034 の変更点

*第三十四景 竹槍 [#rf33887e]
*第三十四景 竹槍 [#j6b51c3c]
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日坂宿
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幕府諸藩の禁止にも関わらず
宿場町には賭場や水茶屋がつきものであり
それらを仕切る一家が多数存在した
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九鬼一家の用心棒 蛇兵四郎は一羽流の使い手であり
百目一家との出入りの際 親分の百目大蔵をかばう子供ごと
斬り捨てたことで侠客仲間でも忌み嫌われていた
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「それにしても驚きましたねえ 旦那
 当道者(あたしら)の身内が
 無双とうたわれなすったあの岩本虎眼さまをねえ
 見えねえってのにどうやって……」
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蔦の市の声は弾んでいた
まるで自分の手柄話のように
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「岩本虎眼どのは老いていた……
 それだけのことよ
 虎眼流に勝ったと申したければ
 藤木源之助に勝たねばならぬ」
「ふじき?
 そのお弟子さまは 師匠が大変な時に
 どこかに隠れていなすったという話ですよ
 そんなお方に……」
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がっ
「ヒィィ」
「うぬが如き下郎に 藤木源之助の何がわかる!?」
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蛇兵四郎が源之助と出会ったのは
桜の舞い散る四月であった
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若き日の蛇である
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「一手 ご指南つかまつりたく候」
「いやあ……」
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応対に出た大男はしきりに頭を掻いている
一羽流の手練である自分の力量に
恐れをなしているものと蛇は自惚れた
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濃尾無双は噂に過ぎぬと
門下生は百姓や町人といった顔つきの者ばかりである
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いくらか金を握らされて帰ることになるだろうと
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「お相手つかまつる」
入門して三年にも満たぬ藤木源之助である
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相手が前髪であろうと 加減する蛇でない
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「いざ 参ら……」
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「ま 参った…」
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「耳か鼻か」
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ビッ 
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「ウッ…」
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「ぬるいぞ 源之助 しかとえぐれ!」
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これが源之助の初陣であった
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虎眼流の仕打ちを不服とした蛇は
同様の恨みを持つ二名と共に
報復を誓った
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決行されたのは九月である
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竹槍である
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「抜けるか? 虎眼流! 太刀を抜けるか!? 
 抜かばたちまち雷神の生贄(にえ)ぞ」
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何の躊躇もなく 源之助は抜刀した
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「ぬわっ」
「こ こやつ」
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落雷が瞬時に二名の同志を焦がした
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鼓膜の破れた蛇が音の無い世界で見たものは
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掛川
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この日
買出しから戻った岩本家の中間 茂助は
牢人者と思しき士に呼び止められた
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「岩本家のものだな 藤木源之助どのに伝えよ
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 貴殿の身は 永江院の竜が守っておられる
 ゆめ 腹など召されるな
 師の仇 討つ日は必ず訪れますると」
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掛川の寺院 永江院にある
山内和豊が寄進した彫刻の竜は
抜け出して水を飲みに行く姿を
たびたび目撃されている
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『
 仇
 討
 願
   』