No520 モンタナ/元ネタ解説

Last-modified: 2022-09-19 (月) 20:24:30
所属United States Navy
艦種・艦型モンタナ級戦艦
正式名称USS Montana (BB-67)
起工日未起工(1943.建造中止)
進水日未進水
就役日(竣工日)未就役
全長(身長)280.8m
基準排水量(体重)63221英t(64240t)
出力Babcock&Wilcox式重油専焼缶8基General Electric式蒸気タービン4基4軸
172000shp(174386PS)
最高速度28.0kt(51.85km/h)
航続距離15.0kt(27.78km/h)/15000海里(27780km)
装備16inch50口径Mk7三連装砲4基12門
5inch54口径Mk16連装両用砲10基20門
ボフォース40mm機関砲x10-40
エリコン20mm機関砲x56
艦載機x3-4
建造所Philadelphia Naval Shipyard, Philadelphia, Pennsylvania
(フィラデルフィア海軍工廠 アメリカ合衆国ペンシルベニア州フィラデルフィア郡フィデラルフィア市)
  • モンタナ級戦艦は、アメリカがアイオワ級戦艦の次級として計画した、アメリカ最後の戦艦である。
    大和型と同等の排水量で16inch砲を12門搭載し、アイオワ級以上の装甲・対空性能をも有していた、まさに二次大戦期戦艦の極致といえる計画であった。
    しかし戦況に応じた戦力整備の観点から建造は後回しにされ、また太平洋戦争での空母のプレゼンス向上とそれに伴う戦艦の相対的な地位低下を受けて、ついに起工されることはなかった。
  • 1930年代半ばごろから悪化しつつあった国際情勢や大恐慌、軍縮条約により海軍停滞期にあったアメリカでは、38年に海軍再拡張を目的とした第二次ヴィンソン法(1938年海軍法とも)が可決、ここでサウスダコタ級以降の戦艦の建造を予定した。
    一方この頃海軍主要国にて取り沙汰されていた「第二次ロンドン軍縮会議」において、日本が条約体制からの脱退を表明したことによって、「エスカレーター条項」が発動*1
    ノースカロライナ級ではこの条項を受け、搭載主砲が当初計画の14inch砲から16inch砲に改められ、同級の改良型としてサウスダコタ級も生まれることとなった。
    しかしこれらの戦艦はともに原設計35,000t級(=条約型戦艦)の枠組みであったため、当該条項によりトン数制限を10,000t上乗せされた前提で新たに戦艦が設計されることとなった。
  • 日本の新型戦艦の搭載主砲の口径が18inchクラスであるという噂(結果として事実であった)なども小耳にはさみつつ、45,000t級戦艦は大きく2種の設計に分化した。
    • 一つは「巡洋艦キラー」としての機能を期待され、航速面において引けを取らないようにした"高速"案である。
      これが最終的にアイオワ級として結実、サウスダコタ級に引き続いての建造となった。
    • もう一つは先述の日本新型戦艦を意識し砲火力を高めたオーソドックスな"低速"案である。
      こちらでは45口径16inch砲のほかにも48口径18inch砲搭載案もあったものの、最終的にこちらでも費用対効果の面からアイオワ級のために新規開発された50口径16inch砲(MK7)を搭載することとなった。
      のちにモンタナ級に発展するのは、この"低速"案だった*2
  • こういった状況の中ついに第二次世界大戦が勃発、軍縮条約は破棄されることとなった。
    これにより45,000tというトン数制限がなくなったため、いまだ建造に着手していないモンタナ級は更に設計を改め、およそ60,000t弱に拡大した。
    • 戦艦の設計においては「自艦の砲撃に耐えうる防御」が定石であったが、改設計にあたってはアイオワ級・モンタナ級の主砲+超重量弾の組み合わせでも耐えられる装甲となった。
      それ以外にもアイオワ級以前の全戦艦よりも攻守ともに25%の性能向上が求められ、それまでの戦艦でも設計上の足かせになっていた所謂「パナマックス」(パナマ運河通行のため艦幅33m以下とする)も考慮しなくともよいとされた*3
  • この段階で改めてモンタナ級を低速(27-28kt)とするか高速(33kt)とするかで議論となったが、16inch砲Mk7を4基搭載・防御も相当固くした戦艦を高速で航行させるための代償が大きすぎる*4ということで低速案が採用された。
    低速でも問題なくなったことで設計上に若干の余裕が生まれつつも、今度は副砲や対空兵装の刷新・増載のためにさらにトン数を増やしていき、最終時には排水量63,000t強となった。
    図らずもモンタナ級の好敵手と見込まれていた日本の新型戦艦=大和型(64,000t)とも似通ったものとなった。
    • アイオワ級まで両用砲として載せていた38口径5inch砲は新開発の54口径5inch砲に改められた。
      この砲はほかにもウースター級の次級「CL-154級」でも搭載が検討されていたが未成に終わり、アメリカ海軍では単装砲としてミッドウェイ級航空母艦に搭載されるにとどまった。
  • 以上のように練り上げられてきたモンタナ級は、1942年5月に発注された。
    しかし発注先では既にアイオワ級戦艦およびエセックス級航空母艦の建造で手一杯の状況であり、いったん保留となる。
    航空機運用能力の高いエセックス級と、それに並走して高い防空能力によって護衛が可能なアイオワ級の生産が優先されるのは当然の帰結とも言えた。
    そして翌月、ミッドウェー海戦にて海戦の様相が俄に航空戦中心的なものへと変化したことを受け、モンタナ級は起工を前に建造が中断されてしまう。
    結局翌年7月に正式に建造中止の命がくだったことで、アメリカが本当に求めた戦艦は陽の目を浴びることなく消えてしまった。
    • こうしてモンタナ級戦艦は建造されることはなかったが、後にアメリカ海軍が建造したミッドウェイ級航空母艦の船体部分に、モンタナ級の設計を流用したといわれている。

*1 未調印国によって条約体制を大きく逸脱した艦船が建造される可能性を考慮し、調印国においてもトン数や主砲口径上限を一部緩和するという条項
*2 本来はアイオワ級4隻に引き続いてまず2隻が建造予定であったが、海軍拡張が急がれたことからアイオワ級が更に2隻追加され、その後モンタナ級を5隻建造することとなった
*3 モンタナでも通れるような第3閘門建設を念頭に置いたものであったが、戦時中に行うには負担が大きすぎるとして運河開削の計画は中止…だったのだが、戦後の貨物船大型化によってさらに幅を広く取った第3閘門が2016年に開通している
*4 想定要求320,000馬力、喫水線長335.2m…戦後アメリカのスーパーキャリアー並みの大きさの船体に、スーパーキャリアー(だいたい280,000馬力)以上の出力の機関を配置する必要があった