雪にぼ イベント分だよ~

Last-modified: 2017-07-24 (月) 20:31:01

「かくして今まさに聖帝十字陵建設を目指し聖帝軍の先遣隊が出撃したのであった――」
「雇止めしなさいそんな連中」
「お出汁の分量測りおわったよ東郷さん」
「じゃあ友菜ちゃんはこれをお願い」
「こっちは材料切ってこうかぐんちゃん」
「ええ、高嶋さん。指先、気を付けて…」

 

白鳥歌野(プレゼント)捕獲班がその地を治める農業王の領土へと分け入ってから少し後。
後を託された留守組は料理作りの真っ最中。家庭科室を借り切って、約二十名分の作成作業に大わらわ。
何しろ与えられた時間と言うのが獲物(プレゼント)を捕獲して戻ってくるまでの不確かな時間しかない。
手間取ってくれれば猶予は有るが、大方みーちゃんの為ならと二つ返事で了承するだろうと言うのが凡その見解だった。
学校使いの揃いのエプロンに身を包んだ勇者たちはそう言う訳で厨房と言う名の戦場に立っていた。

 

「手伝わせて悪かったわね雪花。でも麺類を担当出来そうな人間が他に思いつかなくて」
「いいって事よ夏凛ちゃん。うどんよりはラーメンの方がそばと沖縄そばに近い感じってのは何か分かるし」
それを棗さんと歌野に言う勇気は無いけど、後は雪花ちゃんに任せておきなさいと秋原雪花が悪戯っぽく舌を覗かせる。
「それに今回は向こうに行ってもお役に立てないかなって。ほら長槍って室内戦闘に向かないし」
「まあ人が集まり過ぎても邪魔になるだけか――って何で戦闘する前提なのよ」
「『勇者よ姫は貰って行くぞ』『そうはさせるか魔王め姫は私が守る』みたいな?」
「ならないっての。攫われる相手が変わってるし。そもそもどっから出て来たお姫様」
「おおー!何か演劇っぽい!」
「じゃあ次の劇の演目はそれで行こうか」
「勇者とお姫様の役は誰がいいかなあ」
「「お姫様……?」」

 

並ぶと双子にしか見えない友菜たちが調理の合間に相槌を打って、束の間会話に花が咲く。
どんな逆境でも明るさを失わないのは勇者部の得難い資質だと思うのだが、この場合は何かがまずい。
俄かに生じた二つ分の声に危機感を覚えたのは完成型勇者の直感の賜物だった。慌てて話題の転換を試みる。

 

「間に合いそう?後の問題は棗達が喜んでくれるかだけど」
「こっちはもうすぐ終わりそう!あーそう言えば賑やかなのは苦手って言ってたもんね」
「でも誕生会じゃなくて皆で食事をするだけだから」
「犠牲者(プレゼント)の授与式も含まれてるけどね。んー、まあ最悪私の誕生日の前借りって事にするとか?」
「実は藤森、古波、秋原合同誕生会だったのでしたー、とか。それなら丸く収まるっしょ」
「あれ!?せっちゃん誕生日何時だっけ」
「一月十八日」
「先過ぎるわ!」

 

死闘、一時間と少し。思いの外白鳥歌野(プレゼント)捕獲班が手間取っている様なので
居残り組の準備は無事に終わりそうな様相を見せている。
出来上がった料理は部室に大方運び込んで、後は麺を湯がくだけ。案に相違して出来た暇な時間に、とりとめもない会話が続く
明日の天気からその日の授業の内容まで。ぐるぐる無軌道に方向が動き回って。そう言えばと、ふと思いついた様に話題に上がる

 

「そう言えば雪花って誕生日何が欲しい訳?」
「あっ今聞いちゃう?あたしの誕生日結構先だと思うんだけど」
「準備に時間がかかる物だと困るでしょ。別に現時点でいいわよ」
「じゃあ何の獲物(プレゼント)獲って来て貰おうかなー」
「突っ込まないわよ」
「んん。欲しい物、欲しい物ね。あー…でも欲しい物は誰かに取って来てもらうより自分で取りに行く方が好きかもね」
「じゃあ猟の道具だね」
「待って友菜ちゃん。何もそのまま猟の道具って事じゃないと思うわ」
「いや、案外当たりかも。こう、捕獲する様な奴。ああ、でも野山に分け入って自分が行くのは嫌かな」
「じゃあ罠とか?」
「いいね罠」
「それでせっちゃんは何を捕まえたいの?」
「秘密。でも案外にぼしでも仕掛けといたら簡単に捕まえられるかも」