で爆発をくらったことで、怯んでしまう。
スネーク「ワリオ、下がってろ!」
そして、スネークはロケットランチャーを取り出す。
スネーク「……これで決めるぞ」
生身の人間が扱える中で最強クラスの威力を誇る兵器をアンデルセンに向けて撃ち――

ドゴォォォォォン!!

轟音が響いた。
ロケットランチャーの弾は間違いなくアンデルセンに命中した。あれをくらえばただでは済まないだろう。
スネーク「ワリオ、よくやった」
ワリオ「へっ、どうってことねえよ」
実は、ワリオは飛び蹴りを仕掛ける直前にスネークからC4爆弾を受け取っていたのだった。
それを相打ちになったと思わせて、アンデルセンの体にこっそり付けたのだ。
そしてC4を爆発させ、追撃でロケットランチャーをくらわせる。
敵が高い回復力を持っているのなら、それを上回る攻撃をすれば良い。……もっとも、先程の戦法は相手の不意を突いたものであったため、一度しか使えないのだったが。もしロケットランチャーを外したら、こちらが厳しいことになっていただろう。
ワルイージ「さぁて、フィギュアになった神父の顔でも拝むとしますか」
爆発によって煙が立ち込めている場所を、ニヤニヤしながら見るワルイージ。
……だが、彼の表情が凍りつく。
アンデルセンが立っていた。
全身は爆発によって黒焦げとなっており、特に顔は表情が分からないほどになっている。
しかし、それでも尚、両手に銃剣を握って立っている。
アンデルセン「……どうした、異教徒ども。まだ一撃くらわせただけじゃねえか……。能書き垂れてねえで来いよ。かかって来い。HURRY!HURRY!!」
レッド「そんな……!そうまでして戦って、一体何になるって言うんですか!タブーに洗脳されているんだったら、戻してあげますから大人しくしてください!」
そんなレッドの言葉に、アンデルセンは首を横に振って答える。
アンデルセン「俺は何物にも命を受けずにここに立っている……俺は俺として立っている。アレクサンド・アンデルセンとしてここに立っている」
レッド「じゃあ何で……!」
アンデルセン「聞いた話だと……お前たちはアーカードを倒そうとしているらしいな。だが……あいつを倒して良いのは法皇庁だけだ。誰にもその権利を譲るわけにはいかない」
レッド「アンデルセンさん……」
しかし、そこへ割り込んでくる声があった。
「アーカードと戦ったことがあると聞いて期待していたが……所詮は人間、その程度か」
アンデルセン「タブーか……。貴様の指図など受けないと言ったはずだが?」
まるでアンデルセンが独り言を言っているように見えるが、彼の体にあるタブーと会話しているのだということが分かる。
タブー「否、私が困るのだよ。お前がここの戦士たちを倒した後にアーカードと合流して私の復活への足掛かりとなってもらうつもりだったが……それは期待できなくなってしまったな。もう良い。お前はここで退場してもらおう」
アンデルセン「何を――」
何を馬鹿な。そう言おうとしたが、その瞬間、アンデルセンの体が光に包まれ、フィギュアと化してしまった。それと同時に、タブーのエネルギー体が転がってきた。
スネーク「これで終わり……だと……?」
アンデルセンに止めを刺したのがタブー自身だったとは。あっけない幕切れであった。
レッド「あの……アンデルセンさんのフィギュア化を解除してもいいでしょうか?」
突然、レッドがそんな提案をする。
ワルイージ「ちょ、おいおいレッド~。あの神父は洗脳されてないって自分で言ってたんだぜ~?復活させたらまた戦うことになっちゃうかもしれないでしょーが」
ワルイージの発言はもっともだ。アンデルセンは自分の意思で戦っていたのだ。
もし、フィギュア化を解除した直後に再び戦闘となったら、こちらが勝つ保証は無い。
レッド「でも……この人、『アーカードを倒すためにここにいる』みたいなことを言っていたんですよね……。だったら僕達と目的は同じじゃないですか?ひょっとしたら協力してくれるかもしれませんよ。それに根っからの悪人には見えないし……」
ワルイージ「まったく……。わーったよ。でもいざという時には責任は取ってくれよ」
レッドの説得に、ワルイージは渋々ながら応じた。
そして、レッドはアンデルセンに近付いていき、フィギュア化を解除させた。
アンデルセン「……何の真似だ?」
訝しげに尋ねるアンデルセン。今のところ、戦意は無いようだ。
レッド「教えていただけませんか?アンデルセンさんにとってアーカードがどういう存在なのか……」



それから、フィギュア化を解除されたファルコンも交えて、アンデルセンは話をした。
元々アーカードは王立国教騎士団という組織に所属している吸血鬼、アンデルセンは法皇庁の特務局に所属しており、二つの組織は信仰する宗教の違いから対立しているのだった。
そして、それぞれの組織における対化け物の鬼札(ジョーカー)である両者はお互いが認める宿敵同士であるという事も。
アーカードが“この世界”に来ており、彼を戦士たちが倒そうと知った時には、先を越されないように、アンデルセンは戦士たちと戦うことを決めたのだった。
ファルコン「アーカードを倒すという目的だけならば我々と同じか……」
レッド「あの、アンデルセンさん。もしよかったら僕達と一緒に来ませんか?」
しかし、この提案にアンデルセンは首を横に振る。
アンデルセン「それはできないな。何度も言うが、アーカードを倒して良いのは我々だけだ。誰にも渡さん。誰にも、誰にもだ。……だが、お前たちにはフィギュア化を解除してもらったという借りがある。だから、今後はお前たちに手を出さず、俺のやり方であいつと決着をつける」
アンデルセンは立ち上がり、懐から取り出した聖書を開いた。
大量のページが彼の周囲を飛び、取り囲んでいく。
ワリオ「結局はそうなるか。まあ、こう言うのは柄じゃねえけどよ……せいぜい気をつけることだな」
アンデルセン「ああ、さらばだ。……それと、最後に一つ言っておこう。俺はただの銃剣でいい。神罰という名の銃剣でいい。俺は生まれながらに嵐なら良かった。脅威ならば良かった。一つの炸薬ならば良かった。心無く、涙も無いただの恐ろしい暴風なら良かった。……暴風ならば、一人で勝手に行動し、一人で勝手に去っていくのが似合っている」
その言葉を最後に、聖書のページがアンデルセンの全身を包み、彼は姿を消した。
後に残されたのは、五人の戦士たちとタブーのエネルギー体のみ。
スネーク「……まあ、俺たちは俺たちでやれることをするか」
レッド「ええ、このエネルギー体を空中スタジアムまで持って行きましょう」
五人もまた、空中スタジアムへと向かって行ったのであった。


ワルイージ「あれ?誰か忘れているような……。まあいっか」


ふっ……。俺の名前は阿部高和。自動車修理工さ。
この戦場の砦にてイイ男たちと戦っていたんだが、途中で気絶させられちまって、気づいたらロープでぐるぐるに縛られているってところさ。まあ、束縛っていうのも悪くは無いけどな。
それにしても、あいつらはどこへ行ったんだ?まさかこの俺を忘れてどっかへ行ったとでも言うのか?
まあいいか。いずれこのロープを自力で外してやる。
この放置プレイという状況だって乗り切って見せるさ。フフフフフ……。