アナザー【うたた寝メンバーと1人だけ疲労の男】

Last-modified: 2009-03-20 (金) 12:14:47

「ふわぁ~…。」
ミッドチルダ、機動六課隊舎屋上。
メイは寝そべって空を見ていた。
流れる雲、そよぐ風、ほどよい暖かさの日光。
なるほど、どれも眠気を誘うにはちょうどいいらしい。メイの瞼が徐々に、ゆっくりと、しかし確実に閉じて行く。
パタンっ。
ドアが開く音。
「あ~…、ここにいたよ、メイ…」
まどろむメイに声をかけたのはスバル。ボーイッシュな髪型が特徴的だ。
「ん…?」
間抜けな声で少しだけ意識を覚醒させるメイ。
「昼休みにヤマトの代わりにクロスレンジでの戦闘練習に付き合ってくれるって言ったじゃ~ん。」
スバルが半あきれたような顔をする。
「…そういえば…そうだった…。スバル、それは明日じゃ駄目かな?なんか…眠くて…。」
「別にいいけど…、大丈夫?ここ連日、シグナム副隊長にしごかれてたもんねぇ、メイは…。」
眠たくなる気持もわかるよとスバルが言う前に、メイが寝息を立て始めた。
その様子があまりにも気持良さそうだったので、スバルもメイの隣に寝転がってみた。
視界一面に広がる青い空。ゆっくりと流れる雲。全身を駆け抜けていく心地好い風。ほどよく暖かな光を注いでくれる太陽。
「おぉぉ…。」
これは、確に眠くなりそうだ。昼御飯も食べたばかりだし…。スバルは腕時計を見る。
「五十分は寝られるかな…。」
それだけ呟くと、メイの隣で寝息を立て始めた。
十分後。
「スバルー?メーイ?」
続いて屋上にやって来たのはオレンジがかったツインテールが特徴のティアナ・ランスターである。
「あんたたち、こんなところで寝てたら風邪引くわよ?」
屋上で二人して仰向けに眠っているメイとスバルを呆れたように見比べながら言うティアナ。
「午後の訓練遅れても知らないわよ?」
と言い残し、去ろうと思ったが、
(なんか気持良さそうじゃないの?)
メイのピンクの髪を、スバルの青みがかった髪を風がなでる。
(ちょ…、私も…ちょっとだけ…。)
ティアナはスバルの隣に腰を下ろし、仰向けに寝ると瞼を閉じた。
それからさらに五分後。
エリオとキャロがやって来て、ティアナやスバルと同様に寝たのは言うまでもない。

一時間後。
「どうしちゃったのかな?みんな…。」
集合地点を行ったり来たり、うろうろしながらなのはは心配していた。
集合時間はもう一時間と十五分を過ぎている。
最初は叱ろうとも考えたが、こうも遅いと何だか心配である。
「何か聞いてない?ヤマト君。」
ちなみに集合場所に唯一時間通り集合した人物は彼のみだった。
「さぁ、俺は、ちょっとはやてに呼ばれてて…。わからないんだが…。何やってんだ?あいつらは」
「なのは、見つけたぞ。あいつら、屋上で寝てる。」
通路から声とともに現れたのはスターズ分隊副隊長のヴィータ。それからライトニング分隊隊長のフェイトと、その副隊長のシグナムだ。
「それで、みんなは?」
なのはの言葉に、フェイトは頬を掻き掻き答える。
「それが…、あんまり気持ちよさそうに寝てるもんだから、起こすに起こせなくて…。」
そのまま、布団を全員にかけてきたらしい。
「テスタロッサ…少し甘やかし過ぎじゃないか?」
眉間にしわをよせるシグナム。
「まぁ…、あの子たちにも休息が必要ですから…。」
フェイトの言葉にあきれ返るなのは、シグナム、ヴィータ。
どうも彼女には過保護なところがあるようだ。
「まぁ、フェイトちゃんらしいっていったら、らしいんだけどねぇ~。」
クスクス笑いながらなのは。
「それじゃあ、行こうかヤマト君。」
「ーー?行くって…?あの、何か流れ的には、訓練は休みって…。」
「ヤマトは私たちが鍛えてあげるよ。せっかく集合したんだし…。」
「しばらく見ないうちになまってるよだしな…。」
「面白ぇ、ヤマトとは一度、本気で戦ってみたかったんだ。」
フェイトに両肩を掴まれ、シグナムに左手を、ヴィータに右手を掴まれ、ひきずられていった。
「やめてくれよ?君達四人に相手に俺が死ぬ気で本気だしても勝てるわけないじゃないか!」
「ヤマト、やる前から勝負を諦めちゃ駄目だよ。」
いつもならやさしいフェイトの微笑みが、今日ばかりは死神の微笑みにヤマトには見えたそうな。

五人は心地好い風と光、小鳥のさえずりに包まれ、眠り続ける。
いつのまにかメイの腕を枕に使っているスバルと、メイの胸に頭を預けているキャロ。
スバルに寄り添うように寝ているティアナ。キャロに寄り添うように寝ているエリオ。
そして……。
「ぜぇっ、ぜぇっ!!まだまだ!」
瀕死のヤマト。
『シュワルベフリーゲン』
『アクセルシューター』
縦横無尽に空を駆けるヤマト。赤い光弾をサーベルを駆使して破砕し、アクセルシューターを次々と撃ち落としていく。
『ハーケンセイバー』
光の刃が回転しながらヤマトへと向かってくる。
それをかわし
『紫電一閃』
雷の用に振り下ろされるレヴァンティンを二刀のサーベルで受けきった。
『ドラグーン』
フェイトに向け四枚、シグナムに向け四枚を飛ばす。そして元あった翼の代わりに溢れ出す光の翼。
『M.E.P.E展開』
ハイマットよりもさらに加速するヤマト。
ヴィータの打撃をかわし、『G-バード』
で吹き飛ばす。
「てて、やるじゃねぇか、ヤマト!」
ヤマトに喋っている余裕はない。必死の形相で、攻撃を受け、かわし、避け、反撃に出る。
「これが終わったら、今度は一対一だからねぇ、ヤマト!」
妻・なのはのその言葉で、ヤマトの中で何かが弾けた。
「…そんなことぉ!!」
『GNソードⅡ・ハルバード』
左右のファーウェルの柄尻を連結させ、なのはに向かって全力の突きをヤマトは叫びとともに放った。
「できるかぁぁああ!!」

午後八時管理局機動六課、局員隊舎食堂。
「あれ、そういえばヤマトは?」
パスタを口に運びながら、ティアナが言った。
「そういえば、お昼休みから見てませんね。」
とキャロ、オムライスを頬張る。
「体調でも悪いんでしょうか?」
エリオは素麺を汁に浸し、つるっと軽快な音をたて殆んど噛まずに飲み込む。
それを見ていたスバルがエリオから一口もらっていた。
「何にせよ、今日は特別休みにしてもらえてよかったね。」
だねぇっとメイの言葉に皆同意しつつ、楽しく雑談しながら夜は更けていった。

ヤマトはストレッチャーでシャマルの元へと運ばれていった。

どれもこれもが一撃必殺。避けることが得意なヤマトを持ってしても相当な精神力を刷り減らしていた。
なのはに障壁で弾かれたのち、フランメシュラークが直撃。
立ち上る炎から逃げるようにして出ていくと、レヴァンティンのシュヴァイゼンフォルムに捕獲され、ドラグーンを放つ。
その間にプラズマランサーでダメージを受け、吹き飛ばされたヤマトはフルバーストを連射する。
声を張り上げ、魔力がからになるまで打ち続けたその砲撃は、狙いどころか照準さえされておらず、誰にも当たることはなかった。
シュミレーション空間の建物破壊しまくり、そのままバタリと崩れ落ち、ヤマトは意識を失った。

翌日、抜け駆けして六課隊長陣からの指導を受けたとし、ヤマトは5人にはぶたれたという。

「……やっぱり、戦いは…悲しいよ。なぁ、相棒」
『お気の毒に…マスター』