第10回日本SF新人賞 最終選考会議
前文
一次選考通過 13作品
作者名 | 作品名 |
黒井謙 | 獣守人 ゴザル |
井上伊之助 | マッシュルーム |
芝草小太郎 | ブラック・シルフは空に舞う |
小松多聞 | トロイメライヒ ~夢幻の王国~ |
青砥邑 | 帰ってきたピーチボーイ |
天野邊 | プシスファイラ |
弓木暁火 | 美しい人、白い鳥 |
杉山俊彦 | 競馬の終わり |
網疏雨漏 | 現在、未来及び過去の一般理論 |
最終候補作品5作品
作者名 | 作品名 |
小松多聞 | トロイメライヒ ~夢幻の王国~ |
青砥邑 | 帰ってきたピーチボーイ |
天野邊 | プシスファイラ |
弓木暁火 | 美しい人、白い鳥 |
杉山俊彦 | 競馬の終わり |
受賞作
天野邊 プシスファイラ
杉山俊彦 競馬の終わり
最終選考会 2008年12月2日
SF Japan (2009SPRING)
最終選考会議
選考委員長山田正紀体調不良により森下一仁が急遽代理。
選考委員は
- 森下一仁(選考委員長)
- 図子慧
- 飯野文彦
- 林譲治
- 若木未生
司会進行は久美沙織(日本SF作家クラブ事務局長)
小松多聞『トロイメライヒ~夢幻の王国~』
微少超重量天体の連続落下による災害と大戦からの復興世界が舞台。主人公は公安の一員として科学者殺害犯を追うが、謀略に巻き込まれ……。ハードボイルドタッチ。
若木 | 偏差値48。背景世界に既視感。万能ヒロインだけでお話が済みそう。主人公のトラウマが不可解。 |
図子 | 梗概うまい。本文は情感不足。主義主張別にキャラクターが整理されている点に好感。 |
林 | 一番評価が低い。既視感。敵の親玉にリアリティを感じず。 |
森下 | 評価はあまり高くない。アニメシナリオの案としては良さそう。面白くなりそうな要素を消化し切れていない。 |
飯野 | 評価低い。キャラクターに対する人物造形が不足。 |
青砥邑『帰ってきたピーチボーイ』
気象制御技術の獲得から悠久の時が流れ、人類は遺伝子操作や精神治療で自制を得ていた。
図子 | 部分は面白いが全体の統合性が弱い。桃太郎を下敷きにした軽快な話。キャラクター設定にブレ。 |
林 | 梗概が梗概でない。古くさい時代小説風に始まりお笑いに。一貫性がない。ほのぼのとした印象が残る不思議な作品。 |
森下 | 変な小説。好感は持てる。ストーリーはよくできているのに簡単な描線で描かれていて小説的ではない。 |
飯野 | この作品が一番好き。でもこれってSF? |
若木 | さらさら軽妙に読めるけれどこれはラノベでは。 |
天野邊『プシスファイラ』
鯨たちによる音響通信インターネット的統合思念体世界。やがて鯨たちは人類と出会い……。
林 | 梗概ダメ。鯨による音声版ネットだが鯨としての描写がない。ネットワーク発達史描写主体。『ディアスポラ』っぽいけど常識からかけ離れた展開のさせ方。 |
森下 | 読みにくい。鯨との接触によって人類がネット概念を得、鯨と人が共に宇宙に拡散していくあたりは昨年の『宇宙細胞』っぽい。読みにくいが文明やコミュニケーションに真剣に考えている。 |
飯野 | 読みにくくはなかった。個と世界が一体化する様をパワフルに描いている。強く惹かれた。 |
若木 | 今回すごく面白いと思った二本のうちのひとつ。ガチ理系SFかと思ったがコミュニケーション論。「なぜ人は言語を使って語り合うのか」。一目惚れした。 |
図子 | SFの新人賞、新しさという点では良いが読みづらさは商業作品レベルに達していない。鯨の生活感がなく実在の鯨の生態からもかけ離れている。 |
弓木暁火『美しい人、白い鳥』
シベリア民話をもとにしたファンタジー。人形と柄杓に育てられた少年が白鳥乙女と出会って始まる冒険譚。
森下 | 民話を下敷きにした壮大な物語。ストーリーテリングは素晴らしい。語り口に違和感。でもSF新人賞? |
飯野 | 完成度高い。よくできたRPGみたい。できすぎていて新人賞にはハマリ過ぎ。 |
若木 | 民話の良さが生きているが、ラスボス戦が少年ジャンプっぽい。 |
図子 | 一番楽しめた。完成度が高く独特の世界で、妖怪譚として非常に楽しめる。現代的なテーマの欠如が残念。SFの新人賞より児童文学向き? |
林 | ファンタジーとしての完成度は高いが判断に困る。シャーマニズム対人間の文明という構図で人間側が全否定されてそれでおしまいなのが惜しい。 |
杉山俊彦『競馬の終わり』
ロシアに侵攻された近未来の日本。人間のサイボーグ化の足がかりにサラブレッドのサイボーグ化が考えられたが……。
飯野 | 一番評価が低い。SFではなく競馬が書きたかったのか。 |
若木 | 『プシスファイラ』と同じくらい好き。競馬をテーマにした『幼年期の終わり』? |
図子 | 一押し。でもSF部分がでたらめ。 |
林 | 高く評価した二本のうちの一本。、SF的な設定もあるけれどまず競馬。何より競馬。 |
森下 | SFでなくて競馬。上手い。競馬以外にどんなものが書けるのか気になる。 |
新人賞は……
『トロイメライヒ』と『帰ってきたピーチボーイ』は落選。残りの三作品について五点満点で採点。
プシスファイラ | 美しい人、白い鳥 | 競馬の終わり | |
森下 | 4 | 5(後に→4) | 5 |
飯野 | 5 | 4 | 3 |
図子 | 4 | 3 | 5 |
林 | 5 | 4 | 4 |
若木 | 5 | 3 | 5 |
合計 | 23 | 19(18) | 22 |
久美 | 『プシスファイラ』と『競馬の終わり』の争い? |
図子 | 新人賞では青春の物語を期待するが『美しい人、白い鳥』は主人公が少年であるのに瑞々しさが感じられない。『プシスファイラ』は二十代にしか書けない若々しさ、『競馬の終わり』は三十代の哀感。 |
森下 | 『美しい人、白い鳥』は神話世界を文明の持つ悪で破壊してみせる新しさがある。点数5→4に変更。 |
編集部 | 新人賞枠とは別に一般向けとして成立するかも。 |
林 | 『プシスファイラ』の作者は次回に期待させる。 |
森下 | 『プシスファイラ』の読みにくさは問題。 |
図子 | 冒頭に出てくる童話が弱い。 |
森下 | 最後にすごいものが待っている。 |
久美 | 『競馬の終わり』は? |
若木 | 大好き |
森下 | 世に出しやすい |
林 | SF性なら『プシスファイラ』。 |
図子 | 同時受賞では? |
というわけで『競馬の終わり』と『プシスファイラ』の二作同時受賞。