素材やゲームを公開するときには、利用規約を準備しなければなりません。
利用規約をしっかり書いておかないと、自分の素材をどのように使って欲しいのかが相手に伝わりません。
また、相手が自分の意図から外れる使い方をしていても、やめるようにと言うこともできません。
このページでは、フリー素材を初めて公開するケースを想定して、利用規約作成で押さえておきたいポイントを掲載します。
素材利用規約とは
著作権を一言でいうと、自分が作った画像、BGMや効果音、スクリプト素材などのプログラム素材を、他人に無断で使用されない権利です。
(※ 著作権については当wiki著作権法まとめのページをご覧ください。)
これに基づき、素材制作者の名前を表示する・しない、素材の改変を許可・許可しないなどのルールを、自分の意思で自由に決めることが出来ます。
そして素材の作者は、「ルールを守ってくれたら、私が作った素材を利用していいですよ」という約束を、素材を利用する人と結ぶことになります(専門的には著作権法に基づく『著作物の利用許諾契約』といいます。)。
この「素材を利用する時のルール」が「素材利用規約」です。
素材利用規約とは、
A. 素材の作者(著作者)が
B. 素材を利用する人に対して、
C. 素材を利用する時に守ってほしいと提示するルールです。
素材利用規約の作り方にはいくつか方法があります。
自分が自由に規約を決める方法、ライセンスを利用する方法、そして個別に許可を出す場合、といったケースが考えられます。
自分で素材利用規約を決める場合
フリー素材を配布する場合のほとんどがこのケースに該当します。
法律的には、財産権である著作権そのものもですが、著作者人格権と大きく関わりがあります。
ここでは、自分で素材利用規約を作るときの書き方や参考例を挙げます。
素材利用規約の書き方は、厳密に決まっているわけではありません。
A. 素材の作者と利用者が、お互いに気持ちよく素材を配布できる/利用できる
B. 利用者にとって分かりやすい
C. トラブルを未然に防ぐ
という観点から書くとよいでしょう。2つほどサンプルを挙げてみます。
A .かなりシンプルな素材利用規約の例
- 素材はどんな作品に利用しても構いません。有償作品や成人向け作品、コンテスト応募作品などもOKです。
- 利用報告は不要です。
- 著作権は放棄していません。自作発言や素材単体での配布・販売は禁止です。
B .しっかりした内容の素材利用規約の例
- 当サイトの素材を利用する場合は、この規約に同意の上ご利用ください。
- 当サイトの規約は、常に最新のものを適用します。規約は予告なく変更する場合があります。
- 利用可能な作品
個人利用や無償の作品にご利用いただけます(個人のホームページやフリーゲームなど)。 - 費用
無料でご利用いただけます。 - 有償作品に利用する場合や商用利用する場合
別途ご連絡ください。個別に対応します。連絡先:〇〇〇 - 禁止事項
・公序良俗に反する作品(成人向け作品を含む)、犯罪・反社会的な作品への利用
・アフィリエイトを目的とした動画やホームページでの利用
・素材単体での配布や販売、素材がメインとなる方法での配布や販売(素材集にする、LINEスタンプにするなど)
・自作発言
・著作権の譲渡が行われる作品への利用(コンテスト応募作品で、入賞した場合に運営元に著作権が譲渡される場合など)
・素材の転載、再配布、直リンク、商標登録・意匠登録
・その他、当サイトが不適当と認めた行為 - 改変の可否
(画像素材の場合)拡大縮小や一部を切り出しての利用など軽微な改変はOKです。
(音楽素材の場合)フェードイン/フェードアウトの追加などはOKです。
原型が分からなくなるような改変は禁止です。迷う場合はご相談ください。 - 著作権表記
著作権は放棄していません。
素材を利用する時は、read meなど分かりやすい場所に以下の記述をしてください。
素材サイト:サイト名〇〇〇
作者名:作者名〇〇〇
配布先:https://www... - 利用報告
利用報告は不要ですが、していただけると嬉しいです。 - 免責事項
当サイトの素材を利用したことによるいかなる損失・損害・第三者との紛争などについて、一切の責任を負わないものとします。
素材利用規約は、基本的には自分が
「こうして欲しい」
「こういうことはやめて欲しい」
と思うことを書けばよいと思います。
それと同時に、利用する人も、素材を利用するにあたって、
「自分の作品に素材を利用できるのか」
「利用するならどんな条件があるのか」
知りたいと思っています。
A. 自分が伝えたいこと
B. 相手が知りたいと思っていること
C. トラブル防止のために書いておくこと
の3つに分類すると、書きやすいかもしれません。
考え方の具体例をあげます。
- どんな使い方をしても無料にするのか
- 例えば、素材を何点以上使う場合は有料、商用の場合は有料
商用の場合でも、一度料金を支払えば無制限で使える、等
- 例えば、素材を何点以上使う場合は有料、商用の場合は有料
- 利用するのに許可を取る必要はあるのか
利用報告をしてもらう必要はあるのか - 個人使用のみ許可をするのか
- 制作グループであれば、誰でも自由に使えるのか
- 使用者が違う誰かに素材を渡し、二次利用をしても良いのか
- 少額でも、金銭が発生する場合も無料使用を許可するのか(同人販売のみ許可する、など)
※ つまり、どこまでを「商用」と考えるのかということ
- 実況動画での使用は許可するのか
※ 禁止にするとゲーム制作者も禁止にせざるを得なくなる - 二次創作に利用しても良いのか
※ 禁止にするとゲーム制作者も禁止にせざるを得なくなる - どこまで自由に使って良いのか、利用範囲と禁止事項はどうするのか
- 年齢制限のあるものや、宗教的なもの、残酷表現のあるものなど、いわゆる「R指定」がある場合も許可するのか
- 禁止事項の例
- 素材の著作権者を名乗る行為
- 素材そのものの再配布、転売、貸与、譲渡
インターネットやCD等を使い、複数の利用者で素材を共有すること*1 - 素材を商標登録(音楽であればJASRACなどの著作権管理団体への登録)*2
- 素材を使ってキャラクターを作ること
- 素材そのものをメインコンテンツとして使用し、販売すること
- 公序良俗に反する使用
作品の中で「表現」として残酷描写や性的な描写があるものとは別で、
誹謗中傷や無責任な噂の拡散を目的として使用することが対象 - (重要)その他、当サイトが不適当と認めた行為
※ これを書いておかないと「禁止事項に書かれていないからOKじゃないのか」と勘違いをされることもあり得るので、ほぼ必須事項といえます。
- 主な利用用途の他に、二次的利用も許可するのか
- 例:ゲーム制作の他に、アクリルキーやファンブックの創作にも自由に使えるのか
それとも、二次利用の場合は申告が必要なのか
- 例:ゲーム制作の他に、アクリルキーやファンブックの創作にも自由に使えるのか
- 素材の加工はしてもいいのか
- 例えば、元素材が判別しないほどの加工は禁止
第三者が配布している素材との組み合わせをしてもいいのか
素材の一部分だけを使っても良いのか、等
- 例えば、元素材が判別しないほどの加工は禁止
- トラブル防止のためのもの
- 規約への同意:素材を利用する場合は規約に同意する(同意したとみなす)
- 規約の変更:規約は予告なく変更されることがある、等
- 著作権表記の有無や形式
- 免責事項:素材を利用してトラブルになっても当サイト(作成者)に責任はありません、等
ライセンスに基づいて素材配布をする場
クリエイティブ・コモンズやツクラー・コモンズ・ライセンス(下記参照)、MITライセンスのもとに素材を配布する場合は、利用規約はライセンスに定められているとおりになりますので、自由に決めることは出来ません。
例えば、MITライセンスに基づく配布なら、「再配布禁止」という項目は設けることが出来ません。
それは、MITライセンスが「著作権の記載とMITライセンスの全文を記載すれば、再配布は自由に出来る」という規約だからです。
もしも、再配布を禁止したいのなら、MITライセンスは使えませんので、他のライセンスを適用するか、自分で作成する必要があります。
ツクラー・コモンズ・ライセンスについて
ツクラー・コモンズ・ライセンスは、RPGツクールシリーズ(※ 現在はRPG Makerに名称変更されていますが、ここでは慣れ親しまれてきたツクールで統一して説明します)の素材作者専用のライセンスで、新しく提唱された著作権ルールです。
以下、公式サイトより引用します。
ツクラー・コモンズ(ツクコモ)は、ツクラー・コモンズ・ライセンスを提供している日本発のプロジェクトの総称です。
ツクコモとはツクールシリーズ(© KADOKAWA CORPORATION)の素材作者のための新しい著作権ルールです。
ツクールシリーズ収録素材を改変した著作物(改変素材)を公開する作者が「この条件を守れば私の改変素材を自由に使って構いません。」という意思表示をするためのツールです。
ツクール素材は、ツクールシリーズで正規にユーザー登録した人なら改変して配布することが出来ます。
これは、素材の中ではかなり特殊な扱いです。大抵の素材は改変が禁止とされているからです。
そして、改変素材はツクールシリーズ利用規約を守る必要があるため、クリエイティブ・コモンズやMITライセンスを利用することが出来ません。
ツクラー・コモンズ・ライセンスは、改変素材の作者が簡単に素材利用の意思を表明するために作られたものです。
改変素材作者は、使用を検討してみてはどうでしょうか。
尚、ツクラー・コモンズ・ライセンスの公式は、改変素材ではない一次素材については、クリエイティブ・コモンズなどの使用を推奨しています。
ツクラー・コモンズ・ライセンスについての詳細は、下記公式ホームページを参照してください。
公式ホームページ:ツクラー・コモンズ・ライセンス
個別に許諾を出す場合
特定の相手に限って利用を認める場合は、メールなどの文書で許可する旨を書く必要があります。
その場合、ケースバイケースということも考えられますが、利用規約は予め決めておくのが無難です。
特にフリーゲームの場合は、仕様の用途が大体決まっていますので、自由に決める場合と同じことを決めておけば、ほぼ問題はないでしょう。
ただし、特定の相手に許諾を出すのですから、それ以外の人が使っていないか注意が必要です。
もしも、複数の人間にまとめて個別の許諾を出すのであれば、どんな形でも良いので、その旨を文書にしておきましょう。
気をつけたいこと
素材は著作物ですから、有償・無償問わず著作権は関係します。
有償の素材であれば、著作権法の他に資金決済法、特定商取引法、消費者契約法、個人情報保護法といった法律が関係してきます。
個人情報保護法は、フリー素材の場合でも意識しておくと良いでしょう。
素材の使用について問い合わせが来たりした場合には、相手のメールアドレスや相談内容など、個人情報保護法に関わるケースが発生するからです。
関係する様々な法律
利用規約は、好き勝手に作っても良いというわけではありません。
素材は著作物ですから著作権法は守らなければなりません。
また、素材の使用についてメールのやり取りが発生した場合は著作権法*3の他、場合によっては個人情報保護法が関わってきます。
有償で素材を配布するのであれば、資金決済法、特定商取引法、消費者契約法といった法律が関わってくるケースもあります。
個人の場合は、企業とは違いそれほど厳密ではありませんが、近頃は自作素材を低額で配布するケースも多くなっており、それに伴ってトラブルも多くなっています。
ですので、不安な場合は法律のポイントを押さえておくと良いでしょう。
最近は弁護士など法律関係に詳しい人物のホームページもあちこちに開設されています。
STORIA法律事務所
VERYBEST
弁護士法人咲くやこの花法律事務所
個人情報保護について
個人情報保護法とは、「本人が意図しない場所で、個人に関する情報を利用されないようにする法律」です。
では、個人情報とは何なのかを簡単に説明すると、個人に関する情報で、特定の個人を識別できるものであることです。
例えば氏名は、それだけで特定の個人を識別できますので、個人情報に該当します。
社会的には、クレジットカードの情報漏洩などで問題になることが多いですが、
素材配布の場合は、おそらくメールやX(旧Twitter)でのやり取りが主になると思います。
その場合、例えば本名が書かれたメールアドレスは個人情報に該当します。
しかし、X(旧Twitter)のスクリーンネームだけでは個人を特定出来ませんので、個人情報には当たらないということになります。
ですが、ネット上のやり取りが基本的にHNで行われることを考えれば、これを公にするのは望ましいことではありません。
企業ではプライバシーポリシーというページに細かく書かれていますが、個人でフリー素材を扱う場合は、そこまで細かくする必要はありません。
例えば、以下のようなことを書いておけば良いでしょう。
- その他分からないことがあれば、お気軽にお問い合わせください。
お問い合わせの内容は一切外部に公開しません。 - やり取りの際に知り得たメールアドレスは、お話が済み次第破棄します。
そして、個人情報をどのように扱うのかは、利用規約のほか、メールフォームの設置ページに書いても分かりやすいでしょう。
ユーザーに対する配慮
1.利用規約は分かりやすい場所に
利用規約は、作っただけでは相手に伝わりませんので、分かりやすいところに書いておかなければなりません。
また、利用規約を変更した場合は、特に分かりやすく表記しておかないと、過去に素材をダウンロードした人が規約の変更に気づかず、変更前の規約に従って利用してしまうこともあります。
サイトのトップや素材のページやブログに書くだけでなく、SNSで拡散すると良いでしょう。
2.ユーザーの利便性と利益にも配慮をする
利用規約を作る時に気をつけなければならないのは、ユーザーの権利や利便性、利益に対する配慮を欠いてはならないということです。
少し本筋からは離れるかもしれませんが、分かり易い例としてユニクロの事例を挙げます。
2014年にユニクロが発表したサービス「Utme!」は、スマートフォンの操作のみでオリジナルTシャツが作れるというものでした。
しかし、サービスの利用にあたり、ユーザーが投稿したオリジナルデータの著作権が無償でユニクロに譲渡される、という利用規約が多数の避難を受け、炎上しました。
結局ユニクロはこの利用規約を修正せざるを得ませんでした。
フリー素材に置き換えて考えると、ユーザーに投稿して貰ったイラストを元に素材を作りますが、オリジナルデータの著作権は無償で譲渡していただきます、という具合になります。
著作権を譲渡する場合は、きちんと文書にて契約を交わす必要がありますので、法律的にも問題があります。
このようなことのないように、特に金銭が絡む場合は細心の注意を払いましょう。
まとめ
フリー素材の利用規約作成で注意しなければならないことは、以下のとおりです
- どのような使われ方をしたいのかを想定して規約を決め、丁寧に分かりやすい言葉で伝える
- 個人情報の扱いについても書いておく
- ライセンスに基づいて配布する場合は、そのライセンスの利用規約に従う
- 利用規約は分かりやすい場所に掲載する
- 自分にばかり都合の良い規約は作らない。ユーザーの権利と利便性、利益にも考慮する