イベントストーリー
響宴の伯爵(調査場所:宴会ホール)
- 【1-古城には一人の伯爵が隠居している。】
伯爵が生涯をかけて果たすべき責任、それは血族の至宝ーー魔典を管理することだった。
長い年月の中、魔典はより多くの人間を記録し、選別し、血族を栄らせるよう伯爵を駆使した
だが、伯爵は獲物から伝わる恐怖と憎しみに疲弊し、本能のまま仕える盲目な自分に嫌悪を抱き始めた。
そして、彼は魔典を封じ、一族を解散させ、独りで古城に住みつき、世間から遠のくことを決めた。
彼の手にあるのは、孤独と虚しさだけになった。
- 【2-心臓は二度と脈を打たないが、鼓動で揺れたさざ波は永遠に消えない。】
スカーレットの新婦の情報が古鏡から古城へ伝わったとき、伯爵は同情しなかった。
彼女が犯した一番の過ちは、世俗から受ける偏見に一瞥もしなかったことだ。
だが、彼だってかつては変化を求めていただろう?
どう見せれば自分のセンスと品格が俗言や戯言に捻じ曲げられていないか証明できる?
どうすれば偏見、恐慴、自分勝手を抹消し、血族を一刻だけでも孤独から解放できる?
彼は人を食らう怪物でも、闇夜の妖魔でもない。
宴会のろうそくが照らされ、客と主の古き制度に守られている間、彼は謙遜な古城の主人にすぎない。
- 【3-目覚めよ、古き友。夜が来た。】
ハロウィンに開かれる古城の夜宴は、新しい局面を開く機会になるだろう。
この為に、伯爵は密室に眠る執事を呼び起こした。
昔からの友を説得するのは簡単だ。
だが、他人の先入観は言葉の一つや二つで消せる物ではない。
伯爵は魔典の封印を解き、全血族の代わりに古城初の宴会を見届けさせることにした。
招待状を送り、美酒を注ぎ、美味しい料理の用意もできた。
まだ来場していない客人はどこで彷徨っているのだ?
- 【4-客人が次々と訪れるが、それぞれ何かを目論んでいる。】
伯爵は生きた血肉を久しく見なかった。
だが、以前の抑えきれない原始的な渇望に比べ、今の彼にとってはどうやって来客を楽しませることが大事だ。
山麓の漁師、遠方の旅人、沈黙者…魔典を使えば彼らの本当の考えを読み取れたが、彼はそうしなかった。
自分の誠実な態度と振舞いで、来客がこの少し特殊な時間の間だけでも、すべての隔たりと疑いを捨て、純粋な夜宴を楽しんでくれるだろうと信じているからだ。
もし誰かが伯爵の思いを裏切るのなら、彼は容赦しないだろう。
- 【5-宴会終了後、残された物は?】
宴会はいつか終わり、来客はその場から去り、古城はいつもの静寂に帰った。
誰もこの宴会を口にすことはなく、誰もその後の伯爵を見たことがない。
ただ身分を象徴する宴の杯が、テーブルに残っていた。
彼の願いが叶えようが叶えなくても、彼はいつか戻ってこようと、古城が認める主人はただ一人。
血族の伯爵の座は、永遠に一つ欠落している。
沈黙者(調査場所:宴会ホール)
- 【1-沈黙者がこのような宴会に来ただと?】
どうやら伯爵は来客の素性を気にしていないようだ。
招待に応えて来場した者なら誰も拒まない。
まるで抵抗力のない子羊を拒めない肉職人のように。
沈黙者が予想していた通り、ここまで駆けつけたのは異教の旅人ばかり。
村人は目的が読めないこの宴会を敬して遠ざけている
たとえ伯爵が牙を隠し、紳士のように装って来客を迎えても、その邪悪な本性は沈黙者の目から逃れられない。
何故なら、彼は血を貪る異類だからだ!
- 【2-沈黙者は教会の人間だ。】
彼女は山の麓の村に住んでおり、常に古城の血族を見張っていた。
長年の平穏な生活が、沈黙者を陳腐で愚かな村人と同じくらいだらしなくさせた。
何度も古城の耳目を鏡で見かけ、それを静かな祈りの応答だと勘違いしそうになったこともある。
彼女は聖潔な教会から遠く離れ、閑寂な古城に近づきすぎたからだ。
だが、今となっては、彼女でも堂々とこの不潔な地に脚を踏み入れることができた。
なんて皮肉な話だ
それでも任務は続行しなければならない。
あの執事の鍵に、聖なる神を侮辱する秘密が関わっているかもしれない。
- 【3-この宴にはやはり何かを企んでいる!】
あの邪悪な血族の魔典が、伯爵の計画の核心なのだろう。
文字が血液のようにページに蔓延る様子を見て、彼女の畏慴心と好奇心が纏わりついた。
魔典は人の心の秘密を読み取ることができたのだ!
だが、沈黙者は他の秘密を見ることができない。
彼女はただ、自分の思いが紙に浮かび上がるのを見ていることができなかった:
宴の杯には美酒が注がれ、料理は華麗に盛り付けされているが、中身はこの朽ちた古城特有の臭みしかない。
華々しく装っている伯爵も、人の心を容赦なく探り、獲物を弄ぶ邪悪な素顔を隠しているように。
- 【4-馴染み同士がここで出会ったのも、偶然ではない。】
沈黙者は村の漁師を見かけた。
脅迫を受けたのか、それとも自発的に来たのか。
どっちにせよ、ここに来てくれたからには、自分がどのような状況に置かれたかを理解しているはずだ
宴会が始まれば、伯爵は必ず偽りの皮をはがし、この村の守護者を始末するだろう。
その次はきっと村を…魔典がある限り、伯爵は止められない。
唯一心懸かりなのは:なぜこの宴会まで待ったのか?
とうとう、教会に行動開始の合図を出す時が来たようだ。
- 【5-身を引く前に…】
沈黙者はあの魔典を伯爵の思い通りにさせないと決意した。
魔典に記録された秘密はあまりにも多すぎる。
そして秘密こそが、人の心を支配する鍵だ。
そう、彼女は魔典を持ち去るべきだ。
恐らく…いや、きっと彼女なら、それの本当の力を発揮させられるかもしれない。
彼女はそれに心を開き、それは彼女の秘密と居場所を囁いた。
彼女が魔典の封印を解けば、奇跡は言い伝えの福音じゃなくなり、彼女も二度と自分を見失うことはないだろう。
古城の執事(古城の密室)
- 【1-執事の責任とは、仕えることだ。】
だが、「仕える」とは「絶対的服従」を意味しない。
執事が呼び起こされた時、彼は伯爵の口調から疲労感を聞き取った。
主は長い孤独の中でかつての風采を失った。
そうでもなければ、彼はその奇妙な宴会の提案に同意するはずがなかった。
この古城を己の物にしようとする奴らは、まだまだ大勢いるからだ。
それにーーなぜ高貴な血族が、獲物と一緒におままごとのような宴を開かなければならないのだ?
- 【2-豪華な食事は宴会で不可欠なものだ。】
魔典の庇護の下、元より舌が厳しかった伯爵はもう凡人の血を欲しがっていない。
執事にはまだ喉が渇くような衝動があるが、主人の習慣に従い、その脂質や病に塗れた劣等な血液を切り捨てた。
その代わりになったのが、甘くてコクのあるワイン。
これは宴の新しい流行だ。
残念だが、彼の老いぼれた牙では、この先役に立ちそうもない。
来客のことなら…執事が眠る前、倉庫に保存されていた食料は非常に豊富だったはずだ…
- 【3-送った招待状は一つも返事をもらっていない。】
一日も待った!
村の連中はやはり恩知らずな奴ばかりだ。
虫けら共は地下の穴ぼこで鳴き騒いでいればいい。
部屋の中に入れたら、ただの害虫だ!
伯爵に恐れを覚えるのは虫けらの本能だ。
数千年もの間血液に刻まれてきた恐怖を克服できる者がいるとしたら、そいつは必ず企みがある。
だが執事は主人を絶対に失望させない
たとえ特殊な手段を使っても、客を「招いて」こなければ。
- 【4-客人が次々と来場した。宴会はまもなく始まる。】
古城の執事は、外の人間に腰を下げる習慣はない。
だが、彼が心を込めて装飾した華麗なホールは、既に暗くて厳粛な古城の高貴さを下ろしていた。
この意固地な老人は恐慴を感じさせるよりも、恐慴を支配するほうがより強いと信じているからだ。
だが…もし外来者の目には恐慴が無ければ、代わりに何が映るのだろう?
彼らは不安でありながらもそれぞれ何かを目論んでいる来客達を見つめた。
この宴の向かう先は、今までのどんな狩りよりも予想困難であることに執事は気付く。
伯爵の願いは、本当に叶うのだろうか?
- 【5-誰かが密室に入り込んだ!】
まもなく宴が始まり、伯爵が登場しようとしたその時、何者かが執事を襲い、彼が狼狽えている間に身に付けていた密室の鍵を奪い去った!
恐慴という名の高い壁が崩れると、牢獄から解き放たれた悪意は意のままに氾濫する。
獲物はここを罠だと思い、遠ざかる。
だが、敵はここを戦場に仕立てる。
執事はようやく気付いた
本当の宴は美酒と料理じゃなく、お互いに受け入れる素直な心が必要なのだとーーそれが伯爵の求めていたものだった。
鏡中の夫人(調査場所:古城の密室)
- 【1-鏡中の夫人の休憩を邪魔したのは誰だ?】
血族が鏡で自分を見直すことはない。
故に、鏡中の夫人は古鏡の世界でたった独りの時を過ごしてきた。
暇を持て余している間、夫人は古鏡で村の生活を観察することになった。
古く罅の入った鏡面から、彼女は村人が一つの畑で共に耕作し、崩れかけたテーブルで共に食事し、同じ時間に就寝する姿を眺め…これが彼らの住む世界なのだと知った。
それでも、よどんだ水たまりのような古城に比べればずっと良かった夫人は身の周りの平凡と無感覚な繰り返しにうんざりし、更に遠い光景を憧れるようになった。
- 【2-見知らない影が古鏡に映っている。】
かつて頂点に立つほど強大だった血族が、獲物と平等の位置にいることを許すほど落ちこぼれたのか?
無礼者たちを見よ!
『客』と自称していながらも、礼儀がまったくなくて、淑女の鏡の前でうろうろと覗いている。
醜くも貧乏臭い姿が鏡に映っていることを、彼女は我慢できない。
それ以上に可笑しいのは、孤高な伯爵が血族の至宝を手に入れたが何もせず、ただ宴会で世間の視線を変え、他人に認めてもらおうとしている妄想だ。
どうやら、彼の同族が彼を心配するのも無理はなかったようだ。
- 【3-ここまで駆けつけた客には、それぞの目的がある。】
秘密を覗き見るのが、鏡中の夫人が一番気に入っている遊びだ。
夫人が沈黙者と漁師の争いを聞いていると、教会の計画も耳にした。
伯爵がこれ以上能天気でいれば、魔典と古城はまもなく新しい主人の手に渡る。
だが夫人は古城の物ではない。
彼女は自分自身のことさえ決められない。
鏡の中の世界は彼女の天と地であり、牢獄でもある。
だからこの茶番がどのような結末になろうと、彼女は機会を見つけている。
- 【4-宴会なら必ずしも、歓迎されていない客がいる。】
狡猾なジジイめっ!
彼は夫人の動きに気付き、見た目は礼儀正しく彼女を宴会に誘った。
実際は、彼女を伯爵の目が届くところに置いておきたかったのだ。
かつてひねくれ者だったあの伯爵が、今は彼女の自由を放任するほど寛大だ
夫人は古城の主の事に対してますます分からなくなった。
彼は一族の象徴として、自由と時間を放棄した。
そして今は牙を隠し、翼を収め、この無意味な宴会のために身分まで下げた。
彼が切り捨てたのは、鏡の中に囚われていた彼女がずっと渇望していた自由と地位だった。
- 【5-新しい機会は主に混乱の中から誕生する。】
沈黙者は道を踏み外した。
彼女の企みはついに鏡中の夫人さえも巻き込もうとしている。
だが、彼女は夫人が古城に居る本当の理由が知らなかった。
鏡の世界は共通している。
鏡を覗く目は、他の目にも覗かれている。
鏡に向けた請求すると下心を持った誰かに聞かれてしまう。
だが、少し面白い局面になっても悪くはない。
宴会で起きるすべては、絶対に無駄にはならない。
歴戦の猟師(調査場所:古城の廊下)
- 【1-招待状をもらったその日、村人たちは恐怖に陥った。】
村人は招待に応じることが恐れるも、自分の荘園と畑を置いて逃げることもできない。
彼らは誰かの代わりに死んでくれる人間を古城に向かわせるしかなかった。
猟師は山麓に立ち、平然な気持ちで村人たちが恐る恐る自分の家の門を叩く姿を見届けた。
最後は皆彼を選ぶだろうとわかっていた。
それは彼が強いからではなく、彼が孤独だからだ。
鷹の鳴き声を背後に、彼は古城の門から入り込んだ。
- 【2-宴会がまだ始まっていない頃、猟師は沈黙者を見かけた。】
猟師は沈黙者が教会の耳目であることを知っていた。
教会は闇で村を操り、村の移住を制限し、彼らを伯爵の安定した食糧として古城の周囲で飼育していた。
異教の旅人から、この村は既に疫病の伝染源となっている噂も耳にしたほどだ。
猟師は村に逃亡を説得したが、理解もされず、終いには村に孤立された。
臆病で愚かな村人たちは教会に除け者にされているが、彼は村の除け者にされている。
- 【3-何かを守るためなら、何かを壊さなければならないのか?】
沈黙者は一緒に宴会を破壊しないかと猟師に提案してきた。
猟師がその理由を聞くと、彼女は言葉を濁し、伯爵の宴会には必ず何かしらの陰謀があるとの一点張りだ。
だが、猟師は古城の主の風格と誠実を目にしたことがある。
戦梟の野生の直感をもってしても、相手の敵意を感じ取ることはできなかった。
言い伝えに対する恐怖は、次第に不安な気持ちに変わる。
対立の根本となったのは、善悪や種族ではなく、人による偏見なのかもしれない。
だが、偏見は決して破壊で消滅できるものではない。
- 【4-最後の来客が、最悪のお知らせを持ってきた。】
沈黙者が言った通り、この宴は村に危険を及ぼしている。
だが、脅威の源頭は教会だ!
教会の援軍が古城に辿り着き、共に伯爵に抵抗せねば村を消滅させると猟師を脅迫した。
その魔典になんの力があるのか、血族にどんな陰謀があるのか、猟師にとってはどうでもよかった。
だが、誠実な善意を裏切るのは、彼が異類として最も受け入れがたい選択だ。
半生の征途を終え、戦梟の瞳は霞み、どんなに経験のある猟師でも敵味方の区別がつかなくなる。
- 【5-主人の願いを尊重することこそが客としてのマナーだ】
教会の援軍と伯爵が対峙する時。
猟師はやっと自分の選択を決めたーー彼の戦梟が、致命的な弾丸を外させた。
伯爵、教会、そして村の間に挟まれた彼は自分の道を歩んだ。
誰も傷つけることはなく、どんな可能性も諦めなかった。
最も孤独を理解するのは、もう一つの孤独だ。
誰かがこの不和を打ち破り、勇敢な第一歩を進めばいけないのだから。
ニーズヘッグ(調査場所:古城の廊下)
- 【1-執行官が新しい指令に従うには、元より追っていた目標を諦めるしかない。】
あの不潔な花嫁を数日間、後悔の中で生かしてやろう。
消息を途絶えていた血族の伯爵が突然動き出した。
教会は黙っていられないはずだ。
あの古城は村に囲まれ、一見平穏無事な日々を送っているが、実際は永遠に渦巻の中心にいるそうだ。
忠実だった沈黙者も魔が差したのか、自らその中に陥り、情報の伝達に教会の秘法を使わなかっただけでなく、異端である鏡中の妖霊を使って伝言を飛ばしてきた。
どうやら、一刻を争う状況になったらしい。
- 【2-獅子、羊、猟銃。】
なんていい加減な茶番なのだ。
羊と獅子が同じテーブルでディナーだと?
心ここにあらずな沈黙者と未だに立場がはっきりしない猟師を見て、執行官は血族が心や知能にもたらす腐食効果は既に肉体による転化を必要としていないのだと認識した。
事態がこれ以上大きくならないためにも、彼女はこの宴を破滅し、すべての証拠を抹消しなければならない。
沈黙者の醜態も、村に関するうわさも、ここで徹底的に埋葬される。
斡旋と妥協は無能な臆病者がすることだ。
彼女は絶対にしない。
- 【3-致命傷を狙う猟夫は、たった一つの隙を待つだけ。】
対決がまだ始まっていないというのに、沈黙者が執事と揉め始めたらしい。
だが執行官は他の事に気を取られている場合ではない。
開宴が阻まれても、魔典が盗まれても、あの伯爵は怒り狂うに違いない。
その時が一番のチャンスだ!
彼女は銀の弾丸を、あの既に鼓動が止まった冷たい心臓に打ち込むーー
あの死ぬべき猟師さえいなければ、すべてはここで終わるはずだった。
- 【4-意外な結末…?】
聖水の祝福を受けた銀の弾丸は揺るがない信念と共に血族の殻を打ち砕く。
だが、戦梟の羽によって軌道を外し、沈黙者が体に隠していた魔典に命中したのだ!
魔典のページから、あらゆる人間の心の執念を宿した文字が湧き出した。
その場にいた全員が狂おしく蠢く感情に圧迫され、脳内が空白になり、思考も消散し…
宴の結末を知る者は、それ以降どこにもいなくなった。
- 【5-古城宴会の結末。】
魔典の本当の能力は、相手の執念を知り抜き、そして抹消することだ。
血族が異族を同化するために使っていた法典は、教会が信徒を集めることにも利用できた福音だったのだ。
だがあの夜、魔典はどの勢力の道具にもならず、状況が何度も起きた宴会に本来の純粋を取り戻した。
その瞬間、誰もが自分の身分を忘れ、偏見を捨てた。
自分が何故ここに来たのかも、相手がどこから赴いたのかも気にすることはなかった。
ただ単純に、気のままに、この謎の古城で開かれたハロウィンの夜宴を楽しんでいたのだ。
宴の後、魔典と伯爵が共に消えたことは、誰も知らなかった。