アナザー【死にかけの夫と酔いどれの妻と仲間たち】

Last-modified: 2009-03-20 (金) 11:05:04

「うっわぁ~、僕こんなの始めてだなぁ~…。」
「私もです。」
エリオとキャロが珍しそうに串に刺さっている肉、野菜の焼けていく様をみいっている。
今は管理局空間シュミレーターでバーベキューをしているところ。
周りの風景は何ともバーベキューらしい緑で構成されていた。
八神はやて率いるヴォルケンズはもちろん、ジャスティス隊長、分隊、フリーダム隊長、分隊、元機動六課フォワードメンバーもだ。
えっ?ロングアーチスタッフなどはどうしたって?
彼等は多忙なんだよ。
べ、別に人数が増えると面倒臭いとかそういうんじゃないんだからね!
「そっか…、今日はエリオもキャロも一杯食べてね。
でも、熱いから火傷とかしないように気を付けるんだよ?」
フェイトがにこやかに笑って言う。
「「はい。」」
健気に返事をする二人。
「それじゃあ、みんなどんどん焼いていくからね。」
なのはの声と共に皆ががっつき始めた。
「いや、でもさ、何で俺が焼く係なの?」
タオルをはちまきがわりに、串に着いた肉、野菜を次々ひっくりかえしていくヤマト。
「いやまぁ~、クジで決まったんやから、しゃ~ないなぁ。
まっ、今日は文句はなしっと、無礼講、無礼講。」
何がって聞きたくなるヤマトだが、そこはスーパーコーディネイター、我慢した。
「あっ、そうそう、ナカジマ三佐からジュースの差し入れもらったんやった。
皆、取りにきてやぁ!」

十分後。
「ヤマトくん、お肉ま~だ~?」
なのはの声。
「まだです。」
「何やってんだよ、ヤマト。もっと火力をだな!!」
ヴィータがずいっと前に出て、ヤマトを炭火の前から退かすと
「グラ~ファイゼ~ン」
「ちょっと!何やってんだよ!?危ないじゃないか!」
「何って、フランメシュラークで火力をあげるんだよ!」
「分かりました!分かりましたからやめてください!火力は俺が調整しますから!」
暴れるヴィータを何とかなだめるヤマトだった。

肉の焼ける芳ばしい匂い。塩と胡椒を振った時にさらに舞い上がる匂いにヤマトの唾液腺が反応し、唾液の量が増す。
しかし、焼ける先から皆に食われる始末。トホホと思いながらも焼き続けるヤマト。
「や~まとくん、何で記憶もどっとったのを…、うちにだまっとった~ん?」
「うわぁ、酒臭っ…。辺り一面がアルコール臭…まさか!?」
「ねぇ…なんでなぁ~ん…?」
ナカジマ三佐が差し入れたのはジュースではないのが明白だった。
「すまない、一条寺ヤマト。主も悪気があって絡んでるわけのではないのだ。」
「いぇ、てか、だいぶ飲んでるみたいですけど…他の人は大丈夫?」
「あぁ、心配ない。」
だだこねるはやてをしょっぴいていくシグナム。
「そうそう、一条寺ヤマト…模擬戦をしないか?」
「はっ?あの…なんで…。」
よくみるとシグナムの足もおぼつかない様子。
「ひょっとして、シグナム…酔ってます?」
「ふっ、酔っても、私は強いぞ。」
わざわざレヴァンティンを構えるシグナム。
「酔剣(すいけん)な~んてな。」
心地好い風がヤマトの体を包みこんだ。バーベキューの匂いに誘われてやって来たのか、小鳥たちのさえずりも間近に聞こえるような気がする。
太陽もほら、あんなにかがやいて、ヤマトの中のシグナムのイメージが崩壊した。

「ヤマトさん、手伝いましょうか?」
「あ、シャマルさん。じゃあ、野菜と肉を串に通してもらえますか?」
「は~い…。」
プスッ
「ッ!?…あの…シャマルさん?僕の腕に串刺して…何を…」
「あらあら…ごめんなさいね…。」
「ヤマト、何か楽しそうだね。」
そんなことを言いながらやって来るフェイトを可哀想な目で見るヤマト。
「楽しそうに見えるか?この惨状を」
「だって串が刺さってるんだよ?」
ケタケタ笑いながら言うフェイト。
「笑ってないで…助けてくれよ?串、腕に貫通しているんだけど」
「しょうがないな、バルディッシュ!」
『Get set』
バルディッシュを振り上げるフェイト。
「ちょっと、バルディッシュ振り上げてどうするというんだ!!バルディッシュも、何とかしてくれよ!!」
『Sorry, but 彼女の命令は絶対だ』
「ほら、腕みせて…ね?ヤマト…。」
腕がなくなる。ヤマトはそう思った。元の世界には無くなった体の一部を完全に再生させる再生治療があるが、ここの世界はない。

「ぬぇ~わかってんの~。」
「うん……。」
ガシィッと両手でヤマトの顔を捕み引き寄せるティアナ。
「どうせ、あんたも私が使えねぇやつだっておもってんれしょ。才能も、レアスキルもない平凡なやつらって!」
「…それはさっきから何度も言うけど…」
これで同じ説明をするのは五度目である。
「マッスターお代わり!」
元気な声でティアナとヤマトの間に割り込んでくるのはスバルだ。焼けた串を渡すメイ。
「ま~だティアはそんなこと言ってんのぉ?私のディバインバスターで頭冷やす?」
「上等よ!やってやるわ!!」
「ちょっと二人とも!火の近くで危ないってば!」
「「うっさい!!」」
取り合えず、二人を何とか端においやっていく。

「ヤ~マ~トさん!!」
ボスッと腰に抱きついてくるのはキャロだ
「ちょっと…!危ないよキャロ!ってこの子たちもお酒に酔っている?」
「ん~~~…。」
と顔をすりすりすりすり、ヤマトの胸板に押し付けてくる。
「わは、わはははは…、く、擽ったい!」
「フェイトさぁ~ん!」
ヤマトの首に突然絡み付く両腕。背中にかかる負荷。エリオ・モンディアルが飛びついてきたのだ。
「いや、俺、フェイトじゃないし…。
てか、首じまっでるかはッ!」
はたからみると主夫に見える光景だ。
「ちょっと、エリオ、キャロ、寝ないでよ!」
「ヤマトさん、僕…気分悪いです…。」
「背中で、さらっと恐ろしいこと言わないくれ!
だ、誰かぁぁ嗚呼!!!ヘルプ!!」

はぁ、と溜め息をつくヤマト。近くの木陰にエリオとキャロを寝かせ。
ようやく静かになったところで最後のひときれの肉を焼く。
大事に肉を焼くヤマトに忍び寄る影。異変に気付くヤマト。
「こ、こんな…これは!!」

「その肉は私が食べるんだ!今!!ここでぇ!!!」
「メイッ!?今までおとなしいと思ったら!くっ!?」
ヤマトの大事に焼いている肉を、メイの箸が襲う。
「一枚でもいい、絶対に死守して食ってやる!!!」
メイの箸を箸で退けるヤマト。

『ヤマトの肉の焼き加減は確に絶妙だ。網目の付け方もいい…。だが、奴は決して肉をレアでは食べない。
焼き加減は決まってミディアムかウェルダンだ。
だがメイ、そこにお前の勝気がある。』

メイの頭の中でザフィーラとの会話が思い出される。
ぶつかり会う箸と箸。ヤマトの箸がメイの箸を絡めとり、へし折った。
「フリード!チョップスティック!!エピオン・ワイバーンモードタックル!!」
「キュクル~…!」
折れた箸にタレをつけ、振り回し、ヤマトにタレを飛ばすメイ。
「ちょっ…汚っ!!」
「うぉおお…!!」
ヤマトの箸がメイが箸を二つに割るまえに捕えようとしたが、遅かった。
片方の箸をとられへし折られる。
「こ、こんな…これは…。」
代えの箸を探している間ににもう一本の箸もへし折られる。
「や、焼き加減は…?」
箸を割られたヤマトは肉の焼き加減をみた。
もうそろそろいいはずだ。その隙をつかれ、ヤマトの必死のディフェンスを突破。
メイは肉を箸で突き刺し、頬張った。同時にヤマトは地に膝をつき絶望した。

それから、一時間後。静まり還った訓練場で一人、膝を抱えて夕日を見つめるヤマトの元に一人の女性がきた。
「何が…あったんですか?」
「あっ…ギンガさん…。久しぶりです。」
ギンガ・ナカジマ、彼女はスバル・ナカジマの姉だ。訓練場はまるで惨場だった。寝転がる人、転がる瓶、缶。
「あっ、ヤマトさん、大丈夫ですか?」
再び蹲るヤマトを気遣うギンガ。
「…大丈夫…。もう…泣かないって、決めたから…。」
はやての側に置いてある袋を見て、ゲンヤが渡したものであることに気付いたギンガはヤマトをそっと抱き締めた。
「あなたの…責任じゃありません…。泣いて…いいんですよ…?」
ヤマトは泣きじゃくった、今日あったことを、肉を食べられなかったことを嘆いた。
泣き疲れ、ギンガの腕の中で眠りにつこうとするヤマトの肩を物凄い力で誰かが掴んだ。
半分閉じた目でみやると目がすわり、不適に笑うなのはの姿。
アルコール臭が立ち込める。
「何を勘違いしているの?酒盛はまだ終了してないよ?」
「…元はバーベキューだったのにィィイイ!!ヤケクソだ!俺も飲んでやる!!」

ヤマトは残りの酒を一つ取って、一気に飲み干した。
「ヒック、ここからかパーティの始まりだ!ヒック」