機動機兵-1

Last-modified: 2008-03-20 (木) 00:05:10

「えー、これが世に言う『エイプリルフールの悪夢』、2088年、フランス領チャネル諸島における敵有人人型機動兵器、装甲巨兵との最初の戦闘であります。」


老教師の声と共に、するすると音もなくスクリーンが上がっていく。今までスクリーンに映像を投影していた投影機も、電源を切られて沈黙している。

老教師は投影機にかけていた手を離し、再び教卓の前へと戻った。


大学の講義室に似た正方形の部屋。その一辺にホワイトボードがあり、それにかぶさるように巻き込み式のスクリーンが展開できるようになっている。そして、そのホワイトボードを中心として、少し離れたところから扇のように、階段状に椅子と長机が並んでいる。


「これにより同盟軍はこの地域より撤退、その後も敵の量産された装甲巨兵によって各地に襲撃があり、我々は現在各地に偽装要塞を建設、防戦態勢を取っているわけですが、現在同盟軍、及び直属特務機関クラフトも人型機動兵器の開発に全力を……」


老教師の授業を聞いている生徒たちはほとんどが16歳ほどの青年だが、真剣にノートを取っている者、携帯端末をいじっている者、寝息を立てている者、様々だ。


「偽装要塞といえば、国際情勢が悪化し始めた…15年ほど前のことでしょうか、まだここの偽装要塞の計画など影も形もなかった時、私はここに住んでおりまして…」


生徒の方も向かず、窓の外に見えるビル群を眺めながら老教師が語りだした。


とうとうと思い出話をする老教師と終業まであと数分を示している時計を見て、生徒たちの数人が睡魔と共同戦線を張る。


「……なあ、竜崎。」


その中の一人の少年が、隣の席にいた少年の肩を人差し指でつついた。


「ん、なんだ、結城。」


竜崎と呼ばれた少年が顔を上げる。


精悍な顔立ち。しっかりとした肩幅。髪はワックスでセットされているが、それもおとなしいものだ。凡庸な大きさ、形の目には、健康そうな光が宿っている。


「このジジイの繰り言、何回目だっけ?」


結城と呼ばれた青年が、呆れたような目で老教師を見ながら言った。


背は竜崎より低いのか、座高だけで数センチの差がある。髪も竜崎のそれより少し長く、軟弱そうな印象がある。


「さぁ…いつも同じ話なんだけど、始まるきっかけは毎回違うんだよな。」


あくびを噛み殺しながら竜崎が言った。



「そうそう。この前なんざドイツの同盟軍本部の話から、この辺境の第七偽装要塞の話に飛ぶからな。」


結城もそれにおおげさに頷いてみせる。


「ああ、あれはひどかった。」


そして、笑いあう二人。


その時だ。


天井のスピーカーから、けたたましいサイレンが鳴り響いた。


天井を振り仰ぐ竜崎。


「……敵…?連合か?」



 





第七偽装要塞地下総合指令所。


大きなスクリーンに、「EMERGENCY」の文字が明滅する。


「第一警戒ラインに敵GSと思しき物体を感知!数3!熱紋照合、間違いありません、ルベライトです!」


そのスクリーンから数メートルのところが、階段状になっており、その一番上の段にある椅子の上にいかつい男が座っている。その隣には眼鏡をかけた女性。二段目以降、四段目までにはひとつながりになった机の上にモニターが並んでおり、それぞれの前にはオペレーターらしき男女が座っていた。


「連合も、馬鹿ではありませんでしたね。」


女性が、男性の方を見て言う。薄暗いうえに眼鏡にスクリーンの光が反射して、その表情を読み取ることはできない。


肩のところで切りそろえられたボブヘアー。女性用のKRAFT制服を着ており、薄く口紅が塗られた口は生真面目そうに固く結ばれている。


「いつか気づかれたことだ。やむをえん。」


女性の言葉に、座っていた男が首を振りながら立ち上がった。


身長は180センチを超えているだろう。隣の女性より頭二つ分ほど背が高い。それに見合ったいかつい体。三白眼に髪を角刈りにしていて、四角い顔によく似合っている。


「私はデルタのパイロット、残り一人を連れてくる。天霧一尉は偽装兵装を展開後、二号機を迎撃に出して、プロヴァンテスと四号機の発進準備をしておいてくれ。」


「分りました。伊吹二佐。」


天霧というらしい女性が敬礼したのを見ると、伊吹と呼ばれた男は指令室を出た。


それを見届けると、天霧は正面スクリーンの方へ向き直る。その動きに合わせ、揺れるセミロング。


光の当たる角度が変わり、眼鏡の奥の目が見えた。緑色の、切れ長の目。


「全偽装兵装展開!電磁弾を使用されれば誘導兵器は使えなくなるわ。使われる前に使って!」


朗々と響きわたるアルト。


正面スクリーンに「兵装展開」の文字が映し出される。続いて、スクリーンとオペレーター達との間にある立体映像投影機に、第七偽装要塞の立体模型が映し出された。


「システムオールグリーン、全偽装兵装展開準備完了、展開、開始します。」


男性のオペレーターがそう言うと、立体模型のビルの上半分ほどが赤く明滅する。


ビルの上三分の一ほどの外壁が下へスライドし、その中からは煤けた、黒いミサイルポッドが現れた。


また別のビルでは窓から機関銃が次々と飛び出して、敵を探すかのようにその銃口をあちこちに向けている。他にも、最も高いビルの天井が割れたかと思うと、中から巨大なレーザー砲が顔を出した。


[兵装の展開、順調です。]


[第3格納庫のD-2専属パイロットの搭乗を確認、D-2、射出口へ。]


「了解。本作戦の最重要目的はデルタ2機とプロヴァンテスの死守であり、そのためにはこの偽装要塞の放棄もいといません。各員、デルタ2機の発進後、任意でプロヴァンテスへ移動のこと。私は、D-4の発進準備に言ってくるわ。」

[[[[了解!]]]]

 
 
 
 
 
 

機動機兵-2