021 の変更点

*第二十一景 掛川天女 [#j8eae55f]
「あの… 人を斬る感触とは
 いかなるものでしょうか?」
「あれだ
 濡手ぬぐいを叩くが如き音よ」
「うまく斬れば 手応えはない」
「涼」
「はい」
「うまい麦飯じゃのう」
「あ… はい」
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伊良子清玄の仕置追放から半年――
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三重は拒食に陥り
足を閉じていても
尻穴が見えるほど
痩せさらばえていた
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湯舟に映った
自分の姿に戦慄して以来
入浴はもっぱら部屋での行水
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家中の鏡を傷つけた上
漆塗りの盆も引き掻いた
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化粧箱の引き出しの中には
蝉の死骸が入っており
その奥には
顔を切り裂かれた
雄雛が眠っている
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体を拭いていて時折思う
この手があの方の手であったなら
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この日は四足獣の肝であった
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「種 種ェ」
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月経の停止した娘に精をつけさせて
強い種を宿す器を取り戻して欲しい
その切なる願い
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最終的には自身(おのれ)が
たいらげてしまうとはいえ
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この親心は 確実に
三重の心を蝕んでいった
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初雪の日
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羅織のじゅばん一枚の三重が宿場を駆けた
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痩せさらばえた三重の肉体が
この時ばかりは艶めいて
この世のものならぬ
美しさであったという
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主君 安藤直次より預かりし妖刀
七丁念仏が消え失せていた
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「三重か!
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 斬れ… 斬って取り戻せ…」
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内弟子にとって虎眼の命令は絶対である
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なんと妖しき刃の輝き……
吸い込まれそうだ…
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「三重さま危のうございまする 刃を鞘に……
 お家のため… 致し方なし… 」
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「三重さま 三重さま…」
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「あ… 三重さまが担いだ…」
「持っておれ」
「え……
 危のうございまする 三重さまの流れはきっと…」
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危ない 不充分な流れはそれゆえに危ない
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絶対に落としてはならぬ宝刀であった
しかし そうでなくとも 源之助は
この太刀を命がけで守ったであろう
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「フジキ」
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「女子の三重さまがなにゆえあのような
 妖刀を欲しがったのでしょう?」
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誰が知ろう 七丁念仏に映る姿だけは
かつての温かくふくよかな三重であったのだ
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その三重に食欲が戻ったのは
何者かの手により虎眼流剣士たちが
討たれ始めた時期と ぴたりと符合する