第02話【二人の新生活】

シーブックはリンディに言われた場所へ向かっていた｡
「はやてちゃんの家から最寄の公園に転送するから､そこからは渡した地図を見て行けばわかるわ」

　現在シーブックがいる場所は公園から少し歩いた場所だ｡
　地図によればもうすぐのはずだ｡
　シーブックは黙々と歩き､数分でそれらしき家の前に到着する｡
　念のため標札を確認する｡
「八神…､ここかな｡」
　確認も済み､インターホンを押す｡

　すると八神家の玄関の扉が開いた｡

「はぁい」
　シーブックを出迎えたのは小学生くらいの少女だった｡
「あ､キンケドゥ君やね？話は聞いとるよ｡うちの名前は八神はやてや｡よろしゅうな｡さ､上がってええよ」
　はやては自己紹介をし､笑顔でシーブックを出迎える｡
(明るい子だな。妹のリィズを思い出す。でも)
　シーブックは初対面の男をいきなり家へ上がらせるのもどうかと思ったが､
せっかくだから上がらせてもらうことにした｡
　少女はリビングと思われる部屋へとシーブックを連れていく｡
(これは……鍋の匂いなのか？)
　シーブックはリビングから漂う美味しそうな鍋の匂いに気付く｡
「今日キンケドゥ君が来るって聞いたから､うちらで急いで鍋の用意してんよ」
　はやては嬉しそうに言う｡

「感謝します｡これからしばらく居候することになるキンケドゥ・ナウです｡よろしく｡」
　シーブックははやての言葉に感謝の気持ちを表し､自己紹介も済ませる｡
　だがシーブックの自己紹介に八神家の空気は賑やかになっていた……｡
「な､なんか爽やかな奴だなぁ」
「そう緊張するな｡私達の事は家族だと思えばいい」
「そうよ､キンケドゥ・君｡あなた悪い人じゃ無さそうだし｡」
　席に座り鍋を取り囲む三人に言われる｡
「わかった｡」
　シーブックは返事を返す｡

　一通りの自己紹介も終え､鍋パーティーもお開きとなりシーブックはリビングのソファに座っていた｡

(セシリー……｡)
　シーブックはセシリーが心配だった｡
　宇宙空間に放り出されたセシリーの救出に向かったはずがこんな世界にきてしまったのだ｡
　今頃セシリーはどうしているのだろうか……｡自分の代わりにスペース・アークのみんなに助けてもらえたのだろうか
「考え事か？」
「…？シグナムさんでしたか｡たいしたことじゃないんです。気にしないでください｡」
　ソファで一人悩むシーブックに話かけたのはシグナムだった｡
「そうか｡主に聞いたが､お前､異世界から来たらしいな｡」
「そうなんです」
「お前､何者だ？明らかにただの少年の体格では無い｡」

　この世界の住人は恐らくシーブックの敵では無いだろう｡
　だから隠す理由など無いが､べらべらと何でも喋る必要も無い｡
　そう思ったシーブックはかなりはしょって答えた｡
「僕は元は学生で工学部なんだ｡」
　成り行きで戦争に参加させられたシーブックはここで言っても可笑しくはなかったが、あえて言わないことにした。
やはり平和な生活を送る人々にそれを言うのは流石のシーブックでも気が引ける｡
「そうか……｡あえて詳しくは聞くまい｡お前が話したくなれば話せばいい｡キンケドゥ｡」
　シグナムはあまり触れられたくない過去であることを悟った｡
「わかった」
　シーブックもシグナムに返事を返す｡

「キンケドゥの部屋用意できたで｡ついてきい」
　はやては笑顔でキンケドゥをキンケドゥの部屋へと連れていく｡
　元々納戸部屋だったらしいが､キンケドゥが来ると聞いて片付けたらしい｡
　キンケドゥは有り難く部屋を使わせてもらうことにする｡

　数時間後､キンケドゥも久々に熟睡し､はやてとヴィータも就寝していた｡
　今起きているのはシグナムとシャマル､ザフィーラくらいである｡
「シグナムが初対面の人とあんなに親しげに話すなんて､珍しいわね」
「……そうか？」
「ええ｡彼のこと､気に入ったの？」
「いや､ただいい目をしていると思っただけだ｡」
「へぇ､そうなんだ…あ､そうだ！明日はキンケドゥ君の服を買いに行かなきゃ｡キンケドゥ君が言うには着ている服がハイスクールの工学部の服だから」
「む､そうだな……｡」

　シグナムは思った｡恐らく彼にとって明日は厄日だろうな…と｡

　少し時間を遡ってアースラ｡
「じゃあシン君はフェイトちゃんとアルフと先に帰ってて」
　リンディは自分は忙しいからと先にフェイト達に帰らせようとする｡
　一日に違う世界から二人も来たのだ｡リンディとクロノの仕事はどっと増えたのだろう｡

「ここが､私達のお家です｡」
「あぁ､うん｡おじゃまします」
「アンタは今日からしばらくここで過ごすんだ｡そんなよそよそしくしなくていいんだよ」
「は､はぁ｡わかりました｡」
　ここはハラオウン家｡フェイト､シン､アルフは三人(二人と一匹)で帰宅した｡
　ちなみに喋る犬についてはシンは先ほど十分驚いた｡魔法がある世界なんだ｡
　犬が喋るくらいどうってことない｡そう考えることにした

(やっぱ家は普通なんだなぁ)
　シンはそんな感想を抱いていた｡ハラオウン家はどこにでもありそうな普通のマンションだ｡
　－まぁ一部普通では無いが｡

「えと､とりあえずシンはこの部屋を使って｡」
　シンはフェイトに空き部屋を使う用言われる｡
「あぁ､わかったよ｡ありがとう｡」
　シンは礼を言い早速部屋のベッドに寝そべる｡
　フェイトは晩御飯の支度をするそうだ｡

　シンもシーブックと同じように考えていた｡
　プラントは､議長は､ミネルバはどうなったんだろう……｡
　突然こんな訳のわからない世界へ飛ばされて､異世界のMSだの魔法だの……夢なら覚めて欲しい｡
　だがあのF91とかいうMS…アレの戦闘力は明らかにＣＥの技術を越えている｡
　大出力のビーム兵器…まるで本物のような残像…あの機動性…そしてそれだけの性能であの小型化…｡
　もしもあんなものがＣＥに来たら間違いなくとんでもないことになる…｡

　そうこう悩んでるうちに晩御飯ができたらしい｡シンはリビングへ向かう｡
　今晩はカレーライスだった｡
　シンはまぁ小学生一人じゃそんなところだろうと思った｡
　難しすぎず､簡単すぎず､これくらいでちょうどいいのだろう｡

「うん､うまい！」
　シンはフェイトの作るカレーのあまりのうまさに二杯目に突入していた｡
「うん､うまいよフェイト！にしてもアンタ､よく食うねぇ」
　アルフも呆れ気味だ｡

　数時間後。
「じゃあシン､明日は朝からアースラに呼び出されると思うから､昼からはシンの服とか買いに行こう」
「あぁ､わかった｡」
「それじゃ､おやすみなさい」
「おやすみ」
　そう言いシンとフェイトはお互いの部屋へ入ってゆく｡
(はぁ…今日はいろいろあったな…｡こんなＣＥも平和な世界ならよかったのに…)
　そう思いながらシンは眠りに落ちる｡

　その日､リンディとクロノは徹夜だった…｡

　シーブックとシンは眠っていた｡
　久々に戦争の世界から離れた二人にとってこれだけ熟睡することなど無かったからだ｡
　明日は朝からアースラへの出頭命令が出ている｡
　恐らく彼らにもっと詳しい情報を聞くためだろう｡

宇宙世紀0123年

「シーブックが行方不明だって！？」
「シーブックが!?」
「ええ……｡彼なら大丈夫だとは思うけど……」
「…わかった……｡」
　レアリー艦長代理はいらついていた｡シーブックがいなくてショックを少し受けるセシリー。
　ただでさえCVの残党や後処理が大変だと言うのに､
さらにそこへラフレシアを倒したヒーローも行方不明ときたのだ｡
　まともに連絡がとれるパイロットはセシリーのみとなってしまった｡
　そのセシリーもこれからシーブック捜索へ向かう為､スペース・アークからはいなくなるのだが……｡

(何故こう次から次へと…！)
　その時､レアリーの手元の電話が鳴り響いた｡
　レアリーは今度は何だと思いながらも電話に応対する｡
「CV所属のベルガ・ギロスのパイロット、ザビーネ・シャルだ。ベラ・ロナ様いやセシリー・フェアチャイルド様のお手伝いをします」

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