外伝・第01話【死にたもうなかれ】

Last-modified: 2009-05-15 (金) 14:53:49

ゆりかごから脱出したクアットロはある目的地へ向かっていた。
そう、もう一人のスカリエッティがいる場所へ。
場所は異なるが似た雰囲気を持つ二つ目のスカリエッティアジトに着いた。
中へ入ると、ドクターがいるはずの場所へと向かう。自分が逃げ切った事を報告するために…。
いくつ目の角を曲がったときだろう。
「おやおや、そんなに急いでどこへいくつもりかのかね?」
声をかけられた。
「あなたは?」
新型モビルアーマーガジェット、アルヴァトーレの陰から出てきたのは黄土色のパイロットスーツで茶髪で長めの髪の男だった。
「私はアレハンドロ・コーナー。スカリエッティが死んだ今、何も無いと思った方がいい」
「ドクターが?死んだ?」
クアットロは驚愕せずにはいれない。
何故?何故?何故?
そもそもこの男は一体誰?
「僕が殺すよう指示した。」
同じく新型モビルガジェット、リボーンズキャノン(リボーンズガンダム)の陰から出てきた黄緑色の髪で美形の青年だ。名はリボンズ・アルマークと言う

0077年 11月01日 PM12:32
「最近、地上は事件が減ったよね?」
「表向きはな…。」
スバルにボソッと返事を返したのは半蔵だった。
「でも出動回数は減ってるじゃん。」
「大きな事件が前と比べると減っている、ただそれだけだ。」
半蔵はパスタを器用にフォークに巻き付けると口へと運ぶ。
「そっか、半蔵は出動回数が他の局員と比べて多いもんね…。」
恐らくはJS事件の罪の清算なのだろう。スバルと一緒に地上部隊での研修期間に入ったが、あまり局内で顔を会わすことがない。
出動回数は一番少ない局員と比べるとその三倍はこなしている。
正直、感心してしまうスバルなのであった。
とまれ、今日一日、半蔵の出動はないとかで、偶然休日が同じだったスバルはこうして昼食に半蔵を誘ったのだ。
「半蔵、今日一日休みだったよね?午後も暇なんでしょ?」
「予定はないな。」
身を乗り出してくるスバルに半蔵は食を止めた。
「…何だ?」
スバルは満面の笑顔を浮かべた。

同刻、時空管理局本局、執務室。
「千歳、ご苦労様。」
デスクワークを終えたようで、椅子から立ち上がり、体全体で伸びをする千歳の背後にまわり肩を揉みほぐすフェイト。
「そんなことしなくていいんだが…。」
「そう?」
フェイトが千歳の肩から手を放すと、首を鳴らす千歳。
「最近はデスクワークばっかりだから、ごめんね。」
「仕事だから、謝るのはなしだ、フェイト。」
「フェイトさん、終わりました。」
ティアナが書類をフェイトに手渡す。
「うん、ティアナもご苦労様。ところで、今日はこれからなのはの所にいくんだけど二人とも行く?」
フェイトの言葉に千歳とティアナは頷いた。
「行く前に、二人ともメンテナンスでデバイスを預けたでしょ?取りに行こうか。」
フェイトに連れられ二人は執務室をあとにした。

時空管理局本局 捜査室
「僕とマリアが作成した前回の銀行強盗の事件のレポートです」
マイトが代表でレポートをヤマトに見せると
「うむ、2人ともご苦労様。後でこのレポートをはやてに見せるから、休憩してもいいぞ」
「ありがとうございます。ヤマトさん」
マリアが敬礼と共に礼を言って、マイトも敬礼をする。
「ヤマトさん、メイさんがいませんよ?」
マイトがきょろきょろしているとメイがいないのに気づく。
「あいつなら地上本部管轄の孤児院でお手伝いをしているんだよ。なんせ子供好きだからね。それに向こうも大変助かっていると言われている」
メイが暇がある時や事件がなければいつも通っている孤児院は身寄りのない子供たちがたくさんいて、メイの希望で通いながら世話をしている。同じ所属であるヤマトやはやてもメイが孤児院に行くのは歓迎している。
「さて、レポートを見せて、ファーウェルのメンテは終わっているかどうか見に行ってくる」
「了解です。気を付けて」
ヤマトは2人に見送られながら、はやてがいる部長室とメンテナンスルームへ行った。

「……。」
半蔵はスバルをただジッと見つめていた。
性格にはスバルのアイスの食べっぷりをだが。
十一月と言う時期、外は既に寒い。
しかし、こんな時期でも一般の人々は店内にしっかりと効いた暖房の中でアイスを食べるのが好きらしい。
それはいいとしよう。
だが半蔵とスバルはこれでアイス店、五件目。
最初の二件は半蔵も食べていたが、さすがに寒くなってきたので、後の三件ではホットコーヒーを頼んで体を温めている。
「私、アイス好きなんだよねぇ~。」
「…見ればわかる。メイと気が合いそうだ…」
抹茶をすすりながら半蔵。
「あ、雪だ。」
スバルが外を眺めながら呟く用に言った。そして、緊急出動がかかったのはそんなときだった。

雪がはらはらと降るなか、燃えゆく管理局ミッドチルダ北部地方統括所。
なのはは白い吐息を苦しげに吐いていた。
(強い…。)
見慣れぬ魔導機械を航空魔導士と現地局員にまかせ、なのはは目の前の1人の少年と1人の少女と戦っていた。
一人はいい、まだ対等に戦える。だが、もう一人はディバインバスターが効かない。
当たったはずなのに逸れると吸収されるバスターとシューターを目にしたなのは焦ってしまう。
「くそっ!!何で落ちねぇんだよ!こいつは!!」
『ファング』
一人の少年の翼から無数三つ又の翼が真紅色の粒子を撒き散らしながらなのはへ向かってくる。
横に避けるなのは。そして、その背後から攻撃を仕掛けて来るのは魔力刃が発生する白い筒を持った少女だ。
「これなら!!」
限界まで引き付け、ミドルレンジでのショートバスターを放つが発射と同時に有らぬ方向へと飛んでいってしまう。
「またッ!?」
後退し、魔力刃による一閃を避けた。
「逃げるな!ヨハ兄!」
攻撃を外した少女が悪態をつく。もう一人の少年が真紅色の発射体リングを正面に展開した。
『GN Launcher』
瞬時に放たれるそれをなのはは余裕を持ってかわす。だが、今度は他方からの砲撃。魔力刃を持った少女からの射撃だ。
『GN Shieldmissile』
真紅色の粒子を撒き散らす誘導弾が放たれる。なのははそれを避けた筈だったが、
『Master!』
射撃がなのはの避けた方向へと湾曲し、ラウンドシールドを展開、防御する羽目になる。

防いだあと、一息つく暇もなく、下方から放たれる真紅色の粒子の砲撃を避けるなのは。
「三人目ッ!?」
なのはは驚き、三人から距離を取った。ちょうど三人が逆三角形を描く形になる。
「ミハイル、ネーナ!」
「おっやりますか?兄貴!?」
「ニイニイーズ、行くよ!」
何やらぶつぶつと呟いている。瞬間、なのはの背筋に悪寒が走った。
焦げ茶色の魔導師を先頭に二番目にオレンジ色の魔導師、三番目に赤紫色の魔導師が並ぶ。
先頭の魔導師がバックパックの小型シールドをセットし、二番目と三番目はハンドガンから出てきた供給用ケーブルをシールドに接続する。
三人の足元にミッド式でもベルカ式でもない真紅色の魔法陣が出現すると同時に先頭の魔導師の肩から折り畳み式の砲台が出てくる。砲台はなのはの方へロックオンする。砲身は2メートルを越え、大気中の魔力を真紅色の粒子に変換してチャージする。まさにスターライトブレイカーのようである。

なのはは航空魔導士たちに撤退を指示する。
とてつもなく嫌な予感がした。撃たせるな、なのはの脳から全神経に伝達が行く。
アクセルシューターを放った。
反れた!?
何故?
砲台を持った青年を狙ったわけではない。だが、何故?何故曲がる?
『GN high mega launcher』
なのはの視界を埋めつくす鮮やかな光に飲み込まれ、姿を消した。

半蔵とスバルが駆け付けたとき、大半のものが重傷と寒さ、そしてまだ残る炎のせいで死んでいた。
「…うっ…。」
スバルが口と鼻を塞ぎ、顔を背ける。
半蔵が何かを見つけた。
見慣れた色のバリアジャケット、レイジングハートの残骸。
高町なのは、かつての自分の教官にして憧れの人。スバルが悲鳴をあげた。

PM13:22
「地上は久しぶりですね。」
フェイトを挟んで左右に千歳とティアナ。転送ポートからでたところでティアナが深呼吸しながら言った。
そうだね、とティアナに習いフェイトも深呼吸。地上の空気を目一杯吸う。
「昼食はどうするのだ?」
千歳が言うとフェイトは腕時計を見る。
「まだ待ち合わせまで時間あるから食べてから行こうか?久しぶりにメイにも会ってきたいしね。」
「でも、メイってヤマトの補佐官をしながら児童保護施設に通っているってヤマトから聞いたのだが?それと昼と何の関係…。」
「そこの施設には食堂もあるからね。せっかく来たんだし、顔を合わせとくのも悪くないでしょ?」
フェイトの言葉になるほどと頷く二人だった。

「なのはさん!!なのはさん!!なのはさぁん!!!」
「落ち着けスバル。それより周囲を警戒しろ。」
横たわるなのはの口元に耳を傾ける半蔵。
「まだ息はある…。」
冷静に事態に対処する半蔵の発言で幾分かスバルも落ち着きを取り戻した。
「スバル、お前は救援を呼べ。俺は他の生存者を見てくる。」
「うん!」
「頼んだぞ…。」
スバルはすぐに救援を呼ぶため、通信回戦を繋ぐ。もうもうと立ち込める黒煙が青空を染めあげていた。

時空管理局地上本部直轄児童保護施設。
「あれ、フェイトちゃん?」
「フェイトじゃないか!?」
名前を呼ばれて振り向いたフェイトの視界、一番最初に飛込んで来たのははやての姿であり、次にヤマトが姿を現した。
「はやて、ヤマト、久しぶりだね!」
千歳とティアナが敬礼する。
「千歳ちゃんもティアナもそんなにかしこまらんで楽にしてええよ。」
「固くなるな、いつもの通りにしておけばいいよ」
二人が敬礼をやめるのを見届けてから
「ところではやて達は、なんでここに?」
とフェイト。
「予定よりも地上本部のお偉い方との会談が早く終わってな。昼食がてらヤマト君と一緒にメイちゃんの様子を見に来たんよ。」
はやてを加え、5人は歩き出す。
「リインも一緒や。シグナムとヴィータ、ザフィーラは手があかんくてな。」
「そのリインは何処にいるんq@?
姿が見えないようだが…。」
辺りをキョロキョロと見回しながら千歳が聞く。
「それがな…。」
はやては苦笑した。

「やめてくださいですぅ~!」
声。
「皆、リインお姉さん痛がってるからやめてあげようね…、ってちょっと、駄目だよ、着せかえ人形じゃないんだから!」
はやてに案内されるうち、段々と近くに聞こえてくる声。

「うわぁ~ん、メイが怒ったぁ~。」
「うわぁ~ん…。」
「怒ってないから、ねっ?柚も縞ちゃんもリインさんを放してあげて…。」
ミント色の髪をした少女と紺色の髪をした少女はリインを掴んでいた手を話す。
「ありがとうございます、メイさん。」
もみくちゃにされ、ボロボロになったリインは服を整える。
「じゃあ、メイ、絵本を読んでくれますか?」
「読んでくれる?」
「それはいいんだけど、柚も縞ちゃんも、お昼寝の時間だよ?
涼子、アンジェラ、ミッチー(ニックネーム)、英次郎と恋はもう準備すませちゃってるから、二人も準備しないと…」
縞と柚が大きな瞳でメイを見上げていたが、絵本を読んでくれないのだと思い込んでうつ向いてしまう。
「そうだね、じゃあ皆がいい子にお昼寝出来たら午後の勉強はなしにして読んであげる。」
メイがそう告げると、既に準備をしていた五人は布団の中で寝る体勢をとった。
縞と柚も自分でしっかりと準備をして布団に潜り込んだ。
15分ほどたってからメイとリインが部屋から出ていくとにやにやと笑っているティアナ、メイの向いている方向から反対方向へ向く千歳、それから苦笑いのはやてとフェイトとヤマトが待っていた。
食堂。
「大変そうやなぁ、メイちゃん。」
「大変ですね…。」
丼を片手にメイが言う。
「ていうか、あの子供たちの名前…かなり聞き覚えあるんだけど…メイがつけたのか?なんだか知り合いの名前に似ているから」
ヤマトがナイフで肉を切り分けながら聞いた。
「違うけど…私も最初びっくりしたよ…。」
そう言って、今度はスープに手を伸ばすメイ。
「あんまり急いで食べると体に悪いよ?」
フェイトがもりもりと食べ続けるメイを心配そうに見る。
「食べられるときに食べとかないと身が持たないから…。頑丈だけが取り柄だから
あ、皆はゆっくり食べてて。ヤマトとはやてが私のためにせっかく来てくれたんだから…。」
メイはからになった食器をまとめた。

「個性豊かな子供ですね」
ティアナはサラダをつつきながらメイへと視線を向ける。
「俺も思った。オリジナルはもともと個性豊かだけどね。」
「ところで皆、今日は何でここに?」
メイは紅茶に砂糖を入れながら、忙しいはずの6人に視線を走らす。
「特にこれといった用はないけど、メイちゃんが長い間、こっち(特殊捜査官チーム)に顔を出さないから、久しぶりに会っておこう思うて皆きたんや。」
「……そっか、わざわざありがとう。」
それから三十分ほど会話を楽しんだところでお開きとなり、メイは子供のいる部屋へと戻っていった。
「そういや、ファフニールはどうなったんだ?ファーウェル同様、派手に壊れてたみたいだけど…。」
施設の出口へと向かう途中、ヤマトが疑問を口にした。
メイがファフニールに限界を越えたエピオンシステムでコロニーを真っ二つに斬れる斬撃に耐えきれず爆発、破損した。
「2人のデバイスははやてが修理に出したんだよね?」
フェイトは隣を歩くはやてを見た。
「うん…。ちゃんと直ったよ。ファーウェルは完全に修復したけど」
はやては声の調子をおとしてそう言う。
「そっか。」
施設内から出た直後、フェイトとはやてに緊急通信が入った。
通信の相手はスバルだった。

病院。
「……。」
顔を両手で覆ったままスバルは処置室の前にあるベンチで座っていた。
隣で半蔵が空間モニターを開き、キーを叩いている。
「半蔵、スバル!」
「フェイトさん!」
フェイトを先頭にはやて、ヤマト、ティアナ、千歳が走ってきた。
「なのはは?」
半蔵が視線で場所を示す。
赤いランプが点灯している部屋。
時計の秒を刻む音が嫌に大きく聞こえた。

「なのはが…一体誰に?」
沈黙を破り、フェイトが呟いた。それは、はやてもヤマトもティアナ、千歳も気になっていたようだ。
「破損したレイジングハートから出来る限りデータを吸い出してみたんだが。
恐らく、高町一尉を撃墜したのはこの三人だろう。」
ノイズ混じりのモニターに写っているのは男2人と女1人が描く魔法陣。
見慣れぬ方式だった。発生する方陣は戦闘機人のISが発動する際に発生するものに酷似していた。
「それと…。」
半蔵がキーを数回叩く。表示されたのは魔法データに関するものだった。
「GNファング、GNランチャー、GNシールドポッド。これらは魔力による殺傷攻撃。」
「そうやね…。でもそれが?」
とはやて。
「それにしても、なのはさんの攻撃…おかしくない?」
モニターを見ていたティアナが言う。
「ホントだ、なんか、砲撃が逸れてる。なのはがコントロールしてる分けでもないだろうし…何で…。」
考え込むフェイト。
「曲がる理由は分からないが、高町一尉が戦っているとき、かなり高濃度のAMFが展開されているようだった。そして三位一体攻撃・GNハイメガランチャーは2人だけでも可能。その名はGNメガランチャー」
半蔵が告げた。
「でも、魔力消費が激しいんだからそんなことをしたら敵にとっちゃ自殺行為にならないか?」
千歳の言葉に頷く一同。いくら考えても、答えはでない。
「後ろの2人が魔力を供給しているから強力な砲撃を放てるし、長時間の稼働も可能だ。だけど一つ問題が…」
問題!?
ヤマト以外の面子がヤマトの方へ見る。
「三人の魔導師から発する真紅色の粒子らしきものに見覚えがある。元の世界では擬似太陽炉「GNドライヴ[T()タウ]」と呼ばれている」
「GNドライブ[T]?何?」
フェイトがさらにヤマトに聞く。
「元の世界では俺とメイと半蔵と千歳さんが乗っていたガンダムにはオリジナルGNドライヴが搭載されていた。粒子の色は鮮やかな緑。これを模して造られたのがさっきのワードだ。発する粒子の色は真紅色のちオレンジ色」
「オリジナルドライヴはヤマト君のバリアジャケットやメイちゃんの騎士服の翼から発する粒子に似ているんやな」
ヤマト以外の面子は粒子の色とガンダムの映像を思い出す。そう、一致しているからだ。
「オリジナルのドライヴと擬似太陽炉も基本的に無害だけど、擬似太陽炉は武装用に発展されちゃ話は別。高濃度圧縮すると身体の生体細胞を変質させる細胞障害を起こす毒性を持つ。まぁこの世界では知らないけど」
擬似太陽炉の毒は失った腕を二度と戻せないほどの毒性を持つ。例えかすり傷程度の傷なら完治は可能だが一般の完治に比べて格段に遅くなる。
「まぁ、今は…」
はやてが視線をあげ、正面の部屋をみる。
「なのはちゃんの無事を祈ろう。」
緊急処置室の赤いランプはそれから二時間ともりつづけた。

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