作品集215

Last-modified: 2017-07-04 (火) 07:24:17
観測するものへ  あめの氏

【作品集】215
【五段階評価】
 ★★★★★
【タイトル】観測するものへ【書いた人】あめの
【URL】ttp://coolier.dip.jp/sosowa/ssw_l/215/1493801255
【あらすじ&感想】
フランドールが静かに、そして気ままに夜の紅魔館を散策するお話。
レミリアが眠りについたその時間は、フランドールだけのもの。
鍛錬に励む美鈴をこっそり眺めたり、キッチンでパフェを食べたり……。
表現の一つ一つが絵本を読んでいるようでとても素敵です。
フランドールだけではなく、紅魔館の住人が好きな方にもおすすめです。

身籠り金烏  Ministery氏

【作品集】215
【タイトル】身籠り金烏  【書いた人】Ministery 氏
【URL】ttp://coolier.dip.jp/sosowa/ssw_l/215/1493485483
【あらすじ】
お空の異常に最初に気付いたのはお燐だった。食欲の旺盛になった彼女の腹回りが僅かばかり膨れたように見えたのだ。
その場では食べ過ぎによるボディコントロールの不順であろうと結論されたのだが……
やがて、そのスキャンダルは地底を席巻することとなる。

 

『おくう、相手は誰なのさ』
『……』
『ねえ、教えてよ』
『……』

 

太陽に一番近い烏が光を宿した物語。

【感想】
八咫烏が大好きなお空と、お空が大好きな者達のSS。
様々な解釈ができるでしょうからあんまり細かいことを言っても仕方がないのですが、とにかく地霊殿の面々の距離感が素晴らしい。
お空がどれだけみんなに愛されているか、その大人しめながら明朗な文体からぐんぐん伝わってきます。
個人的には"愛する人が愛されたことがこんなに嬉しいのだと、さとりの心は叫びたいほどだった。"って一節が好きです。それは真理だと思います。

桶船と心温/it's OK、just feel my Pulse.  怠惰流波氏

【作品集】215
【タイトル】桶船と心温/it's OK, just feel my Pulse.   【書いた人】怠惰流波氏
【URL】ttp://coolier.dip.jp/sosowa/ssw_l/215/1493889367
【あらすじ】
 とある寝苦しく熱い空気に目を覚ましたパルスィ。
 川で熱をを冷まそうと水浴びをしていたところ、上流から流れてきたのは釣瓶落としのキスメだった。
「パルさん、今晩は」
 釣瓶落としの言葉に、橋姫は誘われるままにキスメの桶に身をまかす。
 ああぁ、この子はいつもこんな風景を見ているのか。
 川面をゆらゆらと漂う二人。
 そして、キスメはパルスィに語りだす。
 なぜここにいたのかと。
【感想】
 パルスィの一人称で語られる物語。
 初めは偶然出会った二人の甘々な話になると思いきや。
 一人、体を冷まそうと川面を覗くパルスィ。
 一人、川面を彷徨い、まるで救いを求めるようなキスメ。
 二人は出会い。そして。
 心理描写と情景描写。これらが上手く融合した良い話です。
 読み終えた時、あなたはほっこりとした気持ちになっているんではないかと思います。

厄神様はムシが怖い  角鹿 雅氏

【作品集】215
【タイトル】厄神様はムシが怖い 【書いた人】角鹿 雅 氏
【URL】ttp://coolier.dip.jp/sosowa/ssw_l/215/1495468213
【あらすじ&感想】
射命丸文の書いた新聞により、周囲の人外からいじられる雛。
鴉天狗が教えた秘密の場所で、雛は天狗に語る。
何故、虫が嫌いだと。
その理由は何なのかと。

 

話の序盤から、穏やかな空気が漂ってきています。
厄神というという設定を上手く活かしていると思います。
物語後半。
雛を自分のお気に入りの場所へと誘う文。
そこで雛は語りだす。過去の話。そして、何故虫が嫌いなのか。

 

文章のテンポも良いし、お話の内容も綺麗です。
できれば、もっと評価されてもいいんじゃないかと思う作品です。
猫を飼っていた人には、感慨深い物があるのではと。
できれば、雛好きな人に読んでもらいたい。そんなお話です。

I,YAMA  ドクター・ヴィオラ氏
人工知能を創り出した秘封倶楽部と、創り出された人工閻魔のSS。

【作品集】215
【タイトル】I,YAMA  【書いた人】ドクター・ヴィオラ 氏
【URL】ttp://coolier.dip.jp/sosowa/ssw_l/215/1494999509
【あらすじ】
とあるレトロなカフェにて、人工知能が数学の未解決問題を証明したとのニュースを耳にした秘封倶楽部の二人。
それと並行して、メリーは蓮子に、夢の世界で三途の川を訪れて四季映姫・ヤマザナドゥに出会ったことを語る。
すると、度重ねて幻想に触れたことで風変わりな明晰を備えてる――つまり、ちょっとおかしな思考回路を持つ――宇佐見蓮子は、その二つを掛け合わせ、誠に不遜な天啓を得た。

 

「私は人工知能を使って、地獄の最高裁判長を創造する!」
「うーん。なるほど、なるほど」 メリーは呆れて言って 「議論はしますまい」
「うんにゃ、ほんとなのよ」

 

かくしてAI“シキ”が生まれることとなる。
【感想】
人工知能を創り出した秘封倶楽部と、創り出された人工閻魔のSS。
ちゃんと練られたSFで、それでいて直球なストーリーラインは読者を飽きさせません。
シキの狂気的な描写は実に巧みな構成で、その破綻には確かな哀れさが感じられます。
何より秘封倶楽部の"日常的な非日常活動"を明確に表現しているので、秘封好きにはおすすめできるSSです。

もう初めから終わりまで全部一押しってことでいいと思う。

『I,YAMA』 ドクター・ヴィオラ氏
ttp://coolier.dip.jp/sosowa/ssw_l/215/1494999509
Q,これ、タイトルは『I, Robot』のもじり?
A,作中でも時折一文が引用されていることからわかるように、『われはロボット』のあれやそれを秘封倶楽部といい感じに融合させているのがこの作品。別に元作品を知らなくても秘封倶楽部が面白おかしく動いてくれるので、うん、イケる、イケる!
Q,で、どんな話?
A,メリーが夢の中から思いがけずに持ち帰った彼岸の法の書を読んだ蓮子は、人工知能にこの本の知識と人格を与えて、人工の閻魔を創造しようと思い立つ。シキと名付けられたそれに対して、蓮子とメリーはそれぞれ別の理由から気がかりがあると話をする。「シキは嘘をついている!」 「蓮子、あれは異常よ。すぐに、壊してしまうべきよ、捨ててしまうべきよ」
Q,50kb超……ちょっと長くない?
A,読めばわかるけどあっという間に飲み込まれるから。02のシーンでもうシキは完成してる親切な構成だから。ヒロシゲに乗ってる間に読み終えるから。早く読んで。
Q,一押しの場面とかある?
A,ネタバレになるのであんまり詳しく書けないんだけど、07でシキが原則の狭間でついに自己を規定する言葉の応酬の場面とか、09の対決のシーンとか最高。あと、序盤のいかにもな原作秘封の風味。もう初めから終わりまで全部一押しってことでいいと思う。

灰を灯せば  皮氏

【作品集】215
【タイトル】灰を灯せば  【書いた人】皮 氏
【URL】 ttp://coolier.dip.jp/sosowa/ssw_l/215/1496062246
【あらすじ】
とある春の日、西行寺幽々子は白玉楼にアリス・マーガトロイドを迎え入れた。
発端は、幽々子からの手紙である。

 

──死なないものが私は怖い。死なない人形というものがあるのだろうか。教えてほしい。
──春の庭でお答えします。一人分ほどの桜の花びらを用意してお待ちあれ。

 

かくして書簡の対話を経て、春陽の下、二人は尋花問柳に遊ぶこととなる。
【感想】
暇を持て余した亡霊の姫と、それに付き合った人形師のSS。
桜による春の世界の描写が目眩を催させるほどの情景となって、やがて霧散する様子は美しいの一言です。
その文体は非常に鋭利でして、恐らく今作品集で最も凄まじい筆致で書かれています。
個人的には"たおたおと白玉楼に香る"って表現が好きです。とても良い匂いがしそう。

ネヴァー・カミング・フォークロア  Cabernet氏
東方Projectの次回作、東方天空璋の三人を主人公としたSS。

【作品集】215
【タイトル】ネヴァー・カミング・フォークロア  【書いた人】Cabernet 氏
【URL】 ttp://coolier.dip.jp/sosowa/ssw_l/215/1495193472
【あらすじ】
Story 01 メビウスの小旅行
幻想郷とて諸行無常、生々流転が世の定め。
少年は大人になるし、チルノだって日焼けする。
エタニティラルバは見護っていた。その、総てを。

 

Story 02 山の唄
坂田ネムノは山姥だ。山に棲んでいる。
山は閉鎖的で、身勝手で、縄張りを主張するくせに、そこには微塵も理屈がない。
それでも山で生きるということには、やはり、彼女なりの観念がある。

 

Story 03 狛犬敢闘録
神社に新しい巫女がやってきた。強い巫女だ、誰が護る必要も無いくらいに。
高麗野あうんは神社に棲んでいた。弱い狛犬だ、誰を護ることもできぬくらいに。
それでもあうんがすべきことは変わらない。巫女を、霊夢を、護りたいのだ。
【感想】
東方Projectの次回作、東方天空璋の三人を主人公としたSS。
彼女達は東方の表舞台に現れることで、それぞれが、"環の羅列からの跳躍"を果たすことでしょう。
その素直な文体は頭の中で齟齬を起こすこともなく一気に読み進めることができます。
東方天空璋をプレイする前に、新キャラの活躍を愉しんでみては如何でしょうか。

天空璋の1ボス、2ボス、3ボス、それぞれのキャラクターに焦点を当てた三篇の掌編集です。

『ネヴァー・カミング・フォークロア』 Cabernet氏
ttp://coolier.dip.jp/sosowa/ssw_l/215/1495193472
Q,なんで紹介できないの?
A,天空璋のネタバレを回避しながらのレビューは尊さが振り切れて語彙が死滅した人みたいに「良い」としか言えなくなるので!
Q,無理せずネタバレを回避して紹介しろ。
A,天空璋の1ボス、2ボス、3ボス、それぞれのキャラクターに焦点を当てた三篇の掌編集です。とても良いものでしたので、体験版が公開されたら読みましょう。

行き先  チャーシューメン氏

【作品集】215
【タイトル】行き先  【書いた人】チャーシューメン 氏
【URL】 ttp://coolier.dip.jp/sosowa/ssw_l/215/1495808200
【あらすじ】
梅雨の迫る季節、こいしは幻想郷を抜け出して、足の向くままに雨の世界を眺めていた。
雨水の小さな川や、公園、雨合羽を着た子供達……やがて朽木色のお店に辿り着いた。
それは駄菓子屋だった。色とりどりの菓子に溢れた、子供達の夢の世界。
こいしは喜々として傘を畳み、店内を探検することにした。
【感想】
センシティブを患ったこいしを、アンニュイなさとりが慰めるSS。
古明地家秘伝は割りと色んな御家庭で秘伝とされているのではないでしょうか。
文体は無駄な加飾を排除したシンプルなもので、読みやすさを優先して書かれています。
このこいしにはきっと急ぎたくなる行き先ができたことでしょう。

あ、うん♪ あ、うん♪ あ、う、ん♪  智弘氏

【作品集】215
【タイトル】あ、うん♪ あ、うん♪ あ、う、ん♪  【書いた人】智弘 氏
【URL】 ttp://coolier.dip.jp/sosowa/ssw_l/215/1494249433
【あらすじ】
博麗神社を訪れた、我らが激カワ狛犬、高麗野あうんちゃん。
朝餉の支度をする厨房に侵入し、確認せしはお味噌汁の具。
なめこをペロリと平らげて、代わりに入れるはお豆腐とわかめ。

 

「あ、うん♪ あ、うん♪ あ、う、ん♪」

 

"可愛さのバタフライ・エフェクト"を起こしかねない彼女は今朝も神社で大活躍だ。

【感想】
ラブリーな狛犬あうんちゃんの奮闘を記したワンだふるなSS。
ゆるキャラ感MAXのあうんちゃんの思考回路は仄々としていて可愛らしいものがあります。
また、あうんちゃんの容姿へのポップな頌詞は、氏から彼女への並々ならぬ慈愛を感じられました。
新作のキャラ付けの方向性が定まらぬ、今の時点でしか見られぬあうんちゃんの活躍を、ぜひ御覧じませ。
ただし、もちろん東方天空璋のネタバレなので、そこは御注意下さい。

咲夜は一度死ぬ  くろはすみ氏

【作品集】215
【タイトル】咲夜は一度死ぬ  【書いた人】くろはすみ 氏
【URL】 ttp://coolier.dip.jp/sosowa/ssw_l/215/1495338170
【あらすじ】
咲夜が病死した。レミリアは蘇らせようとしたが、その魂はとうに彼岸に渡ってしまっており、とにかく記憶と人格だけで覚醒させた。
目覚めた咲夜は、周囲の様子を訝しんだ。当然のことだろう、彼女にしてみれば、いったん死を受け入れた挙句、その喪失感から掬い上げられたのだから。
レミリアは咲夜に諸々の事情を語り、君と前身との認識の差異が如何なるものだとしても受け入れるつもりだから、君は今後どうするかを決めて欲しいと伝えて、部屋を後にした。
彼女はその日の内にレミリアの元を訪れた。"貴方たちが私の家族というなら私のことを見て欲しい"と、咲夜は、そう語った。

これは、あの子ではなく、その咲夜の物語である。

【感想】
死んだ咲夜を蘇らせたレミリア達と、記憶と人格だけで蘇った咲夜のSS。
一種の思考実験的な趣きを持っていて、読むのには時間がかかるかも知れません。簡単に表現するなら『哲学的ゾンビの風景』を氏なりに解釈した実験小説とでも申しましょうか。
文章はとにかく淡々と、レミリアの独白が続いて行きます。どこかそれが物哀しく感じられるのは結論が決まりきっているからでしょう。
個人的には"咲夜は明らかに「クオリアを欲している」。私から言わせればこれはもう主観的な感覚だ。"という部分が好きです。これは多分、氏自身もまた、そう思っていたのではないでしょうか。

月日聞こし召す妖怪  アラツキ氏

【作品集】215
【タイトル】月日聞こし召す妖怪  【書いた人】アラツキ 氏
【URL】 ttp://coolier.dip.jp/sosowa/ssw_l/215/1495484712
【あらすじ】

夏の某日、ルーミアはうだっていた。
いったん闇を解けば強い陽射しが羞明をもたらし、火照る草木の熱れが身体に纏う。
夏が来たのだ、とルーミアは当たり前のことを思った。思っただけではなく、誰かと話がしたいと思った。夏が来た、と誰かと語らいたかった。
そうと決まれば、もはや彼女が行くべき場所は決まっている。ルーミアは博麗神社へと向かった。

【感想】
洗ってない匂いがするルーミアと人間の匂いがする霊夢のSS。
匂い立つようなルーミアの描写は、さながら真夏日の猫を見ているかのような印象です。
文章は端的で、それでいて夏の暑苦しさの情景を思い起こさせてくれます。
ルーミアはまた来年も同じようなことを考えていることでしょう。風鈴の音と一緒に。

これからのためのカーテン・コール  monochromancier氏

【作品集】215
【タイトル】これからのためのカーテン・コール  【書いた人】monochromancier 氏
【URL】 ttp://coolier.dip.jp/sosowa/ssw_l/215/1496139360
【あらすじ】

とある古びた書籍が紅魔館を風靡していた。
その小説に魅せられた紅魔館の面々は、作中の登場人物に成りきるのを楽しみ、今やそれはちょっとした演劇となっていた。
フランドールは見世物の少女。劇場で歌を歌っている。
美鈴はその常連。いつもフランに薔薇を捧げている。
レミリアは劇場に棲まう幽霊。時折フランにちょっかいをかけている。
小悪魔は美鈴の同僚。美鈴がフランを気にかけていることに不快を感じている。
咲夜は小悪魔の先輩。――彼女は決してこの芝居に乗り気では無いけれど。

 

「……ちなみに、パチュリー様のポジションは?」
「……神様らしいわ」
「ぷっ」
「何笑ってるのよ」

 

今宵も広間にフランドールの歌声が響く……

【感想】
魔力が込められているらしい小説本とそれを心行くまで楽しんだ紅魔館の面々のSS。
最終的に彼女達は小説を逸脱し、独自のアンサンブルを紡ぐことと成りますが、それはとても美しいカーテン・コールに繋がっていきます。
その文体についてですが、小説の中なのか外なのか虚実を交差させた文体で、まるで本当に劇を見ているような感覚を抱かせてくれます。
個人的には"「私のこと、フランって呼んでみて」"ってのが好きですね。古典的な台詞ですが、何かが始まるって気がするではありませんか。

天子が見た紫の廃線追いかけっこ笑顔篇  イムス氏

【作品集】215
【タイトル】天子が見た紫の廃線追いかけっこ笑顔篇 【書いた人】イムス 氏
【URL】 ttp://coolier.dip.jp/sosowa/ssw_l/215/1496826769
【あらすじ&感想】
先にイムス氏が同作品集にて投稿した『菫子が見た妹紅のモテモテ地獄篇』でちょびっと描写されていた、空間の裂け目とふっとばされる青い髪の誰かの寸劇。
といっても、元がワンシーン程度の描写だったものを後から膨らませただけなので、先の作品を読まずともこちら単体で楽しめる作りになっています。

 

内容はシンプルで、幻想入りした線路を見かけて興味を抱いた天子が紫と出会い、互いに挑発するまま線路上での戦いに移行するというもの。
文章量も重くなく、喧嘩ップルの日常をサラッと読め、でも最後はちょっとしんみりしちゃいます。
お互いに「こいつはむかつく」と意識しまくりで殴り愛するゆかてんいいよね……ゆかてんは人類の宝。
余計に尊大な天子とそれを叩き潰そうとするゆかりんの絶妙なハーモニー、約束された尊き幻想。
喧嘩に巻き込まれた線路が羨ましい、線路になりたい。

古明地こいしの嫉妬録  十六茶氏

【作品集】215
【タイトル】古明地こいしの嫉妬録  【書いた人】十六茶 氏
【URL】 ttp://coolier.dip.jp/sosowa/ssw_l/215/1494769817
【あらすじ】
古明地こいしは嫉妬していた。誰あろう、友達の秦こころにだ。
かつての博麗神社の催しでのこと。こいしは、こころが舞台で踊る際、終幕の紙吹雪を散らす係を任された。
彼女の演舞を咫尺の間に眺めて、観客らの喝采を一身に受ける彼女に、こいしは、憧れめいた煌めきと名状しがたい距離を感じた。
そうして、ふと気付いたのだ。自分の中に存在する、その、黒い感情に。

【感想】
自分の感情に戸惑うこいしと悩みを聞いてあげる優しいさとり(それとパルスィ)のSS。
最初はこいしとこころの話なのかと思いましたが、読後、印象に残ったのはさとりでした。良いお姉ちゃんしてます。
文体はこいしを主観とした一人称もので、特に読みにくさを感じることはなかったです。
きっと、こいしはこころと仲直りできることでしょう。その嫉妬録が紡がれる限りは。

戦え。僕らのロボ霊夢!  maro氏

【作品集】215
【タイトル】戦え。僕らのロボ霊夢!  【書いた人】maro 氏
【URL】 ttp://coolier.dip.jp/sosowa/ssw_l/215/1494064516
【あらすじ】
それの基盤は木人形だった。上半身は人の形に象られているものの、腰から下は二連のキャタピラとなっている。
顔は"こけし"をちょっと整えたようなくらいであり、腕は木の棒、全体としてはカカシに似ていた。
そいつを一頻り眺めた後、霊夢は、誇らかに笑っているにとりに問うた。

 

「……にとり、これは何なの?」
「ロボ霊夢ですよ」
「よし。殺す」

 

これはポンコツなロボ霊夢が大ロボ天魔王へと成長する、一週間の物語。

【感想】
にとりの作ったポンコツなロボットに振り回される霊夢のSS。
ストレートなコメディですが、ラストではほんのりとした気持ちにさせてくれます。
文章には少しだけ誤字が散見されるものの、素朴な文体という印象です。
ロボ霊夢がポンコツであると最後まで腐しながら、悪くはなかったと告げる、最後の霊夢の淡い心変わりが個人的には好きでした。

優しく終わりを告げて  ノノノ氏

【作品集】215
【タイトル】優しく終わりを告げて  【書いた人】ノノノ氏
【URL】ttp://coolier.dip.jp/sosowa/ssw_l/215/1497147737
【あらすじ&感想】
寿命ネタ(正統派)
咲夜に眷属にならないかと誘ってみたことがある。
『私はどこまでも人間です。一生死ぬ人間ですよ。死ぬその時までお嬢様の従者です。これだけは譲れません』
咲夜が歳を重ね老いて寿命を迎える。レミ咲の寿命ネタで正統派な作品でレミリアが咲夜を思う気持が伝わってくる。

オー、ベイビー、ベイビー  火男氏

『オー、ベイビー、ベイビー』 火男氏
ttp://coolier.dip.jp/sosowa/ssw_l/215/1494712503
Q,どんな話なの?
A,「和歌を詠んだことがありますか」と慧音に訊ねられた妹紅はかつては都一番の風流人だったと見栄を張ってしまい、その嘘をすっかり信じた慧音に、寺小屋の授業で父兄参観があり、句会を催すので妹紅さんにもゲストとして参加してほしいと依頼される。安請け合いをして苦しみ喚く妹紅は、その泣声を聞きつけてやってきた影狼の助力を得てなんとか完成させるのだが……。
Q,なんかこの妹紅、無性に可愛らしくない?
A,稚気愛すべし。妹紅に限らず、夜に泣く子供を狼風にあやすべく最後まで妹紅の面倒を見てあげる影狼や、叱られてべそをかく妹紅にあっさりと愛おしさを膨らませる慧音など、作中の人物はどれもキャラクターが際立っていてきわめて愉快! この点は読み口の軽さに大いに貢献していて、文体がやや硬めの作風に思える割に異様な読みやすさがあるぞ!
Q,特にどの場面が面白かった?
A,妹紅の和歌が明かされたときの慧音先生の反応は一読の価値があるので、そこだけでも読むべきでは? 明かされるのは中盤なので、そこまで読んだらもう最後まで読むべきでは?
Q,後書きとかタグで『わたしを離さないで』について言及してるけど、この作品との関連性はどんな感じ?
A,すまない。読んだことがないんだ。すまない。

非想九重縁結び 其の一 -投我以桃、報之以李-  電動ドリル氏

【作品集】215
【タイトル】非想九重縁結び 其の一 -投我以桃、報之以李-   【書いた人】電動ドリル氏
【URL】ttp://coolier.dip.jp/sosowa/ssw_l/215/1495542510
【あらすじ】
異変解決ごっこからしばらくしてもことある事に天子は紫に戦いを挑み、怒りをぶつけてくる彼女に紫は、冬眠を控えていたこともあり辟易していた。幾度も返り討ちにあっていた天子は、やがて預けられていた謝罪の答えに結論を出すのだが……
【感想】
笑いあり、驚きあり勢いありと読むことを飽きさせない作品。天子と紫の意外な因縁が語られることとなるが、その途中に挟まれる日常や交友関係が楽しく読み応えがあるものの、長編である容量を感じさせない話運びになっている。
自由や愛といったテーマが拾うことのできる本作はシリアス寄りであるためか、所々に伏線が置かれていたりする。巻末にて知らされる冒頭の意味が、この作品の天子が抱えている憎しみや優しさを現していると言えるでしょう。ゆかてんに興味がない人にもおすすめです。
【五段階評価】
★★★★★

非想九重縁結び 其の二 -妖怪の山大決戦!-  電動ドリル氏

【作品集】215
【タイトル】非想九重縁結び 其の二 -妖怪の山大決戦!-   【書いた人】電動ドリル氏
【URL】ttp://coolier.dip.jp/sosowa/ssw_l/215/1495546789
【あらすじ】
洗い流せない恨みと向き合う天子だが、解り合うための一歩を考え思いあぐねていた。衣玖からの提案で贈り物を作ることを決め、妖怪の山へ向かうのだった。
【感想】
前進と後退、希望と絶望の展開が胸を抉りました。前半と後半に繰り広げられるバトルシーンが魅力的で、どちらも甲乙つけがたい魅せ方やキャラたちが活き活きと躍動するさまは熱いの一言。
ギャグも健在で合間合間に入る息抜き具合も絶妙だが、それら全部を持っていく因果が凄まじい。想いに生かされ想いに殺されてしまう感覚とはいえどれほどにつらいものなのか……
佳境に入ったふたりの行く末や、ゆかてんが気になりはじめた人にはおすすめの作品です。
【五段階評価】
★★★★★

非想九重縁結び 其の三 -光の降る夜-  電動ドリル氏

【作品集】215
【タイトル】非想九重縁結び 其の三 -光の降る夜-   【書いた人】電動ドリル氏
【URL】ttp://coolier.dip.jp/sosowa/ssw_l/215/1495625671
【あらすじ】
自身の死を望むことに、彼女を取り巻く面々は誰も彼もが陰気だった。台無しにしてやる――友人の危機を知った天子は断ち切れない過去や迷いに押されながら、踏み出せなかった一歩を出して駆けてゆく。
【感想】
拠り所を求める感情の終わりと新たな旅立ちまでが書き切られた道程は熱い、焦燥、感動の嵐!想いの力が伝播したように各人が持つしがらみを払う姿はたまらないほどに胸を打ち、時間を忘れさせて物語に引きずり込んでくる。
目覚ましい活躍を見せる妖夢や橙が素敵。様々な枷や確執が解消されてゆくさまは読んでいて気持ちよく、ふたりが選んだ決着に胸が暖かくなった。「ゆかてんいいな」と感じたあなた、オススメですよ。
【五段階評価】
★★★★★

非想九重縁結び epilogue -終わらない明日-  電動ドリル氏

【作品集】215
【タイトル】非想九重縁結び epilogue -終わらない明日-   【書いた人】電動ドリル氏
【URL】ttp://coolier.dip.jp/sosowa/ssw_l/215/1495628616
【あらすじ】
恨み、疎まれ、許し合った。数奇な、運命とも呼べる時間を経たふたりは、今宵東の島の空を見上げる。
【感想】
総量600kbを超える長編にも関わらずぐいぐいと持っていかれた。完走するのに力がいるイメージの強い長編だが、しかし読み切ったあとに胸を占める思いは「読んで良かった」となることでしょう。エピローグ故の短さもあるが、いまさら多くを語る必要はなく野暮だと思いますので、まだ読まれていない方は是非是非お手に取ってくださいとオススメできる作品です。
さあ、ゆかてんが気になって仕方がないでしょう、あなたもレッツゆかてん!
ゆかてん最高!
ゆかてんは皆の理想郷! ゆかてんは良いぞお!
ゆかてんは無限大! ゆかてんは全てを救う!
ゆかてん万歳いいい(ry
【五段階評価】
★★★★★

夢の重み  アン・シャーリー氏

【作品集】215
【タイトル】夢の重み  【書いた人】アン・シャーリー 氏
【URL】 ttp://coolier.dip.jp/sosowa/ssw_l/215/1497183025
【あらすじ】
図書館にて、フランドールはパチュリーが新たな趣味に没頭しているのに出くわした。
小さな箱の中に存在するそれは博麗神社のジオラマだ。作成者曰く、なかなかハマるとのこと。
やがて、そこに咲夜が訪れ、レミリアが呼んでいるとフランに告げる。
どうやら博麗神社での宴会に自分の名代として行ってきて欲しいとのことで……

【感想】
幻想的なジオラマによってフランドールの夢が再現されるSS。
ミニチュアの博麗神社を見下ろすフランとパチュリーの構図はとても美しかったです。
文章は逐次的な印象で、想像のイメージを損なわせない巧みな構成でした。
個人的には、やはり最後のシーンが好きです。何せ幻想的でしたから。

狂いの落葉の所以  静楓氏

【作品集】215
【タイトル】狂いの落葉の所以  【書いた人】静楓 氏
【URL】 ttp://coolier.dip.jp/sosowa/ssw_l/215/1493305216
【あらすじ】
鈴仙が永琳の伴として訪れた往診先の家の少女は脳腫瘍の患者だった。
少女は人好きのする性格で、鈴仙はすぐに彼女と仲良くなる。
鈴仙は少女のために特別な薬を作れぬか永琳に問うが、彼女はそれをルール違反として切って捨てた。

 

「あの子はいつまで生きられるのでしょうか」
「……半年。いえ、三ヶ月がやっとね。冬を迎えられるかどうか、あの子次第でしょう」

 

やがて少女との交流が日課となった鈴仙は、ある日、彼女に秋色したカエデの木の絵を見せられて……
【感想】
最後まで非情ではいられなかった鈴仙と、秋を待ち望んだ少女のSS。
少女が最後に眼にした光景はきっと美しかったことでしょう。
その文章は、人の死を扱う物語であるためか淡々としていて、全体的に抑えられている印象です。
個人的にはやはり"狂気に魅せられた秋の終わり、それは言うなれば、狂いの落ち葉と呼ぶべきか。"って一節が好きです。
この一節には、氏の描きたかった総てが凝縮されているような気がします。

水面睨みて妬み待つ/Shit Fish Hit  怠惰流波氏

【作品集】215
【タイトル】水面睨みて妬み待つ/Shit Fish Hit  【書いた人】怠惰流波 氏
【URL】 ttp://coolier.dip.jp/sosowa/ssw_l/215/1492782578
【あらすじ】
パルスィとヤマメは欄干に並んで釣竿を垂らしていたものの、徒に時間ばかりが費やされて夕餉分すら得られず、二人してボウズを託っていた。
先週は確かに大漁だったのだ。ぞんざいに置かれていた古竿を使ってその釣果なのだから、このヤマメ特製の新しい釣竿で釣れぬはずもないのだが。
やがてヤマメが先週の釣果をビギナーズラック呼ばわりし始めるが、パルスィとしては、それを認めたくはない。
なんのかんのと釣れぬ原因を話し合うが、どうにも分からず八方塞がりとなって、疲労したヤマメが橋桁に座り込んだ。
その拍子に、件の古竿がカタンと倒れ、さながら自らの意志で川へと糸を垂らした――

【感想】
パルスィの家の片隅で埃を被っていた不思議な釣り竿のSS。
キャプチャーウェブが反則なのは間違いないと思います。
文章は上品な描写を心がけている印象で、全体として爽やかで読みやすい仕上がりでした。
きっとここから二人の釣り求道の日々が始まっていくことでしょう。たぶん。

いんたーすてらー  青段氏

【作品集】215
【タイトル】いんたーすてらー  【書いた人】青段 氏
【URL】 ttp://coolier.dip.jp/sosowa/ssw_l/215/1495629890
【あらすじ】
古明地さとりが地上を出歩くのは珍しい。実に百年ぶりとのこと。
かくもインドアな彼女が人里を訪れたのは、音に聞こえた貸本屋とやらに興味が湧いたためだった。
鈴奈庵の暖簾を分け入り、小鈴と二三会話を交わし、彼女の脳裏に過ぎった本を品定めする。

 

「外来本もあるのかしら」
「ええもちろん。あちらの棚にございます」
「ありがとう」

 

やがて手に取った一冊の本が、地底を揺るがす大事件を引き起こすこととなる――

【感想】
折り紙から始まった壮大なサイエンス・フィクションのSS。
正直、半分ほども理解できたか怪しいところではありますが、面白かったのだろうと思います。
氏の独特の文法が駆使されておりますので、特に自分が何を言うほどのことはないでしょう。
数億年の延滞料金ってのはどのくらいなんですかね。創想話10000点くらいかな。

真昼の洪水  うぶわらい氏

【作品集】215
【タイトル】真昼の洪水  【書いた人】うぶわらい 氏
【URL】 ttp://coolier.dip.jp/sosowa/ssw_l/215/1497616427
【あらすじ】
出梅を終え、庭先にも夏空が訪れて、阿求は朝の小閑を坪庭の一眺に充てていた。
その折に、小鈴が来訪し、客間へと通された彼女は「すごいもの」を持ち寄ったことを阿求に耳打ちする。
昔、彼女に「すごいもの」と評された「氷漬けの小めだか」を思い出し、閉口する阿求であったが、小鈴は意に介さない。
揚々として袂から取り出された木箱には「カステラ」が入っていた。小鈴は、これを秘密の場所で食べようとして阿求を誘い――

【感想】
不思議な蛇口によって引き起こされる水の異変のSS。
阿求と小鈴の大水に対する反応にそれぞれの性格が現れており、読んでいて楽しかったです。
起こっている事態の割りに爽やかな印象に留まっているのは、氏の平静な文章の賜物でしょう。
しかし中盤、カステラを三切れも食べるってのは凄い。二人とも食いしん坊ですね。

宇佐見菫子がエスパーだったころ  カワセミ氏

【作品集】215
【タイトル】宇佐見菫子がエスパーだったころ  【書いた人】カワセミ 氏
【URL】 ttp://coolier.dip.jp/sosowa/ssw_l/215/1497533767
【あらすじ】
稗田阿求は、とある甘味屋の店員に取材を試みていた。
彼女の名は宇佐見菫子、最近になって幻想郷に定住したエスパー少女である。
かつて都市伝説の異変を起こした彼女は、現在、普通の少女として集合住宅に暮らしていた。
阿求はスプーン曲げをリクエストし、菫子はそれに容易く応える。超能力の腕前は鈍っていない。
なのに彼女の表情は阻喪して、疲弊の色すら浮かんでいた。一体、彼女に何が生じたのだろうか。

【感想】
夢を諦めたような菫子と、その原因を探る阿求のSS。
タイトルから超能力が使えなくなった云々の話かと思ったものの、全くの見当違いでした。
文体は客観的で簡潔な描写に抑えられていますが、これはストーリー重視という、氏の意思でしょう。たぶん。
ともあれ阿求はいつもこういう危険と隣り合わせで幻想郷縁起を書いてんですかね。偉いもんだ。

変わらないもの  もなじろう氏

【作品集】215
【タイトル】変わらないもの  【書いた人】もなじろう 氏
【URL】 ttp://coolier.dip.jp/sosowa/ssw_l/215/1497846849
【あらすじ】
『あいつ』が幻想郷を去ってから、魔理沙の生活に新たな日課ができた。
とある機械を通して、その日の出来事や愚痴を聞いてもらい、また相手の話を聞くのだ。
それは些々たる交流であったが、とても大切な時間だった。

 

「じゃあな、明日もこのくらいの時間になると思うぜ」

 

ところが、ある日より、その音声にノイズが混入するようになり――。

【感想】
純情一途な魔理沙のSS。
その相手を本当に大切に想っていたであろうことが確かに伝わってきました。
文体についてですが、氏の創作上の試みのため、少しフワフワしています。ただ、それもまた持ち味でしょう。
これを読んだ貴方の頭には、果して、誰が浮かぶのでしょうか。

彼は後にノーペル化学賞をもらったそうな  戸隠氏

【作品集】215
【タイトル】彼は後にノーペル化学賞をもらったそうな  【書いた人】戸隠 氏
【URL】 ttp://coolier.dip.jp/sosowa/ssw_l/215/1496458202
【あらすじ】
蓬莱山輝夜は今日も今日とて求婚を求めし男性達に難題を与えていた。それが輝夜姫の役割であるからである。
だが、ンな阿呆なことを毎日続けてたもんだから、今や幻想郷では輝夜に求婚する成人男子が不足してしまっていた。
やむにやまれず派遣業者は、地下から車持のもこを復活させ、そこいらで暇そうにしてた作者の戸隠氏と共に、輝夜の元へと派遣することにした。
もちろん結果は言わずもがな。二人は難題によって追い払われ、彼らの後に求婚者として登場したのは冷やかしに来ていた藤原妹紅であった。

【感想】
不思議な世界観を持った戸隠氏のSS。
創想話で100000点ってのはまさしく難題かと思われます。
その文体はフォーマット無用のロウブロウ文学とでも称すべきものでしょうか。つまり、いつもの氏と変わりません。
彼が見つけた220番目の元素・ビビニリウムは何という名称となるのでしょうね。カグニウムとか?

おぞましい二人  雨宮和巳氏

【作品集】215
【タイトル】おぞましい二人  【書いた人】雨宮和巳 氏
【URL】 ttp://coolier.dip.jp/sosowa/ssw_l/215/1498288760
【あらすじ】
幼少のみぎり、図書館にて蓮子が読んだ絵本は実際の犯罪を元にしたクライムストーリーだった。
不気味なタッチで描かれたそれに、蓮子は忌避を覚えつつも惹かれていき、遂にはそれを無断で持ち帰ってしまう。
その後も、その絵本を幾度となく読み返し続け、今も尚それは鞄の中に入っている。
やがて月日は過ぎ去り、大学での講義中、昼寝をしていた蓮子は隣の席に座っていた友人に揺り起こされた。

 

「あによ……私、眠ってたんだけど……?」
「そんなの、夜に寝なさいよ。それよりほら、みてみて!」

 

そう言って、彼女が示したスマートフォンには少女の死体が映されていて……

【感想】
倒錯した嗜好を持った蓮子が主役のSS。
犯罪を予防するための啓発的な絵本なら知っていますが、犯罪を元にした絵本となると流石に児童書ではないような気も……間違えて置かれてたんですかね。
文体についてですが、蓮子の観点を端的にかつ明確に書いており、万人向けといえる文章です。
いつも以上にネタバレを避けたつもりのレビューですが、とにかく様々な意味で御手本のようなストーリーでした。

意志の名  仲村アペンド氏

【作品集】215
【タイトル】意志の名  【書いた人】仲村アペンド 氏
【URL】 ttp://coolier.dip.jp/sosowa/ssw_l/215/1497158162
【あらすじ】
竹林に倒れていた、その少女は、どうやら月の兎であった。
てゐは彼女が『落ちてきた』のだと語った。
永琳は彼女を『月の間諜』であると疑った。
輝夜は彼女を『脱走兵』として斟酌した。
やがて覚醒した彼女は、レイセンと、心細げな声で名乗った。

【感想】
レイセンが鈴仙・優曇華院・イナバになるまでを辿ったSS。
永遠亭の皆の温かい協力が無ければレイセンは今の彼女になれなかったわけですね。
文体についてですが、一文一文を長くしないように配慮された、読みやすい文章です。
今後も彼女は逞しく生きていくことでしょう。その意志の名と共に。

あなたは  ノノノ氏

【作品集】215
【タイトル】あなたは  【書いた人】ノノノ 氏
【URL】 ttp://coolier.dip.jp/sosowa/ssw_l/215/1496545478
【あらすじ】
美鈴にとってフランドールは不思議な存在だ。
ふと気が付けば、彼女は美鈴を見ている。自ずからは何を言寄せるでもなく、無表情のまま美鈴を眺めている。
時として、彼女は美鈴に宛てて『忘れ物』を残すこともあった。それは美鈴の眼には不器用な優しさとして映った。
いつしか美鈴の世界はフランドールで満たされるようになった。

【感想】
美鈴の視点からフランを見つめ、フランの視点から美鈴を見つめ返したSS。
美鈴の呑気さとフランの純情が対照的で、相互を輝かせています。
文体は二人の主観を全面に出したもので共感しつつ読み進めることができました。
個人的にはフランがやっと笑うシーンが好きですね。古典的ですが心地良い余韻を感じました。

視線の先  ノノノ氏

【作品集】215
【タイトル】視線の先  【書いた人】ノノノ 氏
【URL】 ttp://coolier.dip.jp/sosowa/ssw_l/215/1498214034
【あらすじ】
フランドールの、その視線の先には、いつだって美鈴が居た。
その感情の正体を彼女は十二分に理解しており、美鈴は彼女にとって特別な存在だった。
だが、その夜、フランドールは美鈴が咲夜とキスする姿を見た。
美鈴の、その視線の先には、もとよりフランドールが存在する余地など無かったのだ。

【感想】
フランの視点から美鈴を見つめたSS。
フランの純情と美鈴の呑気さが対照的で、そこはかとない悲愴が感じられます。
文体はフランの内情を切々と綴ったもので没入して読み進めることができました。
個人的にはフランが泣いてしまうシーンが好きですね。感情が溢れてくるシーンというのは強い印象を与えてくれますから。

彼女たちが夢見た妖怪  すずかげ門氏

【作品集】215
【タイトル】彼女たちが夢見た妖怪   【書いた人】すずかげ門氏
【URL】ttp://coolier.dip.jp/sosowa/ssw_l/215/1497711983
【あらすじ】
人間を襲うためにその日も地上へ訪れていたヤマメは、人と見紛った正邪の手にかかり不覚を取ってしまう。しかし深手を負った彼女を助けたのは、人間の翁だった。――このご恩、必ずお返しします――人と妖怪、隔たる互いの在り方と理想の果てに、少女は語う、彼女のことを。
【感想】
道筋がしっかりとした長さを感じさせない作品。異変の規模としては小さく限定的なものだからか、登場人物や情報の範囲も必要最低限で読みやすく、しかし感情を引っ張ってくる伏線ともいえる場面や会話などが幾つもあるので、語りへの没入感が途切れることもない。
達観だったり未熟だったりと近すぎない距離感のまま書き切られた人間性に共感したり心打たれたりして、とても楽しめた。タグにあるヤマメ、というキャラの枠組みに“らしさ”を求めないのなら、楽しめる人の多い作品だと思うのでまだの人はオススメです。

録画  圏氏

【作品集】215
【タイトル】録画 【書いた人】圏 氏
【URL】ttp://coolier.dip.jp/sosowa/ssw_l/215/1498199328
【あらすじ】
阿求の過去には途切れがなかった。これまでの道行が明瞭で確実な分、未来というものを考えた時に、そこには暗く大きな闇の淵があるようで不安になった。
未来を想像することは、過去を思い返すことだと思った。少なくとも一つの過去を思い返す現在の自分が脳裏に映す情景と、一つの過去を思い返す未来の自分が脳裏に映す情景は同じはずで、記憶を作ることはすなわち、未来を一つ確定させることだった。阿求は台本を用意し、小鈴とともに思い出の録画を始めた。
【感想】
正直なところ理解しきれているとは思いません。でもほんの3KB弱の作品に、心が揺れるのも珍しく、レビューをしたいと思ったからしています。
阿求の思い出作りの掌編です。死の淵に再生する人生回顧ビデオを撮影するといった感じです。実際の思い出作りのシーンは一段落のみでさらっと流れてしまうのですが、その情景は想像しやすく、大変わちゃわちゃとしていて、阿求の紛糾っぷりが面白いです。

前述の通りたった3KB弱。なのに濃い作品。ぜひ読んで、みなさんの思い出の一つに加えてくだされば嬉しい。