第7回選考会議録要約

Last-modified: 2009-06-25 (木) 13:52:57

第7回日本SF新人賞

一次選考通過 12作品

作者名作品名
たたつマーダー・アイアン──万聖節前夜祭──
甘木数彦エクスチェンジリングス
蝶摂継人鎖の神と花盗人
澤村理人アプローチング・ゼロ
小松多聞サンクタネクス
島青志エヴェレット・ルーレット
春日亮介幻の女
オリヴィア・ケイPRODIG
滝川廉治ATLAS
黒沢ガユウパルシヴァーユ はじまりの物語
折野日出司氷の共和国
三枝蝋デスダイバー
 

最終候補 4作品

作者名作品名
たたつマーダー・アイアン ──万聖節前夜祭──
甘木数彦エクスチェンジリングス
澤村理人アプローチング・ゼロ
滝川廉治ATLAS

2005年12月3日の最終選考会要約
(from SF Japan 2006 Spring)

作品名採点
北野牧野森岡ひかわ夢枕
マーダー・アイアン ──万聖節前夜祭──B-B+BA-B
エクスチェンジリングスBBBBB
アプローチング・ゼロB-CB+CA
ATLASB-CB-BC

1 マーダー・アイアン ──万聖節前夜祭──

 冷戦終結後の近未来、各国は軍に代わりサイボーグ特殊部隊を導入していた。先進国としては唯一サイボーグ部隊を持たない日本は戦闘アンドロイド、タケル01を開発し、アメリカの無敵サイボーグ部隊に戦いを挑んだ。

北野サイボーグ009のパロディのようで、別にそうでもない。ストーリーがこれほど長く書くほどのものでもなく、ずっと同じ事の繰り返しに見える。ハリウッドが戦争をプロデュースして、日本のサラリーマンがそれと戦うというアイデアはなかなか面白いと思いました。
牧野屈折したキャラクター、歪んだ世界観は好み。類型的な部分が多々見られ、広がりが見られない。
森岡サイボーグというものをアンドロイドと対比して、一種の滅び行く種族として捉えている。最後に敵味方の垣根を越えてサイボーグが協力するシーンは燃えた。ただアンドロイドがあまりにも強力すぎて、しかもその理由が唐突に出てきて、クライマックスがちょっとしらけて見えた。この作品を評価する上で困ったのが、サイボーグ009との関わりです。元ネタを知らなくてもそこそこ楽しめると言う意味ではオマージュなのだが、元ネタを知らない人の方がこの作品に高い評価をすると思える。それじゃあ盗作かというと、そんなこともない。じゃあパロディになっているかというと、そんなこともない。何故この作者がサイボーグ009に拘っているのか、その意図がわからない。
夢枕楽しく読めたが、いろいろな意味で読みづらかった。

2 エクスチェンジリングス

 常若市を管理する人工知能「女王」は人間の赤ん坊を連れてきてピーターパンとして育てた。 ピーターに与えられた役割は幼い子供を一時連れ出して、楽しい思い出を与えること。しかしピーターは姿を消してしまう。

編集この方は昨年も「リメインドロイデ」で最終候補になられています。
牧野全体的にぐしゃぐしゃして整合性がない。女王の存在理由、行動の意味がわからない。ピーターがどうして狂ったのかわからない。狂う前はどんな人だったのかとか。いろいろ問題はあるが、面白いとは思いました。
森岡全体的に焦点がずれている。ピーターの物語ではなく鳶春とウエンディの物語として見ると、すごく単純なボーイ・ミーツ・ガールになってしまう。ふたりがアンドロイドだと分かって、最後に唐突に恋愛感情が発生したと言われても納得出来ない。楽しくすらすら読めるが、モヤモヤした不満が最後まで解消されなかった。
ひかわ去年の人形フェチの方ですね。今年の作品もやっぱり人形フェチw
北野去年の候補作を引き合いに出すのはルール違反かもしれませんが、この人の作品は箱庭の中で人形を動かして遊んでいる感じのものです。それを自分の視点で書いているので、分からない点が残る割にすんなり読めてしまうんでしょうね。いろいろなところで説明不足、SFとして見た場合、整合性がなさ過ぎる。

3 アプローチング・ゼロ

 スラム街EDGEでトラブルバスターを営むギルのもとに、上流階級専用公安機関の倉崎ハイドラが訪れてきた。依頼は誘拐された令嬢カーチャの救出。だが、ギルたちは保護対象のカーチャから攻撃を受ける。やがて二人はカーチャの複雑な事情を知る。

森岡どこかで見た風景、どこかで見たキャラクター。欠点も無いかわりに長所も見付けられない。風景描写があっさりしていて猥雑で危険な街の雰囲気が伝わってこない。
夢枕減点法で採点すると今回一番の評価だけれど、プラスポイントで評価が高くなったわけではない作品。
ひかわこの作品、何が書きたいのか全くわからなかった。生命というものの重さをテーマに問題提起していたはずなのに、この作者は何一つ解答を用意していない。SFってその答えを描く文学だと思います。それとカーチャの話とハイドラの話とギルの話がそれぞれ独立していて、結びつきが感じられないし、感情移入できず、カタルシスを得られなかった。
北野他の作品にも言えるんですが、タイトルが意味不明。これは何なのでしょうか?
牧野さらさらっと読んでしまったが、何が書いてあったのか思い出せないw 手慣れているし完成しているけど、飛び抜けた部分、新味がない。

4 ATLAS

 少年、六連静間は周囲から頭がおかしいと思われながらも真のヒーローを目指している。少女、鈴代祐衣は生まれながらにしてスーパーパワーを持っているものの、引っ込み思案ゆえ両親にさえその力を秘密にして平穏無事に暮らしていた。そんな二人が私立光善寺高校で出会う。

夢枕これは最初は調子よく読んでいたのだけれど、途中から何かわけがわからなくなってきた。祐衣という少女があまりにも強すぎる(笑)←原文ママ引用
ひかわ無理のある設定だなと思ったが、高校にあるヒーロー部というのは面白い。何の力もない少年が根性だけでヒーローになろうとする姿もいい。もっとSF的に工夫すればよかった。
北野炎の転校生的な世界ですよね。作者はご都合主義を自覚しているでしょうけど、それを確信犯として突き詰められていない。深夜アニメの第一話といった印象。
森岡連載にはいたらない不幸な読み切りマンガの印象ですw 主人公と少女は最後まですれ違って、何のカタルシスも感じさせてくれない。

まとめ

編集とりあえず皆さんの評価からすると、ATLASは選考から外れることになりますね。残った作品の順位を確認します。
北野マーダー・アイアン=エクスチェンジリングス>アプローチング・ゼロ
牧野同じくマーダー・アイアン=エクスチェンジリングス>アプローチング・ゼロ
森岡減点法だとアプローチング・ゼロ。加点法だとマーダー・アイアンかな
夢枕同じく減点法だとアプローチング・ゼロ>マーダー・アイアンだけど、加点法だとマーダー・アイアンの方が上です。この作品を一位にする場合は原稿に手直しを入れてもらうという条件がつく。
ひかわマーダー・アイアン>エクスチェンジリングス>アプローチング・ゼロ
編集相対的にマーダー・アイアンを一位に推されている方が多いですね。
森岡大丈夫なんですかね、この作品。009のことを忘れてもらって書き直してくれたら文句はないのですが。
牧野でもこの作者はわざとそれを避けているような気がする。
夢枕まあ、セーフの範疇かな。
森岡面白さ、SFらしさからすると一番なのは確かですね。
夢枕気にかかる点は残るけど、皆さんの順位と作品のもつエネルギーから考えて、マーダー・アイアンで決まりかな。
全員 はい。