外伝・第03話【異世界からの兵達 強敵編】

Last-modified: 2009-08-17 (月) 14:20:14

管理局地上東部管轄施設周辺市街地。
ヤマトと千歳は背中合わせになり、対峙する相手を見据えていた。
「これはちとこちらが不利かな……」
射撃・格闘に特化した敵が一人、増えていた。ギリ・ガデューカ・アスピスである。
両名の頬を汗が伝う。
ヤマトは右手にGNソードⅢ・ライフルモード、左手にI(インターセプト)タイプの魔力ブースター内臓フライトシールドを、千歳は右手にIタイプのランサー、左手にサーベルを持って状況を分析していた。
「(この魔導師達のデバイス、ファーウェルの短所を付くために三つに分けて作られたらしい)」
「(あぁ、三対ニの状況、どうやって……。
早々にヤマトのトランザムと私のフルリミットを使ってもいいが、ここで使えば、恐らくは半蔵たちの援護に行けなくなる)」
それはヤマトも同じだ。この魔導師たちを使って戦闘データをとっている可能性もある。奥の手を見せるにはまだ早い。
しかし、今のままでは魔力ばかりを消費するだけだ。
これがメイやなのはの場合は状況が楽だっただろう。
誘導攻撃が行えるし、前衛のバーンズをメイにまかせればギリとローズマリーの攻撃をなのはがサポートできるし、アクセルシューターやファンネルを使用することで三対ニの状況を打開できる。
何より、後衛が視野を広く取れるのが利点だ。
反面、ヤマトと千歳では少し分が悪いと言えよう。ヤマトはオールレンジだが、相手デバイスは相棒の弱点を突くため、どの距離でも油断しできない。千歳のF90一号機は二号機と同じ。ノーマルだと近・中距離だが、26もあるミッションモードでどんな地形や距離でも対応できる。さらには複数のミッションモードにもできる。
ヤマトのファーウェルは標準装備のGNソードⅢ以外の武装を廃止した代わりにF90と同じ26種類のミッションモードがある。
但し、どうやって行くのかポイントだ。
「(ヤマト、交代だ、お前が女をやれ、私が大男の方を潰す。
銃型デバイスは無視だ)」
「(部下である千歳さんが俺に指図とはいい判断だ)」
「(ヤマトがあの女を落とせれば、まだ勝期はある。
瞬発力はヤマト、お前の方があるからな)」
言い方が気に食わないと思う。魔法はヤマトの方が先輩だ。

指示するのは副隊長であるこの俺だ!

と言いたいところだが、妙に信頼されているので悪い気はしない。
「(3・2・1で行くよ?)」
「(あぁ、頼むヤマト)」
「(3……)」
「(2……)」
「「(1……ッ――GO!!)」」
同時にヤマトと千歳が動き出す。
ヤマトはローズマリーへ、千歳はバーンズへ。
ギリを無視したことにローズマリーとバーンズは驚いたようだが当人は微笑み、両手のヘビのようなアンカーをヤマトと千歳へと向けた。

管理局地上西部管轄施設周辺市街地。
戦闘中にも関わらずメイは一瞬動きを止めた。
「(何だ?)」
戦慄が背筋を駆け抜けたあとだった。
忘れたくても忘れられないこの感覚、世界を憎み、メイを憎み、そうして死んでいった男が持っていた気配。
「(まさか……ね……)」
「舐めてんのかぁ?」
「ッ!?」
注意の逸れたメイを狙うミハエルのGNハンドガン。
シールドで防いでもよかったが、慌てたメイは位置確認をせず回避した。
「この!!」
迫り来るネーナ。
「ッ!?何?」
真紅色の粒子ばら撒く魔力刃の直撃は避けたものの大きく体制を崩し、目の前にはヨハンがGNランチャーの発射体制に入っていた。
「(――落とされる)」
距離は五メートルと離れていない。
メイはとっさに障壁を張ろうとするが、
『ファングバースト』
「ッ!?」
デバイスの音声に振り向けば、ミハエルの姿があった。
八つの牙に発生された環状魔法陣から紫電が走る。
急遽メイは両方向に障壁を張った。しかし、
『GNシールドポッド』
動けなかった。
ヨハンのGNランチャー、ミハエルのファングに自由を奪われたメイ。
目前に迫り来る閃光。
「(まずい……)」
刹那――

「衝撃消化、炎熱加速、火竜一閃」

炎の落雷と言うべきか、猛烈な熱波を伴う炎の奔流がシールドから放たれたミサイルを飲み込んだ。
「あぁん?」
不機嫌な表情で突如降り注いだ炎の元を辿れば、目前にまで迫り来るシグナムの姿。
落下の加速に力をのせ、シグナムはミハエルを叩き落とす。
「レヴァンティン!」
薬莢が剣から弾き出され、排熱機構から蒸気が噴射される。
分断される刃。魔力によるコントロールで鞭のようにしなる連結刃は宛ら鋼の蛇よう。
『シュランゲバイセンアングリフ』
鋼の蛇がうねりをあげ、ヨハンにその牙を向ける。
「何!?」
ヨハンはびっくりした悲鳴をあげて失速。直撃を回避した。
「遅くなって済まなかったな……一条寺メイ」
『シュベートフォルム』
燃えたぎる焔のつばさ。
「シグナム……さん?」
「何だてめぇは!!!!」
声を荒げるミハエルを無視してシグナムはカートリッジを補充した。

同じころ。
「……なんだ?」
『Caution!』
F90二号機の警告に頷き、レズンの放ったシュトゥルムファウストをメガガトリングガンで迎撃、破壊した。
「これじゃ、きりがないな」
管理局西部管轄地区は未だ健在。
一時総崩れだった部隊も持ち直してきている。
半蔵を全身を覆う実体シールドで防ぎ、レズンは愚痴を漏らした。
「俺はまだ行けるぜ!クェスもだな!」
ハーケンセイバーをシールドで弾き、三方向からフェイトに向けて同時に射撃を見舞う。
フェイトは上昇してかわした。

市街地低空に敷かれた道、ウィングロード。
店や民家が風のように飛んで行くなか、二人は戦っていた。
「うっ!!」
スバルは膝の力を抜いて体を沈ませた。
サイコミュ式有線サーベルが空を切り、スバルの髪を数本切り裂いた。
反撃しようと拳を作り固めるが、既にクェスの姿はない。
息をつく暇なく攻防が続く。
民家の壁に皹がはいり、砕け、破片が散る。
瞬間、スバルの目の前に現れるクェス。
「このッ!! リボルバー……シュート!!」
魔力が産む衝撃波が建物の外壁を破壊する。
『スバル、いいように誘われてるぞ!無邪気の少女みたいな相手に!』
半蔵からの通信が入る。
「そんなこと言ったって!」
無邪気な子供のようで、はしゃぐみたいに動き回るクェス。壁面や、何もない空間を蹴って移動する故、動きが読めない。
さらに、張られたAMF結界のせいで魔力の消耗が早い。
最初は自殺行為だとスバルは思った。結界である限り、AMFは結界内の術者の魔力を無差別に消耗させる。
しかし、今は疑問を感じているスバル。
目の前の敵は息一つ乱さず攻撃の手も緩まる気配はない。
魔力刃、大型ファンネル、有線アーム砲、拡散魔力弾。
一本一本が細いと言えど消耗は激しく維持は難しいはずだ。
なのに……。
スバルは一旦、街中から脱出するため上昇に転じた。

「なんだ!?このヘビみたいなアンガーは!?」
ヤマトと千歳が驚愕に声をあげたのは同時だった。
ヤマトのGNソードⅢの切っ先がローズマリーに届くことはなく、目先三寸で停止していた。
千歳も同様である。
ランサーとサーベルは空を切っただけに終わっていた。
両腕の自由を奪われた二人を前に嘲笑うバーンズとローズマリー。
「バーンズ、ローズマリー、どいてろ、後は僕がやる!」
ギリは抑揚なくそういうとヘビアンガーに力を入れた
「なッ!?」
「にッ!?」
千歳とヤマトの体が空中を滑る。
「はぁぁぁあああ!!!」
飛翔魔法で妨害を試みるが、相手のスネークバンドを操る魔力が自分達の飛翔魔法に込める魔力より上回っているため、一時の抵抗を見せた後、ヤマトと千歳が回転し始めた。
千歳はヤマトとは反対方向に引っ張られ、
「ぶつかる!!!」
二人がそう叫んだときには鈍い音を立てぶつかっていた。
うめき声をあげる二人の体を再びグンッと引っ張る力。
更にギリはスネークアンカーを操り二人を高高度から地に向かった叩き付けた。
ビルの一角に突っ込み、粉塵まきあげる。
「……千歳さん?」
立ち込める粉塵の中、ヤマトが千歳に声をかける。しかし、返事はない。
「千歳さん!?」
バーンズの障壁を砕く攻撃とローズマリーの射撃・高機動のコンビーネションのせいで、ミッションモードを次々と変えなければならない千歳。
F90一号機は障壁で何とか致命傷は避けたようだが、殺しきれなかった衝撃で脳震盪を起こしているようだった。

建築物を破壊してスバルをおってくるクェス。
飛ばないところを飛べないのだろうか。スバルは迎え撃つため構えをとる。
「当たって!!!」
咆哮と共にクェスのサーベルによる斬撃。
クロスレンジで衝突する二人の周囲には黄土色と水色、二色の光が尾を引き飛び散る。
頬を切られ、スバルの顎を伝う一筋の血が空を舞った。
「誰か、誰かいないのか!?」
通信を試みるヤマト。だが、緊急の対策に終われているのか、ノイズばかりで通信はかえってこない。
『Warrning』
「くそッ!!」
ファーウェルによる警告。ヤマトは千歳を抱きかかえ、今にも崩れそうな建物から抜け出し
『ヤマト――ヴィータだ!!――どうした――何が』爆炎から逃れた。

「ヴィータ!?、今何処だ?詳しい位置は分からないがこっちは東部管轄だ」
『悪い、今丁度、西部管轄に向かってる』
西部地方でも何かあったのだろうか。
ギリのスネークバンドから放たれる魔力刃でできた二つのカッターをかわし、ローズマリーから放たれる射撃の雨をシールドで防ぎ、バーンズには後ろをとられないよう注意しながら後退する。
どうする?
額に滲んでくる汗を感じながら、思案する。
剣型デバイス、ファーウェル・セレニティフォーミュラ。
ファーウェルにF90のミッションモードを取り入れた斬新なデバイス。トランザムも3から6にパワーアップ。
スーパーチョパムシールドの導入。チョパムアーマーを越えた鉄壁の防御力。AMCも施されており、魔法面でも有利。
その硬度はなのはのスターライトブレイカー(検証済み。一発だけ)、エクセリオンバスター(検証済み)、メイのヒートロッド・最高出力を容易に防ぎきるほどである。
しかし、一見鉄壁を誇る防御力にも欠点があり、障壁の形を変えることができないこと。
障壁は一方方向にしか展開出来ない。通常シールドなら形状を変えることができる。
このままでは……。
撃墜は必至。
不意にシグナムからの通信が割り込んだ。
『ヴィータがこちらに到着次第、メイを向かわせる。長年ヴィータとともに在ったのだからメイとの連携よりも相性はいいだろう』
「わかりました」
とは言ったものの、メイの到着までの時間を稼がなければならない。
「ファーウェル!!」
『OK,Tran-Samモード』剣内部で消費されるカートリッジ。
外気の寒さ故、いつもよりも濃い蒸気が吐き出された。
ヤマトの体やバリアジャケットが鮮やかなライトブルーに光る。

「メイッ!!」
ヴィータの呼び声と時を同じくしてスローネアインが警戒を促す。
『GNフィールド』
空間に真紅色の障壁ドームが発生し、ヴィータの放つ深紅の光弾がヨハンの展開した障壁に接触。
しかし、ヴィータの放った光弾は空間の歪みを突き破り、魔力ははがれたものの鉄塊がヨハンへと直撃した。
「なんだ!? 実体弾か!!」「メイ、お前は東部管轄へ向かえ、ここ(西部)はヴィータと私で引き受ける」
「えっ?」
渋るメイ。
「私とヴィータなら大丈夫だ。それに、アギトもいてくれる。」
「早く行けよ、兄が待ってんだろ?」
グラーフアイゼンを肩に担ぎ、不適に笑ってみせるヴィータ。
「……ありがとう、二人とも気を付けて」
計十枚の魔力翼を勢いよく展開し、メイは西部管轄へと飛び去った。
「たくっ、気を付けろだってよ、シグナム」
「そのセリフ、そっくり返してやりたいものだな」
シグナムは鼻で笑い、レヴァンティンを構えた。

『ハーケンセイバー』
閃光の刃が空気を裂く音ともにギュネイを狙う。
しかし、ギュネイの前に立ちはだかるクェスの一斉射により難無く破壊。
魔力の残子が散る。
相手も消耗しているが、フェイトと半蔵はさらに魔力を消費していた。
アンチマギリンクのせいである。
ここで半蔵は一つの仮説にたどり着いていた。
AMF結界内において、半蔵とレズン、フェイトとギュネイ、他は強制的に魔力を消費させられる。
ただ飛ぶだけで、結界内にいるだけで魔力を常に消耗し続けるのだから、相手側、味方側にとっても不利でつまるところ、プラスマイナスゼロで状況は変わらない。
しかし、何の策もなくAMFによる結界などはるだろうか?
万一、AMFの干渉を受けない方法があったら?
例えばC.Eで言うニュートロンジャマーキャンセラーや宇宙世紀で言うミノフスキークラフトやミノフスキードライブのようなシステムがデバイスに搭載されていたら?
「……まずいな」
半蔵の呟きに、何故かフェイトも頷き、言った。
「このままだと……先にこっちの魔力が尽きる」

「(意外とてこずっているね)」
声に反応したレズンがギュネイへ視線を向ける。
「ガキども、時間だよ!」
「わかってるぬ」
「もうこんな時間?」
「あの気に食わない青二才のグレミーが来る前にさっさと撤退するよ!」
「待てッ!!」
二人を追おうとフェイトが身を乗り出すが、半蔵が制止した。
「今は追うのはやめろ。今の俺たちの魔力では追っても無駄だ」
「……そうだね」
落ち着きを取り戻し、フェイトが気を緩めた刹那――
『Warrning』
「これはッ!?」
「ドラグーンッ!?いやファンネル!?」
黄緑色の光弾が二人を囲んでいた。

「ちぃッ!!」
「そんな、これは!?」
驚愕する二人。
「時間だ、撤退するぞ」
目の前に現れたのは金髪の髪をしてオレンジのバリアジャケットを装着しており、背中には「龍飛」と書かれている少年。
デバイス・バウを装備している少年の名はグレミー・トト
「ギュネイ、クェスはどこにいるのだ?」
「知らないな、レズン中尉は?」
「流石、ニュータイプ。ニュータイプなら感じ合うじゃないのか?」
二人の会話を聞いていたグレミーはやれやれといった感じで指示をだした。
「クェスは私が連れて帰る、お前達は戻るといい」
「ハン!!分かったよ!」
「了解であります!」
瞬間、光となって姿が消えてしまう。
「待て!」
「おっと、動くのはやめておけ、魔力を消費した今のお前達では相手にならん」
フェイトと千歳の周囲を飛び回る黄緑の光弾。
「それとも、奥の手を使うのか?」
二人は市街地に着地、部装を解除し、飛んでいってしまうグレミーの姿を見送った。

「こいつ!何で落ちないの!」
「うわっ!!」
砲撃が頬をかすめる。間髪入れずスバルは反撃に出る。
しかし、空間に魔力ワイヤーの砲台が発生。それを機敏に操るクェスのアルパのサイコミュに苦戦するスバル。
『Caution、後方に敵反応が3つ。
味方が二人います』
スバルは戦闘中に半蔵、フェイトの元から離れていった。
つまり必然的に、後方にいるのはヤマトと千歳ということになる。
「まずいな……どうする?ヤマト!」
そう呟いたのはヤマトである。
後方から伸びる水色の空の道。
スバルが近付いてきている。
『ミッションモード、デストロイド&サポート&ヴェスバータイプ』
ヤマトの両肩の後ろに砲台が一つずつ、両肩の上に魔力弾発射台が一つずつ、ファーウェルを背中にマウントさせて両手にメガガトリング砲、両腰にヴェスバーが一つずつ、脚部にクルーシングミサイルが一つずつ装着する。
マルチロックウィンドウに表示されるターゲットが赤枠に囲まれる。
千歳を片手に放たれる光弾が敵三人の目をくらます。その間にヤマトはスバルと合流すべく向かっていた。
「スバル!!」
「ヤマト!?」
「馬鹿、よそ見するな!!」
『GNソードⅢ・ロングシフト』
ファーウェルから伸びる魔力の長刀がクェスののサイコミュソードを受け止める。
「千歳を頼む!!」
担いでいた千歳をスバルへと引き渡し、
『ヴェスバー』
蒼色の閃光が二発、クェスへと放たれ、それはクェスの障壁によって防がれるも、体勢を崩すには十分な一撃だった。
ヤマトは後方を確認する。
ギリ達からの追撃はひとまずないようだ。
――やるしかない!!
右手でラケルタを抜刀、風を切る音共に両者同時に斬撃を放つ。
黄土色と蒼、二色の残滓が空を散る。
その間にスバルは千歳と共に戦線離脱。
烈しく明滅する魔力光。至近距離で目がどうにかなってしまいそうだが、ヤマトは目を閉じられずにいた。
「――君はッ!?」
第二次ネオ・ジオン抗争終盤でチェーン・アギが乗るリ・ガズィのミサイル直撃で死んだはず……。
『包囲されました』
「何っ!?」
唐突なファーウェルをによる警告に、一瞬、ヤマトが怯む。
クェスはそれを見逃さない、両方の有線アーム砲の零距離射撃によりヤマトは吹き飛ばされる。
「追撃は厄介なのでな、クィン・マンサ」
『Yes, my load』
「ッ!? 後ろか?」
シールドを展開、背後から放たれる黄緑の光弾を振り向き様に防ぐ。
「クェス、撤退だ」
「逃がすか!!」
声の主を探して、ヤマトの視線が上方を向く。
しかし、ヤマトの視界が捉えたのは黄緑の閃光の嵐だった。

目次