アーカイブ:(固有名詞 | 遺物 | キャラクター | 星神 | 敵対種 | 派閥 | 光円錐 )
本棚:(入手場所|内容:宇宙ステーション「ヘルタ」 | ヤリーロ-Ⅵ(1) | (2) | (3) | 仙舟「羅浮」(1) | (2) |(3) |ピノコニー(1)| (2) |オンパロス (1)|(2)|(3)|紡がれた物語|二相楽園|(2)|楽園ヘッドライン|ぽんぽこ通信|収録なし)
◆がついているものは内容が不足しているものです。
Ver3.4時点で124項目。内45項目。
- オンパロス開拓日誌
- アクモンのメモ
- ニンフとの往復書簡
- オロニクスの目に映る世界
- モーディスの母、ゴルゴ―の遺書
- 牽石学派の新人用鍛錬指南書
- サーシスの二元性について
- 帳の外
- 幻覚を見たものの手記
- キメラ作業マニュアル(第三次改訂版)
- キメラ管理人の伝説
- 懺悔録
- サフラン花蕊の調理法
- 出せなかった家族への手紙
- 七賢人の議定書
- 結縄学派の募集要項
- 赤陶学派の意識論基礎
- メルテスの密書
- 落涙集
- 破れた神馬のルート記録
- パズルの推論記録・神殿所蔵
- 予言の真相に関する考察
- 送ることのできなかった樹庭の定期報告書
- 樹庭の植物に関するガイド石板抜粋
- ある赤陶学者のエッセイ(抜粋)
- 儀式の地域的特徴について(抜粋)
- 命運季の歌
- 神性の反響:門と道
- 神性の反響:理性
- 神性の反響:浪漫
- 「民会」に関する考察
- 「民会」に関する談話記録
- 開拓者のリトル・アザラシチーム選手変更について
- 神性の反響:死
- 神性の反響:世負い
- 神性の反響:法
- アルティッカスのケファレ神託集
- 黎明の崖受付グループの業務日誌
- 「黄金紀復興」の宣伝冊子
- 死についてわかっていること
- 錬金術手帳の残編(抜粋)
- ステュクスの満ち引きについて(残編)
- 宝箱で見つけた石板
- 粛清者の噂話(内部資料)
- スティコシア寓話集
オンパロス開拓日誌
丹恒が時間を見つけて整理した日誌。最近オンパロスで見聞きした内容が記録されている。
謎の襲撃を受けた列車車両は、やむを得ず神殿らしき場所へ緊急着陸した。幸い、俺たちに大きなケガはなかった。そして周囲の建築物から、この世界には文明が存在していると推測し、神殿を探索していた時に、初めてオンパロス人と接触した。彼らは自らを黄金裔と称し、難民を「聖都」オクヘイマまで護送すると言っていた。その2人のオンパロス人はただ者ではない――1人はトリビーという黄金裔で、不思議な時空再現能力で建物を修復でき、もう1人のファイノンという黄金裔は、一撃で俺の槍を折るほどの卓越した戦闘能力を持っている。
俺たちは難民を連れて聖都へ向かったが、紛争のタイタン「ニカドリー」がオクヘイマに奇襲を仕掛けているところに遭遇した。タイタンはオンパロス人が信仰する神ではあるが、今のところ、星神との関係の有無はわかっていない。ニカドリーの眷属は非常に凶暴だ。緊急事態のため、俺たちも加勢し、ファイノンと共に眷属を倒して市民を守り、最終的にニカドリーの神体と対峙することになった。この過程でさらに2人の黄金裔、モーディスとキャストリスとも知り合った。モーディスはファイノンに勝るとも劣らない戦闘能力の持ち主で、キャストリスは相手に触れるだけで命を奪う能力を持っていた。
今回襲撃してきたニカドリーは、「紛争」のタイタンの複数ある分身の1つにすぎないようだ。この戦いで、ファイノンは彼らの話す重要な火種とやらを手に入れることができなかったらしい。黄金裔の指導者アグライアは俺たちを雲石の天宮へ案内すると、バルネアのニュンフェに命じてオンパロスの歴史を俺たちに語らせた。そこで聞いた話によると、オンパロスを創造したのは12柱のタイタンで、そしてこの世界は現在、エスカトンの危機に瀕しているそうだ。タイタンたちが次々と理性を失う中、黄金裔と呼ばれる英雄たちがタイタンを倒し火種を灯さなければ、オンパロスは救われないとのことだった。
アグライアもまた特別な能力を持っていた――その金糸は人の心を見透かす。彼女は俺たちに変わった依頼をしてきた。それは、俺たちが天外からの客人であることをオクヘイマの住民には言わないでくれというものだった。「聖都」オクヘイマは、エスカトンの永夜の中で唯一昼が永遠に続く地だ。俺たちは街の中を巡り、この土地の風習や人々の暮らしを学ぶと同時に、信憑性のある情報を集めた。しかし、三月の写真が予期せぬ形で知られ、オクヘイマの住民たちの間で「霞空のメイデン」として広まったどころか、あやうく人命に関わる事件に発展するところだった。俺たちは天外から来たことを話して、天界への探求に執着する市民を救った。しかし、これでアグライアとの約束を破ることになってしまった。
俺たちの楽観は期待外れに終わった。アグライアの金糸はオクヘイマ全域に張り巡らされており、この騒動は最終的に彼女の耳に届いていたようだ。黄金裔の指導者である彼女は冷酷非情な一面を見せ、命を取ると脅して俺たちがやって来た目的を再確認した。試練を乗り越えたものの、オンパロスに対する俺たちの印象は悪くなり、この地を去って他の目的地を目指そうかとも考えた。しかしファイノンに同行し、黄金裔の過酷な救世の旅について理解を深めていくうちに、俺たちはオンパロスに留まることを決めた。
休息を経て、黄金裔たちは再び集結した。そしてニカドリーを討伐し、「天罰の矛」の火種を手に入れるため、クレムノスへ向かう準備を進める。開拓者はファイノン、モーディスと共にクレムノスへ向かうことになった。その地はかつて戦いが絶えなかった好戦的な都市国家だったが、今では薄暗い廃墟となり、狂気に陥ったニカドリーはその移動要塞の奥深くに潜んでいるという。
クレムノスの探索中、開拓者たちはニカドリーがオクヘイマへの襲撃を前々から計画していることを偶然知った。彼らはニカドリーの目の前まで進んだが、これまで戦死の栄光を誇っていたこのタイタンは、いつの間にか不死の躰に手に入れ、「天罰の鋒」を振るって遠方のオクヘイマを貫こうとしていた。危機的状況の中、モーディスが単身で殿を務めてニカドリーを食い止め、残りの者たちはオクヘイマに引き返して打開策を話し合った。
キャストリスは、ニカドリーの不死の理由が「死」に対する裏切りにあると気づいた。この歳月に埋もれた謎を解き明かすため、俺たちは深淵にある「運命の三相殿」を訪れ、オロニクスの力を借りて過去を再現しようと試みた。しかし、オロニクスは俺たちを歓迎するどころか、さまざまな謎を仕掛け、俺たちが神殿の奥に進むことを拒んだ。オロニクスの最後の謎は「世界の運命」より重いものを見つけるというものだった。俺たちは三月のカメラを使うという奇策でこの試練を突破した。
しかし、オロニクスのもとに辿り着いたものの、この「歳月」のタイタンはなおも力を貸すことを拒む。モーディスを救うために焦ったファイノンは、このタイタンを討って力ずくで火種を奪おうとすら考えたほどだ。一触即発の状況で、オロニクスは開拓者の姿を見て態度を一変させた。開拓者の話によれば、オロニクスは「星核ハンター」との記憶を見せてくれたらしい…それは本来存在しないはずの記憶だが、驚くほど鮮明だったそうだ。この「存在しない記憶」の中で、開拓者は意外にも記憶の星神「浮黎」に一瞥された。そして、オロニクスからの贈り物かどうかはわからないが、開拓者の傍に「ミュリオン」という名を持つ不思議な生物が現れた。存在しない記憶を見た開拓者はどこか悲しそうに見えたが...すぐに立ち直ったようだ。
深淵から帰還した俺たちは二手に分かれ、俺とファイノンは、苦境に陥っているであろうモーディスの加勢に向かった。そして開拓者はオロニクスから授かった力を使って記憶の欠片を集め、過去のクレムノスに行く方法を探し、キャストリスと共にニカドリーの不死の謎を解き明かそうと試みる。一方オクヘイマでは、アグライアがニカドリーの侵入に対処し始めていた。
複数の記憶の欠片を集めた後、開拓者は過去の門を開くことに成功し、昔のクレムノスへ辿り着いた。そこはちょうどクレムノス祭典の最中で、ニカドリーの暴走が始まったばかりの時代――まだ賑やかで栄えていたクレムノスだった。できるだけ安全に計画を進めるため、キャストリスと開拓者は祭典に紛れ込み、無口な戦士ゴーナウスを加えた3人組でクレムノスの奥へと進んでいった。情報を集めながら進む一行は、ニカドリーの5つの魂を元の場所に戻して不死の躰の誕生を阻止し、「紛争」のタイタンの栄光を再び輝かせると誓った。そこで思いがけず、俺たちはゴーナウスがニカドリーの一部であることを知る。後世の苦難を知ったゴーナウスは、自ら進んでニカドリーの腐敗しきった魂に溶け込むことを決めた。これによってニカドリーは完全となり、不死の躰の誕生は阻止された。そしてそれは、全盛期のタイタンが俺たちの前に立ちはだかることを意味していた。
「天罰の矛」ニカドリーとの苦しい戦いは、黄金裔の勝利によって幕を閉じた。俺たちはオクヘイマへ戻り休息をとった後、ニカドリーの火種の返還を共に見届けた。ファイノンは俺たちにしばしの別れを告げ、創世の渦心に入って「紛争」のタイタンの火種の試練を受けることになった。試練を乗り越えれば、半神の力を得られるだけでなく、そのタイタンの神権を担うことになる。ファイノンの旅が順調にいくことを願っている。
……
ファイノンが創世の渦心に入って「紛争」の試練に挑んでから、長い時間が経過しており、黄金裔たちは不安を抱かずにはいられなかった。焦る気持ちを抑えながら待っていると、ファイノンの火種の試練に突如異変が生じた。緊急事態だったため、俺たちは危険に巻き込まれた可能性のあるファイノンを救出すべく、キャストリス、モーディスと共に試練に介入することにした。
幻境の中で開拓者たちとはぐれた。開拓者の話によると、モーディスと共に行動した彼女は、モーディスの心に潜む恐怖を見たらしい。そしてその正体は、クレムノスの民が血で築き上げた栄光だったという。かく言う俺も過去の出来事を見て、まさか「紛争」の試練が内なる恐怖との戦いだとは思わなった。どうやらニカドリーも噂に聞くような無謀で粗暴な狂神ではないようだ。
戦いの末、俺たちは試練の中で合流し、剣戟の音をたどって紛争の源を探し出した。そして、そこで心の魔に呑まれかけていたファイノンを救い出す事に成功する。ファイノンの火種の試練は失敗に終わり、ニカドリーの神権を担う大任はクレムノスの唯一の王位継承者黄金裔モーディスの肩に託されることとなった。しかし、「紛争」の正統な継承者でありながら、モーディスは神権を受け継ぐことになぜか逡巡や拒絶といった態度を見せた。
ファイノンを落ち着かせた後、俺は開拓者とともにルトロへ戻って休息を取った。そして、オンパロスの現状について俺たちなりに考えをまとめてみた。結果、この世界の発展はあまりに奇妙で、タイタンにしても暗黒の潮にしても、自然に成長した文明とは備えている特徴がかけ離れていることがわかった。とはいえ、数々の手掛かりからして星核がその黒幕というわけでもないように思える。この世界に潜む謎を解き明かすには、さらなる「開拓」が必要だろう。
……
ニカドリーを倒すために俺たちが手を貸した件について、アグライアは心から感謝の意を示し、丁重な贈り物を用意した上で俺と開拓者を英雄のピュエロスへ招き、同盟の話を持ち掛けてきた。その席で、俺たちは昏光の庭のヒアンシーと知り合う。彼女は医師で、ちょうどオクヘイマでの巡回診療を終えたところだった。アグライアからの提案を受け、開拓者とキャストリスはヒアンシーに同行して樹庭へ向かい、アグライアから託された外交任務を果たすことになった。一方、俺はオクヘイマに残って日誌の整理をすることにした。ただ、後で聞いた話だが、開拓者のこの樹庭への旅は、予想していたほど穏やかなものではなかったようだ。
出発直前、オクヘイマの外でトリアンが暗黒の潮に傷つけられた人物を発見し、ヒアンシーは瀕死の怪我人を手当てするため、やむなくオクヘイマに残ることになった。よって、トリアン、キャストリス、開拓者の三人は先に神悟の樹庭へと向かったが、サーシスを信仰するその地は、学問の聖地とは思えぬほど不気味な沈黙に包まれていたという。開拓者たちは何とか樹庭の中へと入ったが、辺りを見回すとそこには人ではないもの――暗黒の潮から生まれた存在が徘徊していた。
これほどの災いに見舞われたとなると、樹庭の状況は絶望的かもしれない。樹庭に滞在していた黄金裔の一人、アナイクスは錬金術で手掛かりを残し、開拓者たちに樹庭の奥へ向かってサーシスの火種の無事を確かめるよう伝えた。その後、火種を探していた彼らはカリュプソーと名乗る謎の人物に遭遇する。この人物は自らを神悟の樹庭の七賢人を束ねる存在だと話し、アナイクスを救ったと言った。ところが、その行動をしばらく観察していたキャストリスは、カリュプソーの正体がサーシスだと見抜いて指摘した。サーシスはそれを認めると火種を再び融合させ、樹庭を壊滅した元凶――正体不明の黒衣の剣士を捕らえるため、自分をアナイクスのもとへ連れていってほしいと開拓者たちに頼んだ。
激しい戦いの末、開拓者たちはアナイクスを連れて無事オクヘイマへと戻った。俺もファイノンから樹庭での経緯を聞かされたが、その黒衣の剣士のことを話している時、ファイノンの様子はどこかおかしかった気がする。おそらくは何かしらの因縁があるのだろう。いずれは皆に話してくれるかもしれない。
……
ケラウトルスという名のクレムノス人がトリノンを拉致し、創世の渦心へ入って「紛争」の試練に挑もうとしたが、失敗に終わり、その場でアグライアに捕らえられた。モーディスが紛争の神権を継承することに二の足を踏んでいたのは、クレムノスの民の間に根深い問題が残っていたからなのだろう。ただ、その問題が一体何であるかは、モーディス以外には知らされていない。一方、トリノンは拉致されたにもかかわらず、ケラウトルスの焦りに理解を示し、オロニクスの力を借りて遠い過去の記憶を再現し、その不安を解いてあげたという。
……
トリビーたち三人は深淵で樹庭を滅ぼした黒衣の剣士「フレイムスティーラー」と遭遇した。トリアンは神の力を使い果たすことを代償に、トリビーとトリノンを戦場から脱出させる。街に残っていた英雄たちはその一報で集結し、俺とヒアンシーはトリアンの捜索、アグライアとキャストリスは街の危機の対処、他の者たちはフレイムスティーラーを食い止めるためにクレムノスへ、それぞれ手分けして行動することになった。未知なる強敵を前に、黄金裔たちは力を振り絞る時がきたのだろう。
……
その最中、モーディスはついに決意を固め、火種の試練を無事に突破し、晴れて紛争の半神となった。そしてクレムノスで勝敗を決定づける一槍を投じ、フレイムスティーラーを打ち破った。この戦いを黄金裔たちの勝利で終わらせたモーディスは、一人故郷へと戻り、ニカドリーから暗黒の潮に立ち向かう使命を引き継いだ。これで彼はオクヘイマはもちろん、オンパロス全土を支える後ろ盾となった。
フレイムスティーラーとの戦いに勝ったのは事実だが、俺たちはその中でトリアンを失った。トリアンの葬儀の席でファイノンはトリビーに対し、彼女が火追いの道へ踏み出す瞬間を見届けたいと言った。開拓者の力を借りて、彼らは運命の深淵の過去世界――神託の聖地「ヤヌサポリス」へ向かった。そこでトリスビアスがいかにして「門と道」の火種を奪い、ヤーヌスの神権を受け継ぎ、数十年にわたり幽閉されていた三相の聖地から脱し、自らの運命を追い求めたのかを目にする。
黄金裔たちの信念に影響されたのか、開拓者とミュリオンがオロニクスの火種の試練を受けるという、思いがけない申し出をした。一介の旅人でありながら、自分たちの運命をこの世界の運命に重ね合わせようするとは。これも「開拓」の逃れられない宿命なのだろうか……
……
アクモンのメモ
アクモンから500テミスで購入したメモ。記されているのはどれも衝撃的な情報らしいが、彼は「僕らの仲だしな」と言って、99%オフの「格安価格」で譲ってくれた。
鍛冶屋の貧乏な小僧が高嶺の花に手を伸ばしたようだね~
愛に目を曇らされた愚か者だなぁ――まさか自分が恋人を連れて権力の泥沼から抜け出し、「幸せ」とやらをつかみ取れるとでも本気で思ってるのかい?
生命の花園の庭師が悪人なわけないだろう?
彼らはみんな純粋で高尚な学者であり、富に目がくらむこともなければ、不正を働くこともありえない─きっとそうだよね?
バルネアの日常に嫌気が差したらどうする?
あそこのスタッフたちと話してみなよ~建築家、数学者、「清掃員」...彼らが心を開いてくれれば、きっととても楽しく過ごせるはずさ。
ニンフとの往復書簡
恋人たちが旅立つ前にあなたに託した手紙。ニ人の出会いから恋に落ちるまでのさまざまな思い出が記されている。
ニンフへ。もし神々が僕のような平凡な人間に手紙を書くことを認めてくれるなら、この世界における美の化身である君にあいさつを送るよ。天の神々が門の刻に飾られたバラの花びらの露のように、柔らかな風で君を守ることを願う。
昨日、君と出会えたことがどうしても忘れられないんだ――それは何と素晴らしい感覚だったことだろう。胸の中が常に優しい喜びで満たされ、君という朝の柔らかな光が僕の心の扉を貫き、無限の安らぎと心地よさをもたらしてくれた。僕はどうすれば君の優雅さと親切さに対する感謝を示せるだろうか?それらはまるで使者のように、君という高貴で純粋な存在のもとへ僕を導いてくれるんだ。
君のほほ笑みは、明晰の刻の太陽の光のように、温かくも決して熱すぎず、静かなる力を秘めている。そして人の心を優しく包み込みながらも、思わずときめかせてくれる。
僕はこれまで、君のような高貴な女性が、僕みたいな目立たない鍛冶職人の技術に興味を持つとは夢にも思わなかったよ。僕が得意とするものは、他の人の目には無口で、汚く、粗野なものに見えるだろう。しかし、君は鍛冶の技術について語るとき、とても熱心で、熟練職人の域に達していた。さらには、クレムノスの自動化兵器のこともよく知っていた・・・僕たちは市場が騒がしい時間から話し始め、誰よりも仕事熱心なハートヌスが眠くなってあくびを漏らすまで語り合った。それ以来、僕たちが別れる瞬間には名前がついた――「離愁の刻」という名前が。
君の毎日はとても多忙だろう。だから僕はいつもつい君のことを気にかけ、疲れてはいないか、心が乱れてはいないかと案じてしまう――僕みたいな名もなき者には君のことを気遣う資格なんてないことは承知しているけど、それでも僕の心は、思いきって君を誘うようにと僕をせっついてくる――
近頃、雲石の天宮では祝日の準備をしている。その場所は美しい風景が広がり、夜はウグイスの鳴き声が響くんだ。そこなら、一時の休息を手に入れ、悩みから解放されるかもしれないよ。僕はたいした見識もないけど、その場所とその景色には詳しいんだ。君がよければ、三日後の夜、僕に君の案内役を務めさせてもらえるかい?
僕が今こうして書き記した言葉が、君の気分を害してはいないだろうか…もしもこの提案に何か不適切な点があれば、軽く笑い飛ばしてほしい。君の夢が、オロニクスの夜空のように安らかであることを願っているよ。
アーレス拝
(......)
クレムノスのアーレスへ。今日はネックレスをプレゼントしてくれてどうもありがとう。私たちが出会い、心を通わせてから101日が過ぎたけど、こんなに貴重な贈り物をもらえるなんて、今でもまだ恐縮してしまうわ。
誤解しないで。もちろん私はこのネックレスをとても気に入っているわ――この宝石の美しく情熱的な輝きは、まるでファルコンの血を宿しているみたい。優雅で精巧、それでいて美しく華やかなデザインも好き――私があなたを好きなようにね。
こんな唐突な告白を許して。これまでに何度もあなたに伝えてきたけど。時々、夜になると夢の中で、あの日の鍛冶屋で見たあなたが現れるの。私の勇士、私はひと目であなたを見つけたわ。たとえあなたが要塞の闘技場で戦ったことがなくとも、その眼差しの奥に秘められた勇気は以前と変わらずはっきりと見えるわ。
あぁ…これほどいとおしいのに、ふと失意の悲しみがこみ上げてくる。もし今夜、あなたの夢に私が現れれば、それだけで私は満たされるわ。暗黒の潮が私たちを引き離したとしても、この世界に私という存在がいたことをたまに思い出してくれるだけで、私は満たされるわ……
ニンフ拝
(……)
親愛なるアーレスへ。今日、約束を守れなかったことを許して。
最近、私はよく市場に行っています。慎重に行動しているとはいえ、やはり親に気づかれてしまいました。詮索されるのを避けるため、私は今日、仕方なく親と市民法廷の傍聴に行きました。
私の家族はもともと異邦人に対して配慮を示すことがなく、長年にわたり、家族の主張に反対してきた私は、両親の決定に口出しする気にもなれなかった。でも…今日になって、両親がいかに極端で偏見に満ちているか、そしてこの20年の間にまったく進歩していないことを、初めて痛感したわ。
人はなぜ血筋によって憎しみ合い、なぜ同じ種族同士で争い合うの?この厄災が蔓延する終末の時代において、最後の都市国家オクヘイマがすべての人々のシェルターとなるべきではないの?
でもね、アーレス。私たちは何があろうとも、前の世代の因縁に縛られた操り人形にはならない――私たちの愛はモネータの意志であり、真実の愛を持つ人は必ずタイタンの加護を受けられるのよ。
ニンフ拝
オロニクスの目に映る世界
ある文集の一部。このタイタンのカに関して、古代のオロニクスの司祭の見解が書かれている。
以下の内容は、古代のオロニクスの司祭ロビータがオクヘイマを訪れた際に行った講演から抜粋したものとされているが、具体的な年代は不明であり、後世の人が創作した可能性もある。ロビーター派の神学的見解は後世において賛否両論あり、読者におかれては十分な批判的視点をもって彼らの言説を読んでもらいたい――編者注
(これより前の部分は散逸)
人々はよく、「オロニクスが力を貸してくれるならば、私たちオロニクスの司祭は過去、現在、未来のすべてを見通すことができる」と言います...そればかりか、多くの先達や新しい学派もこのような見解を支持しています。しかし、残念ながらこれは人々がタイタンについて誤解した結果生まれた、不正確な考え方です。
タイタンは至高の存在ではありますが、決して万能ではありません。オロニクスの奇跡は直接的に過去や未来を「見る」ものではなく、それらを「推測」できることなのです。この微妙な違いを無視してはいけません。私の考えでは、もしオロニクスが毎日の天気(あるいはエーグルの機嫌)を予測してくれるとすれば――その予測が間違う可能性も十分にあるのです。
中には「ヤーヌスの預言は無数の道筋を作り出し、人々に選ばせることができるのだから、オロニクスも同じなのではないか?」と言う人もいるでしょう。この言葉は半分正しいと言えます。たしかに、オロニクスとヤーヌスの神性はとてもよく似ています。しかし実際には、「過去と直接的に交わる」こととは無関係なのです。
オロニクスとヤーヌスが司祭たちに見せ、彼らに関与させる対象は、事実そのものではなく、事実と極めオロニクスとヤーヌスが司祭たちに見せ、彼らに関与させる対象は、事実そのものではなく、事実と極めて似た何かです。この点についてはヤーヌスのケースを説明する方が分かりやすいでしょう。私たちがある出来事の「歴史」を選択できるのであれば、それはヤーヌスから見て、いわゆる歴史というものが確定的なものではなく、物事を「存在させたり消滅させたりできる」理由であることを意味しています。これは、「歴史とは唯一確定された過去である」という私たちの常識とは明らかに異なります。ヤーヌスの司祭は歴史を変えているのではなく、一つの背景、あるいは「ある事象が現在まで存在する状態」を選んでいるにすぎません。言い換えれば、タイタンが私たちのために変えてくれているものは、本質的に現実そのものであり、すでに起こった過去ではないということです。私たちが目にしているのは、「現実を変えること」を合理化するプロセスにすぎません。それが時間の逆行のように見えるだけであって、論理としては根本的に異なるのです。
このことを理解すれば、オロニクスの啓示(あるいは夢)が意味するところも理解しやすくなるでしょう。なぜオロニクスが私たちに翌日の天気を教えてくれないのか(理論上はエーグルに尋ねれば分かるはずですが)、なぜ大多数の人の寿命や死因を予測してくれないのか。それはヤーヌスと同じ構造の力による制約を受けており、あまりに不確実な物事は予測できないからです。つまり、オロニクスが私たちに見せているものは、それが「必ず起きた」と確信している寓話だけなのです(または「必ず起きる」こと。オロニクスにとって時制はほとんど意味をなしません)これは理解しやすく、自信のない預言を口に出そうとする預言者がいないのと同じでしょう。
。
したがって、皆さんがオロニクスの司祭である私の専門性を信じてくださるならば、司祭たちがオロニクスの神としての力を最大限に引き出そうとしていることを理解していただきたいのです。この最大限の努力を、あえて冒とく的観点から評価するならば、私たちはすでにオロニクスを幽閉し、他のいかなる仕事もさせず、過去と未来の知識を探求することに専念させていると言えます――しかしながら、結果はそれ以上にも以下にもなりません。もしオロニクスが気分が乗らない(私の考えでは、それは自信がないということです)場合、過去、現在、未来に関するいかなる情報も示してはくれないでしょう(実際には能力もありません)。
皆さんもお気づきだと思いますが、タイタンの力のように混とんとしていても、その力には限界があるのです。
(これより後の部分は散逸)
モーディスの母、ゴルゴ―の遺書
過去のクレムノスで発見された石板。モーディスの母「ゴルゴ―」が書き残した最後のメッセージが記されている。
我が息子メデイモスへ
あなたがこの手紙を読んでいるということは、私は死に、あなたは生き残ったのでしょう。2日前、彼らがあなたの命でニカドリーを冒涜しようとしたことを知った時、連れ出して逃げようと思ったけれど...あなたは閉じ込められていて…もう遅かった。もし明日、我が夫――あなたの父であるオーリパンを説得できなければ、私は「王権に対する挑戦」を宣言し、決闘で彼の手からあなたを守るわ。確実に勝てるとは言い切れないけれど…決闘で敗れたのなら、母として、命に替えてもオーリパンをステュクスに引きずり込む。クレムノスの王がいなくなり、情勢が乱れるその時、ケラウトルスがきっとあなたを守ってくれる。彼は私が後見人に命じた者、安心していいわ。あなたがケラウトルスを尊敬すれば、彼もあなたを王として認め、仕えてくれるでしょう。
メデイモス、決してあなたの父を忘れてはなりません。母である私を忘れても、オーリパンという恥知らずの王のことは心に刻んで。彼はクレムノスに伝わる「王を殺め王となる」伝統をこの代で終わらせると私に約束したはずなのに…いつしか欲に目が眩み、心まで腐敗したかと思えば、あまつさえニカドリーを冒涜し、クレムノスの栄光を汚そうとするなんて…!メデイモス!どうあっても父と同じ道を辿ってはなりません!
ああメデイモス…あの泣き声を未だに覚えているわ。か細く、消え入りそうな声で…あんな小さな声で泣く子が私たちの子供だなんて、私もオーリパンもとても信じられなかった。でも、ニカドリーの咆哮が鋳魂の門を突き抜けてきた時、あなたは急に大声で泣き出した。それはまるでトレートスの獅子の咆哮のように――その瞬間に確信したわ。あなたは間違いなくクレムノスの血を受け継いでいる子、生まれながらにして戴冠する運命にある、ゴルゴーの子なのだと!
でも…おそらくあなたは明日から、険しい道を歩む運命にあるのでしょう。クレムノス王の剣から逃れられるとは思っていないけれど、オーリパンがあなたの命を奪うことだけは耐えられない。明日、本当にそうなってしまったら…あなたは両親を失ったうえ、クレムノスから離れることを強いられ、各地を流浪し、鮮血と傷痕を背負うことになるのかもしれない......
メデイモス、もし本当にそうなってしまったのなら…母として、最後にこの言葉を遺しておくわ。あなたはゴルゴーの子ではなく、ゴルゴーの子。私の子のままでいいの。すくすく育ち、神楯隊の勇士の称号を勝ち取ることができたら、それ以上に嬉しいことはないわ。でも、もし私と同じくあの栄光に疑念を抱いているのなら、あなたの思うままに行動しなさい!クレムノスを興したゴルゴーは民たちの意志に従って、ニカドリーを呼び止め、紛争の栄光を勝ち取った。あなたもまた、同じ「天罰の矛」の威光のもと…真の栄光を背負って故郷に帰りなさい……
メデイモス……
私の愛しい子……
牽石学派の新人用鍛錬指南書
神悟の樹庭の牽石学派が新参者のために制定した鍛錬の指南書らしい。
知識を重視するあまり身体の健康を軽視するのは、最上のインクで一番粗悪な紙に字を書くのと一緒である。
1.門の刻
目が覚めてもすぐには起き上がらず、ベッドの上で軽くストレッチをして、血行を促進させる。起床後、まずは冷水で顔を洗い、祈りを捧げ、思考訓練をしてから、最初の食事を食べる(腹7分目の量)。一般的な常識とは違い、起きてから食事までの時間は抽象的な思考を行うのに最も適している。激しい運動は避けるべき。
2.明晰の刻
1日の中で一番能弁になる、かつ弁論するのに頭が一番回る時間帯。学者として積極的に学術イベントや課題討論に参加すべきである(しかし長時間座りっぱなしや立ちっぱなしは禁物である。立ったり座ったりを好きなように繰り返すのが最良)。この時間帯に人を集めて、鍛錬(もしくは娯楽)として奇獣ボール、スマッシュボール、スティックボールなどのチームスポーツを息抜きにやるのも良し。
3.践行の刻
践行の刻になると、頭の中のひらめきが枯渇し始める。そろそろエネルギーを補充して、身体を動かす時間だ。二回目の食事を終えた後、20から30分ほど休み、ジョギングを始める(しっかりとストレッチをしてから始めよう)。泳げる人はジョギングの代わりに泳ぐのもよし。水泳は関節へのダメージを最小限に抑えることができる運動だ。(※損傷を気にしてジョギングを諦めてはならない。ジョギングは水泳の次に良い鍛錬方法だ。関節の損傷を言い訳にジョギングを拒否するのは頂けない)。
ジョギング、あるいは水泳をどれくらいやるのかは決まった基準はないが、継続するのが難しくなり、休憩が必要になった時は5分だけ休み、また新しいセットを行うことをおすすめする(※休み時間が長すぎてはならない)。全体的の鍛錬時間は、1時間以内が理想的だ。もし他に鍛錬の代わりになるような労働がある場合(荷物の配達など)適度に労働をするのもまた良い選択である。
もし践行の刻に、実験や特殊訓練に参加、社交活動やプライベートの娯楽に参加するなどの計画がなければ、前述の心肺を鍛える運動が終了した後に、筋肉の鍛錬を行ういといい。自身の筋肉の瞬発力が退化しないように保つために、この鍛錬は毎週2から4回が理想的だ。また、前述したそれぞれチームスポーツに参加するのもまた良い選択である。
4.離愁の刻
践行の刻の厳しいトレーニングを経て、今は三回目の食事をとる絶好の時間帯だ。毎日最後の食事を、決して隠匿の刻まで引き延ばすわけにはいかない!遅すぎる食事は身体に重い負担をかけ、全てのトレーニングの効果を半減してしまうからだ。
三回目の食事の後、践行の刻に既に激しい運動をした場合、プライベートの娯楽時間にしても良い。そうでない場合は、この時間帯で必要分のトレーニング項目を行う必要がある(心肺機能向上系など)。
鍛錬において大切なのは、諦めないことだ――完璧なスケジュールを立て、尚且つ何の影響も受けずに遂行できる人はいないし、人間なら誰しも「怠惰」な一面があるから、避けることのできないネガティブ要素との共存が大事だ。スケジュールに間に合えず鍛錬できなかったからといって、全てを諦めず、全ての鍛錬を毎日の最後まで伸ばすのは頂けない。経験から言うと、一緒に鍛錬してくれるパートナーをできれば、良い習慣を身に着けやすい――そしてパートナーができると、ソロより魅力的なチームトレーニングにも参加できるようになる。
要するに…鍛錬に参加する時は、友人作りも心掛けるべきである
!
5.隠匿の刻
睡眠時間だ。この時間で睡眠以外のことを考えるのは頂けない。夜更かしは、今までの鍛錬の効果を大幅に落とし、翌日の生活にもいろんなリスクや負担をきたすことになるため、徹夜を禁止することを念頭に置くべき。
どうしても徹夜しなければならない場合は――早起きより睡眠時間の確保を第一にするといい。
サーシスの二元性について
ある知種学派学者の著書。サーシスに対する、樹庭の古い認識を打ち破った。
私は長きにわたる研究の中で、一つ興味深い現象に気付いた。理性の化身として、サーシスが表す性質は、純粋なロジックではなく、微妙な二元性である。この二元性は、形態の選択だけでなく、サーシスが世界に影響を与える方法からでも観測できる。
友愛の館で保存される記録によると、サーシスが最初に大地に根を広めたのは、まさに造物紀初期であった。当時の世界は混沌と不確定性に満ちていたが、サーシスはその根で自分自身を大地と深く繋ぎ合わせ、この選択を通して「理性は自然を凌駕するものではなく、現実の土壌からでしか芽生えないモノである」ことを暗示した。
最近、聖樹の年輪に対する研究からも、わかったことはある。年輪の成長モードには驚くべきパターンがあり、そのパターンは古代の数学者がまとめた「黄金分割」と酷似しているということだ。「理性の礎は、自然のパターンに対する体察から来ている」ことを暗示するような現象である。
私たち知種学派の研究もそうだ。凡人からより上位の存在への転化を求めるなら、冷たい錬金術の計算にのみ頼ると、失敗は免れない。真の変化を遂げるには、理性の二元性を理解しなければならない。それは思考の導きであり、命の律動でもあるからである。
この論文を書いているとき、私は神悟の樹庭で見たドリアスをふと思い出した――光の下で枝の葉を伸ばしていくドリアスは、最も理性的な成長法則を守っていると同時に、最も生き生きとした生命力を見せている。恐らくこれが、サーシスが私たちに残してくれた最も直接的な啓示かもしれない――「生命と共存共生するのが真の理性である」。
[※本文の論点の一部は、神悟の樹庭にある聖樹の年輪に対する実地考察に基くモノである。知種学派の同仁による多大な協力と助言に感謝の意を表する。]
帳の外
礼拝学派の学者フレーテウスの手記。永夜の帳を観測した感想が書かれており、後世の文献から考察すると、これは彼が失踪する前に残した遺作である。
長年の研究を経て、重要な手掛かりを手に入れた。
1、宝珠――オロニクスの宝珠にはある力が含まれている
2、特定の星象の配列
3、いにしえの呪文は、正確なアクセントで唱えなければならない
宝珠を額の前に置き、詠唱を始める。最初は何も起こらなかったが、七度目の詠唱を終えると異常を感じた。永夜の帳は水に広がる波紋のような動きを見せてくれたようだ。しかしもっと不思議なのは、星の光が曲がり始め、不可解な図面を描いたのを見た。
[インクに汚されている。慌てて墨をこぼしてしまったかもしれない]
……
私は何かを見た気がした。帳の隙間に、何か流れている。星の光ではなくエーテルのような、もっと基本的なのモノだ。まるで…まるで…適切な言葉が見つからない。目にしたモノを言い表そうとするたび、口に出そうとする瞬間に言葉が崩壊してしまう。
面白い発見ができた。例の流れる物質を見つめていると、私の思考も流れるように動き始めるようだ。過去と現在の境がぼやけて、まだ発生していない会話が見えて、消えたはずの音が聞こえる。
警告:この一連の現象を言語で記録しようとするな。私がそうしようとするたびに、文字が―――-
……
頭が痛み始めた。記憶が途切れていく。原稿を整理し直したい。数字を書いたのは覚えている…星の運行に関してか、それとも別の何か…しかし今原稿には、符号しか残っていない。居眠りした時に書き残したもののようだが、これは一体?
私と同じ間違いをするな。この世には、越えてはならない一線がある。オロニクスが永夜の帳を創造する理由がやっとわかった。あれは、凡人の理性とタイタンの神力を隔てる境界線なのだ。
私は自分の存在を疑い始めた。これを書いているとき、いったい誰が私の手を動かしているのだろうか?こういった問題を考えている時、いったい誰が私の思考を動かしているのだろうか?我々は運命を観測しているつもりだったが、おそらく観測の対象は、我々のほうなのかもしれない…オロニクスが我々を……嘆かわしい凡人を観察しているのだ!
[これからの数ページは、解読不能な符号と乱れた線で埋められており、たまにいくつか読める単語がある。]
オロニクスは我々
凡人を見ている!
帰れ
タイタンの神力を探索してはならない、神力は観測できない
私は本当の私ではない誰が何が―――
[最後の1ページに書かれているのは、一行の震える文字だけだ。]
私の僭越をお許しください、永夜の帳よ……
[※この原稿は最初、神悟の樹庭・友愛の館の密室で発見された。記載によると、作者であるフレーテウスはこの記録を完成した後に行方不明になっている。永夜の帳に浮かぶ星になったと言う者もいれば、図書館の奥でたまに彼の独り言が聞こえると言う者もいる。]
幻覚を見たものの手記
蓮食学派によって他の学派への公開を禁止された手記。ある匿名希望の学者曰く、おそらくは「身内の恥を外に漏らしたくない」というのが理由だろうとのこと。
昨日花園でサンプルを採取する時に、おかしな植物を見つけた――なんて美しさだ。自在に曲がるふじづるは、まるで優雅なガチョウの首みたいだ…そしてなんといっても、あの綺麗で純白な、若々しい花びら!運良くも偶然実を結ぶ時期に遭遇できたということで、その紫の果実を食べてみた。味は異常に甘く、形容し難い香りがした。しかしすぐに私の具合が悪くなり、喉の調子が狂い、頭も少し重くなって、まるで風邪でもひいたように――そうだ、この季節で花園に長居して、寒風に当たっては風邪もひくだろう!
すぐに帰りたいと思ったが、花園を通りすがる時に不思議なことを目にした。
なんと賢者メディアが、月明かりの下で佇んでいるのを見た。彼女は私に気ついていないようで、その姿が歪みながら外へと伸ばし始めた。まるで樹の成長みたいなのに、それをたかが数回の呼吸分の時間で完成したのだ。腕は枝に変わり、髪の毛はふじづるになって、皮膚には年輪のような細かい模様が現れた。一番の驚きは、彼女が周りの植物たちと会話し始めたことだろう。私が聞いたこともない囁き声でだ。
どうして蓮食学派が植物の性質を精確に把握できたのか、これで説明がつくと思う。賢者は植物を研究をしているのではない、彼女自身が……
人間だとしても、人間の形に変えた植物だ…略称すると何になるだろう?いや待て。樹庭の蔵書に、このことと類似する記録があるはずだ。
わかったぞ!!!!!
「筆跡が急に乱れてきた」
誰かが来る。廊下を歩く音が聞こえた。いや、あれは足音ではない、むしろ…枝が地面を擦る音?
彼女に気づかれた!秘密がバレたことを知られてしまった!いや、果たしてこれは彼女の「秘密」か、それとも我々学派の「秘密」なのか……そもそもなぜ当初は、あれほど熱心に私を勧誘してきて、私の植物研究の才能を賞賛したのか…まさか…まさか私もいつか学者メディアみたいに?だんだんわかってきたぞ……
[以下、すべて空白]
[ノートの最後の1ページに一枚の付箋が挟まれており、書かれている筆跡は明らかに他人のモノだ]
この手記は光歴3745年機縁の月に、理性の花園の茂みの中で見つけたモノだ。調べによると、あの日のケレシウスが口にしたのは、食すると強烈な幻覚を見ることで有名な植物・幻形草であることがわかった。当のケレシウスは現在療養中とのことで、一日も早く回復することを祈る。
キメラ作業マニュアル(第三次改訂版)
生命の花園の庭師が書いたキメラの作業マニュアル。全てのチームの管理人がこれを熟読する必要がある。
――「生命の花園」が編集したマニュアル。キメラチームの作業行為を指導するのに使われている。
全ての管理人は本マニュアルの内容を必ず読み、定期的に「生命の花園」が開催する知識試験に参加しなければならない。試験に二回以上不合格した場合、管理人の資格を取り消され、民会に通告され、公開批判を受けることになる。
今回の評価期間における優秀チームは:「自由の角」、「フローリエ」
反面教師:バルネアに夢中の某管理人は、チームの順位に心掛け、時間通りに出勤するように!
キメラの作業総則:
1、キメラの正当権利は「生命の花園」によって守られており、いかなる個人あるいは団体による、あらゆる名目でキメラへの傷害行為を禁止する。
傷害行為は以下を含むが、この限りではない。キメラに身体的な傷害を与える行為。キメラの作業時間を延長したり、作業量を増やす行為。キメラに対する罵倒、叱責行為、無礼・粗末な態度など……
2、「生命の花園」の指揮により、キメラたちは適度な範囲内でオクヘイマの市民の仕事の協力作業を展開する。
全てのキメラはの数チームに分けられる。またキメラ仕事行為の責任者として、各チームに1名管理人を配属させる。
3、管理人とキメラは互いをチェックし合う関係にある。管理人はキメラを合理的に配置し、作業効率を上げ、メンバー間の親睦と共存を保障しなければならない。一方キメラは管理人の仕事状況に対しチェックを行い、直接庭師に報告することができる。
注意:キメラは私的財産ではなく、オクヘイマの象徴である。管理人は自分の職権の範囲をしっかり把握しなければならない。
4、キメラは「生命の花園」に配られた仕事を完成する必要がある。庭師は定期的に各チームの作業量に対し審査を行う。作業量が目標量まで達成できなかった場合、管理人はチームの代わりに責任をもって罰金を支払い、民会において尋問を受けることになる。
5、キメラの外形と性格は極めて豊富である。管理人には、個人の好みで作業の割り振りを決定することを禁止する。全てのキメラは平等な生命権と発展権を有し、キメラに対するいかなる差別と不平等な行為を禁止する。
6、「生命の花園」はキメラチームの管理に、オクヘイマ市民の皆さんの参加を心より歓迎する。
……
キメラ管理人の伝説
オクへイマの好事家が書いた調査報告。中にはそれそれのキメラチームの管理人に関する情報が記載されているが、情報の真偽は定かではない。
……
知っている通り、キメラチームの管理人を務めているのは皆、オクヘイマで最も才能と理性を持っている者だ。市民たちの間に最も話題にされるのは、その管理人たちの正体だ。ふふん、ちょうどそれに関する独占情報を手に入れたんで、参考までにここに書いておく。
まずは、ランキングトップを長期間占め続けてきた「自由の角」!
と、言いたいところだが、生憎あの管理人がミステリアス過ぎて、私みたいな情報通でもあまり情報を聞き出せていない。
コホン。しかし他の管理人に関しては、正確な情報をちゃんと手に入れてあるからご安心を!今から紹介させてもらうとしよう――
山の民出身、逞しい衛兵!
この管理人は名前を明かすことを拒否しているが、その身なりと生活の習慣から見るに、オクヘイマを守る衛兵たちの一員であることがわかる。責務に忠実な衛兵に感謝の意を!
都市国家の守護とキメラの管理。一見関係のないことだが……伝説では口下手とされている山の民の衛兵が、キメラを率いる重責を担えるのか楽しみだ!
商人連合!
雲石市場から来た商人たちもキメラの管理人になりたい!客の呼び込みや、コミュニケーションに長けている店主や商人たちは、キメラと親睦を深めながら、管理の仕事が務まるのか?これもまた見物だ。
虫取り少年!
この事実を知った当時の私も驚いたが、すぐに理解できた――かわいい小動物とコミュニケーションをとることにおいて、無邪気な子供以上に上手くできる者がいるのだろうか?言語の壁は彼らの交流の妨げになることはないし、子供とキメラとは生まれつきのパートナーである!
むしろ...厳しい親こそが、彼が伝説の管理人になることを邪魔する存在なのだろう。
サーシスの司祭!
言わずともわかるように、生命の花園とサーシスを信仰する樹庭は元々密接な関係にあるから、司祭たちが直接に関与してくることも合理的だろう。
「フローリエ」の管理人!
ここはひとつ勿体ぶらせてほしい。このミステリアスな「著名人」が誰か絶対にわからないと思うが......いや、「無名人」と言ったほうが正しいか?
クレムノス人!
いやあ、クレムノスの流民もオクヘイマの建設に貢献したがっているから、拒否する理由はないだろう?彼がオクヘイマの全ての市民の仲間であるとモーディス殿下は証明してくださったんだ。我々も当然勇気と誇りに満ちた民族を信じたい。
キメラまで好戦的な種族に育ててほしくはないが……
大地獣の飼育員!
大地獣の飼育ができるなら、キメラの管理はもちろん問題はない!ただ賢さに関しては、大地獣とキメラの差は大きいと思うが?
バルネアの王!
…また変なチーム名だ。今得ている情報からだと、その正体は長年雲石の天宮に通ってきた男性の管理人らしい。見た目は少しだらしないくらい普通だが、しかし英雄はいつも見た目がさえないもの。この至つて普通な身体の中に、業界全体を揺り動かす力が潜んでいるのかも!?私的に期待しているぞ。
懺悔録
とある名もなき司祭が、亡くなる前に書いたノート。神殿の隅に隠されており、何年も経ってからようやく発見された。
あとどれくらい生きられるのだろうか。私は見た――暗黒の潮が聖殿に流れ込み、ここが廃墟となった。そして老いた私には何もできなかった…せめて死ぬ前にこれを書き残しておきたい。許しを乞うつもりなどはない。ただ、この秘密を墓場まで持って行く気になれないだけだ――重い枷を纏ってステュクスを渡り、そのまま溺れ、永遠に解放されないなどまっぴらごめんだから。
53年が過ぎた。
それが、私がヤヌサポリスで過ごした人生の大半だ。右も左もわからない見習い司祭から始まり、高位の司祭にまで上り詰めたが、今や廃墟に身を潜める老人となった。若い頃は、自分は神聖な務めを果たしていると信じ、生涯をかけてタイタンに仕えると誓った。だが結局、私は欲にまみれた凡人にすぎなかったのだ。
或いは、我々の行為の本質はタイタンへの冒涜…いや、「冒涜」という言葉は正しくないかもしれない。我々がやっていたのはもっと複雑なことだからだ。今も覚えている…若い聖女が初めて預言堂に入ったとき、彼女たちは確かに何かの力を感じていた。これまで何度もこの目で見てきたように、彼女たちの目は虚ろになり、身体はかすかに震え、口からは自分でも意味のわからない言葉があふれ出す。それこそが真の神託であり、万路の門の彼方より伝わってきた囁きだった。しかし、この種の預言はいつも難解で、矛盾に満ちたイメージばかりだった。そして、この曖昧さこそが、我々に解釈する余地を与えたのだ。
最初はただ、少し調整を入れるだけだった。庭師が枝を切るように、預言にある不適切な部分だけ軽く切り落とし、有益な警告を際立たせる。こんなことを間違いだと誰が言えるだろう?混沌とした預言はパニックを引き起こすだけ。整理された神託こそ人々を導くことができるのだ。
しかし、権力とはつくづく奇妙なものだ。自分が正しいことをしているのだと信じ込ませ、気づいたときにはもう取り返しがつかなくなっている。やがて、預言の修正だけでは満足できなくなった我々は、聖女の選抜を始めた。我々の「指導や意見」に従い、素直に受け入れる者を選ぶために。「瞑想の助けになる」と称し、彼女たちの飲食に薬草を混ぜた。しまいには、事前に預言を書き、それを聖女たちに儀式で読み上げさせるまでになったのだ。
……
あの■■■■という少女のことは、今でも覚えている。私が出会ってきた聖女の中で最も才能に恵まれた者であり、タイタンが彼女に自身の影を映し込んだのではないかと疑ったことさえあった…しかし、彼女の預言は常に不適切だった。我々が戦争を望むときには平和を預言し、平和を求めるときには災難を予告した彼女は、他の司祭たちの顰蹙を買った。私は彼女を守るために「正しい」預言の仕方を教えたつもりだったが、今になって思えば、彼女は我々を救おうとしていたのかもしれない。そして、我々はその機会を何度も何度も拒んだのだ。
預言は本来真の神託であるはずだったが、我々はそれを自分たちの「お告げ」に変えてしまった。一方で、真相はさらに不思議で微妙なものだ。我々が創造した「預言」はまるで鏡のようで、何かを見たいと願えば願うほど、その何かを映し出してくれる。司祭が戦争の預言を求めるとき、どんな風の音も抜刀の響きとして聞こえてしまう。我々がしていたのは、おそらく預言の捏造ではなく、ただ自らが聞きたいことだけに耳を傾けていただけなのかもしれない。
最も皮肉なのは、操作された預言であっても時に真実を映し出すことがあるということだ。ある日の儀式で、■■■■が突然狂ったように叫び出した。「深淵が大きく口を開けている!黒い水が聖都を呑み込んでしまう!」と。当時我々はそれを意味不明な戯言として軽視したが、今思うと、タイタンたちは我々を見放ったことなどなく、ただ我々がその声を聞くことができなくなっただけなのかもしれない。
ヤーヌスはこの一部始終を見てきたのだろうか――私はよく考えた。運命の門の向こうにいる神は、我々の傲慢を嘲笑っているのだろうか?自分で自分の運命を紡いでいるつもりでいたが、実のところ、我々の滑稽な人生を紡いでいたのは運命のほうだったのだ。
今にして思えば、私が垣間見た未来――あの暗黒の潮の襲来は「罰」ではなく、「解放」なのかもしれない。黒い水は我々が作り上げた嘘を破壊し、真実の世界と向き合わせてくれるから。
……
聖殿の裏手にある静修室で、私は何人かの知人と会った。彼女たちがどのようにして私に媚びていたのか、今でもはっきりと覚えている。美しい宝石、絹の袋が潰れるほどの大量の金貨…そして、オクヘイマやクレムノスで見つけた私の大好物を、あの手この手を使って部屋まで運んできたものだった。だが、かつての聖女たちは、あっという間に年を重ねたというのに、その瞳は若き日のそれよりも澄んでいた。不思議なことに、過去の話をしても、彼女たちが私を恨んでいる様子はなかった。「預言とは元々混沌としたもの」「真にタイタンの意志を理解できる者は存在しないかもしれない」と、彼女たちは言った。
それもそうだ。預言は混沌としたものかもしれないが、聖女が持つ生活資源と権力は、凡人によって正確に管理し、配分することができるものだ。
生きる望みが少しずつ失われていくのが見える。恐ろしい暗黒の潮が、じわじわと近づいてくる。たとえ他の者には見えなくても、私の目にははっきりと映っている。なぜかは分からないが、不思議と少し落ち着いてきた。おそらくこれが私の最後の預言となるだろう――「壊滅の後に、新らたな真実が再生する」
サフラン花蕊の調理法
とある官僚の密書。一見普通のレシピのように見えるが、よく読むと、言葉の裏には迫害の陰謀が隠されているように感じる。
ウィンコルム氏へ
……
長年、ヤヌサポリスは神々の恩恵を受けるため、テンニンカに頼ってきた。私たちは5、6年かけてその根を掘り、枝を切り落とした。今、この赤い木はいつ倒れてもおかしくない状態で、その役目を終えて久しいが、それでも枝葉を伸ばし、燦々と降り注ぐ眩しい光からヤヌサポリスを覆い隠そうとしている。私たちは密かに伐採の計画を立てた。後は恩恵の儀式で少し手を加えれば、テンニンカは深淵に落ちることになる――ヤヌサポリスは山の斜面にあるため、崖から落下する事故は少なくない。
……
次の神木に関しては、他に傀儡を選ぼうと考えていたが、テンニンカの娘については、トリスビアス…とりあえず彼女をサフランの花蕊と呼ぶとしよう。私としては、適当に理由を見つけてサフランの花蕊を処理してしまえばいいと思っているが、助祭のコデクスはどうしても彼女を次の神木として育成したいと要求してきている。小さい頃からその教育を受けていた彼女なら、こちらとしても多くの手間を省くことができるだろう。「テンニンカの娘」という正体については…彼女はまだ幼い。遠くへ行くこともないだろう。彼女がここにいる限り、神託の力は依然として私たちが握っていられる。
サフランの花蕊の最も優れたところは、どのように調理してもいいという点だ。お粥に入れたり、煮込んだり、炒め物にしたり…どれに使おうと美味になることを私たちは知っている。
……
出せなかった家族への手紙
樹庭の黄金裔カリニコスとその妻がやり取りしていた手紙。ただこの手紙は結局、受取人の手には届かなかった。
妻へ
こうして会えない間は、元気だったか。
近頃は樹庭も特に大事はなく、各研究は予定通り進められ、煩わしいことも少ない。生活は安定しているから、心配することはない。
ただ面白いことが一つ。アルタカマとキュナネの姉妹が、暇な時に私と手合わせしたいと頼んで来てくれることだ。学術を語らず、サーシスに見つめられる中で武力をふるまう樹庭学者など他にいるか!意外なことに、彼女たちは少し腕に覚えがあるようだ。幼い頃からわがままな性格していて、近所の子供とよく喧嘩していたらしい…と、このことは笑い話として聞き流してくれていい。妻から武芸を伝授してくれなかったら、彼女たちに負けたという失態がオクヘイマまで伝わっていただろう。
それともう一つ。前に人に頼んで送ってきた服についてだが、着心地はどうだろうか?蓮食学派による植物織物研究の進展が凄まじく、近いうちにまた多くの布地を生産する。新しくできた布は、もっと汚れにくく柔らかい材質になるだろう。樹庭にいる手先が器用な裁縫師たちに依頼し、服を数着作ってもらった。君は派手な服には興味はないことは知っているが、服に何箇所か花柄デザインを入れさせたのは、私の勝手だ。君が着ればきっと綺麗だと思って…すまない。
樹庭に駐在してから3年と7ヶ月が経つ。私たちが知り合ってから、そろそろ8年になる。来月の記念日には、樹庭の同僚たちから休みをもらい、オクヘイマに帰って君と数日過ごす予定だ。そっちも忙しいだろうから、休みを忘れず、身体に気をつけてほしい。君にニカドリーの加護があらんことを。
また会う日まで、お大事に!
七賢人の議定書
神悟の樹庭の各学派の共通教本にある1ページ。「全文暗記」を要求され、長年試験で必す出る問題として歴代の学者たちを苦しめてきた。
蓮食学派は慈愛の庭から辺鄙な森へ移住し、山羊学派の学者は彼らの奇獣たちと共に深林に身を潜め、結縄学派の数学者たちは「樹庭を離れ、患者に汚されていない浄土を探す」とまで宣言した。知恵の聖地の崩壊を回避するよう、各派の学者たちは集まって対策を練らなければならなかった。
三ヶ月に渡る交渉の末、七派はついに星追いの中庭で会議を開くことにした。記録によると、七日も続いた会議の初日では混乱を極めていた。「すべての研究はタイタンへの崇拝を根本にすべきだ」頑として主張する礼拝学派に対して、牽石学派は「過度な敬虔は畏れを生じ、真理への探索を邪魔する」と反論し、そこで赤陶学派に他派を「理性の名を借りて芸術の自由を殺そうとしている」と非難を浴びせた。
争い続けて四日目。珍しく雷雨が昼間の樹庭を襲い、学者たちは友愛の館への移動を余儀なくされた。暫しの休息を得た学者たちは根本的な問題を考え始めた。なぜサーシスは樹の姿で降臨したのだろうかと。
山羊学派は切り出した。樹は大地に根を広めると同時に、空へも伸びる。成長の法則に従うだけでなく、環境の変化にも適応する必要があると。結縄学派の数学者はさらに付け加えた。樹の姿には最も緻密な数学的構造が内蔵していると。そして蓮食学派は忠告した。樹は日光、雨露、土壌がないと成長を遂げないように、知識の成長も、さまざまな養分が必要だと。
六日目にして、各派はようやく管理体制を決めた。各派の独立性を保ちつつ、互いを制御できる七賢人制度の設立がその答えだった。しかし首席賢者の候補選出に巡る論争は、これまでにない膠着状態に陥った。
どの学派も、自分たちこそサーシスの理念に最も近いと思っているからだ。知種学派は生命の本質への追求を強調し、蓮食学派は心身の修行を徹する。山羊学派は自然への回帰を主張し、結縄学派は厳密なロジックを崇める。礼拝学派は神聖なる儀式を重んじ、牽石学派は完璧な均衡を求め、赤陶学派は芸術の自由を守り抜く。
一日中続いた論争の中で様々な案が生まれた。交代制、議会制、籤引き制まで挙げられても、満員一致させることは叶えなかった。討論が行き詰まった中、一枚の葉が聖樹から落ち、ちょうど議事卓の真ん中に留めた。そこで学者たちは、ある古い寓話を思い出した。サーシスはかつてこう言い残したことがある。理性の樹の根は枝や葉と同じくらい大切であり、片方を外したら、聖樹全体が枯れ果ててしまうと。
長き沈黙を破ったのは、誰かが口にした考えだった。理性を代表する者はいないのなら、首席をいつまでも空席にすることで、サーシスに敬意を表するのはどうだと。この案は徐々に全会場に広まり、認められていく。首席の空白は、タイタンに対する畏敬の象徴であり、全ての学者に対する忠告にもなった――「誰も理性そのものを越えてはならない」と。
こうして管理体制に対する論争は、六日目にて結論まで辿り着いた。七賢人制度の設立によって、樹庭内部の均衡が保たれる。七賢人はただの学術的統領でなく、熟考の末に生まれた管理体制だ。
こうして、七賢人は樹庭の7つの重要な役割を担うこになった。
1、知種学派の賢人は実験と研究の審査を担当し、探索が樹庭の安全を脅かすことはないか確認する
2、蓮食学派の賢人は薬園と食事を担当し、師弟の心身の健康を管理する
3、山羊学派の賢人は森林と奇獣管理を担当し、自然と人為の境界線均衡を維持する
4、結縄学派の賢人は演算と記録を担当し、知識の伝承と保存を確保する
5、礼拝学派の賢人は重要な儀式の挙行を担当し、樹庭とタイタンとの繋がりを守護する
6.石学派の賢人は身体能力訓練の指導を担当し、心身一体を育つ修行を遂行する
赤陶学派の賢人は芸術教育を担当し、心と知覚の成長を育成する
次に、厳しい牽制体系を設立した。
1、賢人の任期を七年とし、同一学派の者の再任を認めない。
2、重大決議は、賢人五名以上の合意を得ないと遂行できない。
3、三つ以上の学派が絡むいかなる実験あるいは研究は、担当賢人による共同審議を通らないと実行できない。
4、賢人には所属学派内の危険行為を否決する権利を持つ。
5、賢人に涜職者が出た場合、他の六賢人により弾劾が可能。
最後に設立されたのは、伝承を保つための後任者制度だ。
1、賢人たちはそれぞれ、後任者候補を三名育成しないといけない。
2、後任者の選定は四位以上の賢人による認可を得ないといけない。
3、後任者は他派の後任者たちの専門を学ぶ必要がある。
4、互いの協調性を高めるため、後任者たちは友愛の館に一年以上の共同生活を過ごさなければならない。
後世への影響から察するに、七賢人が設立した制度は学術の自由発展を遂げただけでなく、学派間の牽制を維持することにもせ成功した。そしてなにより、後世のために模範を立てた。「本物の知恵は単なる独尊ではなく、多次元の融合からもたらされるモノである」と。均衡を維持し、神悟の樹庭が活力溢れ続けることを保障したのは、まさに議論を重ねて定められたこの制度である。
山羊学派:■■■
結縄学派:アプレイウス
礼拝学派:■■
牽石学派:■■■■
赤陶学派:ソクリペ
知種学派:アナイクス
結縄学派の募集要項
神悟の樹庭の結縄学派が少し前に制定した新しい学生募集要項。結縄学派はこれらの募集要項がかなり初歩的で達成しやすいと思っているようだ。
一、結縄学派は、充実した学理基盤を持ち、厳格な演繹法を用いて万物の関係を研究し、万物の数量・構造・存在する空間と変化の関係の推量に力を注ぐ研究者の育成を理念としています。
二、神悟の樹庭で最も長い歴史を持つ学派である結縄学派では、人類が数千年に渡ってまとめてきた大切な真理を学ぶことができます。これらの知識は少量かつ必要な基本設定から始め、徹底的なトートロジーにより、誤った理論を生じうる
「言わずもがな」説をすべて排除しています。
三、よって本学派は日常生活においてタイタンを崇敬し、オンパロスのすべての世俗的な道徳を尊重するが、学理上では厳密でない方式でそれらを討論することを許しません。口だけの議論をし、学術の研究に就かない学者は、退学勧告が課されます。
四、本学派は数学を学派の理論の柱としてとらえ、数学こそこの世界に存在するすべての関係を、絶対的厳密な方法で研究する学問だと考えています。この理念に同感する先人、同学、後輩たちの加盟を歓迎します。
五、本学派の加入に当たって、形式的な考査は一切設けませんが、互いの労力を節約するため、以下の問題を回答できるだけの能力を有してから連絡することをお勧めします。
1.他の学理はどれも「知識」としか呼ばれないことに対して、数学の結論は「真理」と呼べることができるのはなぜか。
2.タイタンのような崇高な存在でも、数学の法則には従わなければならないのはなぜか。
3.もしこの世界に基礎言語が存在するならば、それは必然的に数学になるのはなぜか。
4.タイタンの権能は常に変更可能なのに、数学の結論に変わること絶対にないのはなぜか。
5.数字だけでなく、無限(極大、極小、極遠などを含む)も数学研究の対象となりうるのはなぜか。
6.絶対的客観に見える数学が、タイタンと人類の主観的意志の創造物であり、その主観的意志から離れると存在できなくなるのはなぜか。
7.(6)と(1)は矛盾しないのはなぜか。
8.「1+1=2」は一言だけで証明できるのはなぜか。
9.30秒以内に、暗算で任意の二桁整数の平方を求め、正しい答えを出してください。
六、本学派への加入を希望する方は、賢人アプレイウスの首席秘書であるニコマコスに連絡してください。(※:ニコマコスの仕事時間は毎週月曜日から金曜日の明晰の刻で、他の時間はプライベートの時間になるため、仕事時間中にお願いします。)
赤陶学派の意識論基礎
結縄学派の賢人が書いた、赤陶学派の存在意義を弁護する文章。哲理に富んでいる。
著者:結縄学派の伝承者、アプレイウス
赤陶学派は理論を広めるために著書を世に出すことはしないため、人々からの非難は免れないのです。「赤陶学派は存在すべきなのか」という論争は、学派の誕生当初から止むことはありませんでした。これを鑑みて、不肖私めがこの文章に手掛け、結縄学派の角度から赤陶学派の存在合理性を分析してみた次第です。本文に複雑な数学的知識は一切含まれてないので、安心してご一読頂ければと思います。
まず、赤陶学派の設立理念を振り返ってみましょう。言い伝えによると、赤陶学派を設立した賢者はまとめとして、「感性を通して直接得た情報は最も洗練されている。こういった過度な処理を経ていない素材が、我々の目に映る最も静かな世界が構成した」と語りました。つまり、結縄学派と違って、赤陶学派は理性的な視点から万物の関係を理解、分析することをせず、自分が感じ取れる部分の「世界」のみ考察しています。
そのため、非難する者たちは持論として、「結縄学派から見て、赤陶学派は最も取るに足らない存在だ」と考えています――私たちに「樹庭の資源を無駄にする赤陶学派の廃止を提言すべきだ」と唆す者がいるのも、それが原因でした。
しかし残念なことに、純粋に学術価値から考えても、結縄学派はこのような観点に賛成しかねます。私たちから見た赤陶学派は、人類が万物に対する無意識な反応を残すのに力を注ぎ、より精確に自己の心智を認知する手助けするという、むしろ最良な模範になっています。
理論だけ並べてはわかりづらいかもしれないので、ここは例を挙げながら(物語を語りながら)説明しましょう。かつて赤陶学派のソクリペ女史たちとオクヘイマを旅する時に、以下の会話が発生しました――
アプレイウス(以下「ア」):ロジック推理は万物にとっての意義は、まさに「世を背負う」タイタンが雲上に立つことに等しいと思います。
ソクリペ(以下「ソ」:同感。どっちも空中の楼閣みたいなもの。
ア:と言いますと?
ソ:「世を背負う」タイタンが雲上に立っているけど、雲の下に、暗黒の潮は依然として猛威を振っている。暗黒の潮から私たちを守るためにタイタンができるのは、私たちを雲上に居させることだけ。楼閣はもちろん空中にでも立てることができる――下に梯子を掛けないと、そこまで登ることは叶わないけど。
ソ:あなたたち結縄学派の主張もそれと同じ―貴方たちは理知に頼って、運良くも永遠の真理を見つけたから、その真理を何よりを重んじてた。これなら変化の激しい世の中でも自分の心は保てると信じて。
ア:重んじるも軽視しても、真理は真理ですよ。
ソ:あなたの思う真理が「自然の美」なのもこれが理由でしょう。
ア:否定はしません。
ソ:そういうことなら。私から見れば、結縄学派はただ自分のために「感覚」を想像で作り上げたとしか思えない。その「感覚」は目よりも見通すことができ、耳よりもハッキリ聞き取れるモノ。
ソ:――しかし率直にいうと、これはやはり守るために建てた空中の楼閣。
ア:守る?何をです?
ソ:つまりタイタンが授けたすべての感覚を放棄することで、自分の「心智」を守ろうとしている。あなたたちの美学は幻想を通して実現したモノ――現実には、直線も円も、無限も負数も存在しないから。
ア:現実に存在しないからこそ、それらを通して現実を理解する必要があるのです。
ソ:それだと球体の上で後ろ歩きすると同じよ。目標なら振り返るとすぐ手に入れるのに、あなたたちは最も遠い道を選んだ。
ア:そう言われましても、思考を放棄すれば静けさを手に入れるとは思いません。
ソ:何も考えることをやめさせたいわけじゃない。私はただ、「感覚」があなたに何を伝えているかよく聞いたほうがいいと言ってるだけ。矛盾の良さを見極めるには、まず矛盾の存在を認めないと。
ソ:…はぁ。結縄学派の言葉を使うのってこんなに疲れるとは。こういう話し方にしないとわかってくれないでしょう?
ア:ほお?では今教えてくださった観点を、御派の言葉でなら、どんな風になるのですか?
ソ:もしあなたが私の生徒なら、今からあなたをここに座らせて、何も考えず、目で風の音を聞き、耳で花の香りを嗅がせてみる。
ア:理解できませんが。
世界は元々理解しようなんて求めていない。感覚から提供する情報量は、理性でさらに選別できる内容より遥かに多い。あなたは思考の中でそれらを自ら拒絶しただけ。
ア:あなたがほのめかしているモノは、理性で分析できないと思います。
ソ:おめでとうございます――これであなたは晴れて赤陶学派を理解する第一歩を踏み出せた。
ソ:そう、「理性」は万能ではない。万能ではないからこそ、自分は万能であると自惚れないよう常に警戒する必要がある。
ソ:「理性は人を謙虚にする」とよく言われるけど、私から見れば、その謙虚は形を変えただけの思い上がりでしかない。「自分は謙虚である」という幻覚に溺れたから、大いなる存在たちと肩を並べられると錯覚してしまう。
ソ:私たちの学派の言葉で言うと、あなたたちは「自我」に対する執着が過ぎている。雲上のタイタンは非常に美しいと思っているから、想像で造り上げた雲に乗せ、自分をタイタンと肩を並べて祀られるなど非常に美しいと思っているから、想像で造り上げた雲に乗せ、自分をタイタンと肩を並べて祀られるなどと考えている。
ア:「世を背負う」タイタンの雄大さは否定できないはずです。彼はこうして私たちの目の前にいますよ。私たちが創造した雲も、想像ではなくもう一つの現実です。
ソ:その通り。でもこんな創造しなくても心の静けさは手に入る――これが私たちの学派の本質的な違い。
ソクリペさんと一体何を議題に弁論をしているのか?わからない方たちのために、簡単な説明(「精確な」とは言えませんが)をさせていただきます。赤陶学派が分析的な思考を拒絶することで、こう伝えようとしています。「分析的な思考は万能ではない。この世界には、分析的な思考でまとめることのできない知識(赤陶学派から見ると、芸術、情緒、欲望も形の違う知識です)がたくさんある」と。赤陶学派は分析的思考が苦手というわけではなく(今記録した会話においても、ソクリペさんの分析的思考は私に劣っていないことは明らかです)、ただ分析的思考で世界を測ることを拒絶している……あるいは、思考をさらに簡単な思考に戻すことを拒絶しているのかもしれません。しかしこれは、結縄学派が最も重んじる理念です。
これも当文を『赤陶学派の意識論基礎』と名付ける理由です。結縄学派の考えから言うと、「赤陶学派は無意識の存在をハッキリさせるために、意識と正面から対抗せざるを得ない」。
赤陶学派の存在がなくなったら、これを実践する者も樹庭から消えてなくなります。
こういう角度から赤陶学派の存在価値を理解してほしいと思い、当文を執筆した次第です(もし赤陶学派の芸術作品をどうしても楽しむことができないのなら)。
メルテスの密書
かってヤヌサポリスの聖女がとある司祭に送った密書、オロニクスのカによって復元された。ヤヌサポリスの政局に対する冷静な分析と、世界を角かす危機に対する憂慮が書かれている。
コデクス様へ
直接お会して胸のうちをお話しできないことをお許しください。最近、聖女の衛兵隊に見慣れない顔ぶれが多く加わっています。今のところ、私の行動を直接制限することはありませんが、一挙手一投足が監視されていると考えて差し支えないでしょう。おそらくこれもダムナティオ一派の仕業です。私と親しい司祭や官僚の多くは神殿から外され、使者として他の都市国家へ派遣されました。また、私と一般市民との接触も厳しく制限されています。ダムナティオ一派があらゆる手段を尽くして、私の影響力を削ごうとしているのは明らかです。
今の私は名目上、大司祭であり神託を伝える聖女ですが、実際にはほとんど発言権を持たず、その肩書きは日に日に名ばかりのものになりつつあります。この広大なヤヌサポリス――三相の神託の源であり、運命のタイタンが見守る聖都において、政治や宗教組織の上層部でいまだ神への敬虔な心を抱いている者は…もはや、あなたと私の2人だけかもしれません。
それと、もう1つ。タイタンが戦争を繰り広げるこの時代、ニカドリーはジョーリアを踏みつぶし、エーグルを追う道中で多くの都市国家を蹂躙しました。故郷を失った人々が神託の導きを求めてヤヌサポリスを訪れていることは、あなたもご存じの通りです。しかし、ここ百年間の来訪者を整理してみたところ、最も遠く離れた幾つかの都市国家が、ちょうど蛮神の征戦の経路上にあったにもかかわらず、長らく使者を派遣していないことに気づきました。そしてタイタンに神託を求めた結果…それら遠方の小さな都市国家は、すでに滅び去っていたという答えが返ってきたのです。
暗黒の潮――それこそが、運命のタイタンがはるか以前から告げていた災いの元凶の名です。タナトスやニカドリーは残酷な手段を用いるものの、一夜にして1つの都市国家の全住民を消し去ることはありません。しかし、暗黒の潮によって滅ぼされた都市国家は…どれも例外なく、まるでオンパロスの大陸から一瞬にして抉り取られたかのように、生存者が1人も残らないのです――天に守られた竜と海の都市国家を除いて。そのため、世間ではニカドリーやタナトスを憎む声が多く聞こえる一方で、暗黒の潮の災いについて語り継がれることはほとんどありません。このような情報の偏りこそが、各都市国家が暗黒の潮の脅威を無視する原因となっていると言えるでしょう。
それから、ニカドリーの進軍路線を研究してみましたが、ある疑問が頭から離れません。過去百年間、なぜ天罰の矛はオンパロスの中心にある都市国家を攻めず、ひたすら辺境地帯を徘徊していたのでしょうか?オクヘイマでは、全知のケファレの庇護があるからだと言われていますが、私は1つの荒唐無稽とも言える推測を抱いています――人々から忌み嫌われる狂王にして蛮神であるニカドリーは、実はオンパロスを暗黒の潮から守っているのではないかと。進軍の道中で都市国家を破壊してきたのは、もしかすると人々を死の領域から追い出したかっただけなのかもしれません。そう、ちょうど「山を拓いた者」ジオクロスと同じように……
……
暗黒の潮がオンパロス最大の敵となるのは、時間の問題です。しかし、今のヤヌサポリスの有様を見ると、災厄のタイタンによる脅威が収まった後に、人々が未来を見据え、より強靭な心を持って暗黒の潮の災厄に立ち向かうことができるのか、心配でなりません。この世界には、三相の聖女による導きが必要です――そして、彼女は見せかけの傀儡ではなく、真に救世の神託を背負う者でなければならないのです。
……
ダムナティオー派はますます傍若無人になっており、いつ私とトリスビアスに毒牙を向けてもおかしくありません。数多くの司祭の中で、私が信用できるのは助祭様、あなただけです。聖女の神託を伝える権能をあなたにお譲りいたします。その代わりに、どうか私の目や手の届かない場所でトリスビアスをお守りください。そして、不測の事態に備え、私たち母娘が住む密室に秘密の通路を作っていただければと思います。
ヤーヌスが私たち…そしてこの世界の進むべき道を示してくださいますように。
落涙集
学者ケレースによって編纂された作品集。樹庭の激変時に起きた真実の物語が記録されている。編纂時に何度も号泣し作業が進まなかったことから、この名前を付けられた。
はじめに:本集は学者ケレースにより収集と整理された、樹庭の激変時に起きた真実の物語であり、サーシスの神樹により保存されている。知恵と理性の光が永遠にあらんことを。
今思うと、あの露はもしかしたら本当に神性を含んでいるかもしれない。でなければ、なぜ私たちは樹庭でこのように長くて美しい日々を過ごすことができたのか?なぜ最も愚鈍生徒でも、神樹の庇護のもとで徐々に悟ることができるのか?
突然、誰かが叫んだ。「空を見ろ、あれはなんだ!?」
見上げると、群星の光が永夜の中で霞んでいき、まるで霧に隠されたかのような感じだった。のちにわかったのだが、あれは暗黒の潮の前兆だったのだ。
あの時先生はこう言った。「・・・皆さん、本学期はここにて終了とします。思考は最も崇高な儀式であるということを心に銘じておくように。」
これは私が樹庭で受けた最後の授業だった。
母上は、冷たさは思考をもっとハッキリさせると言っていましたね。今池の水に浸かっている私が感じるのは、痺れだけでしたよ。
母上がいなくなったあの日、私は会いに行くことができませんでした。キャラバンと一緒にオクヘイマへ行き、『7つの感情と3つの愛の形』を持って帰ると言ってたのに。暗黒の潮の速度が、私の想像を超えました。
ここが「落涙の浄化室」と呼ばれる理由を、今かわかりました。この池の水は体を清めるだけでなく、心の傷も洗い流してくれますから。
母上が作ったシナモンロールを、また食べてみたかった。
私はここを通りすがる学者を覚えている。彼らが話しかけてきた時、私たちを智者と見なしてくれた。永遠の知識を求める者が、命自身の知恵を忘れるとは興味深いことだ。
暗黒の潮が侵蝕してきた時、若い枝が一番最初に枯れた。それを見て、サーシスの最初の授業を思い出した。「理性は必ず大地に根付かなければならない」と……
道中で私と同じように逃亡する学者たちに遭遇した。私たちは支え合い、残りの食料をシェアし、恐怖を感じた時は、交代で自分が覚えている書籍の内容を話して樹庭で学んだ知識を忘れないようにした。最も皮肉なのは、樹庭から逃げているというのに、頭の中に浮かぶのはセレサスが『巡礼論』に残す警告の言葉、「群星を追い求める時も足元に気をつけろ」だった。
運命の悪戯とはこういうことだろう。ここまで知識を追い求めてきたというのに、先人の教えを真に理解したのは逃走する時だったとは。
暗黒の潮があなた様の根を呑み込む時、枝の上の最後の一枚の葉っぱが、懸命に外へ広げようと、上へ成長しようとする姿を目にしました。
これが終末というのなら。私もあなた様みたいに心強くなり、最期まで思考を保てるようにしていたいのです。
後書き:
当書の内容を整理しているとき、私は度々涙目になってしまう。涙が紙に滴り、墨を小さく滲ませた光景を、消えた命たちが未完の物語を訴えかけてきているように見えた。
しかしこれこそサーシスが残してくれた最後の啓示だと思う。「暗闇の中でも、理性の火種が消えることはない」と。当書を読んでくれる者に伝えてほしい。樹庭は幾万の学者が学を求めに行く場所だけでなく、皆の理想と信念の証でもある。身が滅ぼしても、私たちの理想と信念は不滅であり、ここに存在し続けるのだ。
破れた神馬のルート記録
ヤーヌスの木馬たちそれぞれの目的地と使命が記してあるリスト。何度も閲覧されたため、やや傷んでいる。
「ヤヌサポリスの栄光のため、世界を暗黒の潮の脅威から救うため、我らヤーヌスの神馬の乗り手は門と道を越え、同盟を求める旅に出る。危機が消え、人々の心が一つになるその時まで」
その〇・ヤヌサポリス
番号〇の神馬はヤヌサポリスにとどまり、乗り手の中継休息のための拠点となる。
余裕はないので、乗り手は奉仕の精神を持ち、共にこの難局を乗り切ってほしい。
通常ルート
〇番の神馬の使用スケジュールは■■■を参照)
その1オクヘイマ
神馬の初めての試験運行であるため、神馬の機能が正常であるかを確認することだけを目的として、ヤヌサポリスから物理的な距離が近い都市国家を選択してワープする。また、使者を同時に派遣し、陸路で並行して向かって確認を行う。
追記:無事に接触できた。乗り手は正司祭に昇格。三相殿の司祭はこのルートを最初の通常ルートとした。
追記:同盟を結ぶ価値があるため、二頭目の神馬がオクヘイマへワープする予定。
その3・ステュムフォース
暗黒の潮と戦う最前線拠点の一つ。神馬の使命は「同盟締結」であり、ワープに成功した後、乗り手はヤーヌスの権力を用いて街から少量の物資を運び出した。さらに、暗黒の潮の創造物に関する記録情報を数多く手に入れた。
ルートは通常用となり、厄災終息、または不可抗力によって遮断されるまで維持される。
その4・クレムノス
神馬の使命は同じく「同盟締結」。「紛争」とその権力を持つ地を同盟に引き入れ、共に暗黒の潮に立ち向かうため、運命の三相殿はこれまでに前後して5人の乗り手を派遣し、クレムノスの所在地を探そうとした。しかし、移動する都市国家の性質ゆえ、門と道のつながりが不明確であり、後には2人の乗り手と連絡が途絶えてしまった。
その11・オレノス
地理的には中部に近く、暗黒の潮の脅威からはやや離れている。そのため、神馬は今回の旅で農業都市との交易関係を築くという使命を果たした。その後も友好関係を維持するために、通常ルートとして使われた。
その15・ラードーン
クレムノスへ派遣した神馬と同じ使命を担っているが、初回のワープで天空を信仰する蛮族との接触に成功し、同盟締結の可能性について交渉中。
追記:このルートの乗り手は影響力こそあれど、やや個性的な言動が見られるため注意が必要。
実験ルート
……
その7・エプス
危険を伴う試み。都市国家エイプスは辺境に位置しており、これまでタイタン信仰とほぼ縁がなかったと考えられる。故に、今回の乗り手には運命の三相殿の12人の学者の1人が選ばれた。彼らが荒れ果てたかの地に運命のタイタンの恵みを描くことを願う。
その16・パーフス
神託が不明確だった。乗り手が到着してからようやく、その目的地がモネータを信仰するとされている都市国家だと分かった。物理的に距離が遠いため、伝道と特産物(金のリンゴ)の交換のみが行われた。
廃止ルートの記録保存
その6・神悟の樹庭
樹庭方面の神馬の使命は、学問的知識の収集や人材導入の仕組みを築くことなどだった。
追記:等価交換の面で樹庭との合意に至らず、数度の往来の後、乗り手との連絡が途絶。
追記:わずかな手がかりから、その乗り手は「真理を追求して学者になる」意志を表明していたことが分かり、「失踪」というよりも自分から逃げたと推測される。
その12・ドロス
神馬の使命は支援を求めることではなく、ザグレウスを信仰する都市国家が、暗黒の潮の厄災に立ち向かう意思をどの程度持っているのかを探ることだった。
結果ははっきりしない。乗り手の証言によれば、現地の住民は自発的に神馬の外殻に改造を施し、大地獣の姿に変えたそうだ。そのため、その神性も徐々に消散したとのことだ。
その19・ミラワータ
神馬は接触に成功しなかった。
その23・ブリーサ
地理的に離れすぎているため、資源取引の依頼のみ。
追記:同じく距離が離れすぎているため、乗り手はいまだ接触を試みている。
追記:この都市国家はクレムノスとの戦争に巻き込まれ、ブリサ王は軍を率いて長い道のりを越えてヤヌサポリスへ援軍を求めに来た。しかし、歳月の神託によれば、その都市国家はすでに滅びたとされる。そのため、このルートは廃止予定であり、次に乗り手が帰ってきたときに知らせる予定。
……
■■■ルート
その2・■ディ■■ア
神馬の使命は■■■■■■■竜で真理を■■■■■■■■■■■である。
その■■・■■■
■■■■■■■■■■■■■■■■■■
パズルの推論記録・神殿所蔵
ヤーヌスのパズルの推論記録。具体的な記録日時は特定できなくなっている。
……
命運季
問い :「私の故郷はどこにあるのか?」
推論結果:「もう存在しない」
※注:メンター司祭が推論のやり直しを指示。
問い:「依頼者の故郷はどこにあるべきか?」
推論結果:「ここ、ヤヌサポリス」
問い:「私のレンズはどこにあるのか?」
推論結果:「自宅の寝台の隅」
問い:「私を楽しませられるものを見つけてほしい」
推論結果:「聖殿に、聞き手と語り手の両方を担う職がある」
※注:依頼者は聖殿の試験に合格し、正式に助祭となった。
……
支柱季
問い:「私のレンズはどこにあるのか?」
推論結果:「自宅の食卓の下」
問い:「ヤーヌスの肉体はどこにあるのか?」
推論を実行せず
※注:3日待ち、リストにしたがって直接回答すればよい。タイタンの居場所に関する問いはすべてこの方法で対応する。
問い:「私が一番気に入っているネックレスをどこで落としたのか?」
推論結果:「なくなっていない」
※注:メンター司祭が推論のやり直しを指示。
問い:「依頼者がかつて最も気に入っており、今はなくなってしまったネックレスはどこにあるか?」
推論結果:「自宅の寝椅子の隙間にある」
※注:メンター司祭はため息をついた
※注:何でもかんでも記録しないこと。
問い:「私の子供はどこにいるのか?」
推論結果:「家の中にいる」
※注:私はため息をついた。
※注:やれやれ、記録するならすればいい。
問い:「天外はどこにあるのか?」
推論結果:「存在しない」
※注:この推論結果は公にせよ。
……
創生季
問い:「私のレンズはどこにあるのか?」
推論結果:「鼻の上」
問い:「1+1は?」
推論無効。問いの性質が不適切。
※注:担当の司祭は事前に問いをふるいにかけること。パズルが推論できるのは、せいぜい「場所」だけである。不適切な問いで推論を乱してはならない。
問い:「『1+1は?』の答えはどこにあるか?」
推論結果:「あなたの頭の中で見つけられる」
※注:この後、同じ依頼が3回繰り返されたため記録。
問い:「私が生涯で最も気に入っているネックレスはどこにあるのか?」
推論結果:「イカリアへ向かう旅の途中で見つけられる」
※注:紛争季の類似の依頼と同一人物によるもの。また、依頼者は神託を受けて街を出た。
問い:「アーテーはどこへ行ったのか?」
推論結果:「あなたのそばにいる」
※注:問いの提出過程が煩雑であることを考慮し、今後は子供のいたずらのような問い(特にかくれんぼのようなもの)は正式な依頼として取り扱わないこと。
※注:メンター司祭によれば、石版を渡したとき、依頼者は捜していた相手とふざけ合っており、推論結果が示す通りだったとのこと。
問い:「明日はどこにある?」
推論結果:「15日前にある」
※注:問いが出されてから石版が渡されるまで合計で17日かかった。
問い:「先代聖女の居場所」
推論結果:■■■■
※注:慣例にしたがって対応すればよい。今後、この種の依頼は扱う必要はなく、記録に残す必要もない。
問い:「私の新しい助祭はどこに行った?彼を見つける手がかりはどこにある?」
推論結果:「神悟の樹庭。机の上に注意すること」
※注:依頼者はメンター司祭。机の上には別れを告げる書き置きと手作りの品が残されていた。
問い:「私の子供はどこにいるのか?」
推論結果:「家の中」
※注:子供のいたずらであり、取り扱うことを推奨しない。
※注:メンター司祭はその考えを否定した。無事であることこそ何より重要だからだ。
問い:「今回、オロニクスに捧げる品の中で最も地味な茶器セットはどこにあるのか?」
推論結果:「ダゲーラのポケットの中」
※注:依頼者は感謝を述べ、司祭が借りたいのであれば追及しないと言った。
※注:あの人は司祭ではない!なぜ先に確認しないのか?
※注:大丈夫。依頼者はもう立ち去ったから。
……
災厄季
問い:「私の子供はどこにいるのか?」
取り扱わない
推論結果:「街の外の南側にある廃墟の中」
※注:衛兵たちを率いて捜索に向かい、がれきに埋もれて動けなくなっていた子供を救出することに成功した。
※注:創生季に臨時で任命された助祭を解任した。
問い:「まともな助祭はどこにいるのか?」
推論結果:「辛抱強く待つこと」
問い:「私を見つけてほしい」
現われたパズルがあまりにも複雑だったため、司祭3人を投入しても解くことができず、この問いは途中で打ち切られた。
※注:依頼者は失踪し、捧げられた奉納金も返せていない。
予言の真相に関する考察
無名の調査員が書いた調査報告書の写し(第13版)。一部の文字が誰かに黒塗りされており、具体的な内容は確認できない。
1.情報収集
彼らは3段階の問答所を設けている。各階には専任の司祭がおり、質問者の情報を記録すると同時に、下位の問答所の司祭の監視も行っている。司祭たちは質問者の身元、人間関係、社会的地位を詳細に記録するよう求められており、さらには、質問者のファイルを作成し、定期的に最高位の司祭に報告しなければならない。
2.優先度の振り分け
信者が質問しに訪れると、訪問者の質問と地位に応じて、あらかじめ3段階の優先度が割り当てられる。司祭たちは優先度の高い順に質問の対応をする。たとえ信者たちが求めるものと等価の財物を捧げていても例外ではない。ただし…追加の金を支払えば話は別だ。
優先度が最も高いものは、都市国家の重大事項に関わる問題だ。
次いで、日常生活の重大な意思決定に影響を及ぼすもの。
優先度が最も低いものは、市民たちのありふれた願いごとで、「敬虔さが足りない」「司祭が研修中」といった理由で突き返されるか、先延ばしにされることが普通だ。
1.聖女を閉じ込める檻
■■■
2.環境による支配
信者について言えば…彼らは信者のことなど少しも気にかけていない。普段見せている「温和で親しみやすい」姿は、表の顔にすぎないのだ……
…信者たちの心を癒やし、元気づけてくれると言って、あちこちに配置したお香だが、これには実は幻覚を引き起こす成分が混ぜられている。お香をすりつぶして調べなかったら、私もきっと騙されていただろう。
…祈祷室には特別な音響設計が施されており、司祭が話すと信者たちは「神託」が響いているように錯覚する。さらに窓や採光の仕組みによって、上を見上げると特定の視覚的混乱を起こすようになっている。天井に光が集まることで、信者たちは目まいを覚え、「タイタンの神として力」と勘違いするのだ。
3.作られた預言
皮肉なことに、運命の織り手は今この瞬間、現実のものとなった。信者たち、さらには都市国家の運命、いわゆる未来がすべて、司祭たちの手によって作り上げられ、操られているのだ。
もちろん、運命の三タイタンの加護によって司祭や聖女たちが未来を垣間見る力を得たことは否定しない。しかし、能力があることと、それをどう使うかは別問題だ。
下位の司祭は預言の材料をまとめ、中位の司祭は表現の曖昧さを調整し、上位の司祭は預言の方向性が神殿の方針に沿ったものになるように最終チェックを行っている。
調査を進めている中で、彼らが司祭を3つの階級に分けていることも分かった。はっ…「3」という数字は本当にいたる所に存在しているのだな。ある意味、運命の三タイタンに忠誠を尽くしていると言えよう。
彼女の娘である以上、彼女は■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
私は証拠を見つけた。それによって、ある■■■■が偽りの預言を使って都市国家間の紛争をあおり、そこから利益を得ていることが証明された。さらに、彼らは神託を利用して■■を扇動しようと画策しているらしい。その目的はただ……
タレンタムよ!彼らの犬が来たようだ。足音が聞こえる。証拠を全て一箇所に隠しておいた。その場所は■■■■■■■■■■■■■■
送ることのできなかった樹庭の定期報告書
神悟の樹庭からオクへイマへの定期通信文。暗黒の潮による襲撃のせいで、すぐに送ることができなかった。
聖都の隣人へ:
これは光歴4931年2度目の通信である。
・成果報告
・予算請求
・物資の要請
・その他
成果報告
1.蓮食学派
「暗黒の潮の侵蝕に抵抗する薬草」という課題については顕著な進展なし。
新型の改良穀物品種の生産量が800%アップした。
2.山羊学派
キメラ用の新型回復薬の開発に成功。実験では四半期ごとに1回投与すると、平均で作業効率が87%(±6%、個体差あり)上がった。
長期報告:「ディアディクティオを離れて3年後、彼の体に起きた変化」
赤陶学派
研究報告:視野の色が感情に与える影響(詳細は別紙参照)
研究報告:芸術の最小単位
4.結縄学派
研究報告:情報の暗号化および暗号解読方法の更新
研究報告:フラクタル構造から広がる思考――我々はすべてを予測できるのか?
5.礼拝学派
複数の信仰を持つ者向けの祭具は今もなお開発中。災厄のタイタンに関するものは後回しで対応。
6.牽石学派
我々の成果はこの報告書を届ける使者となる。彼は二日以内に樹庭からオクヘイマまで駆け抜ける。見届けてもらいたい。
7.知種学派
報告事項なし。
予算請求
通常予算30000000
新規課題の助成予算5000000
使者の報酬5420
作成費用(文字数で計算) 40.1
合計:
テミス35005460.1
計算上の困難がある場合は、小数点以下「.1」は切り捨て可。
物資の要請
空いている石板×5000
伝言の石板1(著しく損傷)
種の保存庫の最新情報(写し)
その他
樹庭としては山の民を数名雇用し、簡単な警備を任せたい。衣食住はこちらで手配する。
以上、サーシスのご加護がいつまでもあらんことを。
樹庭の植物に関するガイド石板抜粋
樹庭に生えている植物を紹介するパンフレット。なぜか観光ガイドの形式で書かれている。
注意事項:
物思いの伝道を進みながら見学してください。一部の植物はナイーブなので、一つの場所に長く滞在しないでください。
特別な注意書きがない限り、園内の植物には決して触れないでください(自分のためにも好奇心を抑えましょう)
古き詩の植物エリアと永夜の植物エリアでエンドモを見つけても気にしないでください。害はありません。
異典の植物エリアでエンドモを見つけた場合は、外へ連れだしてください。
……
永夜の植物エリア
辺境の植物に憧れはあるけど、暗黒の潮のせいで探しに行けないと悩んでいませんか?そんな人には、蓮食学派の学者とオロニクスの司祭が共同開発した「永夜の帳の温室」がおすすめです。ここでは一日中「人工暗源」が設置されており、黎明のミハニの光ですら遮断します。
この植物エリアで見るべき品種は以下の通りです。
刀芒草
クレムノスへの旅路に生えるトゲを持つ植物です。クレムノスのメーレが土壌に染みこんでいるときにだけ生えてきます。そのユニークな生態と神秘性によって樹庭の学者を魅了しています。
名前は草となっていますが、その葉はとても大きく、非常に鋭いです。サーシスの司祭による祝福を受けると、葉が硬さとある程度の弾力を帯びるようになるので、衛兵たちの予備の武器として使うことも可能です。
ラードーンの雨
ラードーン特産のコバルトブルーの結晶状ベリーで、「オロニクスの涙」とも呼ばれています。かつてはラードーン人の主食の一つでしたが、紛争と暗黒の潮の到来でその生育環境がすべて破壊され、今ではここにしか残っていません。
雨が降って大地を潤すとき、ラードーンの雨は一面に咲き誇ります。「タイタンの涙がこの果実を育んだが、果実はタイタンにさらなる悲しみをもたらした」と言われています。
……
生命の種子エリア
ここにある植物は自然のものではなく、生命情報の集積です。詳しく知りたければ、お近くの学者にお尋ねください。
責任者と共にオクヘイマへ移送済み。
古き詩の植物エリア
樹庭の学者たちは少なからずある疑念を抱いています。それは、タイタンの伝説で語られる植物の一部は本当には存在せず、祭礼や哲学書の中で作りあげられた架空のものなのではないかというものです。この植物エリアは、そうした疑問を払拭、あるいは確信させるための場所です。
※一部の品種は蓮食学派が人工交配によって作り出したもので、伝説で語られている姿を再現することを目的としています。
この植物エリアで見るべき品種は以下の通りです。
ピンクゴールドローズ
たしかに花はロマンチックな物語で最もよく登場する脇役ですが、ピンクゴールドローズを恋愛の贈り物として描こうとする人はまずいません。知ってのとおり、ケファレが世界を創造して以来、この花はタナトスの視線が注がれ続けているからです。
言い伝えによれば、タナトスは自らの領域内で愛する相手を黄金色の花畑に寝かせるとされています。枚一枚の花びらには、紛争の中で死んだ魂が宿っているため、とても食いしん坊なクモヒツジですら見向きもしません。
樹庭の学者たちはこの手がかりをもとに、この植物の源を探り、ついに目にしたのがこのピンクゴールドのバラだったのです。美しくてトゲが多いのですが、どうやらクモヒツジが避ける真の理由はそのトゲにあったようです。
石の木
民間に伝わる話によると、ジョーリアが山の民を創造したときに使ったのは土ではなく、石の木の硬い幹だったそうです。これは荒唐無稽な作り話ですが、山の民に伝わった後、かえって彼らに親近感を抱かせたらしく、オクヘイマでは今日でも多くの衛兵が石の木で作った装備を使いたがっています。
樹庭では直接触れることが許されている数少ない植物の一つです。手で触り、大地という名の頑丈さを感じてみてください。
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民間に伝わる話によると、ジョーリアが山の民を創造したときに使ったのは土ではなく、石の木の硬い幹だったそうです。これは荒唐無稽な作り話ですが、山の民に伝わった後、かえって彼らに親近感を抱かせたらしく、オクヘイマでは今日でも多くの衛兵が石の木で作った装備を使いたがっています。
樹庭では直接触れることが許されている数少ない植物の一つです。手で触り、大地という名の頑丈さを感じてみてください。
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異典の植物エリア
普通、花をガラスで覆うのは外界から守るためですが、樹庭では逆に外界を守るためなのです。この植物エリアを散策する際は、そのことを忘れないようにしてください。
夜冥キノコ
サーシスの意図せぬ創造物であり、ザグレウスのお気に入りのオモチャと言われています。誰もその姿を説明できないのは、それがあらゆる視線を呑み込んでしまうからです。もしオクヘイマの外で地面にブラックホールのようなものがあるのを見かけても、不思議に思う必要はありません。それはまた別の夜冥キノコが開花しているだけです。
樹庭の中は言うまでもありませんが、もし野生の夜冥キノコを発見したとしても絶対に、絶対に触ってはいけません――タナトスに早く会いたいのであれば話は別ですが。
……
ある赤陶学者のエッセイ(抜粋)
ある赤陶学派の学者が記したエッセー。日々感じたことや思ったことが短い詩の形式で断片的に記されている。
(......)
私たちは夢の中で親しい人々と存分に歌い踊り、朝になって目覚めると、故郷を失った悲しみに涙する。
私たちは夢の中で愛する人との悲しい別れを経験し、朝になって目覚めると、一皿のおいしい料理で笑顔になる。
私たちは夢を見て、目を覚ます。それを繰り返し、人生は断片に分けられながら、ひとつながりになっていく。
私たちはいつも現実と夢を区別できると思い込んでいる――
だが、目を覚まさなければ、どうやって夢の中にいたと知るのか?
そして夢の中にいるなら、どうやって自分を目覚めさせられるのか?
(......)
星は昇っては沈み、万物は生まれては死ぬ。
世界は広く、時はいつまでも続き、運命は果てしないクモの巣のようだ。
私たちはその網に引っかかった虫けら、生命の大空を飾る小さな欠片にすぎない。
私たちは無秩序に震え、流れる雲のように生まれては消え、集まっては散る――
世界は私たちに理解を求めていない。ならば、いたずらに分析し、推論し、構築する必要などあろうか?
寝台の上にさらに寝床を重ねる者がいるだろうか?建物の土台にさらに杭を打つ者がいるだろうか?
感知できぬ者は存在する必要がない。たとえ存在したとしても、それは虚無でしかない。
(......)
私はドリアスの揺れる花びらの中に清らかな香りを見いだし、宴で奏でられる楽曲の中に甘美な味わいを聞く。
私は苗床に広がる花の香りの中に鮮やかな色を嗅ぎ取り、流れ出す蜜の中に楽しい旋律を味わう。
私の魂はすでに万物の本質を教えてくれており、頭もすでに自分を縛ってはならないと学んでいる。
私は一輪の花に出会い、その花を見つめ、耳をすまし、香りを嗅ぎ、味わう。それはそこにある――
だが、もし私がその花を書き留め、描き、標本にしてコレクションしたなら、それはもはやその花ではなくなってしまう。
(......)
儀式の地域的特徴について(抜粋)
礼拝学派の学者による著作の抜粋。オンパロス各地に存在するタイタン崇拝儀式の共通点と相違点を神話学的な観点から論している。
(......)
続いていくつかの事例を示し、異なる都市国家の文化習慣が現地のタイタン神話に与える影響について簡単に解説する。
オンパロスには以下のようなよく知られた神話がある。黄金紀に、ある海辺に住む部族が津波に苦しんでいた。彼らは族長の指示で堤防を築き、溝を掘り、津波を防ごうと試みた。ところが、遊び心をくすぐられたファジェイナは、巨大な津波を起こし、人々の努力の成果を打ち砕いた。悲しみ憤る族長が問い詰めると、タイタンはクジラの姿になって岸に現れ、族長と賭けをした。その賭けとは、7日以内に彼らが海を渡り、海の向こう側にある小島にたどり着けば、もう彼らの平和を乱すようなことはせず、さらに自分の宝物を授ける。しかし失敗すれば、この海岸は永遠に海に沈むことになるというものだった。
広く流布している伝説では、人間が賭けに勝てたのは、エーグルが族長の夢の中でいかだの作り方を教え、また道中でジョーリアが力を貸したからだとされている。ところが、一部の沿海都市(アリスティアなど)で語られている内容によれば、話を通じて登場するタイタンはファジェイナだけである。つまり、族長に船を作る術を教えたのもファジェイナであり、人間からの挑戦に好奇心を刺激され、公正な賭けにしようとしたからなのだ。そして、最後の最後で人間たちの邪魔をやめたのは、彼らのたくましさと勇敢さに心を打たれからだとされている。
一般的に広まっている内容と比較すると、この物語に登場するファジェイナ像はより複雑で生き生きとしている。神と人間のつながりが強調され、両者の性格や行動もより似通ったものになっている。沿海都市におけるファジェイナへの崇拝と信仰を考えると、ある大胆な仮説を導き出せる。それは、異なる地域文化の影響下において、人々は自分たち、あるいは部族のニーズや願望を無意識にタイタンに「投影」してている。神と人間のつながりが強調され、両者の性格や行動もより似通ったものになっている。沿海都市におけるファジェイナへの崇拝と信仰を考えると、ある大胆な仮説を導き出せる。それは、異なる地域文化の影響下において、人々は自分たち、あるいは部族のニーズや願望を無意識にタイタンに「投影」しているというものだ。
次に、別の視点からこの仮説の証左を考えてみたい。周知のように、ザグレウスが神々に仕掛けたいたずらの中で最も有名なものは、「モネータの像の影に隠れ、相手の供物を盗む」というものだ。広く知られている伝説の結末には、目立たないが重要なディテールがある。モネータはザグレウスを捕まえられず、代わりに自分の司祭へ怒りを向け、彼の目が二度と美しいものを見えないようにしてしまった。
とても些細なことに思える要素だが、エウレイニアやミリオスなどの都市国家では、幾度となく学者や芸術家たちを巻き込んで大論争を引き起こしてきた。彼らはそれぞれの出自、立場、主義主張の違いから、この「気まぐれな罰」の受け止め方が異なっていたのだ。一部の原理主義的なモネータ信者はこれを断固として認めず、「完璧なる神に対する恥知らずな冒とく」と激しい態度で非難し、あらゆる祭祀の場において言及を認めないタブーとしている。
以上の内容を踏まえ、本稿でこれから詳しく議論するのは、「異なる地域におけるタイタン崇拝の儀式の相違点と共通点」についてである。すなわち、異なる文化的背景を持つ人々が、それぞれの認識する「神の好みや傾向」にもとづいて、いかにして適切な祭祀を執り行い、それぞれのタイタンを喜ばせようとしているのかというものだ。
(......)
命運季の歌
運命の三タイタンに関する民謡。黄金裔であり有名な吟遊詩人でもあるイリヤによって書かれた。
言い伝えによれば、黄金裔の詩人イリヤが命運季にヤヌサポリスに立ち寄った際、大地獣の背に乗って即興で歌ったものとされている。
一年の中で最も新しい月、ヤーヌスが門を閉じ、過ぎ去りし日々に別れを告げる
運命の長女よ、鎖のように輪郭と境界を分けている
見よ、空に描かれし折れ線を。未来と過去を斧で切り裂いたかのように鋭い。
人々は次々の身のまわりのものを捨て、燃え尽きた絆を捨て去った
「門が再び開かれる時、必ずや新たな未来が訪れるだろう」
一年の中で最も規則正しい月、タレンタムがねじを巻き、分と秒を見極める
運命の次女よ、定規のようにこの世のすべてを測る
見よ、等しく長い朝と夕、天秤が昼と夜の均衡を保つかのようだ
人々は日が沈めばねむり、日が昇れば働き、裁定と契約にしたがう
「絶対的な平等、卑小さも偉大さも何が違うのか」
一年で最も怠惰な月、オロニクスはあくびをし、眠気を広める
運命の末娘よ、ネクタールのように怠惰、理性、喧騒を司る
見よ、その薄暗い陽光、黎明のミハニさえも眠気を感じる
人々は意識が朦朧とし、うとうとと眠りに落ち、しばしば感傷的になる
「万物よ、しばし休むのだ。そしてその後、すべては巡り芽生える」
神性の反響:門と道
タイタンの神跡が残した記億。祝福を受けた者だけがこの神聖な残響を耳にすることができる…聞こえたか?その隠された小道にある聖域が今、扉を開けた。
「万路の門」ヤーヌス。
惜しみなく幾千もの道を開き、万物を帰るべき場所へ導く。
迷える者の前に広がるすべての道は、
あなたという唯一の門へと通じている。
神性の反響:理性
タイタンの神跡が残した記憶。祝福を受けた者だけがこの神聖な残響を耳にすることができる…聞こえたか?その森の中の教えは世界に真理を植えた。
「分裂する枝」サーシス。
春には疑問を植え、秋には天の叡智を収穫する。
無数の花と聖なる葉の中で、
真理がその姿を見せる。
神性の反響:浪漫
タイタンの神跡が残した記億。祝福を受けた者だけがこの神聖な残響を耳にすることができる…聞こえたか?その金糸をたぐるエンドモが愛情のこもった詩を交わしている。
「黄金の繭」モネータ。
巧妙な計略は運命づけられ、縁ある者同士を結びつける。
あなたは最も澄んだ美しさであり、
最も濁った欲望でもある。
「民会」に関する考察
オクヘイマの民会制度の歴史とその メカニズムに関する研究リポート。 オクヘイマの政治体系を理解するの に重要な参考価値を持っている。
オンパロスの各都市国家の民は、過去現在を問わず民主政治に心惹かれ続けている。オクヘイマが都市形成された初期では、「民主」とは少数派の特権階級だけが享受できるものだった。しかし度重なる改革のすえ、オクヘイマの民会は歴史の舞台に上がり――これによりオクヘイマの「民主」は「全市民が享受できる民主」への転換を遂げ、重要な国務はすべて、民会によって決められるようになった。
注目すべきなのは、暗黒の潮が近づくにつれ、オクヘイマに身を寄せた各都市国家の民が、オクヘイマの政治に関与するようになったことだ。これによりオクヘイマの元市民の大切な権利が徐々に薄れてしまい、民会の改革を求める声が次々と上がってきた。
民主とは文明の発展による結果の1つであって、文明が発展する原因ではない。民主の効果を発揮するには、異なる社会状況問題を踏まえ、それぞれ違うルールを定める必要がある。すべての状況に適するルールなど存在しないのだから。
つまり本書が完成した現在でも、オクヘイマの民会制度は変革し続ける。時間の都合により、本書で考察するのはあくまで今現在のオクヘイマ民会であり、これからの変化についての研究は行わない。この前提を踏まえ本書の内容を参考にしてほしい。
オクヘイマの市民、市民権と市民政策
オクヘイマ民会のメカニズムと主な役割を深く研究する前に、まずオクヘイマの市民、市民権、そして市民政策について話さなければならない。とある元老の観点によると、オクヘイマは自由な市民の集合体である、とのことだ。市民たちが持つ権力が絶大とも言えるため、その権利を確実に守ろうとするならば、市民資格を厳しく審査する必要がある。
「帰化者の権力を認めるかどうか」という議題は、かつて黄金裔の指導者と元老院の議論の中心だった。歴史が進むにつれ、オンパロスの都市国家が次々と陥落し、暗黒の潮も目の前まで迫って来ると、市民権の改革も余儀なくされた…結果として、各都市国家の民は、聖都で平等な市民権を持ち、誰もが平等に公共事務に参加できるようになった。
社会において、人々には確かな差が存在している――貧困に苦しむ者と富に恵まれる者、元住民と異邦人…しかし聖都オクヘイマでは、社会での差をそのまま政治における差として反映させることはない。政治においては、市民は皆平等である。
(以下略)
民会の運行メカニズム
オクヘイマ民会は、決まった流れに従って開かれる(緊急事態を除く)。民会を開催する前に、都市国家の代表で構成された権力機関――当期の元老院は英雄の壁の前で、まもなく開催される民会の日程と会議場所を発表する。会議場所として選ばれるのは、一般的に聖都の黎明の崖である。
通常であれば、民会の開催前に元老院のメンバーにより議題が提示される。議事会メンバーから半数以上の同意票を得られた後、当議題は当期の民会の正式議題となる。議事会は「どんな事務を受理し、いつ何をするべきか」を事前に決めなければならない。そして決定後に議事会主席は民会の議事日程を元老院の「議会主席」に渡す。会議の進行を務めるのは、その議会主席になる。
通常、事前に議事会で先行議論を通してない事務は、民会で討論できない。議事会で先行議論を行った事務の種類は、2通り存在する。1つは議事会で十分に議論され、あとは市民による票決を行うだけの事務。もう1つは、先行議論の段階でなんの意見も生まれず、民会で市民間の弁論を通して、最終決議を下す事務だ。
票決の結果は「ケファレ紋章が刻まれたオストラコン」で記録・統計される。民会期間中は、市民の意見収集用としてオクヘイマに投票用壺が設置される。すべての議題を十分に議論し、投票した後、元老院は可決された法令を公開し、英雄の壁の前に掲示する。
(以下略)
民会の主な役割
民会が実際に持つ権力は下記の通りである――立法権、任免権、宣戦布告、講和、さらには具体的な戦争の指揮権といった重要な権力。
しかし、歴史的実践を踏まえた角度から見ると、オクヘイマ民会の管理と通知は、完全に「市民」に委ねられているわけではない。民会とは、社会における大多数の意志に適している「エリート」が、社会の事務を効率よく管理する方式なのである。
それはすなわち、「黄金裔の指導者と元老院が共にオクヘイマの大小の事務を管理する」という現状も、オクヘイマの民会制度によって決められたということだ。市民たちは社会事務の管理や政治の意思決定に直接参加はしないが、投票を含むさまざまな手段で政治を行う者たちに影響を与えている。
(以下略)
付録・元老院の主要メンバー
元老院とは、オンパロスの各都市国家の代表者たちが結成した権力機関である。メンバーの大半は異なる都市国家から選ばれ、ごく一部は現役の元老院メンバーに直接招かれている。民会により権力が与えられ、オクヘイマの大小の事務を実際に処理するのはそういったメンバーたちだ。
中でも一番名高い元老といえば、アンティキシラ人のリュクルゴスである――アンティキシラ人とは、黄金戦争前から滅びる寸前であった人種である。黄金紀で幾度もケファレと直接の交流を果たし、凡人たちの言葉をケファレに伝えてきたリュクルゴスは、名実ともに「神礼の観衆」なのだ。リュクルゴスがたびたび議会主席として選ばれるのは、誰もが認める彼の中立的な態度が主な理由である。
特筆すべきは、元老のカイニスがその手腕によりオクヘイマで素晴らしい成果をあげたことと、多くの支持者を得たことだ。カイニスが手元に集まった資源を活用し、「黄金裔が実権を握る」という現状を変え、オクヘイマの政治的生態を再構築できると信じる者は少なくない。
「民会」に関する談話記録
深く考えさせる記録――オクヘイマで最も尊敬される黄金裔でも、制度に対し疑問を抱いたことがあった。
アグライア、もし僕たちが掲げる理想が民会で大多数の反対に遭ったらどうするつもりだ?
あなたの考えていることは大体わかっています。これからいくつか質問をしますが、正解も不正解も存在しないので、ゆっくり考えてくれて構いません。
1つ目。オクヘイマの人々は個人の決定より集団の決定のほうが正しいと信じていますが、あなたもそう思いますか?
一個人が考えられる要素には限りがあると思う。
ある学者はこう言っていた。「1つの会場に集まる群衆は、多くの手足と耳目を持ち、多くの個性と知恵を備えた異人である」と。
…だけど一部の学者は反論して、そういった集会は派閥争いの心理に支配されていると主張した。1000人が1つの集団に集まっていれば、1つの提案に激しく賛同するかもしれない。でもそれを複数の小さな集団に分けたらどうだろう、同じ提案でもそれに反対する可能性がある。
2つ目。異なる決議がどのような影響をもたらすかを、市民たちは十分に理解していると思いますか?
…それはしていないと思う。ほとんどの都市国家では、演説家による政策説明が必要とされているくらいだから。
それはつまり、民衆は演説家に煽動されやすいことを意味しているのではないでしょうか?
3つ目。民衆は自らが出した答えに責任を持ってくれると思いますか?
僕の知る限りだと、オクヘイマの歴史には大きな軍事的敗北があったはずだ――
敗戦の報がオクヘイマに伝わると、民衆は「遠征」を煽動した演説家を強く非難した。
「遠征」は、ほかでもない市民たちが、自ら望んで民会で票決したことだったのに……
民会は1つの議題に対して、絶対的な正解を出さず、深入りもせず、責任も取りません。
最後の結果に思い悩むより、勝利を得ることに専念すべきだと思いますね。
4つ目。たとえ人々から支持されなくなったとしても、私は火を追う旅を続けると思いますか?
…言いたいことはもうわかったよ。ありがとう、アグライア。
開拓者のリトル・アザラシチーム選手変更について
開拓者水上競技クラブ リトル・アザラシチームが公開した公式お知らせ。
この度、開拓者水上競技クラブに所属していた、リトル・アザラシチームメンバーであるキメラ選手ポポン(元ID:サイバーキャンパス)がチームを脱退することになりましたことをご報告させていただきます。クラブとの契約期間が満了したため、積極的かつ有効的な話し合いを通して、ポポン選手の意思を尊重し、本日より正式にチームから脱退となります。
ファジェイナの誕生月から、開拓者クラブはリトルアザラシ選手の交代補充を経て、グループ戦からトーナメント戦まで、全勝無敗の戦績を保持してきました。ポポン選手は「ぽよよん!アザラシ大作戦」の開催当時から開拓者クラブに入り、中心メンバーとして活躍してきた実績があります。「ぽよよん!アザラシ大作戦」のスター選手として、ポポン選手は新しいチームでも輝かしい戦績を残していくことでしょう。
風が荒波を制する時、帆を上げ海を渡らん。
世に終わらない宴はありません。会場に残された数々の素晴らしい瞬間は、永遠に記憶に刻まれることでしょう。ポポン選手、その努力と開拓者クラブへの貢献に心より感謝を。そして今まで熱い応援とご支援で支えてくださったファンの皆さま、誠にありがとうございました。
すべての過去は序章である。出会いには感謝こそすれ、別れを惜しむことはない。
人生には夢があり、誰もがそれぞれの方法で輝いています。再出発に踏み切ったポポン選手の、今後のご活躍をお祈りします!
また次の試合で、お互い笑顔で会いしましょう。
神性の反響:死
タイタンの神跡が残した記憶。祝福を受けた者だけがこの神聖な残響を聞くことができる…聴いて、その尽きぬステュクスを歩む死霊の囁き。
暗澹たる手、タナトス。
人々の運命を手に、魂の舵を取る者よ。
どうか我々からとこしなえに離れ、
人生の夕暮れを祝福に転じたまえ。
神性の反響:世負い
タイタンの神跡が残した記憶。祝福を受けた者だけがこの神聖な残響を聞くことができる…聴いて、その世界の中心から響き渡る黎明の賛歌。
万象の座、ケファレ。
滅びぬ尊き者よ、果てなき光を背負う者よ。
聖なる光はあなたの御首から顕れ、
美しき黎明が訪れた。
神性の反響:法
タイタンの神跡が残した記憶。祝福を受けた者だけがこの神聖な残響を聞くことができる…聴いて、その断罪の天秤から降した悪を裁く宣告。
公正の秤、タレンタム。
罰を以て不義を裁き、法を以て不和を正す。
審判から逃れられると思い上がりし者たち、
全ての過ちが天秤にかけられているとも知らずに。
アルティッカスのケファレ神託集
ケファレを信仰する祭司たちが編纂した神託集。ケファレが降した神託の権威的な解説が記載されている。
*ケファレが沈黙した後、大司祭アルティッカスが編纂した神託集。ケファレの神託、司祭の解釈、神への賛美歌が記されている…司祭たちは千年にわたり、新たな内容の収集、編纂、解読を自らの責務とし、代々受け継いできた。
黄金紀、天父の栄光が万物を照らし、神託は大地に響き渡る。
「人の子らよ、隣人を尊びなさい。」
「ネクタールを分かち合い、毛布で彼らの体を温めなさい。」
「さすれば、彼らはきっと汝らの歌声に合わせてくれるだろう。」
紛争紀、神託は囁きのように軽く、その先には完全なる沈黙が待ち受ける。
「渓谷を見つけ、瓦礫の中に隠された花の種を探しなさい。」
「銀色の種で汝らの剣を造り、金色の種で汝らの金庫を満たしなさい。」
「その種を芽吹かせ、根を張らせ、ステュクスを防ぐ長い堤を築きなさい。」
「神託はすでに下された。我が使命は終わりを迎え、これより沈黙へと還る―――」
「永夜が目前に迫っている。しかし、黎明のミハニが『永遠に』聖都を照らし続けるだろう。黄金の血を引く人の子が奇跡を起こすその時を待ちながら……」
あなたが運命という名の縛りを解く時、その手に手綱を戻せる者はいるのですか?
あなたの慈愛に満ちた眼差しの中、人生の荒野をどうか耕させてください。
あなたの思うがまま、あなたの願うがまま、あなたの為すがままに。
神が沈黙する時代にも、解読を待ち続ける言葉がある。
黎明のミハニの光が昨年より明るく、薬草がよく育っている。
「結縄学派」の報告によると、天父が手を下ろす際の振り幅が大きく上昇。
天父は紛争を予見して、
我々に薬草を授け、つるで編んだ縄で
創造物の命を救い、我々が拳を掲げ敵に立ち向かえるよう導いている。
貢物である金色の絹が水気を帯びて血色に染まった。
黄金裔が独断で政権を握る兆しを見せていることに、天父は難色を示している。
大地獣は一斉に工房から逃げ出し、黎明のミハニに向かって咆哮を上げた。
災いが差し迫っている恐れがある。
庶民のアモフィスは酔いの中で天父の顕現を見た。
そして「ネクタールを飲み過ぎてはならない」との啓示を受け、3日間ネクタールを断った。
「礼拝学派」の学者は不幸にも大地獣に踏まれ天父の顕現を見た。
そして「針の先で踊る百頭の大地獣」を目の当たりにした。
全知なる天父は迷える者を善に導き、無知なる者に真理を示すのだ。
全知なる天父、世を背負う主、我らが祈る唯一の希望よ。
我らに言葉をお授けください、我らの声に耳を傾けお応えください。
我らに与えたすべてを以て、あなたを覚え、理解し、讃えることをお許しください。
暗黒の潮に足をさらわれることなく、彼の世を臨む此の岸で留まれるますように。
黎明の崖受付グループの業務日誌
黎明の崖入口の受付グループの業務日誌。崖の訪問者の審査基準と受付スタッフの業務日誌が記されている。
2.黎明の崖で働く、または生活する市民は、特別なケファレの石符を携帯する必要があり、石符を見せて身分を証明することで、黎明の崖に出入りすることができる。登録する必要はない。
3.上記二つの区分に該当しない来訪者は、基本的にその身分を慎重に確認する必要がある。黎明の崖を訪れることができるのは招待客のみである。こうした招待客は、一回限りのケファレの石符を携帯することで訪問を許される。訪問終了後、この石符は受付メンバーによって回収される。
4.元老院が特別に迎える極めて高貴な来賓の待遇は上記に含まれない。この場合は元老院が特別に元老を派遣し、各段の礼節をもって迎える。
5.一般人が無断で黎明の崖に立ち入ることは固く禁じられている。
光歴4930年、平衡の月、11日
……
践行の刻、訪問者5名。
フォボス、豪商、大金を寄付して観光に訪れた。石符は回収済み。
カッサンドラ、神託者、招待を受けて訪問。石符は回収済み。
ニンフ、黎明の崖貴族祭司の姪、侍女と共に訪問。親族の要求により、しばらく黎明の崖に滞在。
……
光歴4930年、栽培の月、9日
門の刻、訪問者2名。
クリュメノス、元老院の元メンバー。神性を失った石符を提示し、手続きに従って石符にケファレの神性を取り戻すために来たと訴えた。
翌日の追記:元老院から追放されたことに不満を抱いていたこの人物は、黎明の崖で許可なく石符に神性を注ぎ、己のものにしようと企んでいた。現在、この人物は石符を没収され、今後の訪問を永久に禁じられた。
ユリス、異邦の貴族、招待を受けて訪問。元老院に巨額の資産を提供、石符に永久的な神性が付与された。今後の訪問において登録は不要。
……
光歴4930年、自由の月、17日
……
離愁の刻、訪問者1名。
特別な貴賓、氏名を明かすことを拒否、元老院が専任の者を遣わして出迎えた。さらに1名の助祭がケファレに腕を下ろすように請願し、タイタンの手に乗って訪問を行った。このような壮大な瞬間は数年に一度しか見られない、実に貴重なものだ。
「黄金紀復興」の宣伝冊子
詩を詠むような宣伝冊子。真摯な感情で人々に黄金紀への未練と憧れを呼びかけている。
それは夢にまで見た我々の故郷。
今、争いの槍がその丸みを帯びた骨を貫き、
詭術の汚言がその荘厳な面影を腐蝕する。
その高貴な体はステュクスの底に埋もれ、
人々との再会を災厄のタイタンに阻まれている。
高尚なる繁栄の世を再びもたらさんとする、
あなたの慈悲深き預言は十分に広まったでしょうか?
我々に為せるのは、災厄を祓い、敬虔を示すことのみ。
勇士たちは紛争の槍を断ち、詭術の汚言を焼き払う。
そしてあのステュクスの僭主を討ち、
死の冷骨を取り除き、その中から新生せし古き者を持ち上げるでしょう――
我々が夢に見る故郷。
あなたはあの果てしない空を、大地を、海を、全てを高潔なる光で覆い尽くした。
門と道と天秤で人々の行く先を定め、
数え切れぬほどの物語を帳で優しく包み込んだ。
そしてあなたの口付けは大地に愛と知己を生み出した。
あなたは見届けることでしょう――全知なる父が目を伏せ、幸福な運命を国々に授けるその様を。
ただただ、あの華麗なる黄金紀に涙を流すのです。
それこそ我々が帰らなければならない故郷なのですから。
死についてわかっていること
アミュネッタがスティコシア女王に宛てた返信。その内容の文脈背景や年代はもう確認できない。
敬愛なる女王陛下、数日前に、あなた様からの手紙を受け取りました。あなた様の仰る通り、タナトスがオンパロスで誕生して以来、不死の黄金時代は過去のものとなりました。そして、私たちがあの時代に戻れることは二度とないと私は考えております。
エイジリアの「死」への信仰が、他の都市国家から恐れられていることは私も知っています。「死」に対する拒否感は、生命の根本的な仕組みに由来するものですから、理解しがたいことではありません。あなた様は手紙の中で、「死」について知りたいと、「永生の苦しみ」について私の意見を聞きたいと仰っていました。まさに身に余る光栄です。不死なる者と定命の者が見る世界は、全く異なるものです。長い年月を生きてきたあなた様に、何か役立つ助言をする自信もございません。ですが、あなた様が答えをお求めになるのなら、私の見解をお話しいたしましょう。
簡潔にまとめますと――万物には終わりがあり、それ故に意義があり、命にも意味が生まれたのです。これが、私たちが「死」に畏敬の念を抱いている理由です。これはとてもシンプルであると同時に、非常に複雑なことでもあります。もし興味がございましたら、もう少しお話しさせてください。
エイジリアでは、毎年子供たちが「死」に一歩近づけることを祝福しています。様々な儀式や祝祭(成人の儀式など)を催し、人生における特別で重要な瞬間を記念するのです。なぜなら、過去の出来事が短い人生の中で再び起こることはないと知っているからです。愛する人との別れ際には丁寧に別れを告げ、一日の終わりには明日また会えるよう祈り、夜眠る前にはお互いにおやすみと囁きます。
失ったことに悲しみを感じるからこそ、得ることに喜びを感じられます。そうして、私たちは大切にすることを学び、大切にすることで喜びを感じるのです。永久に生きる者にとっては、束の間の喜びだとしても。実に馬鹿馬鹿しく聞こえるかもしれませんが、これこそが結論です――「死」が私たちに喜びをもたらしてくれるのです。
とはいえ、あなた様のように、黄金紀より生きてきた永遠の命を持つ者たちにとっては、すべてが異なります。
スティコシアには、重要な儀式や祝祭がなく、「荘厳」、「挽歌」、「記念」などの言葉を付けられるようなものすら存在しないと聞きました。確かに、そのようなものは不要かもしれません。果てしない時間の中では、重要なものや、記念すべきものなど何もないわけですから。永久に生きる者にとって、行動や思考は遥か昔から伝わる残響に過ぎず、この先の未来でも永遠に響き続けると信じておられるのでしょう。
「日の下に新事はなく、すべての新事は忘却から生まれる」という言葉があります。すべてを経験し、これからも経験を重ね続ける者にとって、万物はただただ退屈な古き物に過ぎないかもしれません。もし、永久に生きる者にとって、本当に「喜び」と呼べるものがあるのなら、それは死に縛られた私たちには、到底理解できないものでしょう。
ここまでの話を考えれば、答えはほとんど明白でしょう。あなた様が前の手紙で仰っていた「永生の苦しみ」から抜け出したいのなら、私が出す答えは「死」です。タナトスがオンパロスの大地に足を踏み入れたばかりの頃、「永生」は呪いであり、寿命を延ばすことは味気ないの繰り返しでしかないと、ある哲学者が主張していました。実際、エイジリアの建国者はこうした考えを持っている人だったのかもしれません。
「死」の脅威の下、私たちは選択を重んじています。私たちにとっては、全ての選択に「元には戻れない」、「取り返しがつかない」という意味が込められているのです。ある哲学者は、私たちの人生は「永劫回帰」という状態にあると主張しました。つまり、選択の一つ一つが永遠の輪廻の中で、無限に繰り返されていきます。そしてほんの些細な選択が、生まれ変わった後の人生に大きな影響を与えることになります。永久に生きる者からすると、その耐え難い重さを感じ取ることは難しいでしょう。
自分が経験しているこの瞬間は永遠ではなく、永遠の一部ですらない、全てが不確定な幻影に過ぎないと、私たちは知っています。朝露のような私たちの命では、どの行動もそれが最後であり、どの面影も夢のようにぼんやりと消えてしまうのでしょう。
故にです、敬愛なる女王陛下。恐れながら、私の「死」に対する理解をお聞きになりたいのなら、それは私の「生命」に対する理解と同じであるとお答えするしかありません。私の理解では、それらは同じものですので。そしてこの「生命」の旅の中で、「死」は私たちが最終的に辿り着くべき場所ではなく、必ず持ち歩く必需品です。もし理解できないところがあれば、少々お待ちください。近いうちにスティコシアに参る予定ですので、その時に私の知っている全てをお伝えしましょう。
最後は、エイジリアの祝福の言葉をもって締めくくりとさせてください。タナトスの影が我らを覆いますように。そうして我らは光とは何かを知るのだから。
アミュネッタ
錬金術手帳の残編(抜粋)
黄金紀末期に錬金術の基礎原理が記載された古い書物の残編。
(……)
(きちんと書かれたメモ)注:本章は錬金術の基本原理を紹介し、「根源」、「動力」、「元素」について説く入門レベルの基礎教材である。
これは疑いようもない真理である
万物は元々一つである
一つが二つに、二つが四つに
そして世界は繰り返され、生々流転する
(殴り書きのメモ)注:基礎中の基礎、分からなければ入門しなくいい。
(きちんと書かれたメモ)追記:この節は錬金術の基本原理に関する簡単なまとめ。この学問は「万物は一つである」という基本原則の上、「存在」の間の相互転換を研究する。文中に出てくる「一」、「二」、「四」はそれぞれ「万物を存在させる『根源』」、「万物を変化させる『動力』」、「万物を構築する『元素』」を意味する。
黒夜と白昼が互いを生み育てるように――
「理と智」の根は拒絶し合い、疎遠となる
「愛と美」の糸はよく馴染み、深く繋がる
万物はこの対立と調和によって成り立っている
(殴り書きのメモ)注:絶対的な運動、変換の基礎
(きちんと書かれたメモ)追記:この節は「万物に変化をもたらす『動力』」に関する簡単な紹介。万物を絶えず動かし、変化させる動力は『斥力』と『引力』の二種類があると考えられている。『斥力』はタイタンサーシスが代表する「理性」と関連があり、『引力』はタイタンモネータが代表する「感性」と関連がある。この部分の詳細については、後付けの追記を参照。
四つの元素は万物の基本である。見よ――
エーグルの吹き抜ける風は、ケファレの炎を燃え立たせる
ジョーリアの沃土は、ファジェイナの清泉を潤わせる
万物はこのように元素の間で構成されている
(殴り書きのメモ)注:世界を構築する四つの元素、基本の実体
(きちんと書かれたメモ)追記:この節は「万物を構築する『元素』」に関する簡単な紹介。一般的に、物質世界を構成する基本的な実体は「四つの元素」、すなわち土、水、炎、気。また、この四元素は通常、四柱のタイタン、つまりジョーリア、ファジェイナ、ケファレエーグルと関連付けられている。この部分の詳細については、後付けの追記を参照。
我らは知恵を得た、精製を経て粗を取り除く
我らは真理を得た、一物を思案すれば万物が生まれる
三相の恵み、規則を解析し、起源を遡れる
これにて完了、自ずと創造できる
(きちんと書かれたメモ)注:先輩、要約があまりにも簡潔すぎて、駆け出しの研究者には向かないと思う。
(殴り書きのメモ)追記:知るか!クソガキ!!!
(……)
ステュクスの満ち引きについて(残編)
ボロボロになった石板。現地の学者が「ステュクス」という現象に対する調査記録と一部の結論が記されている。書かれた年代は不明。
……
…「死が生まれてから数年間、私たちには静かに流れる冥界の水に視線を向ける余裕がなかった」
最初の記録は戦争に関する文献に由来している。原文は下記の通り:
…軍勢が地平線の片側に現れれば、四度目の夜明けが訪れる前に、辺りは争乱の地と化す。戦いが大規模なものとなれば、大地を染める真っ赤な血は幽冥の紫になり、勝者の去る方へと広がっていく。そして、エーグルが目を向ける前に、大地へと沈んでいく…
我々の推測では、当時の人々は、普段はあまり目にすることのない紫を「深き赤」と認識していた。他の文献では、「美しくも、危険な気配」、「争乱の悲しみ」など、様々な表現がなされている。
しかしながら、とあるエイジリアの指揮官の手稿によると、その認識は数光歴年しか続かなかった可能性がある――
…隣国との情報が遮断されてから3ヶ月、結局、疫病の蔓延を抑えることはできなかった。あの都市は今、死の静寂に包まれている。しかし、今日の調査の後、斥候からの報告に私は疑問を感じた。彼は隣国の雪原に紫色の川が現れたと言っていたが、これまでにあそこで争いがあったとは聞いたことがない…
…これまでの認識は間違っていたというのか?あれは深い赤などではない、死者の道だったのだ!副官に命じて、あの冥河に触れてはならないと、全軍に伝えさせた…
これが「ステュクス」という呼び名が現れた最初の瞬間だと思われる。その後、彼らは冥河の出現が「タナトス」の誕生と関係があると考えるようになった……
……
不明・光歴■■■■■――「狩猟祭」を終えた後、ステュクスが湧き出て、帰還が遅れた。
■■図・光歴■■■■争の月――飢饉により住民の3割が死亡した。記録によれば、城外の荒地で「ステュクスが二日流れていた」という。
クエン■■城・光■■■5年初め――戦争により都市は破壊され、ステュクスが城内全体を飲み込んだ。外部の観測記録によると、少なくとも15日以上も続いたとされている。
……
…エイジリアから送られてきた文献を基に、学者たちはいくつかの法則を導き出した――ステュクスは大規模な「死」が起こると現れ、数日で消える。そして、その満ち引きは「死」の規模と関連している。
その本質に関する議論は未だ混乱している。「亡者がタナトスに出会うのを阻止する試練」、「彷徨える魂の具現化」「タナトスの涙」などの説があがっており、それぞれに支持者がいるが、結局証明には至らなかった……
……
宝箱で見つけた石板
宝箱で見つけた石板の日記。オロニクス司祭が書いたもので、真摯な口調で書かれている。
こんにちは、旅人。君は3度も謎を解き明かした。私が求めている資質を備えていると見受けられる――オロニクスに認められた知恵と忍耐力、冒険心、そして何よりも大切なこと――君は「生きている」。
もう気付いているかもしれないが、本当の宝物とは、歳月によって隔てられることのないものだ。私にとって、それはこの特別な友情なんだ。
私は魂に関する研究を阻まれ、異端として教会により追放された後、道中で出会ったこのエンドモだけが唯一の話し相手だった。私たちは数えきれないほどの苦難を経て、この亡者の古城に辿り着いた。そして、ここで数十の光歴年を過ごした。
私の命が終わりを迎えようとしている今、歳月の教えに新たな発見があった――それゆえ、生涯の蓄積を誰かが発見し、後世へと伝わるよう、この謎を残したのだ。だが、私がいまだに気がかりなのは、歳月の束縛を逃れた仲間のエンドモだ――
いや、私は彼の安否を心配しているわけではない。彼の寂しさを紛らわす相手がもうすぐいなくなる。それが気がかりなのだ。私が思うに、このまま彼を放っておくと、殿内の鉄球を操ってあちこち暴れ回るようになるだろう――些か大げさに聞こえるかもしれないが、どうか理解してほしい。私の仲間は、それくらいやんちゃな性格なのだ。
もしかしたら…あなたはもうその被害に遭っているのかもしれない。その場合、どうか許してあげてほしい。
時間があれば、彼をここから連れ出してはくれないだろうか?冒険の仲間にしてもいいし、他のエンドモたちのもとへ送ってあげてもいい――少なくとも、ここの亡者たちに迷惑をかけることは避けたい。さすがに無礼が過ぎるからね。
無理なお願いだということは重々承知している。なので――どういう決断をするかは、あなた次第だ。歳月がいつまでもあなたと共にありますように。
追伸:あの虫はいつもこう言っていた――「お前のような『偽物』の司祭でも祈言を覚えられるのなら、オロニクスの神力なんて大したことない」と。だから、これは私からの追加のお願いだ――オロニクスの祈言がいかに巧妙で奥深いものなのか、ぜひ説明してやってもらえないだろうか!
粛清者の噂話(内部資料)
元老院内部の参考資料の1ページ。本文は伝言の石板に書かれた噂話のようだ。審査の依頼者と査読者は不明。
この原稿には、誰かが書き込んだコメントがあった――
カレケッティスへ。最近、伝言の石板でこの陰謀論が広まり、ある程度ネガティブな影響が出ている。対策を講じる必要があるが…度が過ぎないように注意しなくてはならない。このようなデタラメ話に対して、私たちが過敏に反応しているという印象を与えるとまずい。あまり真面目に扱ってしまうと、かえって人々にそれが事実だと信じさせてしまう。
※※※
読者の皆さん、最近伝言の石板でこんな噂を聞いたことはありませんか?
「粛清者組織のメンバーは全員、優れた技術を持つ暗殺者である。彼らが技術を継承する方法、それは自分の先輩を殺し、謎の金属で作られた脊椎を奪って、錬金術で自分の体に取り込むというものだ。そのため、彼らは先輩の技術と記憶を持ち、時には人格までもが先輩の人格に置き換えられてしまう。」
この件について、オクヘイマ現地の錬金術師にインタビューしたところ、思いがけない回答が返ってきました。その錬金術師(彼女の希望により匿名とする)の同意は得られているので、本編では前後の挨拶は省略し、皆さんが最も気になる部分をそのままご紹介します!
筆者「錬金術で人間の記憶を置き換えることはできるのでしょうか?」
専門家「錬金術だけでは到底不可能だ。しかし、オロニクスの神跡を考えると…確かに、あなたの言う噂は一考の価値がある。」
筆者「『粛清者』の噂が本当かどうかは置いておいて、この方法自体は可能だと言うことですね。」
専門家「人間のスキル、知識…これらは記憶と見なせる。オロニクスの神跡の力を借りれば、記憶をある種の実体に変えることができる…『謎の金属で作られた脊椎』は信憑性に欠けるが、骨格や義肢が神跡の媒体になることは否定できない。」
筆者「つまり、神跡と錬金術を使えば、記憶を永遠のものにできるということですか?」
専門家「ああ、理論上は可能だ。ただし、それは記憶だけの話だ。この方法で死者を生き返らせることは不可能。せいぜい、『すり替える』程度に過ぎない。」
筆者「すみません、それってどういう意味ですか?」
専門家「例を挙げよう。仮に私が母親の記憶を持っていて、両親のハネムーンのことすら思い出せたとしても…私が母親であるということにはならない。」
筆者「ああ、なるほど。」
筆者「でも、仮にある組織のメンバーが自分の命より、技術、秘密、さらには愛や憎しみなどの感情をより大切にしていたとしたら…この方法でソレを受け継ぐのは、理論上から言えば可能ということですね?」
専門家「その通りだ。」
筆者「なるほど、素晴らしい解説をどうもありがとうございました!」
スティコシア寓話集
巨竜と波の都市国家「スティコシア」から伝わってきた寓話集。女吟遊詩人のアルキピアによって整理されたもの。
※巨竜と波の都市国家「スティコシア」から伝わってきた寓話集。女吟遊詩人のアルキピアによって編纂された。この一冊はトリアンが所蔵していたもので、キャストリスに贈られた。※
貧しき者、貴き者、好奇なる者、怯える者、皆が顔を上げてそれを見つめいた。
姫は巨竜が佇む高い塔に登り、
哀れみからその手で竜の額を撫でた。
遠く暗黒の潮は、既に竜を化け物へと堕としていた。
竜は口を開き、哀れみの心を抱いた姫を丸呑みにした。
銀の弓の使い手や、ハンマーを振るう鉄職人、城の中から集まった七百人の勇者が、
竜の腹を切り裂き、姫を救い出すと誓った。
竜は骨が見えるほど無数の傷を負い、黒い血を流しきって倒れた。
竜の腹の中から救い出された姫も、既に息絶えていた。
悲しみに暮れる女王は王国の宝を捧げ、一人の錬金術師を招いた。
高い塔に陣を敷き、骨を吹き、魂を捕らえ、
散らばった竜の血肉を整え、姫の再誕を試みた。
蘇った「姫」が爪を伸ばして、巨大な骨翼を羽ばたかせる――
そして城内の人々をすべて呑み込んだ。
貧しき者、貴き者、慟哭する者、恐慌する者――誰もそれを拒むことはできない。
民を愛する女王を、勇敢な百人隊長を、神秘的な魔法を使う術士を、善良な姫を責めはしない。
ただ、あの運命に定められた黒悪の死を止められなかったことに憤りを感じるだけだ!
※巨竜が姫を呑み込んだ伝説以外にも、この本には様々な寓話が記されている。下記はその一部:
我らの高塔には、比類なき不思議な時計がかかっていた。
一日が始まり、一日が終わり、その時計はこの世の全ての答えを持っている。
そのため、様々な人たちがこの高塔を訪れていた。
「時計よ、時計、恋人の父親が私たちに無理難題を押し付けてきた。
倉庫いっぱいに貯められた、混ざり合った小麦と大麦を分けろと言うのだ。
私はどうすればいいのか。」
安心して夢を見るといい、今夜アリ島のアリが動き出す。
あの小さな生き物たちがあなたのために運んでくれるよ。」
「教えてくれ、時計よ、
わしの財産で貴様を買えるか?
買えないのなら、貴様をバラバラに砕いてやる!」
耳を傾けない王は、玉座から転がり落ちてしまう。
今日偉ぶる者は、明日他人に踏みにじられる。」
その顔はまるで、墓場から這い上がったゾンビのようだ。
「時計よ、時計、教えておくれ。
私を苦しめる病と痛みはいつ終わるのか?死はいつになったら訪れるのか?」
「チクタク、チクタク、チクタク。
幸運で不幸なスティコシア人よ、この問題に関して私が答えられることはない。
だって、あなたたちにはまだ長い人生が待っているから!」
彼の大きな金箱からは、次々と小さな金箱が生み出され、
蝋燭から滴る蝋は、再び新たな蝋燭へと生まれ変わる。
彼の耳元でステュクスの潮が響く。彼は知っていた、もうすぐ死神がやってきて、自分を冥界へと誘うことを。
死神が降臨した時、彼はベッドに横たわって息を切らしながら、
悲しげな顔で死神に最後の願いを伝えた。
どうやら缶の中で蜂が溺れているようだ。
死神よ、どうか缶に入ったあの食いしん坊の蜂を取り出してくれ。
あのネクタールはいいものだ、台無しにしては忍びない。」
そして缶の中に入り、死んだ蜂を探し始めた。
「つかまえたぞ、死神め!
これでもう、わしを温かいベッドから引きずり出せる者はいない。」
終わりなき宴を毎日楽しむことができるのは、死神から逃れた褒美なのだ!