ゆうみも わたしだけの…だよ~

Last-modified: 2017-11-17 (金) 00:16:21

「あっ、東郷さんお疲れ様~…東郷さん?」
部室に戻った私を出迎えてくれた東郷さんは、すぅ…すぅ…と小さな寝息を立てて夢の中へと旅立っていた。
どうやら疲れて寝落ちしてしまったらしい。起こすのも悪いと思い、音をたてないようそろりそろりと近づいて東郷さんの隣に腰かける。
こうして間近で眺めると、彼女の透き通るような白い肌がよく見てとれてドキッとする。やっぱり綺麗だな…と感嘆のため息が自然と漏れた。
それから、髪を鋤いてみたり、頬っぺたをぷにぷにしたり、膝に重ねて添えられた手を取って弄んでみたり。
寝ているのを良いことに一寸だけイタズラを仕掛けてみるけれど、一向に起きる気配が見られない。
無理もない、今日の東郷さんは銀ちゃんのバースデーを祝うためにあちこち駆け回って居たから。
「今日もお疲れ様…東郷さんは偉いね」
眠っている彼女にそっと声を掛け労うと、かさり…と返事をするかのようにリボンで纏められた髪が揺れ動いた。
リボン。東郷さんのトレードマークで、出逢ったときから身に付けていた彼女の大切なもの。
けれど最近、このリボンをみると黒くて重たいものがお腹の辺りに溜まるような感覚に襲われる。

 

こんなこと考えちゃいけないのに…
こちらに来てから、自分が東郷さんの一番では無くなる場面が何度もあった。このリボンを眺めているとその事を強く思い出してしまって。
自分の黒い感情を見せつけられているような感覚に胸が苦しくなる。
こんな風に考えるなんて自分は友達失格だ…そう戒めても一度涌き出た感情は少しも止まってはくれなかった。それに…
「それに、東郷さんにだって責任はあるんだからね…?」
そう一人ごちると、自然と指がリボンへと延びていた。
端を掴み、くっと引くとほとんど抵抗もなくするりとほどける。
リボンに纏められていた髪がサラサラと流れ、今まで見知った東郷さんが違う東郷さんへと変わっていった。
いつもと違う東郷さん。
誰も知らない東郷さん。
私の…私だけの東郷さん。
けど、少し足りない…

 

少しの間思案した私は、妙案を思い付き自分の髪に付けていた桜の髪止めをパチリと外した。
そしてそれを、そっと東郷さんのまっすぐで綺麗な黒髪に付けてみる。
美しい黒色に一点桜色が落ちて、とてもよく似合っていた。
これで、私だけの東郷さん。
どれくらいの間見惚れていたのだろう…辺りがすっかり暗くなった頃、ようやく我に返った私は、この東郷さんをずっと残しておきたくなってスマホを取り出した。
かしゃり。
私の端末の中に私だけの東郷さんを閉じ込めると、撮影音で気が付いたのかゆっくりと東郷さんが瞼を開いた。
「あら…友奈ちゃん…?」
「おはよう東郷さん、よっぽど疲れちゃってたんだね。ここに来たら眠ってたんだよ?ハイこれ、大切なものなんだから気をつけないと」
そう伝え、床に落ちていたリボンを拾い東郷さんに手渡す。
「やだ…私そんなに寝相が悪かったかしら…」
そう言い恥ずかしそうに頬を朱に染める彼女もとても可愛らしい。
ずしり…とお腹にまた溜まったモノを無視して、案外うっかりさんなんだねなんて冗談でおどけてみせる。
ああ…次はいつ会えるかな…私だけの東郷さん…
端末をぎゅっと抱き寄せながら、私は次の手を思案した。