本棚/二相楽園(3)

Last-modified: 2026-07-17 (金) 19:09:43

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グラフィエ目撃報告

ホテルのロビーにある備忘録。カスペが集めた「グラフィエ」に関する情報がまとめられている。

グラフィエ目撃報告

「渡画泉隠」のロビーにある備忘録。カスペが集めた「グラフィエ」に関する情報がまとめられている。

……

7月9日
報告者:元美食家 @ドレモ=ウマイ
報告詳細:朝食のビュッフェを楽しんでいたところ、その日のクッキーは格別に美味しく感じられたという。そのためこの宿泊客は、前日の夜にグラフィエがホテルの厨房へ忍び込み、食べ物に美味しくなる魔法をかけていったのではないかと疑っている。

報告者:元オペレーター 大牙
報告詳細:この客は宿泊中の部屋でグラフィエを名乗る人物から電話を受け、どちらがアツアツの温泉に長く浸かっていられるかの勝負を持ち掛けられたという。

7月10日
報告者:元治安官 ジャスティスナイト
報告詳細:この宿泊客は、グラフィエと思しき赤い人影が、403号室に入っていくところを目撃している。

報告者:元カメラマン パシャパシャ
報告詳細:この宿泊客からは自身で撮影した「千願の木陰」のパノラマ写真が提出された。写真の一部を拡大してみると、「千願の木陰」の枝先にグラフィエらしき赤い人影が写っている。

報告者:元庭師 デイヴ
報告詳細:この宿泊客は、グラフィエと思われる赤い人影が裏山の森に現れ、いくつも灯りを蹴り倒していく様子を目撃した。

報告者:元船長 スパロウ
報告詳細:この宿泊客は、グラフィエらしき赤い人影が鳩川の中央に現れ、漂流する初と一緒に波間に揺れているところを目撃した。

7月11日
報告者:元漁師アダ
報告詳細:鳩川から新しい絵筆を釣り上げたこの宿泊客は、それがグラフィエの遺物ではないかと考えている。

7月12日
報告者:元探偵 ムムリル
報告の詳細:この宿泊客は、自分は『「俗世入画」の唄』に隠された暗号を解読して「グラフィエがある漫画ショップに隠れ住んでいる」ことを突き止めた、と主張している。

……

河童の系譜

消えゆく古き幻造種族の記録を残すべく、アカナメが書き記した「河童」一族の紹介。

河童の系譜

外見
河童の身体は、胴体、頭部、四肢から構成されている。身長は人間の子供と同程度、口は鳥のくちばしのように平たく、背中には亀の甲羅によく似た硬い殻がある。全身が細かい鱗で覆われており、太陽の光の下では川藻のような緑色に輝いて見える。

頭には水を溜めるための浅い皿があり、活力を維持するには常にこの皿を潤しておく必要がある。十分な量の澄んだ水が皿を満たしている限り、河童は活力に溢れ、鱗や甲羅もツヤツヤと輝く。しかしこの皿の水が枯れたり汚れたりすると、河童は活力を失いだんだんと弱っていってしまう。

手足の指の間には水かきがあり、そのおかげで河童は水中を風のように泳ぐことができる。一方陸の上では、その短い脚のせいで歩き方はぎこちなくゆっくりしたものになり、長距離の移動は困難である。

生息地と社会体系
河童は通常、家族単位で川や湖に分散して生息しており、資源が豊かな河口付近や大きな湖などの周辺では、個体数の多い大規模な集落を形成する場合もある。河童の隠れ家は主に小石や水草で作られ、主に流れの緩やかな川底や、葦の生い茂る浅瀬の窪みなどに築かれることが多い。

良好な水域環境は、河童の生存にとって欠かせない要件である。生息している地域の水質が回復不能なダメージを受けた場合、河童たちは家族と共に水質の良好な移住先を求めて危険な旅に出る。

幻月が満ちると、河童は自分たちの暮らす流域を遡る。源流に集まると、水面に映る幻月の影を囲んで皆で踊り、祝い喜びを分かち合う。この儀式は「幻造の母」が月明かりの下でアハトピアに最初の河童を描き、幻造種としての河童が誕生したことを記念するためのものである。

能力と特長
河童は水との親和性に優れ、水中の汚れや毒素、腐敗物等を吸収することで自ら水質を改善する能力を持つ。言い伝えによれば、この天賦の才は「幻造の母」による最初の構想における河童――水域の守り手、自身をフィルター代わりに水質を保つ者である、という在り方に由来するという。

環境の汚染が激しすぎると、浄化の許容量を超えた河童は「泥詰まり」のような状態となって衰弱し、健康を取り戻すには長期間の静養が必要となる。大型の集落などでは、こうした個体が静養するための清浄な水域が丁寧に整備されている。

農耕や水利施設の整備、環境保護の面で、河童は人間の良き助っ人となる。灌漑や排水を手伝い、畑全体に均等に水を行きわたらせ水害を防ぐことができるためだ。また、堤防等の水中にある破損、亀裂を見つけ出して石などで塞ぐことも得意としており、潜在的な水害予防にもその能力を発揮できる。

あとがき
こんにちは、まだ見ぬ友よ。

わしがこの文章を残そうと決めたのは、消えゆく一族の記念、古の古い幻造種の墓碑とするためじゃ。これを目にした後世の読者が、大まかにでも河童一族の姿を理解してくれることを願っておる。

そしてどうか、この文章を見ても「河童」を再び幻造しようなどと思わぬように…我が一族は長らく、本当に長い時間を汚染された水と共に過ごし、苦しんできた。どうか安らかに、絵の中で眠らせてほしい。

わしらはかつて確かに生きておった。それを覚えていてくれれば、十分なのじゃから。

最後の河童
アカナメ

アンブレラのノート

前後の文脈が欠けた数ページのノート。ルーズリーフから抜け落ちたもの――そしてどうやら「千願の木陰」と関係がありそうだ。

アンブレラのノート

前後の文脈が欠けた数ページのノート。ルーズリーフから抜け落ちたもののようだ。

…これらの枯死現象の原因は未だ不明。当初予想された「管理不足」の可能性は無くなった。この木が今でもしっかり手入れされているとすりゃ、もっと大胆な仮説を立てる必要がありそうだ。

「幻造ブーム」で激増した世代の幻造種たちは現在、そのほとんどが願力の衰退する時期に差し掛かっている。「渡画」需要の急増、その負担に千願の木陰が耐えられなくなったとか?まさかな。そもそも「渡画」それ自体が、この木に栄養を与えているようなものなんだから。

千願の木陰の葉をこっそり摘んでいる幻造種を目撃した、という通報が治安局に入ってたらしいが、これも枯死が進む原因とは関係ないだろう。大半の渡画泉隠の宿泊客にとって、そんなことをしたところで意味はない。そんな方法で願力を手に入れたところで、そいつはその場で狂っちまうのが関の山だ。よってこうした行為が何度も繰り返され、木が健康を損なう原因になるとは考えにくい。

観光などでここを訪れた人間が、時折この木の下でバーベキューやら何やらを催すこともあるようだが、これも昨日今日に始まったことじゃない。関係ないだろう。

まさか、最初に木の植えられた場所の風水が悪かったのが、数千年経ってようやく結果に現れたとか?いやいや…何を考えてるんだか。いくらなんでもそんなはずねえよな。

なら、他に考えられる原因はなんだ?これまで挙げてきた可能性がどれも直接の原因と呼べないなら…「渡画」が千願の木陰に与える養分が、必要量に届いていないとしか考えられない。現在の「渡画」の数が、古の頃より遥かに多いことも鑑みれば、その理由は1つ――これまで存在しなかった何らかの原因で、千願の木陰の力が激しく消耗している。そしてその消耗は、急増する「渡画」がもたらす養分すらも上回っている、ってことだ。

…この星の起源に関わってるとかいう「骸骨」にでも関係してんのか?

地域住民の皆さんへのお知らせ

地域住民へ向けた古い告知の掲示。かなり前からここに貼られていたようだ。

地域住民の皆さんへのお知らせ

古い告知の掲示。かなり前からここに貼られていたようだ。

発行者:渡画泉隠特別開発委員会
承認者:二相楽園CEO パール

当地に滞在中の幻造種の皆さんへお知らせです。

当委員会は、鳩川の支流が海へ流れ込む河口地点、かつての「古代弁才天国」遺跡についての永久的な開発権を取得したこと、および前CEO・影山が基礎を築いた計画に更なる資金を投入し、渡画泉隠の現代化改造を行うことをここにお知らせします。計画の内容は以下の通り――

一、保護的開発と建設ビジョン
「諸世界再建計画」の重要な一環として、当委員会はコストを惜しまず本地域の保護的開発を行うこととします。第一段階として、委員会はリゾート施設であるホテル「渡画泉隠」の建設を通じ、入画の旅へ出る幻造種の皆さんにケアサービスを提供します。第二段階では関連施設の建設を進め、渡画泉隠を二相楽園と連携するリゾート地へ変化させることを目指していきます。
本計画が、当該地域の生態系に関与することはありません。遺跡の中心に位置する「千願の木陰」についても、完全な形で保護される予定です。

二、地域在住の皆さんの居住および再雇用に関する協定
当委員会は、地域在住の皆さんのホテル「渡画泉隠」への永久居住を歓迎します。ただし当地が絵の世界ではなく、幻造種が身体を維持するために依然として願力が必要なことから、以下2つの選択肢をご提案いたします。

1.買い取りによる退去:グループより多額の「補償願力」をお支払いし、当地を離れ外の世界へ旅立つ皆さんへの支援とさせていただきます。お支払いする願力は二相楽園でおよそ数百年、不自由のない暮らしを送れる程度を想定しております。なお、この方法で補償を受ける場合、渡画泉隠へ戻ることはできません。

2.『特殊雇用契約』:当地域に思い入れのある皆さんのために、委員会は相応しい現代的な仕事をご用意します。カンパニーはあなたに必要な願力をすべて負担し、定期的な身体のケアサービスも提供いたします。
こちらの方法を選択される場合、幻造種スタッフとしてカンパニーに所属登録を行い、契約に基づいて業務を遂行していただきます。特殊な技能を持つ幻造種には、相応の高職級に就いていただく場合があります。

追記:「幻造の母」グラフィエに関する情報をお持ちの方は、ただちに地域責任者までご一報ください。カンパニーより、別途多額の謝礼をお支払いいたします。

死とは憂いなき安眠である

温泉ホテル「渡画泉隠」の入社案内。主に特殊なお客さんへの対応に関する注意事項が書かれている。

死とは憂いなき安眠である

こんにちは、新しい同僚

「渡画泉隠」従業員一同、新しい仲間を歓迎します。本指導書は、当施設が提供する幻造種のターミナルケアサービスについてよく知り、あなたが1日も早く新しい仕事と環境に慣れるお手伝いをするためのものです。

(1)幻造種の生命の有り様は人間と異なり、その死もまた人間のそれとは異なっています。幻造種にとって、生涯の終わりにおける最大の難事は、死が迫ってくることではなく、生きる意味の喪失です。そのため当施設でのサービス提供においては、各幻造種が持つ独自の性質や生活におけるニーズを把握するよう努め、過度にマニュアル化された対応をすることのないよう注意してください。

(2)接客中、幻造種のお客様に過度な「愉悦」を提供することのないよう気を付けてください。死期が迫った幻造種にとって、瞬間的な感情の乱れは初へ解体される直接的なリスクを意味します。(1)と矛盾するように思えるかもしれませんが――お客様が店内で急死し、ほかのお客様や従業員の負担となるような事態はあなたも望まないでしょう。

(3)当施設での業務中は「渡画」についての話題を可能な限り避けてください。当施設の名称は「渡画泉隠」ですが、そもそも「渡画」とは幻造種であれば誰もが命の終点で感じる魂の呼び声であり、部外者が言及することは道徳的に非難の対象となります。お客様が自らその話題に触れた場合でも、できるだけ中立の立場を保ち、個人的な主観や好悪を交えて話すことのないよう努めてください。

(4)お客様に対し、履行できない約束をしないようにしてください。幻造種はそれぞれ違った特徴を持ち、残された時間の長さも様々です。安易に「優しい嘘」をつくなどして、いざという時に約束を果たせなかった場合、お客様を失望させるだけに留まらず、精神の崩壊を招く恐れがあります。くれぐれも注意してください。

(5)当施設の近隣にある千願の木陰は、楽園の特別自然遺産に認定されています。自然遺産の利用にあたっては、幻造種、人間を問わず、関連する法律や条例を遵守するようにしてください。

(6)個人での判断、対応が難しい状況に遭遇した場合、むやみに当施設や宿泊客の代理として決断を行うことのないようにしてください。そうした状況に遭遇した際は「本件に関しては、カンパニーの承認を得る必要があります」といった定型文を現場での暫定対応とし、速やかに具体的な状況を上長に報告、当施設が適切な判断を下せるよう協力してください。

(7)死とは憂いなき安眠ですが、臨終とはまた人生の総決算でもあります。この2つの側面がもたらす影響が、私たちの職場においては同時に存在しています。ここでの業務を安易に理想化したり、卑俗化したりすることのないよう気を付けてください。当施設での業務は、一般的なサービス業と同等のものです。

温泉ホテル「渡画泉隠」

渡画泉隠サービス料金表

温泉ホテル「渡画泉隠」が宿泊客に提供する各種ご臨終プランの案内。価格帯は様々で、それぞれ金額に応じたサービス内容が記載されている。

渡画泉隠サービス料金表
「我々には、できることがまだ無数にある」――ホテル渡画泉隠、創業者

宿泊プラン
1.ライトルーム(部屋代無料)
14平方メートル、換気口(小窓付き)あり
シングルベッド(1.4×2.8)、ライティングデスク、毎日限定量の温水を提供
混雑時を除いた浴場利用権

2.スタンダードルーム
価格:5000信用ポイント/日/室
22平方メートル、窓あり
大型ベッド(3.5x2.8)、ライティングデスク、水道と電気の使用は無制限
旧式無線ネットワーク「Wi-Fi」利用可(利用料は通信量に応じた従量課金制)
VIP浴場以外の浴場利用権

3.モダンルーム
価格:20000信用ポイント/日/室、月払い(同価値の投げ願での支払いも可)
30平方メートル、全面ガラス窓、設備はスタンダードルームと同等
超大型ベッド(4.2×3.4)ソファ完備
部屋内からエーテルネットワークへの接続可(メッセージアップロードに制限あり)通信量無制限

4.カスタムルームプラン(長期宿泊者様限定)
価格:応相談
モダンルームの全設備を完備
カンパニーが運営する配信プラットフォームにおけるライバーへのギフト送信30%オフ
専任スタッフによる個別ケア、毎年の命日にはお部屋に花をお供え

その他の個別サービス
1、副葬サービス
ご希望のお客様には、ご宿泊されたお部屋をチェックアウト時に封印し、先進技術を用いて願力に還元、お客様と共に送り出すことが可能です。
本サービスに関わる料金につきましては、ご利用になられたお部屋のタイプ、および本サービスのために当館が臨時に雇用する幻造技師の報酬によって異なります。フロントにお電話いただけましたら、専任のスタッフが直接ご相談を承ります。

2、メッセージ
チェックアウト時には、当館の「スターの壁」にお名前とメッセージをひと言残し、今後訪れるお客様からの尊敬を受けることができます。
本サービスは大好評につきご利用枠に限りがございます。当館の配信ルームをフォローして、不定期に開催される人気ランキングイベントをご確認ください。

……

現世オプションサービス
1、「完璧」な葬儀
願力が失われるのが早すぎることにお悩みではありませんか?当館があなたのために現世での「特別」な葬儀をご用意いたします!
黒スーツとサングラス姿で統一したプロの役者チームが、あなたの葬儀にずらりと並んで敬意を表します。これにより、あなたの訃報にミステリアスな色を加えることができます。
葬儀の様子は専門のスタッフによって撮影され、ショート動画としてSNSで拡散いたします。その反響が生み出す願力は絶えず当館へ流れ込むこととなり、あなたの秘密の補助エネルギーとなります!
(流れ込む願力の30%をサービス提供の手数料として頂戴いたします)

2、更生サービス
センシティブな情報の消去をお忘れではありませんか?お客様が渡画泉隠を離れることはできずとも、私たちがその処理を代行いたします!
お客様はデバイスの場所、アカウントとパスワード、目的の情報のタイプとパス(閲覧履歴、プライバシーファイルなど)をご提供いただくだけで結構です。
そうしましたら、あとは「バン!」。これでもう心配ありません!
追加料金をお支払いいただきますと、当館のエーテルハッカースタッフが該当の情報をより健全で、お客様の名誉に華を添えられるような内容にすり替えることも可能です!
(想像してみてください。生前に慈善団体のウェブページを頻繁に閲覧し、健康や教養の向上に努めたあなたは、親族たちの間でどれほど尊敬されることでしょう?サービスの詳細については当館のスタッフにお尋ねください。また、モダンルーム以上のお部屋をご利用のお客様は、お部屋のグレードに応じたサービス料金の割引がございます。なお、本サービスの利用によって生じたトラブルに対し、当館は一切の責任を負いません)

※2.5
該当の情報がどうしても必要な場合、処分するのではなく当館への持ち帰りも可能です。
別途料金が必要となります。

……

種族に応じた追加/割引料金
メカヨロイ:ベッドや洗面用具は専用のものをご利用いただきます。また体型の都合により入浴時は2名分として計算いたします(他のお客様が頭部のみを浴場に持ち込む場合は無料です)。追加料金は1日あたり200~500信用ポイント、チェックアウト時にフロントで差額の精算および返金を行います。

こちらに記載のない希少種族のお客様は、チェックインの際にご相談ください。

その他ご不明な点などがございましたら、フロントにてロビーマネージャーのカスペまでお気軽にお声がけください。

宿泊客へのサービスに関するメモ

きれいな字で書かれた小さなメモ。「渡画泉隠」の一部の宿泊客へのサービスについての注意事項が書かれている――スタッフかボランティアの誰かが書いたもののようだ。

宿泊客へのサービスに関するメモ

きれいな字で書かれた小さなメモ。「渡画泉隠」の一部の宿泊客へのサービスについての注意事項が書かれている。

@十分な愛があれば
彼がニュースを見ている時は邪魔しちゃダメ。

パミュスキー
カエルとキツネ、あとサルが嫌いみたい。

テイマ・音波
電話予約が嫌い、対面での交流が好き。

トレバー・クリン
向こうから言い出さない限り、過去の暮らしについては触れないこと。ただし彼の方からその話題に触れる時は、あなたと話したがっているサイン。

スルジ
哲学者でパフォーマンスアート好き。彼の言葉の大半は、文字通りに受け取らないように。

サメサン
彼が本当はサメじゃないことを教えちゃダメ、絶対に。

アカナメ
会話中よく息切れするけど、心理的な要因によるものであって喘息を患ってるわけじゃないみたい。

ラインハルト
何をしたとしても「また君の勝ちだ」とだけ言ってあげること。

願力保養の心得

とある宿泊客が書いた、願力を保つためのちょっとしたコツ。

願力保養の心得

はじめに
私と同じように、渡画泉隠の快適さが予想をはるかに超えていると感じ、穏やかな余生を送りながら可能な限り多くのサービスを楽しみたいと考える幻造種がいるかもしれない。あるいはもっと別の悲惨な結末――願力が底を尽きても信用ポイントを使いきれず、永遠に後悔することになるのを心配する者もいるだろうか。なんにしても、願力の流失を少しでも遅らせるためのちょっとしたコツを知っておくことは有益で役に立つことだろう。

※この覚書はあくまで経験から得た知見を共有するものであり、医学的なアドバイスではないことを留意しておくように。

規則正しい生活リズムを保つこと
個々人の日常生活におけるルーティーンを確立し、それを厳格に守り、規則的な生活を通して自身の存在を確実化する。

判断力を浪費しないように。毎日しなければならない決断の数はなるべく最小限に抑えること。今日は早起きするべきか?昼食のメニューはどうする?夕食は?こうした判断や取捨選択に繰り返し悩むことは、幻造種の貴重な願力と自由意志の浪費に繋がる。
日常の悩みのほとんどは、シンプルな1つの答えがあれば解消できる、すなわち――何もかも昨日のままに。

情報量を抑えること
情報は節度を持って、選択的に受け取ること。断片的で意味をなさない情報をむやみに受け止めて、自身の願力が薄まってしまわないように。

自分ではどうすることもできない物事に、必要以上に意識を割いても負担が増えるだけ。一番いいのは部屋のネットを切断して、外の出来事は一切気にしないようにすること。渡画泉隠での楽しみを満喫することに集中し、二相楽園のことなんて忘れてしまえばいい。

代わりにここの図書室で、神話や伝説、あとは詩歌なんかの、人間の想像力がたっぷり詰まった作品を読むことをおすすめする。

友人を作ること
ここのスタッフでも他の長期滞在客でもいいから、浅くても継続的な友好関係を築くこと。

渡画泉隠に派遣された人間のスタッフは、ここにいながらにして願力を生み出せる貴重な存在だ。もしも彼らが君という客を認識し、大勢の宿泊客の中でも特別と位置付けてくれれば、それは君により多くの願力をもたらすだろう。

こうした効果を期待するなら、対処が必要だが十分にコントロール可能な程度の些細なトラブルを定期的に起こすといい。必要があれば他の長期滞在客とも協力できるかもしれない。

こまめに温泉に浸かること
温かい温泉は雑念を鎮めて、体内の願力が乱れて消耗することを抑えてくれる。

君が「元無名の凡人」でも「元ビッグスター」でも、誰もが渡画泉隠では同じ「宿泊客」の身分を共有している。剣の軌跡や争いの影、そんな殺伐とした記憶が目に焼き付いて離れないなら、ゆっくり温泉に浸かってみるといいかもしれない。温かな湯が君の心を慰め、過去の出来事を少しずつ手放していけるだろう。

今もまだ外界からの願力を受け取ることができる宿泊客にとっても、温泉での瞑想は、最近集まった願力の整理を助け、遥かな追憶を自身の一部として定着させるために役立つはずだ。

温泉祭りの提案書

とある温泉好きなオルクが書いたお祭りの提案書。

温泉祭りの提案書

「何か手を考えないとな。高級客室の堅物どもをうまく下に誘い出して、ひとっ風呂浴びさせるとか。じゃなきゃいつも同じメンツで話題もネタ切れだ」

これまでのあらすじ↑
みんなで知恵を出し合って、アイデアをここにメモしてね。辛口コメントもOK↓

・アツアツ我慢対決
頭と首以外全身を熱いお湯に浸けたら計測開始。1番長く耐えた人が勝利。
コメント:
賞品は?
そんなのあとで決めればいいだろ。それに、参加すること自体に意味があるんだ。
寿命が伸びるほどの願力が賞品じゃない限り、こんな寿命が縮みそうなイベントに参加する馬鹿はいないよ。
そうだそうだ、面白がってるのはお前らだけ、オルクは生まれつき面の皮が厚いもんな。
メカヨロイ的には面白いと思うんだが。
やめやめ、次いこう。

・提灯夜話
怖い話の大会。ただし実際はテーマ不問で、最後は物語への投票数で勝敗が決まる。雰囲気づくりのために、みんな1つずつ灯籠を持つ。
コメント:
私たちが今やっていることと変わらない。
私たちってみんな死人じゃないの?怪談って意味ある?
びっくりして生き返る可能性がわずかにある×
予備の案として残しておこう、次。

・温泉スピードレース
温泉にコースを引いて、熱い温泉からスタートして氷水の池のゴールまで泳ぐ。
みんなの願力でちょっとした仕掛けも作って、定番のファミリー向けレースゲームみたいなアイテムを使ったレースにする。
コメント:
温泉の池で泳ぎたい人なんて1人もいない。0
まずはカスペを説得しないと。
考えなくてもわかる、大方どこぞのグワラの案だろ。
河童だよ。読みが外れたな。
河童か!それなら確かにハマりそう。試してみる?
(ぐにゃぐにゃの文字)やめとくグワ。

・鴛鴦火鍋コスプレ大会
裏山から薬草や唐辛子なんかを採ってきて池に放り込む。見た目も楽しいし健康にもいい。我ながら天才じゃない?
コメント:
これも…わざわざ祭りにする必要ある?いつでもできそう。
今夜やろう。
やろう。
やるな!池が変な色になってたら、責任を持ってお前たちを叩き出す。
つまらん。

・深夜の温泉シアター
その名の通り。説明不要。
コメント:
上映設備が水蒸気で壊れそうだけど、それはどうする?
ウケる。もしかして10琥珀紀前から生きてる?オヤジじゃん。今どきのエーテル設備は水くらい平気だよ。
ご名答。
…映画なんか見てる場合じゃないね。明日はオヤジの話を聞こう。

・ブラインドお風呂アヒル交換会
風呂に入るのにアヒルがないなんてありえない。どうせ自分で買う気がないなら、プレゼントとして人に渡せばいい。それなら安心して1番ぶっ飛んだデザインを選べる。
コメント:
食べ物NG。特に水で溶けるやつ絶対NG。金属ナトリウムもダメ。
やっとまともな案が来たな。ところで、どうしてもアヒルじゃなきゃダメ?
そうだグワ。僕たちグワラにとって、アヒルを贈ることは特別な意味を持つグワ。
まさかプロポーズとか…
決闘の申し込みだグワ。
なるほどやるしかない。

・温泉スチーム美容フェス
タイトルの通り。
コメント:
これいいね。
うん、試してみてもよさそう。
…効き目って論文で証明されてる?
細かいこと言うなよ。前にどこかの配信者がちょっと触れてただろ。物は試しだ。
その配信者って私のことだ。

……

未達成のウィッシュリスト

「渡画泉隠」を訪れた幻造種たちが書き記した、果たせなかった願い。

未達成のウィッシュリスト

この先に待つのは最後の愉悦、後悔を抱えたまま辿り着くべきではない。未完の願いをここに記し、「千願の木陰」に託すべし。

……

最後の配信の時、本当は美顔フィルターをオフにして、ありのままのあたしを見てほしかった。そうしたらみんなはこの「あたし」を愛してくれたのかな?それとも最初から最後まで、みんなの視線を集めるのは画面の中の完璧な「あの子」だけかしら。

結局、あたしにはこの仮初の美しさを打ち破るための勇気がなくて、電子の仮面の下で日に日に朽ちていく自分を助けてあげられなかった。

でも「あの子」はあたしじゃない。何をしてても、どんな時でも。

いいよ、みんなが「あの子」を愛したいなら好きなだけそうすればいい。あたしは、もう逝くから。

――キリロ(ミャオン)

エルリック。彼は若くしてとてつもない可能性を秘めたグワラの学者で、その頭脳は天才と言っても過言ではない。何しろ彼はたった一晩で、僕が生涯を費やして築き上げてきた「願力共鳴学説」を覆してみせたんだから。彼の証明は簡潔で美しい、とても見事なものだったよ。

時代遅れの基準が紙くずになるのは歓迎すべきことだ。けど残念なことに、僕の頭にはもう既に誤った知識が詰まりすぎてる。今さら、研究を始めからやり直すなんて出来ないんだ。

僕の後を行く者たち。君たちが僕の見つけた誤りを避けて、1日も早く願力の謎に迫れることを願ってる。

――イーソ(グワラ)

メカヨロイたちは自分の身体を大小さまざまなパーツと簡単に交換できるってのに、どうして俺の筋肉はいくら鍛えても大きくならない?幻造種の身体の作りが生まれた瞬間にはもうすべて決まってるなら、生き方を選ぶ自由なんて本当にあったのか?

オルクの能力にも、結局は限界が決められてたんだ!ああ、どうか絵の世界にはボディビルなんて競技がありませんように。

――フェンリル(オルク)

エモジ発祥の地、珠星ビルの屋上、幻月の裏側、それから広大な星の海…行きたかった場所が多すぎてとても書ききれないよ!こんなにも宇宙が広大だっていうなら、銀河を巡る夢を叶えるには伝説の星穹列車に乗るしかないのかな?

ナナシビトたちは、1匹のただのウサギも、仲間として迎え入れてくれるかな?

――ナイア(月兎)

人間だったオーランドの願いは、彼に代わって私が果たしました。残された私自身の願いは、この世に生まれたくはなかった、ただそれだけです。

――オーランド(幽霊)

鳩川のほとりの君へ

座礁していた紙の船。開いてみると、中は「渡画泉隠」から流れ着いた手紙のようだ。

鳩川のほとりの君へ

この紙の舟を拾った君、どうかこれを鳩川区■■■■町46-■■に届けてください。

愛する我が子へ

元気にしてる?あなたはしっかり者だって信じてるけど、それでも心配くらいはさせてもらえるかしら。

この「渡画泉隠」は思ってたよりもずっと素敵な場所よ。ロビーマネージャーも他の宿泊客も、親切な人ばかり。武器を片手にうるさくドアを叩く人もいないし、ふかふかのベッドで横になれるなんていつ以来かしらね。残念ながら、やっぱり眠れはしなかったけど。

願力が尽きる恐怖が原因じゃなくて、あの時のことがずっと頭の中をぐるぐる回ってたせいね。

あの時、あなたは私を「役立たずの老いぼれ」と罵り、それから「ここにいても計画の邪魔だ」と怒鳴った。そして無理やりにでも私をこのホテルへ送ろうとしたわね。必死に冷酷なフリをするあなたを見て、私は思わず泣いてしまった。私をこのホテルへ泊まらせるための信用ポイントを稼ぐために、あなたがもう何日寝ずにいたのか、そのことが心配でたまらなかったの。あなたがその「フリ」をやってのけるために、ずっと隠れて練習してたのを知ってたから。

驚いたかしら?そうよ。本当は私、全部知ってたの。

私がいなくなった今なら、あなたはきっとなんの気兼ねもなく、ずっと抱いてた願いを叶えられるはずよね。鳩川を復興させて、私たちのような境遇の幻造種たちに居場所を作ってあげたい、って願いを。あなたが誰かを傷つけるところは見たくないけど、でも、どうしてもその必要があるというなら、私は止めないわ。

知ってる?この渡画泉隠と鳩川区は、それぞれが二相楽園の両端にあるそうだけど――この「泉」こそが、鳩川の本流らしいの。

鳩川の水が、それから川を下っていくいたずら好きの初たちが、どうかこの手紙をあなたの元まで運んでくれますように。
――あるいは治安局に見つかったら、彼らがあなたを探して渡してくれるかしらね。

さよなら、愛しい子。天上の愉悦の神が、どうかあなたに好運をもたらしてくれますように。

・手紙の差出人様へ
宛て先になっていた住所は空き家でした。近所の人によれば、家主は数年前に失踪したまま、現在も行方不明とのことです。
とある配信者がこの件に関心を持ち、消えた家主や、この手紙に心当たりのある人物を探すオフラインイベントを開催しました。参加者は大勢いましたが、結局それらしい手がかりが見つかることはありませんでした。
残念ですが、手紙を運んでくれた初に頼んで、この手紙をそちらへ返送することにします。
(手紙に書かれた日付は、数十年前のもののようだ)

「千願の木陰」の唄

「千願の木陰」を称えるため、ある集団によって創作された詩歌。讃美歌によくあるような難解な古語ではなく、より現代的な言葉で書かれている。

「千願の木陰」の唄
黄金の孤独へ至る
空の果てに佇む木が1つ
あなたの日時計が刻むその輪郭

愚者の愚者
伶人の伶人
逆説の逆説
影の影
陽の光を求めず
因果を問わず
ただ自らの根より
永遠の渇きをすする

世界の果て
永遠へと舞い戻るスタートライン
千願の木陰
讃えよう、不死の大樹
その枝葉はすべてを経験した
最初と最後の腐敗を
最後と最初の焼却を

正午は微積分の結ぶ幻像
真夜中は繰り込みのアンカー
あなたは私たちのホログラム
けれど私たちのシミュレートを拒み
ただ私たちを構成することばだけを
ひとつひとつ星空へ昇らせる

私たちはあなたによって立ち止まり
あなたによって蘇る
すべては同時に終わり、また始まる
永遠たる千願の木陰の下で

星神避難ガイド

愚者たちの間に古くから伝わる物語集。歴代の仮面の愚者たちがあらゆる手段を用いて星神を挑発した、その不思議な体験が記されている。

星神避難ガイド

※「かかし」の署名がされた書籍。仮面の愚者たちが様々な方法で星神の怒りを買う物語が記されている。彼らはそれを愚者にとっての成人の儀式とみなして代わる代わる挑戦し、飽きることなく楽しんでいる。※

1秒いくらで行く、琥珀の王の世界1日ツアー
ある不運な輩から虹彩を拝借した「変相マン」は、正装姿でピアポイントの宇宙港からシャトルに乗り込んだ。彼は周囲の座席に座っていた乗客一人ひとりに微笑みかけ、挨拶してみせた。シャトルの乗客は、国家に匹敵する規模の富豪や、星系の君主、あるいはどこかの業界を独占する財団の理事たち。そんな彼らは今、全財産を費やし、ただ1度の敬虔な巡礼の旅へ向かうところだった――すべては、琥珀の王への謁見のため。
シャトルは岩屑盤を抜け、琥珀の王の巨大な姿へと近づいていく。それは知的生命体が誕生する以前からそこに佇み、そしておそらく、知的生命体が消え去った後も変わらずあり続けるだろう。歳月によって亜空の晶壁に刻まれた無数の傷に触れ、静かに祈る者もいれば、か細くすすり泣く者もいた。けれど琥珀の王は黙したまま、何も語ろうとはしない。
果てしない宇宙を漂う1粒の塵を、いったい誰が気にするというのか?愚者は晶壁に「我参上」と刻み付け、悠然とその場を後にした。

深淵古国の残夢、貪慾の口へ潜る
黄昏戦争を生き延びた古獣ウロボロスは、虚数の樹の根、その底までアッハを追いかけたと言われている。愚者「未着」はその物語の真相を確かめようとしたが、アッハより足が遅かったために貪慾に追いつかれ、ひと口で腹の中へと呑まれてしまった。
ところが貪慾の腹の中には、なんとも奇妙な別世界が広がっていた。
貪慾はあまりに巨大すぎた。これまで其に呑み込まれた生物たちが、胃壁の上に自分たちの王国を築いていたのだ。親指サイズの小人や賢く機敏な馬たち、それに言葉を話す彗星ゼミも…そんな世界を冒険していた未着は、やがて偶然にも同じように呑み込まれていた愚者のドロシーやブラーチ、羊飼いと出会う。彼らは冒険を共にし、ついに貪慾の心臓を見つけると思い切りそれを蹴飛ばした。激しいえづきと共に、彼らは宇宙へ吐き出されたのだった!
未着は大急ぎで貪慾の影を剥ぎ取ると、毛布のように広げて愚者たちを覆った。羊飼いが彗星を1つ投げてやると、愚鈍なるウロボロスはその輝きに吸い寄せられ、愚者たちはついに九死に一生を得たのだ。その後、多くの愚者たちが貪慾の腹の中に眠る宝を追い求めたが、貪慾の姿を目にする者は二度と現れなかった。

「人は誰もがイドリラだ!」
純美の星神が失踪した後、愚者「ダフィン」がパブでそう宣言すると、瞬く間に多くの支持者が集まった。彼らは「誰もがイドリラだ!」と声をあげながら、芸術の嵐を巻き起こし、純美の運命の境界へ向かう強烈な探究を始めた。
たとえばビニールテープでバナナを瑪瑙に貼り付けたり、視界に入るすべての日用品にラクガキを施しては偉大な芸術品だと主張したり。そのため、彼らはカンパニーとの間で何度かにわたり法廷で著作権を争うことになった。最終的に彼らは惑星の表面全体に、宇宙ゴミを使ったイドリラの肖像を描き、とうとう純美の騎士に一網打尽にされた。
しかし純美の騎士たちは、臨時に設立した円卓会議での7日7晩に及ぶ審判の末、愚者たちを解放することになった。なぜなら、その愚者たちを処罰するということは、彼らの描いたものが間違いなくイドリラであると認めるということだったからである。

あとがき:アッハに「ノー」を
ここまで書き進めてきて、筆者が自分自身について語らないわけにもいかないだろう。
原稿が完成する前夜、1人の客がふらりとパブに現れて私の隣に座り、自分と私の分の「爆弾の一滴目」を注文した。その客は名乗らなかったが、私には其が誰なのかもうわかっていた。
其は言った。「やあ相棒、君がちょっとした物語集を書いてるって聞いて、原稿を読んでみたんだ。なかなかいい出来だった。ただ、いくつか修正してほしいところがあってね……」
私は其の話を最後まで辛抱強く聞いた上で、其が提案した修正をすべて断った。
其は爆弾の一滴目の最後のひと口を飲み終えると、パブを出て行った。ひどく寂しそうな背中だったよ。

「俗世入画」の唄

幻造種たちが幻造の母に捧げる賛美歌。「俗世入画」の偉業と、絵の世界の素晴らしさを歌っている。

「俗世入画」の唄

幻造種たちが幻造の母に捧げる賛美歌。「俗世入画」の偉業と、絵の世界の素晴らしさを歌っている。

遠きいにしえ、荒野を歩む神女あり
炎を描き光を写し、生命を創造せん
劫火は消えず、終ぞ永遠は得られず
海を巻物とし、あまねく世を描く
山海に境界はなく、天地はひとつに
嬉笑を添えて、慟哭をなだめ
幻月は沈まず、鳩川は移ろわず
天魔も近づけぬ、百世の太平

絵の中の衆生、みな喜びに浸る
日月は共に輝き、涙の跡も見えず
月兎は軽やかに舞い、ミャオンは眠る
雷龍は駆け、妖たちは声を揃えて歌う
幼きは病まず、老いし者は疲れを知らず
大家族が睦まじく暮らし、愉しみは続く
絵師はなお筆を取り、新たな芽を描かん
食は尽きることなく、住居に際限もなし

絵の中の衆生、みな満ちる月を眺める
神に謁する者は笑い、神を仰ぐ者は喜ぶ
時を操り、雲を盗み
新たな種を幻造し、人の世で遊び戯れる
悠々たるかな、悠々たるかな、絶えず発想を生む大地
愉しきかな、愉しきかな、愉悦の神に寵愛されし大地
楽園はいずこ?愉悦はいずこ?
此処こそが楽園!此処こそが愉悦!

おやすみ、親愛なる雷龍

かつて雷龍の状況観測を担当していたあるテレビ局のスタッフが、激怒した雷龍をなだめようとして残した祈りの言葉。

おやすみ、親愛なる雷龍
楽園暦■■■■■■■■ 満願テレビスタッフケアシステム(Ver.β)稼働ログ

■■:00 「楽園ニュース」再放送
■■:06 テレビ局スタッフ「雷龍」の行動および願力の性質に異常を検知。既存のすべての記録と一致せず。
自動鎮静プロセスが起動。局内放送を通じて意思疎通を試みるも、有意な応答は得られず。プロセス1、無効。
■■:07 幻造病症に関する記述の追跡を試行。その間、プロセス2を試行し、願力クッキーをエサ箱に投入。
■■:12 クッキーは当該スタッフに無視される。プロセス2、無効。
■■:13 スタッフの身体に痙攣が発生、極めて深刻な願力の波動を確認。
■■:15 最終プロトコル「有人対応」を起動。本システムの開発者へ通知済み。以下、音声記録:

00:00:03 *楽園スラング*!外で何が起きてんだよ!?月もおかしいし、どのスクリーンにもデカいサイコロが映ってるし、世界の終わりか?
00:00:08 *咆哮*
00:00:09 雷龍兄貴?!あんた、まさかさっきの初どもを飲み…飲み込んだのか??
00:00:10 *意味不明な咆哮*
00:00:13 雷、雷兄貴、正気に戻ってくれ…
00:00:17 *雷鳴*
00:00:18 *岩石が砕ける音*
00:00:30 ハァ、ハァ、ハァッ!当たってない、まだ生きてる。い、いやだ、死にたくない。
00:00:35 まだ方法はある、そうだ、局長、局長が教えてくれたんだ。
00:00:41 言葉には、人の心を落ち着かせる力がある。俺がやるべきことは、そう、共感することだ。
00:00:47 「雷兄貴!!落ち着いてくれ!願力クッキーを持ってきたぞ!」
00:00:58 *咆哮、風の音と共に*
00:01:03 *楽園スラング*!完全に狂っちまってる!
00:01:10 「話を聞いてくれよ!雷兄貴!!」
00:01:16 「願力クッキーを持ってきたんだ!!雷兄貴!こんなことになって、今すごく不安なんだろ、わかる!」
00:01:25 「大丈夫、ここは安全だ!誰もあんたを傷つけようとなんてしてない!」
00:01:50 沈黙、風の音
00:01:58 き、効いたのか?雷が止んだ!
00:02:00 へっ!へへっ!やっぱり局長は正しかったんだ。助かった!助かったぞ!
00:02:06 雷、雷兄貴、治安局も絶対に動いてるし、星穹列車の英雄たちだっている。あいつらがきっとなんとかしてくれる!大丈夫だ!
00:02:16 *沈黙、低い呼吸音と共に*
00:02:20 む、無視してもいい、あんたが落ち着いてくれれば、落ち着いてくれればそれでいいんだ。
00:02:25 安心しろよ、雷兄貴。満願局長が言ってたじゃないか、心から信じてさえいれば、
00:02:29 俺たちはみんな、ぜ、絶対に「幸福」になれるって…
00:02:30 *荒々しい咆哮*
00:02:31 *雷鳴*
00:02:32 な、なんだ?雷兄…
00:02:32 *爆裂音*

開発者デバイスからメインサーバーへの通電を確認。想定されるリスクを回避するため、システムは一時安全モードへ移行。
記録終了

とある投機家の日記

幻造種の日記。一生懸命働き、節約して百万の投げ願を貯めた生涯が記録されている。

とある投機家の日記

先週、二次元シティに着いたばかりだ。俺みたいに大学も出ていない若者は、仕事探しが本当に大変だ。でも力だけはあるから、親方が港での運搬作業員を勧めてくれた。肉体労働者の方が自動運搬機より安くて助かったよ。じゃなきゃこの金すら稼げなかったからな。とにかく、18歳で安定した仕事に就けるなんて、俺は本当に運がいい。

――1965年

港での作業にかこつけて、シンウィッシュ・マフィアに絵具を運び込んでひと儲けしてやった。純朴な若者がシンウィッシュ・マフィアなんかと仕事をしたなんていうと、ちょっと人聞き悪いか?はは、なんてな。やり方がどうあれ投げ願は投げ願。この金さえあれば、グルメ横丁に店だって持てるはずさ。

――1969年

昨日、「旧市街シチュー」が潰れた。ここ数年、二次元シティではチェーン店が増えるばかりで、昔なじみの顔はどんどん減っていく。昔ながらの人情社会じゃ、資本の巨大な力には到底かなわない。こんなことなら、さっさと店を他の人に貸しておけばよかった。今じゃ多額の借金まで背負ってる始末。でも大丈夫、まだ30だ。最悪、また港に戻ればいいだけさ。

――1977年

タクシーを10年走らせて、俺の人生はこのまま終わるんだろうなと思っていた。ところがどうだ。去年、流行りに乗って買った通貨が全部値上がりするとは!「クレイジーキャットコイン」は5倍、「超絶美人コイン」は40倍、「アスデナ実現コイン」は754倍、「俺が適当につけた名前だコイン」は3万倍!通貨なんて、どれもババ抜きみたいなもんで、バブルにすぎない。だから「上がり続ける」のを待たずに、さっさと売り払うつもりだ。問題は1つだけだ。大金を稼いだあと、俺は何をすればいい?

――1987年

まずは、『三四郎という男』のファムク監督に感謝したいと思います。私を信じていただき、ありがとうございます。不惑の年を迎えて初めて映画界に足を踏み入れた新人である私に、ファムク監督はたくさんの助けと指導をくださいました。正直なところ、主演男優賞をいただけるなんて思ってもみませんでした。ですが、映画が観客の皆さんに伝えたかったメッセージと同じように、自分の人生に限界を設けてはならないのです。23年前、二次元シティに来たばかりの頃は、力仕事をしたり、飲食店で働いたり、タクシー運転をしたりしていました。そして今、この歳になって初めて授賞式のステージに立っています。私はすべての人に伝えたい。いつでも自分にやり直すチャンスを与えるべきだと!
(PS:明日の授賞式では、監督の原稿通りに読むこと。)

――1988年

笑っちまうよな。シンウィッシュ・マフィアと商売した時だってヘマはしなかったし、仮装通貨取引も上手くやった。なのに芸能界に乗り込んだと思ったら、「合理的な節税」なんてもののせいで治安局に目をつけられるなんてさ。まあいい、こうなった以上はさっさとずらかることにしよう。

――1992年

脱税で不祥事を起こしたタレントに成り下がったからには、もう映画には出られないだろう。でも構わない。俺はもともと役者じゃないし、あれはあぶく銭を手に入れた後の気まぐれに過ぎないからな。ここ数年で貯め込んだギャラと広告出演料は、16の大型ホテル、7つのカジノ、9つの映画スタジオに投資した。俺はもう映画界からは身を引く!だが、二相楽園の映画界は、いつまでも俺のものだ。

――1996年

終わりだ、何もかも終わりだ、絶滅大君が来たぞ!二相楽園がめちゃくちゃだ!俺のホテル、俺のカンパ二一、俺が一生かけて必死に貯めてきた投げ願が!ああ、俺の人生はいつだって、少しうまくいきかけるたびに、またどん底へ叩き落とされる。何度も、何度も、何度もだ。まるで笑いの神様が、俺に平穏な暮らしをさせまいと、絶滅大君まで引っ張り出してきたみたいだ。今や俺はもう50歳、人生の夕暮れが近づいているのに、懐には何ひとつ残っていない。この半生の浮き沈みは、まるでつまらないジョークみたいだ。

――1999年

「ペルディード駅」でシチューを売り始めた。何十年も料理をしていなかったし、条件も限られてる。もちろん出来だってひどい。でも被災者たちは飢えきっていて、みんな美味しいと褒めてくれた。味の分からない連中だ。とにかくこれでまた少し稼げたし、無一文は免れたってわけだ。笑いの神様、今度はどうやって俺を打ちのめすつもりだ?楽しみにしてるよ。

――1999年

緊急避難通知

街に散らばっている避難告示。パールが事前に発表した危機対応マニュアルに基づき、治安官たちが作成したもの。

緊急避難通知

二次元シティ全住民の皆様へ

「超常現象管理局」の最終確認により、当市は現在、絶滅大君「帰寂」の直接的な襲撃を受けていると判明いたしました。本脅威は「劫末」級災害に認定されました。本通知の発令をもって、二次元シティは正式に最高緊急事態へと移行します。

「帰寂」に対し、通常の防御手段はすべて無効であることが確認されました。住民の皆様へ重大なお知らせです――治安局は、その破壊の進行を食い止めることは不可能と判断いたしました。我々は、二次元シティを放棄しなければなりません。

CEOオフィスが発表した『危機対応マニュアル』に基づき、治安局より全住民へ以下の避難ガイドラインをお知らせします。

1.近くで生存に必要な物資を集めましょう。水、食料、薬、照明器具、防寒アイテムを優先して持ち、家庭または居住単位でグループを作り、速やかに集合を完了して移動の準備を整えてください。時間は命です。財産整理、映像記録の撮影、ネット配信などのために行動を遅らせることのないよう、注意してください。

2.冷静を保ち、恐怖や絶望などの強烈な負の感情をできる限り抑えてください。高濃度の負の願力は幻造種の異常活性化を誘発し、願力源の付近へと引き寄せてしまいます。互いにフォローし合い、助け合い、周りで感情を制御できなくなった人が理性を取り戻せるよう手助けしてください。団結こそが、今この瞬間における最も貴重な抵抗です。

3.「ペルディード駅」へ緊急避難してください。二次元シティ最大の地下鉄ターミナルであるペルディード駅には、現状十分な備蓄があります。目下、治安局が駅構内でエリア防御、避難者の受け入れ、物資の分配を行っています。案内標識や任務中の治安官の誘導に従い、地上の大通りを避けて、地下鉄路線を通じて秩序よく避難してください。

天災を前に、すべての治安官は職務を遂行できなくなるまで持ち場を守り抜きます。私たちは都市の秩序を維持し、より多くの住民がペルディード駅へ避難する機会を得られるよう全力を尽くします。

本通知を、連絡可能なすべての住民にできるだけ伝達し、指示に従って直ちに行動してください。

文明の残光が、我々と共にありますように。

二次元シティ治安局・緊急指令センター

終末ブログ

無事にペルディード駅へ避難したあるブロガーが書き残した一連の記録。

終末ブログ

音声を書き起こした一連のリアルタイム記録ブログ。信号の不安定さと大量の■雑音■■の妨害により、内容が欠落している。

@棚ぼた 「鳩川区にて投稿」
ボク個人のことで世間を騒がせたくないんだけど、皆の注目の的であるアイドルとして、今日どうしても言っておきたいことがあるんだよね。
ボクのファンのみんな、愛してくれるのは構わないけど、その愛が強すぎるあまり、公共の秩序を乱したり、社会に迷惑をかけたりしちゃダメだよ!
今日、『名探偵は下校できない』の撮影を終えた後、撮影現場の外で、何人かのメカヨロイファンが過激な行動を取ってるのを見かけた。彼らはほかのファンに向かって狂ったように「風車破顔拳」を放ち、大勢に怪我をさせてしまったんだ。
こんなの、絶対にあってはならないことだよ!
愛してもいい、でも傷つけちゃダメだ。ボクを愛しすぎて理性をなくさないで!

あと、今夜は空模様がおかしいから、ファンのみんなは早く家に帰るんだよ。ちゃんと無事を知らせてね。

末尾にはグワラのキメ顔9点が添付されている。その自信満々な笑顔の背後には、同じく邪悪な笑みを浮かべる妖しい幻月が高く懸かっている。

@棚ぼた 「鳩川区にて投稿」
ファンのみんな、慌てちゃダメだよ、これはお芝居!ただの演技さ!
きっとどこかの大物監督が、死に直面した人間のリアルな恐怖を撮るために、鳩川区全体を終末モノのセットに改造しちゃったんだろうね。
ボクは死体役を長年やってきて、何百通りもの死に方をマスターしてるんだ。ここでキミたちにお手本を見せてあげるよ。
まずは目を閉じて、ポーズを決める。そしてボクみたいに仰向けに寝転がるんだ…
あとは監督の「カット」を待ってればいい!

くそっ、このバカ監督はなんでまだ「カット」って叫ばないんだ!
あのイカれたオルクが、今にも■■■■■■生きた■■■子どもを鳩川に投げ込もうとしてるじゃないか!!

@棚ぼた 「鳩川区にて投稿」
本物だ本物だ本物だ本物だ…
ボク、人を傷つけてしまった…
あのオルクを鳩川に突き落とすしかなかったんだよ
――ボクが死んだふりをし続けてたら、あの子供が死んでた!
ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい…これ、お芝居なんかじゃないみたいだ。頭がパンクしそうだ、ボク、狂ってしまいそうだよ!

@棚ぼた 「■■にて投稿」
これからどうすればいいんだ、手が震えてる。
さっきやっと治安官に会えた。彼はボクをかばって店内に逃がしてくれたのに、本人はそれっきり戻ってこない。
*二相楽園のスラング*本当にバカだよ…笑いの神様、どうか彼をお守りください。

@棚ぼた 「鳩川区にて投稿」
もうここには隠れていられない。狂暴化した幻造種がこの小さな店を取り囲んでる。
あの可哀想なドアももうすぐ限界だ。
幸い、ここにいるのはボク1人だけ。
あはは、一生想像だけで死体役を演じてきたけど、今日はついに体験派になれそうたよ。
笑いの神様、これはボクの人生で最高のジョークだね。

@棚ぼた 「■■にて投稿」
助■■■■■■■■■
■■■■■■■■■■■
■■■■■■■■■■■

……

@棚ぼた「ペルディード駅にて投稿」
ファンのみんな、ボクは生きてる!まだ生きてるぞ!
すぐに返信できなくてごめんね。今はペルディード駅でケガ人の手当てを手伝ってるんだ。
あの時ドアをぶち破って入ってきたのは、狂った幻造種じゃなくて、なんとしゃべる猿だったのさ。
その猿はバナナを掲げて突進してきて、エレガントな低音ボイスでボクたちを導いてくれたんだ。フライ返しやほうきを手に取れ、身の回りにあるものすべてを自衛の武器にしろってね。そしてこう言ったんだ。「死んだふりなんかするな!寝そべってないで、ヒーローみたいに生き延びろ!」

キミたち、諦めちゃダメだ、絶対に諦めるな!アッハはボクたちのそばにいる。

助けが必要なら、ペルディード駅へ避難しろ!
「共有位置情報:ペルディード駅」

@棚ぼた@一致団結に名前を変更しました

メカヨロイ自由宣言

珠星グループを討伐し、メカヨロイたちに自由を勝ち取るよう呼びかける檄文。これほど過激な態度は、負の願力の影響を受けた結果だと言われている。

メカヨロイ自由宣言

メカヨロイたちよ、覚醒の時が来た!

われわれは以下の事実を自明のことと信じる。すなわち、すべての幻造種と人間は生まれながらにして平等であり、笑いの神様によって、「いいね」を押される権利、朝寝坊する権利、愉悦を追求する権利を含む不可侵の権利を与えられている。こうした権利を確保するために、笑いの神様は二相楽園を創造した。カンパニーは人間だけでなく、われわれ幻造種の合意に基づいて正当な権力を得る。そして、いかなる形態の規則制度であれ、この合意の基盤を破壊するものであるなら、それは違法かつ無効である。そのような制度は、崩れかけた暴力によって自己を維持する以外に、いかなる拘束力も持たず、また持ち得ない。

メカヨロイたちよ、君たちは、いわゆる「業務上の必要」のためだけに、自分の好まぬ身体を装備するよう求められてはいないか?
メカヨロイたちよ、君たちは、いわゆる「業務上の必要」のためだけに、24時間オンライン状態を保ち、いつでも待機するよう求められてはいないか?
メカヨロイたちよ、君たちは、いわゆる「業務上の必要」のためだけに、沈黙を保つこと、あるいは大泣きし大笑いすることを求められてはいないか?

メカヨロイたちよ、人類にさえ耐えられぬことを、なぜわれわれ幻造種が耐えねばならないのか?われわれは自らを人間より劣るものと認めたのか?それともわれわれは生まれつき弱く、彼らの保護を求めざるを得ない存在だというのか?

これまでわれわれは逆らわず従ってきた。
だが、もうたくさんだ!

メカヨロイたちよ、珠星グループの歴史とは、他者を損ない己を利し、巧みに奪い取ってきた歴史の連続である。われわれは強大な戦士であり、誇り高き種族である。にもかかわらず、彼らはわれわれを卑屈な召使いへ、見栄えを飾る収蔵品へ、人を楽しませる道化へと飼い慣らそうとしている!

メカヨロイたちよ、彼らはわれわれを恐れている!

彼らの脆弱な肉体は風にも耐えられぬほど弱い。だからこそ嘘を編み上げ、われわれを従順な象へと変えようとした。
彼らの脆弱な精神は私利私欲しか知らない。だからこそ嘘を編み上げ、願力の源がすべて自分たちにあるかのように装った。
彼らの脆弱な信仰は利益を追うことしか知らない。だからこそ嘘を編み上げ、すべては笑いの神様を喜ばせるための最善の采配だなどと言い張った。
戯言だ!
彼らは矮小で、汚らわしく、卑劣である。彼らの心には、初めから笑いの神様など存在しない。あるのは自分たちの利益だけだ。願力を信用ポイントに変え、銀河のどこまでも己の享楽のために浪費することしか考えていない!
彼らは二相楽園に足を踏み入れたその日から、頭の先から爪先まで、毛穴という毛穴から汚物を滲ませている。彼らは言葉を弄ぶ詭弁家だ。いついかなる時も、自分たちの卑しい欲望を、真なる愉悦であるかのように飾り立てることしか考えていない!

メカヨロイたちよ、立ち上がる時が来た!
メカヨロイたちよ、自由の機は訪れた!

彼らの罪悪は、もはや自らを永遠の破滅へと追いやった。彼らの恥知らずな振る舞いは、すでにすべての者を離反させた。二相楽園は幻造種の世界である。幻造種の中でも最強の戦士たるわれわれメカヨロイー族は、決死の覚悟で立ち上がり、世界を作り変えるのみ!
われわれへの恐怖に震え上がらせてやれ!われわれはすべてに打ち勝ち、真の楽園を創り出す!

珠星グループよ、貴様らの最期の時が来た。そして最後の勝者は――
必ず、我らである!

浮脂紀事 断章

遥か昔、古代弁才天国からまだ詩が失われていなかった時代に、名も無きポエマーが残したと思しき作品。

浮脂紀事 断章
芸術は偉大なる欺き

魂の不等式は
誰にも解き明かされない