シャボン玉でリフレッシュ

Last-modified: 2010-02-11 (木) 15:50:20
 
  • 注意!このSSには性的な表現や、コアな表現が含まれています
     
     
     
    「いっ、あっ、あっ、あっっ!」
     
     お腹の"中身"がシャボン玉化して膨らむたびに、俺は苦痛を含む喘声をあげる。
     正確に言うと、痛みではなく恐怖から来るもので、正確に感情を掴むことができないためだ。痛くはないはずの刺激でも、身体に突発的な刺激を受けるとビビってしまい、感覚を正常に感じられなくなるのだ。初めてこの身体になって、ルミ達含むハイアーセルフの三人(全員女性)に弄られた時も、快感よりは恐怖が先行し、オーガズムに至っても怖い気持ちが一番に増大して、大泣きしてしまったことがある。
     以来、少女の身体を使っている時はできる限り、これでもかという位優しく接してくれるようになり、一般的な刺激よりも非常に甘い刺激に快楽を感じるようになった。シャボン玉の感触は、まさに少女の時の俺に一番気持ち良くて落ち着く。結奈やルミ達が優しく抱擁してくれるだけでも嬉しくてたまらないし、それこそシャボン玉の中で浮かんでいるだけでも恍惚に満たされる。面倒な体質だけど、「優しくしたら必ず喜んでくれる」と言って、家の女性陣は嬉しがって俺を甘やかしてくれる。(ただしこの身体の時のみ)
     
    「ほら、どんな感じかしら」
     
     胡桃が俺に問いかける。暢気に聞いてくるなよ、マジやばいって……。
     
    「もっ、もっと…っ」
    「もっと?」
    「や……やさしく、してぇっ」
     
     俺は涙目で胡桃に懇願する。怖くてたまらなくて、一心不乱に胡桃に抱きついた。
     
    「ちょっ!あ、ああ、ごめんごめんっ」
     
     胡桃は、抱きついてきた俺を抱き返し、背を向けさせて頭とお腹を同時に優しく撫でた。
     
    「力加減がよく分からなくて。ホントに極端に優しくしてあげないとダメなのね」
    「はぁ……はぁ……」
     
     俺は落ち着きを取り戻して、ようやく正常な意識状態となった。
     
    「ふぅ……すまない」
    「こちらこそ。とりあえず、変化のペースは遅くなったはずよ。それでも膨らんだときはびっくりするだろうけど流石に慣れてちょうだい」
     
     そう言ったと同時に、またぽこんとお腹が膨らむが、胡桃の言った通り刺激は先ほどよりも優しくなった。それでもビクっとしてしまうのが情けない。連続して来なくなったのが救いだ。
     
    「あと、これを飲んでおいて」
     
     胡桃は紫色の小さな球を俺に飲ませる。水が無くても、するりと俺の喉を通った。
     
    「これが、今のあなたの状態を勝手に調べて、身体に要らないものや悪いものをシークして見つけたものを、優先してシャボン玉化して排泄できるようにするわ。S.Fだからどこから始まるってわけじゃないけどね」
     
     つまり平均的に悪い所を見つけて、シャボン玉にして肛門や尿道口から出すってことか。なんというか、わざわざそんな所から出さなくても……。
     
    「それじゃ、とりあえず下着だけ脱いでおいてね」
    「下着だけで良いのか?」
    「服は汚れないから大丈夫。何も付いてない綺麗なシャボン玉よ」
    「それもまた奇妙だな」
    「神様だから何でもアリなのよ」
     
     そう言って、胡桃は俺から身体を離し、ソファで眠る"元"男を抱き上げる。
     
    「この子を寝かせてくるわ。しばらくゆっくりして良いわよ。でもカメラから離れないようにね。ああ、あと張ってきたら我慢しないで出して良いわよ。力は抜けば、シャボン玉から勝手に出てくるからね。さっきも言ったけど、服は汚れないから安心して」
     
     そう言って、"元"男を抱いたまま、寝室の扉を開けた後、胡桃はそのままで再び口を開く。
     
    「……さっきの表情と頼み方、純粋に可愛かった」
    「うっさい」
     
     にやけ顔で呟いたので、俺は一応恥ずかしながらに野次を飛ばした。そして胡桃は隣の寝室へ行ってしまった。茶の間には俺だけが取り残される。
     また、ぽこんとお腹が膨らんだ。そしてまたビクっと俺は驚いた。
     
     
     
     とりあえずカメラから離れちゃいけないからな。俺はさっき腰掛けていたシャボン玉の上に座り、背をもたれさせる。半分横になっているような姿勢で、身体の変化に意識を集中していた。
     ぽこん…ぽこん…。先ほどとは段違いで遅いペースだが、ほぼ同じ間隔で身体の中の"もの"がシャボン玉化しているのが分かる。実際に体験して分かるんだが、こう腹痛で下った時の胃腸の動きとは違って、中で突然空気が生まれて膨らむような、普通に生活している中では絶対に体験しない感覚だ。なんだろうか。こう慣れてくると、お腹の内側から規則正しくぽこぽこ刺激を受けているのが、何となく気持ちいいような気がする。
     と、そう考えた瞬間のぽこん、というシャボン玉化していく刺激に不快感が無くなった。いや、むしろ気持ちいい。膨らむたびに、身体がふわふわしてくる。でも性的なものじゃなくて、そう、これはシャボン玉の中に包まれて浮かんでいるのと似た感じだ。身体に重力が無くなっているような、そんな感じに似ている。
     これが、所謂"スイッチが入った"というのだろう。ぽこん、とお腹が鳴るたびに幸福感も一緒に膨らんでくる。いつもルミに訴えてる「とろとろふわふわ」だ。この感覚がとても大好きで、胸がきゅんと疼く感じが、何ともいえない。
     
    「ふぁ……」
     
     幸せに蕩けた声を漏らし、お腹の膨らむ感覚を楽しんでみることにしよう。
     とそう考えた矢先に、お腹の膨らみは思ったよりも限界に近づいていたようで、蕩けた頭を現実へ引き戻すには十分の感覚だった。満腹まで食ったような感じで、これ以上入らないと言わんばかりに、俺のお腹は膨らみ切っていた。まるで妊婦のようだ。
     
    「ぅ…ん、これどうすれば良いんだ…?」
     
     俺は誰もいない茶の間で、一人で呟く。
     確か、お腹が張ってきたら我慢せず排泄しろとか言っていたが、どこで……?と思ったが、その後の「服は汚れない」という辺りの言葉を思い出して気付く。
     
    「……その場で漏らせ…と?」
     
     マジかよ。せめてトイレぐらいは貸してくれよと。いや、でもシャボン玉だから別に良いのか?でも一応"排泄"だからな…。
     しかし、肛門に力が入っているが故に、今かと待ち構えているシャボン玉は、身体の外へ出ることは無い。胡桃の言う通りであれば、肛門の力を抜けばシャボン玉から勝手に俺の意に反して出てくるということなのだろう。
     
    「……むー…」
     
     俺は迷い、うなり声を上げる。
     流石にこれ以上我慢すると危なそうだ。でもカメラの前で排泄するとなると、かなり恥ずかしい。でも観るのはルミと結奈ぐらいだし、あの二人は俺のことをよく理解してくれてるし、でも流石に……。あの"元"男が恥ずかしがっていた所を思い出すと、なるほどと納得できる気がする。
     と、そう迷っている間も、ぽこん、とお腹が鳴って膨らんでいく。そろそろ苦しくなってきた。
     
    「うーあー…もうしゃーないっ」
     
     意を決し、俺は自分の穿いている淡い桃色のフリルスカートをめくり、肛門の力を抜いた。すると、肛門括約筋が勝手に広がっていく。俺の意志とは別に、無理矢理とはいかないが、自然な使い方でお尻から何かが出てくる感覚が伝わる。
     
    「ぅぅっ……ぅぁっ」
     
     お尻がぷにぷにした何かによって広げられていく感じがする。これがお腹の中に入っていた、シャボン玉化した排泄物なんだろう。自分がシャボン玉に甘く蹂躙されているようで、俺の"ツボ"に直撃する。気持ちよくて、俺は先ほどのスイッチが再び入り、心がとろとろに蕩けていく。シャボン玉の行き場が無いため、お尻から股間を通って、前側からぽよん、と出てきた。
     臭いも無ければ色もない、ちゃんとしたP.Eで構成されているシャボン玉だ。別に何ら変わったところも無い。お尻近くのスカートの裏を覗いても、汚れはおろか湿り気も全く無い。不思議なものだ。
     
    「ふぁっ!?」
     
     一度力を抜いたからだろうか、また次のシャボン玉化した排泄物が俺の肛門からぷくーっと出てくる。こうなると歯止めは利かない。俺のお尻から、どんどんシャボン玉が膨らんでは出て行く。お腹のぽこん、という膨張もまだ止まらないし、俺の頭と心を一方的に蕩けさせていく。
     
    「あぁぅ…ちょっと……」
     
     俺は座っているシャボン玉のゆりかごから飛び降り、お尻から出て行くシャボン玉の逃げ場を作った。ぽこんと膨らむお腹の感触もできるだけ全身で実感できるように、正座で前屈みになってうずくまり、優しすぎる快楽を受け止める。この姿勢を第三者が見たらどう思うのだろう。お尻からシャボン玉を膨らませて飛ばすのが、気持ち良くてたまらないように見えているのだろうか。でも間違いではない。確かにふわふわする気持ち良さが全身を満たしていくのだから、否定のしようが無い。
     
     
     そういえば、あの"元"男は、尿道口からもシャボン玉を膨らませて出させられていた。ということは、俺もそういう現象が顕れるということなんだよな。
     と考えたら、予想通りだった。お腹とは違う部分、下腹部の膀胱あたりがぽこんという感触とともに膨らみ始める。
     
    「あっ」
     
     ビクッと驚くが、すぐに慣れた。もうお腹の中がぽこんと蠢く感触はふわふわして気持ちいい、と脳が理解しているからだ。何だ、こんな短期間で"開発"されてしまったのか、俺は。
     膀胱の膨張は、比較的早い段階で最大を迎えた。なので、今度は尿道口のPC筋を緩めると、お尻同様にシャボン玉が自然と膨らんで出ていくようになった。こちらも止まらなくなる。肛門も尿道口も力を抜いて、シャボン玉に成すがまま弄ばれていく。それでも、シャボン玉のぽよぽよは俺にとっては優しい心地よさで、弄ばれるというよりは、包み込んでくれているような感じだ。そう考えると、まさに俺の大好きな感覚で、更に幸せ一杯になっていく。
     
     
     
    「はーい、どんな感じかしら……って、多っ!」
     
     胡桃が寝室から戻ってくると、俺を大量のシャボン玉が取り囲んで覆っているのでびっくりしたみたいだ。
     そう、今俺は先ほどの体勢のまま幸福感で満たされる快楽に蕩け、ふわふわと心地よいシャボンの群れに覆い尽くされていた。もう避けることすら忘れていた。
     
    「あの子より一杯出しちゃって。どんな生活してたのよ」
    「そりゃぁ…不規則なしごとなんだもん」
     
     若干呂律が回りにくくなっている俺の口調は、明らかに気持ちいいということを胡桃に教えていた。
     
    「何か世話が焼けるわねぇ」
     
     胡桃は一斉に増殖したシャボン玉を割った後、うずくまっている俺を抱きかかえ、一緒にソファへ座る。
     
    「これが好きなんだっけ。まるで子供みたいね」
    「うー……」
     
     そう言って、先ほどのように頭と膨らむお腹を優しく撫でてくれる。お互い、少し不満の声を漏らすが、まんざらでもないのが分かる。俺は身体の中で起きる刺激、撫でられる心地よさで、胡桃は俺を愛でる時の反応を見て、お互い攻めと受けのロールを愉しんでいる。胡桃に抱きしめられたままでも、まだお尻と尿道口からシャボン玉は膨らんでは出て行くが、ペースはようやく落ちてきた。
     
    「随分とキャラが変わるのね」
    「うゅぅ……」
     
     まともに喋れないので、リモートビューイングを利用して話すことにしよう。元々は遠隔透視という、S.Fというカテゴリが生まれる前は超能力と呼ばれていたものだが、それを利用して使用者の意志や言葉を相手へ送り、声で脳内変換させて意志疎通を図る、アニメで出てくるようなテレパシーみたいなことを擬似的に行うことができる。
     
    『普段は誰にも見せないんだ』
    「ん?あ、ああ」
     
     胡桃は自分の頭の中から突然言葉が浮かび、俺の男の時の声に勝手に変換して感じたのに気付き、意味を理解したようだ。
     
    「ダメよ。今は女の子のままでいなさい」
    『え?まともに喋れないから意思疎通が難しいんだけど』
    「それでも良いのよ。私に任せなさい。調子が分かってきたから、悪くはしないわ」
     
     俺は話が通じないと困るんだけど。とりあえず声を今の身体に合わせる。
     
    『あー、分かった。存分に楽しんでくれ。でもせめて喋らせてくれよ』
    「ふっ、私があなたを楽しませるのよ。その気持ち良さそうな顔が可愛いし、嬉しそうなんだもの」
     
     こいつもハマったか。また愛でられる相手が増えてしまった。でも俺は一向に構わないが。
     
    「じゃあ、そろそろ次のステップね」
     
     胡桃がそう言うと、お腹を撫でていた手で、今度は俺のブラウス越しに第三ボタンあたりの胸を人差し指で円を描くように動かす。
     
    「うーん…ぺったんこね」
    「うゅしゃぃ」『うるさい』
     
     呂律の回らない口で、何とか抵抗する。同時にリモートでも同時に喋る。
     胡桃のアクションで、すぐに変化は訪れた。俺の着ている、前側の裾にクロスステッチを入れた白のブラウス(植木結奈デザイン)が膨らんでいくような感じに襲われる。今の俺の格好は、裾を出して前側の2ヶ所のステッチ部分を見せている着こなしで、腰辺りにクロスベルトにシザーバッグを取り付けている。スカートが桃色基調のフリルスカートなのだが、所謂甘ロリ系が着ているほど激しいフリルやピンクの色合いではなく、普通に"アリな"レベル程度だ。
     ブラウスの膨張する感じが、どんどん強くなっていったと思ったら、色が白から透明になってきている。なるほど、さっき男にもやった、服のシャボン玉化だ。
     
    「気付いた?ここからは裸になってもらうのよ。脱ぐの面倒だろうから、そのままシャボン玉にしちゃうわ」
     
     さっきの"元"男のように脱がされるのではなく、スカートやソックス、アクセサリまで全部同時にシャボン玉化していく。それが全て一つに繋がって、俺と胡桃を包み込んで浮かび上がる。人二人が自由に動き回れるほど大きなシャボン玉に浮かび上がると、胡桃は次の行程の作業を始める。
     が、また俺のお腹がぽこんと鳴る。まだ終わってなかったのか。
     
    「んっ?…っふふふ、発見したら変化するんだから、無理も無いわよ」
     
     もう済んだと思ったと油断していたら。俺はビクンと身体を揺らす。その直後、お尻からシャボン玉が膨らんで出ていった。その様子を見て、胡桃が含み笑いを漏らす。
     その後、俺に見えるように掌からシャボン玉を生み出し、膜を玉から平坦の形状に伸ばしていく。
     
    「こんどは何を…?」
    「内側からじゃなく、外側から調整するわよ。まあ、その身体の年齢だったら別に必要無いだろうけど、カメラで撮ってるから」
     
     そう言って、透明なシャボンの膜を、分かりやすいように俺の胸部に当てる。膜はぴたっと空気を残さずに張り付き、そのまま俺の身体の中に溶けていった。
     
    「ふわっ……」
     
     シャボンの膜が身体と同化する感触に、俺は喘声を漏らす。
     
    「私達のシャボン玉が、物質的なものじゃなくて、純粋な生命エネルギーだっていうのは知っているわよね」
    「うん…」『ああ、P.Eを肉眼でも見えるぐらいまでに練っているんよな。ルミが論じていた』
    「さっきの、あの子の身体を作り替える時にシャボン玉に変えていたけど、あれは物体を……あー、ルミ達の言い方ではP.Eに還元して、必要な部分をP.Eから物質に変換するって事なのよ」
     
     P.Eを物質に変換する、か。まるで錬金術だな。
     
    「さっきのが"出す"なら、こっちは"入れる"って事ね」
    『なるほど』
    「それじゃあ続けるわね。多分とろとろになって気持ちいいだろうから眠ってても良いわよ。特にあなたは"敏感"だからねっ」
     
     そう言って、再び生命の源たるシャボンの膜を作り、次々と俺の身体に貼付けていく。膜が身体に同化するたびに、その部分も一緒になって溶けていくような、そんな感じが貼り付くたびに俺を満たしていく。
     このまま、身体がシャボン玉みたくぽよぽよになっていくんじゃないか、と思ってしまうぐらいの不思議な心地よさだ。液体になって流れていくのではなく、身体の形が残ったまま、境界が柔らかいシャボンの膜になっていくようで、夢の中にいるような感覚だ。夢の中の身体というのは、境界が曖昧でよく分からなかったりする。今の身体が感じているのは、まさにそれで、シャボンの膜みたくなっている俺の身体の境目が、ぽよぽよと揺らめいている感じがするたびに、甘く蕩ける気持ちが膨らんでいく。
     
    「あぁ…ふぁ…♪」
     
     目を閉じると、心までも揺らめいている感じになってくる。俺を定義する全てが、今はシャボン玉のように波打って喜びを感じている。
     こんなに刺激に敏感で、結構面倒臭い身体だと思ったが、そのおかげで、優しくされるだけで気持ち良くなれることに気付いてからは、この体質で良かったのかもしれないと感じてきていた。今、胡桃の施術を実際に受けて、それは確信に傾いたようだ。
     「とろとろふわふわにしてくれるなら、幾らでも好きにして良い」。甘く、優しく、俺の全てを満たしてほしい。今の俺は、そんな事を本能的に考えていた。
     
    「一気にやってみようかな」
     
     胡桃が今までよりも巨大な膜を作って、身体を包み込むように貼付ける。
     何かの限界を突破した感じがした後、意識が遂に、完全に融けた。
     
     
     
     目を醒ますと、俺は大きなシャボン玉のゆりかごの上で寝かされていた。身体は裸の少女のままだが、ふわふわの羽毛布団を掛けられているため、寒さは感じない。服はソファの上に丁寧に畳まれていた。
     記憶はある。スイッチが完全に入って、まるで子供のように喜んだり蕩けたりしている俺の状態が、明瞭に思い出される。ちょっとだけ恥ずかしくなったが、今回のおかげで、胡桃とのラポール(相互信頼)が確立された気がする。施術を受ける前は、かなりのSで気が合わないと思ったが、今は胡桃にどんなシャボン玉のS.Fを受けても容認できるどころか、嬉しくなるかもしれない。
     
    「眠り姫のお目覚め?良い夢でも見てたかしら」
    「その通り。今何時だ?」
     
     俺は布団をめくり、シャボン玉から降りて服を着る。
     
    「あの行程は30分ぐらいで終わったのに、結局6時間以上も寝てるんだもの。そりゃ驚いたわ」
    「寝ると止まらないんだ、俺は」
     
     クロスベルトを締め、施術される前の体勢に戻った。男に変われば一緒に男での服装に戻れるが、今は何か少女のままでいたかった。
     
    「うーん、やってる最中は可愛すぎて私がイキそうだったのに、普通に戻ると大したこと無いわね」
    「悪かったな」
    「でも気持ちよかったでしょ」
    「まあ……確かに。何回やられても良い気がする」
    「あらあら。私のでも良いけど、研究するだろうから、ルミのテストに付き合ってあげると良いわ。あの子は人から教えてもらったのを自分流にアレンジするから」
    「ああ、それも良いな」
     
     先ほどの行為を思い返し、俺の表情が蕩ける。まあそこから先は、今は自制が利くのでスイッチは入らない。
     胡桃はメモリーカードを封筒に入れ、俺に手渡す。
     
    「はい。編集しておいたから半分で収まっちゃった」
    「それでも32GB使ってたのか」
    「あの子の所から、既に始めてたし」
     
     "元"男のTSシーンから撮ってたのかよ。
     
    「とりあえず、お土産も入れておいたから。みんなで楽しんでね」
    「お土産とな」
    「楽しくなれる逸品よ。ほら、もう19時回ってるから、早く帰ったほうが良いわよ。あなたの家って豊平峡でしょ?定山渓越えないと」
     
     ああ、そうだった。ここから1時間ぐらいかかるか。
     ……って。
     
    「19時!?」
    「ええ、さっき言ったじゃない。6時間以上寝てたって」
    「ま、マジかよ」
     
     茶の間は既にカーテンが掛けられているが、俺は慌てて窓を覗くと、確かに外は真っ暗だった。都心部の灯りが淡く空を照らしているが、その反対側は漆黒の空に幾つもの星が輝いている。
     
    「ほ、本当だ……こりゃ急がんと」
    「はい」
     
     胡桃は俺を上着とパソコン用のショルダーバッグを持ってきてくれた。あれ?さっきよりも凄く優しい。
     
    「何か急に優しくなったな」
     
     俺は上着を着せてもらい、バッグを背負う。
     
    「私もよく分からないけど、何かあなたを可愛がると気持ちいいのよね。反応に萌えるというか、嬉しくなるというか」
    「ほー」
     
     俺のハイアーセルフ達も、俺が訊いた時にそう答えていた。色々な気持ちを一緒に感じられるとか何とか。俺の少女の身体には、そういったS.Fの一種がある可能性が高いとも言っていたけど、そこまでは定かじゃないけど、胡桃まで魅了したということは、本当にそんな能力があるのかもしれない。
     
    「ついでにスターターも掛けておいたわよ」
    「すまんな、助かるよ。ありがとう」
     
     札幌とはいえ、辺境にもなるとかなり寒い。北国で車を動かすなら、まずはリモコンスターターで暖気運転をしておかないと、やってられない。たまにガラスが凍り付いていることだってあるので、EV車のシステムを起動しておくのは必須だ。従来の車だったら「エンジンを掛けておく」という表現になるが、EV車はモーター駆動なので表現が微妙だ。
     
    「またいらっしゃい。色々してあげるから」
    「ああ、暇があったら。楽しみにしてる」
     
     そう言って、俺は玄関でブーツを履き、家の外へ出て自分の車へ向かう。
     
     
     
     胡桃の家と駐車場は、そこそこ距離がある。車への道程の中、俺は空を見上げると、先ほど窓ごしで見た空以上に、夜空の星々が輝いている。
     
    「…寒っ」
     
     雲一つ無い星空だ。明日は-15℃ぐらいまでは下がりそうだな。放射冷却現象とかいうやつだ。少し小走りに歩いて車へ到着すると、そそくさと運転席に乗り込んだ。ふう、と一息ついてから、車のモーターを回転させ、帰路につく。
     有明の奥地だから、公道に出れば滝野公園を通って、芸術の森付近へ出ることができる。この最短のルートでも、住宅地へ出るまで15分ぐらいはかかる。札幌の南側は、殆どが手つかずの自然が残っている。全て保護されている地域なので、この辺りに大きな建物を建築するのには制限がかかっているらしい。それが、人間と自然の共存という答えの一つかもしれない。
     
     道なりに進んで、真駒内通から石山通へ出る途中でコンビニに立ち寄る。運転中に雅和と空から電話が来て、ビールと夜食を買ってきて欲しいと頼まれたからだ。家が辺境にあると、誰かが外出している時に、ついでの買い物を頼むのはごく自然な事で、お互いにとってギブアンドテイクの関係が気楽になることが多い。
     車を停めて外へ出てから、俺はその場で自分の身体に意識を向けてみる。胡桃の施術で、自分の身体の状態がどうなっているのか気になったからだ。
     そういえば、確かに寒いことは変わりないが、今までよりも寒さが比較的感じにくいような気がする。体温が上がっているんだろうか。そして、色々な箇所に意識を向けてみても、気の重いところが感じられない。
     
    「よいしょっと」
     
     俺は数回その場で、ぴょんぴょん飛び跳ねてみる。不思議な事に、着地したときの関節の負担は殆ど感じず、ふわっと地面に降り立つような気がした。
     
    「……おぉっ」
     
     面白い…!
     手袋を脱ぎ、上着の上から直接身体の色々な箇所に手を当ててみるが、その部分がじんわりと気持ち良くなる。どうやら身体から、自然と飽和しているP.Eが放出されているのだろう。生物には、P.Eを無意識に調整して、コンディションを正常にしようとする精神的機能が備わっている。日常生活上で、様々な肉体・精神的ストレスを受けているが故に、P.Eを調節する機能が鈍ってしまい、それによってP.Eの欠如や過剰の状態が発生するのだ。P.Eが不足すれば、気分が沈んだり精神的な疾患に掛かりやすい状態が続き、過剰になれば身体の各所の興奮状態が続きすぎる場合が多い。
     今の俺のP.Eが100だとすると、欠如している人は大体20~40で、過剰の人は120~150ぐらいだろう。俺は欠如することは無いが、大神故に100以上になっても危険な状態になることは無い。まあ、その代わり正常に戻ろうとするため、何らかの形で放出しようとするんだが。
     その放出が、身体の中で快調に行われているみたいだ。それに気付いた途端、身体がふわふわ浮かんでいるような、軽さと心地よさを常に実感できるようになった。頬を触ってみても、乾燥する札幌の冬にも関わらず、ぷにぷにと柔らかく自然なしっとりとした肌を感じる。まるで赤子のようだ。
     
    「すごい…!」
     
     目が見開き、胡桃のS.Fの効果の凄さに圧倒された。内心感動している。この少女の身体って、こんなに気持ちよかったのか。自分の身体の隠された感覚に、俺は幸せに似たものを感じていた。
     このままずっと少女の姿のままでいたい気もする。まあ、仕事の関係上男に戻らないといけないが。これなら、男のほうを施術してもらいたかったが、男の姿で喘いだり責められる情景を想像すると、やっぱり気は進まない。男のほうは、やっぱり正攻法で調整していったほうが良いな。
     
     店内に入り、二人に頼まれたブツに続いて、深夜に行う仕事のために、野菜ジュースと、好物のバジルソースのサラダパスタも一緒に手に取った。たまには、こういうのを考えたほうが良いかもしれないな。そう思った俺は、自然と溢れる楽しそうな笑みを隠しつつ、レジで会計を済ませ、豊平峡の自宅へと帰るのだった。
     
     
     
     まあ、少女の姿のままだったが故に、会計時に年齢確認をされたのは言うまでもない。
     更に、道中で警察に職務質問されたのも言わずもがな。
     
     
     

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