第6回選考会議録要約

Last-modified: 2009-06-25 (木) 13:51:41

第六回日本SF新人賞

一次選考通過 12作品

作者名作品名
樽井砂都第九波
高浜智成テレポ人
照下土竜ゴーディーサンディー
岸田光さあ、マジックを始めよう!
甘木数彦リメインドロイデ
松永はつ子わすれ時
理和憲司ファイン! 二〇一X
矢奈昌あの時 君に
小田龍哉マニアックツアーズ
逆巻ハルマメルトダウン・ワールドアトラス
椎名輝明時間旅行者の殺人
緒川県タイムリテイカー~火星の時空訂正能力者~
 

最終候補 4作品

作者名作品名
照下土竜ゴーディーサンディー
甘木数彦リメインドロイデ
理和憲司ファイン! 二〇一X
緒川県タイムリテイカー~火星の時空訂正能力者~

歴代最年少受賞者の誕生!
2004年12月4日に行われた最終選考会の要約 (from SFJapan 2005 spring)

 

採点表

タイトル北野牧野森岡ひかわ夢枕
ゴーディーサンディーA-B-A-BB
リメインドロイデCC+ABB-
ファイン! 二〇一XB-C-CA-B+
タイムリテイカーCA-BA-B

1 ゴーディーサンディー

「千手観音」に監視される日本で発達した新型犯罪。それは人の体内に隠された爆弾による自爆テロだった。爆発物対策班の心経初は内臓に擬態した爆弾を解体する仕事をしていた。彼は事件を通して、一人の女と出会う……。

北野タイトルがよくない。これでは意味が不明でツカミが弱い。SF性が薄い。テロリストの動機が古くさく、ありきたりな物語。欠点は多々あるが、読ませるという点では今回の候補のなかでは一番だと思う。独特のセンスがあります。
牧野新しい犯罪が行われているという設定の割に、新しくは思えない。アイデアは面白いが中途半端。文章が僕には読みにくかった。
森岡千手観音という監視システムがあるが故に、犯罪が新しい形態をとらなければならない。SFマインドを感じた。ただこのシステムが作者の中できちんとイメージ出来ているのか? 例えばラスト近くで犯人が出てくるけれど、監視システムがあるのにこんなところに出てきたらダメでしょと思った。いろいろ欠点はありますが、主人公が罪のない子供であろうがなんだろうがドンドン解体していくという、グロテスクで美しいイメージには惹かれるものがあった。
夢枕この作品は設定に無理がある。監視しすぎたがためにテロが起こる。もう少し説明して貰わないと。擬態内臓がテロの唯一の手段であるというのはリアリティに欠ける。でも、このまま埋もれさせてしまうのは惜しい作品です。
ひかわ主人公が爆弾を解体するシーンを読んで、この作者は頭の中でアニメのようなシーンを思い描いているのではと思いました。ムードが「アップルシード」や「イノセンス」に似ている。書きたいものに対しての独創性が発揮出来ていない。

2 リメインドロイデ

周囲を壁で囲まれた町で、録幸は個人商店を営んでいた。録幸はある日祖父の遺品、トキワという名の美しいアンドロ
イドを手に入れる。それは一つの意識、二つの体を持っていた。そんな折、町で殺人事件が起こる。

牧野世界観と細部がうまく噛み合っていない。物語もあまり面白みを感じることが出来なかった。タイトルも悪い。最後まで読んでもタイトルの意味が分からなかった。
森岡文章が一番評価出来た。ストレスなく物語に入っていけた。これは横溝正史の世界なんです。閉鎖的村に探偵が出てきて、みんなを集めて謎解きをする。あるいは青年が外の世界へ飛び出していくという、爽やかな小説とも読める。でもタイトルだけは気に入らない。
ひかわラブストーリーとして読むと、正直弱いかな。アンドロイドのトキワと主人公を慕う女性の常磐、これはわざと同じ名前にしたのだろうけれど、最後まで読んでもその理由がわからない。主人公は人間の女性よりアンドロイドを選んだのかな。フェチの考えることはよく分からないw 
北野物語を読み進めさせる力が弱い。ミステリという面から見ても、謎解きに面白みがなかった。

3 ファイン! 二〇一X

「犯罪者は、自分が犯した罪によって国家が支出したコストを弁済すること」西暦二〇一X年に施行された新刑法の理念に則り死刑および懲役は廃止され、刑罰は罰金刑に一本化された。そんな法体系で弁護士桜光太郎はある事件に巻き込まれる。

森岡冒頭から会話で一気に説明するのはどうかと思いました。本質を見てみると、これは法律の裏をかくという昔からよくあるストーリーなのですよ。特に欠点という欠点があるわけではないけれど、お薦めのポイントが見つからない。
夢枕僕はこの作品に感情移入した。ただ説明の多さが問題だよね。「さあ、これから説明するぞ」って、机を叩く音まで聞こえてきそうw 大きな問題は、SF度が弱いところだな。
ひかわそこまでしなくてもいいのにと思えるほど、法律に関する設定に凝っている。法律フェチが楽しんで書いたというのが素直に伝わってくるw
北野今回の候補作の中で、この作品は何故か浮いていますよねww ほとんどSF性というものは無いですよね、この作品には。なんか別の種目の選手が来てしまったという気がしますよw

4 タイムリテイカー~火星の時空訂正能力者~

西暦2156年、月の裏側に浮かぶ物質転送センターでは新型転送機のテストが繰り返されていた。ある時システムに大事故が発生する。現場に居合わせた火星ただ一人の時空訂正能力者は事故を阻止することに成功したが……。

夢枕どう考えても設定に無理があるなと思いながら読みました。でも一番読みやすかったし楽しかった。登場人物がいきいきとしている。
編集会話の部分に書き手の幼さが出ていますね。
ひかわプロの書き手としてどうかと考えると、この人が一番ではないかと思えた。でも、いかんせんストーリーがつまらない。
北野時空訂正能力者というのはものすごい能力なわけですよ。テラフォーミングなんかを研究するより遙かに重要な研究対象なはずなのに、単なるクラスの変わり者みたいな扱いをされているw
森岡厳密な科学的整合性を求めたりはしませんが、誤魔化すならもっと上手くやってほしかった。

まとめ

編集皆さんのお話からすると「ファイン! 二〇一X」は候補から外しても構わないということになるのでしょうか。
牧野SF新人賞の候補にすること自体が違っているともいえますね。一般小説として出たなら、評価されるかもしれないが。
編集残りの三作について、皆さんの評価がかなり割れたようですので、お一人ずつ推薦順位を確認しましょう。
夢枕「ゴーディーサンディー」=「タイムリテイカー~火星の時空訂正能力者~」>「リメインドロイデ」
ひかわ「タイムリテイカー~火星の時空訂正能力者~」>「ゴーディーサンディー」
森岡「リメインドロイデ」>「ゴーディーサンディー」
牧野「タイムリテイカー~火星の時空訂正能力者~」>「ゴーディーサンディー」
北野「ゴーディーサンディー」>「タイムリテイカー~火星の時空訂正能力者~」>「リメインドロイデ」
編集そうすると「リメインドロイデ」は森岡さん以外は皆さん三位なわけですね。外しても構いませんか。
森岡個人的には読んでいて一番心地よかった作品ではありますが、どうしても推したいというものはないので、構いません。
編集残りの二作品ですが。
夢枕「ゴーディーサンディー」の方が上かなという気もするが、多少の書き直しは必要だろうね。
牧野擬態内臓というのは上手に手術して取り外したとしても、対象者は死んでしまうのかな?
夢枕その部分はよく分からなかったね。
北野ものすごく処置が上手くいった場合だけ助かるのでは。
牧野一回くらい擬態内臓の解体に成功しておかないと、納得できませんよ。
夢枕生命を救う駆け引きをしながら、それでも助けられませんでしたという方がリアリティがあると思う。
牧野バイタルサインを起爆装置として利用しているところが面白かった。ですが設定を生かし切れていないところが残念でした。
北野でも22歳という年齢でこれだけの作品が書けるというのはすごいですよ。
編集「タイムリテイカー~火星の時空訂正能力者~」はどうでしょう。
森岡文章技法には問題ないが、SFとして見たら難点が多すぎる。むしろ別の作品を書いてもらった方がいいんじゃないか。
北野これが今年の日本SF新人賞ですと言った場合、どう受け取られるのかな。
夢枕なまじ設定に凝ったがために、ほころびが出てしまった。
編集そうすると「タイムリテイカー~火星の時空訂正能力者~」はちょっと難しそうですね。
ひかわ書き直しをするという条件付きで私も「ゴーディーサンディー」を推すことに賛成します。
牧野僕も。
森岡SFという観点からすると、そうなりますね。ただし皆さんと同様に、かなり手を加えて貰うという条件はつきますが。