若にぼだよ~

Last-modified: 2017-06-29 (木) 18:18:53

竹刀の打ち合う音が響く。
 
踊るように二刀を繰り出して攻撃を仕掛ける三好夏鈴と
柳のように受け流しつつ的確に打ち払う乃木若葉の二人である。
二人の攻防は熾烈を極め、方や連携からの一撃を。
方やカウンターの一撃を入れようとしたその時。
 
『キーンコーンカーンコーン』
 
「あらっ。」
「むっ。」
 
チャイムの音が響いた。
 
「今日はここまでだな、夏凜。」
「そうね。チャイムに助けられたわね、若葉。
 今日こそ完成型勇者の強さを教えてあげようと思ったのに。」
「む…しかしそれはどうだろうな、私の一撃も間違いなく夏凜を捉えていたぞ?」
 
誰もいない道場の空気がピリピリと緊迫し、一触即発のような雰囲気が漂う…かと思われたが、二人の笑い声が静けさを吹き飛ばした。
 
「いつもいつも夏凜は負けず嫌いだな…そこがいいところだが。」
「あったりまえでしょ!でも若葉だって似た様なものじゃない!」
「それは…そうだな。」
 
先日の二人の誕生日祝いと称して行われた戦闘訓練以降、夏凜と若葉は都合がつけば二人で模擬戦を行っていた。
似た者同士なのか、同じ剣士だからなのかはわからないが打ち合いをするごとにお互いに打ち解けて来たようで
手合わせの後は反省会の様な
 
「おはようございます。夏凜さん、若葉ちゃん」
 
巫女であり若葉の幼馴染の上里ひなたが道場に顔を出した。
 
「おはよう、ひなた。」
「ひなた、いつから居たんだ?」
 
挨拶を返す二人と駆け寄っていくひなた。
 
「結構前からいましたよー。
 おかげでカッコいい若葉さんと夏凜さんのコレクションが増えました!」
「またひなたは勝手に…!」
 
若葉が恥ずかしそうに物言いたげな目を向けるが、ひなたは気にも留めない。
スマホを手にはしゃぐひなたに夏凜が声をかけた。
 
「そういえばひなたは写真が趣味だったわね…ちょっと私にも見せて?」
「いいですよ、これが若葉ちゃんの小学生の時の写真でして~」
「ちょっとひなた!夏凜もやめてくれ~!」
 
朝の時間はだいたいこんなふうに過ぎていく。
それからまた別の日。
  
若葉と道場での模擬戦を約束していた夏凜は、前日の勇者部活動での小麦粉運搬の手伝いで疲れてしまったのか、寝坊してしまった。
 
「若葉、ごめん!遅れ…」
 
夏凜が慌てて道場に駆けこむと、若葉が正座で瞑想をしていた。
…と思いきや穏やかな寝息を立てて眠っていた。
 
「眠っちゃってる…」
 
夏凜はその姿を見て昨日のひなたとの会話を思い出しスマホを取り出した。
いつも凛々しい若葉の際立った顔立ちと静かな朝の道場で瞑想している姿はなんとも言えない美しさがあった。
それは夏凜にすら思わず写真を取らせてしまうほどで…。
 
スマホに収めた虚像と目の前で眠っている実像を見比べて溜息をつくと夏凜。
すると…
 
「む…夏凜か、すまない眠ってしまっていたようだ…。」
 
若葉が目を覚ました。
 
「いいわよ別に、私も遅れちゃったもの。」
「昨晩は千景と銀とゲームの協力プレイをしていたら遅くなってしまってな…。」
「だから別にいいって、それに珍しいものも見れたし。」
 
先程撮った若葉の写真を見せる夏凜。
 
「あ、勝手に人の写真を!」
「いいじゃない一枚ぐらい!減るもんじゃないでしょ!」
 
踵を返して駆け出す夏凜、それを追って走り出す若葉。
神樹様の内部での日常がいつまで続くのか、終えた後どうなるのかは分からない。
それでも、朝の爽やかな風を受けながら駆けていく二人はとても楽しそうに笑っていた。