なあ、サシャ。 以前に救ってやったお前の命はそんなに軽くないよな? | |
え、ええ。そりゃもう | |
だったら、さっきの私の頼みごとも聞いてくれるよな? | |
は、はぁ。聞き入れたいのはやまやまなんですが 私たち訓練兵ですから街のお店に買い物に行くわけにもいかないですし…… | |
それなら心配するな。それもさっき教えたとおりにすれば ……まあ、なんとかなるはずさ | |
は、はぁ… | |
だから、な? やってくれるだろ? つか、やるよな。恩人の私の頼みだ | |
で、でも、やっぱり私はこれ以上教官に 睨まれるような真似をするわけには… | |
…そっか。それじゃこいつは無駄になっちまうなー 頼みを聞いてくれたお礼に用意してたこの芋… 苦労して厨房からくすねてきたけど お前にやるわけにいかないよな? | |
やります | |
恩人様の……頼みごりょ…むしゃ…ことわりゅ ムしゃ…わけにゃありゅましぇ…ムシャ | |
そうか。いやぁ、よかった。じゃあ頼んだぜ | |
あと、今さらだけどよ…手に入れたそばから 食い始めるその癖、少し控えたほうがいいぞ |
しかし、ユミルのやつも考えたな | |
人気者のクリスタのためなら僕たちの大概は協力するだろうからね | |
あいつ、誰にでも優しいからな | |
うん。神様だよ | |
ああ。女神だ | |
(結婚したい…) | |
だけど、目的の物なんてどうやって手に入れたらいいんだ? 俺たちは訓練兵だ 街の商店に買い出しへ行くってわけにはいかないぜ? | |
それなら、私によい考えがあります。 安心してくださいっ! | |
お前がか?期待はできねぇが言ってみろよ? | |
はい! 皆さんに分けなくちゃいけないと思ってた芋が余りましたから、その分を使います! | |
あぁ? ……何やりたいのかよくわからんが…… お前、芋を独り占めしたくて俺たちに相談するのをためらってたのか? | |
はいっ! | |
… | |
ま、まあ、いいじゃないか とりあえず凄い自信があるみたいだから、ここはサシャに任せてみようよ | |
では、目的遂行のため、今から行ってまいりますっ! | |
- | それから一時間後…… |
ゼェ…ゼェ…ゼェ… | |
- | |
…で、なんでサシャのやつ、訓練場を走らされてるんだ? | |
教官に芋を差し出して、 『これでこっそり町に行かせて下さい』って頼んだらしい… しかも、半分に割って『大きいほう、あげますから』って言ったんだってさ… | |
…そうか | |
これで、外に行くのに何か他の方法… それも相当上手い手を考えなくちゃいけなくなったな… |
でも、よく街に出ることを教官に許してもらえたな? | |
うん。サシャのやったことを逆に利用したのさ 教官に、『ただ走らせるだけじゃもったいないから、 近隣の街の掃除に役立てたらどうか』って言ったんだ サシャひとりだと不安だから 僕も手伝いたいって言ったら許してくれたよ 教官も監視についてくるだろうけどね | |
なるほど。さすがアルミンだな! だけど、ここから目的のものをどうやって探すんだ? | |
まさか瓦礫の中のガラクタを適当に見繕うんじゃねえだろうな? そんな考えなら、サシャやコニーのことを笑えねえぞ | |
コニーはともかく、サシャのような考えというのは合ってるね 5年前からの避難民はまだたくさんいる。 食糧難の人たちなら、たいていの品物は物々交換で取り替えてくれると思う 幸い、サシャは食べ物をたくさん持ってるみたいだし | |
そっか! そこまで考えてたなんて、ますます見直したぜ! | |
ああ。今回は素直に認めるぜ。 コニーと比べたりして悪かったな | |
ジャン。 さっきから俺とアルミンのどこを比べてるんだ? 全然似てないだろ? | |
…まあ、そんな話はどうでもいいじゃないか それより、食べ物と物々交換するなんて知られたらサシャがうるさいから、 早く目的を好感してくれそうな人を探そうっ! | |
結局、最後はサシャのやつが大いに役に立ったってわけだな |
どうだ? プレゼントになりそうな物誰か持ってる人いたか? | |
あっちの食堂で店主が格安で調理セット一式まるまる交換してくれるってよ! | |
調理セット? そんなもんをもらって喜ぶか? | |
俺は家庭的でいいと思うぞ。 料理が上手いというのは、結婚相手の条件として申し分ないだろ | |
いや。お前の願望は聞いてないだろ… | |
おーい、みんなー。 あっちの人がすごくいい物と交換してくれてもいいって! | |
おい、ありゃぁ貴族じゃないか。 あんな身分の人間がどうしてこんなところにいるんだ? | |
旅行中なんだって。 だけど、食べ物を買おうにもお店でも満足に売ってないから困ってるんだって 話を持ちかけたら、あえひ交換したいって言ってる | |
で、何と交換してくれるって? | |
なんでも、5年前に生き別れになった娘の為に作った服らしいんだけど | |
生き別れた娘のためにものを作るなんて 随分と余裕のある暮らしなんだな | |
凄く地位の高そうな人だしね | |
あの服ならクリスタのサイズでも大丈夫そうだな | |
よしあれと交換してもらおうぜ! |
だけど本当に嬉しい! 私の誕生日を祝ってくれるだけじゃなく、 こんな素敵なドレスまでプレゼントしてくれるなんて | |
喜んでくれりゃこっちもやり甲斐があるよ | |
うん。嬉しいなんてものじゃないよ! …でも、こんなドレス、どうやって手に入れたの? | |
ま、芋と馬鹿がいれば何でもできるってことさ | |
…お芋?馬鹿? | |
そんな事は今さらどうでもいいだろ。 | |
それよりよく似合ってるぜ | |
お前の名前を出せば、男どもが躍起になって 協力してくれるとは思ってたけど… そのドレス姿を見たら、あいつらの気持ちもよくわかるよ ジャンかライナーはお前のこと、女神って言ってたみたいだぜ | |
それは褒めすぎだよ。 こんな上物のドレスを着れば誰だって綺麗にみえるもの そうだ。ユミルだって女神様っていわれるかも | |
…私が?おいおい。 冗談にもなってねえぞ | |
そう?そんなにおかしい? | |
おかしいなんてもんじゃねぇだろ? | |
ユミルならきっと、皆から女神って言われる日がくるとおもうな | |
・・私が女神…か …なるほどね。 それもあるかもな 私が女神って呼ばれるのも…もしかしたら悪くないかもな… | |
ユミル?どうかしたの? | |
なんでもないさ。 それよりドレスのことはサシャには黙ってろよ | |
あの馬鹿、『芋がないっ!』って、いまは宿舎で半狂乱になってるからさ | |
見つかったら食われかねないしな |