025 の変更点

*第二十五景 約定 [#h69b84e7]
立ち上がった夕雲の形相は一変していた
#br
いや 一変していたのは形相だけではない
#br
刺突剣の切先が向けられたのは
対手である岩本虎眼ではなかった
#br
忠義を理解できぬ夕雲の本性が
剥き出しになっていたのだ
#br
#br
蝉丸という名の中間の腕には手甲鉤と
呼ばれる忍具が嵌められていた
#br
さらに友六が懐中で手にしたものは
馬上筒と呼ばれる鉄砲である
#br
#br
酸鼻なる鮮血の臭いが美剣士の鼻をついた
#br
#br
「夕雲め そこもとに敗れた無念を主人たるわしに向けるとは…
 彼奴の如き不忠義者に扶持を与えておったはわしの未熟
 虎眼 よくぞ成敗してくれた 礼を言うぞ」
「へぇ」
#br
へつらいの笑みはなかった
#br
検校に酌をしている女はかつての自分の情婦
#br
いく…
#br
#br
一向 検校に謁見する身分のない源之助らは
控えの間にて師の身を案じていた
#br
「兄弟子お久しゅうござる!」
「場をわきまえよ藤木 ここは賎機さまのお屋敷
 波を立てれば先生にもお咎めがあろう」
「牛股師範 まずはご一献」
#br
パッシャァ
#br
「失礼 目が悪いゆえ」
#br
「伊良子 南蛮剣法をけしかけ
 先生を亡き者にしようとしたは
 うぬか」
「濡れ衣にござる
 夕雲は藤木源之助を屠る手筈であった
 それを あの老いぼれが救ったのだ
 藤木では危ういと見てな

 藤木 それでも虎眼流の跡目か?」
#br
「ちがうぞ 伊良子
 賎機さまは戯れよと申された……
 ゆえに先生は藤木を下がらせたのだ」
「何が言いたい」
「藤木源之助は戯れの出来ぬ男よ!」
#br
#br
この虎の拳は友六の目をもってしても
鮮明ではなかった
#br
「戯れの出来ぬ男だと 笑わせるな
 よってたかって 女の乳房を焼き
 己の目を潰したうじ虫の分際で」
#br
藤木… 次はおぬしだ
#br
#br
虎眼と弟子二名が岩本家に戻ったのは
夜 5ツを回った頃である
#br
ひとしきりわめいた後
老虎は獣のごとく
うつぶせに眠った
#br
#br
留守の間に何者かが置いた文
#br
その芳香は 初めて清玄と会った あの日
源之助を悩ましめた あの芳香であった
#br

  来たる満月の夜
#br
  松葉の社に
#br
  影は 唯二つ
#br
         伊良子清玄
#br
                  』
#br
一対一の決闘の申し出である