友わし お願いごとだよ~

Last-modified: 2017-07-21 (金) 14:18:38

「突然こんなことお願いしてごめんね?」
「いえ、このくらいのお願いならいつでも聞きますよ。友奈さんにはお世話になってますし」
髪を下ろしたところが見てみたい、それが友奈さんのお願いだった。
特に断る理由もないので2つ返事で了承した私は、髪留めを外してまっすぐ彼女の方へ向き合う。後ろに纏めていた髪がサラリと流れて首筋を撫でるのが少しくすぐったい。
「わあ…っかわいい!こうしてみるとやっぱり東郷さんとそっくり…」
まただ。また…東郷さん。お願いを聞いた時からなんとなくそんな気はしていたけれど、やはり彼女は私に未来の私を重ねてみている。
少しだけ面白くない気持ちになった私は、これでおしまいとばかりに自分の髪を戻そうと手を伸ばす。
「…待って!!」
「…友奈さん?どうかしたんですか…?」
普段からは考えられない剣幕で制止され、返事に戸惑いが混じってしまった…お願いを聞くと申し出たのは自分なのに、少し意地悪だったろうか。
けれど続いた言葉は私の予想とは違うものだった。
「…ごめんね、ひどいお願い事をしてるのはわかってるの…けど、もう少しだけ…」
消え入りそうな声でそう告げる友奈さんは今にも折れてしまいそうで、私は返事をすることも出来ず呆然と彼女を見つめた。
何か…有ったのだろうか、未来の私…東郷さんと。
そういえば最近東郷さんは銀に付きっ切りだったなと思い返して気づく。私達がここに来たばかりの頃は友奈さんの隣にいつも居た印象があったけれど…
考えを整理していくうち、なんとなく友奈さんが私に何を求めていたのか判ってきた。ならば自分にも出来ることはある。
大丈夫…彼女は私。たった2年ほどの違いしかない、私自身なのだから私に出来ないはずがない。
私は一呼吸置いて気持ちを落ち着けると、友奈さんへ声を掛けた…なるべくあの人の声色に近づくよう意識して。
「…"友奈ちゃん"、なにか困った事でもあった?私でよければ相談に乗るわ」
「…!!」
ハッとした表情になった友奈さんは、みるみる表情を崩し私にしなだれかかってきた。頼れる先輩である友奈さんが、"友奈ちゃん"へと変わっていく。
私は"友奈ちゃん"の頭を抱きしめ、言い聞かせるように大丈夫だからと繰り返した。
全く、未来の私は何をしているのだろう…今度会ったら文句の1つも言ってやろう。
今はただ、この腕の中で震えている彼女の力になれるよう…精一杯あの人になりきりながら、私はそんなことを思案した。