風せんせいの奮闘だよ~

Last-modified: 2017-08-02 (水) 22:29:11

「ふうせんせー、おほんよんでー!」
「ふうせんせー、あそぼー!」
わーわーと子どもたちが足元に群がってくる。
その姿はとても可愛らしいものだけど、私一人ではとても相手しきれない。
「うーん。私だけじゃ全部は難しいなぁ。そうだ! 他の先生を探してくるから、少しだけいい子に待っててくれる?」
私の質問に、はーい!と大きく返事をして、子どもたちはバラバラに散っていった。
お遊戯部屋を出て、まずはお昼寝用の部屋へ向かう。
入口から中を覗くと、そこには一人の先生がいた。
「……東郷先生、何やってんの」
布団に仰向けになった東郷先生の上には、彼女にとてもなついている友奈ちゃんが乗っかっており、一生懸命彼女の豊満な胸を揉んでいる。
「ふ、風先生!? こ、これは違くて」
何やら弁明している東郷先生を無視して、私は友奈ちゃんに話しかけた。
「友奈ちゃん、何してるのかなー?」
「とーごーせんせいにまっさーじしてあげてるの!」
「ま、マッサージ?」
「とーごーせんせい、おっぱいおおきくてたいへんそうだから、わたしがりらっくすさせてあげるの!」
幼稚園児とは思えないテクニカルな手つきに、東郷先生の顔はすっかり上気していて、リラックスどころではなくなっているようだけど……。
(まぁ真面目な東郷先生に限って変なことにはならないでしょ)
友奈ちゃんは善意でやっているわけだし、邪魔をするのもよくない。
「それじゃあ友奈ちゃん。東郷先生のこと、じ~っくり癒してあげてね?」
「うん、まかせて!」
私はそこを後にして、他の先生を探すことにした。
皆がお昼ご飯を食べるための広間を通りかかると、そこから話し声が聞こえた。
広間の中には、一組の先生と生徒がいた。
「あぁ、ひなた先生。ここにいたの」
「あら、風先生」
椅子に座っているひなた先生の膝の上には、若葉ちゃんがちょこんと座っている。
二人に近づいた私は思わず目を疑った。
「ひ、ひなた先生? その指は……?」
若葉ちゃんはその小さな手でひなた先生の手をぎゅっとにぎって、その人差し指をちゅぱちゅぱとしゃぶっていた。
「ああ。若葉ちゃんに食べられるものと食べられないものを教えてあげてるんです」
ひなた先生はにぎられていないほうの手で、若葉ちゃんの頭を優しくなでる。
「若葉ちゃん、なんでも口に入れようとする癖がなかなか直らないみたいで。こうして少しずつ、食べ物以外は口に入れないように教えていこうと」
「な、なるほど」
事情はわかったものの、若葉ちゃんは相変わらず一心不乱にひなた先生の指をくわえていて、教えの効果があるようには見えない。
「若葉ちゃん? ひなた先生の指は食べ物じゃないからそうやって口に入れちゃダメよ」
「ふうせんせい! ひなたせんせいがたべものじゃないことくらい、わたしはわかっている!」
心外とでも言いたげな若葉ちゃんに反論されてしまう。
「でも、ひなたせんせいのゆびはあまいんだ! だから……ひなたせんせい、だめか?」
「きゅんっ! ……も、もう、仕方ないですねぇ」
ひなた先生が再び指を差し出すと、若葉ちゃんは口にくわえてちゅーちゅーと吸い始めた。
「ち、ちょっと、ひなた先生……」
「ごめんなさい、風先生。あとでしっかりと分かってもらいますから今だけは……」
もはや何も言えず、私は広間を去った。
私は最初のお遊戯部屋に戻ると、お行儀よく待っていた子どもたちに大きな声で話しかけた。
「他の先生はとっても忙しそうだから、今日は風先生とみんなで遊びましょう! その後は、お本読んであげるからね!」
わーっと声を上げて子どもたちが私のもとに走ってくる。
(私が、私がしっかりしなければ――!)
そう、心に誓うのだった。